【特集2】脱炭素移行期をサポート 燃料転換でCO2削減へ


【ENEOSグローブ】

2050年カーボンニュートラル実現に欠かせない取り組みがトランジションにおける徹底した省エネやCO2削減への取り組み強化だ。そうした中、石油からLPガスへの燃料転換でCO2削減や省エネ提案を、特約店向けに支援するのがENEOSグローブだ。

「北海道から沖縄まで、全国の特約店向けに要望があれば燃転や省エネ提案に関わる研修会をボランタリーで実施している。石油とLPガス販売の兼業特約店も存在する中、CO2削減の点で、自らの石油販売を減らしてLPガスへの転換ニーズがここ数年着実に増えている」。こう話すのは、リテール企画部の佐久間孝雄リテールサポートグループマネージャーだ。

特約店向け研修会の軸の一つが、ゴルフ場やクリーニング店、中小規模の工場などでの燃転を想定した燃転塾と呼ぶ同社独自のプログラムの提供だ。

独自の燃料転換塾を開催 必要なノウハウを伝授

複数回のパッケージ研修で、1回目はボイラー設備などについて、燃転の必要な知見を4時間程度かけて習得する。その一方で、特約店側からも、燃転対象となりそうなユーザー状況をヒアリングする。ユーザー側が使用している油種は何で、年間の消費量はどのくらいか、またどの季節にピーク需要が訪れるのか、熱源はどのような型式のボイラーか、空調はどのような仕組みかなどをヒアリングし、次回の研修会につなげる。

2回目は、同社の本店側で具体的な提案書のたたき台を作成する。燃転によるイニシャル費用やランニングコストの試算、設備更新によってどれくらい省エネやCO2削減に寄与するのか、LPガスを含めたいろいろなエネルギーや設備を使った場合の比較などを明らかにする。実際にユーザーに提案するのは特約店だが、その際に同社本店スタッフも同行を求められるケースもあるそうだ。

「似たような業態であったとしても、ユーザーによってエネルギーの使い方は千差万別。汎用的な提案は不可能で、提案する内容や訴求するポイントは異なる」(佐久間マネージャー)。こうした複数の研修会や同行を踏まえて、特約店の「独り立ち」を支えていく。

燃転現場では、エネルギー設備の受発注や燃転工事の工程管理など、同社が支援することはあっても、積極的に関わることはない。本業はあくまでもLPガス販売だからだ。逆に、こうした現場のマネジメントを特約店側自らが行うことで、各種ノウハウが積み上がり、結果的に特約店自身の提案力につながると同社では考えている。

「人口減に伴いLPガス利用世帯数も減っているが、こうした燃転はポジティブな営業になり、特に特約店の若い営業担当者は前向きに仕事に取り組めていると思う。実際に燃転が達成できたときは、感謝され、喜びを分かち合っている」。こうした地道な取り組みが、元売りと特約店の関係を強め、結果的に「LPガス」の認知度を高めていく。

産業用におけるLPガスの活用例

【特集2】ニーズを捉え供給責任果たす 現在のLPガス産業の礎築く


【岩谷産業・マルヰ会】

全国2400万世帯ほどで使用されている家庭用LPガス。都市ガスのインフラが需要密度の高いエリアを中心に整備されてきた一方、LPガスは過疎地や離島などの都市ガス未整備エリアでのニーズに応えてきた。そうした日本の家庭用LPガス利用の礎を築いたのが、岩谷産業だ。同社の取り組みから、ユーザーがLPガスをどう利用し、供給者としてどう責任を果たしてきたか、歴史をひも解いていきたい。

岩谷産業が、イタリアから「ガスの缶詰」としてLPガスを取り入れようとしたのが、1952年のこと。当時、国内での家庭用熱源は薪・石炭・練炭などの固形燃料が主流だった。「家庭の主婦を、かまどのすすから解放へ」。そうした思いから、同社は秋田県内の国産油田の副生ガスに着目し、調達先を確保した。

LPガスの利用先として、業務用では、一度に大量の料理を作り、給湯需要も存在する温泉旅館をターゲットにした。兵庫・有馬温泉を皮切りに評判を呼び、大口需要が拡大していった。

家庭用では、需要をカバーするために、全国各地への販売網の構築が不可欠となる。そこで、まずは創業者の故郷、島根県から特約店を開拓し、LPガスの利点、将来性を訴えていった。こうして、後に全国1400社で組織される特約店会「マルヰ会」が誕生する。

業務用で大口のニーズをつかみ、その成功体験を小口の家庭用へと発展させた。まさにマーケティング戦略の勝利であったと言える。

一気通貫体制の構築 大量輸送で低コスト化へ

普及すればするほど、供給者としての責任は増す。家庭用商材ならなおさらのこと。同社が目指したのは、「産油国から台所まで」だ。さらなる供給元の確保、基地の整備、船舶を含めた輸送の確保―などサプライチェーンの構築に奔走する。カナダや中東からの調達、外洋船の開発・運用など、他社とも連携し一貫供給体制の確立を進めた。こうした取り組みは、①供給者責任を果たす、②大量輸送によるコスト削減で持続的にユーザーに受け入れられた―の意味で、今日の礎を築いたと言える。

