東京五輪支えた次世代技術 大会の環境負荷を低減


世界各国・地域から1万人を超える選手らが集い、17日間に渡って熱戦を繰り広げた東京オリンピック。8月24日にパラリンピックも開幕し、盛り上がりを見せている。大会運営を支えているのが、未来の社会を連想させる次世代技術の数々。そのキーワードは「環境負荷低減」―だ。

陸上マラソンを先導したトヨタのLQ

ワールドワイドパートナーのトヨタは、燃料電池車(FCV)「MIRAI」やプラグインハイブリッド車(PHV)の「プリウスPHV」といった車両を、選手やスタッフなどの拠点間の移動、競技の運営用などに提供。走行中にCO2を排出しない電気自動車(EV)やFCV比率は、約9割を占めている。

特に選手やテレビ観戦者のSNSなどで話題となったのは、選手村を巡回する自動運転バス「e―Palette」、そしてマラソン競技の先導車として導入されたトヨタの未来型AI自動車「LQ」。マラソン中継中には、その先進的なデザインに、「未来的」「かっこいい」といった声が相次いで投稿された。

FCVや聖火台などで使用する水素供給を担ったのが、ゴールドパートナーのENEOSだ。同社はまた、オリンピックスタジアムや有明体操競技場など49施設に、バイオマス発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー由来の電気の供給も行っている。大会期間を通じて、約2400万kW時の電力を供給する予定だという。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、残念ながら無観客開催となった東京オリンピック・パラリンピックだが、低炭素・脱炭素を実現した新たな社会の在り方が垣間見える機会となったことは間違いない。

函南メガソーラー計画の惨状 地元民軽視の驚くべき実態


多くの命を奪った熱海市の土石流災害。約4km西にある函南町内でメガソーラー計画が進む。

山林の乱開発を止められるのか。現地取材で見た生々しい実態をレポートする。

偶然にしては、あまりにも暗示的な出来事だった。静岡県熱海市を襲った土石流災害の4日前に当たる6月30日、函南町でのメガソーラー計画に反対する市民団体が、川勝平太・県知事の元を訪れ、事業者への指導を求める要望書を手渡していたのだ。

約65 haに及ぶ山林を切り崩し、約10万枚もの太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める同計画。設置予定地付近にある丹那沢は、甚大な土砂災害が懸念される「砂防指定地」に指定されている。付近には約60人が通う丹那小学校も。大雨によって、小学校を巻き込む土砂災害が発生しない保証などどこにもなく、住民の不安は大きい。

太陽光設置が予定される丹那小学校の裏山

事業主体は、中部電力系工事会社のトーエネック(愛知県名古屋市)だ。同社は2018年4月にFIT認定IDを「ある開発会社」から取得した。その名は、ブルーキャピタルマネジメント(東京都港区)。ゴルフ場の開発などを手掛ける、不動産会社だ。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、完成後、トーエネック社が事業を受け継ぐ仕組みになっている。

全国各地でメガソーラー事業を手掛けるブルー社を巡っては、工事に関わるトラブルが頻発している。例えば、8月中旬の大雨に見舞われた大分県杵築市でのメガソーラー事業では、県当局から林地開発行為中止の指示が出された。同社の特徴を一言で表すと「とにかく住民軽視」だと、地元関係者は口をそろえる。

これを象徴するのが、函南計画について、ブルー社などの事業者側が昨年12月22日に開いた住民への方法書説明会だ。環境アセスの不備などを理由に方法書の変更を求める住民側と、計画を断行したい事業者側とで平行線の協議が続く中、「時間が来たので終わりにしたい」とするブルー社に対し、住民側は質疑不十分を理由に説明会の継続を要求。いったんは「継続する」と話したものの、いつやるのかと食い下がる住民に対し、ブルー社は突然こう言い放った。

「方法書に基づく説明会は行いません。質問がある場合は、弊社のホームページに質問フォームがあるので、そちらで」

その瞬間、会場は怒号に包まれた。「それじゃあ、話し合いにならないだろうが!」「もう一、二度、説明会をするべきだ」―。これに対し、ブルー社は「検討する」として強引に終了。「説明会になってないね」。住民の一人は、最後にこう吐き捨てた。

今回の取材を通してはっきりしたのは、悪徳業者を排除したければ、地方自治体が法的措置を講じるしかない、という現実だ。

函南町「調和条例」の謎 なぜ遡及適用できない?

「(函南計画は)条例施行日前に林地開発の許可申請がなされていることから、条例をさかのぼって適用させることはできないものと考えています」。住民が耳にタコができるほど聞かされているのが、この「条例の遡及適用はできない」との文言だ。実は、町は19年10月に「函南町自然環境等と再生可能エネルギー発電事業との調和に関する条例」を施行している。メガソーラーを規制するための条例で、第7条には「自然災害が発生するおそれがある区域」で事業を行う場合、事業の見直しを求めることができる旨が記されている。

ところが、同計画では施行前の18年10月に林地開発許可申請を静岡県に届け出たため、町側は「既に事業に着手している」と解釈、条例の遡及適用はできないと判断しているのだ。しかし、実際には工事すら始まっていない。

他方、山梨県も同様の太陽光条例を施行しているが、「事業の開始=工事の着手」と条例に明記。つまり、着工していない事業に対して規制をかけることができる制度体系になっている。

町都市計画課は本誌の取材に対し、「(条例)第9条に『町内において事業を実施しようとするときは、事業に係る法令の規定に基づく許認可等の申請又は届出の前までに必要事項を町長に届け出なければならない』とあるので、当該事業は開始しているとの判断」と答えたが、第9条を素直に読めば、事業を行う際に必要な書類や、その申請方法について書かれているだけで、「必要書類の申請=事業の開始」とは記載されていない。行政と事業者の裏約束が疑われても不思議ではない。

