【特集2】動画配信や医療など新サービス展開 三方良しのトリプルウィン目指す


【大阪ガス】

大阪ガスがエンドユーザー向けに、これまでのガス機器関連サービスに加えて、新たなサービスを展開中だ。普段使いのパソコンやスマートフォン、テレビ画面を通じて、暮らしに役立つ商品やサービスの提供に本腰を入れている。

同社は、「つながる変わるおうち時間」をキャッチフレーズに、エンドユーザーの「おうち時間」を快適にしようというコンセプトのもと、「スマイLINK」という新たなサービスを始めている。

従来のガス機器関連サービスに加え、①水回り、ハウスクリーニング、家事代行などの日常生活「くらし・サポート」、②夜間休日の訪問診療・オンライン診療を受けられる「メディカルサポート24」(ライト版)、③大阪ガスが運営するEC(買い物)サイトの利用、④関西圏の飲食店を対象にお得なサービスを受けられる「いっとくパス」―といった内容となっている。

サービス項目の数、各項目内のコンテンツは、順次拡充していく予定である。

「TVスティック」を提供 注目はネットフリックス

「まず注目してもらいたいのは昨年8月からスタートした月額制の『スマイLINKTVスティック』というサービス」。大阪ガスエナジーソリューション事業部計画部市場戦略チームの棚倉悠平マネジャーは力を込める。

TVスティックのプランの一つが、「シンプルプラン(月額390円)」だ。ユーザーは大阪ガスから棒状のTVスティックを受け取り、テレビに差し込むだけで、テレビ画面で、ユーチューブなどさまざまな動画・音楽コンテンツを利用できる。加えて前述の「メディカルサポート24」(ライト版)に新たに24時間365日、専門カウンセラーによる相談も受けられる。今後はテレビ画面を通じた診療なども可能になっていく予定だ。

TVスティックのもう一つのプランが、世界最大級の動画配信サービス、「ネットフリックス」と連携したサービスだ。

画質や同時視聴できる端末数(テレビを含む)に応じて、「スタンダードプラン(月額1490円)」と「プレミアムプラン(月額1980円)」の2種類のメニューがあり、加入者はシンプルプラン同様、TVスティックを無料で受け取ることができるほか、メディカルサポート24もこの料金内に含まれていている。

つまり、ネットフリックス料金だけで、TVスティックとメディカルサービスが実質無料になるわけだ。

一番メリットを享受できるケースは、既存のネットフリックスユーザーだ。支払先を大阪ガスへ切り替えるだけで、今以上のサービスを受けられる。

一見すると、大阪ガスには負担が増えるだけで、何らメリットがないように見受けられる。では一体なぜ、こうしたスキームが可能になったのか―。

「ネットフリックス側が手掛ける課金業務やお客さまにご利用いただくための広報業務など、お互いウィンウィンになるような形で連携できる仕組みを構築した。こうした取り組みによって、お客さまにとってお得なプランを提供することができた」(同)

年末年始には、SNSのインフルエンサーと連携したPR戦略を展開した。その影響もあってか、会員も増加傾向だという。

【特集2】県内の中小工務店と連携 エネファームでZEH化を推進


【静岡ガス】

CO2の削減に大きな余地を残す家庭用のエネルギー利用。この分野でいかに環境対策を進めていくかが、カーボンニュートラル時代に向けたエネルギー業界の大きな課題である。そうした中、静岡ガスでは、住宅業界と連携しながら、環境に優しい省エネ住宅の普及を進めている。

「SHIZUOKA環境みらいの会」―。静岡ガスが、地場の工務店や金融機関地元行政などと連携して、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に取り組むための新組織を、2022年7月に立ち上げた。

省エネルギー法の改正により、家庭用エネルギー利用が大転換を迎えようとしている中、25年以降、住宅を含む全ての新築の建物に対して断熱性を高めたスペックとし、さらに30年以降にはZEH基準へとその省エネ水準が引き上げられる。いずれも義務化だ。

静岡ガスをはじめとするガス業界としては、エネファームや太陽光パネルといったエネルギー機器を組み合わせたZEHへの取り組みが避けて通れない。

一方、ハウスメーカー側に目を向けると、大手メーカーは独自にZEHの普及に取り組む一方、中小のハウスビルダーの対策が課題となっている。資金力や技術力、情報収集能力に乏しい地場の工務店がZEHへアプローチできるかが、大きなカギを握る。

地場の中小工務店がカギ エコジョーズでもZEH可能

「新築着工件数におけるZEHの全国平均の割合は25%程度だが、大手メーカーが手掛ける割合は50%を超えている。いかに大手以外による比率を高めていくかが課題となっている。そうした背景から、地場の工務店さんや建築会社さんの技術的なサポートやエネルギー利用に対する意識付けを高めていきたいというコンセプトで、当社が発起人となって新組織を立ち上げた」。営業本部くらし開発部ルート開発グループの鈴木幸祐さんはこう説明する。そんな経緯から、この組織は地場の工務店や建築会社だけで構成している。所属する会員企業は発足から数カ月で60社ほどになった。

静岡ガスとしては、まずはエネファームと太陽光パネルを標準装備するZEHに注力する一方、エコジョーズ対応も提案していく。照明のLED化や高断熱性能の浴槽、水回りの節水栓など、細かい設備を組み込めば、エネファームを導入せずともエコジョーズと太陽光だけでも十分対応可能だそうだ。エンドユーザーにとっては割安なZEHを導入できるという意味で、ありがたい提案だ。

また業界は今春から「ZEH対応できるようなエネルギーの低消費用の床暖房機器をリリースする予定」とし、ユーザーの快適性を決して損なわないような取り組みも並行して進めている。

ZEH化の波は、ガス業界の取り組みを大きく変えようとしている。ガスコンロや床暖房、エコジョーズ、エネファームといった従来の商材に加えて、太陽光やエアコン、LED照明や節水設備といった、生活回りのアイテムも提案商材としての範疇になっていく。ZEH化は全国的な共通課題であるだけに、静岡ガスの取り組みに期待がかかる。

環境みらいの会の研修の様子

【特集2】洋上「施工」の技術開発進む 日本固有の課題乗り越える


【ゼネコン】

洋上風力の普及に向けて、ゼネコン各社の動きが活発だ。洋上の「作業船」の建造や施工回りの技術開発を進めている。

洋上風力の普及に向けて国内ゼネコン各社の取り組みが活発だ。中でも注目は、洋上作業に欠かせない「船」の存在である。鹿島建設や五洋建設、大林組と東亜建設はそれぞれ連携を取りながら船の建造を進めている。