マルヰ会北陸地区の設立60周年の記念式典の様子

【特集2】顧客ニーズを探し出す秘訣 答えはユーザーが教えてくれる


エネルギーを巡る市場競争が激しさを増す中、LPガス事業者は顧客ニーズの掘り起こしに奔走している。小規模であるがユニークな取り組みをする事業者から、「ニーズ掘り起し」の真髄を聞き出した。

〈司会〉角田憲司エネルギー事業コンサルタント

津田維一富士瓦斯社長

市川博信北信ガス社長

左から市川博信北信ガス社長、角田憲司エネルギー事業コンサルタント、津田維一富士瓦斯社長

角田 今回、参加してもらった2社は、自社の事業規模や商圏としている地域の特性を考えながら、常に「ニーズは何であり、どこにあるのか」を突き詰めながらLPガスを供給している会社だと思います。両社のユニークな取り組みは、エネルギー業界全体にさまざまな示唆を与えるのではないでしょうか。まずは北信ガスさんの取り組みを聞かせて下さい。

市川 当社は長野県が商圏で、2万件のお客さまを持つ小規模な販売店です。オール電化や長野都市ガスの都市ガス、あるいは周辺には同業他社というライバルがいます。そうした中、どうやって需要を生み出すか、10年以上前から悩んでいました。このエリアは冬の期間が11月から4月までの6カ月間あり、こうした地域特性を踏まえ、各家庭にファンヒーターを設置して暖房需要の増加につなげようと考えました。

 一方、あえて言いますと一般家庭で使うエネルギーとしてはLPガスの価格は高い。ただ、LPガスは素晴らしいエネルギーで、適正な価格ならばこれほど便利なものはない。では、このエリアで適正な価格水準はどれほどか、調べようと思いました。答えは「全国平均30%安」でした。この商圏では、その水準にしないと他のエネルギーに対抗できない、切り替えられてしまうことがはっきりしました。これは10%安い料金、20%安い料金を試した結果、このエリアでたどり着いた結論です。

 そこで、ファンヒーターを設置してもらえば「3割安いガス料金にする」と決めました。暖房のプランは他社にもありますが、単価を下げるやり方はあまり見かけないかもしれません。ファンヒーター使用によってガスの年間消費量は180%くらい増えます。割安メニューと消費増によって、従来の料金メニューで得られていた利益とほとんど変わりません。他のエネルギー種の暖房費用をカットできるお客さまにとっても、総負担は変わらないわけです。

角田 同じ長野県には東洋計器という「分計メーター」のパイオニアの会社があります。暖房、給湯など用途に応じてガス消費量を分けて計量できるメーターで、ガス事業者はこのメーターを使うことで用途に応じた料金メニューを消費者に提示できます。ただ、北信ガスさんの取り組みは、分計とは違いますよね。

市川 分計とは違いますが、実はこのモデルは、現在の土田泰秀会長が東洋計器の社長だった時に分計の仕組みの話を聞き、「分計とは異なるやり方で訴求しよう」と思い付いたアイデアなのです。

津田 ファンヒーターを設置すれば自ずと割安メニューにしているということは、仮に使用しなかったとしても割安メニューになるわけですか。

【特集2】鹿児島初のエネルギー面的供給 地方ガスの活性化に貢献


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

九州・鹿児島市の中心部で地元の総合商社「南国殖産」が手掛ける大規模な再開発が完成した。救急医療対応を含む二つの病院が2020年から順次開業。最後の建物、ホテルがこのほど完成し、今年5月にフルオープンした。

鹿児島市交通局の跡地を利用した一連の再開発プロジェクトは「キラメキテラス」と呼ばれ、街区内の施設規模は10万㎡にも及ぶ。これは、県内で過去に例がないほど大規模の再開発だ。

南国殖産都市開発事業部の川崎誠課長代理は「周辺地域の皆さまが安心して利用いただけるような『30年後の未来の鹿児島』をコンセプトに設計を進めてきた。エネルギー設備面については省エネ性を高めながらイニシャルコストを削減し、かつ病院機能を備えていることから、エネルギーの安定供給を大前提にBCP(事業継続計画)機能を高めることに重きを置いた」と説明する。

病院2棟とホテルが立つ

【特集2】庁舎で全国初のZEB認証取得 行政として率先垂範示す


【神奈川県・開成町】

神奈川県開成町は2019年に役場の新庁舎を建て替え、庁舎として全国で初めて建築物省エネルギー性能表示制度の「Nearly ZEB」を取得した。東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、防災やBCP(事業継続計画)対策、エネルギーの地産地消に向けて11年以降から準備を進めてきた。

「計画当初は、国内には『ZEB』の概念がなかったが、神奈川県内の大手ゼネコンの研究施設などを見学し、『少ないエネルギーでも十分に空調などを賄えるのだ』と当時の町長の指示の下でトライした。初期投資は高いがランニング費は大幅に下がる見通しだったことから、議会や町民の理解を得て準備した」(開成町街づくり推進課の柏木克紀課長)

エネルギー面ではどうか。

都市ガス未整備エリア 創エネは太陽光で対応

「都市ガス導管が未整備のため、コージェネは諦めた。創エネは屋上に設置した159kWの太陽光パネルで対応している。熱源設備には高効率の空冷式ヒートポンプチラーや地中熱ヒートポンプを導入し、地下にはピーク電力削減用の水蓄熱槽も整備している。さらに、床・天井輻射冷暖房などの空調技術を採用し省エネを図っている。設備はビルエネルギー管理システムで制御している」(柏木課長)