「約1万集まった反対署名に町側は驚いて『何かやらなければ』と思ったのでしょう。ただ、事業者とのこれまでの関係が絡んでいるから、計画を潰すわけにはいかない。苦肉の策として、アリバイ的にあの条例を制定したのではないか」(函南町の住民)

ただ、函南町議会の長澤務議長は「今後、事業者から町が管理する河川などを工事のために使わせてほしいと言われれば、反対する可能性もある」と取材に答えている。ともあれ、あいまいな町の態度が、多くの住民を困惑させていることは確かだ。

規制に及び腰の自治体 災害発生の脅威は続く

「まるでブルー社の代理人のようだ」。19年5月、ある町議会議員の同事業に関する説明を聞きながら、参加者の一人はこう感じざるを得なかった。実はこの議員、選挙戦での公約に「ブルー社によるメガソーラー建設反対」を掲げていた。しかし当選後、住民向けの説明会で手のひらを返し、事業者が用意したパワーポイントのスライドを用いて「町の税収が1億円アップ。100億円投資を呼び込むことができます」と賛成の立場を表明したのだ。

同様のことは他地域でも頻発している。市長が太陽光開発に関する答弁に応じない、反対を唱えた市議会議員が村八分にされた―。疲弊する地方自治体にとって、大型投資を伴うメガソーラーが魅力的な事業に映る側面は否定できない。地元の建設業者も潤う。

「自治体関係者が開発事業者の規制に及び腰なのは事実だ。裏では買収行為のような話も聞いたことがある。何より、FIT事業は国という〝お上〟が推進している以上、自治体が独自に待ったを掛けるのは難しいという見方が根強くあることが、本質的な問題かもしれない」。某政令指定都市の市議は実情を打ち明ける。

しかし、そんな及び腰の姿勢が結果的に住民を危険にさらすことになりかねない。8月中旬の記録的大雨では、河川の氾濫や土砂災害が各地で発生した。自治体のハザードマップを確認したところ、危険エリアで太陽光開発が行われている事例が少なからず見受けられた。脅威は今も続いている。

発電所が安心と信頼を得るために 安全性向上と真摯な対応を続ける


【金居田 秀二/東海発電所・東海第二発電所 副所長 原子力災害防止担当)】

東海発電所と東海第二発電所の副所長を兼務する金居田秀二さんは、豪快さと繊細さを併せ持つ。

所員への信頼が発電所への信頼につながるとし、地域に交わり地域に向き合う。

 日本原電の東海・東海第二発電所は三つの特徴を持つ。①東海発電所は廃止措置の最中であること、②東海第二発電所は安全性向上対策の工事中であること、③使用済燃料を、国内でもまれな乾式貯蔵方式で保管していること―だ。

特に東海第二は、3・11の前に海岸付近にある重要設備の防護壁の高さを増す工事に着手し、津波の被害を最小限に抑えた。現在、さらに高い津波に備え、防潮堤の工事を行っている。

東海第二の防潮堤の要となる鋼管杭
60mの深さまで達する場所もある

こうしたことから視察の依頼が途切れず、コロナ対策をした上で、年間40件近くを受け入れている。

その視察対応をするのが両発電所の副所長であり、原子力災害防止担当の金居田秀二さんだ。金居田さんは、自治体や各市町村の議会、近隣の住民に発電所の現在の状況や工事状況などを説明する役割も担う。

かないだ・しゅうじ 栃木県出身。1995年東北大学大学院工学研究科修士課程修了後、日本原子力発電入社。東海・東海第二の運転、炉心管理などを経て発電所の安全解析・安全評価を担当。2011年から安全性向上対策検討・原子力規制委員会への審査対応など。20年から現職。

大学では原子核工学を専攻した。研究を深め、高速増殖炉などの新技術開発にも関わる同社に大きな魅力を感じ、就職を決めた。

入社後は発電所の運転、炉心管理などを担当。2001年からは東海第二と敦賀発電所の安全評価の業務に就く。発電所で想定されるさまざまな事故などを解析し安全運転への備えに力を注いできた。

安全性向上対策に従事 例のない業務に取り組む

そのような中、11年に起きた福島第一原子力発電所の事故―。新たな業務を命じられた。原子力発電所の安全裕度を確認するストレステストだ。安全対策とその有効性を評価した報告書をまとめ、当時の原子力安全・保安院に提出する重要な任務だった。今までにない仕事だ。ちょうど、多数のグループ員を受け持つマネージャーになったところだった。

「業務の采配も大変だったが、グループ員のケアが難しかった」と、当時を振り返る。

事故後、それまで原子力に誇りを持って仕事をしていたグループ員は、異なる反応を見せ始めていた。淡々と取り組む者もいれば、これまで以上に熱意を燃やす者、後ろ向きになるグループ員もいた。

チームをまとめ、モチベーションを維持するために心掛けたのは、毎朝のミーティングで必ず自分が最初に話すこと。業務に関係ないことでも、毎朝口火を切ることを自分に課した。

「マネージャーとしてそこにいることをグループ員に伝えたかったのかもしれない。先に何か話せば、相談もしやすくなるのではないかと思ったのです」。この行動に根拠はない。自分の存在を感じて安心してもらいたかった。そして、原子力は資源の少ない日本のエネルギー源の一つとして不可欠なのだという強い信念が心を支えた。

「神は細部に宿る」 人として信頼を得るために

大学時代は応援団だった。「入学してすぐ声を掛けられ、食事をご馳走してもらったのです。学ランを着て怖そうだけど、いい人たちだなと思って」と屈託なく笑う。外向的な性格ではなかったが、いつの間にか度胸がついた。自分たちの応援でチームが活気づくのもうれしかった。今も発電所の状況を地域の人々に説明する時に、大ホールの壇上で緊張しつつも臆さず対応できるのは、応援団での経験が生きていると感じている。