清水建設では、約500億円を投じて、ジャパンマリンユナイテッドに世界最大級のSEP船の建造を発注しており、2022年10月に完成した。「BLUEWIND」と命名し、4カ月程度の試験を経て、23年3月ごろには洋上風力発電の建設工事に本格活用する。同船は総重量2万8000t、クレーンの最大揚重能力2500t、最高揚重高158mで、「世界有数の作業性能を備えている。8000kWの風車なら7基、1万2000kWなら3基分の全部材を一度にフルサイズで一括搭載できる」(清水建設広報)。自航式と呼ばれる船で、海上の目的地まで曳航するタグボートなどを必要とせずに、自ら航行できることも大きな特長だ。

着床式と浮体式の洋上風力 TLP式で「浮体コスト」減へ

洋上風力には、浮体式と海底に設置する着床式の2方式がある。着床式では、漁協との調整や風況や水深の関係で、設置区域に制約がある中、水深50m以上の沖合でも設置可能な浮体式が注目されており、特に欧米を中心に開発が進んでいる。ただ、浮体式を日本で進める場合、台風や地震が多発する固有の課題を抱えている。このため「長期間安定して電力を供給するための躯体構造と施工技術水準の確立に向けて検討を進めている状況」(業界関係者)だ。

大林組によると、「水深だけでいえば、日本は着床式の限界とされる水深50m以下の沿岸海域の約5倍の潜在面積を有しており、次世代の主流として浮体式への期待が高まっている」とする。

そうした中で、大林組は浮体式風車の参入に向け、「TLP(テンション・レグ・プラットフォーム)」と呼ぶ型式の技術に着目し、基礎構造開発に取り組んでいる。

TLP構造には、次の三つの特長がある。①浮体を海底地盤に係留するアンカーを垂直に緊張係留することで浮体の動揺を抑制する、②海洋占有面積が浮体直下に限定され、漁業者や海洋利用者への影響を最小限に抑制できる、③これまで主流だった鋼材ではなく、ゼネコンが施工管理を得意とするコンクリート製とすることで低コスト化が可能――といった特長だ。材料調達、運搬面における地元サプライチェーンの構築、高齢化が進む中での技量ある人材確保などの課題は少なくないが、知恵を絞りながら、発電効率向上を目指した工夫や、コスト低減に取り組んでいる。浮体式、着床式ともに、ゼネコン各社による技術開発に期待が掛かる。

ゼネコン各社が技術開発を進めている(写真はイメージ)

【特集2】製造から販売まで一気通貫 蓄電池の力で再エネ普及を推進


【パワーエックス】

エネルギー業界の新興企業、パワーエックスが大型蓄電池の出荷を開始した。製造から販売まで垂直統合の事業戦略で、「再エネ&蓄電池」による脱炭素を進める。

再生可能エネルギーの普及を裏方として支える大型蓄電池。この普及に向け今、地殻変動が起きようとしている。仕掛けるのは日本のエネルギー業界の新興企業、パワーエックスだ。

同社の伊藤正裕社長は2023年11月、報道機関向けに開催した発表会で「中国企業などと比べてもコスト競争力があると思っている。蓄電池を国内で自社製造し、ユーザーまで一気通貫で製品を届ける当社の強みを発揮したい。そして、蓄電池を駆使して国内の電気料金をさらに安くする」と力強く語った。同社は「メガパワー」と呼ぶ2700kW時の大容量タイプの蓄電池の出荷を12月から始めている。

電池制御などソフトウェアも自社開発しており、制御のソースコードを把握しているから、仮に数年後に製品故障が発生しても、すぐに原因を究明できるそうだ。IoTを活用して24時間365日、遠隔監視してメンテナンス体制も整え、無償修理20年の「あんしん保証パック」もメニューとして用意する。

定置用として販売するほか、電力網に直接つなぐ系統用蓄電池としても普及させる考えだ。

この系統用の運用は、自社開発のソフトウェアを搭載した「蓄電所AI」サービスでサポートする。再エネ電気の余剰分を吸収するなど、充放電の制御を自動で最適化する仕組み。電力市場への手動による入札作業など不要だ。

発表会で伊藤社長は「垂直統合型」と数回にわたり強調し、「このモデルこそが最大の強みで、新しいエネルギー事業のモデルでもある」と話した。

モノ売りにとどまらない 自らも電力販売に進出

この事業モデルは、「モノ売り」にとどまらないことも特徴だ。同社自らも、蓄電池を使って法人向けに電力を販売する「X-PPA」サービスを始める。

昼夜問わず放電できる蓄電池の強みを生かす。日中の再エネ電源から蓄電し、電力需要の高まる夕方以降の時間帯に「夜間太陽光」電気としてオフィスビルや商業施設などに供給する。

東京電力管内を中心にまずは1500kWを募集し、24年8月から供給を開始する。契約期間は10年以上の長期契約を前提とし、1kW時の単価は25円程度を想定している。その後、順次エリアを拡大し、必要に応じて「非化石証書」なども活用するとしているが、その使用は極力減らすという。

この事業モデルに対し、国内の大手エネルギー事業者も関心を寄せている。同社の株主・出資社には、東北電力、四国電力、Jパワー、石油資源開発、ニチガス、関西電力系のグループ企業などが名を連ねている。

蓄電池を自社で製造・販売し、自らも蓄電池を活用して電力を販売する新しいエネルギーの事業モデル。再エネの普及にどこまで貢献できるか、同社の取り組みが注目される。

昼夜問わず放電できる蓄電池の強みを生かす

【特集2】陸と海底の「両診断」に強み 最適ソリューションで洋上支える


【川崎地質】

1943年に地質調査のパイオニアとしたスタートした川崎地質(東京都港区、栃本泰浩社長)。現在では、「地質調査」のほかに、「海洋・資源・エネルギー」「防災・減災」「メンテナンス」の分野を軸に業務を手掛けている。中でも、海洋分野については業界に先駆けて事業を展開し、40年近くの実績を持つ。海洋領域では活断層調査、海底資源探査に加え、日本国の海域面積の拡大に関わる大陸棚策定調査といった極めて重要な調査を行ってきた実績がある。

「当社は陸と海底の両方の『地質診断』ができる、国内でも珍しい存在の企業です。海底の地盤の調査は陸上と異なり海水の存在が、安全性も含め調査の難易度を高めています。海底調査を進める上で初期に行う探査業務とボーリングなどの地質調査を1社ワンストップで提供できることが当社の強みです」。同社企画・技術本部副本部長の沼宮内信執行役員は、こう説明する。

