福島への責任と収益力向上が不可欠 東京電力「次期総特」への注文


【多事総論】  話題:東京電力の総合特別事業計画

東京電力の次期(第4次)総合特別事業計画への関心が高まっている。 福島原発事故の補償などに収益力向上が欠かせず、その方策が問われることになる。

<福島の補償・廃炉・復興が大前提 総合エネ事業と福島事業に解体を>

視点A:森本紀行/HCアセットマネジメント代表

現在の新々・総合特別事業計画(第3次計画)には、「福島への責任を果たすために東電が存続を許されたということは今後も不変である」とあるが、第4次計画においてもこれは不変である。そして、そこでは「福島への責任」について、補償・廃炉・復興の完遂を自明の前提とした上で、原資の完済を果たすことへ重点が移り、そのために、いかにして経済事業の収益力を高めるかが中核の課題に浮上するはずである。

このことは既に新々・総特においても、「国が実質的に立て替えてきた多額の賠償等の費用の償還原資を東電がどう捻出するかが焦点となる」とされている。その具体的な捻出方法として、経済事業の全ての領域において、JERAに代表される共同事業体の設立を通じた再編・統合を推進し、東京電力はそれら共同事業体の持分利益を享受すると明記され、さらには、共同事業体の企業価値を高めて、持分利益を増大させるためは、その経営の自律性の確保が重要だとされていた。

しかるに原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、東京電力ホールディングス(東電HD)が政府支配下にあることは、共同事業体の経営の自律性の確保における大きな障害になり得ることから、新々・総特において既に、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」が課題とされていたのである。故に第4次計画においては、この点に深く踏み込まざるを得ないはずである。

また、新々・総特の開始段階においてすら、「国内電力市場を巡る環境変化の結果、安定的に東電が多額の金額を捻出することは、一層困難になってきている」との認識が示されていて、「海外市場を視野に入れた事業成長」への言及があったが、第4次計画は、さらに一段と厳しい経営環境を想定したものとなる。必要原資の捻出のためには、国内の電気事業はおろか、電気事業自体の枠を超えた成長戦略が求められるはずである。

総合エネ事業と福島事業に解体 収益性向上に投資対象の拡大を

以上を要言するならば、第4次計画において東電は、二つ領域に完全に解体されるか、少なくとも解体される方向が明確に示されるべきである。第一は複数、あるいは多数の共同事業体を通して展開される電力を中核とした総合エネルギー事業であり、第二は福島事業と、その原資を確保するための投資事業である。

さらには福島事業と投資事業とは、機能としては表裏一体ではあるものの、業務内容は全く異なるものとして、明確に二分されるべきだから、結果として、東電は三つに完全解体されるべきである。また、新々・総特においてはこの投資事業の対象として、東電の事業を継承発展していく共同事業体を念頭においているが、第4次計画は収益性を高めるために投資対象を拡大させる必要もあろう。

実は、新々・総特においても、「非連続の経営改革」という言葉が用いられていたのだが、第4次計画においては、その非連続の意味が組織の非連続として明らかにされなくてはならない。さらに、「機構と東電HDとの間の株式引受契約の見直し」により、政府関与は主として福島事業に限定され、原資確保の側面からの投資事業へ一定の政府関与は必要だとしても、共同事業体を通して展開される中核事業については、一切の政府関与が否定されるべきである。

ここで論点は三つに集約されるであろう。第一は、現在の東電HDを改組する方法で、観念的には、東電HDの直下に福島事業部門と投資事業部門が帰属し、投資事業部門の下に共同事業体への出資持分が帰属するのであろう。

そして、ここで重要なことは、共同事業体の経営の自律性なのであって、投資事業の目的は、電気事業などの遂行ではなく、投資家としての持分利益の最大化であり、経営の自律性の要件として、独自の資金調達があることから、分離上場など、共同事業体に遠心的な力を働かせるべきであろう。

第二は、投資事業部門の資金量で、支弁すべき費用の巨額さと、期待される投資収益率からすれば、資金が不足していると思われ、政府からの無利子無期限の融資を行うなどにより、資金量を増やし、共同事業体への投資を超えて、世界の幅広い領域へ投資対象を拡大する必要があろう。

そして、第三は人の問題で、東京電力の電気事業を技術的に支えてきた人材は、共同事業体へ転籍することで、全ての制約から解き放たれて、自由な活動の機会を与えられるべきであろうし、福島事業、投資事業に携わる人には、その高度な社会的意義にふさわしい処遇が与えられるべきであろう。