説明会では発電所の安全評価などの経験を生かし、安全対策の裏付けとなる技術的な解説を行う。ある時、住民からこう言われた。「安全であっても安心ではない」「自然災害への備えをすることは分かったが、安心はできない」

はっとした。「どんなに安全設備を備えても、最終的には人が操作する。そこで働く人を信頼できるかにかかっている―」

しっかりと質疑応答ができるのはもちろんのこと、所員の普段の行動や態度も地元の人々からの信頼感の醸成に影響する。人となりを知ってもらい個人として信頼してもらえるよう、それからずっと地域に根差した活動を地道に続けている。

東海村での発電所状況説明会の様子

業務では「神は細部に宿る」がモットーだ。「説明資料がどんなにいい内容でも、誤字や脱字で評価は落ちる。細かい部分までしっかりと仕上げることが信頼につながる」と信じる。

金居田さんと連携して地域への説明を行う高島正盛地域共生部長は、最初の出会いが印象深いという。「発電所の安全審査などに精通した技術者で専門知識も豊富なので、見た目同様、硬い説明になるだろうと思っていました。ところが、作る資料は見やすく、説明会では住民の方からの素朴な質問にとても分かりやすい言葉で回答している。そのギャップに驚きました。まさに適任です」。豪快かつ繊細、真摯な対応は、頼れる存在だ。

金居田さんは原子力の有効活用は今後の日本に必要だと話す。

「一律に原子力を全て廃止し、ほかのエネルギーに偏るのはむしろリスクが大きい。安全性をより高め、過酷な事故の可能性を極力低くした上で活用することが国の発展につながると思っている。この思いを地域の皆さまに丁寧に伝えていきたい」

大らかに明るく語っていた口調がひときわ力強くなった。

IPCCが新たな報告書発表 最悪シナリオには注意必要


ギリシャでは7月下旬以降、熱波が原因と見られる大規模な山火事が多発した(提供:AFP=時事)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第一産業部会の第六次評価報告書が8月9日に発表され、将来の気候予測などに関する科学者の見解が示された。報告書を受けて、小泉進次郎環境相は談話を発表。各国の〝野心〟が高まるよう、温暖化防止国際会議・COP26で「日本の環境外交力を発揮する」とし、カーボンプライシングなど施策強化の必要性を改めて強調した。

大きく報じられたのは、産業革命前からの世界気温の上昇が1・5℃に到達するとされる時期が、2030~52年との従来予測より10年ほど早まるとした点。予測には五つのシナリオが使われ、このうち最も温暖化ガス排出量が大きくなるシナリオ(RCP8・5)は、化石燃料依存型のシステムの下で、政策を導入しないケースとしている。しかし専門家からは「排出量の上振れが大きいRCP8・5は、既にシェールガス革命で脱石炭が進んでいるため現実的ではない。また気候のシミュレーションも気温が実際より上振れする傾向が指摘されている」(杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)といった意見が出ている。

温暖化への人間の影響について「疑う余地がない」と、これまでの表現より踏み込んだ点についてもポイントとして報じられた。ただ、人為起源に関する見解自体はこれまでの報告書でもたびたび、「可能性が極めて高い」などと示されており、内容が目新しいという訳ではない。

来年2~9月にかけては、第二作業部会、第三作業部会、そして統合報告書が発表される。一連の報告書の冷静な受け止めが必要だが、その前に開催されるCOPでの交渉劇が気がかりだ。

熱海災害で遺族が刑事告訴 太陽光との因果解明なるか


静岡県熱海市で死者24人・行方不明者3人(8月22日現在)を出した大規模土石流災害の発生と、近隣の太陽光発電所建設との因果関係は解明されるのか。同災害の遺族や被災者らが8月17日、伊豆山の崩落現場である盛り土周辺地の現旧所有者2人を、熱海警察署に刑事告訴した。

盛り土の現旧所有者を刑事告訴した被害者の会の瀬下雄史会長(右)ら(8月13日、熱海市内)

関係者によると、具体的には①盛り土を行った不動産会社元社長の天野二三男氏について、届け出とは異なる高さ50mの盛り土を造成したり、排水管を設置しないなど注意義務を怠ったりした業務上過失致死の疑い、②現所有者の麦島善光氏について、盛り土の危険性を認識しながら対策を講じなかった重過失致死の疑い―だ。

「多くの方が亡くなられた被害の解明につながっていくのではないかと期待している」。弁護団は盛り土周辺の管理がずさんだったことが被害を甚大化させたとして、所有者らの責任を徹底追及していく構えだ。今後、損害賠償を求める民事訴訟も予定している。

本誌8月号で既報の通り、崩落地の南西側すぐ隣には、麦島氏が役員に名を連ねるZENホールディングス(東京・五番町、松瀬賢亮社長)の太陽光発電所がある。また上部の北側でも、ZENグループのユニホー(東京・五番町、松瀬社長)と中央ビル(愛知県名古屋市、麦島善廣代表)が、それぞれ2013年8~10月に太陽光発電のFIT認定IDを取得。空撮写真を見ると、発電所の建設予定地なのか、森林が伐採されたような場所が複数確認できる。

東電訴訟の河合氏が代理人 被告側弁護で攻守逆転か

麦島氏の代理人である河合弘之弁護士は、災害発生後にいち早く盛り土崩落と発電所の因果関係を否定。盛り土自体についても「麦島氏は10年前に土地を購入してから、一度も手を加えたことがないと言っている」との見解だ。

しかし静岡県側の調査では、現所有者によって盛り土周辺地で土地の改変が行われた可能性や、上部からの雨水流入が崩落の一因になった可能性が浮上している。果たして、運用中の発電所や計画地点付近の土地造成が、崩落の引き金を引いたのかどうか。