地質調査とはその名の通り、ボーリングを掘るなどして地質そのものを調査する業務で、いわば「点」の情報である。一方、探査業務は、海底地形や海底地盤の地層の連続性を調べる「面」の情報である。船の上から音波を海底に当て、その反射具合で海底の地形を調べる「音波探査」などの手法を用いる。同社はこの点の情報の「地質」と面の情報の「探査」の両技術を保有し、得られたデータを解析することで、事業に必要な情報を提供できる。

これまで行ってきた業務で、日本国内の多くの海域で活動してきた経験も探査の品質や最適ソリューションの提案に大きく寄与している。

例えば音波探査では、どのような船を活用するか、海底の深さや想定される地層は何か、どういった音源や受振ケーブルを選択するか。この辺が腕の見せどころだという。

洋上風力案件が増加 探査の新手法を編み出す

そんな同社では国内ニーズの高まりを受けて、洋上風力案件の業務が増えており、17年以降、力を入れている。秋田・能代、青森・つがる沖、千葉県・いすみ沖、北海道・石狩沖、福井・あらわ沖など年々関わる件数が増えており、来年もその傾向が続くという。

業務量が増加する一方、探査技術では新しい手法を編み出している。例えば、陸上では一般的な手法である「微動アレイ探査」を海底へと取り入れた。これは、微動計を海底に設置し、自然地盤のいろいろな固有の微動を計測することで、耐震設計に必要な耐震基盤面の分布や地下構造を調べる。洋上風力設備の施工に関わる重要なデータとなる。

「この微動計を海底のどこのポイントに、どのように置くかがノウハウになります。洋上風力の海域は広大です。そのためいかに効率的かつ経済的に必要とされる情報を得て、その情報をもとにどのように海底を評価するかの技術力が問われるのです」

洋上風力の海底調査では、計画、解析、工程管理、物理探査、海上ボーリング、土質試験など、複雑で多岐にわたる。こうした新しい技術も取り入れながら、最適なソリューションを提供する。

海底に設置する微動計

【特集2】タイでの知見を生かした国内展開 需給管理機能で再エネニーズに対応


【伊藤忠エネクス】

石炭やガス火力、さらには再エネなど、新電力でありながら多様な電源ポートフォリオを組み込み、電力の安定供給に注力する伊藤忠エネクス。熱供給事業や本業のLPガス・油販売事業など、まさに総合エネルギー企業として業界に存在感を示している。そんなエネクスが法人向けに自家消費型の太陽光発電導入サービス「TERASELソーラー」を展開している。電気や油販売など、同社と付き合いがあり、設置スペースの広いユーザーを中心に提案中だ。

同社の自家消費型モデルは二つある。一つが、ユーザー側の設備初期投資が不要な、いわゆる「エネルギーサービス」だ。ユーザー側は、大きな投資が不要な代わりに、10~20年の長期間にわたって、毎月定額の設備利用料をエネクス側に支払う。設備の導入・運用はエネクス側が担う。二つ目は、同社が設置する太陽光が発電する電気を「kW時の電気単価」に換算し、長期間にわたって電気代として支払うPPAモデルだ。現状、前者のニーズが高いという。

ビジネスに先立ち2020年、同社は東南アジアのタイで現地子会社を設立し、自家消費型モデルを始めた。当時の事情を電力・ユーティリティ部門の宮島千恵課長は「タイでは再エネ電気を電力系統に逆潮できず、完全自家消費型です。一方、当社とお付き合いのある日系企業が数多くタイに進出していて、そうした方に提案していました」と説明する。そんな実績をもとに、日本での展開にこぎ着けた。

再エネファンド通じた知見 「電気の需給管理」強み

長期にわたってサービスを続けるためには、太陽光パネルが安定的に発電するための設備運用が必要だ。同社は設備の建設工事から運用に至る一連の業務を基本的に地場の施工会社に委託しており、同社独自の基準にのっとり技術水準を担保している。また自ら主体となって組成した再エネファンドを通じて、15万kW分程度の太陽光パネル導入や運用実績がある。そうしたノウハウで技術基準を定めている。

同社はそうした自家消費型モデルの次なる展望も視野に入れている。それは、「系統連系している再エネ電気」へのニーズに関する取り組みだ。さまざまな制約で自家消費モデルを導入できないユーザーに、「電気の需給管理」で対応しようというものだ。梅本昌弘・電力需給部長が説明する。「当社は電力業務の肝である需給管理システムを独自に構築してきたのと同時に、多様な(化石資源の)燃料調達のノウハウも築き上げています。再エネのニーズが増えれば増えるほど、燃料調達までも含めた一連の需給管理の機能が重要になります。そんな機能をもとに再エネニーズに応えたい」

多様な電源と多様なユーザーを結び付けて電気の小売り業務のノウハウを培ってきたエネクスならではの取り組みだ。裏返せば、サプライチェーンの多くの領域にわたって新電力として責任ある取り組みを進めてきた強みでもある。

自家消費型の導入を支える

【特集2】風力の発電量をしわ取り制御 ガスエンジンが調整力を担う


【北海道ガス】

ガス会社が、従来の都市ガス事業の枠を超え、電力事業など「総合エネルギー企業」を志向する中、カーボンニュートラル時代を見据え、先進的な取り組みを進めるのが北海道ガスだ。2022年9月に、風力発電所(2350kW×1基)を石狩に建設することを表明した。特徴的な仕組みは既設の大型ガスエンジンとの協調運転を目指す計画にある。この「協調」とは、電気の同時同量を実現すること。発電量を風に任せる風力発電のいわば「しわ取り」を、ガスエンジンが担うというものだ。

「大変難しい技術領域だとは理解していますが、逆にいえば面白くも、やりがいもある分野への挑戦です」。石狩LNG基地設備グループの沖田雅夫課長は、こう意気込む。

沖田課長が所属する石狩LNG基地は、大型LNGタンクが立地し、LNGタンカーを受け入れ、都市ガス製造や道内各地へのLNG出荷を行っている。また敷地内には、同社の電気の小売り事業用電源として運転している「北ガス石狩発電所」の大型ガスエンジン(7800kW×12台)がある。このガスエンジンを、今回の挑戦で活用する。