もりもと・のりゆき 東大文学部哲学科卒。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、2002年 HCアセットマネジメントを設立。

【新電力】制度への理解促進 業界団体設立を


【業界スクランブル/新電力】

容量市場の約定価格を巡る混乱が続いている。10月5日と20日にそれぞれ新電力複数社が経済産業大臣と環境大臣に対して要望書を提出。資源エネルギー庁は大幅な制度変更は行わない方針のようだが、制度への批判の声を整理すると、①諸外国(特にドイツ)の事例を持ち出して日本の制度を批判するケース、②負担額が高く事業継続性がないと主張するケース、③原子力発電所や石炭火力発電所の容量価値を認めるべきではないと主張するケース―に分けられる。③は党派性のある主張のためさておき、業界関係者は大抵①②の主張を行っているようだが、双方とも国内の制度・事業環境の理解不足に基づいた発言が多い。

新電力は非常にタイトな人員で身軽に事業展開ができることがメリットであるものの、制度が大幅かつ複雑に変化していく過程において、制度理解不足に起因する非合理的な主張・行動が目立つようになっている。最近は旧一電の主張の方がよほど競争環境の確保や脱炭素に向けた変革の意欲に溢れており、このまま放置すると「新電力こそ制度に守られた既得権益者」との批判を浴びかねない。

新電力の勉強会・業界団体は複数存在するものの、いずれも参加者が大抵同じ顔触れであり、議論があまり成立せずサロンのような状況に陥っているのではないかと感じる。同じ顔触れであれば、異論を挟みづらく自浄作用が働きにくい。当然、制度理解が進むはずもなく、社会の要請とは反した主義主張に囚われる可能性も否定できない。

いくつかの新電力の勉強会・業界団体にはエネ庁や電力広域的運営推進機関の担当者も訪問して制度の説明を行っているようだが、電気事業連合会も含めて複数の業界団体が存在し、個社が規制当局に対してロビー活動を行うのは極めて非合理的である。制度の啓蒙・意見の集約を行う仕組みが必要だ。旧一電・新電力問わず小売り電気事業者全体の業界団体を設立し、新電力の意識底上げや制度理解を深め、脱炭素の社会的要請に応えていくべきではないか。(M)

【電力】脱炭素の需要増 供給の担い手は


【業界スクランブル/電力】

10月26日、菅義偉首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げた。それまでの日本政府の公式な目標は、19年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」による「50年に温室効果ガス80%削減」「今世紀後半のできるだけ早期の脱炭素社会の実現」だったので、これを大きく前倒しすることになる。

折しも、第6次エネルギー基本計画策定の議論が始まろうとしている時期の表明である。どのようなシナリオとロードマップが示されるのだろうか。第5次計画では、「50年温室効果ガス80%削減」という目標は掲げつつも、非連続なイノベーションなしでは実現困難であり、かつイノベーションの実現には不確実性が伴うという認識の下、30年以降については個別の数値目標を設定したり、単一のシナリオに決め打ちしたりすることを回避していた。

しかし、最終目標である脱炭素社会実現を「50年」と表明した今回の計画では、シナリオの絞り込みは不可避なのではないか。そして、そのシナリオは、「エネルギーの電化+水素化」であろう。水素化とは、水素をそのまま活用するだけでなく、アンモニアなどエネルギーキャリアの形での活用も含む。ピュアな水素にこだわり過ぎない方が社会実装は早まろう。電気は化石燃料フリーの一次エネルギーから作られる電気であり、水素も多くはそのような電気から作られるCO2フリーの水素だ。

必然的に50年に向けてCO2フリーの電気が大量に必要になる。人口減少時代なのに、電力需要は5割増にもなりかねない。この大量の脱炭素電力を供給する担い手と、それを支える社会システムの姿を早急に描く必要がある。それが、東日本震災以降次々に論点が浮上し、今も継続している電力システム改革議論の延長線上にあるとは実はあまり思われない。電力システム改革議論にも、実は非連続なイノベーションが求められるのかもしれない。(T)

