【特集2】競争力のある供給網で地域貢献 LNG基地の運営経験生かす


【JAPEX】

エネルギー安定供給という使命の下で、石油や天然ガスの探鉱・開発・生産の技術を長年にわたり培ってきた石油資源開発(JAPEX)。そんな同社が挑戦する舞台が広がっている。一つがカーボンニュートラル社会の実現を後押しする取り組みで、アンモニアのサプライチェーン(供給網)づくりに積極的に関与している。

化学や機械の関連企業が集積する福島県相馬地区。太平洋に面する同地区は港湾機能にも恵まれている。その地でJAPEXは三菱ガス化学、IHI、三井物産、商船三井と連携し、アンモニア供給拠点の構築に向けた共同検討に乗り出した。資源エネルギー庁が実施する「非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(水素等供給基盤整備事業)」の公募に参加し、5月に採択された。

共同検討では、海外から輸入した低炭素燃料の「クリーンアンモニア」を相馬地区の拠点に受け入れて貯蔵し供給するための調査を進めるとともに、需要調査にも取り組む計画だ。

アンモンニアを発電用燃料として生かす可能性を探るとともに、化学品原料などの工業用途も想定。こうした取り組みで関東以北の広域圏に「脱炭素の輪」を広げることで、地域経済を活性化する一助を担いたい考えだ。水素社会の本格到来も見据え、アンモニアを「水素を運ぶ手段」として生かす可能性を探索することにも意欲を示している。

30年視野に脱炭素に貢献 長期的な視点で需要を開拓

日本政府は、2030年までに燃料としてのアンモニアを年間300万t導入する目標を掲げている。JAPEX国内カーボンニュートラル事業本部事業一部の山之内芳徳部長は、政府目標の達成に貢献するため、「アンモニアを長期で使ってもらえるよう需要を開拓し、競争力のある価格で届けられるアンモニア供給基地を実現したい」と強調。LNG基地などの輸送・供給インフラを地域密着で運営してきた実績も生かし、30年の操業開始を目指す。

JAPEXは、海外市場での事業展開も狙っている。その一例としてカナダのアルバータ州で、同州政府の投資誘致機関Invest Alberta Corporation(IAC)と協業する覚書を締結。IACの協力を得て、発電や工場などから排出されるCO2を回収・貯留(CCS)して有効利用する技術「CCUS」や、バイオマス発電とCCSを組み合わせた「BECCS」、化石燃料由来の低炭素燃料「ブルー水素・アンモニア」の事業創出を目指す。

21年には、カーボンニュートラル社会の実現という政府の宣言を踏まえ、総合エネルギー企業としての方向性を示す「JAPEX2050」を策定。カーボンニュートラル社会づくりで果たす責務と注力分野を明確に示した。

CCSとCCUSの早期事業化を目指すことに加えて、ブルー水素など周辺分野への参入を視野に入れる方針も盛り込んだ。JAPEXの展開から今後とも目が離せない。

取材に応じたJAPEXの山之内部長

【特集2】CCSの社会実装へ大きな一歩 官民一体で事業性実証目指す


多様な業種を巻き込み動き出したCO2の貯留事業。脱炭素社会を視野に主導するJOGMECの戦略に迫った。

【インタビュー】北村龍太/エネルギー・金属鉱物資源機構「JOGMEC」エネルギー事業本部CCS事業部長

─CO2を回収して地下に貯留する技術「CCS」がカーボンニュートラル社会づくりで果たす役割について教えてください。

北村 発電分野では、化石燃料から脱炭素化につながるクリーン燃料への転換を進めることでCO2排出量を減らしていく過程で、「つなぎ」の役割を果たすのがCCSです。その転換期には、化石燃料を燃焼して取り出すブルー水素やそれに窒素を合成してつくるブルーアンモニアが発電で必要となりますが、いずれ再エネ由来に置き換わるでしょう。そうなると発電向けCCSの位置付けも変わります。ただ、鉄鋼や化学などエネルギー集約型産業の脱炭素化は難しく、非発電分野向けCCSは将来も使われ続けると見ています。