調整力に優れる機関構造 ガスエンジン群で一体制御

実はガスエンジンには構造上の特徴がある。「構造は自動車の内燃機関のエンジンと同じですぐに起動します。われわれが運用している大型ガスエンジンは、立ち上げからわずか10分程度で1台当たり7800kWのフル出力までもっていくことができます。また、発電量を瞬時に増減するスピードも速いのです」(同)。常に出力が変動する再エネとの協調には、うってつけの設備だ。そのガスエンジンが「北ガス石狩発電所」に12台ある。再エネの「しわ取り」のための調整力として、非常に秀でているといえる。

北ガスが風力発電設備を北海道電力ネットワークの系統に接続するのを検討する中、たまたま先行者辞退となり、風車予定地の至近に高圧接続が可能となったそうだ。風力発電とガスエンジンが隣接する敷地内にそろうことになるが、異なる接続点にあるガスエンジン電源を調整電源として活用するケースは道内初だという。

北ガスでは、24年9月の運開を目指して、23年4月から工事に着工する。現在想定している運用は、風力の発電量データをリアルタイムでガスエンジン側に通信し、そのデータを受けてガスエンジンが調整力を発揮する。また、風力発電のそばには1500kW時の蓄電池も併設して、複合的に活用する計画だ。

これらの取り組みは、①系統負荷に影響を与えないこと、②北ガスが自らの技術力で再エネ電気をユーザーに届けられること、③ガスエンジンに「再エネ協調」という新しい役割を付加していくこと―でもあり、大変に意義深いものであることは間違いない。

風力が立地する建設イメージ

【特集2】奥飛騨温泉郷で始まった新スキーム 温泉文化と地熱発電の共存共栄


【 中尾地熱発電(シーエナジーほか)】

再エネ大量導入に伴い地域課題や技術課題が顕著になっている。いかに再エネ普及を支えていくか、企業の姿勢や技術力が試されている。

2022年12月1日、岐阜県奥飛騨にある奥飛騨温泉郷、中尾地熱発電所が運開した。当日、発電プラントの前に立ったシーエナジー再エネ・新規事業部再エネ・新規事業課に所属する西村和哉課長の胸には、「これで温泉文化と地熱発電との共存共栄が実現できる」とそんな思いが込み上げてきた。規模は2000kWながら、運開にこぎ着けるまでには、「再エネと地元とのあり方の理想形」を追い求めきた、西村さんにとって8年近くの苦節があった。

安定電源「地熱」を求めて 中電系サービス企業の挑戦

シーエナジーは、中部電力ミライズの100%子会社で、主にエネルギーサービスや、ローリー輸送のLNG販売を手掛けている。東日本大震災以降は、再エネ事業にも注力し、現在では再エネ事業を含めた三つの事業が柱だ。同社が手掛ける再エネは、太陽光発電(11万kW分)や小水力発電(2000kW分)に加えて、バイオマス発電にも関わっている。そんな同社が、安定した再エネベースロード電源を志向して地熱発電に注目し始めたのは10年代半ばのことだ。エネルギーサービス事業者として地熱に関わろうとする、極めて珍しい企業である。

ちょうどこの頃、西村さんが、それまで勤務していた中部電力の火力発電所からシーエナジーへと出向してきたタイミングと重なる。西村さんが地熱調査を重ねる中、目にとまったのが地元の名湯地、奥飛騨だ。豊富な湯量と良質な泉質から、多くの観光客がにぎわう中部エリアでは屈指の観光エリアだ。

実はこのエリアで、すでに「地熱先行者」がいた。奥飛騨エリアの中尾地区と呼ばれる場所で、東芝や大手リース会社が共同で地熱開発を進めようとしていたのだ。ところが、地元調整を終え、第一生産井を掘り終え蒸気量を確認したところ、発電可能な熱量は600kW程度で、目標の2000kWには遠く及ばなかった。その後、リース会社は撤退。事業そのものがお蔵入りになりかけたところ、そのお鉢がシーエナジーに回ってきた。15年ごろのことだった。「本格的に地熱事業を進めたいと考えていた矢先でした。何としてもここで地熱発電を始めたいと思っていました」と西村さんは当時を振り返る。東芝とともに、スタートを切った瞬間だった。

事業撤退の危機に陥る 地元温泉業界から救いの手

着手したのは、第二生産井の掘削だ。第一生産井では熱量不足だったことから、地元の理解を再び得て、地下1500mにも及ぶ掘削に踏み切った。ところが、湧き上がってきた蒸気の噴気はわずか1週間程で止まってしまった。何度トライしても、結果は同じ。原因を調べるうちに、地下1500m付近は、地熱発電に適さない「低透水性」の地質構造だということが分かった。「事業撤退の危機にさらされ、藁にもすがる思いでした。そんな時に、救いの手を差し伸べてくれたのが、他でもない中尾温泉の地元の方々でした」(同)。

この事情を詳しく説明しよう。実は中尾温泉がくみ上げる井戸と地熱発電用の井戸とでは、深度が異なる。前者は地下400m程度、後者は地下1500m程度。後者の深度400m付近には有望な透水性の地層が確認されていたが、地熱発電用に同じ深度から蒸気をくみ上げると、中尾温泉の井戸に影響を与えてしまう可能性がある。そこであえて「差」を付けていた。

ところが、中尾温泉から、思ってもみなかった提案が飛び込んできた。西村さんが言う。

「『温泉と地熱の共存共栄のスキームを築こうとお互いに一生懸命やってきた。地熱発電事業の成功は、温泉事業にとってもありがたいこと。地下400m程度の有望な地層からくみ上げてもかまわないぞ』。そんな提案を受けたのです。もう涙がこぼれそうになるほどうれしかったですね」

西村さんは、中尾地熱に関わってからは、現地作業の調整・確認、地元の方々とのコミュニケーションなど、毎週のように本社がある名古屋から3時間近くの時間をかけて現場を訪れていた。休む暇はなかった。そんな西村さんの労苦が報われた瞬間だった。

深度を変えることが可能になったことで、工事は急ピッチで進む。第一生産井と第二生産井のそれぞれ熱量が異なる二つの井戸の合算によって、2000kWの電気を生み出す仕組みとした。発電方式はダブルフラッシュ方式。汽水分離器と減圧気化器を通じた、二つの蒸気系統から蒸気タービンを回す。復水器で仕事を終えた温水の一部は、地面に埋設された配管に送り込まれて、冬場の融雪に活用するなど、自然の「熱の力」を無駄にしない工夫を凝らした。