民間企業にとってなぜ重要か SDGsに積極的に取り組む理由


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

SDGsは国際的な開発目標であるが、特に拘束力があるものではない。それにもかかわらず、多くの企業が積極的に取り組んでいる。その理由を六つの視点から説明する。 

SDGs(持続可能な開発目標)の経営活用についての関心を受けて、『SDGs経営の羅針盤』を刊行した。前回では、内容や背景、「持続可能」の意味について説明した。第2回では、なぜ民間企業にとって重要なのかについて解説する。

SDGsと経営戦略 ESGとの共通課題

SDGsとは、2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』の中で示された国際的な開発目標である。単なる開発目標であり、拘束力があるものではない。民間の企業にとって取り組むことは全く任意であり、何の義務もない。

しかしながら、今日多くの企業が強い関心を示すようになっている。経営戦略の中でSDGsを位置付けるべく試行錯誤を続けている企業が増えてきている。それはなぜなのか。民間企業が取り組む理由を六つに分けて説明する。

民間企業のビジネスとSDGsとの関係で一番分かりやすいのは、地球温暖化からのつながりであろう。地球温暖化の防止はSDGsの複数のゴールに関わる重要なテーマである。地球温暖化は、今日では日本でも身近な話題になっている。石油、石炭といった化石燃料の大量の燃焼が、温室効果ガスの排出量を急増させ、地球温暖化に拍車を掛けていることが意識されるようになった。

こうした状況下では、化石燃料の利用を前提とするビジネスは成立が難しくなる。大量の化石燃料を利用するビジネスは、次第に国際的なバリューチェーン上から排除されていくこととなる。すなわち化石燃料に依存するビジネスは中長期的に持続可能でないことになる。

世界では人身取引や借金などを通じて、劣悪な労働環境の下で低賃金労働を強いられるケースが後を絶たない。こうした強制労働や児童労働に対する国際的な非難は次第に高まっており、これに関わる企業には社会から厳しい目が注がれるようになっている。スマホやSNSの普及によって、アジア諸国の一工場の労働問題が容易に世界に広まることになる。グローバル展開する企業にとって、サプライチェーン上の人権や労働問題に目を向けないことは大きな事業リスクになる。現状を把握し、問題が明らかになった場合はこれに適切に対処しなければならない。人権や労働問題はSDGsではゴール8の領域であり、これへの取り組みが不可欠となる。

SDGsが国連総会で採択されたのは15年であったが、その9年前の06年に当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が「責任投資原則(PRI)」 を金融業界に対して提唱した。機関投資家に、ESG課題という概念を用いて、環境、社会、ガバナンスの三つの観点から投資判断することを求めた。SDGsとESG課題には共通する部分が多く、両者は不可分である。さらに、近年になり、銀行や保険など機関投資家以外の金融サービス業にも、責任投資原則の考え方が広まってきている。社会や環境の持続性を考慮せず、SDGsに積極的に取り組まないビジネスは、金融機関にとって長期的に持続性に欠けると判断され、投資や融資などの対象から外されることとなりかねない。

SDGsへの取り組みと収益力との関係

昨年末に日本経済新聞社は、上場企業など国内637社についてSDGsへの取り組み状況を評価し、偏差値で格付けした。そして各社の評価点と財務指標を比較した。その結果、SDGs経営調査で評価点の高かった企業は、自己資本利益率や売上高営業利益率といった点で収益力が比較的強いことが分かった(図参照)。

本来、SDGsへの取り組みは企業の中長期的な価値創造を目的とするものであり、短期的な収益力強化を意図するものではない。だが、取り組むことが業績向上の妨げになるといった見方が必ずしも適切でないことがこうした調査結果に示された。

次なる成長領域は地方創生 21年度に東証上場目指す


【私の経営論(3)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長

1964年に発足した当社は、通信事業を手はじめに、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)やVOD(ビデオ・オンデマンド)、高圧一括受電、メガソーラー開発、電力・都市ガス小売り事業と、その時代の旬のビジネスにいち早く乗り出し大きな成長を遂げてきました。

当社は、これら全ての事業を現在も変わらず手掛け続けており、それぞれがお客さまのニーズに合わせ、豊かな生活を提案するために欠かせないサービスの一角を担っています。

前回は、今後、こうしたビジネスを結び付けトータルでサービス提供することで、ドイツにおける多様な社会インフラを提供する公益企業「シュタットベルケ」のような地域密着型の事業展開を目指していきたいというお話をしました。最終回となる今回は、その具体的な取り組みについて述べたいと思います。

