【特集1まとめ】アウトルック2025 「乙巳」が示す復活と再生


元日の能登半島地震の衝撃で幕を開けた2024年。
気候的には各地で記録的な猛暑となり、エネルギー需要は急増。
ただ供給力面で大問題は起こらず、需給・価格はおおむね安定した。
BWR・東日本初となる東北電力女川2号機の再稼働も特筆される。
2025年最大の目玉は、第7次エネルギー基本計画の策定だ。
原子力推進にかじを切った岸田文雄政権から石破茂政権に代わり、
国民民主党が大きく躍進した影響がどう現れてくるのか、注目される。
温暖化否定派の米トランプ政権復活による国際動向からも目が離せない。
干支の乙巳は「再生や変化を繰り返し柔軟に発展していく」という。
果たして、25年はエネルギー業界にとってどんな年となるのか。

【特集1/新春特別座談会】政界のキーマンと徹底議論 「原子力新時代」を創ろう!

【特集1/座談会】気鋭のベンチャー経営者が語り合う 2030年の近未来像

【特集1】注目は「タマゴ」と「お化け」 未来のエネルギーを万博で

【特集1】エネルギー初夢NEWS5選

【特集1/新春特別座談会】政界のキーマンと徹底議論 「原子力新時代」を創ろう!


政治が不安定化する中で、日本のエネルギー政策はどうあるべきか。
気脈を通じる玉木氏と福島氏からは、あっと驚く提案も……。

〈司会〉
竹内純子(国際環境経済研究所理事)

福島伸享

玉木 雄一郎(衆議院議員)

左から、玉木氏、福島氏、竹内氏

竹内 お二人は当選同期のエネルギー政策通です。ズバリ、エネ政策最大の課題は何ですか。

玉木 「再生可能エネルギーか原発か」という二項対立から抜け出せないことです。二度のオイルショックの後、中東依存脱却を目指して原子力を推進したにもかかわらず、電力の7割近くを火力発電に頼り、原油はほぼ全て中東に依存している。国際情勢が混とんとしているにもかかわらず、「再エネか原発か」というイデオロギー対立でいがみ合っている。政治のリーダーシップがないし、国民全体で危機感を共有できていません。

福島 そういう現実を踏まえない議論をしていること自体が危機ですよ。再エネが増えたとはいえ、当面は化石燃料に一定程度頼らざるを得ない。小資源国の日本にとって、供給途絶が起きれば日本は窮地に追い込まれます。かつてはそれを補う産業や技術があったけれど、衰えてしまった。経済力も低下した。バーゲニングパワー(交渉能力)が何もない状況で国際環境の変化に対応しなければならない深刻な状況にあります。

竹内 エネルギーは国民の生命に関わります。化石燃料を持たず、さらに島国なのに、エネルギー教育はほぼない。自分たちの命を守る政策を真剣に考えられているのでしょうか。

玉木 外交・安全保障と同じで、エネルギー政策が政権によってコロコロ変わってはいけません。ただ先の衆院選では、自民党は公約に新増設やリプレースを書かなかったし、公明党は「原子力に依存しない社会」を掲げた。自公政権が原子力政策を転換するのではと、危惧している関係者も多いんじゃないですか。

竹内 コスト面に目を移すと、再エネ賦課金が年間約2・7兆円となり、2030年過ぎまで増加傾向が続くとの見通しもあります。電気という生活必需品に掛かる消費税のようなものですから、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」上で極めて大きな問題ですよね。

賦課金は工夫して見直しを 「手取りを増やす」エネ政策

玉木 再エネ賦課金は明らかに見直しの時期を迎えています。いまだに「太陽光が一番安い」という人がいますが、それなら補助はいらないでしょう 。即時廃止は難しいですが、例えば期間を長くすれば単一年度の負担を下げられるかもしません。既契約分は賦課金ではなく税金で国が肩代わりする手もあります。

竹内 国民負担からは逃れられません。所得が上がらない原因の一つはエネルギーコストですからね。

玉木 そうです。賃金を増やせと声高に主張するだけではダメで、これから電力需要が増える中でどのように安価で安定的な電力を供給していくのか。現実的な議論をしない限り、経済成長や「手取りを増やす」ことにはつながりません。そのためには、少なくとも安全基準を満たした原子力発電所は稼働させる必要がある。北海道で発電した電気を本州に運ぶ海底直流送電の計画がありますが、そこに莫大な資金を投入するくらいなら現地で産業を作ればいい。原子力規制委員会の運転中審査も認めて、「原子力新時代」を創らないといけません。

福島 2024年は円安と物価高が日本を襲いました。その主要因はエネルギーと食糧の自給率の低さです。輸入に頼れば頼るほど、それは円安要因になる。では負のスパイラルを脱却するためにどうするかを考えた時、原子力を手放すという選択肢はあり得ないでしょう。

玉木 日本のGDP(国内総生産)は約600兆円。そのうち約25兆円を化石燃料の購入費として支払っています。近年ではデジタル赤字も6兆円もある。国内で回せていれば誰かの所得になっていたお金が、国外に流出している。この構造を放っておいていいわけがない。