─日本が脱炭素化に貢献するためには、どの程度のCO2貯留量が必要ですか。

北村 2050年時点で年間約1.2億~2.4億tのCO2貯留が必要という推計があります。それを達成するためには、50年までの20年間、CCS事業を毎年立ち上げ、約600万~1,200万tずつ年間貯留量を増やさなければなりません。そこで政府は環境整備を進め、30年以降にCCS事業を本格展開することを目指しています。JOGMECは政府と緊密に連携し、そうした取り組みを支援します。

─政府の「CCS長期ロードマップ」に沿って力を入れている取り組みは何ですか。

北村 横展開可能なビジネスモデルで規範となる先進プロジェクトを支援する「先進的CCS事業」です。23年度に始めたもので、初年度に7案件を選定しました。24年度も発電や石油精製、化学、鉄鋼など多業種の事業者が参画するプロジェクトとして、9案件を選びました。5月には、CO2を埋める地層の試掘や貯留の許可制度を盛り込んだ「CCS事業法」が成立しており、事業化に向けて大きな一歩を踏み出したと言えます。

─事業化に向けた課題も抱えています。

北村 CCSの実施地域に与える影響を踏まえて、住民理解を得ることが大切です。貯留の適地である枯渇した石油・ガス田は国内では量的に限られることも課題で、日本で回収したCO2を海外に輸送し貯留する手法が解決策となります。今年度の先進的CCS事業の対象案件のうち4案件は海外貯留でした。法制度が進むCO2受け入れ国も限られる中、世界で環境整備や政府間協議が進むことを望んでいます。先進的CCS事業には、地下水で満たされた地層「帯水層」をCO2の大規模貯留に向く貯留先として役立てる調査も含まれており、今後の展開に期待しています。

きたむら・りゅうた 東京大学工学部卒業後、1995年石油資源開発入社。2007年JOGMEC入構。シドニー事務所勤務などを経て、24年から現職。

【特集2】アンモニア燃料船の安全を評価 日本主導の国際ルール策定に貢献


【日本海事協会】

2026年11月、国産エンジンを搭載し、アンモニアを燃料とする「アンモニア燃料アンモニア輸送船」が完成する。この世界初の取り組みは、海洋分野における脱炭素化実現に向けた大きな一歩になると期待されている。「日本の技術で海と未来を変える」を合言葉にこのプロジェクトに参画しているのは、日本郵船、ジャパンエンジンコーポレーション、IHI原動機、日本シップヤード、日本海事協会の5社のコンソーシアムだ。日本の船級協会として一世紀以上にわたり船舶の安全性を第三者として証明してきた日本海事協会は、このアンモニア燃料アンモニア輸送船の安全性評価を担当している。

プロジェクトが担う役割は四つある。

第一が、国際海運のネットゼロ・エミッション達成に向けた取り組みをリードすること。燃焼してもCO2を排出しないアンモニアを使用したアンモニア輸送船の開発・建造を通じ、アンモニアを燃料とする船舶の実用化を推進していく。

第二がアンモニアバリューチェーン(価値連鎖)の構築だ。アンモニアの用途は、従来の化石燃料から火力発電所の混焼などへと移行し、需要が急増すると想定。アンモニアを効率的に幅広く供給できるバリューチェーン構築を促していく。

第三に、日本海事産業の強化だ。海洋国の日本にとって海事産業の繁栄は、経済安全保障上重要だ。ネットゼロ・エミッション実現に向けた燃料転換を好機とし、日本を代表する海事産業企業の技術力を集結し、高い環境性能と安全性を備えた船舶を他国に先駆けて供給することを目指している。

安全の定義作りに尽力 日本の海事産業を後押し

第四に、船舶燃料としてのアンモニアに関する国際ルール化だ。現状、IMO(国際海事機関)は、アンモニアを船の燃料としては認めていない。国際ガイドラインも未整備だ。日本海事協会が国土交通省と連携し、コンソーシアムを通じてアンモニア燃料船舶の開発に関与することで得られた知見をIMOに提供することで、アンモニア燃料船の議論をけん引する構えだ。

技術部の酒井竜平氏は「何を基準に安全であるとするのか、『安全のコンセプト』を定めていくことが非常に難しい作業だった」と語る。例えば、アンモニアを通す導管は漏洩防止のために何重に覆うのが適切なのかという課題一つを取ってみても、考慮すべきことは多くあった。

