【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年4月号)


【関西電力/福岡でバイオマス専焼発電所の運転開始】

関西電力グループが運営するバイオマス発電所「かんだ発電所」(福岡県苅田町)が営業運転を開始した。関電グループが関西エリア外でバイオマス専焼の発電所を営業運転するのは初。発電出力は約7万5000kW、発電電力量は年間約5億kW時で、一般家庭の約16万世帯分の使用量に当たる。燃料は海外から輸入する木質ペレットや、パームやし殻を使う。関電は2017年に100%出資のバイオパワー苅田合同会社を設立し、19年から建設を進めてきた。関電グループは、「ゼロカーボンビジョン2050」で取り組みの柱に掲げる「サプライサイドのゼロカーボン化」に向けて再生可能エネルギー電源の普及・拡大に取り組んでいる。50年までに事業活動に伴うCO2排出ゼロを目指している。

【東京ガスほか/ごみ焼却場でCCU実証試験を開始】

東京ガスはこのほど、横浜市資源循環局鶴見工場の排ガス中に含まれるCO2を分離・回収し、資源として利活用する技術(CCU技術)の確立に向けた実証試験を、2023年1月から開始することで横浜市、三菱重工グループと合意した。具体的には、三菱重工グループの技術を通じてごみ焼却工場の排ガスから分離・回収されたCO2を、メタネーションの原料としてだけでなく、汎用性の高い産業ガスなどに資源化する技術の確立に向け、検討を行っていく。東京ガスは今年1月に横浜市との間でメタネーションに関する連携協定を締結。CO2のコンクリートや炭酸塩への資源化など、顧客先でのCCU技術の実証試験などを進め、商用化を目指していく。

【大阪ガス/EV活用のマルチユースサービス開発へ実証開始】

大阪ガスは、電気料金の削減、カーシェアリング、非常用電源(BCP)活用―の三つのマルチユースサービスの実現を目指し、同社が所有する実験集合住宅「NEXT21」で実証を開始した。マルチユースサービスの開発により、電気自動車(EV)をモビリティ用途だけでなく、蓄電池としても活用する。この実証では、EVを用いてエネルギーマネジメントを効率的に行いながら、NEXT21の入居者向けにカーシェアリングを行うことで、その実績データを取得し、ビジネスモデルの評価を行う。実証後は、官公庁や社用車を所有する業務用の顧客、集合住宅などへマルチユースサービスを導入し、CO2排出量削減・省エネに貢献する計画だ。

【ヤンマーエネルギーシステムほか/高い発電効率を実現したガスコージェネ】

ヤンマーエネルギーシステムは、東京ガス、東京ガスエンジニアリングソリューションズと共同開発した420kW常用ガスコージェネシステム「EP420G」を発売した。42.6%の高い発電効率に加え、近年、地震や台風による停電時のBCP対策が求められる中で、分散型エネルギーシステムとして、レジリエンス向上に貢献する。病院・オフィスビルといった業務用施設や中小規模の工場などへの導入を通じて、コージェネシステムのさらなる普及拡大が期待される。

【川崎汽船ほか/世界初の液化CO2輸送実証に着手】

川崎汽船は、世界初となるCCUS(CO2回収・利用・貯留)事業向け液化CO2輸送の実証に取り組む。エンジニアリング協会がNEDOの委託を受け、実証試験船は三菱造船が建造する。川崎汽船とエンジニアリング協会など4者は、2023年の本船完成に向け、安全で低コストな液化CO2の船舶輸送技術の確立と、CCUS技術の社会実装を目指す。川崎汽船は液化ガス輸送船の保有・運航実績などを生かし、輸送・荷役時の安全性評価と技術的なガイドライン策定を行う。

【沖縄電力/CO2フリーメニュー契約 工場電力5割を非化石】

オリオンビールは、電気のCO2排出量を実質ゼロとする「うちな~CO2フリーメニュー」の契約を沖縄電力と結んだ。再生可能エネルギー由来のCO2フリー電気を使用することで、沖縄県の持続的な環境保全への貢献を目指す。この契約締結により、工場で利用される電力エネルギーの50%が非化石燃料由来となり、2019年度比で36%削減される見通しだ。

【北陸電力/新築戸建ての購入者向け 太陽光発電サービス開始】

北陸電力は、太陽光パネル設置の初期費用を負担することなく、メンテナンス料を含む月額料金のみで、太陽光発電の電気を使用できるサービス「Easy ソーラー withハウスメーカー」を開始する。屋根形状やサイズ・パネル容量などの条件からプランを選択可能。利用者には、電気料金の節約や停電時でも日中は太陽光発電の電気を使用できるなどメリットがある。

東京ガス「Compass Action」の全容 需要家と連携深め脱炭素化に挑む


東京ガスが昨年11月に発表したCompass Action。脱炭素戦略を描く高い理想を掲げた野心的なロードマップだ。

2019年11月、東京ガスがグループ経営ビジョンとして発表した「Compass2030」。ガスを商材にする企業でありながら「CO2ネット・ゼロ」に向けた取り組みを明確に示したことで、エネルギー業界に大きなインパクトを与えた。

そして2年後の21年11月には、東ガスグループとして取り組むべき具体的な道筋を示した「Compass Action」を策定した。30年までをトランジションの加速期と位置付け1700万tのCO2削減目標を掲げる。そして、その先の50年までにカーボンニュートラル(CN)の実装に駒を進める。このアクションの要諦は次の三つだ。

一つ目はガス体のみならず再生可能エネルギーとの両輪で「CO2ネット・ゼロへの移行をリード」していくこと。ここでは、同社として複数のトランジション手段を扱うのがポイントだ。既存インフラとなるLNG基地やガス導管を徹底的に活用し、石炭や石油からの燃料転換を促す。加えて、メタネーションの実用化を通じカーボンニュートラルメタンの導入を拡大することでCO2を削減する。また、再エネの取扱量を30年までに600万kWまで増やしていく。さらに、ガス火力運用によって、再エネ調整電源としての機能を高めていく。再エネ拡大を支えるための一つの手段だ。燃料として、CO2を排出しない水素やアンモニアなどを活用することを検討しつつ、発生するCO2に対しては、CCUS(CO2回収・利用・貯留)の実用化を目指す。

二つ目が「価値共創のエコシステムの構築」だ。デジタルシフトとリアル補強の両輪で価値創出を加速する。このリアル補強とは、ガス業界の強みでもある対面の事業モデルのこと。検針、ガス機器・設備の保安点検など、家庭用から大口需要まで、多様なユーザーとの接点機会が多いガス事業者ならではのリアルな接点を活用する。そこに、デジタル技術を使って新しい価値を創出する。

三つ目が「LNGバリューチェーンの変革」だ。これに向け各事業主体の稼ぐ力・変動への耐性を向上していく。

場面ごとに多様な役回り ユーザーとの二人三脚

大きな理想を掲げながらも、『「理想形」=「現実解」』となる勝利の方程式に向かい、実際にユーザーとのフロントエンドに立つ営業人員はどのようなメンタリティで挑むのか。

「従来からの取り組みが、根本的に変わることはないと思っています。ただニーズは多様化し、その変化のスピードも増しています。そうした中で、お客さまと一緒に課題を解決してきた従来からの姿勢を、一層深掘りすることになると思います。あるときはエネルギー供給事業者やサービス事業者、別のときはアドバイザーでありコンサルタントというように、場面ごとに多様な役回りを果たすことになると思います」。都市エネルギー営業部公益営業部の星博善法人第二統括部長は話す。

そんな事例が早速始まろうとしている。東ガスは、六つの医学部附属病院を運営する学校法人順天堂と新たな取り組みを開始した。今年1月、CO2削減ロードマップを一緒に策定することを発表したのだ。ユーザーのロードマップ策定を、エネルギー事業者が支える、まさに二人三脚の事例だ。この第一歩として、順天堂医院では、CN都市ガスを採用することになった。東ガスにとって、医療機関向けのCN都市ガス供給は初めてだ。東ガス子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズのコージェネを使ったエネルギーサービスを通じて、これまで築き上げてきた両者の関係が、次のステージへと発展した一例である。

「コロナ対応に尽力し、″事業継続〟こそが最優先課題の医療業界ですが、病院という公益性の高い業種であるが故に自らCO2削減に取り組む姿勢を示した順天堂さまには感謝しています」(星部長)。もともと医療機関は熱需要が多く、コージェネとの相性は抜群だ。実際、順天堂医院でも十分な役割を果たしてきた。そんなコージェネも「今後の脱炭素に向け、運用の多様化のポテンシャルを多分に秘めています」(星部長)。

潜在力秘めるコージェネ デジタル技術で価値創造

一つはスマートエネルギーネットワークの視点である。コージェネを核にしながら周辺一帯の熱電をスマートに供給する取り組みだ。例えば、栃木県清原工業団地では、キヤノンや久光製薬、カルビーといった名だたる工場群のエネルギーをまとめて供給する事例が始まっている。そして、このケースでは驚くべきことに20%近くの省エネを実現している。個別に取り組んでいては達成が非常に困難な省エネ率だ。こうした東ガスの取り組みを筆頭に、スマエネ事例は全国に少しずつ広がっている。

もう一つは再エネ共存の視点だ。再エネが増えるほど、電力需給調整機能が大切になる。そんな出力変動する再エネの欠点を、コージェネの負荷調整機能によって支えていく運用だ。さらには電力市場を見極めた運用の可能性もある。仮に日本全体で電気が足りない局面に陥ったとき、コージェネの発電力が電力市場で貢献する。そんな役割の期待値も高まっている。

こうした新しいステージでの役割はデジタルによっても果たされようとしている。東ガスはこのほど、「Joyシリーズ」と呼ぶソフトウェアを事業譲受し、同社独自の中央監視サービス「0wl net」に組み込んだ。Joyシリーズは21年時点で3万8000件の顧客実績を誇る。これを使ったデジタルソリューション、0wl netとはどのようなものか。「お客さま側のエネルギー設備を統合監視する機能に加えて、当社が監視データを分析することで、継続的に省エネや省力化のソリューションを提案できます。また、電子帳票や遠隔監視カメラなど、ニーズに応じて多様な機能を提供します。例えば、導入していただいた自動車部品工場では40%の業務改善につながったとのありがたい声もいただきました」(産業エネルギー営業部北部産業エネルギー部の中尾寿孝グループマネージャー)

中尾さんによると、今後はエネルギー設備だけではなく工場の生産設備、各拠点のデータを本社一括遠隔監視するなど適用範囲を拡大することで、0wl netを企業全体の脱炭素や生産性向上の基盤となるサービスとして発展させたいとしている。デジタル技術を通じて新しい価値を創出する取り組みとして、ユーザーからの期待が高まりそうだ。

  *  *  *

こうした取り組みを通じてにじみ出てくるのは、社会コストを抑え安定供給を絶やさず、地に足の着いたCN社会へ移行しようという東ガスの決意である。次ページでは「これからの街づくり」にフォーカスした座談会をお届けする。CN都市ガスやコージェネがどのような役割を果たすべきか、有識者や業界関係者が議論する。