また北側を全面ガラス貼りにし、南側は全面を壁で覆って太陽日射を抑えている。太陽光パネルは新電力から無償提供を受け、新庁舎で自家消費利用する一方、新庁舎を含む町内の大型公共施設への電力供給を同事業者に任せている。

こうした一連の設計は設計会社と二人三脚で取り組んだ。また柏木課長自身も建築分野で著名な大学教授の指導を仰ぎながら建築への知見を深めてきたそうだ。その努力の甲斐もあり、年間の基準一次エネルギー消費量が4594GJなのに対し、実際の消費量は20年度が662GJ、21年度が566GJ、22年度が469GJと大幅削減した。このような事例に対して、小泉進次郎元環境相をはじめ、多くの見学者が訪れているそうだ。人口2万人に満たない開成町が、行政として率先垂範した取り組みは、大いに注目される。

新庁舎の延床面積は約3900㎡だ

【特集2】省エネの先にある取り組み 環境価値を創出するSXへ


省エネ法の改正でZEB化が求められる中、建築分野の対策は何か。山川教授は、第2・第3のエネルギーを活用することの重要性を説く。

【インタビュー】山川 智/東海大学・建築都市学部建築学科教授

やまかわ・さとし 1993年早稲田大学理工学部建築学科卒。1995年同修士課程修了、東京電力入社。2020年芝浦工業大学博士課程修了。2021年4月より現職。

―改正省エネ法が今年4月に施行されました。

山川 20年以上、省エネに取り組んできましたが、十分に浸透していません。省エネ法の強化は重要です。一方、将来を見据えると、エネルギーを減らす「省エネ」から「SX(サスティナブル・トランスフォーメーション)」への転換が必要と感じています。SXは持続可能を目指して環境価値を創出する取り組みで、DXの次のトレンドになると思います。

―省エネについての考え方も変わるのでしょうか。

山川 投資判断の際、光熱費削減による回収年数という損益計算だけではなく、SXによる企業価値の向上が重要になると思います。欧米の先進的な企業は、環境価値を創出する取り組みに積極的に投資しています。例えばカーボンオフセットへの投資にも、単価の高いクレジットを探して購入しています。創出する価値も高いからです。そうした企業が市場から評価され、顧客やESG投資が集まるようになります。

 今後は企業のSXのコンセプトづくりから、計画、実施、ステークホルダーへの広告・広報などを通じて企業価値を向上する、という一連の取り組みのプロデュースが求められるでしょう。

求められるZEB化と熱利用 エネルギー再利用の時代へ

―建築分野ではZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化が求められてます。

山川 温室効果ガスはスコープ1~3により評価されます。建築分野のエネルギー利用も同様に三つの視点で捉えると取り組みやすいでしょう。一つ目は化石燃料です。これは削減を目指します。

 二つ目は再生可能エネルギーです。再エネには電気と熱がありますが、ZEBの創エネの定義は電気のみを対象とし、熱は対象外です。太陽光発電は創エネとしてカウントされますが、太陽熱給湯は省エネという評価です。日本は固定価格買い取り制度の導入で太陽光の発電量が17.8倍に増え、国土面積当たりの設備容量は世界一となりました。しかし、国内の一次エネルギー供給に占める割合はわずか3.9%。身近にある太陽熱や大気熱、河川水熱などの再エネ熱も活用する視点が必要です。

 三つ目がリサイクルエネルギーです。家庭やオフィスでは照明やパソコンなどが稼働しています。そのエネルギーは熱に変わり、機器が発熱します。熱は窓ガラスなどを通じて、また冷房により室外機や冷却塔を通じて建物外部に放熱されます。つまり、建物で使用したエネルギーの多くは、熱として大気に放熱・廃棄されています。これを再利用するものです。実際に北海道帯広市の病院ではその仕組みを導入し、効果が大きいことが分かりました。

 今後は、これら第2・第3のエネルギーを活用していくことが重要になります。

【特集2】「乾いた雑巾」にあらず 産業用改善策は熱利用にあり


省エネに関しては絞り切った雑巾と言われている日本の産業界。しかし、実際の現場に目を向けると改善の余地は多分にあるという。

【インタビュー】小林敬幸/名古屋大学大学院工学研究科准教授

こばやし・のりゆき  1989年名古屋大学工学部化学工学科卒業。92年名大高温エネルギー変換研究センター助手を経て現在に至る。省エネ技術や蓄熱研究開発などに従事。人材育成にも力を入れる。

―日本の産業分野における省エネは「乾いた雑巾を絞るようなものだ」と言われています。

小林 全国の名だたる企業の工場現場を数多く訪ね、感じることがあります。生産工程の最終段階となる組み立て工場などでは確かに省エネは進んでいます。インバーター導入やエアー制御によって電気利用の高効率化が進む一方、製造の前半から中段のプロセス工程で、とりわけ熱利用の分野では改善の余地はかなりあります。

―具体的には、どのような製造工程でしょうか。

小林 加熱炉分野では、20年以上前にリジェネバーナーが開発されたが、それ以降革新的な改善はありません。200℃以上の熱を捨てていることが多く、乾燥炉の工程でも排熱は多分にあります。