当社は、再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)制度のスタートと同時にメガソーラーの開発を手掛けるようになり、今年8月には、新電力のFパワーが千葉県袖ケ浦市に所有していたガス火力発電所「新中袖発電所」(ガスコンバインド/出力11万kW)を買収するなど、発電事業にも本腰を入れ始めました。

そして、次の成長領域として見据えているのが、過疎化が進む中山間地におけるバイオマス発電と農業を組み合わせた「次世代農業プラント」(NAP:Next Agriculture Plant)事業の実現です。

これは、地産地消の未利用資源を活用する2000kWのバイオマス発電設備を建設し、地域の旧一般電気事業者にFIT電気として販売。発電の副産物であるCO2と熱を利用し、高収量・高品質な野菜や花などをハウス栽培するものです。

エネルギーと農業を融合 地方創生に貢献

いくらFITを活用したとしても、2000kWの規模、しかも地産地消の間伐材のみを燃料とするバイオマス発電では採算を取ることができません。しかし、ここに農園からの収益が加わるのであれば話は違ってきます。

ハウス内を年間を通して27℃程度に保つことで、農作物の収穫率は各段に向上するといわれます。そのために、次世代農業を営んでいる農家は、熱源として灯油を焚き、農産物の成長を促すCO2をわざわざ購入しているわけです。同事業では、発電所からの副産物を利用することでこれらを無償で活用できるのですから、収益性の高い農業経営が可能になることは間違いありません。

既に高知県本山町で同事業に着手しており、自治体からも地方創生を後押しするものと大きな期待が寄せられています。バイオマス発電所と農園で設備投資額は28億円。これにより、毎年約4000万円の償却資産税が自治体の税収増に貢献しますし、さらに、20年に渡って約30人の新規雇用が創出されるからです。

また、地方の林業は、木材はいくらでもあるが伐採したとしても収入につながらないことが悩みの種になっています。同事業では、木を切り出し発電所まで持ってきていただければ全て買い取ることにしています。町民の方にとっては新たな収入源となり、年間3億円を超える経済効果を生むと見ています。

バイオマス発電所と農園の売り上げを合わせ、年間15億円ほどのビジネスになると見込んでいます。それだけではなく、自治体の税収増、新規の雇用創出、農林業の活性化を実現し、地方における産業の好循環を生むのですから、「SDGs(持続可能な開発目標)」経営に叶う新事業モデルと呼んで過言ではないでしょう。

高知県本山町との協定締結式

NAP事業を展開する地域での取り組みは、これだけではとどまりません。町庁舎などへの地産地消の電気の供給、住民を対象にした電気やガス、電話やインターネットサービスの提供と、水道を加えた多様なインフラサービスの請求代行の一括請負など、地域のインフラに関わるさまざまな事業を展開していきたいと考えています。まさに、当社のこれまでの事業を全てつないだ集大成となりますし、これが実現できることは、当社がこれまで取り組んできたことが財産となり、強力な武器になっている証だと思っています。

本山町と同様の取り組みを、今後は全国10カ所程度に広げていく考えです。人口1500~5000人程度の限界集落と呼ばれるところにしか進出しません。その地域では当社が最も大きな企業となり、地域のインフラを支えていきます。「義」のあるビジネスになると思っていますので、地域のみなさんに喜んでいただけるものと自負しています。

気候変動解決への大規模開発 地域と共に歩む再エネ事業


【エネルギービジネスのリーダー達】木南陽介/レノバ代表取締役社長CEO

創業から20年、将来の気候変動問題の解決に向け、再エネの大規模開発で実績を積んできた。地域との信頼関係の下で実現した発電所は、自然と共存しながら稼働を続けている。

きみなみ・ようすけ 1998年京大総合人間学部卒、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。2000年5月にレノバ(旧リサイクルワン)を設立し、12年から再エネ事業に進出。18年に東証一部に上場。

再生可能エネルギーの電源開発と運営を専業とするレノバは今年、創業から20年目を迎えた。「気候変動問題に責任を持って対応するには民間企業が事業として行っていくしかない」。木南陽介社長はこう力を込める。こだわりは大規模開発。「CO2削減には一定の規模が必要」だからだ。有望地域の選定、事業性評価や発電所の設計、電力会社との協議、許認可・設備認定の取得から建設、運転管理まで、自社に専門性の高い社員をそろえ、ほぼ全てのプロジェクトのリード企業として、パートナー企業との協働の中核を担う。