東ガス&丸熱 カーボンニュートラルな街づくり 理想形を現実解にする業界の挑戦


カーボンニュートラルに対して世の中の意識が日に日に高まっている。堅実なトランジションに向けて業界に何が求められ、どのように取り組むのか。

【左】柏木孝夫(かしわぎ・たかお)東京工業大学特命教授・名誉教授/1970年東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。
【中】川村俊雄(かわむら・としお)東京ガスエネルギーソリューション本部エネルギー企画部長/1994年東京大学工学部化学工学科卒、東京ガス入社。LNG基地、原料調達、気候変動対策等担当部署を経て、2021年4月から現職。
【右】岡本敏(おかもと・さとし)丸の内熱供給取締役常務執行役員/1986年三菱地所入社。ビル運営管理に25年以上従事。三菱地所プロパティマネジメント常務執行役員などを経て、2021年から現職。

柏木 業界にとってカーボンニュートラルの取り組みは不可欠ですが、まずはリアリティーのある取り組みが必要になります。その中で街づくりに関わる熱供給事業は即効性のある省エネに貢献します。まずは丸の内熱供給(以下、丸熱)さんの昨今の取り組みについてお話しください。

岡本 熱供給事業者として脱炭素に向けて、今後どのような取り組みをするべきか考えてきた中で、1年前に当社と三菱地所で「エネルギーまちづくりアクション2050」を策定しました。地域冷暖房ネットワークを核に「面的エネルギーによる強靭化」「脱炭素化に貢献する都市型マイクログリッド構想」を掲げ、環境価値と社会経済活動の最大化に向けて街づくりを支えていこうと考えたわけです。特に大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)には国際的に活躍する企業が多く、業務の継続力やエネルギーの脱炭素化に対して関心が高いエリアです。そうしたニーズにエネルギーマネジメントで応えたいと考えています。

 ここでのポイントは三つあります。一つ目は「供給マネジメント」です。当社でも一部で熱電一体供給を行っていますが、今後、大規模にそういった展開を広げていきます。二つ目は「需要マネジメント」です。新築や既存のビルそれぞれのエネルギー消費効率の向上です。三つ目が「つなぐ・事業マネジメント」です。大丸有エリアではスペース的に太陽光発電の設置が難しいため、地方と連携し、例えば地方のバイオマス発電とつなぎ、その再エネ電力を調達する。また、個別コージェネの排熱利用もあります。個別のビルでは排熱を活用し切れませんので、われわれの方で受け入れて、それをつないでネットワーク化する。こうした面的利用によって環境価値やBCP(事業継続計画)あるいはDCP(地域継続計画)に貢献していきたいと考えています。

スマエネ運用の高度化 省エネは脱炭素技術

柏木 東京ガスで昨秋に発表した「Compass Action」では、地に足の着いたリアリティーのある計画を打ち出しています。

川村 はい。当社グループが一体となって「CO2ネット・ゼロ」に向けて、ガス体と再エネの両輪で責任あるトランジションをリードしようと考えています。ポイントとしては、ネット・ゼロという高い理想を掲げつつも、エネルギーの安定供給を維持し、地に足の着いた現実感のあるカーボンニュートラル社会への移行を主導していきたいと考えています。

 具体的には一丁目一番地である天然ガスの高度利用として三つの取り組みを掲げています。一つ目は燃料転換です。全国的には産業用を中心に、石炭や重油の利用がまだまだ残っていますので、まずはガスへの燃料転換を進めていきます。二つ目が、スマートエネルギーネットワークです。田町、豊洲、あるいは工場群のエネルギーをまとめて運用する栃木県清原工業団地など、既に具現化した事例があります。こうした街づくりの観点からスマエネ運用の高度化が大切になります。三つ目が、CO2クレジットを使ったカーボンニュートラルLNG(CNL)による都市ガス(CN都市ガス)の供給です。この延長に、CCUS(CO2回収・利用・貯留)や合成メタン供給へとつなげたいと考えています。

 スマエネについて補足しますと、その要諦は、CN都市ガスを含む環境性と、防災性を両立することだと考えており、ポイントは五つあります。まずは「①コージェネを配置」し、それを「②面で使い」切る。さらに「③再エネや未利用熱エネルギー」を使う。未利用エネとしては地下のトンネル水などが該当します。加えて、「④DR(電力需要制御)を含めたICTによる需給連携制御」です。そして、これらのエネルギー供給のベースとなるのが「⑤ガス導管の強靭性」です。この中圧・高圧ガス導管は東日本大震災クラスの災害でも、その機能が担保されたことはご記憶の通りです。

 こういった五つの視点を組み合わせてスマエネをさらに進化させていくことが、地に足の着いたトランジションであるという意識の下で取り組んでいきます。

柏木 最近では大規模なビルで、電力会社がコージェネを導入するケースが生まれています。虎ノ門ヒルズもその一例です。コージェネを導入しないと建物としての価値が認められなくなっている時代です。またコージェネ自体の発電効率も高まってきており、導入すれば20%ほどは確実に省エネになります。同時にこれは省エネだけでなく、脱炭素テクノロジーというような言い方もできると思います。オフセットされたCN都市ガスによって、脱炭素社会への近道となるテクノロジーだということです。こうした取り組みは、従来の「物売り」から「ソリューション売り」の展開にもつながっていくと思います。

川村 おっしゃる通りです。ちょうど当社も、従来のエネルギーを中心に販売する会社から変わっていこうとしています。当社は4月からホールディングス型グループ体制へ移行しますが、その際法人営業部門は、地域冷暖房事業やエネルギーサービス事業を手掛ける100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と一体となってお客さまにソリューションを提供する体制になります。ガスや電気の供給、さらにはエネルギーサービスをソリューションとしてワンストップで提供していくわけです。

設備改修と運転制御改善  CN導入の第一歩

岡本 川村さんが先ほど、地に足の着いた取り組みとおっしゃいましたが、全く同感です。当社も、まずはプラントの高効率化・省エネに取り組んでいます。例えばターボ冷凍機の軸受けの改良、ポンプや冷却塔のインバーター化、あるいは高効率な小型貫流ボイラーへの更新などです。また、先般、新菱冷熱工業さんと一緒に、設備をAI制御する取り組みを発表しました。4%の消費電力削減を達成しました。このように大きな設備更新、あるいは設備の改良による効率化、運転の制御の高度化などを同時並行的に進めています。

 あと、既存のエネルギーインフラをいかに有効に活用するかも重要な視点です。その意味で、既存インフラを活用できるCN都市ガスの導入は意義のある取り組みだと考えています。需要家さんだけでなく、需要家さんのビルに入居しているテナントさんも非常に環境意識の高い企業さんが多く入居しているわけです。であるならば、同じ都市ガスでも環境に優しい都市ガスということで、昨年11月に当社は全量をCN都市ガスに切り替えました。

 現状、一連のコスト増加分は当社で負担しています。今後、需要家さんにどのようにご負担いただくか課題になるかと思いますが、まずはCN都市ガス・CN熱の存在をしっかりと周知しているところです。

川村 この件については、改めて丸熱さまに感謝申し上げます。個人的な話になりますが、1年前までは原料部に所属しており、まさにCNLの調達に携わっていた当事者でして、CNLには思い入れがあります。3年ほど前に、海外のLNGサプライヤーからこの商材の提案があったとき、当社の営業部門に相談に行きました。「果たしてお客さまに届けられるのか」。社内で議論を重ね、お客さまとも話し合いを進めていく中、丸熱さまにご理解をいただき、日本で初めてCN都市ガスを採用いただきました。

 おかげさまで今では60社を超えるお客さまにご利用いただいており、その過程で「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立し、まずは周知に向けて取り組んでいるところです。

 なお、オフセットするCO2クレジットは、現状では制度的に担保されたものではなく、あくまでも企業自らがボランタリーで取り組んでいるものです。国の制度や国内法制面で、CO2削減カウントとして扱われるようにするためには、国際的な枠組みを見据えての働きかけも必要になるでしょうから、ハードルはあるかと思いますが、まずは自分たちでできること、繰り返しになりますが、地に足の着いたトランジションへの取り組みということで、第一歩を踏み出したところです。

 また、クレジットの品質面の担保には特に注意を払っています。第三者機関からの認証を得た信頼性の高いものであることに加え、クレジットの起源となる環境プロジェクトについても十分確認するよう努めております。

丸の内熱供給はCN都市ガスを導入した

岡本 当社としてはCN都市ガスの燃料面での取り組みだけでなく、設備面でも環境性に優れた設備の導入を促進しています。例えば燃料電池については、三菱地所が丸の内ビルディングに導入した三菱重工業製のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の排蒸気を当社が受け取り、街区へ融通することで、機器の導入効果を高める取り組みを行っています。あと、今後検討するのは蓄電池ですね。「荷重の重い設備」になりますので、導入するのであれば、どうしても新築のタイミングが理想的ではありますが、屋内設置の場合の安全性の確保、消防法との兼ね合いなどを考えながら新築・既存とも蓄電池の導入を検討しています。

柏木 今後のイノベーションの一つとして水素利用が挙げられます。東京ガスの水素に対する取り組みを簡単にお話しください。

水素利用へのチャレンジ 排熱とCN熱の制度課題

川村 業界としては既存インフラの有効活用の点で、合成メタンを第一目標としています。ただ、その合成メタンを作るにも水素が必要ですし、当社としても、水素サプライチェーンの一部となる水素製造面など、要素研究には既に取り組んでいます。また、エリアが限定されるかもしれませんが、大規模なコンビナート地帯での水素供給・水素利用というやり方もあるかもしれません。実際、東京の晴海地区では、水素の直接供給について取り組む予定です。

 この晴海地区では二つの側面があります。エリア内にある集合住宅のご家庭には都市ガスの燃料電池エネファームが全戸(約4000戸)に導入されます。一地点に4000台の規模ですから、まとめて運用するVPP(仮想発電所)のような展開への可能性も秘めています。

 それから集合住宅の共用部に純水素型の燃料電池が入ります。この水素供給は非常にチャレンジングな取り組みです。近隣の水素ステーションを拠点に水素導管を敷設します。水素パイプラインにより街区へ水素供給する初めての事例となります。水素の安全をしっかりと確認していくという意味でも、大きな挑戦だと考えています。

 このように合成メタン一本足ではなく、水素についてもいろいろとチャレンジしているところです。

柏木 先ほど、川村さんからCO2クレジットにおける国内制度での扱われ方の課題についての指摘がありました。岡本さんからも何か制度的な課題はありますか。

岡本 先般、東京都に対して意見表明をさせていただきましたが、コージェネを使ったときの排熱利用についての課題です。排熱を有効利用している一方、現状の基準では、排熱を活用すればするほどプラントのエネルギー消費効率が下がってしまいます。排熱といった未利用熱を活用する場合の評価を制度的に認めていただきたいと思います。