日本海事協会は、プロジェクトを通じて得られた専門的知識を国交省海事局に提供してきた。その貢献が実を結び、今年12月、アンモニア燃料船に関する初めての国際ガイドラインが発表される予定だ。四方を海で囲まれ、資源や食糧のほとんどを輸入に頼る日本にとって、日本が策定までリードしてきたガイドラインは、海事産業がさらなる発展を目指す際に大きなアドバンテージとなるだろう。

アンモニア燃料によるアンモニア輸送船

【特集2】存在感を放つ燃焼技術の先駆者 アンモニア燃料転換を下支え


長年にわたりアンモニア利用技術を追求してきた。碧南火力の実証用バーナー開発に知見を生かす。

【IHI】

IHIは、約10年にわたり磨いてきたアンモニアの燃焼技術を生かし、火力発電の脱炭素化を後押ししている。アンモニアを燃料として活用することで、発電設備から排出されるCO2の削減に貢献したい考えだ。

IHIは持続的な高成長に向けて2023年度に打ち出した「グループ経営方針2023」で、クリーンエネルギー分野を「育成事業」と位置付けた。この方針に沿って、アンモニアの製造から貯蔵・輸送・利用にいたる「バリューチェーン(価値連鎖)」の構築事業に積極的に参画。下流では、「電力」「船舶」「産業」という三つの用途を視野にアンモニア燃料の利用技術開発に力を入れている。

試験でバーナーの実力証明 大気汚染物質の排出抑制

存在感を発揮した舞台の一つが、JERAが運営する碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機だ。両社は燃料である石炭の20%をアンモニア燃料に置き換えて発電する大規模な実証試験を4月から6月にかけて進めてきた。

実証で使うバーナー(燃焼装置)を開発したのがIHIだ。5号機で22年に進めたアンモニア燃料の小規模利用試験で得られた知見を、実証用バーナーの開発に役立てた。実証では、ボイラーに差し込まれた石炭焚きバーナー48本をアンモニア混焼用に改造して実施。同発電所に受け入れた液化アンモニア燃料をガス化した後にボイラーに送り込み、バーナーで石炭と同時に燃焼させる仕組みだ。

実証を通じて,燃焼により発生する窒素酸化物(NOX)や未燃分などの燃焼特性に加えて、硫黄酸化物(SoX)やCO2などの環境特性も確認。アンモニア混焼の有効性を実証したという。

アンモニア転換の量をさらに引き上げると、こうした環境特性と燃焼の安定化を両立するハードルが高まる。IHIは引き続き燃焼技術の高度化を追求し、転換率50%以上の達成に貢献。将来的には、アンモニアのみで燃焼するバーナーを開発し、アンモニアのバリューチェーンづくりに弾みをつける。資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBUの難波裕二次長は「日本で先行的に磨いたアンモニアの利用技術を周知し、アジアにも広げていきたい」と意欲を示した。

JERA碧南火力発電所の実証用バーナー

【特集2】清掃工場由来のCO2を資源に 佐賀市の循環型社会づくりに貢献


力発電所で磨いた技術を転用し実現した。全国に広がる可能性を秘めた先進事例だ。

【東芝エネルギーシステムズ】

佐賀市の清掃工場で発生する排出ガスからCO2を取り出し、地元の農業に生かす―。そうした仕組みが地域の脱炭素化と資源循環を促す取り組みとして、国内外から熱い視線が注がれている。東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)が火力発電所で磨いたCO2分離・回収技術を転用した事例で、全国各地に広がる可能性を秘めている。

市は「バイオマス産業都市構想」を掲げて廃棄物を資源として循環する街づくりを進めている。その一環で、CO2分離・回収事業を推進中だ。

事業のきっかけとなったのが、東芝グループのシグマパワー有明が運営するバイオマス発電所「三川発電所」(福岡県大牟田市)。同発電所は、火力発電所などの排出ガスから放出されるCO2を分離・回収する技術の開発拠点としての役割も担い、実証運転を重ねてきた。その実績に注目した市が清掃工場に役立てるアイデアをひらめき、排出ガスの新たな活用策を模索。16年に清掃工場向けCO2分離・回収設備を東芝から導入した。

積み重ねた設備改良と工夫 吸収液の高性能化も推進

ただ、火力発電向け技術の清掃工場への応用は一筋縄ではいかなかった。工場の排出ガスに含まれるCO2は濃度の変動が大きい上、金属を腐食させる塩化水素も多く含まれているからだ。東芝ESSは、そうした問題に設備の改良や工夫で対処し実用化。現在、ごみ焼却時に発生する排出ガスの一部から1日で最大10tのCO2を分離・回収している。