折しも、河合氏は現在係争中の東京電力福島原発事故を巡る株主代表訴訟で原告側の団長を務め、勝俣恒久・元会長ら旧経営陣に対し22兆円の損害を個人の財産で賠償するよう求めている。「事故を予見できたはずなのに、なぜ対策を講じなかったのか」。河合氏が熱海土石流訴訟で麦島氏の弁護人を務めることになれば、今度は一転、被告側の立場でこの問題を追及される可能性も。刑事、民事とも厳しい訴訟になるのは必至で、脱原発派弁護士として名を轟かせる河合氏の対応が注目される。

8月中旬、西日本から東日本にかけての広範囲が記録的大雨に見舞われ、各地で河川氾濫や土砂崩れが発生した。山間部における太陽光発電所の造成に絡む災害リスクは、もはや放置できないレベルにまで高まっているのは明らかだ。地元住民の危機感も強い。国・自治体には規制強化などの対策を早急に講じることが求められる。

エネ基同様に亡国路線か 温対計画も画餅化避けられず


2030年度46%減に向けた地球温暖化対策計画がまとまったものの、やはり実現可能性は極めて乏しい。

部門ごとに過大な削減目標が示されたが、コストや、そのための実行策など詳細は見えてこない。

温暖化ガス2030年度46%削減目標のあおりで、また一つ実現可能性の乏しい政府計画が策定された。8月4日、環境省と経済産業省が合同で開いた有識者会合で、新たな地球温暖化対策計画の中身が固まった。30年度26%減目標に沿った現行計画から大幅に引き上げる形で、部門ごとのCO2排出量目標を提示。しかしこれは、トップダウンの目標とのつじつま合わせに苦しんだ第六次エネルギー基本計画の数字をそのまま書き込んだものだ。約6200万㎘もの大幅な省エネを前提としたエネルギー需給見通しで示した部門別排出量を、温対計画にスライドしたにすぎない。

コロナと同じ精神論 目標の詳細詰め切れず

改めて中身を見ると、ハードルが極めて高い数値が並ぶ。30年度のエネルギー起源CO2排出量の目安は、13年度比45%減の6億8000万t(CO2換算)に設定。19年度実績は10億2900万tであり、ここからさらに3億5000万tほど排出量を減らさなければならない。

その内訳も、産業部門が2億9000万t(13年度比37%減)、業務部門が1億2000万t(同50%減)、家庭部門が7000万t(同66%減)、運輸部門が1億4000万t(同38%減)、エネルギー転換部門が6000万t(同43%減)。これらを達成するには、いずれも大幅な対策強化が必要だ。

だが、積み上げた目標ではないため、これまでの計画とは異なり、業種や取り組みごとの詳細な削減目安は示していない。また、分野ごとの対策も推進すべき取り組みの羅列で、政策の方向性もふわっとしている。例えば、家庭部門の目標は、エネ基の需給見通しを達成したらどこまで達成できるのか。電気以外について、ガスや石油を使う機器の入れ替えなどの対策がどの程度必要なのか。そういった詳細は詰められていないのだ。

産業界関係者は「それぞれの対策は定性的に書かれており、何が決まっているのかが明確でない。部門ごとの対策も、コストはフローも初期投資も見えない。値段を見せずに、性能は良いが一番高い車を買わせるようなもの。そしてコロナ対策と同じで精神論になっている」と評する。

計画達成のためにどれほどのコストを要するのか、という指摘は、複数の委員からたびたび上がっていた。その点、4日に示された案には、計画の進捗点検で精査する内容として、当初はなかった「当該対策の費用対効果」という一文が加わった。ただ、経産省側のワーキンググループ座長を務めた山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長は同日の会合で、この一文が加わったことは一歩前進だとした上で、「具体的な費用には何も触れられていない。(さまざまな対策の効果が書かれている)資料に費用を書き込むといった対応をすべきではないか」と強調した。

この間の議論で、同計画に関連する政策について毎年CO2削減の費用対効果を示し、それによって政策を見直す「政策のカーボンプライシング制度」を提唱してきた委員の杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、「今後この計画が実行されると費用が膨らむ可能性が大きい。例えば、住宅の断熱改修などは1件で何百万円もかかる。また、筋の悪い省エネはいくらでもあり、用心しなければさまざまなコストがかかることになる」と指摘。費用対効果の検証を、具体的にどのような制度に落とし込むかが重要だと訴える。

家庭部門のCO2大幅減は本当に可能か

産業空洞化に拍車か 計画の位置付け明確化を

産業構造の空洞化に拍車が掛かることも懸念されている。

産業部門はこれまでの枠組み通り、日本経済団体連合会のカーボンニュートラル行動計画(旧・低炭素社会実行計画)に基づき取り組みを進める。ただ、46%減に沿った各社の計画目標は今後の作業になる。

ここで再度注意すべきは、過度な省エネ目標だ。従来の目標から全体で約1200万㎘の深掘りとなり、うち産業部門は約300万㎘積み増す必要がある。だが、例えば鉄鋼業の省エネ量は、30年度の粗鋼生産量見通しをこれまでの1億2000万tから9000万tへ引き下げた上での数字。業界は一部の高炉を止め、生産を合理化する方針は発表しているが、生産見通し9000万tにはコミットしていないのだ。

家庭部門はさらに不透明だ。企業のような枠組みもなしに、19年度実績(1億5900万t)の半分以下の排出量に抑えなければならない。今後、実際に目標未達が判明した際、全体のつじつま合わせで産業などの他分野を深掘りすべきだ、といった論調が出ることも警戒した方がよいだろう。

「そもそもパリ協定に基づけば46%減は努力目標。今後、各業界が努力しても達成できないときにペナルティーを負うことがないようにしてほしい。同床異夢の計画となり、『どんなにコストをかけても目標達成せよ』と変な方向に行くことを心配している」(産業界関係者)