 あとCN熱の課題があります。例えば熱供給事業者が、再エネ電力100%で熱を製造しても、それはカーボンフリーの熱とは認められていません。時代に即した制度設計をしていただけたらと思います。

柏木 皆さんの取り組みがきちんと評価されるような制度設計が必要です。ありがとうございました。

再エネ普及のカギ握る「メタネーション」 東ガス×横浜市が実証試験開始


東京ガスが進めるカーボンニュートラルの取り組みの一つとして、メタネーションの実証試験がある。既存のメタネーション技術は、触媒を使ったCO2と水素の反応(サバティエ反応)により、都市ガスの主成分となるメタンを生成する。CO2は燃焼排ガスなどから分離回収。水素の生成には水電解装置が使われ、実用化すればCO2の排出量が回収量と相殺され、ガス事業の脱炭素化に大きく寄与する。

今年1月、東京ガスは横浜市と鶴見区末広町にある横浜テクノステーションで行うメタネーションの実証試験に関する連携協定を締結した。同社敷地に隣接する横浜市下水道センターとごみ焼却工場から排ガス、消化ガスや再生水を受け取り、それらに含まれるCO2と、水の電気分解によって得られる水素を原料としてメタンを合成。エネルギーの地産地消を目指すとしている。

東京ガス・メタネーション推進グループの小笠原慶氏は「実証試験では、日立造船製のメタネーション装置を使い、横浜市との地産地消実証をはじめとした各種運転試験などから、プラント運用や社会実装に向けた大型化に関する課題を洗い出す。2020年代後半には革新的なメタネーション技術を追加して、より高効率な実証を行いたい」と話す。具体的にはサバティエ反応を低温化し、排熱を水電解の反応に活用する高効率なメタン生成技術「ハイブリッドサバティエ」や、電極触媒と高分子電解質膜を使い、CO2を直接メタンに転換する技術「PEMCO2還元」の実用化を目指すという。

次世代セルスタック技術  2年以内に量産化目指す

メタネーションの実用化に欠かせないのが、水電解による水素製造技術だ。昨年5月には、燃料電池の技術開発などを行うSCREENホールディングスと、水電解用セルスタックの低コスト製造技術の共同開発に合意。電解質膜に塗膜化した触媒を貼り付ける技術で、高速かつ大量製造を目指す。「わが社が持つ触媒技術とSCREENさんの燃料電池製造技術を合わせ、共同開発開始から2年以内に技術を確立していきたい」(水素製造技術開発グループの白﨑義則氏)。目指すは、将来の低コスト化に向けた次世代セルスタックの開発だ。

メタネーションの実用化や水素製造技術にはまだまだ課題も多い。製造コストや供給安定性の確保、水素とメタンを受け取る需要側の設備など、革新的な技術がどこまで実現可能か問われている。30年代にメタネーションの海外展開・商用化を実現させるため、東京ガスの研究が加速する。

東京ガスで技術開発に取り組む小笠原慶氏(左)白﨑義則氏(右)

【コラム/3月23日】ウクライナ危機とドイツにおけるエネルギー政策の転換


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2月24日に開始したロシアのウクライナへの軍事侵攻により、ドイツのエネルギー政策は大きく転換しつつある。ドイツ政府は、22日には、ロシアからドイツに天然ガスを送る新たなパイプラインプロジェクトである「ノルドストリーム2」の稼働に必要な手続きを停止すると発表しているが、27日には、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子力発電所3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した。

ドイツは、エネルギー資源のロシアへの依存度は高い。とくに、天然ガスは、輸入量の55%はロシアからであり、同国への依存度は欧州主要国の中で最も高い。ドイツでロシア依存がこのように高まったのは、1960~70年代に展開されたブラント元首相による東欧諸国との関係正常化を目的とした「東方外交」の産物である。天然ガスのパイプラインによるロシア依存が高まる中で、エネルギー供給保障の問題がなかったわけではない。しかし、これまで、安定供給上の問題であったのは、供給元であるロシアによる供給停止ではなく、天然ガス輸送の中断による影響であった。ロシアは、冷戦時代を含め、安定的にドイツや他の欧州諸国に天然ガスを送り続けている(ウクライナ向けを除く)。このため、ロシアは、信頼できる供給元であり続けた。これに対して、ウクライナでは、欧米寄りの政権が誕生すると、ロシアはウクライナ向けの天然ガスの輸送を制限しているにもかかわらず、天然ガスを以前同様引き出していたために、同じパイプラインでドイツやその他欧州諸国に送られるべき天然ガスの量が減ってしまい、欧州の経済や市民生活に大きな影響が及んだ。

「ノルドストリーム」は、このような背景の下で、天然ガスをロシアから海底パイプラインでドイツに直接輸送することで、輸送中断のリスクを軽減するために計画されたものである。「ノルドストリーム1」が2011年に完成するまで、ロシアからの天然ガス輸送の約8割は、ウクライナ経由のものであったが、「ノルドストリーム1」の完成で、ウクライナ経由は半分程度に減らすことができた。しかし、この度のロシアのウクライナへの軍事侵攻により、供給元としてのロシアに対する信頼は失われたことが、ドイツにおけるエネルギー政策の大きな転換につながった。

エネルギー供給事業者としてのロシアに対しての警戒心は、欧州諸国の中になかったわけではない。とくに旧ソ連の政治的影響下にあった中東欧やフィンランドでは、天然ガスのすべてもしくは大部分をロシアに依存しており、ロシアへの依存度を減らすことでロシアの政治的影響力も排除したいと考えている。中東欧やフィンランドにおける原子力開発には、このような背景があることを見逃してはならない。フィンランドは、5基目の原子力発電所であるオルキルオト3号を建設したが、筆者は、その決定の理由を、電力会社TVO社で聞いたことがある。「フィンランドでは、将来の電力需要の増加を天然ガス火力で賄うか、原子力発電で賄うか議論があったが、天然ガスは100%ロシアに依存しており、エネルギーのロシア依存度を高めないために原子力発電を選択した」とのことであった。そのさい、同社の幹部が「あまり公の場では言えないことだが」と前置きして述べたことが印象的であった。また、同国は1995年にEUに、そして、1998年に北欧電力市場Nord Poolに参加したが、その背景には、EUの経済圏や北欧のエネルギー市場に自らをしっかりと組み込むことで、ロシアからの政治的影響を受けないように、またはそれを軽減したいとの意図があった。

ドイツも、今回の出来事で、ロシアが安定的なエネルギー供給事業者であるかどうかについて大きな疑念をいだくことになったが、カーボンニュートラル政策への影響はどうだろうか。火力発電所の稼働は少なくとも当面は延長していかざるをえない(原子力発電については、廃止の準備が進んでおり、稼働延長は難しい可能性が高い)。しかし、長期的にカーボンニュートラルを達成していく政策には変わりはないだろう。ドイツは、一次エネルギーの約6割は、国外に依存している。EUも一次エネルギーの輸入依存度 は5割を超えている。

カーボンニュートラルの達成のためには、再生可能エネルギー電源、原子力、CCS、省エネなどを進めていかなくてはならないが、欧州では、とりわけ、再生可能エネルギー電源は最大限開発する必要があると考えられている。その背景には、化石燃料利用の大幅減少を通じてのエネルギーの域外依存度、とりわけロシアへの依存度の低減を図りたいとの意図がある。EUは、2008年に採択された「気候エネルギーパッケージ」以降、温室効果ガス削減、再生可能エネルギー開発、エネルギー利用効率向上に関する野心的な目標を掲げるようになったが、なぜそのような膨大なコストがかかる政策に踏み切ったのかは、このように考えると良く理解できるだろう。それは、エネルギーセキュリティの確保の観点から極めて重要であるからだ。

わが国でも、カーボンニュートラルが政策のトッププライオリティとなりつつあるが、エネルギーセキュリティ確保の観点を見失ってはならないだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【特集2】ブルー水素への対応に注力 CN都市ガスでステーション運用


【三菱化工機】

ステーション整備をはじめ水素関連事業を着実に進める三菱化工機。自治体の下水インフラを活用した展開など、水素の地産地消も目指す。

水素製造技術を長年培ってきた三菱化工機は、エネルギー業界や化学プラント業界で小型から大型までの製造装置をそろえ、これまで173件の受注実績を持つ。商用水素ステーション(ST)の建設受注もオン・オフサイト含め12件に上り、国内の環境インフラ整備を着実に担っている。

そんな同社が今、注目するのが「水素の色」だ。水素・エネルギー営業部の石川尚宏部長は「今後は再エネ由来の水電解のグリーン水素や、都市ガスなど炭化水素系原料由来にCO2回収装置を付けたブルー水素でなければ時代にマッチしなくなります。早急に対応したい」と話す。水電解の技術開発と並行して、価格を抑えたブルー水素化に注力している。

足元の取り組みとしては、主力の小型オンサイト製造装置「HyGeia―A」の改良だ。水素STの利用実態に合わせ、DSS(日間起動停止)機能を開発中だ。製造時は都市ガスを900℃で水蒸気に改質するため、設備に負荷をかけない連続運転が基本だ。だが、FCVの普及はまだまだ道半ば。そんな状況に対応するのがDSSだ。「待機運転モードを搭載済みですが、STの運用実態に合わせて、運用コスト低減を目指し開発・改良しています」

供給網への参画模索 地産地消型の提案も

また、自社のCO2削減策として2月から、クレジットでオフセットしたCN都市ガスの採用を決めた。「当社の川崎製作所に導入しました。敷地内にはSTがあり、水素原料としても活用します」。年間約475tのCO2を削減する見込みで、「CNLNGバイヤーズアライアンス」にも加盟した。

水素サプライチェーンへの参画も課題だ。現在日本での大量貯蔵・輸送技術の二大潮流は、液化水素と、「SPERA水素」だ。千代田化工建設を中心に取り組む後者は、トルエンをキャリアとし、常温常圧で長距離・大量輸送が可能で、既存の石油インフラを利用可能なメリットがある。三菱化工機は、この中の脱水素装置を手掛けている実績を持つ。「つなぎではなく将来も有望なキャリア技術。サプライチェーンにどう参画するか、今後も検討する」と強調する。

地産地消型の事業提案も注力する。同社は福岡市で下水バイオガスを原料とした水素製造実証に参画した経験から、自治体向けに下水処理施設で製造した水素の地域利用を提案している。「バイオガス発電に目が行きがちですが、水素に加え都市ガス製造・導管注入、燃料電池への展開も訴求したい」