―熱対策となると、特殊なエンジニアリング作業が必要です。

小林 加熱炉分野では、断熱材の技術が進歩していますが、活用しきれていません。例えば1000℃の温度を必要とする炉があるとします。よく見かけるのは、燃焼し続けているケースです。必要なのは1000℃の温度であって、熱量ではありません。化石資源を使って燃焼し続ける必要はないのです。断熱材を上手く活用し燃焼を工夫することで、対策は比較的簡単にできるはずです。

省エネ改善が進まない理由 蓄熱技術や合成燃料の期待

―どうして改善が進まないのでしょうか。

小林 これまでは燃料コストが安かったため、改善する必要がありませんでした。同時に省エネによって製品の品質が下がってもいけない。現場はどうしても保守的にならざるを得ません。国家プロジェクトで主導し成功事例を積み上げ、モノづくりの現場で導入しやすくする必要があるでしょう。

今、注目しているのは輻射熱によるロスです。ある工場に消費電力70kWの電気加熱炉があり、ロスを計算したところ、輻射による熱ロスが約40kW分もあることが分かりました。恐らくこうした現場は数多くあるはず。空調分野でも同じことが見受けられます。

―待機消費電力の課題に似ていますね。

小林 非常に単純な課題です。単純過ぎるがゆえに現場では見過ごされているわけです。

―今後の省エネ技術やメタネーションなどの合成燃料に対する期待はありますか。

小林 ゴミ焼却場などの実証で有効性が確認されている蓄熱・熱輸送です。日本の技術力は諸外国に比べて高く実用レベルに達していますが、初期投資が課題となっています。ただエネルギーコストの高い状況が続けば、一気に導入される可能性はあると思います。

 合成燃料については、CO2削減分の帰属先をどうするか。権利配分の制度的な課題を解決して、事業者が取り組める環境が整うことを期待しています。

【特集2】VPPやDRで新しい価値創出 多様なビジネスで商機拡大


コージェネや再生可能エネルギーに代表される分散型ビジネスが活況だ。最近ではVPPなど需要側を巻き込んだ新しい商機や系統安定化の取り組みが進む。

エネルギー業界で「分散型」といえばガスによる分散型電源、つまりコージェネのことを総称することが一般的だった。しかし、エネルギーシステム改革の流れは、分散型をもう少し広い意味でとらえ始めている。

「分散型リソース」というワードを聞いたことがあるだろうか。コージェネ、再エネ発電、蓄電池といった発電側設備だけでなく、需要側設備も分散型として取り入れて、電力系統の需給調整に組み込もうという概念だ。

例えば夏場によく発生する電力需要のピークは、従来は石油火力発電などで賄ってきた。しかし、石油火力の稼働率は総じて低く、脱炭素の流れとも相まって、大手電力は閉鎖していく傾向にある。では、ピーク時にはどうやって需給バランスを調整するのか。そこで、需要側の分散型リソースの出番だ。発電側の出力や発電量が減る分、需要側の使用量などを減らして調整する。そうした需要分を分散型リソースと呼び、VPP(仮想発電所)ビジネスとして、調整力機能を果たそうと多様な事業モデルが生まれつつある。

火力発電のような大規模電源が担ってきた調整力が少しずつ失われつつある中、こうした新しい事業モデルは、再エネ大量導入時代へ向かうための新たな調整力として欠かせないものになる。

大阪ガスでは、家庭用エネファームを分散型リソースとして活用し始めている。エネファーム1台当たりの規模は1kWにも満たないが、何百台、何千台と束ねることで、大きな威力を発揮する。LPガス販売大手のニチガスではEVや蓄電池の普及を見据えて、電気とガスのハイブリッド給湯設備を組み合わせた家庭用エネルギーマネジメントのシステムを構築中だ。「EVを含めた家庭用の設備を駆使しながら電力ピーク需要などに対応したい」(ニチガス)と、LPガス事業者としては異例の領域に踏み出そうとしている。

清掃工場で合成メタン 次世代燃料生み出す

新しい分散型事例も生まれている。日立造船では、神奈川県小田原市の清掃工場で、CO2と水素を人工的に合成させてメタンをつくるメタネーションに取り組んできた。経済性に多くの課題を抱えるが、「CO2排出拠点」が次世代型燃料を生み出す拠点に生まれ変われば、分散型の概念が一気に変わる。こうした地域ごとの分散型に対する取り組みは脱炭素や地域産業の活性化の点で、環境省も後押しする。本特集では、そんな新しい分散型の事例を取り上げる。

小田原市で実証していたメタネーション設備

【特集2】CO2を次世代エネルギー源へ 日立造船が挑む合成メタン


神奈川県小田原市

全国各地に点在し、日々の生活から発生するゴミを焼却処理する清掃センターで、分散型エネルギーの概念を大きく変え、そのポテンシャルを一気に広げる実証が進められてきた。

日立造船は神奈川県小田原市の環境事業センターで、環境省からの委託を受け「清掃工場から回収した二酸化炭素の資源化による炭素循環モデルの構築実証事業」を実施した。「炭素循環」とは、清掃工場から排出されるCO2を回収して再び利用する取り組みを指す。そして、この再利用が実証の最大のポイントだ。