これらの懸念は、全て過度な目標設定に起因する。積み上げでない、従来とは性質が違う計画だと、改めてはっきりさせる必要がある。その点エネ基では、明記こそしていないものの、ほのめかすように「さまざまな課題の克服を野心的に想定した場合のエネルギー需給の見通し」だとくぎを刺した。一方、温対計画の部門ごとの目標については、そうした表現は控えめだ。杉山氏は、「温対計画の閣議決定に当たっては、この方向で取り組むが、経済性や供給安定性についても逐一検証して柔軟に変更していく、と位置付けをはっきりさせるべきだ」と提言する。

今後の具体的政策は明らかではないが、気候変動を巡る昨今の風潮を見れば、規制的手法を求める意見が強まることも予想される。しかし常に「環境と経済の好循環」の大前提に立ち、日本の産業政策が誤った方向に向かっていないか、検証を続けるべきだろう。

【コラム/8月30日】制度設計は続くよ どこまでも 2021夏


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

東京オリンピックの終了とともに、次は高校野球へと移ったが、夏の最大需要電力のピークは高校野球の決勝戦の時期に発生することが多く、十数年前に自家発を使ったオンサイトエネルギーサービスに携わっていた時に、ディーゼル発電機のトラブルが起こるたび、冷や冷やさせられた記憶が蘇る今日この頃である。

 今回も前回に続き、電気事業制度に関する議論の状況について振り返ってみたい。

再エネ・環境関連の議題が多い制度設計

 前回に続き、今回は6~7月(8月11日時点)に審議会等で取り上げられた内容を電力サプライチェーン上にプロットしてみた。相変わらず再エネや環境に関連する議題が多い。

 エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画、長期戦略見直し、カーボンプライシング、トランジション・ファイナンスといった国のエネルギー、気候変動に関する大きな方策から、エネルギー供給強靭化法に係る具体詳細設計、洋上風力の案件形成拡大を支援する取組等の具体的な制度設計まで検討の裾野は広い。

 6~8月にかけてエネ庁・環境省を中心に筆者がチェックした審議会等は約80本。3~5月の120本と比べればだいぶ減ったが、新たな審議会等も出てきており、目まぐるしいばかりである。

この時期は取り纏めが盛ん

 この数か月、様々な議論がされてきた中で、議論の整理・取り纏めが多く出されている。

例えば、6月18日には、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)、成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ、規制改革実施計画といった大きな方向性を示した施策が閣議決定され、これに併せて経産省からはグリーン成長戦略が公表された。

 同じく6月には地域脱炭素ロードマップが公表され、地域の脱炭素の取り組みを継続的包括的に支援する方策が示された。

 そして、7~8月にはエネルギー基本計画の素案、地球温暖化対策計画(案)、脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等あり方・進め方(案)が提示された。特にエネ基と住宅・建築物の省エネ対策等は、委員の間で様々な議論が飛び交い、何とか取り纏めたところである。いずれも、最終的にはお決まりの「座長一任」で締めくくられ、今後、パブコメや閣議決定といった場に移される予定である。

【マーケット情報/8月27日】原油反発、需給引き締まり買い優勢


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給の引き締まりを好感した買いが強まり、主要指標が軒並み反発。前の週の下落分を取り戻した格好だ。

供給面では、メキシコ国営ペメックスの洋上石油生産施設で22日、火災が発生。日量42万1,000バレルの生産が停止した。これは、同社の1日あたりの平均生産量の40%を占めることから、市場に与える影響は大きい。そうした中、メキシコ湾でハリケーン「アイダ」が発生し、同湾で操業する石油施設が相次いで稼働を中断。27日時点で、生産の約59%が停止したため、供給逼迫を懸念する買いが一気に強まった。

米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は410基となり、前週から5基増加。本来なら供給が増えるとの観測が弱材料として働くが、増加の背景には新型コロナウイルスの感染拡大で低迷していた需要の回復期待があることから、買い戻しを誘う要因となった。

中国では、新型ウイルスの変異株の感染拡大が減速。景気の回復と、それにともなう石油需要の改善に期待感が強まった。また、ポーランドの7月原油処理量が前年比で10%増加し、パンデミック前の水準近くにまで回復している。

27日時点で、米国のWTI先物原油価格はバレル68.74ドルとなり、前週比で6.42ドル上昇。北海原油を代表するブレント先物は、前週比7.52ドル高の72.70ドル。いずれも、前の週の下落分を相殺して上回る値上げとなった。

【8月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=68.74ドル(前週比6.42ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.70ドル(前週比7.52ドル高)、オマーン先物(DME)=70.35ドル(前週比4.65ドル高)、ドバイ現物(Argus)=70.61ドル(前週比5.28ドル高)

【省エネ】省エネ法の大転換 担当課の手腕に期待


【業界スクランブル/省エネ】

経済産業省の省エネルギー小委員会(6月30日)において、「非化石エネルギーの導入拡大に伴う省エネ法におけるエネルギーの評価と需要の最適化」が議論された。単なる「エネルギー消費原単位」の改善のみを求めていた省エネ法から、「非化石エネルギーの導入拡大」の評価も加えた「実質的な需要側脱炭素法」への大転換である。当然、CO2排出量削減のためには、「省エネ深掘り」と「非化石導入拡大」を両輪で進めることが必須だが、後者を担う地球温暖化対策推進法は単なる報告制度であり、削減誘導という点では極めて限定的であった。今回、何らかの形で非化石導入拡大が努力義務の一部として組み込まれれば、省エネ法が、需要家の脱炭素実現を強力かつ総合的に誘導する最大かつ唯一の政策手法となる。企業の脱炭素促進制度としては、EUのC&T(キャップ・アンド・トレード)制度が有名だが、直接排出のみの規制であり、「新しい省エネ法」の方が全てのエネルギー消費・非化石導入をカバーしており、優秀な制度といえる。