多様な切り口から水素の可能性を探る三菱化工機。市場のニーズに合致するタイミングで最適な製品を投入しようと挑戦する。

CN都市ガスを導入した川崎製作所のST

【特集2】輸送・産業分野のCN化支える 水素利活用の技術開発を推進


【東邦ガス】

自動車産業をはじめとするものづくりの企業が集積する東海エリア。東邦ガスは水素技術を磨きながら、輸送・産業分野でのCN化を支える。

これまでクリーンなエネルギーの都市ガス供給を通じて低炭素化に貢献してきた東邦ガス。2050年に向け「脱炭素化」の実現を目指すビジョンを打ち出しており、その中で水素利用について二つの柱を掲げている。一つは、同社知多緑浜工場を拠点とする水素サプライチェーンの構築だ。ここを拠点に天然ガス改質などで製造した水素を需要家へ供給したり、将来的には海外からの輸入水素の受入拠点化を目指すなど、中部地区の水素利用ニーズに応えていく構想だ。

また東邦ガスのほか、中部電力、岩谷産業、トヨタ自動車などを含めた17社が参画し、中部圏における水素の大規模利用の可能性を検討する「中部圏水素利用協議会」を通じて、中長期的な時間軸で水素社会の実現に取り組んでいく。

運輸・熱分野に水素利用 地産地消の環境価値

もう一つがモビリティや熱利用向け水素需要の創出だ。中部地区はモビリティ用途としての水素利用が進んでいることに加え、ものづくりを中心とした産業集積地であり、工場での環境意識は日に日に高まっている。そんなニーズに応えるため、水素利用拡大に向けた検証や技術開発を進めていく。そうした中、豊田市内で同社が運用する「豊田豊栄水素ステーション(ST)」の活用に新しい展開が見えてきた。ここは現地で都市ガスから水素を製造するオンサイト方式の水素STとして20年から運用を開始。燃料電池自動車(FCV)向けだけでなく、バスや小型トラック向けにも水素を充てんできる。

昨年から、ファミリーマートが実証で使用している配送トラックへの水素供給が始まった。しかも単なる水素ではなく、環境価値を付けて供給する。東邦ガス水素戦略のキーマンの一人である、技術研究所環境・新エネルギー技術の村松征直チーフはこう説明する。

「ここでは地産再エネを活用し、都市ガス由来のCО2フリー水素を供給しています。ST内で消費する電力では豊田市内の再エネ由来の環境価値を活用し、都市ガスでも中部圏内のJ-クレジットを使ってCO2をオフセットしています。地元の自治体に協力をいただき、社内の関係部署とも連携しながら築き上げたスキームです。ここで供給する水素は、愛知県独自の低炭素水素認証制度で認証を受けた環境価値のある水素です」。都市ガスと電気の両エネルギーに対し地元由来の環境価値を与えて、地産地消型のCO2フリー水素を供給する、興味深い取り組みだ。

地産地消の環境価値で運用する水素ステーション

また、「海」に目を向けても新しい動きがある。名古屋港を拠点とした水素利活用の拡大を検討していくため、東邦ガスや豊田通商など4社の取り組みがこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択された。フォークリフトなどの産業用車両や荷役機械への水素供給など、事業化を見据えた輸送分野で水素の利活用拡大に向け検討する。

名古屋港は、環境先進港である米国ロサンゼルス港と協力する覚書を締結済み。こうした取り組みを通じて、ロサンゼルス港でのノウハウも活用できる。

低コストで水素対応 最適な都市ガスとの混焼率

村松さんと共に東邦ガスの水素戦略を進めるもう一人のキーマンが業務用技術総括の山脇宏さんだ。山脇さんはこれまで、都市ガスと水素の混焼や都市ガスバーナの水素燃焼対応の開発に携わった経歴があり、まさに水素の熱利用分野の拡大を技術面で支えるエンジニアだ。そんな山脇さんが、ターゲットにしたのは450kW級のガスエンジンコージェネだ。ユーザーから水素混焼に関するニーズを聞き、コストを掛けずに最適な燃焼を実現することを目指した。

「水素は燃焼速度が速く、混焼すると異常燃焼が発生する恐れがあります。最悪の場合、設備が故障します。そこで定格出力維持を前提に、投入する空気との比率やタイミングなどを調整して最適な混焼率を探りました。結果、定格発電出力で35%の混焼率まで高めることができました」(山脇さん)

低出力下での混焼事例はこれまでも存在したが、定格運転での事例は、国内で初めてだ。しかも大幅な改造コストを必要としないメリットが期待できる。今後は、水素とガスの混合・供給方法の確立や、大幅な改造なしで制御可能な水素混焼率も見極めながら実用化を目指していく。

排ガス再循環部の部品交換 負担少なく水素バーナ化へ

山脇さんが水素利用拡大の一環で開発を進めるもう一つの設備が、工業炉バーナだ。昨年、東邦ガスは「シングルエンド・ラジアントチューブバーナ」と呼ばれる水素専焼に対応するバーナを開発した。水素は燃焼速度が速くなることに加えて、火炎温度が高いという特徴がある。例えば都市ガスバーナの燃焼温度が1200℃の場合、水素の燃焼温度は1400℃になり、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナ部品が劣化しやすいことが課題だった。そんなバーナに対して、ある解決策を見つけ出した。

「水素専焼バーナを作るのではなく、都市ガスバーナの一部である排ガス再循環の部品を変えるという発想です。排ガス再循環量を最適化することで都市ガス燃焼と同じNOX排出量にできます。これは、再循環構造部だけを脱着交換できるような仕組みで、バーナ本体の改造と比べて、10分の1程度のコストで水素専焼が可能になります」(山脇さん)

ものづくりの現場ではコージェネや工業炉は主力設備。そこから生まれる環境ニーズに、技術で応える東邦ガスの取り組みは、今後の脱炭素化モデルの理想的な産業構造の縮図である。

排ガス再循環の部品交換だけで水素化に対応する

【特集2】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開


【東京ガス】

東京・晴海地区再開発の目玉「水素エネルギー計画」を主導する東京ガス。水素パイプライン供給を国内で初めて商業化、2024年の運転開始を目指す。

東京五輪・パラリンピックが終了し、選手村のあった東京・晴海地区でも再開発が進んでいる。中でも水素供給事業を含むエネルギーインフラ計画には、各方面から大きな注目が集まっている。

この中核を担うのが東京ガスだ。大会期間中は選手村を走る燃料電池車やFCバスのPRに協力。大会終了後は選手村跡地に建つ大規模マンション群の地下に張り巡らされる水素パイプラインを整備する。

実用段階では日本初で、水素普及を見据えた脱炭素社会の先駆けとなる取り組みだ。将来的には再生可能エネルギー由来の電力を使って製造した水素を供給するなど、新しい街づくりへ環境、産業の両面で大きな効果が期待されている。

水素パイプライン敷設に 都市ガス事業のノウハウ

水素パイプラインの整備計画や運営を担当するのは、東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギー(川村俊雄社長)。東京ガスは事業者側の代表窓口として、水素ステーションを運営するENEOS、純水素型燃料電池の事業者3社との間で調整を受け持つことになった。延長約1㎞の水素パイプラインには、ガス事業法を適用することもあり、東京ガスの持つ都市ガス事業のノウハウを最大限に生かす形で進める。

水素を流すパイプラインには、工場や商業ビルで使う都市ガス用の中低圧供給パイプラインを使用。曲げ性能と耐震性能の高さが特長だ。しかし、水素には「脆化」という特定の金属をもろくする性質がある。

敷設する中低圧供給パイプライン

水素パイプラインには特殊な材料が必要との見方もある中、東京ガスエネルギー企画部エネルギー公共グループの福地文彦課長は「過去に日本ガス協会で試験を行い、今回水素を供給する条件下では、脆化が起きないことが実証された。パイプには実績のある安全な材料が使われる」と話す。

水道などライフラインの工事で水素パイプに傷がつく可能性も考慮して、パイプの上から防護鉄板を敷く対策を取った。その上に標識シートをかぶせることで注意喚起を十分に行うなど、損傷防止策に万全を期している。

水素パイプラインを保護するための対策

また、地震時における水素供給の緊急停止判断基準も厳格化した。東京ガスの都市ガス供給では各地区の想定被害に応じて60~90カインに設定しているが、東京・晴海地区の水素供給では60カインで供給を停止するように設定した。

水素の供給先は、住宅街や商業施設の5カ所に設置された純水素型燃料電池となる。そこから各家庭や施設に電力と熱を送る仕組みだ。燃料電池の排熱も利用し、共用部の給湯の予熱として使われる。

燃料電池はパナソニック製と東芝エネルギーシステムズ製の二つを採用した。パナソニック製は5kWモデルの発電効率が56%と非常に高く、貯湯ユニットで熱を利用でき、約1分で起動可能な点が評価された。同社の電池を6基連結して出力アップ、住宅街での運用を予定している。

設置するパナソニック製の純水素型燃料電池

東芝エネルギーシステムズ製は100kWの純水素型燃料電池を採用。昨年11月にトヨタ自動車本社工場(愛知県豊田市)で運転を開始するなど、多くの施設や工場で稼働実績があり、今回は商業施設で運用される。

純水素型燃料電池を2種 24年3月供給開始目指す

東京大会前の19年度に第1期工事が終了し、パイプライン全体の7割は敷設済みだ。残る3割の工事や燃料電池については、今年1月以降の第2期工事で設置する予定という。

晴海エコエネルギーがガス事業法に基づく小売り事業登録を完了してから供給開始を目指すため、実際の運用は24年3月ごろを予定している。福地課長は「大会終了後、ここからまた設備工事を行い、23年度の街開きまでに無事に供給を開始できるようにしたい」と意気込みを語った。

東京・晴海地区再開発のシンボルとなる水素計画。それを支える水素パイプラインは、文字通り地区の脱炭素化を進めていくための環境インフラだ。水素社会の実現を目指した東京五輪・パラリンピック後のレガシーとして新たな都市モデルとなるか注目される。

【特集2】低廉なグリーン水素供給へ 新燃焼プロセス実験設備を導入


【大阪ガス】

都市ガス業界にとって、カーボンニュートラル社会に向けたイノベーションは重要な経営課題。より安くグリーン水素を供給する革新的技術として期待されるのがケミカルルーピング燃焼技術だ。

大阪ガスが、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術として2020年11月、石炭フロンティア機構(JCOAL)と共に研究開発に着手した「ケミカルルーピング燃焼技術」。バイオマスや褐炭などの低品位石炭といった未利用資源を燃料に、酸化鉄が循環しながら三つの異なる化学反応で二酸化炭素(CO2)、水素、電気の3種類の有価物を生成する技術である。バイオマスを用いた場合、水電解よりも安くグリーン水素を提供できる可能性を秘める。

ケミカルルーピング燃焼プラントは、①酸化鉄と空気中の酸素が反応し、発電用の高温蒸気を生成するための熱が発生する「空気反応塔」、②酸化鉄中の酸素が燃料と反応しCO2を発生する「燃料反応塔」、③燃料との反応で一部の酸素を失った酸化鉄が水蒸気と反応し水素を発生する「水素生成塔」―で構成され、酸化鉄が①~③の反応・生成塔を循環することで連続的に各反応が進行する。