再エネの開発には、立地地域と発電所の共生が常に課題となる。「多くの地域の方々にとって、電源立地は初めての経験であることが多い。懇切丁寧に説明するのは当然のこと」。時間をかけ、地域住民ととことん向き合う。環境影響評価法(環境アセスメント)に基づく説明会に加えて、個人・団体・町内会など、さまざまなステークホルダーにも個別に事業内容を説明。幾度もの質疑応答や対話を重ねるうち、徐々に地元の要望や期待が見えてくる。雇用創出、観光資源としての活用、林業や漁業など地場産業へのメリット―。発電所の設計・運用に、こうした要望や期待を反映して開発を進めていく。

「地域の資源は使わせていただくもの」。だからこそ、発電所は地元住民の意向に沿い、地域にプラスになるべきだ。そうした思いで太陽光、風力、木質バイオマス、地熱の電源開発・運転に取り組み、現在運営・建設中(工事準備中を含む)の発電所は国内外で20カ所、合計設備容量は約91万kWで、開発中の案件も含めると約180万kWに上る(10月末日現在)。

自然を最大限に生かす 共生を目指して開発

エネルギー業界においてレノバは新規参入組。故に、最初に取り組んだ太陽光発電では、建設が容易な案件はほぼなく、さまざまな障壁との闘いの連続だった。一つが三重県の「四日市ソーラー発電所(2万1600kW)」。三重県は大規模太陽光に関する独自の条例に基づき、環境影響評価法で求められる水準に近い環境アセスメントの手続きを定めており、業界ではハードルが高い地域。そうした中、適地と見込んで、開発を決めた。また、事前調査で複数の希少生物の生息を確認し、建設計画を大幅に変更。追加投資で1haのビオトープを造成した。

一方、岩手県の山中に建設した「軽米西ソーラー・東ソーラー発電所(計約13万kW)」では、斜面を削る平地化を行わず、山肌を残し、日の当たる南側に太陽光パネルを敷設。地面は緑化し、雨水の流量を加減する調整池は約30カ所に造成し、自然災害に備えた。

一手間も二手間もかけるのは、発電所が地域の付加価値となり、将来にわたって長く運用される電源となるべきとの思いからだ。「価値を高める提案にこそ意義がある」。レノバは投資会社ではない、事業会社だという自負がある。

身近にあった環境問題 会社設立のきっかけに

神戸市の出身。幼少期を過ごした1980年代、山を削り、臨海部を埋め立て、新たな街が生まれる一方、自然の変わり果てた姿を目の当たりにしてきた。エネルギー・環境問題に関心を抱き、京都大学に進学後、環境政策論と物質環境論を専攻。在学中、地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、議論の行方を見守った。しかし、一部の学識者などの関心事にとどまり、社会全体の問題意識になっていないと実感。ビジネスを通じた環境問題の解決への貢献を目指し、会社設立を決意する。

コンサルティング会社勤務を経て、創業時はリサイクルワンという社名で環境・エネルギー分野の調査・コンサルティングやリサイクル事業の開発などで実績を積みつつ、再エネ事業参入の機会をうかがった。東日本大震災でエネルギー政策が大きく転換。2012年、調査・検討を進めてきた再エネ事業への本格参入を果たす。

今後、注力するのが洋上風力だ。参入を決めたのは15年のこと。秋田県の新エネ戦略を踏まえ、由利本荘市沖での事業計画を策定した。漁業関係者との海底地盤調査のほか、環境アセスメントについては、法定の説明会に限らず大小数十回の自主説明会を開催した。

今年6月には、準備書に対する経済産業相からの勧告を受け、評価書提出の最終段階に入った。また、由利本荘市沖が国の促進区域に指定され、公募への準備を進めている。洋上風力は、風車やその据付け、海底送電線など、関連する技術分野が多岐にわたり、エンジニアリング力を今まで以上に高める絶好の機会。また、地域の期待に応える上でやりがいもある。 国が洋上風力推進の方向性を示し、日本は今、普及に向けたスタート地点に立ったところだ。「国民負担を抑えた、持続可能な洋上風力開発のモデル事業となる責務を感じている」。自身にプレッシャーを掛け、挑戦する日々が続く。

再エネ推進と化石燃料利用の両輪で進む中国


【ワールドワイド/コラム】

9月26日、オンラインで行われた国連総会で中国・習近平国家主席が「2060年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言。世界最大のCO2排出国の発言は、世界中の話題をかっさらった。