共存共栄のスキーム 温泉側の井戸管理の手間省く

さて、中尾地区の温泉事業者と発電事業者の両者がお互いに築こうとしていた「共存共栄のスキーム」とは何か―。地熱発電に使う熱量はあくまでも2000kW分。ただ発電分以上の熱量を得られることもある。あるいは、検査などによるプラント停止もある。そんな時でも、井戸を止めたり絞ったりせずに、全ての熱を無償で中尾温泉に「温泉」として供給しているのだ。一方、中尾温泉はもともと、8本の井戸を保有・管理しており、こうしたスキームによって中尾温泉の「井戸管理」の手間が省ける。同時に、井戸の定期的なモニタリング、発電所の見学者対応やトラブル時の初動対応といった業務に対しても中尾温泉と地熱発電事業者が連携するそうだ。

  *  *  *

国策の「再エネ大量導入」。それは、いま各地で問題を引き起こしている「再エネ『乱』開発」をしてまで進める施策ではないはずだ。「お互いがウィンウィンになる。そんな関係を模索してきました」(同)。未来につなげるスキームを目指して両者が築いた中尾の地熱物語は始まったばかりだ。

【特集2】経済と環境の両立を目指す 洋上風力導入へ有望区域の準備


豊富な再エネ、とりわけ洋上風力の賦存量が豊富な北海道石狩市。積極的な企業誘致を図りながら独自の環境施策を打ち出している。

【インタビュー】加藤龍幸/石狩市長

―「ゼロカーボンシティ」を宣言し、22年4月には環境省の脱炭素先行地域に選定されました。

加藤 石狩市は、北海道電力のLNG火力発電所、北海道ガスのLNG基地が整備されたエネルギーインフラ拠点で、日頃からエネルギー政策を議論していました。一方、10年程前から、陸上式風力発電が立地し始め、規模は22基、計6万4000kW分にも及びます。こうした再エネ電源を基盤にエネルギーの地産地活に資するようにと、企業誘致を進めてきました。経済と環境の両立を図りながら、脱炭素先行地域にも取り組もうと考えたわけです。

―風力は、陸上だけでなく洋上のポテンシャルもあります。

加藤 発電事業者が10万kW規模で港湾区域内における洋上風力の運開を目指して準備をしています。一方で、今われわれは一般海域における洋上風力について、「有望区域」として指定されることを目指して準備しています。最終的には、長期にわたって安定的に洋上風力発電事業を展開できる「促進区域」の指定に向けて取り組みを進め、将来的に再エネの導入拡大や地域経済の活性化につなげていきたいと考えています。

―エネルギー企業との連携は。

加藤 北海道電力と19年に地域連携協定を結び、再エネ開発、再エネ利用を進めるための産業活性化、地方創生につなげるビジネス実現といったことを進めることになっています。市職員も、北海道電力から技術的なことを含め、いろいろと学ばせてもらっています。

独自の電力網を構築 100%再エネ供給地域に

―マイクログリッド(MG)を構築したり、港湾地区では独自に「REゾーン」を構築しています。

加藤 MGは北部エリアで進めたものです。災害時に孤立しやすく、エネルギーの安定供給が課題でした。そこで太陽光発電や、再エネ由来の水電解水素製造装置、燃料電池などを組み合わせて、独立した電力網を築きました。給食センター、道の駅、そして災害時には、避難拠点となる学校に、有事でもエネルギーを供給する仕組みです。

 また、REゾーンでは、北海道電力と連携しながら、電力需要の100%を再エネで賄う区域を構築しようと進めています。実際、京セラコミュニケーションシステムがデータセンターを建設中で、自ら再エネと自営線を整備しながら、消費する電気を全量再エネで賄う取り組みを進めています。その他の企業も、ここにデータセンターを建設する計画があります。

 石狩湾新港エリアは3000haの広大な敷地で、再エネ導入のポテンシャルの高い地域です。また、物流における重点港湾で、大消費地・札幌が近隣にあることから、企業誘致しやすい。近年は大手ショッピングセンターや大手ホテルなどが進出しています。地の利を生かし、再エネ導入と企業誘致を同時に進め、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進したいと考えています。

かとう・たつゆき 1979年専修大学法学部卒。北海道庁へ入庁後、国土庁や石狩市へ派遣。石狩市企画経済部長、石狩市監査委員などを経て2019年6月に石狩市長就任。

【特集2】系統安定化対策を徹底討論 慣性力を確保し再エネ導入へ


再エネ大量導入に伴い、カギを握るのが巨大な発電機特有の慣性力だ。火力発電設備の減少とともに慣性力不足の懸念が起きる中、打開策はあるのか。

【出席者】岡本 浩/東京電力パワーグリッド 取締役副社長(右)、中澤治久/火力原子力発電技術協会理事

本誌 足元では再エネが大量導入され、電力の安定供給、つまり需給調整の作業が大変に困難な状況になっています。そうした中で、交流の系統安定化を維持するための「慣性力」という言葉を聞く機会が増えています。言葉自体は理解できますが、慣性力が電力系統の安定化にどんな役割を果たしているのか。一方、電力広域的運営推進機関では2030年ごろには、東日本エリアの電力系統で慣性力が不足する事態になると想定しています。再エネ導入量や火力発電の減少シナリオ次第ではありますが、課題になると考えられています。まずは慣性力についてコメントや解説をお願いします。

中澤 慣性力がどういうことか残念ながら世間では理解されていないと思います。岡本さんには釈迦に説法ですが、大きな物体としての回転機が回っている、つまり同期発電機として回転していることの意味って、交流である電力系統の安定化にものすごく有効です。

 一方、われわれは電気屋ですから技術的に擬似慣性力を作り出せることは分かっていますが、コスト的にも量的にも簡単ではない。その辺の技術レベルを理解した上で、必要となる慣性力が系統に並列できるような仕組みを作らないといけないと思っています。

 かつて東京電力ではいくつかのサイトでロータリーコンデンサー(同期調相機)を導入したことがありました。でも、大型火力や原子力の発電機による回転体の慣性力の方が圧倒的に系統の安定化に有効だということが分かりました。

本誌 岡本さんにお聞きします。疑似的な慣性力と、物体自体が回転する慣性力との違いを分かりやすく教えてくれますか。

岡本 火力や原子力は同期発電機で、同期機というのは大型タービンと発電機が一体で回転し続けています。この回転体に運動エネルギーが蓄えられ、一定の速度で回転し続けようとする慣性を持っています。そして、次の点が極めて大切なポイントですが、電力需給が変動した時に生じる周波数変動に対して、同期機として慣性によってその変動を吸収できるのです。