脱炭素に向けた革新的技術として期待されている

同社は昨年12月、このケミカルルーピング燃焼プラントのコールドモデル装置を、カーボンニュートラル技術の研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ」(大阪市此花区の酉島地区)内に設置した。2023~24年度に計画しているベンチスケール実証試験に向け、その試験に用いる装置の設計に必要な、酸化鉄粒子の循環流動特性に関するデータを取得するためだ。

コールドモデル装置は高さ約10m。実際に化学反応させるベンチスケール実証試験装置は温度が900℃に達するため金属で製作することになるが、同装置は酸化鉄の動きを観察するために内部を目視できるよう透明なアクリル樹脂でできている。ベンチスケール実証試験装置の規模は、燃料投入量にして300kWであり、コールドモデル装置と同程度の高さとなる予定。300kWの燃料を投入した際、理論上は1時間に水素を35?、CO2を0・1t、電気を30 kW時製造できるという。これは、25年度以降に同社が商用機として導入しようとしている設備規模の10~100分の1のスケールに当たる。

昨年12月に設置した燃焼プラントのコールドモデル装置

未利用資源を有効活用 最適なプロセス探る

ケミカルルーピング燃焼技術の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けた事業。燃料を空気で燃焼させると、排ガスに窒素やNOXが大量に混ざるが、酸化鉄中の酸素で燃焼させることで排ガスにそうした成分が混ざらず、追加設備を導入することなく高純度のCO2を回収することができる。

一方、燃料となるバイオマスや低品位石炭に含まれる灰やタールへの対策、水素生成に適した酸化鉄や反応条件の探索が実用化への大きな課題で、これらの課題を解決するための要素技術開発を行い、ベンチスケール装置で一連の反応を問題なく進行させられることを実証することが、同事業の目的だ。

ガス製造・発電・エンジニアリング事業部ガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの植田健太郎副課長は、「当社グループとしては、同事業の成果をもとに、バイオマスを燃料に、グリーン水素、グリーン電力、バイオ由来CO2を製造する装置として商用化し、各製品の需要家のカーボンニュートラル化に貢献することを目指しています」と語る。

バイオマスを燃料に水素、電気、CO2を製造するケミカルルーピング燃焼は、世界でも初めての取り組みだ。

2つのビジネスモデルを視野 水素とCO2の地産地消も

ビジネスモデルとしては、工場に本技術によるプラントを導入し、同社がエネルギーサービスを行うことや、同社グループが集中型のプラントを建設して各種製品を市場に販売することなどを視野に入れている。工場などに導入すれば、製造設備をCO2フリーの電気で稼働できるだけではなく、産業用途での水素やCO2の地産地消も実現できるというわけだ。

カーボンニュートラルリサーチハブでは、①都市ガス原料の脱炭素化、②水素・アンモニアの利活用、③電源の脱炭素化―の三つの切り口で、「エネルギーを〝つくる〟技術」と「エネルギーをうまく〝つかう〟技術」の研究開発に取り組んでおり、ケミカルルーピング燃焼技術は、「水素・アンモニアの利活用における〝つくる〟技術」に位置付けられる。

再生可能エネルギー由来の水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」や、VPP(仮想発電所)による再エネの有効活用といった、さまざまなカーボンニュートラル技術の研究・技術開発を加速させ、複数の選択肢を持ってカーボンニュートラル社会実現に貢献していく構えだ。

【特集2】液体水素の大量輸送時代が到来 供給網を構築した日本の技術力


石炭をガス化し、液体水素に仕上げて豪州から輸送する世界初の取り組みが始まった。ガス化技術や大量水素の船舶輸送技術などは、まさに日本の技術の英知である。

【司会】柏木孝夫/東京工業大学特命教授

【出席者】笹津浩司/電源開発取締役常務執行役員原田英一/川崎重工業常務執行役員水素戦略本部長

柏木孝夫東工大特命教授(左)、笹津浩司電源開発取締役常務(中)、原田英一川崎重工業常務(右)

柏木 第六次エネルギー基本計画に発電用燃料として、水素・アンモニアを1%利用と明記され、また国の2兆円のグリーンイノベーション基金で3700億円が水素向けとなりました。水素を取り巻く環境は重要な局面を迎えています。水素を切り口にした取り組み、加えて両社が協力した豪州からの液体水素調達について、その経緯などを教えてください。

笹津 当社は「J-POWER ”BLUE MISSION 2050”」を昨年2月に発表しました。CO2フリー発電の水力、風力、地熱、原子力を従来以上に加速度的に開発し、加えて水素をキーワードにCO2フリー水素発電の取り組みを打ち出しました。水素は単体では自然界にほとんど存在しません。そのため水電解、あるいはCO2の安定的な処理・利用を前提とした化石資源を改質して作る必要があります。

そのトランジション期では、まずは既設火力へ、長年培ってきた当社技術を導入します。「GENESISコア技術」と呼んでいますが、石炭のガス化・ガス精製、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)を適用し、将来はCO2フリー水素発電を成し遂げる計画です。

原田 当社も「グループビジョン2030」を発表し、環境エネルギー分野では水素やカーボンニュートラル(CN)を推進していきます。振り返ると2009年、政府は、50年に90年比で温暖化ガス80%削減を打ち出しました。当時、当社はLNG船や基地、中小型のガスタービン(GT)などLNGが中心でしたが、今後もこの製品群のままか議論した時、生まれた構想が水素チェーンでした。

水素は液体時にはLNG同様に極低温で、既存のLNG技術やインフラの一部を活用できます。ただ、大量の海上輸送技術がなかったため、この領域に挑戦しました。

LNG発電設備の経験から発電費に占める発電設備アセットはわずかで、大部分が産ガス国に渡る燃料費です。仮に水素に取り組むならばチェーン全域に関わろうと考えました。

まず全体のコンセプトを描き、技術を開発していきました。その際、自前技術にこだわることなく、例えば「石炭をガス化」する工程は、IGCC(石炭ガス化複合発電)実証で技術力のあるJパワーさんに協力をいただきました。また、水素は最終的にサスティナブルな資源になり得るわけですが、その水素源を考えたときに、非常に安価に調達できる豪州の褐炭に注目し、これならば液化して日本へ運べると考えたわけです。

豪州の安価な褐炭に注目 石炭をガス化し液化する

笹津 当社は豪州と親和性があります。日本にとって初めて海外炭となる豪州炭を導入したのは当社でして、もう40年近い歴史になります。また豪州大手オリジン・エナジーと組んでタスマニアでグリーン水素製造の検討を始めるなど、なじみのあるエリアです。そうした中で、褐炭資源を重要な水素源と位置付け、埋蔵量の多いビクトリア州で取り組みました。同州に、褐炭をガス化して水素製造する設備を作りました。小型ですが十分な性能を確認できました。また、バイオマスを約30%混ぜた水素製造も確認しました。

褐炭からガス化する豪州のプラント(「HySTRA, J-POWER / J-POWER Latrobe Valley)

原田 その水素を少し離れた場所まで運び、そこに当社と岩谷産業さんが液化・荷揚げ装置を作りました。1月末に水素をチャージし、液化した水素を船に積んで日本へ運んだわけです。これは液体水素でチェーンをつなぐという世界初の取り組みです。

また、10年以上も前に、ゼロからのスタートで豪州政府との交渉にあたり、長い時間をかけて政府との信頼関係を築いてきました。また本件は、日本、豪州に加えて、ビクトリア州から資金的な援助をいただいており、本当に感謝しています。

笹津 水素製造面でもレギュレーションなどが未整備だったため、政府支援があって進められました。ただ今後は製造した水素を活用するために、われわれの取り組みが国際的に認証されないと、事業化の見通しは立てられません。われわれは「死の谷」は越えたと思っていて、次は「ダーウィンの海」、つまり本格商用化の難しさの局面に来ていると感じています。

柏木 目指す供給価格は。

原田 今回の船体は小さく、船長は100mちょっとです。目指すは300mですので、現状は124分の1の大きさです。これだと運ぶだけで1N?当たり80円から90円で、経済性を確保できません。ところが124倍だと、船価は10倍にもなりません。また天然ガス価格のように大きく変動しませんので、30年にフルスケールを開発し、輸送費を2・5円、トータルの供給費30円を目指します。

専用船によって大量の液体水素を運搬する

笹津 大崎クールジェンのプラントは日量1200tの石炭を使ってIGCCを実証運用しています。これを水素製造として換算すると年間5万t。一方、政府目標は30年で300万tです。そのうち200万tはいわゆる副生水素などと言われているので、真水では100万tです。言い換えれば、大崎クールジェンのユニット20基分で充分達成できてしまいます。

さて話を豪州に移しますと、今後の事業化する場合には国内水素利用だけでなく、豪州域内での利用先もセットで考えていくことが必要です。その際のアイデアがあります。ビクトリア州は面白い場所で、褐炭だけでなく海側に天然ガス田が存在します。実はここからガスパイプ動脈が走っていまして、ここに10~20%の水素を混ぜることができるのです。商用化フェーズを見据えるにあたり、ある程度の事業性を見通すことができます。

動き出すCCSでネガエミ 航空・船舶と広がる用途先

原田 豪州に関して一つ重要なポイントがあります。それはCO2ストレージです。褐炭という安価な資源が存在するだけでなく、CCS(CO2の回収・貯留)ができる非常に恵まれた土地があって、政府はカーボンネットとなるCCSのプロジェクトを推進しています。これは一つの発電所からだけでなく、各エリアから運んだCO2を埋める。加えて最近、日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が本件への参画を決めるなど、豪州のCCSを巡る動きが活発化しています。

柏木 CCSについてはレギュレーションが決まっていません。米国や豪州、インドなどと連携しASEAN10ヵ国を取り込み、日本主導の制度整備が必要です。さて今後の展望や描いているシナリオを聞かせください。

笹津 「GENESIS松島」計画を進めています。稼働から約40年の松島火力にガス化システムを追設します。発電効率が上がり、さらに負荷変化率は1分間で10数%と、非常に機動性に優れたプラントになります。これは何を意味するか。再エネ大量時代では、需給調整の機能が極めて重要ですが、その調整電源としての役割を果たすわけです。

次に、既設ボイラにはアンモニア混焼など、また追設ガス化炉にはバイオマス混合ガス化を適用し、低CO2化を目指します。最後に小規模CCSを敷設すればほぼゼロエミッションできますし、大規模CCSになれば、ネガティブエミッションも実現します。

さて、ゼロエミに向け電力部門では厳しい道のりですが、取り組むターゲットが明確になりつつあります。一方、産業・輸送、民生分野の非電力部門では、電化が困難な分野もあり、完全なゼロエミは難しい状況です。そこで、ネガティブにする技術が必要です。その意味で当社技術が貢献できると思っています。