【特集1/座談会】気鋭のベンチャー経営者が語り合う 2030年の近未来像


エネルギー業界の課題を先読みし、日本でも多くのベンチャーが活躍している。
異なるフィールドの経営者が集まり、2030年に向けたビジョンを語り合った。

【司会】江田健二(RAUL代表取締役)

【出席者】濱本真平(Blossom Energy CEO)、野澤 遼(enechain社長)、塩出晴海(Nature創業者)

左から、塩出氏、野澤氏、濱本氏、江田氏

江田 塩出さんは家庭のエネルギーマネジメント、野澤さんはマーケット運営、濱本さんは高温ガス炉開発や熱の脱炭素化と、全く異なるフィールドで活躍されています。それぞれどんなミッションを掲げているのか、簡単に説明していただけますか。

濱本 元は原子力の研究開発機関の研究者でしたが、福島で原子力発電所事故が起き、このままでは国主導での研究開発が停滞すると思い、2022年に起業しました。1年目は技術のポートフォリづくりに集中し、2年目から投資家と対話する中、原子力だけでなく技術を横展開し、再生可能な電気を熱に変え貯蔵するボイラーを開発しました。まだ製品は出していませんが、さまざまな分野で共同研究の話が進んでいます。

野澤 私も起業のきっかけは東日本大震災です。当時は関西電力におり、全国の原子力発電所の停止に伴いLNGの調達が急務でした。この経験で資源のない日本のもろさを痛感したのがターニングポイントです。今は300社弱が参加する電力の卸、先渡しなどの市場を運営。23年は年間1兆円の取引高が約定し、24年はさらに伸びる見込みです。今、電力システム改革はフェーズ2に入った印象で、常時バックアップやBL(ベースロード市場)などの補助輪を外せる段階になってきたと感じています。

塩出 われわれは「自然との共生をドライブする」をミッションに掲げ、コンシューマー向けにIoTの製品を展開しています。一つはスマートリモコン。今使っているエアコンやテレビなどをスマートフォンから操作したり、スマートスピーカーと連携して声で操作したりするデバイスです。もう一つは、HEMS(家庭のエネルギー管理システム)デバイス。エネルギー消費量や太陽光の発電量のモニタリング、エコキュート・蓄電池などを制御できるデバイスを販売しています。また、これらの製品を使った機器制御型のDR(デマンドレスポンス)も手掛けています。ハードウェアを軸にサービスを展開するのが当社のビジネスのポイントです。

【特集1】注目は「タマゴ」と「お化け」 未来のエネルギーを万博で


4月13日に開幕する大阪・関西万博。現在、パビリオンの準備が急ピッチで進められている。
電力館とガス館は、どちらも楽しみながら学べるのが特徴だ。一足先にのぞいてみよう。

大阪メトロの新駅・夢洲駅に直結する東ゲートを抜けると、目の前にタマゴ型のパビリオンが目に入る。異彩を放つこの建物こそ、「電力館 可能性のタマゴたち」だ。外殻の膜の色がシルバーで、天候や時間帯によって見え方が変わり、さまざまな雰囲気を醸し出す。

異彩を放つタマゴ型の電力館 提供:電気事業連合会

「タマゴ」を首から下げて 地面にはPVの廃棄ガラス

テーマは「エネルギーの可能性で未来を切り開き、いのち輝く社会の実現へ」。電気事業連合会は1985年のつくば万博や2005年の愛・地球博などで、乗り物に乗りながら館内を見て回る「ライド型」の展示形態を採用してきた。しかし、大阪・関西万博ではエンタメ性をより追求。鍵となるのは来館者が首から下げる「タマゴ型デバイス」だ。展示内容や来館者の体験に連動してさまざまな色に光り、振動する。
「エネルギーの可能性の探索」と銘打ったメインショーでは、エネルギーの特徴や面白さにフォーカス。例えば「核融合」の体験ゾーンでは、来館者が卓上に投影された原子核に見立てた光る球をデバイスにくっつける(融合)。するとデバイスが光り始め、反発し合う二つの原子核から膨大なエネルギーが生まれる原理を体感できる。
パビリオン周辺の地面にも注目だ。構内舗装に使用したのは、北陸電力が開発したインターロッキングブロック(コンクリートブロックの一種)。発電所で石炭を燃やした後に生まれる微粉末の灰「フライアッシュ」と太陽光パネルの廃棄ガラスを混合して作られた。
電事連大阪・関西万博推進室の石橋すおみ副室長は「電力館ではエネルギーに真正面から向き合う機会を提供する。子供たちを中心に、普段意識しない電気を自分事として考えてほしい」と期待を寄せる。会場に足を踏み入れたら、まずはタマゴを探してみよう!