この技術は約99.9%という高純度のCO2を取り出せることも特徴だ。低温でCO2を吸収し高温になると放出する化学吸収液「アミン」を排出ガスに接触させてCO2を吸収。その後の工程でアミンを加熱することでCO2を放出させる。今春には、耐久性が高く環境にやさしいCO2吸収液を開発した。

市は回収したCO2を、光合成に必要な有価物としてパイプラインで近隣農家などに供給。野菜や微細藻類の育成に生かすことも狙う。東芝ESSパワーシステム事業部の斎藤聡・炭素利活用技師長は「地域で資源循環も促せるシステムの導入事例を増やし、CO2回収コストの低減につなげたい」と述べた。

脱炭素に有効なCO2分離・回収設備

【特集1まとめ】省エネ合戦の変貌 電力vsガス競合を変えた三大要因


1980年代~2010年代前半、電力業界とガス業界は熾烈なエネルギー間競合を繰り広げた。

この競合こそがエネルギーの高効率利用を柱とする技術開発を進展させてきたのだ。

ところが2010年代後半に入ると、両業界を巡る情勢は大きく変化していく。

システム改革を通じた大手エネルギー事業者の分割や相互参入の加速。

再生可能エネルギー大量導入に伴う新たな需給システムの導入。

そうした中で押し寄せてくる世界的なDX・GXの大波。

かつての省エネ合戦は、これらの要因によってどんな変貌を遂げていくのか。

電力vsガス技術競合の変遷をたどりながら、直面する課題や今後の行方に迫った。

【アウトライン】自由化・再エネ・DXで新局面に 利用技術開発競争の往古来今

【レポート】効率HPの技術開発に黄信号 再エネと自由化の影響を読む

【レポート】コージェネを巡る環境変化の深層 時代に即した技術開発が必要に

【対談】変遷から課題までを徹底討論 国内産業の成長に資するか 目指すべき開発の方向性とは

【特集2】コメ産地でもみ殻をエネルギー転換 ホテルや温浴施設への熱供給にトライ


【オーリス】

秋田県大潟村で国内初のプラントが稼働を始めた。

「自然エネ100%の村」づくりに弾みをつける。

日本有数のコメ産地で知られる秋田県大潟村で、稲の実の外皮「もみ殻」を燃料にバイオマス熱を地域に供給するプラントが完成した。同村が県内企業と設立した地域エネルギー会社のオーリスが試運転を8月1日に始めた。もみ殻を生かす熱供給事業は国内初で、今秋の商業運転開始を目指す。

CO2排出量削減にもつなげる 副産物は農業資材の用途に

村内では、もみ殻が年間に約1万4000t発生している。このうち約8000tを使用し、バイオマス地域熱供給プラントのボイラーで90℃の温水に転換。この熱エネルギーを地中に埋設された3.5㎞の熱導管を通じてホテルや温泉施設、小中学校など五つの施設に届ける仕組みだ。プラントの熱出力は合計で700kWだという。

各施設の暖房や給湯に使っていた化石燃料からもみ殻に置き換えることで、地域の脱炭素化を後押しする。もみ殻を役立てることで化石燃料の使用量を削減し、年間約1550tものCO2排出量を低減する見込み。

さらに、もみ殻の燃焼時に副産物として得られる燻炭を土壌改良剤などの農業資材として農家に販売。国がCO2排出量の排出削減効果を認証する「J―クレジット」制度も生かしたい考えだ。

再生可能エネルギー由来の熱供給は、国内で進んでいないのが現状だ。設備の導入コストが高いことに加えて、熱の需給バランスが取りづらいことが主因。こうした中で未利用資源を燃料に熱供給する今回の試みは、画期的な取り組みとして注目を集めそうだ。同村は「自然エネルギー100%の村づくりへの挑戦!」という目標を掲げている。

もみ殻を貯蔵・搬送するハウス

【特集2】国産森林資源で地域振興に貢献 熱電併給で持続可能社会を形成支援


【三洋貿易】

地域の森林から生み出された間伐材などの未利用木材「木質バイオマス」を燃料として活用し電力と熱を供給する―。そうした熱電併給システム事業に力を入れているのが、専門商社の三洋貿易(東京都千代田区)だ。脱炭素化を後押しするとともに、地域の循環型社会づくりにも貢献したい考えだ。