そうした中、中国共産党は重要施策を決定する党中央委員会第5回全体会議(5中全会)を開催し、21年から25年にかけての中期計画である「第14次5カ年計画」を承認した。そもそも5カ年計画とは農業から工業、軍事などを網羅した施政方針。その中で脱炭素化についても述べられており、その大枠について新華社通信が報じている。

報道によると、脱炭素に向けて自然の保全・保護・回復に軸足を置くのと同時に、経済・社会全体でグリーンイノベーションを起こすと規定。30年までに炭素排出のピークアウト達成を目指すという目標についても、行動計画を策定し対応策をさらに強化する構えだ。しかし、発表にはグリーンかつ低炭素な開発を推進すると書かれているのみで、具体的な電源には触れられていない。

さらに、11月8日に石炭業界の国際展示会が開催され、「国内産業は石炭をクリーンかつ高効率に利用している」とアピール。また同日に開かれた資源開発の国際会議で政府高官は、「石油・ガス開発を積極的に拡大する」と発言するなど、これまで通り化石燃料の使用を継続する方針だ。

中国は太陽光発電や風力発電部品は世界一の出荷量を誇り、国内でも再エネ開発を強く推進している。だが、あくまでも一つの側面にすぎない。再エネに加え、原子力発電や火力発電を両輪に据えて、脱炭素と経済成長の両立を目指している。対外的には脱炭素社会を目指すが、経済成長を損なうことは決して行わない、中国のしたたかな戦略が透けて見える。

バイデン政権で大きく変わる 米国のエネルギー環境政策


【ワールドワイド/環境】

本稿を執筆している11月8日、バイデン氏の大統領選の勝利を確実視する報道が流れた。トランプ氏は郵便投票の不正を理由に裁判闘争に挑む構えであるが、バイデン政権が誕生すると考えるのが妥当だろう。

バイデン政権の誕生によって米国のエネルギー温暖化政策は大きく変わることになる。共和党と民主党の両極化がしばしば指摘されるが、地球温暖化問題は党派性が最も強い分野の一つである。

トランプ大統領就任以降、パリ協定離脱、クリーンパワープランの解体など、オバマ政権が行ってきたことを次々に否定。その間に民主党内部では、グリーンニューディールなどの過激な温暖化対策を標榜する左派リベラル派が影響力を増したことなどもあり、新政権ではトランプ政権の政策が次々に否定されることになるだろう。

バイデン氏がサンダース氏ら左派の支持をとりつけるために設置したバイデン・サンダースタスクフォースでは、遅くとも2050年までに経済全体のネットゼロエミッション、35年までに技術中立的基準により電力部門のCO2排出ゼロ達成を目指している。

また800万カ所に国産PVパネル、国産風車を6万カ所設置、30年までにすべての新築建築物をネットゼロエミッション化、5年以内に既存建築物400万カ所の省エネ化に向け数百億ドルの民間投資を誘導するなど、脱炭素化に向けた野心的な項目が並ぶ。

国際面ではパリ協定に再加入し野心的な30年目標を設定する、他国にも野心レベル引き上げを働きかけるなどの方向が打ち出されている。ただサンダース氏が掲げていたフラッキング禁止は連邦所有地にとどめ、原発を含めすべての脱炭素化のオプションを追求するなど現実的な面もみられる。だが、これら施策には膨大な予算が必要で、当初10年間で1・7兆ドルだった温暖化対策予算は、4年間で2兆ドルに引き上げられた。

民主党は大統領選と下院を制したが、上院では共和党が引き続き過半数を維持すると見込まれる。そのためオバマ政権と同様、行政命令や既存法の解釈運用による温暖化政策が中心になりそうだ。最高裁判事の陣容も保守派6人、リベラル派3人になったため、訴訟が起きた場合、政策実施に支障をきたす可能性もある。まずは国務省、エネルギー省、環境保護庁などの人事に大きな注目が集まる。

電源構成見直しでCO2削減 世界をリードする英国の政策


【ワールドワイド/経営】

今年10月26日に、菅義偉首相が2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすると宣言し、目標と具体策に注目が集まっている。だが、英国では19年6月に同じ目標を先進国で初めて法制化している。

英国は気候変動対策にいち早く取り組み始め、08年にはGHG排出量を50年までに1990年比80%削減すると制定。90年と19年速報値の比較では、GHG排出量を45%削減しながら、78%の経済成長を達成している。