慣性力の機能とその威力 極めて重要な「母島」での実証

本誌 例えば車を運転していて、アクセルを踏み離しても、そのまま移動し続けます。それは慣性力があるからで、その慣性力が電力系統の安定化に寄与しているということですね。

岡本 そういうことです。裏を返せば、太陽光のような発電は、非同期電源で、需給変動を吸収できません。だけど、非同期電源でも、イミテーション、つまり慣性力に模した動きに似せることはできます。具体的にはインバーター側で、エネルギーを吸収したり吐き出したりするエネルギーのバッファー機能を持たせるわけです。バッテリーやコンデンサーなどを組み合わせて、エネルギーを瞬時に出し入れすることで、あたかも「同期と同じような動き」をさせる技術で、われわれも開発中です。

 ただ、火力のような大型発電機とは異なり、非常に小さな多数の分散型電源に疑似慣性力を持たせる場合、系統全体を見渡した時に、安定的に制御できるのかどうか、その辺の技術検証はまだ十分ではないため、われわれも離島の母島でNEDO実証として、24年度から進める予定です。

本誌 東電は新島でも離島実証していました。

岡本 新島では、再エネ比率22~24%を想定し、その断面で調整力不足をどう補うか。例えばバッテリー設備などでいかに制御するかを実証しました。ただ、今後直面するのは慣性力不足の世界で、この事態にどう対応するか。母島では極めて重要な実証になります。

本誌 東日本全体で慣性力が不足する見通しですが、北海道では、電力系統が小さいにもかかわらず、洋上風力など大量の非同期電源が入っていくことから、こうした慣性力不足の問題はすぐに顕著になるかと思います。一方、北海道電力と本州では、系統がつながっているとはいえ、慣性力とは切り離された、いわば同期系統ではない直流連系の系統です。ですので、東日本全体の慣性力を議論することも大切ですが、北海道エリアのローカルなエリア内で慣性力がどれだけ必要なのか、業界全体が真剣に考えないといけないのかなと思います。そうした中で母島の実証には注目したいと思います。さて、システム改革の中で需給調整市場を立ち上げ、調整力についての議論を進めています。

需給調整市場と調整力 改革議論は机上の空論?

中澤 電気の需要と供給を一致させるために必要な電力が調整力で、調整力(⊿kW)と一言で片づけられてしまうことが多いのですが、実際には慣性力のようなコンマ何秒の短いものから、数分単位の周波数調整、数時間から1日単位、さらには季節間の需給変動とあらゆる時間軸に対応する必要があり、いろいろな工夫や多様な機能を組み合わせながら電源側としては調整力を供給しています。短時間の対応には火力発電と系統との並列が前提ですが、長期のものは予備力として待機していることもあり、それらの機能を「調整力」と十把ひとからげにして無理やり市場設計に入れ込むのは、机上の空論のようで、火力のような大型発電機の特性をはっきりと理解されないのではないかと懸念しています。

岡本 フレキシビリティーという言葉をいろいろな意味で使っています。需給変動を、すごく長い時間軸の変動から、慣性力が必要な極めて短いオーダーまで全てを調整する。そうした中で慣性力を保有する火力発電は、電力の需要に合わせて発電量を調整する能力があり非常にフレキシブルです。

 ところが、今後大量に入ってくる再エネは、電力の需要と全く関係なく発電します。火力を減らしながら再エネを増やしたらどうなるか。フレキシビリティーの必要性は増す一方で、フレキシビリティーの機能がどんどん減る。ここに問題の本質があります。

【特集2】再エネ発電の運用をサポート 太陽光やバイオマス火力対象に


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

東京ガスの100%子会社で、地域冷暖房事業やエネルギーサービス事業を手掛ける東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が、「再生可能エネルギー大量導入」に向けた取り組みを加速している。

まず、「大規模再エネ」として取り組むのが、バイオマス発電所だ。発電事業者という立場ではなく、あくまでも発電事業者への技術的な支援を基本とする。発電所の建設、運転準備時の「オーナーズエンジニアリング」(コンサルティング業務)やプラントのO&M(運用・保守)をサポートしている。

親会社・東ガスとの親和性 大型火力の知見でバイオマス

既に2021年7月に営業運転を開始した「中城バイオス発電所」(沖縄県うるま市、4・9万kW)に、運転管理として関わっているほか、現在建設中の「市原八幡埠頭バイオマス発電所」(千葉県市原市、7・5万kW、24年1月運開予定)、「仙台港バイオマスパワー」(宮城県仙台市、11・2万kW、25年10月運開予定)ではオーナー支援を行いながら、運用開始後は運転業務の担い手として関わっていく予定だ。

TGESがバイオマス火力に取り組む背景には、東京ガスグループとしての親和性がある。親会社の東京ガスは、扇島パワーステーション(神奈川県川崎市、約122万kW)や川崎天然ガス発電(同、約84万kW)といった大規模なLNG火力の運用実績を保有している。

「当社としてバイオマスに関わっている人材の多くは、親会社で技術的な知見を培ってきた経験を携えた人員です。LNGとバイオマスとで燃料種は違いますが、いろいろな部分で技術的なノウハウを生かせます」。TGES執行役員の天野寿二エンジニアリング本部副本部長兼再エネ発電エンジニアリング部長は、こう説明する。

実際、天野さんは、東京ガスでバイオ発酵やガス化炉といった技術開発に取り組んできた経験の持ち主である。多様な技術を持ち合わせた人材が「バイオマス火力」の安定運用を支えるというのが、TGESの再エネに対する取り組みの大きな特長だ。

TGESが関わるもう一つの再エネが太陽光発電である。エネルギーサービスや地域冷暖房事業を通じて多様なエネルギー設備群を運用してきた実績を、太陽光発電の運用に対しても生かしていこうという方針を持っている。そして、そんなTGESの運用ノウハウに期待を寄せているのがA&Tm社の澤井創一社長だ。

A&Tm社とは、TGES、東京センチュリー(TC)、京セラコミュニケーションシステムの3社がこのほど立ち上げた共同事業会社で、主に太陽光発電設備のアセットマネジメントを担う。A&Tm社の設立経緯を、TCの環境エネルギー部出身の澤井社長は次のように説明する。