オブザーバーの業界団体意見は、結局、自分たちの負担増加に反対ということだが、産業配慮で、全体の規制強化を断念していたら、高いCO2削減目標は実現できない。必要な業界配慮は、産業政策として減免措置で対処すればよいだけである。

脱炭素社会実現のためには、燃料側のCO2排出量が課題であり、燃料の省エネ努力の比重を高めることが必要となる。今までは電力の省エネ評価にげたを履かせて高く評価していたが、全電源評価による評価指標是正だけでなく、燃料の省エネ推進のための補助制度などの支援策も検討する必要がある。また、燃料側の非化石導入評価としては、国のインベントリ上でも評価される「再エネ熱証書でのオフセット都市ガス」と、日本の排出量削減には貢献しない「カーボンニュートラルLNG」の扱いも整理することが必要である。

需要側のトランスフォーメーションのツールを所有し、温室効果ガス削減誘導の執行責任を担うことになる省エネ課の今後の手腕に期待したい。(N)

【住宅】省エネの概念 CNで変わるか


【業界スクランブル/住宅】

資源エネルギー庁の省エネポータルサイトには「省エネルギーは、エネルギーの安定供給確保と地球温暖化防止の両面の意義をもっています」との説明がある。需要の削減が、海外からの化石燃料調達削減につながるのはその通りである。ただ、家庭向けへの説明では、2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け方向転換が必要だろう。要約すると、「節電:家庭のエネルギー消費の50%以上は電気であり、家庭で節電を進めるためには、三つの方法があります。①カット:消費電力を減らすことです。節電と省エネの両方に効果があります。②シフト:電気を使う時間帯をずらすことです。エネルギーを使う量は変わらないので、節電にはなりますが、省エネにはなりません。③チェンジ:ほかの方法に切り替えることです。省エネになるかどうかは場合によります」と記載されている。まだ、①減らすことが重要で、②③の方策はマイナス評価である。

しかし、CNを目指すのであれば、再生可能エネルギーの拡大は不可欠であり、夕方から夜の電力ピークを解消することが重要課題になると考える。そのため、時間帯によっては「②ずらす」は「①減らす」より評価が優先されるべきである。

例えば、蓄電池に昼間PVの余剰電力を充電し、日没後放電する場合、充放電ロス分だけ消費電力は増加し、省エネではないが、安定供給には寄与できる。もっと大きなずらしでは、翌日は悪天候でPVの発電量が期待できないとすると、前日の晴天昼間にPVの余剰電力でエコキュートに2日分の貯湯を行う。これも熱損失の分は省エネではないが、安定供給、再エネの利用拡大につながる。

このように発想転換をしないとCNの実現は困難であると考える。再エネは偏在するため安定供給が重要課題であり、需要をずらすことは有効対策になる。 エネ庁の記述が「減らす」偏重ではなく、「ずらす」や「切り替える」の意義も明確にすることを期待する。CNにはルールチェンジが必要である。(Z)

【太陽光】脱炭素で加速化 新社会の実現へ


【業界スクランブル/太陽光】

 昨年10月、菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言し、21年4月には30年度のCO2排出量を13年度比46%削減する政府目標が掲げられた。まずは30年度の目標達成に向けた計画設定が重要であるが、従来の対応の延長線上では間に合わないため、関係する国の各省庁の横断的な対応が加速している。

その手段として、再生可能エネルギー電源の主力電源化、省エネの促進、CO2の回収、この回収したCO2と再エネ電源で製造した水素を合成した燃料のe-fuel生成に関連する技術開発、電力系統に関連するルールや法令の見直しなどが挙げられる。

再エネ電源の主力として期待される太陽光発電は、住宅や工場などの屋根やその周辺地域に設置できる。需要地に近接設置でき、電力需給システムとして理想的なものでもある。今後、EVの普及が進むと、充電に伴う電力需要が急増するため、電源、送配電網の増強が必要となる。太陽光が発電している時間帯に充電すれば余剰電力を有効活用できる。

また、送電網を介さない電力供給によって、送電網で発生する電力損失の抑制など、省エネにも寄与する。また、太陽光発電は、蓄電池と組み合わせることで天候に左右される変動電源から安定電源になるほか、火力発電のような電力系統の周波数・電圧の変動緩和に係るサポート制御が可能になり、アグリゲーションなどの電力制御も容易になる。さらに、停電時の予備電源として活用する電力レジリエンスや輸入燃料に依存しない電力セキュリティーの強化にもつながる。このような利点を有効にするためには、将来を見据えた技術開発の推進、系統整備の計画、関係法令・グリッドコードの整備が急務となる。これらは国や電力広域的運営推進機関が中心となり、現在対応中だ。

太陽光発電は地域密着型の電源である。太陽光発電の利点の一例は前述の通りであるが、太陽光発電の大量普及に伴う関連する産業やサービスの活性化による地域経済への貢献も大きい。太陽光発電を中心とした新しい社会の実現に期待したい。(T)

【再エネ】資源外交から転換 脱炭素外交へ


【業界スクランブル/再エネ】

 国内再生可能エネルギー企業の海外展開が拡大している。最近2年ほどの動きをみても、自然電力(ベトナム・太陽光)、ジャパン・リニューアブル・エナジー(台湾・太陽光)、イーレックス(カンボジア・水力)、レノバ(ベトナム・陸上風力)、ユーラスエナジーホールディングス(チリ・太陽光ほか多数)などの取り組みが挙げられる。

海外での再エネ開発は、洋上風力に代表されるような再エネの輸出産業化や、JCM(二国間クレジット制度)による排出削減価値の獲得などを通じた脱炭素と経済成長の両立の観点から、重要性がさらに高まるだろう。日本政府もCEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)やAETI(Asia Energy Transition Initiative)といったプラットフォームを立ち上げ、海外での排出削減への貢献に動き出している。