【特集1】エネルギー初夢NEWS5選


2025年は一体どんな話題が業界を騒がせるのか。
本誌記者があれやこれやと架空ニュースを「夢想」。
果たして正夢となる話題はあるのだろうか……。

NEWS1:参院選で与党過半数割れ 野党が政権枠組み協議へ

7月20日に投開票が行われた参議院選挙で自公が過半数割れした。1人区では立憲民主党と日本維新の会、国民民主党が候補者を一本化し、半数以上で野党候補が勝利。野党幹部は「次の衆院選で政権交代を実現すべく、他党と政権枠組みを協議する」と意気込む。ただ憲法やエネルギーを巡って野党間の隔たりは大きく、自民党関係者は「野党協議によって、政権を担えるのは自公だけだとはっきりする」と冷ややかだ。

【解説】混迷を極める政局の中で、2025年夏に実施予定の東京都議選と参院選は乱戦必至。同日選もささやかれている。都議選では自民党都連が「不記載」問題を抱える中、小池百合子知事が率いる都民ファーストの会と国民民主が選挙区調整を模索。石丸伸二・元安芸高田市長の〝石丸新党〟も波乱要因だ。

都議選の流れを受けた参院選では、1人区での野党のすみ分けが鍵か。小池氏や石丸氏が乱入すれば、自公の得票数低下に拍車をかける。とはいえ、参院選前に一波乱の可能性も。国民民主は年末、「106万円の壁」で与党をゆすり続けたが、野党が結集して選択的夫婦別姓を認めるよう攻め立てたら、自民党は真っ二つだ。党内右派を抑え切れない執行部は、本格的に連立組み替えを模索するかもしれない。ただ参院選前に野党が自民と組むことは考えにくい。エネルギー政策的には「立民の左派」が連立に加わらなければ、悪い形にはならなさそうだが。

政界再編はあるのか

NEWS2:CBAM1年延期へ 日本のCPにも影響必至

欧州連合(EU)は、26年に予定する炭素国境調整措置(CBAM)の本格適用を1年先送りにする方針を固めた。EU再加盟を目指す英国の事情に配慮した格好だ。英国ではCBAMに対応する措置の整備に時間がかかり27年からとなる見込み。両者間の貿易額を考えると、わずか1年でも英国へのペナルティに伴う打撃は相当なものとなる。CBAMは日本のカーボンプライシング(CP)のタイムスケジュールにも関わっており、影響が注視される。

【解説】CBAMは、世界初の国際貿易にかかるCP制度。EU内から、炭素価格が安い国への生産拠点の移転(リーケージ)を防ぐべく、対象の輸入品の炭素排出量に応じて課金する。ただ、世界貿易機関(WTO)協定との整合性が求められ、ロシア・中国・インドなどで構成するBRICSは、24年10月の首脳会議で合意した「カザン宣言」でCBAMを名指しで批判した。

一方、欧州では脱炭素に伴う産業空洞化が深刻なドイツがついに政権崩壊し、フランスなどでも政治の混迷が続く。このように、英国事情以外にも不安要素はある。
日本ではCBAMのスケジュールも意識し、26年度に排出量取引制度(ETS)をスタートし、25年初頭の通常国会にGX推進法改正案が提出される見込みだ。制度の詳細は引き続き検討されるが、ドイツなどの二の舞にならないよう、CBAMの動向に注意が必要だ。

EUは環境政策を軌道修正するのか

【特集2】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築


【東洋計器】

第1世代のスマートメーター(スマメ)の設置を終えた電力業界と、スマメ導入を進める都市ガス業界。両業界が検針業務の効率化や災害からの早期復旧の観点でスマメの導入を促す中、LPガス業界も着々とメーターで実績を積み上げてきた。実は同業界はいち早く、通信網を通じて「集中監視」と呼ばれるシステムを構築してきたのだ。

LPガスの消費量、地震によるLPガス容器の揺れ、ガス漏れによる異常検知など、販売や保安に関する細かなデータをメーターから一括して収集するシステム、まさに「スマメの源流」ともいえる仕組みを手掛けてきた。このLPガスメーターの分野でトップシェアを誇るのが、長野県松本市に拠点を置く東洋計器だ。

同社による集中監視の歴史は、昭和にさかのぼる。「固定電話のアナログ回線から始まり、PHS、3G、4G回線と通信技術の発達に伴いシステムを改善し、運用コストを低減してきた」(総合企画部)。
電力や都市ガス業界と大きく異なる点は、メーターメーカーが大きな役割を果たしていること。メーカーが集中監視のインフラを構築し、LPガス事業者・販売店がそのインフラを利用する構図だ。
それぞれのエネルギー事業形態や事業法が異なるため、一概には比較できないが、メーカーの存在感が際立っているのがLPガス業界である。

そんな業界で存在感を発揮する同社は、土田泰秀会長の編著のもと「計量の価値を高めて~東計会41年をふりかえる~」を今年発行した。この内容をひも解くと、大震災のたびに集中監視が保安で威力を発揮してきたという歴史を垣間見ることができる。