「FIT(固定価格買い取り制度)を受けて、TCとして計70万kW程度の再エネ、主に太陽光発電に関わってきました。自らが事業者として設備保有・運用をしたり、再エネ事業社へ出資したり、融資したりと、その関わり方はさまざまです。一方で、FITが今後、FIP(市場連動価格買いとり制度)へ移行する流れは、再エネの自立を推進する一方で、事業環境を厳しくさせます。いま関与している太陽光発電設備を、いかに永続的に、そして安全で効率的に活用していくかが重要な課題だと認識しています。TGESさんによるエネルギー設備の運用ノウハウを太陽光発電へ生かすことで安定的な再エネ運用を実現できると考えています」

実はA&Tm社を立ち上げる前に3社は共同で太陽光発電設備をターゲットに、ある実証を行っていた。TC側のいくつかの発電サイトの地点ごとの日射量や発電量、遠隔監視によるパネルやパワーコンディショナーの状態確認など、全体的な運転状況を分析してきたのだ。

パネルは劣化していないか、スペックに見合った発電量を維持しているか、パワーコンディショナーは健全か、発電量の低下は経年劣化によるものなのか単なるパネル汚れに起因するものなのか、除草するタイミングはいつが最適なのか―。

そんな細かいデータをTGESのノウハウを活用しながら技術的に分析・診断してきた。実証を通じて明らかになったのは、太陽光発電設備の運用改善に、相当のポテンシャルが存在しているということだった。

「TCはどちらかというと金融的なファイナンスの観点から太陽光発電の事業性を評価してきました。こうした、TGESさんが主体となった、技術力に裏打ちされた設備の分析手法は目からウロコでしたね」と澤井社長。

一方、TGES出身で、現在A&Tm社TM本部の根本誠エンジニアリング部長はこう話す。「TGESはこれまでコージェネなどの複雑な分散型設備の運用を幅広く手掛けてきました。太陽光発電設備においてもパフォーマンスを維持向上させ事業性を高めるにあたっての取り組みの考え方は同じです。ですので、当社がこれまで培ってきた運用技術を十分に活用できることがわかりました」

地点数を増やして運用へ 既存設備の運用改善に意義

運用改善の余地は、発電効率の改善向上だけではない。例えばパネルが破損した場合、あらかじめ故障部品を確保しておくべきかどうか、現場へ対応するための現地の工務店との連携、部品交換のタイミングといった設備保全に対する考え方など、運用に関わるさまざまな改善の余地だったという。

そんな流れを受け、A&Tm社の設立に至ったわけだ。実証では一部のサイトでの取り組みにとどまっていたが、今後はTC側が関与する多くのサイトで運用改善に向けて取り組む方針だ。

国策による再エネ大量導入は、新規で再エネ電源をどんどん増やしていく取り組みだけではない。すでに導入した設備を、高いレベルで発電効率を維持させながら、持続可能な形で運用していくことも重要な視点である。A&Tm社の取り組みからは、そんな姿勢をうかがうことができた。

【特集2】LPガス配送・保安を高度に管理 「スペース蛍」が照らす最適解


【ニチガス】

全世帯数の4割強、約2200万件で利用されているLPガス。この供給インフラの高度利用から、業界が学ぶべきポイントはあるのだろうか。LPガス大手のニチガス(日本瓦斯)は、業界に先駆けて高度化に取り組んでおり、そうしたシステム構築から見えてくるのは「スマート化」の視点だ。

ニチガスの取り組みでカギを握るのが「スペース蛍」と呼ぶ、LPガス容器の配管部に、簡単に低コストで後付け設置できる手のひらサイズの端末だ。通信機能を持ち、原則1日1回、24コマのガス消費データをサーバーに飛ばす。電力業界のスマートメーターに相当するものだ。データを飛ばす頻度が常時ではなく、「1日1回」がミソだ。もちろん、需要と供給の同時同量を常に維持する必要がある電気とは性質が異なるため、電力スマメとは一概に、単純比較はできない。ただ、この頻度によって、端末の消費電力と通信費を抑えられる。また後付け方式なので、メーターそのものを変えることは不要で、導入費は安い。

では、この端末で何が可能になるか。まずは、容器内のガス残量把握だ。従来では容器交換のタイミングは配送員の予測に頼っていたが、この方式では残量をリアルタイムで把握しているため「A地点のユーザーの容器はあと4日以内に交換が必要」といった情報が日々デジタル処理される。交換回数は極限まで減らせる。一連の配送ルートはスマホ上に最適表示される。まさに、エネルギーを日用品のように管理して配送する「アマゾン配送」のようだ。

集中監視システムとの違い 都市ガス含め140万件導入

次に保安の視点はどうか。そもそも、地震などの有事の際や多量のガス漏れ時には、マイコンメーター自体の即遮断機能によって、大きな事故を防いでいる。問題は微小漏えいだ。スペース蛍では微小漏えいなどの情報も遠隔で取得でき、その情報に基づき現地に出向して保安を担保する。ただ、似たような仕組みの「集中監視システム(NCU)」とは、異なる点がある。「NCUのように、オペレーターが即開閉栓できる機能は備えていません。スペース蛍式で開閉栓できるのは1日1回です。即遮断機能はマイコンメーターが担えばよいと考えています」(吉田恵一専務)

実は、この違いが国の制度上のインセンティブ面で一つの課題をもたらしている。現在、LPガス業界のNCUの導入割合に応じて、緊急時対応要件の緩和など事業者にインセンティブを与えているが、ニチガス式は該当しないのだ。

「そもそも、スペース蛍式はNCUと比べて導入費が安く多くの事業者に採用いただく可能性があります。かつ保安についても、未整備の場合に比べて、高まることは自明です。それなりのインセンティブがあってもいいのではと国に要望を出しています」(同)

本方式は、昨年夏までにニチガスの全LPガスユーザーに整備され、さらに今年度中には東彩、東日本、北日本ガスといったニチガスグループの都市ガス会社の全需要家に導入する計画だ。その数は140万件を優に超える。スペース蛍が実現する業務高度化の最適解は、業界関係者の関心を集めそうだ。

【特集2】組織力で防災訓練を高度化 マルヰ会が全国一斉に実施


【岩谷産業】

IoTなどの優れた技術を導入することだけが「スマート」ではない。有事の際に高い組織力を発揮できるか。そんなソフト面の高度化も求められている。

IoTやスマート機器などハード面においていかに高度な技術を導入したとしても、有事の際に最終的なエネルギー利用の安全や保安を確保するのは「人」である。LPガス業界が行う防災訓練は、災害時に人が効率的・効果的に、そして冷静に対処することができるよう、まさにソフト面の高度化に向けた取り組みである。