一方、英国やドイツ、デンマークなどは、既にアジア市場における再エネ開発の実績を積み上げている。これらの国は、地場企業だけでは事業化が困難な陸上風力や洋上風力を主なターゲットに、現地大使館によるプロモーション、公的な貿易金融などを駆使し、自国企業による事業への入り込みや受注獲得を全面的に支援する体制を構築。支援は案件形成段階の技術的面にも及び、企業と政府の二人三脚による対応が特徴だ。

これまで日本は、海外における化石資源権益の確保を目的として、政治的な根回しとトップダウンのアプローチによる「資源外交」を展開してきた。しかし、今後求められるのは欧州勢が展開するような「脱炭素外交」であり、これには「資源外交」とは異なるアプローチが必要だ。そもそも再エネは「権益」ではなく地域資源を生かす「事業」である。よって、資源の価値を最大化するための「パッケージ型の付加価値提案力」が問われることになる。海外事業における金融面の支援の重要性は論をまたないが、それ以前の事業化のための環境整備が肝になるということだ。日本政府にも、そうした新たなアプローチへの転換に向けた「脱炭素外交」に大きく踏み出してもらいたい。(C)

【メディア放談】政治とエネルギー 揺れる与党のエネルギー政策


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

都議選で自民党は予想外の敗北を喫し、総選挙も情勢は厳しいようだ。

エネルギー政策には政治の安定が不可欠だが、雲行きが怪しくなった。

―7月の都議選は大方の予想に反して、自民党は惨敗に近い結果となった。

電力 選挙戦の最終日に過労で入院していた小池百合子都知事が応援に出て、都民ファーストに同情票が集まったといわれている。だけど、自民党が負けた本当の理由は、コロナ対策だと思う。

ガス 同感。デルタ株がまん延して、感染者が増えてきた。東京・大阪などの大都会で、自民党の支持率が急落している。このまま総選挙に突入すると、自民党はかなり議席を減らすことになる。

石油 政府・与党幹部は秋の総裁選・総選挙に向けて、「ホップ、ステップ、ジャンプでいく」と言っていた。まず都議選で圧勝し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、衆院選で勝つという構図だった。

 ところが、楽観視していた初めの都議選でつまずいた。五輪も無観客が決まり、宿泊・飲食業者は不満を募らせている。これでコロナ感染者が急増したら、衆院選も厳しい結果になりそうだ。

エネ基で新増設見送り 沈黙守る「長老」議員

―自民党=原発維持・推進、野党=原発反対という構図で考えると、自民党が議席を減らすことはエネルギー政策への影響も大きい。カーボンニュートラル、それにCO2排出46%削減の目標を達成するには、原発の稼働や新増設・リプレースなどが欠かせないが。

電力 もちろん、自民党内には原発立地地域の出身議員を中心に、原子力は欠かせないと考える議員は多くいる。だが、衆院で過半数の議席を得ている今も、党として原発に寛大になったわけではない。原子力推進の象徴だったエネルギー基本計画での新増設・リプレース記載も結局、見送られた。

マスコミ 与野党問わず、常に政治家の頭の90%を占めているのは選挙のことだ。福島事故から10年たったが、今も原発への反感は強い。もし自民党が原発推進だけの政党ならば、多くの国民の支持は得られない。

 党内には河野太郎行政・規制改革相、小泉進次郎環境相をはじめ、反原発派議員が少なからずいる。エネルギー政策を真面目に考えている議員にとっては、こういう人たちの発言や態度は無責任としか映らないだろう。

 だけど、河野さんや小泉さんがいることは、党にとって、そんなに悪いことじゃない。都心部を中心に、一定の有権者の支持をつなぎ留めている面がある。

石油 そういう面もあるかもしれない。だが、やりすぎじゃないか。河野さん、小泉さん、それに金融機関を通じて酒類の提供停止の圧力をかけようとした西村康稔経済再生担当相。この3人への役所の評判は非常に悪い。官僚からすると、西村さんのやったことは普通はあり得ない。3人とも事務方の言うことを聞かず、半ば思い付きで物事を進めているという。

マスコミ 安倍晋三前首相が月刊誌で、次の首相候補を挙げている。加藤勝信官房長官、下村博文政調会長、茂木敏充外相、岸田文雄前政調会長の4人。河野さん、小泉さんはともかく、総裁選に立候補したこともある西村さんの名前を挙げなかったことは意味深だった。

電力 エネ基での原発の扱いの件も、再エネ拡大しか念頭にない小泉さんが大分、いろいろと動いたようだ。不思議なのは細田博之さんや額賀福志郎さんのような、エネルギー関連議員の「長老」が、小泉さんたちがやりたい放題やっていることに、声を上げないことだ。さすがにある幹部は「調子に乗るな」と一喝したようだが。

ガス 小泉さんは今までも、ことあるごとに脱原発を主張してきた。今回エネ基のことで、党内に150人近くいる原発推進の議員を完全に敵に回したと思う。ただ「これで政治家として一皮むけた」という人もいる。脱原発を政治信条として、今後もぶれないで主張していくということだ。

―一方、都議選の敗北で自民党内がぎくしゃくしだしたようだ。

マスコミ 3A(安倍前首相、麻生太郎財務相、甘利税調会長)と二階俊博幹事長との関係は相当、深刻らしい。岸田派の林芳正元文部科学相が、参院からくら替えし衆院選に山口3区から立候補する。この選挙区には二階派の重鎮で、官房長官、文科相を歴任した河村建夫さんがいる。二階さんとしたら、完全にけんかを売られたと思うだろう。

 二階さんは、中央政界復帰がうわさされる小池都知事との関係が良い。脱炭素化を目指す中、きちんとしたエネルギー政策を進めるには、自民党がしっかりしてもらわないと困る。だけど総裁選も絡んで、これから一波乱あるかもしれない。