海外では化石資源を水素転換し、運んで発電燃料などに使う。石炭とバイオマス混合ガス化+CCUSによるネガエミ技術を環太平洋圏で展開するシナリオを考えています。

原田 水素の消費先を確保することが重要で、例えば小規模ですが神戸のポートアイランドで水素専焼のGTコージェネを18年から運転しています。水素は燃焼スピードが速いですが、その辺の技術については問題なく運転しています。これを例にすると、当社では多様な熱需要向けに小型から数万kW級の機種を数多く納めています。これらは、燃焼器を変えるだけで水素転換できます。ですので、まず天然ガスで運転し、安価な水素になればGTはそのまま、燃焼器のみを交換し水素発電できます。

さらに、CN宣言後は用途先の候補は広がっています。航空機や舶用、発電用エンジン、最近ではモーターサイクル向けの話が出ていて、大量の水素が必要になります。当社1社だけでは対応できませんので、今仲間づくりを進めているところです。

また、当社の事業活動で排出されるCO2対策は当社自らが先行して水素発電を導入したり、あるいは再エネと省エネを組み合わせたり、それでも排出するCO2は回収・利用する。30年までにそんなモデルケースを実現し提案したいです。

水素版FITと引き取り保証 予見性高めた制度導入を

柏木 専門企業の立場で、政策的な要望などをお話しください。

笹津 3点あります。当社が関与する水素製造パイロットプラントは成功裏に終わりましたが、事業開発はこれからで、ダーウィンの海を越えるためにどうしても支援が必要です。

 二つ目がCCSです。当社の再エネ設備からのグリーン水素製造はもちろんできますが、大量・安定的に、かつ安価に供給するにはブルー水素が重要です。そうなるとCCUSがマストですが、Uに大きく頼れないので、Sを進めないといけません。ですので国内外を含めたCCS推進に関する事業環境を政策的に整備していただく必要があります。これは民間企業だけでは不可能です。

 それから三つ目です。黎明期のLNG同様、サプライチェーンが発展途上で脆弱な間は、各パートで十分な効率性が担保されないので、結局、水素価格は高いわけです。それを使うための何らかの予見性がないと、事業化は難しい。価格緩和するような制度設計がポイントです。

原田 「エンジンが悪いのではない。悪いのはCO2」というトヨタさんの言葉を借ると、悪いのは石炭ではなくてCO2です。内燃エンジンに携わる方々、化石資源の方々。こうした産業界が、順を追ってトランジションできる仕組みが必要です。どうしても欧州の制度設計の動きは速く、最近では貿易時に、製品製造時のCO2をカウントする国境炭素税を言い出しています。こうした主張に押し切られるのではなく、日本は自国の事情を踏まえた独自の主張を世界へ発信すべきです。

 それから、昨今の国内エネルギー情勢を見渡したとき、太陽光パネルや風力発電設備は中国や欧米勢が中心です。一方、水素は日本が主導できる技術領域です。例えば極低温の液体水素を運ぶ断熱技術。これは100℃のお湯を入れ1ヵ月後も1℃しか下がりません。これはLNGタンクの10倍の性能で、こうした技術をリーズナブルに提供できます。機器の多くを日本企業が提供すれば、自ずと国内に資金が還流します。

 そして今後CNを進める際の負担です。大量のCO2を排出する産業だけが背負うべき負担なのでしょうか。やはり国全体で広く薄く負担する仕組みを作っていただきたいと思います。日本には資源がなく、貿易で外貨を稼ぎ、それで資源を獲得している国ですので、輸出競争力を失わないように進めるべきです。

柏木 CO2フリー水素発電費を市場連動価格買い取り制度(FIP)にする発想もあります。

笹津 発電事業者の電気に限ればそうですね。また妥当性のある燃料価格にするには引き取り保証が良い方策で、自ずと上流投資は進みます。

原田 そうした仕組みは予見性を高め、リスクの高い初期には導入を進め価格を下げられます。期待収益率が低くても事業に着手できるからです。日本の技術投資も進みます。

柏木 いざという時、再エネは力になりませんが、長期間貯蔵できる水素は万が一の時でも発電用にも使えます。これはセキュリティ対策にもなり、広く薄く負担する総括原価で水素を支える仕組みがあってもいいと思います。国情に応じたエネルギーミックスをどう考えるかが国の英知です。本日はありがとうございました。

かしわぎ・たかお  1970年東京工業大工学部卒。79年博士号取得。東京農工大大学院教授、東工大総合研究院教授などを経て、12年から同大特命教授・名誉教授。政府のエネルギー関係の審議会委員。

ささつ・ひろし  1986年筑波大大学院環境科学研究科修了、電源開発入社。2003年技術開発センター水素・エネルギー供給グループリーダー、16年執行役員技術開発部長などを経て20年取締役常務執行役員。

はらだ・えいいち  1981年慶応大工学部卒、川崎重工業入社。2004年技術開発本部技術研究所熱技術研究部長、15年執行役員技術開発本部副本部長などを経て21年常務執行役員水素戦略本部長。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年3月号)


【東京電力ほか/宅内IoT利用の防災・減災サービス実現へ】

東京電力ホールディングス、東京電力パワーグリッド、足立区は共同で、宅内のIoT機器を活用した防災・減災サービスの実現に向けた実証を始める。このほど、実証に関する協定を結んだ。国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」の採択を受けたもので、国内初の取り組み。具体的には電力センサー機能を持つ「宅内IoT機器」を分電盤内に設置し、電気火災を予兆検知する。検知した場合は、技術員を派遣して対応する。宅内IoT機器を情報のハブとすることで、自治体が持つ防災情報の伝達の効果などを検証していく。足立区は今年度中に5世帯、来年度中に95世帯のモニターを募集する。東電HDがサービスを設計し、東電PGが電力データを収集する。

【東京ガスほか/自治体施設を利用したメタネーション実証】

東京ガスと横浜市は、メタネーションの実証試験に向けた連携協定を締結した。東京ガスは3月から、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で実証を開始する。内容は太陽光発電から水電解装置・メタネーション装置の実力や課題を把握し、カーボンニュートラルメタン製造から利用までの一連の技術・ノウハウの獲得を目指すもの。一方、横浜市は下水道センターなどから、下水処理してろ過した再生水、下水汚泥の処理工程で発生する消化ガス(バイオガス)、排ガスから分離回収したCO2など、環境負荷の低い資源を原料として東京ガス側に供給していく。こうした一連の取り組みにより、将来の脱炭素化に向けた技術開発を進めていく。

【東芝エネルギーシステムズ/大牟田市のバイオマス発電所が運開】

東芝エネルギーシステムズのグループ会社シグマパワー有明(SPAC)は、バイオマス発電所「大牟田第二発電所」(福岡県大牟田市、22万1000kW)が運開したと発表した。第一発電所は昨年12月に運転を開始しており、これでフル運用となった。同発電所は、2018年11月に建設を決定。SPACが既に運営するバイオマス発電「三川発電所」の隣接地に約200億円を投じて建設された。燃料にはPKS(ヤシ殻)を使用する。同社は太陽光発電、風力発電などの再エネ設備と蓄電池の分散型エネルギーを組み合わせ、発電量予測やリソース制御を行う「再エネアグリゲーション事業」に注力する。大牟田発電所も再エネ電源の一つとして活用し、事業間シナジー効果の創出を図っていく。

【三菱造船/舶用高圧式エンジン向け新システムを受注】

三菱造船は、舶用高圧式二元燃料エンジン向けのLNG燃料ガス供給システム「FGSS」を初受注した。システムは、LNG燃料タンク、ガス供給ユニット、制御装置などで構成されている。省スペースかつメンテナンス性に優れた機器モジュール設計によるカーゴスペースの最適設計、またカスタマイズ可能な独自の制御装置の採用などにより、優れた操作性と安全性の両立に貢献できる。今治造船グループ会社で建造されるLNG燃料自動車運搬船6隻に搭載される予定。

【IHI/アンモニア専焼に特化 ガスタービンを開発】

IHIは東北大学、産業技術総合研究所と共同で、NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」において、液体アンモニア専焼ガスタービンの研究開発に関する実証を行う。期間は2021年度から27年度まで。ガスタービンコージェネシステムからの温室効果ガス削減に向けて、2000kW級ガスタービンでのアンモニア100%専焼技術を開発するとともに、実証試験を通じた運用ノウハウの取得や安全対策などの検証を行い、早期の社会実装を目指す。

【富士電機/蓄電池用パワコン発売 再エネ普及拡大に貢献】

富士電機は再エネの普及拡大に向けて、電力系統の安定化を実現する大容量蓄電池用パワーコンディショナ(PCS)(DC1250V/2600kVA)を発売した。蓄電池の充放電機能を備えている。自社製パワー半導体を搭載し、最大98.2%の電力変換効率で電力損失を大幅に低減。待機時の電力消費量も97%削減する。昨年4月に始まった需給調整市場では、2024年度から電力系統内で需給バランスを調整し周波数を整える取引が開始される。電力系統に直接接続する大型蓄電池の需要の高まりが予想されている。

【住友共同電力/新居浜LNG基地にタンカー入港】

住友共同電力が購入するLNGを輸送するタンカーが、新居浜LNG基地に入港し、荷役を開始した。LNGは東京ガスとの売買契約に基づき購入するもので、基地のタンクは23万kl×1基。同社が7月の営業運転開始を目指している新居浜北火力発電所の主燃料として使用する。発電所は住友化学愛媛工場新居浜地区内に建設中で、化学プラントで発生する副生ガス(水素)も燃料として利用する計画だ。設備は発電効率に優れたコンバインドサイクル発電方式。工場の生産工程で必要なプロセス用蒸気を供給する熱電併給のコージェネレーションを構築することで、最新鋭のLNGコンバインド発電設備より優れた総合熱効率になる。省エネやCO2排出低減を実現する。

【大阪ガスほか/地元電源活用で再エネの地産地消】

大阪ガスとJR九州は、佐賀県内の駅舎に再エネ電気を供給することで合意した。Daigasグループが保有する佐賀県内の肥前・肥前南風力発電所(1500kW×20基)を利用し、非化石証書を組み合わせて再エネ電気をJR筑肥線の10の駅舎に供給する。大阪ガスの代理店となるDaigasエナジーが販売を担当。料金メニューはRE100の要件を満たす「D-Green RE100」となる。この取り組みによって、地元産の再エネ電源による「再エネ環境価値の地産地消」を実現する。

【中遠ガス/水道・ガスメーター活用 高齢者見守りの実証】

静岡ガスのグループ会社である中遠ガスは1月から約1年間、掛川市内の高齢者世帯13戸を対象に水道と都市ガスの使用量データから生活動向を24時間確認する実証実験に参画した。このような手法を見守りの用途に活用する取り組みは、静岡県内初の試み。今回の実証実験では、スマートメーターを取り付け、見守りサービスの有効性を検証する。

【古河電気ほか/EVでまちづくり 鉛蓄電池を供給】

古河電気工業と古河電池は、佐賀県上峰町と九州電力グループの連携協定における「EVを中心としたまちづくりプロジェクト」に対し、バイポーラ型鉛蓄電池を供給する。両社は、協定の目的に賛同し、このプロジェクトを通じて、EVなど電気を活用したまちづくりと、蓄電池を活用した災害などの緊急時における電力レジリエンスの強化に貢献していく。