東日本大震災や阪神淡路大震災の発生後に実施したアンケートでは、「ガスの元栓を閉めていたことを忘れていた。ガスが使えなくなった理由が分かり安心した」(消費者)、「遮断した顧客に遮断弁を復帰してもらい、出動が1件もなかった」(販売店)、「ガス容器からガス機器までをつなぐ配管の間の漏れを発見して対応できた」(販売店)といった声が寄せられた。

他産業への広がり 都の水道局でも活用

現在主力とする製品が「IoT―R」だ。集中監視システムに対応する最新の通信端末で、18年に販売し、累計で400万台出荷した。KDDIの携帯電話網を活用し、検針値やガス漏れ通報などを同社のマルチセンターに自動通報する。

さらに遠隔での開閉栓も可能だ。最近では都市ガスのほか、灯油や産業ガス、水道といった他のユーティリティーでも利用されている。

「東京都水道局に納入し、検針の合理化や効率的な漏水管理を支援している。全国各地で老朽化に伴う漏水や設備維持に課題を抱える水道事業にとって都の取り組みは参考になると思う」と総合企画部の担当者。保安や災害対応のみならずインフラの維持でも、今後もメーターと通信端末が大きな役割を担っていきそうだ。

主力製品の「IoT―R」

【特集2】自治体やエネルギー事業者が注目 生活用水が確保できる新設備


【I・T・O】

I・T・Oの都市ガス発生装置「PA(プロパンエアー)」は、阪神・淡路大震災からの復旧活動に貢献した。元々、同装置は都市ガスの燃料転換の工事向けに開発した設備だった。運搬可能でLPガスボンベさえあれば、13Aの都市ガスをつくることができる。この特徴から現在は防災向け設備として、全国の都市ガス事業者が所有している。

同社では、都市ガス発生装置の次世代機「New PA」を軸に都市ガスと電気のライフライン維持に寄与する防災・減災対応システム「BOGETS」(ボーゲッツ)を展開。非常用発電機や停電対応型GHP(ガス空調)と組み合わせた設備群が、東京都足立区をはじめ、名古屋市、大阪府寝屋川市など、多くの小中学校に採用されている。

生活用水を確保できる

プールの水などをろ過 能登地震でも活躍

これらに加わる防災設備ラインナップとして、同社がこのほど発表したのが非常用生活用水浄化装置「ウォーターリリーフ」だ。同装置は、学校のプールやタンクなどに貯めた水の水質を、厚生労働省の浴槽水・遊泳プール水の基準と同程度まで向上できるもので、避難所の生活用水確保に寄与する。「誰でも簡単に操作できる」ことをコンセプトに、ろ過材を装置に入れてボタンを押すと作動するよう設計されている。また、家庭用の電源やポータブル発電機、EVなどの電源でも稼働する災害対応仕様になっている。

ろ過に使うパウダーの原料は、天然素材である珪藻土。安価で安定して入手できるため、ランニングコストの低さも特徴だ。初回納品時に付属しているパウダーを利用すると、学校プール約1杯分の生活用水を作ることができる。

内閣府が2016年4月の熊本地震の被災者を対象に実施したアンケートで、避難所滞在中に最も不足して困ったものは「生活用水」だった。トイレや風呂、洗濯などで使用する水の量は1人当たり1日20~30ℓに上る。ウォーターリリーフは1時間当たり最大2000ℓの浄水が可能で、避難所などで使用する水を大量に確保できる。今年1月の能登半島地震の際には、避難所となった七尾市の小学校に、同装置の試験機が導入され、給水所や簡易シャワー施設などに浄化した水を供給した。

営業本部企画課の岩岡冬季知マネージャーは「災害関連死の主な要因は心的ストレス。水が絶たれるとトイレが使えなくなり衛生的な環境維持が難しくなる。感染症も広まりやすい。こういったことを解決することで命を救うことができる」と同製品の意義を強調する。
ウォーターリリーフの発売によって、同社の防災・減災向けラインナップはガス・電気・水の三つをバックアップできるようになった。「今後、避難所を管理する自治体だけではなく、ライフライン復旧に当たるエネルギー事業者にも訴求していきたい」と岩岡氏は意気込む。重要と言われながら製品化されて来なかった水の防災設備。ウォーターリリーフは多方面で注目を集めそうだ。

【特集2】スマメ活用で早期に停電範囲を把握 次世代品ではさらに高度な運用へ


【東京電力パワーグリッド】

電力業界ではスマメの導入で低圧線での停電特定ができるようになった。
次世代品ではさらに精緻なデータが取得可能で災害への活用が期待される。

2014年から本格導入が開始されたスマートメーター(スマメ)は、自動検針により30分ごとに電力使用量を集計し、そのデータの遠隔管理を可能にすることで、業務の効率化に貢献してきた。
取得した集計データはもともと、電力使用量の算定が主目的であったが、その使用量の変化を追うことで在・不在状況を推定できることから、今後、災害時の状況把握への活用も考えられる。