同社は、ドイツの熱電併給装置メーカー、Burkhardt(ブルクハルト)の装置を日本市場で取り扱う総代理店。2014年に同社製装置の扱いを始め、約40基をバイオマス発電所に提供してきた。

熱電併給装置は無人運転で、木質ペレットを炭化する際に発生するガスを利用してエンジンを回転させて発電する。ガス化する際に得られた熱は、温水として役立てることが可能だ。

こうした仕組みで地域貢献しようと、三洋貿易と木質バイオマスによる地方創生に取り組む大日本ダイヤコンサルタント(東京都千代田区)は、6月に下川運輸(北海道下川町)が道内に設立した「北の森グリーンエナジー」へ出資した。

北の森グリーンエナジーは、三井物産と北海道電力が共同出資する北海道バイオマスエネルギーの木質バイオマス発電事業を引き継ぎ立ち上げた新会社で、資本金は8050万円。三洋貿易と下川運輸に加えて、大日本ダイヤコンサルタントも出資した。今後の事業では、下川運輸は現場で運営に携わり、大日本ダイヤコンサルタントが経営管理を担う。

ペレットに加工し燃料化 余剰熱の有効活用にも意欲

新会社が3万9254㎡に及ぶ下川町内の広大な敷地に集める木材は、年間で約1万t。それを同敷地内のペレット工場で加工し、燃料として熱電併給装置に供給する。そこで発電した電気は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度「FIT」を活用して売電し、同時に生じる熱の利用も促す。出力の規模は1996・5kWだ。

木質バイオマスの地産地消で鍵を握るのは、地域との間に持続的な協力関係を構築して木材を安定調達する取り組み。木質資源を集める担い手の確保も重要な課題となる。

新会社社長で三洋貿易グリーンテクノロジー事業部の事業部長補佐も務める大藪吉郁氏は、「国産の木質バイオマスを有効活用することで、脱炭素化のみならず、周辺市町村の雇用創出や林業の活性化にも貢献していきたい」と強調する。

また、熱電併給装置で発生する熱はペレット工場で木材を乾燥する際に使われる。余った熱は今後、地域に供給したい考えだ。大藪氏は「地域貢献につながるビジネスを育てていきたい」と力を込める。

三洋貿易は、秋田県産木材を燃料として用いる木質バイオマス発電所の建設計画にも参加。東北電力などが共同出資する会社が運営する発電所で、三洋貿易も出資している。地域活性化の観点から国産材による木質バイオマス発電事業を促す機運が官民の間で高まる中、三洋貿易の挑戦の舞台が広がりそうだ。

熱電併給向けペレット製造装置

【特集2】ごみ発電更新へ市政最大の投資 資源循環社会構築の原動力に


【市川市クリーンセンター】

一般廃棄物(ごみ)の焼却時に発生する熱を使ってタービンを回して発電するのが、バイオマス発電の一つ「ごみ発電」だ。天候に左右されることなく安定的に発電できることに加えて、化石資源を燃やさないクリーンな発電方式である。発電所から排出される熱を温浴施設などに生かすことも可能で、未利用エネルギーの有効活用を進める発電手法として各地の自治体を中心に古くから利用されている。

そんなごみ発電に取り組んできた自治体の一つが、資源循環型の都市づくりを進める千葉県市川市だ。市内で唯一のごみ焼却施設「市川市クリーンセンター」で、人口49万人、25万世帯数ほどの市の全量の廃棄物処理を一手に担っている。

クリーンセンターは1994年に運営を開始以来、すでに30年近く稼働している古株の施設でもある。3つの焼却炉(焼却能力は1日当たり1基200t)、蒸気タービン(7300kW×1基)などで構成されており、その規模は千葉県内でもトップクラスを誇っている。

「合計三つの焼却炉をローテーションさせ、常時二つの炉を運用しながら安定的に発電させている。発電した電気は施設内で自家消費するほか、隣接する市の温浴施設へ供給しており、余った電気は毎年入札にかけて電力会社に売電している。熱の一部は同様に温浴施設へ供給しており、施設から生み出されるエネルギーを無駄なく活用している」と、市川市環境部の品川貴範次長は説明する。年間の発電量は4000万kW時ほどで、数億円規模の発電収入が市川市の財源を支えているそうだ。