「CO2を水素と人工的に合成させてメタンを生産するメタネーションに取り組んできた」。こう話すのは日立造船環境事業本部の大地佐智子開発センター長だ。

CO2と水素の合成はメタネーションのうちサバティエ反応と呼ばれるもので、技術的に確立されている。ただ大量の水素を必要とすることから、経済性の面で課題がある。それでも、都市ガス業界やメーカーがメタネーションに取り組むのは、LNG基地、都市ガス導管など既存の都市ガスインフラを有効に活用できるためだ。仮に「水素供給網」を新たに整備すると、多大なインフラ投資コストが新たに発生するため非現実的。そうした背景もあり、カーボンニュートラルの流れの中で、大手都市ガス会社を中心に、メタネーションの取り組みが加速しており、その合成メタンを「e―メタン」と呼称している。

長期計画でメタネーション 厳しい環境下でCO2回収

「メタネーションは、水素とCO2を効率よく反応させる触媒技術や反応器がカギを握る。当社が開発を手掛けてきた触媒は、ゴミ処理向けなど高い技術を持つ」(大地氏)

そんな日立造船の技術を用いた今回の実証は、2018年から22年までの長期計画で実施。清掃工場の排ガスからCO2を回収し、水素はLPガスを改質して取り出し、e―メタンをつくる。

清掃工場で実施する意義は何か。同部門の坂元真理子氏は次のように説明する。「一般的な産業施設に比べて、清掃工場の排ガス成分は複雑で日々変化し、CO2濃度も低い。そうした厳しい環境下でもしっかりとCO2を回収し利用できるように取り組んできた」

多くの技術的課題を乗り越えて製造するe―メタンの生産能力は125N㎥/時で、国内最大規模だ。清掃工場での実施例としては世界初だという。設備を使った実証は22年度までで成功裏に終わったが、さらに1年延長。既存の都市ガス導管に注入する際の課題抽出や、天然ガス車への利用展開など、都市ガス業界とも連携しながらe―メタンを普及させるための土台づくりを進めていく。

身近な工場から排出されるCO2を有効活用するメタネーションの仕組みは、CO2に対する考え方そのものを変え、分散型エネルギーとして利用するe―メタンの可能性を大きく広げるだろう。

小田原市での実証は成功裏に終わった

【特集2】新たな分散型リソースの活用 VPPやDRの積極運用へ


【インタビュー】石井英雄/早稲田大学スマート社会技術融合研究機構研究院教授

電力系統の安定化には、需要側のエネルギー消費機器を巻き込む必要がある。再エネ大量導入を見据えた新しい時代の分散型リソースの利活用とは何かを聞いた。

―従来、分散型とは発電設備としてのコージェネが一般的な認識でした。ただ、最近は再生可能エネルギーの推進や、需要側のエネルギー消費機器を分散型リソースとしてデマンドレスポンス(DR)へ活用するなど、分散型に対する認識が大きく変わってきています。

石井 昨年の省エネ法改正(エネルギー使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)の後押しも加わって、需要家側もDRやVPP(仮想発電所)に積極的に参画し始めています。需要家側のエネルギー消費機器を分散型リソースとして、火力発電の発電力や発電量の役割を担うわけです。火力発電でのkWやkW時の不足局面では、需要機器の消費を抑える。これはkWやkW時を確保することと同じです。逆もまたしかりです。

―電力系統の安定化を図る調整力ということですね。

石井 従来は火力発電がその役割を主体的に担っていました。しかし、電力自由化、システム改革、あるいは脱炭素の流れの中で大型火力発電所が閉鎖傾向にあります。そうした中で、コージェネや蓄電池などを含めた需要家側のリソース活用は大きな意義があります。

―再エネ発電を最大限に活用する「再エネ優先給電」の仕組みがあり、それにのっとって旧一般電気事業者は系統や火力発電所を苦労しながら運用しています。

石井 再エネ発電量が増え過ぎると季節・時間帯に応じて系統のバランスが崩れる局面が増えます。発電過剰時では火力発電の出力を抑えなくてはいけません。裏を返すと、需要側の電力消費を促す調整、つまり上げDRができれば、同等の効果を持ちます。火力発電の抑制が限界に達し、再エネ電気をも抑制する局面では、全発電において再エネ電気が主体となっています。そのため、省エネ法改正によって、CO2排出原単位を低く設定できるようになりました。

宮古島のVPP事例 エコキュートの新しい運用

―VPPに積極的に取り組んでいる事例などはありますか。

石井 個人的に最も素晴らしいと思うのは、沖縄県宮古島でネクステムズという会社が進めているVPPです。エコキュートが設置されている集合住宅に太陽光発電を設置し、太陽光発電の余剰のタイミングでは、ヒートポンプを動かして蓄熱する。これまで、エコキュートは割安な深夜電力で運用していましたが、宮古島での取り組みは全く逆です。こうしたエコキュートの活用は脱炭素に向けた取り組みにもつながります。ぜひ現地を見学するべきです。

 DRに関しては諸外国でも進んでいます。例えばオーストラリアでは、DRレディのエアコンでないと販売できないという取り組みを進めています。また米国カリフォルニア州では、グリッド・インタラクティブ・ビルという呼び方をして、新築ビルではDR対応が義務付けられています。今後、DRレディでないと建築物の不動産価値を認めない、あるいは新築を認めないという仕組みが広がるかもしれません。

【特集2】LPガス事業者からの進化 EVや蓄電池を活用へ


【ニチガス】

電気・ガス販売を手掛ける総合エネルギー企業のニチガスが新しい事業モデルの構築へ動き出している。目指すは単なるガス・電気売りではなく、分散型リソースを活用したソリューションだ。