東京電力パワーグリッド(PG)は20年度末までに自社供給エリアでのスマメ導入を完了させる(一部取り替え作業が困難な場所を除く)など、電気インフラの整備をリードしてきた。スマートメーター推進室企画グループの深野愼介総括チームリーダーは、「スマメの通電情報により、高圧仕様の停電情報システム上では表示されない低圧線での停電範囲の絞り込みができるようになったことが大きい」と説明する。

もともと低圧線での停電の特定には、都度現場での確認が必要で、対応に時間を要していた。同社はその中でいち早くスマメの導入を進め、停電の疑いが生じるケースでは、スマメの応答情報を基にそのエリアを特定するなど、停電からの復旧作業の効率化に取り組んできた。
来年度から導入が始まる次世代スマメでは、新たに「5分値」が活用される。従来の「30分値」と併せることで、さらに速やかな停電の検知が期待できる。

次世代スマメの機能の向上に伴って、より大量のデータ取得が可能になる中、その利活用に関する法体制も整備されている。
政府は20年6月に施行した電気事業法の中で、一般送配電事業者に対して、自治体などの関係行政機関への電力データの提供を要請する旨を明記した。災害発生時における事業者と行政との連携体制を強化し、早期復旧につなげていく。

事業者間で仕様を統一 30年代早期までの導入狙う

現行のスマメにおいては、「一体型(計量部と通信部が一体)」と「ユニット型(計量部と通信部がセパレート)」の2種類が併用されている。経産省は次世代スマメの導入に際して、一般送配電事業者10社で仕様を統一する方針を示した。仕様が異なることで連携や有事の互換性の部分で問題があったためだ。次世代品は30年代早期までの導入完了を目指す。電力業界によるスマメ運用の取り組みは、他のエネルギー業界からも注目される。

「停電範囲の特定が可能になった」と話す深野氏

【特集2】「マルヰ会」が全国一斉訓練 予測不能な救援出動に万全の備え


【岩谷産業】

供給設備の点検や復旧を担う災害救援隊が対応力を磨いている。
今後も出動実績を積み上げ、有事のインフラを守り続ける構えだ。

災害の発生時に素早く現場に駆けつけ、ガス機器の点検や漏えいの検査を行う―。岩谷産業のLPガス販売店組織「マルヰ会」はこのほど、そんな役割を担う「災害救援隊」の全国一斉訓練を行った。ガスのエキスパートが有事の対応力を磨く場だ。

今回の一斉訓練は全国73カ所で一斉に取り組んだもので、計約1900人が参加。救援隊員を出動させる側と被災地に受け入れる側がそれぞれ円滑に災害時に対応できるよう、双方の体制や動作を確認した。
関東ブロックの訓練は、「茨城LPGセンター」(茨城県那珂市)などの各拠点で実施。参加者は、点呼や通信の確認を手始めに多彩な訓練に順次臨み、機敏な動きを披露した。

災害救援隊による訓練

防災工具を細かくチェック 非常用発電機の動作確認も重視

参加者は例えば、防災工具のチェックリストに沿って、合計で35に上る工具を一つひとつ点検。ガス漏れの訓練にも臨み、穴の開いた配管をナイロンテープで補修した。テープを引っ張りながら隙間なく漏えい箇所をふさぐことで、ガス漏れを止める。加えて、停電時もLPガスの充てんが行えるようにする非常用発電機の動作確認も行った。

参加者は保安講習も受講。過去のガス事故の分析結果や関連法の改正情報を共有した。関東支社長の和田直樹氏は「自然災害は未然に防ぐことは難しい。いかに迅速に対応できるかが重要だ。定期的な訓練の意義はそこにある」と呼びかけた。

災害救援隊は、災害時に LP ガスの復旧活動を迅速に行う全国規模の防災組織で、約3600人の隊員で構成。現在、約1400の会員販売店から、LPガスの有資格者が登録している。発足したきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災だ。以来、東日本大震災や熊本地震など約30件の事例で出動した。

1月の能登半島地震では、延べ205人の隊員を派遣し、顧客のガス設備の安全点検や修繕に携わった。活動期間は1月8日~4月18日の42日間で、点検・対応数が3681戸に達したという。年1度の頻度で重ねてきた一斉訓練。今後も訓練を重ね、大規模災害などに備えた防災体制の強化につなげたい考えだ。

【特集2】今につながる30年前の経験 関係者が明かす当時の奮闘記


1995年の地震発生直後、都市ガス・LPガス業界は数々の工夫を凝らしながら復旧に向けて奮闘した。
震災から30年の節目が近づく今、この経験から得られた教訓と、その後の取り組みを振り返る。

【大阪ガス】

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被災者から激励を受けることも
写真提供:大阪ガス

「想定していた規模を上回る地震に、受けた訓練の内容では対応できない部分も多かった」。大阪ガスの供給管理部に所属していた中嶋規之氏(41)は、阪神・淡路大震災に直面した経験をこう語る。1995年1月17日、震災発生当日の朝、始発電車で何とか大阪市淀屋橋の本社ビルに出社した中嶋氏は「西に向かい被害状況を確認せよ」との指示を受けた。兵庫県からの連絡が途絶え、被災の全容がつかめない中、携帯電話1台を抱え、車で現地へ向かった。大阪を抜け兵庫に入ると、景色は一変。がれきの山が視界に広がる中、現場に到着すると、ガスの匂いが立ちこめ、想像を絶する光景が目の前にあった。