老朽化に伴いリプレース 新たな環境価値創出へ

そうした実績を土台にクリーンセンターは、資源循環型を志向しながらカーボンニュートラルを目指す市の方針のもと、新たな「再生計画」を打ち出す。

計画によると、施設の老朽化に伴い、2031年の運転開始を目指して完全リプレースを実施する。環境負荷の少ない効率的で安定したごみ処理体制の構築に向けて、従来よりも少ないごみの量で発電出力をアップさせる設備を導入する。

具体的には、クリーンセンターを構成する焼却炉やタービンの数は変えずに、焼却炉を1日当たり1基141tへとスケールダウンさせる一方、発電出力を1万1000kWへ引き上げる。メーカーによる技術力の向上に伴い、効率的な設備導入が可能になる。20年間の運転も含め、750億円程度を投資する予定で、市政始まって以来、最大の投資額だという。

市によると、「新施設では、これまでのようにただ余剰電力を売電するのではなく、発電した電気の環境性を最大限に活用していく方針だ。そのため、ごみ発電による環境価値を市内で循環させるようなスキームを構築することを考えている」(品川氏)という。

次期クリーンセンターの詳細計画については、近く公表する予定。発電できるごみ処理施設が生み出す新たな価値に期待がかかる。

更新予定の市川市クリーンセンター

【特集2】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ


【三峰川電力】

大手商社・丸紅の100%子会社である三峰川電力は小水力発電事業を中心に手掛ける発電事業者だ。同社は1960年に「三峰川総合開発事業」の一環として、長野県伊那市長谷で水力発電所を稼働させたことに始まる。設立当初から小水力発電の原型になる流れ込み式発電に注力してきた。ダムを使わず、環境負荷の少ない再生可能エネルギーである点が特長だ。

同社が手掛ける発電所は開発中を含めて全国に30カ所以上点在する。水力発電は自然の力を利用して発電するため、開発においては地元自治体や住民との関係づくりが欠かせない。「当社のような民間事業者が導入地域の機運醸成、合意形成を円滑に図ることは容易ではない。一方、自治体は発電事業を手がけてみたものの、需要計画や管理運営などが障壁となる。協業することでウィンウィンの関係が構築できる」。指本喜範事業開発部副部長はこう話す。

欠かせない深いつながり 体験学習など交流活発

この取り組みの一つが、山梨県北杜市にある「村山六ヶ村堰ウォーターファーム」だ。元々、同地の水力事業は農業用水路を使った発電設備を自治体が所有していたことに始まる。設備が稼働し始めた2007年当時は、まだ再エネの固定価格買い取り(FIT)制度が開始となる前で、事業採算性の確保が困難だった。そこで、北杜市が行政許認可協議や地域住民との合意を、三峰川電力が発電事業の運営を担うことによって課題を克服した。同発電所にとどまらず、北杜市には現在三つの小水力発電所が稼働し、合計出力970kW規模まで拡大している。

北杜市では4カ所立ち上げた

もう一つが福島県下郷町の「花の郷水力発電所」だ。下郷町の当初の目標は「小水力発電で村全体の電力を賄うこと」であり、三峰川電力と提携した。これにより、花の郷発電所をはじめ、合計3カ所の発電所を設けた。現在では町全体の5分の1程度の電気を賄うまでに拡大した。このつながりによって、地元で体験学習や見学会を実施したり、下郷町の特産品を丸紅本社で販売するなどさまざまな交流も活発に行っている。

下郷町全体の5分の1の電気を賄う

三峰川電力では、今後も全国において有望地点を探し新たな発電所開発を進めていく構えだ。「水力発電開発は地点探しに始まり、地元の交渉、許認可申請、建設工事など稼働開始まで長い道のりだ。ただ、急峻な日本の地形には有望な地点がまだたくさんある。当社の拠点となる長野県を中心に、進出していない四国や九州にも展開していきたい」と指本氏は展望する。

自然負荷の少ない小水力発電は脱炭素化を目指す地域や企業からもニーズが高い。今後さらに注目されるのは間違いない。

【特集2】バイナリー発電で町おこしに力 高齢化進む温泉町の期待を背負う


【元気アップつちゆ】

沸点が低い媒体を気化し、その蒸気でタービンを回すバイナリー発電。福島市土湯温泉町にある「元気アップつちゆ」は、東日本大震災を機にこの発電に着手し、地域貢献している。