LP事業者唯一の取り組み 一丸で有事の際に全国応援

LPガス業界では、毎年9月から10月にかけて、防災訓練を実施している事業者が数多く存在している。中でも岩谷産業の防災訓練は、岩谷ブランドのLPガス(MaruiGas)の全国的な販売ネットワーク「マルヰ会」に所属する販売店が参加する、全国各地で一斉に行う訓練だ。

1955年に設立した長い歴史を持つマルヰ会は、単にLPガスを販売するだけの組織ではない。全国的な組織力を生かして、有事の際に、被災地へ各地から応援にあたる「災害対策組織」の側面を持っている。こうした全国応援を実施するLPガス事業者は岩谷産業だけだ。

そんな取り組みへと向かう契機になったのが、95年の阪神・淡路大震災だ。以降、マルヰ会の基本理念のひとつである相互扶助の精神で災害救援隊を結成し、有事を想定した訓練を実施するようになった。2011年の東日本大震災はもとより、16年の熊本地震、さらには近年頻発している大型台風による災害など、各地で起きた災害に対して、その都度、被災地への応援隊を派遣し、早期復旧に励んできた。これまでの出動回数は計31回、出動日数は271日、延べ出動人数は2004人の活動実績を持っている。

そんな有事の活動に備えて、今年も10月21日、全国で一斉訓練を実施した。

「生活の重要なライフラインを担っているものとして、LPガスの安全安心はもとより、いつ起こるかわからない自然災害に備えて、準備を積み重ねています。この訓練を一つの契機として、防災への一層の取り組みをお願いします」。訓練の冒頭、岩谷産業の間島寛社長はオンライン画面を通じて、全国75か所の訓練会場、1702人の参加者にこう呼び掛けた。

防災訓練はスムーズ 企業継続推進機構から表彰

関東ブロックの訓練は、茨城県那珂市のホームエネルギー東関東社・茨城LPGセンターなどで開催された。その現場を取材した。

(上)実施されたホームエネルギー東関東社・茨城LPGセンター(下)石鹸水を塗りかけて漏れている箇所を特定する

訓練の内容は①集合・点呼、通信連絡訓練、②災害救援隊マニュアル読み合わせ、③緊急防災工具のチェック、配管からのガス漏洩確認、LPガス設備復旧訓練、④非常用発電機の稼動訓練、⑤オンラインによる保安講習―など、午前中一杯、時間をかけて行った。

印象的だったのは③の訓練だ。ガス漏れチェックでは、配管に石鹸水をかけて、漏れている個所を特定。特殊なゴムバンドを使いながら、漏洩個所を塞ぐ訓練を行っていた。「石鹸水をかければ、漏洩個所から泡が膨らむので、すぐ目視でき、漏洩個所を特定できます」と現場の訓練員は説明する。

また工具箱の中から工具を取り出し、どの工具がどのような場面で活用するかを細かくチェックしていた。毎年恒例の訓練内容とはいえ、初めて参加する人もいる中、一連の確認作業は非常にスムーズで、よどみなく行われていた。まさにマルヰ会の組織力の高さを感じさせる。

訓練の最後には、オンラインによる保安講習を実施した。昨今のLPガスの保安行政や法改正の内容、最近のガス事故事例、岩谷によるスマート保安への取り組みなどを報告することで、マルヰ会会員同士の情報や意識の共有化を図った。

こうした、過去から継続してきた一連の取り組みに関して、企業継続推進機構という組織から、「優秀実践賞」と「企業防災賞」の二つの部門で表彰(21年度)を受けた。この組織は、自然災害による経済的社会的被害の低減、地域社会における災害対策の充実を図り、国と各地域の安全安心発展を寄与することを目的に活動しており、毎年、優れた取り組みに対して表彰している。 全国的な販売網を構築している岩谷産業だからこそ取り組む責任ある防災訓練。IoT利用などのハード面の取り組みも必要だが、全国的な組織力を生かすソフトウェア面のマネジメント力も、ひとつの「スマート化」といえる。

【特集2】国内初「スマート保安」のカタログ 技術利用の事業者にインセンティブ


製品評価技術基盤機構(NITE)は、電気設備の定期点検や異常有無の確認などを最新の技術を用いて効率化・高度化する新たな技術を搭載したスマート保安技術カタログを今夏からホームページ上で公開した。今後、有用なスマート保安技術を順次、カタログに取り上げていく。

今回取り上げられた技術は「高圧絶縁設備の常時監視」技術だ。特別高圧受電設備に対して各種センサーを使いながら、通信によって常時監視できる。

カタログに掲載される技術は、従来の電気設備保安技術を代替できるものかどうか、学識経験者らから構成される「スマート保安モーション委員会」での技術評価をクリアしたもの。

この技術を使用するユーザーは、これまでの停電年次点検を1年に1回から3年に1回へと延伸することができ、年間の保安点検費用の大幅な削減が可能となる。

また、従来の保安業務の代替機能だけでなく、「常時監視」による保安レベルの向上や、点検時間や頻度の削減による業務の合理化にもつながっていく。

設備の高度経年化や電気保安人材の不足などへの対応には、こうした「スマート技術」が不可欠だ。カタログ化によって、簡易的にその技術の存在を確認できる。

【特集2】知られざるエコキュートの災害対策力 有事の際には生活用水にも活用可能


2000年代中頃から本格的に普及が始まったオール電化住宅。その電化設備を構成するアイテムの一つがエコキュートだ。省エネ性能にも優れており、これまで国内で累計800万台以上が普及してきた。

ルームエアコンと同じ空調原理を使いながら、深夜の割安な電気を活用してお湯を作る。深夜に作ったお湯をそのまま貯湯タンクで保温しながら当日のお風呂に活用する。普及当初はそんな使い方が主流だった。

昨今では昼間の太陽光発電の余剰分を活用して熱を作るなど、「再エネ共存時代」を見据えた運用のほか、VPP(バーチャル・パワー・プラント)の運用アイテムに組み込むなど、新しい機能を発揮しようとしている。

こうした変わりゆくエコキュートの機能には、実はもう一つの隠された役割がある。それは災害などの有事の際の生活用水としての「水」の利用である。

災害の大きさによっては「断水」を余儀なくされるケースも存在する。そこでエコキュートの出番だ。100ℓ単位の水(お湯)がためられている貯湯タンクには、底部から直接水(お湯)を取り出すことができる。

また、新製品では、気象情報とも連携する機能を搭載しており、例えば豪雨予報を見越してあらかじめ「焚き上げ」ることも可能だ。実際の災害によって停電を余儀なくされることはあるかもしれないが、「生活用水切れ」の心配はなさそうだ。