阪神・淡路大震災では、兵庫県の神戸、西宮、芦屋、宝塚の各市と淡路島で国内観測史上初の震度7を記録。約24万棟の建物が全壊または半壊し、交通網やライフラインが寸断された。
当時、大阪ガスでは地震発生時に復旧担当するエリアを事前に決めており、復旧のめどが立ったエリアの職員から順次、未復旧エリアに応援に向かうというシナリオで訓練を行っていた。しかし、震災はそれが通用しないほどの規模で、特に兵庫および近隣エリアは自らの復旧対応で手一杯の状況だった。


震災発生からわずか6分後には本社対策本部が、当日の正午には今津事務所(西宮市)に現地対策本部が設置された。現地対策本部の役割は、被害状況の把握や具体的な復旧計画の立案に加え、行政機関やマスコミ対応、全国から駆け付けた応援隊を受け入れる組織編成まで多岐にわたった。現地対策本部に配属された中嶋氏は「当初は白紙の状態から組織を立ち上げた」と振り返る。

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導管に侵入した水と泥は復旧作業を妨げた
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被災者が大いに喜んだ仮設浴場設備

延べ21万4000人が集結 立ちはだかる泥と水

ガス供給源である泉北製造所(堺市・大阪府高石市)と姫路製造所(兵庫県姫路市)、ならびに約490kmに及ぶ高圧導管は無事だった。しかし、災害に強いポリエチレン(PE)管の普及が進んでいなかった低圧導管網の破損は深刻で、老朽化したねじ継手が寸断された。最終的に供給を停止したのは約85万7400戸。都市ガス事業始まって以来の規模だった。


供給停止には、被害状況に応じて部分的に停止可能な55の地域ブロックを活用した。停止したブロック内では、顧客3千~4千戸単位でさらに分割し、低圧導管の復旧作業が進められた。現地対策本部長の上林博氏(56)は「75年からの天然ガス転換時にブロックを分割して対応した経験と、当時設置した分割用のバルブがこの復旧作業を円滑に進めた」と語る。
復旧作業は85日間にわたり、大阪ガスの6000人に加え、全国の都市ガス事業者や日本ガス協会から最大時は3700人の応援隊が派遣された。延べ21万4000人が結集し、都市ガス事業者が一丸となって作業に当たった。


復旧で最も大きな障害は、ガス管内に入り込んだ水と泥だった。地震による水道管の破損や液状化現象で、大量の水や泥が広範囲にわたりガス管内に流れ込んでいた。現場の修繕状況を基に復旧計画などを作成した復旧隊の森田徹氏(32)は「現地対策本部から西に進むほど水道管の破損が多く、ガス管への水の流入被害が拡大していた」と述べる。
低圧導管の復旧では、各家庭のメーターのガス栓を閉じ、配管や設備を一軒ずつ確認する手順が採られた。内管修繕隊で応援隊の手配を担当した山口睦宏氏(33)は「閉栓依頼は全て紙で対応しており、膨大な顧客リストを参照しながら作業を進めるのに苦労した」と思い返す。兵庫エリアではピーク時に330班の応援隊が集まり、1日当たり300件ほどの閉栓依頼を各班に指示していたという。


そこで、本社対策本部は現場を考慮し、対応方針を変更。顧客リストの管理を取りやめ「目に付くガスメーター全てを閉める」という方針に切り替えた。さらに、閉栓したメーターには閉栓シールを貼る方法も採用し、一目で確認できるようにしたことで効率が飛躍的に向上した。
資機材の調達も一筋縄ではいかなかった。現場では低圧導管の被害が各地で発生し、資材対策隊による導管接続用のソケットの大量発注が相次いだ。資材対策隊の西浦克敏氏(25)は「資材の依頼がFAXで次々と届き、一日中資機材の発注に追われた」と述懐する。入社1年目だった西浦氏は、発注作業をこなしながら部品の役割や名称を覚え、「在庫がない場合は代替品を工夫して使うなど柔軟に対応した」と説明する。


2月下旬には、自治会や町内会を訪問し復旧見通しを説明する「顧客隊」が活動を開始。復旧状況の説明に加え、カセットコンロや仮設風呂・シャワーの設置や利用案内も行うなど、住民の立場に立った企画も進めた。顧客隊で現場スタッフを手配した三浦一郎氏(32)は「長時間待たせたはずの住民から感謝の言葉をもらい、現場に向かった隊員が涙を流して戻ってきた」と回想する。

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緊張感漂う現地対策本部内(兵庫県西宮市)
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現場では臨機応変に対応した