【エア・ウォーターほか/ハイブリッド冷暖・給湯 省エネ大賞受賞】

エア・ウォーター北海道は、リンナイ、コロナと共同で、2021年度省エネ大賞の製品・ビジネスモデル部門で、省エネルギーセンター会長賞を受賞した。受賞した製品は、3社が共同で開発した寒冷地向けハイブリッド冷暖房・給湯システム「VIVIDO(ヴィヴィッド)」だ。LPガスのボイラーと電気式のヒートポンプを組み合わせた設置の制約もないハイブリッドシステムにより、ガスと電気の特性を発揮する。快適性、省エネ性、経済性、環境性を高いレベルで実現したことが高く評価され、同賞の受賞につながった。

【特集2】欧州から見た再エネ・水素事情 将来の安定供給に懸念強まる


【インタビュー: 髙木愛夫/火力原子力発電技術協会技術部長】

再エネや水素を進める欧州事情の中で、現地の事業者は何を思っているか。毎年、欧州発電事業者との技術会議に参加する火力原子力発電技術協会に話を聞いた。

―昨年、欧州大規模発電事業者技術協会(VGB)が主催する火力技術会議に参加されたようですね。

髙木 はい。VGBは大型火力を保有している欧州電力会社が主体の組織で、日本の重電メーカーなどの現地法人も加盟し、33カ国437法人が会員です。当会はパートナーという立場です。毎年、欧州各国の発電事業者の技術交流を目的に会議が開催されており、私は2017年から毎年参加しています。

―当時の様子はどうでしたか。

髙木 電力団体であるユーロエレクトリックの方が「これからは再生可能エネルギーの時代だ。研究開発についても再エネに全てを投資しよう。ゆくゆくは石炭火力を廃止していく」と講演していました。ところが、会場は「石炭火力をなくし、再エネだけで電力の安定供給を担えるわけがないだろ」と白けたムードでした。

―講演者は電気事業のプロですよね。

髙木 そうです。EUのエネルギー政策に携わっている方です。そういう方の講演だったのに、会場は「とんちんかんなことを言っている」という雰囲気でした。ところがその翌年、また同じ人が同じような内容の講演をしたのです。

―会場の反応はどうでしたか。

髙木 静かで、否定的な反応はありませんでした。火力発電事業者は再エネと共存していこう、という意識がすごく強くなったのかなと感じました。18年当時は、「火力の調整力」というキーワードがスポットを浴びていて、VGBは「フレキシビリティーツールボックス」という技術書を出版し、火力の調整力を高めるにはどういう技術が必要か、そんな議論を深めようとしていました。

ドイツに「右へ倣え」 再エネ資源を海外に求める

―石炭産業が主力のポーランドはどういうスタンスなのでしょうか。

髙木 私の感覚としてはポーランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、チェコなどはドイツに「右へ倣え」です。国家規模が小さい各国がユーロ圏で生き残るには、ドイツには逆らえないという感じです。例えばチェコはドイツ同様に38年に石炭を廃止するプランでしたが、ドイツの前倒しを受けて、チェコも踏襲します。

―フランスはいかがでしたか。

髙木 それが、面白いのです。EDFの人がいて話をすると、「各国いろいろな事情があるから、政策は各国に委ねるべきだ」と。「日本は石炭を廃止するか決めていない」と伝えると、「そういう姿勢のままでもいいのではないか」という感じでした。あくまでも個人の意見ですが。

―ドイツはいま再エネを中心とした政策を展開しています。

髙木 確かにそうですが、再エネリソースは限られています。英国やスペインに洋上風力を作りドイツへ持ってくる、あるいは、北アフリカの風力や太陽光の再エネ資源を活用する。当然輸入です。なので「自国で再エネは賄えない」とドイツ人自らはっきりそう言っています。最終的には再エネからグリーン水素を作って運ぶ。各国でそんな検討をしています。

―欧州の水素利用はどのようなものですか。

髙木 製造業、電力、輸送用燃料、ビルディング(冷暖房)、輸出用などですが、国によって異なります。英国は産業用途がメインですね。ロシアは自国の天然ガスパイプラインを使った輸出用として考えています。

石炭火力無き不安感 安定供給の責任は系統側

―日本のエネルギー政策はどのように受け止められていますか。

髙木 一部の有識者が集まるような会議と、私がこれまで参加してきた会議は趣が全く異なります。前者はEUの中枢部にいる人たちで、「石炭がなくても困らない。再エネを進めよう。グリーン水素を世界中から集めよう」という考え方です。

 一方、私が参加してきたのは、あくまでも電力会社の現場をよく知る人たちの会議で、ビジネスベースで話をします。そういう方にとって、日本は極東の島国という印象しか持っておらず、日本のエネルギー政策について興味を持っているのは一部の方だけです。

―会議に参加して得た教訓は。

髙木 日本は、欧州の取り組みを意識しすぎないほうがいいと思います。日本の電力ネットワークは海外とつながっていません。資源も海外に依存しています。こうした日本の当たり前の事情を踏まえて議論すべきだと思います。また、会議に参加していて印象的だったのは、電力の現場を知っている皆さんと個別に話していくと、セキュリティー・オブ・サプライというワードを必ず口にします。「本当にこの先の安定供給は大丈夫なのか」と懸念していました。

―発電事業者側が今後、どうしていくべきか模索しているのですか。

髙木 模索できないわけです。目先では再エネを増やし、将来はグリーン水素を世界中から集めますが、その水素にしても、安定供給を前提としている場合、50年の時点では足りないことは明白です。いま進めている計画はステディーではなく、リスキーということは、現場を知っている人間は理解していて、「そういうときにどうやって電気を供給し続けられるか」と懸念しているわけです。

―懸念で終わらせてはいけませんね。

髙木 長期的な安定供給に責任を負うのは火力発電事業者側ではなく、系統運用者(TSO)側になります。系統側が電源を確保しておかないといけないわけで、その仕組みの中で発電事業者が対応するわけです。「本当に石炭を廃止して大丈夫なのか」と懸念を抱きつつ、「代替の電源を確保しておく責任はわれわれではない」と。次の火原協との交流会議はセキュリティー・オブ・サプライが議題の一つになると思います。

―石炭は残すべきですか。

髙木 使えるものならば、有効に使うべきですし、アンモニア混焼なども進めるべきです。日本の石炭火力の性能は、諸外国に比べてはるかに優れています。長い歴史から見ると、欧州は酸性雨の対策を解決できませんでした。だから石炭火力が減ってきた。ところが日本の煤煙処理技術は優れていて、NOXやSOX問題を解決できたため石炭を残せた。

―現在の日本の自動車産業と構図が似ていますね。

髙木 FCVを開発できなかった欧州勢がEVシフトした。欧州の方の「トヨタはすごい。VWは駄目だ」と言っていたことが印象的でした。

たかぎ・よしお  1978年東京工業大学入学。84年に同大総合理工学研究科修士課程を修了し、日本鋼管入社。95年に東京電力に入社し、電力技術研究所で流通設備などの技術開発に携わる。16年から現職。

【特集2】中国や韓国のニーズに応える 高付加価値機種の開発に注力


【トキコシステムソリューションズ】

ディスペンサーを手掛けるトキコは、国内だけでなく中韓にも市場を広げている。低コスト化が進む充てん設備で、今後はデュアル式などの高付加価値化に力を入れていく。

水素ディスペンサーの開発・設計から製造、水素ステーション(ST)に関わるエンジニアリングやメンテナンスを一気通貫で手掛けるトキコ。ディスペンサーはネオライズというネーミングで、最近では東京晴海水素ST、高輪ゲートウェイ水素STなどエネルギー事業者が運用するSTを受注。また、四国では地元民間企業が、独自に建設・運用するSTをサポートするなど、全国にトキコディスペンサーが普及している。

「水素関連設備は本社が販売しますが、保守などの対応は、全国にある当社販売網を活用します。水素STが全国に広がる中、どのような場所でもサポートできる体制にしたい」。営業本部インフラ・エンジニアリング営業部水素グループの中井寛マネージャーは話す。

そんなトキコは今、海外普及にも注力する。エリアは中国や韓国だ。昨夏、中国・上海の「水素ステーション設備展」に出展。そこでは、35MPaと70MPaの二つの圧力に対応する2ノズルタイプの「デュアル水素ディスペンサー」を参考出品で展示した。これまで、安全性や耐久性などの品質管理に厳しい日本で開発しており、中国や韓国の政府や企業からは日本品質製品を評価してもらっているそうだ。

「特に韓国のニーズは旺盛です。国を挙げてSTを整備しています。そのスピードは日本より速いと思います」。販売については、現地の代理店を通じて、ディスペンサー単体の販売を進めている。

大型画面やデュアル式 十分に進んだ低コスト化

3月から東京ビッグサイトで始まる水素・燃料電池展では新たなコンセプトモデルを展示する。昨年の同展では、将来のセルフ式対応のSTも視野に入れた「大型ディスプレイ」モデルを展示。本モデルについて来場したユーザーからヒアリングし、「外観がシンプルになった」「ディスプレイのタッチパネルはガソリン計量器と同じデザインタッチなので分かりやすい」といった評価を得たそうだ。

「ディスペンサーの価格自体はこれまで低下に次ぐ低下で、下がり切っています。今後は『大型ディスプレイ』のようなアプリケーション開発や中国で展示した『デュアルディスペンサー』のような付加価値を高めた開発に移っていくと思います」

高速道路や一般道路、空港や工場など地点ごとに果たすSTの役割は自ずと異なる。デュアル式は、通常圧力のFCV向けや低圧力のフォークリフトなど、異なる圧力の車両に同時充てんできる特徴を持つ。そうしたことから、トキコのデュアル式は、多様な車両が利用するSTにとって最適なディスペンサーとなりそうだ。

FC EXPO2021春モデルの充填機

※1月28日、岩谷産業がトキコシステムソリューションズを買収すると発表しました。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年2月号)


【東京ガスほか/CN都市ガス供給を茅ヶ崎市に報告】

東京ガスは神奈川県茅ヶ崎市の佐藤光市長に対し、東邦チタニウム茅ヶ崎工場にカーボンニュートラル(CN)都市ガスを導入したことを報告した。本件は神奈川県で初めての事例。供給量は年間約55万㎥。CO2削減量は年間約1500t。CN都市ガスは天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの過程で発生する温室効果ガスを、CO2クレジットで相殺することで、燃焼してもCO2が発生しないと見なされるLNG。東京ガスは「CN都市ガスは50年の脱炭素社会実現に向けた『トランディションエネルギー』として大きな期待が寄せられている。低炭素・脱炭素に向けた地に足を着けた取り組みの一環として活用してもらうと同時に、引き続きさまざまな連携をしていきたい」としている。