太陽光の発電コスト 朝日の「偏向報道」再び

―話題を変えるが、経産省が7月12日に2030年の電源別の発電コストの試算を公表した。太陽光発電が原発を下回ったことで、各紙大きく取り上げている。

電力 朝日は「発電コスト最安、原子力→太陽光」、毎日は「発電費最安は太陽光」。いずれも13日の朝刊一面で扱った。ただ今回、「朝日はひどいな」と思った。太陽光など出力が天候で変わる電源を系統につなぐと、変動を吸収する火力発電が必要になる。そういった系統安定化費用について全く触れず、龍谷大の大島堅一さんに「原発が経済性に優れている根拠はなくなった」と言わせている。

 毎日も同じように、大島さんの主張を掲載している。しかし、東大の荻本和彦さんの「(系統安定化費用が)含まれていない要素も多い」とのコメントを掲載して、わずかだがバランスを取ろうとしている。

―朝日だけ読んでいる国民は、完全に「洗脳」されてしまうな。

【石炭】120年に一度 竹の花の枯死


【業界スクランブル/石炭】

 米東海岸でセミの大量発生が始まった。17年周期で現れることから「周期ゼミ」「素数ゼミ」などと呼ばれる。17年に一度だけ大量発生を迎えるとは何とも不思議だ。これだけ気温が上昇し、土も一定の温度に上昇すると、「ブルードX」と呼ばれるセミの集団が一気に姿を現す。17年間、木の根元で生きてきた何十億匹ものセミの幼虫が地中からはい出て、羽化し、餌を食べて繁殖の相手を探し始める。これはセミの氷河時代の生存戦略がいまに続いているためだといわれている。

一方、120年に一度しか咲かない「竹の花」が2021年に入って日本各地で開花し続けている。歴史から見るこの示唆は諸現象の「完全なパラダイムシフト」への徴候といえるかもしれない。

竹という植物は、花が咲くと、竹林ごと一斉に枯れてしまう。竹を主食にするジャイアントパンダにとっては試練の年になるが、一斉に新しい竹の生命群が誕生する意味がある。すなわち完全に刷新されるということに気付く。

竹の開花後の枯死では、若い竹も古い竹も完全に枯れてしまうので、中途半端な再生産ではなく、「完全に消えて」「完全に生まれ変わる」。例えば大規模な枯死のあった 08年という年を「逆」から見てみれば、確かに大変な状況の年だったかもしれない。「リーマンショック」だ。多くの人々の考え方が、一気に変転した年でもあった。価値観の変転、あるいは完全なる生まれ変わりの年だったように思える。

1960年代の枯死の時がどうだったかというと、日本では高度経済成長に突入し、産業構造が大きく変化した。エネルギー革命が進展し、蒸気機関車は徐々に見られなくなった。「石炭利用200年」の歴史の間に竹の花が何度咲いたかは分からないが、いくつかのタイムエポックがあったことは間違いない。未来から振り返ったとき、21年は「脱炭素」へとシフトチェンジするエポックメイキングのタイミングだったと、記憶されることになるのだろうか……。(C)

消費行動に変化の兆し 当たり前の基準が変わる


【リレーコラム】岩船由美子/東京大学生産技術研究所 特任教授

 あるシンポジウムで、カーボンニュートラル(CN)に向けて、地球温暖化・エネルギー問題を各消費者に「わがこと化」してもらうためにどうすればいいだろう、という議論になった。環境問題のわがこと化とは、環境にいいことをしたいという気持ちを持てるか、実際にそれを行動に移せるか、の二段階ある。後者は行動時にどの程度のコストなり時間なり手間なりを負担できるか、というレベルもあるだろう。CN実現のためには、ドラスティックな対策が必要である。国際エネルギー機関が言うように、建物で燃焼系の暖房給湯機は禁止しなくてはならないかもしれないし、屋根への太陽光発電の義務化が必要かもしれない。しかし今春設置された「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では、住宅の省エネ基準の適合義務化や太陽光発電の義務化が検討されたが、結局後者は消費者負担などを理由に見送られた。国が一般消費者の私財への義務化に踏み込むのは容易ではない。

環境配慮の行動が浸透

温暖化問題は、一般的に被害が顕在化するまでのタイムラグが長く、実感が持ちにくいため、優先順位が低いといわれてきた。特に日本では、異常気象との関連は懸念されるものの、人々の関心が薄く、グレタさんのような活動に対しては、冷笑的な反応が多かったように思う。私も長いこと、家庭部門の省エネ、低炭素化に取り組んできたが、環境配慮型の消費者というものを前提としない、つまり性善説は期待しないでどう仕組みを作るべきか、という視点で考えてきた。

しかし、ここにきて日本でも、人々の消費行動が変化しているように思う。プラスチック利用や再配達削減など、負担の小さい範囲から環境に配慮した行動が浸透しつつある。エコな製品の選択の幅も広がり、民法テレビ番組の中でSDGsを取り扱った番組も多くなった。フランスでは電車で2時間半以内で行ける国内線空路を全面禁止するという。より大きな負担を許容するような消費者が日本にも今後増える可能性も十分期待できる。

エネルギーに関する環境配慮行動はコストがかかるので、プラスチックのようにはいかないかもしれないが、このような消費者の変化を捉え、適切な情報を提供し、省エネ・低炭素な暮らしが積極的に選択されるようなムードを作っていけないものだろうか。テレビの喫煙シーンも、会議でのペットボトルの利用も当たり前だったものが当たり前でなくなった。当たり前の基準は変わる。エネルギーに関する当たり前の基準もきっと変わる。

いわふね・ゆみこ 1991年北海道大学大学院電気工学専攻修士課程修了。三菱総合研究所入社。住環境計画研究所、東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター講師、准教授を経て2015年4月から現職。

※次回はLooop電力事業本部エネルギー戦略部の渡邊裕美子さんです 。