システム改革が進む中、VPP(仮想発電所)などに代表されるように、発電側だけでなく、エネルギーを消費する需要側の機器を分散型リソースとして取り入れる動きが生まれている。

そうした中、ニチガスが注力するのがハイブリッド給湯設備の販売だ。ガス式ボイラーと電気式ヒートポンプを融合させた製品で、基本的には効率の高いヒートポンプを活用することから、ガス消費が減る。ガス会社なら販売を敬遠する設備と言える。一方、経済性の観点からユーザーにとってのメリットは多大だ。温暖化対応や停電などへのレジリエンスの観点とも相まって、現在最も優れた装置である。

そんな設備を、ニチガスは電気・ガスの両方を手掛ける強みを生かして積極販売に動いている。同設備は、電気やガスの需給や価格の動向次第ではその主体となるエネルギーをスイッチできる。自由化ならではのビジネスモデルであり、まさに分散型リソースとしては最適だ。「こうした管理をスマートフォンの端末で簡易にできるシステムを構築中で、遠からずリリースできる見通し。海外のベンチャー企業とも共同で進めている」と、吉田恵一専務は話す。

二つの分散型リソース 配電ライセンス視野に

「分散型リソースの活用は二つの面で考えている。一つはハイブリッド給湯設備に代表される家庭用。もう一つは需要を大きくした集合住宅のようなコミュニティーレベルだ」。柏谷邦彦社長はこう話す。ニチガスは、将来の分散型リソースとして有望なEVの活用にも取り組んでおり、各地の営業拠点に順次導入。また、幹部クラスは自主的にEV乗車を進めている。

蓄電池にも積極的に取り組む。自らが出資する、蓄電池メーカーのパワーエックス社を通じて利用を進めていく。パワーエックス社の蓄電池は急速充放電が可能な高性能機種が先行して市場投入され、2~3年後には家庭向けも発売予定。「将来、本格普及が見込まれるビークルtoホームのパワコンやEV、さらにはハイブリッド給湯設備も組み合わせて、ホームエネルギーマネジメントを視野に入れた最適なソリューションをお客さまへ提案したい」(柏谷社長)

片や集合住宅への取り組みではコミュニティーガス団地(旧簡易ガス団地)がターゲットだという。簡易ガス事業者としては国内最大企業である強みを生かし現在、某地点で配電ライセンス事業を見据えて準備を進めている。同ライセンスは、有事にオフグリッド化された際、「当該需要の安定供給の維持」が義務化される仕組み。同一エリアでまとまった需要が確保されている簡易ガス事業との相性は良く、「遠くない将来、ライセンスを取得できる」(吉田専務)。LPガス事業者としての範疇を超えたニチガスソリューションが、本格的に花開く。

EVや蓄電池を分散型リソースとして活用する

【クローズアップ】ソリューションを前面に ガス・電気販売からの脱皮


東京ガス[法人営業部門]

東京ガスグループは法人営業の機能を集約し、ソリューション営業を強化する。カーボンニュートラルに向けた戦略とはどのようなものか。川村事業部長に聞いた

【インタビュー:川村俊雄/東京ガス執行役員グリーントランスフォーメーションカンパニー再生可能エネルギー事業部長】

―法人営業部門としてカーボンニュートラル(CN)にどのように取り組んでいきますか。

川村 2030年を節目と捉えており、既存導管に合成メタン(e―メタン)を1%注入し、それ以降、注入率を拡大していくことを目指しています。

 それまではトランジションの期間と位置付け、足元で最も力を入れる取り組みとして、既存のお客さまへのコージェネなど省エネ機器やスマエネなど省エネシステムのご提案を、それから全国的には石炭や重油を利用されているお客さまがまだたくさんいらっしゃいますので、天然ガスへの燃料転換のご提案を進めています。

 加えてクレジットでオフセットしたCN都市ガスの拡大も進めていきます。導入後3年がたちましたが、お問い合わせを多数いただいております。当社が発起人となって2年ほど前に立ち上げた「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」には、現時点で120近くの法人のお客さまに参画いただいています。

 当社としては、これまで通りしっかりと安定供給を果たしながら、CNのニーズに応えていきたいと考えています。

―法人営業部門が、100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と融合し、一体的な営業組織へと変わります。強力なフロント営業になるのかなと思います。

川村 昨年4月から進めてきたお客さま接点部署の集約が完了し、法人のお客さま向けの商材は、原則全てTGESが提供することになりました。ガス・電力・エネルギーサービスに加え、脱炭素や分散型電源などに関する機器やサービスなど全てをTGESの営業パーソンが担当し、お客さまの困りごとにワンストップで対応させていただきます。

異なる熱源のドッキング 段階的拡張で財務負担減

―都心部では再開発が進んでいます。東京ガスが関わる事例も多いかと思います。

川村 東京ガス本社ビル(東京・海岸)の隣で「芝浦プロジェクト」と呼ぶ大規模な再開発が進んでいます。浜松町ビルディングを建て替え、新たにツインタワーが建設されます。推進者の1社である野村不動産さまと当社とで同プロジェクトへのエネルギー供給を目的とした共同企業体(JV)を組み、24年度の運開に向け準備を進めています。