08年以降、英国内で排出量削減に最も貢献しているのは電力部門における電源構成の変化である。08~18年にかけ、CO2の排出量を62%削減し、kW時当たりのCO2排出原単位を10年時点の約500gから18年には246gへほぼ半減させた。主な要因は石炭火力の発電シェア低下であり、12年の39・2%から18年には5%まで低下した。代わりにガス火力が主電源(同28%から40%)となり、太陽光および風力も同6%から21%に大きく増加した。

背景には12年から実施されている電力市場改革がある。大型の再生可能エネルギー電源を対象とした支援制度(FIT-CfD)により洋上風力の開発が大きく進展したほか、CO2排出量の多い電源の運転抑制を目的としたCO2排出価格の下支え制度(CPS)により石炭火力の閉鎖が加速した。

電力部門における今後の方向を占う上で、英国政府からのエネルギー白書の発表が待たれているが、18年以降、EU離脱問題やコロナ禍により、20年10月現在まで発表延期が繰り返されている。その結果、不透明になっているのが原子力発電所の新設計画だ。

安全対策費の増大により資金調達が大きな課題で、既に東芝と日立製作所は撤退。仏系EDFエナジーと中国のCGNの開発計画が残っているが、中国との関係悪化が影を落とし始めている。とはいえ25年までに石炭火力の全廃を決定したほか、洋上風力の発電容量を30年までに4000万kWへ拡大する目標を立てている。50年実質ゼロの法制化を提案した政府の諮問機関「気候変動委員会」は、脱炭素化に向けた取り組みがコロナ禍で停滞した経済の回復や、来年議長国として主催予定の国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)・主要国首脳会議(G7)での自国のリーダーシップにつながると考えている。

また運輸と熱供給の電化、炭素回収貯留(CCS)、水素活用、省エネ推進など、電力部門以外での脱炭素化政策を呼び掛けている。

【マーケット情報/12月11日】上昇、需要回復の兆し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から上昇。各地の経済活動が活発化し、需要回復への兆しが強まった。

インド国営石油会社IOCは、同国に保有する製油所の11月稼働率が100%だったと報告。同製油所の稼働率が100%になるのは3月以来。また、サウジ・アラムコ社が1月積み調整金を引き上げしたことも上方圧力として働いた。アジア各国への輸出が4か月間で最多となっており、アジア各国での需要回復が引き上げの背景としている。

供給面でも、イラク掘削現場で爆発事故があったことや、ロシアの産油量が減少したことがひっ迫感を強め、買い手の購買意欲を誘った。

ただ、週終わりの金曜日に発表された米国内で稼働する掘削リグ数は前週から15基上昇の338基となり、下方圧力として働いている。同水準に達するのは5月以降初めて。

【12月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=46.57ドル(前週比0.31ドル高)、ブレント先物(ICE)=49.97ドル(前週比0.72ドル高)、オマーン先物(DME)=50.57ドル(前週比1.16ドル高)、ドバイ現物(Argus)=50.21ドル(前週1.36ドル高)

【コラム/12月14日】電気事業のデジタル化とマネジメントの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化の醸成、およびカスタマーセントリック思考の様々な観点から論じられなくてはならない。組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワークについては、それぞれ以前のコラム(2018/07/09、2020/10/05、2020/11/09)で触れたので、今回は、マネジメントの課題であるマネジメント改革と協調の文化の醸成について述べてみたい。

 デジタル化に伴うマネジメント改革の重要性はいうまでもない。とくに、イノベーション創出への期待の高まり、スタートアップとの協調、アジャイルに代表される新しい開発手法の導入、従業員のデジタル能力の醸成などは、従業員のマネジメントのあり方に影響を及ぼすからである。重要なことは、デジタル企業やスタートアップで経験を積んだ若い従業員は、新たな視点や期待を有していることへの留意である。

デジタル企業におけるマネジメントは、伝統的企業のそれとは大きく異なっている。その大きな違いは、デジタル企業が小規模であることに起因すると見方もあるが、Google、Microsoft、Amazonの例から分かるように、今日では、デジタル企業は、超大企業の規模に達しているものも多い。しかし、これら企業のイノベーション創出力、フラットなヒエラルキー、経営のスピードは現在まで失われていない。それゆえ、マネジメントの違いは企業の規模だけに帰することはできない。