阪神以降の対策が効果発揮 一層の強靭化が進行中


大震災を機に、業界は地震対策を強化した。ガス導管事業を承継した大阪ガスネットワークでは、供給停止する範囲を抑えるためにさらなる供給ブロックの細分化を図り、当時の55ブロックから現在は727ブロックに分割。被害のないブロックは供給を継続するとともに、供給停止ブロックを最小限に抑えることで早期復旧につなげる。
加えて、低圧導管網にはPE管を積極的に導入し、新設低圧管には原則PE管を全数採用。PE管は震災時の約1200kmから約1万8300kmに延長し、耐震性が大幅に向上した。
こうした取り組みが功を奏し、2018年6月、大阪府高槻市などで最大震度6弱を記録した大阪府北部地震では、発災から1週間で完全復旧することができた。
阪神・淡路大震災は都市ガス業界にとって未曾有の大災害であったが、多くの教訓を得ることとなった。30年を経た今、この経験を糧に業界は前進を続け、さらなる強靭化を追求している。

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多くの応援隊が駆け付けた

【特集2】供給エリアの全域をイノベーション 高度な遠隔検針で業務効率アップ


【東京ガスネットワーク】

ガス大手や関連機器各社は有事の暮らしを支える事業を強化している。
地震や気象災害が頻発する中、多様な最新技術の社会実装が全国で進みそうだ。

少子高齢化による労働力不足やインフラ保安対策の強化、検針業務の効率化――。東京ガスネットワークは都市ガスを巡るこうした課題を解決しようと、高機能のスマートメーターを供給エリア全域に広げることを目指している。

同社が普及を狙うスマメは、従来のマイコンメーターに無線機能を付加した都市ガスの次世代型計測器だ。これにより、「遠隔検針」「遠隔操作」「遠隔データ収集」という三つの機能を実現できるようにした。災害時に高度な保安の役割を発揮できるようになる。

スマメの開発は、2010年代から始め、19年3月に一部地域で先行的に導入。その後、徐々に導入範囲を広げてきた。23年12月までに合計で70万台程度を設置した。こうした機器の安定運用に必要な通信環境も、通信会社と連携して整備。台数が増えても運用面で問題ないことを確かめ、エリア全域への導入に踏み切ることにした。

スマートメーター推進部スマートメーター企画グループの青木正博・企画チーム課長は、「現在設置している都市ガスメーターの検定満期の取り換えや新設時のタイミングでスマメを設置し、30年代前半までの導入完了を目指している」と意欲を示している。

警報情報を送信 無線機能が威力発揮

具体的な機能の一つが、一部のスマメに実装する「感震センサー」で、地震の揺れ強度を高精度に検知できるようにした。異常なガス圧力などを検知すると自動的に遮断し、警報情報を送信する。仮に災害の影響でガス供給が停止した場合、復旧に向けて人手を介した操作を進める必要あった。
ユーザー自ら手引き書を片手に復旧操作を進めるほか、東京ガス側が現場に訪れて操作をサポートするケースも見られたという。青木氏は「ガスが停止されると問い合わせがたくさん来る。従来型が抱える課題を解決できると期待している」と説明する。
同社は、スマメの運用で他社との連携にも注力。保安やレジリエンスの強化といった社会課題の解決を一段と後押しする使命感に燃えている。

スマメ運用に期待する青木氏

【特集2まとめ】阪神・淡路大震災の記憶つなぐ ガス復旧に見る保安・防災の進化


1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した。
震度7に達する地震は交通インフラを破壊しただけでなく、
大規模な火災を引き起こし、エネルギ―インフラの復旧に長い時間を要した。
この復旧活動からの教訓が現代の防災・保安に生かされている。
30年前の当事者の対応を振り返りながら、最新の防災、保安対策への
取り組みや製品、ソリューションなど、ソフトとハード両面で最前線に迫った

【大阪ガス・伊丹産業】今につながる30年前の経験 関係者が明かす当時の奮闘記

東京ガスネットワーク】次代を見据え進化する有事対策 先進的事業で安心な社会づくり

【岡山ガス】法人車両のドラレコを活用 AIを活用した新保安システム

【東洋計器】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築

【I・T・O】自治体やエネルギー事業者が注目 生活用水が確保できる新設備

【リンナイ】給湯器が気象情報と連動 事前にタンクユニットに貯湯

【新コスモス電機】認知が足りないCO中毒事故 火災対策と一体での取り組み必要

【東京電力PG】スマメ活用で早期に停電範囲を把握 次世代品ではさらに高度な運用へ

【岩谷産業】「マルヰ会」が全国一斉訓練 予測不能な救援出動に万全の備え

【タツノ】燃料供給の拠点を支える立役者 多彩な展開で事業継続力の強化担う

【特集2】燃料供給の拠点を支える立役者 多彩な展開で事業継続力の強化担う


非常用発電機から防災ボックスまで製品をそろえる。
学校や病院などSS以外の需要にも応える構えだ。

【タツノ】

サービスステーション(SS)向けガソリン計量機を手掛けるタツノは、災害に伴う停電時にも車両のバッテリーで駆動する可搬式計量機など、事業継続計画(BCP)対策を支援する製品を拡充している。製品開発のきっかけは阪神・淡路大震災だ。

