【多事総論】 話題:東京電力の総合特別事業計画
東京電力の次期(第4次)総合特別事業計画への関心が高まっている。 福島原発事故の補償などに収益力向上が欠かせず、その方策が問われることになる。
<福島の補償・廃炉・復興が大前提 総合エネ事業と福島事業に解体を>
視点A:森本紀行/HCアセットマネジメント代表
現在の新々・総合特別事業計画(第3次計画)には、「福島への責任を果たすために東電が存続を許されたということは今後も不変である」とあるが、第4次計画においてもこれは不変である。そして、そこでは「福島への責任」について、補償・廃炉・復興の完遂を自明の前提とした上で、原資の完済を果たすことへ重点が移り、そのために、いかにして経済事業の収益力を高めるかが中核の課題に浮上するはずである。
このことは既に新々・総特においても、「国が実質的に立て替えてきた多額の賠償等の費用の償還原資を東電がどう捻出するかが焦点となる」とされている。その具体的な捻出方法として、経済事業の全ての領域において、JERAに代表される共同事業体の設立を通じた再編・統合を推進し、東京電力はそれら共同事業体の持分利益を享受すると明記され、さらには、共同事業体の企業価値を高めて、持分利益を増大させるためは、その経営の自律性の確保が重要だとされていた。
しかるに原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東京電力ホールディングス(東電HD)が政府支配下にあることは、共同事業体の経営の自律性の確保における大きな障害になり得ることから、新々・総特において既に、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」が課題とされていたのである。故に第4次計画においては、この点に深く踏み込まざるを得ないはずである。
また、新々・総特の開始段階においてすら、「国内電力市場を巡る環境変化の結果、安定的に東電が多額の金額を捻出することは、一層困難になってきている」との認識が示されていて、「海外市場を視野に入れた事業成長」への言及があったが、第4次計画は、さらに一段と厳しい経営環境を想定したものとなる。必要原資の捻出のためには、国内の電気事業はおろか、電気事業自体の枠を超えた成長戦略が求められるはずである。
総合エネ事業と福島事業に解体 収益性向上に投資対象の拡大を
以上を要言するならば、第4次計画において東電は、二つ領域に完全に解体されるか、少なくとも解体される方向が明確に示されるべきである。第一は複数、あるいは多数の共同事業体を通して展開される電力を中核とした総合エネルギー事業であり、第二は福島事業と、その原資を確保するための投資事業である。
さらには福島事業と投資事業とは、機能としては表裏一体ではあるものの、業務内容は全く異なるものとして、明確に二分されるべきだから、結果として、東電は三つに完全解体されるべきである。また、新々・総特においてはこの投資事業の対象として、東電の事業を継承発展していく共同事業体を念頭においているが、第4次計画は収益性を高めるために投資対象を拡大させる必要もあろう。
実は、新々・総特においても、「非連続の経営改革」という言葉が用いられていたのだが、第4次計画においては、その非連続の意味が組織の非連続として明らかにされなくてはならない。さらに、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」により、政府関与は主として福島事業に限定され、原資確保の側面からの投資事業へ一定の政府関与は必要だとしても、共同事業体を通して展開される中核事業については、一切の政府関与が否定されるべきである。
ここで論点は三つに集約されるであろう。第一は、現在の東電HDを改組する方法で、観念的には、東電HDの直下に福島事業部門と投資事業部門が帰属し、投資事業部門の下に共同事業体への出資持分が帰属するのであろう。
そして、ここで重要なことは、共同事業体の経営の自律性なのであって、投資事業の目的は、電気事業などの遂行ではなく、投資家としての持分利益の最大化であり、経営の自律性の要件として、独自の資金調達があることから、分離上場など、共同事業体に遠心的な力を働かせるべきであろう。
第二は、投資事業部門の資金量で、支弁すべき費用の巨額さと、期待される投資収益率からすれば、資金が不足していると思われ、政府からの無利子無期限の融資を行うなどにより、資金量を増やし、共同事業体への投資を超えて、世界の幅広い領域へ投資対象を拡大する必要があろう。
そして、第三は人の問題で、東京電力の電気事業を技術的に支えてきた人材は、共同事業体へ転籍することで、全ての制約から解き放たれて、自由な活動の機会を与えられるべきであろうし、福島事業、投資事業に携わる人には、その高度な社会的意義にふさわしい処遇が与えられるべきであろう。
もりもと・のりゆき 東大文学部哲学科卒。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、2002年 HCアセットマネジメントを設立。