同社が手掛ける「土湯温泉16号源泉バイナリー発電事業」は、出力400kW、年間300万kW時。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で売電し、年間1億2000万円の収入を得ている。この一部は2015年の運転開始以来、地元住民に還元。例えば、高校生の通学定期券代、小学生の教科書代は、対象者の申請があれば全額補助する。

背景には、「土湯温泉に残りたい」と考える地元の若者を一人でも増やしたいという思いがある。従来この地は雪深く、冬になると麓の親戚の家から通学する学生が多い。高齢化率は56%に達しており、温泉町から若者流出を食い止めたいという強い願いもある。

誘客手段として位置付け 新たな魅力を創出し発信

同社の佐久間富雄エリアマネージャーは「発電所の役割は、土湯温泉に人のにぎわいを取り戻すこと」と語る。同社はまちづくりを支援する会社であり、発電事業オーナー、維持管理会社でもあるため、利益の追求は必至。観光の目玉として、理想的なワーケーションの地として、発電所には土湯温泉の誘客としての役割を期待しているという。

発電所は東京から新幹線で1時間半に位置し、首都圏居住者が観光の途中に立ち寄れる。新しい企画にも意欲的で、メディアを通じて常に話題を提供。例えば、廃業や高齢化で空き家となった建物を有効活用するため、売電収益により自社で土地建物を所有し、地域の活性化となる場所を創出している。

空き家活用の事例としては、発電時に排出される温水となった冷却水を二次利用してエビを養殖し、エビ釣りカフェを設置。さらに、土湯温泉観光協会や地元温泉組合と連携し、温泉熱を活用し発酵させる納豆ラボを完成させるなど、地域の資源を有効活用し、社会に新たな価値を提供している。今後も地域を活気づけていきたい考えだ。

土湯温泉16号源泉バイナリー発電所

【特集2】地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化


地域資源を生かす多様なベースロード再エネが津々浦々に広がっている。

一段の導入拡大に向けて開発コスト低減など数々の壁も立ちはだかる。

天候などの自然条件に左右されにくく安定的に発電できる―。そんな「ベースロード(基幹)電源」の役割を担える多様な再生可能エネルギーへの期待感が、全国各地で高まっている。脱炭素化にとどまらず、発電設備の建設や運用などを通じて導入地域に経済効果をもたらす可能性を秘めているからだ。一方で導入拡大に向けた課題も抱えており、関係者には持続可能な事業モデルづくりで創意工夫する力量が試されている。

30年度導入目標が目前に バイオマスが存在感を発揮

ベースロード再エネの一つが、森林由来の間伐材をはじめとする生物由来の未利用資源を燃焼する際の熱を用いて電気を起こす「バイオマス発電」。発電した後の排熱は、周辺地域の暖房や給湯向けに役立てられる。

資源エネルギー庁によると、バイオマス発電は2012年に固定価格買い取り制度(FIT)が開始されて以降、着々と導入量が拡大し、3月末に約7・5GWに(1GW=100万kW)到達。30年度の導入⽬標8・0GWに近い水準を実現した。

中でも未利用木材を燃やしてタービンを回し発電する「木質バイオマス発電」に目を向けると、国産材を燃料に生かす機運が高まっている。国土の約3分の2が森林に覆われた日本の林業を振興するなど、雇用を含め地域を活性化する効果が見込めるからだ。

これまで外国産の木材を利用した発電施設が増えてきたが、風向きが変わりつつある。背景には、世界最大の木質ペレット製造業者で知られる米エンビバが3月に破産を宣言した動きがあり、輸入材の安定調達が揺らぎ始めている。政府も国産材の活用促進に意欲を示しており、国産材へのシフトが進む可能性がありそうだ。

木質バイオマス発電向け未利用木材 提供:三洋貿易

バイオマス発電の導入促進に向けては、コストの大半を占める燃料費の低減が鍵を握る。さらに燃料需給がひっ迫する傾向にもある中で政府は、燃料安定調達の観点から成長の早い早生樹などを生かす実証事業を後押しする。

一方、河川や農業用水、上下水道などに流れる水のエネルギーで水車を回して発電する「中小水力発電」も各地で存在感を発揮。導入量はバイオマスと同様、直近で30年度の目標10・4GWに迫る10・0GWに達した。