 新たに高効率のエネルギープラントを建設し、さらに、隣接する既存の芝浦地域冷暖房センターと接続することにより、エネルギー融通できるようにする計画です。

【クローズアップ】成田国際空港との合弁会社を設立「空の拠点」のエネルギー支える


東京ガス[法人営業部門]

成田国際空港が、空港の脱炭素化戦略に向けてエネルギー設備を一新する。その一大プロジェクトに、エネルギー事業者として連携するのが東京ガスだ。

東京ガスと、成田国際空港(NAA)は今年4月、折半出資の合弁会社「Green Energy Frontier(GEF)」を設立した。空の交通インフラの拠点である成田国際空港、片やエネルギーの安定供給を担う東京ガス。ともに事業の「安定」を使命とし、公益インフラを支える両社の取り組みをひもとくと、「挑戦」ともいえる実に壮大なプロジェクトの姿が見えてくる。

インフラ企業同士の親和性 合弁会社が極めて有効

NAAはこれまで空の玄関口として、飛行機の離発着を支える業務だけでなく、空港内のエネルギーを賄う設備群の運用も自前で行っていた。今回の取り組みによって、エネルギー設備の運用業務を新会社、GEFへ移管する。この移管とともに、空港への電気や熱のエネルギー供給をGEFが全て担うことになる。目指すところは、空港に供給するエネルギーの「2050年脱炭素化」だ。

では、脱炭素化に向けた東京ガスとNAAによる企業連携の背景とは一体どのようなものなのか―。NAAは次のような趣旨を述べている。

「空港内の老朽化したエネルギー供給施設の更新や将来的な脱炭素化で環境負荷の軽減が大きな課題だった。これに対応するには、エネルギー供給事業に豊富な知識と経験を持ち、脱炭素化に向けた最先端の技術を備えた東京ガスと合弁会社を立ち上げることにより実現を目指すことが極めて有効だ」

50年までに千億円を投資 最高難度の建設工事

東京ガスに「豊富な知識と経験」を期待するNAAだが、同社自身も、自前でエネルギー設備を保有し、改修や設備更新などを繰り返しながら今日まで運用してきた。

こうしたNAA側の運用ノウハウに対して、「東京ガス側としても期待するところは多分にある。大型ガスタービンコージェネレーションや電力の特別高圧受変電設備、熱源設備など長きにわたって空港内の多様なエネルギー設備群の運用を安全にかつ安定的に担ってきた実績とそのノウハウは東京ガス側にとっても宝。両社の連携はシナジー効果を存分に発揮できると思う」。こう話すのは、GEFの苑田真之技術本部長だ。

昨年度まで東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)のソリューション営業本部のNプロジェクト部長として、機械や電気技術系の部内14人の先鋭とこのプロジェクトを推進してきた。

【クローズアップ】脱炭素ソリューション展開へ TGESに機能集約しニーズ対応


【東京ガス[法人営業部門]】

東京ガスは法人営業機能を子会社のTGESに集約する。豊富な技術力を兼ね備えた営業パーソンがユーザーの脱炭素ニーズに応える。

カーボンニュートラル(CN)に向け、エネルギーを供給する側、消費する側ともに、さまざまな動きが生まれている。「水素導管を敷設した水素の供給や利用」「自己託送などの仕組みを使った再生可能エネルギー電気の積極活用」「CN都市ガスの利用」「再エネ利用の拡大に向けた設備運用の高度化」といった実ビジネスの動きから、将来のCN化を見据えた「メタネーション設備の実証運用」など実に多様だ。

いずれも、エネルギー事業者にとって、「エネルギーを右から左へ流す」といった従来のビジネスモデルだけでは成り立たない。安全に、そして安定的にエネルギーを途絶えることなく供給し続けてきたことへの高い評価は揺るがないものの、今後CNの実現を目指す中では、従来モデルをさらに深く掘り下げていく作業が必要になるだろう。

事業者としては、需要家側の「どうすれば脱炭素に近づけるか」というニーズにいかに応えていくかが、腕の見せどころになる。その際、キーワードになるのが「ソリューション」だ。

中計の「ソリューション」 技術の知見生かした営業

東京ガスは、今年2月末に中期経営計画を発表し、その中では三つの主要戦略を挙げている。「エネルギー安定供給と脱炭素化の両立」「変化に強いしなやかな企業体質の実現」に加えて掲げるのが「ソリューションの本格展開」だ。

その方針を具現化するのが、4月に実施される東京ガスの法人営業部門と東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)を完全統合する組織改編で、これにより法人営業機能をTGESに集約する。

TGESは、言わずと知れた国内最大級の地域冷暖房事業者で、地冷で培ってきた設備群の運用ノウハウを生かしてエネルギーサービスを手掛けてきた。コージェネ、ボイラー、ヒートポンプ、蓄熱槽や蓄電池など扱ってきた熱源設備は多様だ。最近では再エネ事業のエンジニア業務にも関わるなど、あらゆるエネルギー設備に関する技術の知見を備えた組織だ。

この統合でガスや電力の販売に加えて、エネルギーサービスや脱炭素メニュー・商材、分散型機器など全てをTGESが担うことになる。技術を知る営業パーソンがフロント営業を担い、ユーザーの困りごとや脱炭素ニーズに迅速かつ的確にワンストップで対応する。