近年、多くのSSに非常用発電機が置かれている。こうした「住民拠点SS」は1万400
0カ所以上あり、そのほとんどに同社の製品が納入されている。ただ、年初に発生した能登半島地震の際は、発電機がないSSが数多く存在し、整備の必要性が再認識された。「SSは阪神・淡路大震災で堅牢性が証明されており、避難所として利用できることを多くの人に知ってもらいたい。発電機を稼働させ、支援の緊急車両に給油できるほか、電気と水が使える場合もある」と、エネルギーソリューション事業部の岸上高尚部長は話す。

房総半島台風の教訓から開発 地下タンクの高性能化にも力

同社は、学校や病院などの需要にも応え、品ぞろえを強化している。2019年に上陸した房総半島台風の際には、最長1カ月ほど電気が通らず、携帯電話の充電のために住民が公共施設に長時間並ぶ姿が見られた。そうした状況を踏まえて開発したのが、アンカージャパン製のポータブル電源搭載の防災ボックス「レスキューチャージャー」だ。最新の「レスキューチャージャーⅢ」には自動体外式除細動器(AED)も収納できる。加えて停電時でも充電できるよう、折り畳み式のソーラーパネルを搭載したという。

BCP対策を支援する一環で、燃料を貯蔵する高性能な地下タンク「プレミアムタンク」の展開にも力を注ぐ。タンク内部を全てコーティングし、鉄のさびなどの余剰物(スラッジ)から守ることが特徴の一つ。災害時にもスラッジの影響で計量機のストレーナーの目詰まりが起こらないようにした。

こうした特徴を売りにタツノは、既にパン製造大手の自家用給油所や高速道路の給油所などに提供。液状化で埋設したタンクが浮上しないよう防ぐ独自工法や、30年という長期保証も評価されているという。
今後もこれまでに培った強みを生かしながら、社会インフラを守る事業に力を注いでいく意向だ。

AEDや救急箱も収容できる最新の防災ボックス

【特集2】認知が足りないCO中毒事故 火災対策と一体での取り組み必要


【新コスモス電機】

一般家庭で地震による震災対策に加えて欠かせない取り組みが火災対策だが、これに伴い発生する可能性のある事故が一酸化炭素(CO)中毒事故だ。COは不完全燃焼によって発生し、無色無臭で人間には気付けない。高濃度のCOを短時間でも吸い込むと数分で死に至る恐れがある。微量でも長時間吸引すると血液の酸素運搬能力が低下し、頭痛や吐き気、さらには昏睡状態に陥る可能性がある。

この中毒事故について新コスモス電機の十河泉・広報部長は次のように解説する。「総務省の公表資料によると建物火災の死因で一番多いのはやけどによるものではなく、CO中毒によるもの。さらに、データ上はやけどとひとくくりにされて認識されていても、CO中毒で運動機能を失い被災現場から逃げ遅れて焼け死ぬケースがあるとも言われている」

普段から換気していれば事故を防げるが、災害はいつ襲ってくるか分からない。また昨今の住宅は気密性を高めている。省エネ性能を高めるには有効だが、CO中毒対策では裏目に出る。気密性の高い住宅内で換気をせずにストーブを使い続ければ酸素濃度が減り、不完全燃焼を起こす恐れがある。

ルート開拓にも注力 電池切れ時期に周知活動

「日本では住宅用火災警報器の設置が10年以上前に義務付けられたが、住宅火災の死者数はそれほど減っていない。少しでも多くの人にCO中毒の怖さを知ってほしい」(同)。そうした中、新コスモス電機は2022年に、従来機の機能を向上させた住宅用火災警報器をリリースした。CO検知機能を付けた火災警報器「プラシオ」だ。従来機と同様、火災に伴う煙とCO検知のハイブリッド式だが、プラシオでは性能が高まった。

最大の特徴は微量のCOを検知すると煙センサーの感度が2倍になる設計にしたこと。「煙よりも先にCOが発生するケースがある」という独自の実験結果を踏まえ開発したもので、これにより火災の発生をより早く知らせ、それに伴う事故を少しでも減らす工夫だ。この機能は、総務大臣より特例基準(CO反応式)として認められている。

同社では、CO中毒について一般ユーザーの認知を深めようと販売ルートの開拓にも注力している。これまで同社の家庭用警報器はBtoBビジネスが中心で、ガス事業者向けルートが主流だったが、プラシオについては、量販店などを通じたルートを新たに開拓した。一方、「これまでのようにより多くのガス事業者さまにも採用してもらえるように働きかけている。エンドユーザーと接点機会のあるガス事業者さまは、火災警報器の販売でも提案力を持っていると感じている」(同)

火災警報器は電池駆動で寿命は約10年。設置が義務化され導入されたものが、電池切れのタイミングを迎える際、消防や業界は電池を交換するのではなく機器ごと交換するよう周知活動をしているそうだ。交換の機会に、より安心で命を守るCO検知機能が付いた火災警報器の存在を知らしめてほしい。

CO検知で煙感度を高める