【東芝/再エネ利用の最大化を図る市場取引のAIシステム】

東芝は、再エネアグリゲーター向けに、AIシステムを活用した「電力市場取引戦略AI」を開発した。インバランスを回避し、市場取引での収益確保を支える。同社独自の「再エネ発電予測」技術を活用し、日本卸電力取引所の過去のデータから市場価格を予測する。再エネ発電量と市場価格の各予測値を組み合わせてマーケットリスクやインバランスを回避する独自のアルゴリズムを開発した。スポット市場と時間前市場における売り入札量の最適な割合をAIがはじき出す。この技術は、昨年12月から開始した経産省の再エネアグリゲーション実証事業で採用されている。東芝は発電出力変動に課題を抱える再エネ電源を、安定的な供給源とすることで、再エネ主力化を支えていく。

【Daigasエナジーほか/天然ガス・RPFが燃料の低炭素発電所を建設】

大阪ガスの子会社、Daigasエナジーは、東洋紡の岩国事業所(山口県岩国市)で、石炭火力発電所(1972年竣工、1万480kW)を低炭素電源へ切り替える更新工事を始めた。石炭から天然ガスと古紙および廃プラスチック類を主原料とした固形燃料(RPF)に転換。新設の発電所は2023年10月に運転開始予定。両社がエネルギーサービス契約を結んで、省エネ、低炭素化に資する高効率のガスタービンコージェネを導入し、Daigas側が電気と熱を供給する。燃料インフラでは、LNG貯槽(175kl)を5基新設する。新設の発電所では脱石炭の実現と本システムから発生する高温排ガス、LNGの冷熱を有効利用する省エネ制御が可能となり、年間約8万tのCO2排出量を削減する。

【大林組/スマートEMSを開発 トヨタ水素発電施設に】

大林組は、燃料電池や水素混焼型ガスエンジンなど運転の特性が異なる機器を最適に運転させるためのスマートエネルギーマネジメントシステムを開発した。トヨタ自動車の工場用自家発電設備の実証サイト、水素発電パークに導入。近接するパワートレイン3号館(PT3号館)に供給する電力と熱の最適管理に向け運用している。電力や熱の需要に合わせて環境性、経済性、水素利用量のどの項目を優先させるかをオペレーターが設定できる。PT3号館は環境評価指標であるLEEDの認証を取得している。

【清水建設/常温常圧で水素を貯蔵 太陽光の余剰でCO2削減】

清水建設は産業技術総合研究所と共同で、建物附帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を開発。郡山市総合地方卸売市場(福島県)内で、2年間の実証運用を経て、電力由来のCO2排出量を53%削減できることを確認した。太陽光発電の余剰電力を利用して水素を製造・貯蔵する。必要時に抽出して電力に変換する最先端の水素エネルギー蓄電設備だ。常温常圧で水素を吸蔵・放出する独自の水素吸蔵合金を利用しており、安全でコンパクトに水素を貯蔵できる。同社北陸支店の社屋内に実装し、実用化を目指す。

【日鉄エンジニアリング/東広島市にごみ処理 余熱による電力を供給】

日鉄エンジニアリングはこのほど、代表企業を務めて運営する「広島中央エコパーク」で廃棄物を処理する際に発生する電力を、東広島市と学校給食センターのほか21施設に供給する契約を締結した。契約電力は合計3163kW。広島中央エコパークは、高効率ごみ発電施設に汚泥再生処理センターを併設し、昨年10月に運営を開始した。東広島市のほか、周辺自治体で発生するさまざまな一般廃棄物を安定的に処理し、最大限に資源化することができる。

【岩谷産業ほか/水素・LPガスを混合 導管に注入して実証へ】

岩谷産業は、福島県でガス事業を手掛ける相馬ガスホールディングスと共同で、水素とLPガスの混合ガスを導管に供給することを目的とした検討を始めた。水素の混合技術、CO2削減効果、コンロや警報器などの性能や安全性を検証していく。将来は、相馬ガスのガス導管を活用して、エリア内の約500戸を対象とした実証を目指していく計画だ。

【グランフロント大阪/全電力を再エネ由来 関西大型複合ビルで初】

グランフロント大阪は、9月から施設内で使用する電力を全て再エネ由来に切り替える。関西エリアの大規模複合施設では初めてのことだ。この施設では20年度実績で約8000万kW時の電力を消費しており、今回、再エネ電力へと切り替えることで年間で約2万5000tのCO2を削減する。関西電力が調達する非化石証書付きの電力を活用する。

【住友電気工業/自社プラットフォームによるEV実証を開始】

住友電気工業は運営するプラットフォーム「Open Vehicle-Grid Integration Platform(OVGIP)」を利用して、米Xcel Energyと自動車メーカー4社がEV(電気自動車)充電実証実験を開始したと発表した。EVの普及を想定し、蓄電池をスマートグリッドの一要素ととらえ、系統安定化や送配電線の混雑緩和などに利用する。実証実験では、自動車メーカーが通信するデータや信号を使用しEVの充電時間を遠隔管理。利用者が電力需要の低い時間帯に充電することを促す。

【イーモビリティパワー/水素・LPガスを混合 導管に注入して実証へ】

イーモビリティパワー(四ツ柳尚子社長)は2021年末、横浜市の首都高速道路・大黒パーキングエリア(PA)に、国内で初めてEVなどを6台同時に充電できる新型急速充電器を設置した。総出力は200kWで、1口最大90kWのスピード充電が可能となる。その特徴はパワーシェアリングによる効率運用で、接続中のEVの状態に合わせて充電器出力をシェアするもの。また、新型充電器は「2020年度グッドデザイン賞」を受賞している。同社は、今後も高速道路PAでの設置を増やしていきたい考えだ。

【北海道電力ネットワークほか/灯油タンクの残量監視センサーを開発】

北海道電力ネットワークとゼロスペックは、電力スマートメーターに通信可能な灯油タンク残量センサー(スマートオイルセンサー)を開発した。3月末まで通信状況の実証試験を行う。一般的に灯油の配送は、定期的配送または顧客の灯油残量確認・依頼に基づいている。実証では配送事業者がタンク内の残量データを検知するスマートオイルセンサーを活用し、給油時期の適正化や効率的な配送ルートの設定など、計画的な配送につなげる。電力スマメは北海道内の広範囲に敷設されているため、ほぼ全域での活用が見込める。寒冷地の北海道では重要なライフラインである灯油の供給について、人口減少や高齢化による配送の担い手不足などにより、効率的な配送が求められている。

【特集2】室内からアウトドア向けまで ガスを使った嗜好品の数々


キッチンライフの充実化やアウトドアへのニーズなど家庭用機器への期待はさまざまだ。そんな多様な嗜好に応えようと、各社は技術や発想に磨きをかけている。東邦ガス、リンナイ、岩谷産業の取り組みを追った

新発想で挑んだ商品開発 クラウドファンディング利用の成果

東邦ガス

東邦ガスはクラウドファンディングを利用して商品開発を行った。多機能減圧鍋「グルミール」で行った取り組みは注目されそうだ。

東邦ガスは新たなニーズに応えられる商材を提供するべく、ユニークな仕組みのテストマーケティングを活用した商品を開発した。その仕組みとは「クラウドファンディング(CF)」だ。正式に商品化する前に試行販売(1個当たり1万円程度)という形で応援購入者を募り、目標金額に到達したらニーズがあると判断し商品化する。応援購入者には開発した商品を還元する。こんなフローによって商品化されたのが、多機能減圧鍋「グルミール」だ。エネルギー業界で、こうした仕組みで商品化をした例は初めてと言っていい。

ニーズに合った商品化 売れないリスクを低減

これまで東邦ガスではガス機器や床暖房などのガス関連設備の開発をした経験はあるが、鍋のような家庭用商品を開発したことはない。そんな初商品を、なぜCFで商品化するのか。技術研究所家庭用技術総括の佐宗洋子次長は次のように説明する。

「テストマーケティングの意味合いが強いです。試作品や商品コンセプトをCFサイトに掲載して、応援購入者がどの程度集まるかによって、われわれが考えたコンセプトに本当にニーズがあるかを測ることができます。同時に商品化したけれど売れないというリスクを低減します。加えて、お客さまのご質問やご要望を商品化の際に反映しブラッシュアップできます」。そんな経緯で生まれたのが今回の多機能減圧鍋だ。

製品開発には、「ガスコンロを楽しく使ってもらう」ということをコンセプトに据え、鍋メーカーの北陸アルミニウムと共同で取り組んだ。

最大の特長は、鍋内部の圧力を下げることで鍋を加熱し続けなくても沸騰状態を維持することが可能な「減圧鍋」であること。煮物料理などをつくるときに具材の煮崩れが少ない、味が染み込やすい、加熱時間が短縮できる―といったメリットがある。また無水調理にも対応する。

炊飯においては、メーカー各社から自動炊飯機能を搭載したガスコンロが販売されているものの、専用炊飯鍋は自社製コンロにしか対応しておらず、汎用性に課題を抱えていた。そこで、東邦ガスはコンロメーカーの協力を得ながら、各コンロの火力の強弱や燃焼具合を確認。各種チューンアップして、あらゆるコンロの自動炊飯機能に対応した。

このほか、重量は1.5㎏と、調理の時短に定評がある圧力鍋や、鉄鋳物でできた無水鍋に比べて軽量。吹きこぼれが起きにくい形状にしたり、鍋内部の目盛りが目立たないようにしたりするなど、機能性と意匠性を両立できるよう鍋メーカーやデザイン会社と研究し、そのまま食卓に置いても違和感のない商品に仕上げた。

目標金額を1時間半で達成 第三弾の商品開発も計画

CFを利用した商品化に対して、社内からは「面白い」との反応が多く、トントン拍子で企画が進んでいったという。一方で、「本当に売れるのか」(佐宗次長)との不安がよぎったものの、ふたを開けてみれば、商品化が成立する目標金額の100万円は支援の募集を開始してからわずか1時間半で達成。最終的には1000万円を超す応援購入を集めた(募集は終了)。今回利用したCFサイト「Makuake」内でもかなりヒットした商品だといい、ホームページ内でも大きく扱われていた。

グルミールは、今年6月下旬から東邦ガスの公式ウェブショップや販売店「エネドゥ」店頭で販売する予定という。

さらに、東邦ガスでは、第二弾として、太陽熱を蓄えて繰り返し使えるエコな防寒マットの試行販売を行い、こちらも目標金額を達成した。

佐宗次長は、「CFで新しい商品の開発に挑戦できることが今回の取り組みでよく分かりました。開発を進めることでデザイン会社や鍋メーカーなど、これまで付き合いの少なかった人たちと協力することができ会社としての視野も広がります。挑戦を続けることで、生活を豊かにしたいですね」と、第三弾の商品開発も計画しているという。 暮らしを便利にする商品開発の新しい方法として、CFを採用した東邦ガスの取り組みは、業界から注目されそうだ。

第2弾となった防寒マットは太陽熱利用のエコな商材だ