ただ、有望な開発地点から優先的に開発した結果、適地が減少。残された開発可能地点の多くは奥地にあり、開発が長期にわたりコストがかさむという課題に直面している。このため、開発時のコストとリスクの双方を低減しながら地域と共生できる導入スキームを実現する対応が求められている。

地中深くから取り出した蒸気でタービンを回し発電する地熱発電もベースロード再エネの一翼を担う電源で、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援制度を活用した事例が積み上がっている。3月には、JOGMECの開発資金債務保証を活用し、三菱マテリアルと三菱ガス化学、電源開発(Jパワー)が共同出資する「安比地熱」(岩手県八幡平市)の発電所が営業運転を開始。JOGMECは先導的な資源量調査も行っており、20~23年度に全国で延べ約80件を実施したという。

運転を始めた安比地熱発電所 提供:安比地熱

とはいえ足元の導⼊状況を見ると、0・6GWにとどまっているのが現状。地元調整などを含む事業開発に長期間を要すると想定される中、30年度⽬標1・5GWとの間に大きな開きがある。目標達成に向けて政府は水力発電と同様、リスクとコスト面を考慮した地域共生型の導入を促そうとしている。

イノベーションにも熱視線 地熱発電技術が進化へ

地熱発電を巡るイノベーション(技術革新)の行方にも熱い視線が注がれている。政府は、世界有数の地熱資源量を誇る日本で「開発可能な資源量」を増やそうと次世代の地熱発電技術の開発に取り組む方針を、現行の第6次エネルギー基本計画に盛り込んだ。

この中で「高温岩体地熱発電」や「超臨界地熱発電」といった次世代技術にも触れ、「世界に先駆けて技術開発から社会実装、そして世界展開へとつなげていくことで、50年のカーボンニュートラルに貢献していく」と明示した。超臨界地熱発電は、マグマに近い深部にある400〜600℃の熱水を生かして発電する仕組みだ。

地熱発電を利用する可能性を広げる動きは世界規模で活発化し、消費電力が多いデータセンター(DC)の需要増加に対応する切り札としても注目される。米グーグルはスタートアップと組み、ネバダ州のDCにつながる地域送電網へ電力の供給を始めた。「脱炭素化と安定供給の観点から多様なオプションをバランスよく見極めたい」とエネ庁新エネルギー課。日本の電源構成で10%超を占めるベースロード再エネの最前線に迫った。

【特集2まとめ】ベースロード再エネの実力 「お天気任せ」解消の切り札に


カーボンニュートラルの切り札として期待が集まる再生可能エネルギー。

話題の太陽光・風力発電は発電量が天候などの自然条件に左右されるため、

制御が難しく、電力システムのあらゆる箇所に与える影響が大きい。

その裏側で開発が進むのが地熱や流れ込み式の小水力、バイオマスなどだ。

基幹電源として稼働しやすく、事業者は安定した発電計画が立てられる。

お天気任せを解消する「ベースロード再エネ」の優位性に注目した。

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【特集1まとめ】再エネ主力化の正念場 自治体規制や開発実態を独自調査


第5次エネルギー基本計画で初めて打ち出された「再生可能エネルギー主力電源化」方針。

旗は掲げられ続け、電源構成での再エネ比率は21.7%(2022年度)まで拡大した。

しかし太陽光などにまつわるトラブルは依然多くの地域が抱える課題であり、

自治体は規制強化と、適切な再エネ拡大のバランスに悩みながら策を講じている。

一方、今後導入量積み上げの主軸を担うであろう洋上風力。地域への経済波及効果や、

産業政策の面からも期待が高まるが、開発が進む地域の実情はどうなのか――。

第7次エネ基の検討が進む今、正念場を迎えた再エネ主力化の実情を探った。

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【特集2まとめ】分散型ミックス時代の潮流 コージェネ~再エネを最大活用へ


火力発電を中心とした大規模電源によって、これまで電力の需給バランスの安定化が図られていた。しかし、火力事業の見通しが立ちにくくなるなか、分散型電源の重要性がクローズアップされている。コージェネ、再エネ、蓄電池、VPP―。DXの進展が分散型ミックスを後押しする。多様なリソースの最適運用を目指す取り組みを追った。

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