では、法人営業部門の脱炭素ソリューションとはどのようなものか―。例えば、TGESが提供する「ソーラーアドバンス」がある。ユーザーは初期投資ゼロで再エネ電気を利用できるサービスで、煩雑な電力系統の需給調整もTGESが担う。また、大型LNG火力発電所を建設・運用してきたノウハウを生かし、大型再エネ電源・バイオマス火力発電のEPC(設計・調達・建設)業務をユーザーから請け負うといった実績も積み上げている。

冒頭で触れたように多様な動きが生まれているということは、裏を返せばCNに向けたアプローチとその解は多様に存在するということ。ソリューションを前面に打ち出した東京ガスが、そのニーズにどう応えていくか注目される。

次項以降では、東京ガス法人営業部門の営業戦略インタビューを掲載。さらに成田国際空港社と東京ガスグループが共同で取り組む、エネルギー供給と脱炭素ソリューションの全体像を紹介する。

【囲み記事】CO2は邪魔モノではない 「CCU」を目指す商品群

脱炭素ソリューションに資する商材に、水素を直接・間接燃焼する水素バーナーがあり、実際に産業分野で販売が始まっている。一方、CO2を有効活用する「CCU(CO2分離回収・利用)」にも取り組む。その一つが都市ガス自体の脱炭素化となるメタネーションだ。水素とCO2を合成させて人工的にメタンを作るもので、水素キャリアであり、CCUでもある。コストやCO2削減の帰属先の課題があるが、LNGや都市ガスの既存インフラを有効活用できる点で取り組む意義は大きい。

身近な商材はコンクリートだ。ガス機器利用時のCO2を吸収・固定化させる「CO2-SUICOMO®」の技術開発に鹿島建設と取り組み、商用化を進める。そのほか、洗剤や肥料などの原料となる炭酸カリウム製造の商用化も目指す。排気中のCO2を水酸化物と反応させて作る。2m程度の設備で省スペースへの導入も期待されている。

水素バーナー式工業炉を開発している

【特集2】火力対再エネ論争への疑問 日本の先進技術をPRすべきだ


再エネ大量導入には、「調整力」が備わる火力発電の存在が欠かせないと指摘する。不毛な「石炭廃止」議論に疑問を投げかける松橋隆治教授に今後の目指すべき姿を聞いた。

【インタビュー】松橋隆治/東京大学大学院工学系研究科教授

―カーボンニュートラル(CN)を巡る世界的な取り組みについて、どうお考えですか。

松橋 CNに向けた議論や取り組みはぜひ進めるべきですが、国内のエネルギー政策の議論に関わっていて気になるのが、ヨーロッパの善悪二元論的な考え方に引きずられすぎている傾向があることです。CO2を排出しない再生可能エネルギーは絶対的な善で、CO2を排出する火力を悪として捉え、「石炭火力をすぐにやめろ」や「ガソリン車を廃止しろ」というあまりに極端な議論に引きずられています。これは賢明な考え方ではありません。

 生産ライフサイクルで考えると、太陽光発電パネルの製造もCO2を排出しています。グレーな部分があるわけで、そうであるなら石炭火力だけを切り捨てて問題を解決しようという考えには疑問を感じます。それぞれの電源には長所や短所があります。石炭火力もそうです。賢いストーリーは、今ある石炭火力設備のアセットを有効に活用しながら、少しずつCNに向けて前進する方向性が賢明なやり方です。

再エネを補う石炭火力 系統安定化に貢献

―石炭火力の長所とは。

松橋 再エネがどんどん普及してくると、慣性力の課題が顕在化してきます。電力系統全体で慣性力が不足すると、電力系統の過渡安定度を維持することが困難になります。

 石炭火力は巨大な回転体を保有する発電設備です。ベースロード電源として安定的に系統に慣性力を与え続けているという意味で、石炭火力には系統安定化に貢献する大きな役割があります。つまりこれは再エネの弱点を補うわけです。もちろん、こうした機能は石炭火力だけでなく、同じく巨大な回転機を持つ原子力発電や火力発電全般に当てはまることです。

 慣性力については発電機の「空だき」のような形で慣性力だけを系統に供出するという技術研究も進んでいますし、再エネ自身に疑似慣性を持たせるグリッドフォーミングインバーターという技術開発も進んでいます。

 こうした系統安定化に資する技術は、電気工学を専門とする方々の中でもようやく認知されてきたかなと思っています。

―なかなか理解しにくい技術ですね。

松橋 技術系以外の方々にも理解してもらう必要があるのかなと感じています。理解されれば、「対再エネ」のような不毛な議論にはならないと思います。

 一方的に石炭を切り捨て、その次に石油、天然ガスを切り捨てる。最後は原子力と蓄電池と再エネで電力システムを組み込む。そうなると、資源のない日本にとって、一切の柔軟性を捨て去ることを意味します。また化石資源には発電燃料としての側面だけでなく、化学物質(原料)としても優れたところがあるわけです。トータルで考えたほうが結果的にコストを抑えることになるでしょう。

―とはいえ、石炭火力はCO2を多く排出します。

松橋 将来的にはCCS(CO2回収・貯留)という新しい技術を取り入れることでCO2を減らす考え方もあるし、あるいは、CCU(CO2回収・利用)といった取り組みも欠かせないでしょう。「U」については、農業向けや化学原料に使ったり、水素と合成して人工的に作り出すe-methane(e―メタン、合成メタン)やe-fuel(合成液体燃料)にCO2を使う技術開発も進んでいます。