マネジメントの違いは様々であるが、1つには、デジタル企業では、従業員は通常、階層を超えて大部屋でチームで協働し、マネジメントは、チームの中央に座し、要求されれば素早く支援や決定を行う。また、ミーティングは、しばしばアドホックで招集され、短時間開催される。さらに、いくつかの企業は、経営者との週例の全社的ミーティングを開催しており、従業員が経営者に対して直接質問できる制度があるほか、キャフェテリアでの無料の食事の提供やサークル活動などを通じて、普段仕事で関係しない従業員同士のコミュニケーションの増進を図っている。

デジタル企業では、経営者は、唯一の意志決定者というより、むしろコーチやファシリテータと見なされている。決定はチームによって、客観的なデータに基づいて下される。また、経営者は、オープンエンデッドなプロジェクトや失敗を受け入れ、従業員によるトライアルアンドエラーを伴う挑戦を許容する。重要なことは、初めから完全なプロダクトを目指すのではなく、数多くのアイディアをテストし、そのうち多数ものは破棄し、いくつかの大変成功する可能性のあるものを見出すことである。

 経営者にとって、協調の文化を醸成していくことも重要な課題となっている。すでに述べたイノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革は、企業の組織構造を中長期的に変化させる。とくに、「サイロ型システム」といわれる伝統的企業に特徴的な「縦割り組織構造」は減少し、デジタル化の進展とともにアジャイルなプロジェクトチームに見られる分野横断的な組織が増大していくだろう。そのような分野横断的な組織では、協調が重要なキーワードとなる。例として、顧客視点から一貫した「エンドツーエンド」の業務プロセスが設定される場合、顧客視点からの成果のみが決定的な重要性をもち、企業内部の強い協調が求められる。協調を促進するためには、経営層の役割が極めて重要である。デジタルプロダクト創出のために、経営者は分野横断的な協調を一層促進していかなくてはならない

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

混迷のナゴルノ・カラバフ問題 資源開発事業にも潜在的な脅威


【ワールドワイド/資源】

アルメニアとアゼルバイジャンの係争地、ナゴルノ・カラバフで9月末に勃発した武力衝突が泥沼化した。11月10日にはロシアの仲介により4回目の停戦で合意したが、最終的な解決に向けては依然先行きが不透明だ。

発端をオスマントルコとアルメニアの民族および宗教的対立にさかのぼるといわれるこの長く根深い問題は、ソ連末期に暴力化し、両国間の大規模な武力紛争に発展。1994年にロシアの仲介で停戦した後、アルメニアの支援を受ける「ナゴルノ・カラバフ共和国」がアゼルバイジャン南西部を実効支配する状態が維持され、欧州安全保障協力機構のミンスク・グループが和平交渉を仲介してきた。

しかし、最終的な解決に至らず散発的な衝突が続いている。今回の軍事衝突では10月中に計3回停戦で合意したにもかかわらず、毎回停戦開始直後に戦闘が再開し、死傷者が千人規模に上る異例の事態となった。

カスピ海西岸に位置するアゼルバイジャンには、ロシア、欧州につながる原油・ガスパイプラインが複数通っている。このうちShakh Denizガス田の天然ガスをバクー近郊からジョージア、トルコを経由して欧州に輸送する「南ガス回廊」が今年中に完成する予定だ。3本のパイプライン計画からなる「南ガス回廊」の最終部分、トルコ、バルカン半島を経てイタリアに至るTAP(Trans Adriatic Pipeline)の敷設作業は10月に完了し、アゼルバイジャンは量こそ少ないが、欧州市場にロシア産ではない天然ガスをパイプラインで供給する象徴的な立ち位置を手に入れることになる。

アゼルバイジャンは今回の戦闘でアルメニア側からパイプラインに攻撃を受けたと複数回発表し、資源供給を脅かしていると国際社会に警鐘を鳴らす。一方のアルメニアは「石油・ガスインフラを攻撃対象と見なしていない」と否定しているが、実際のところ付近で攻撃があったとしても、アルメニアがパイプラインを標的とすることは考えにくい。ロシアや欧米企業も参加する石油・ガス事業に被害を与えれば、国際世論を敵に回すことになりかねないからだ。

しかし、紛争地域に流入しているとされる外国人武装集団には注意が必要だ。彼らは主にトルコで雇われて戦闘に加わっているとされるが、制御の効かない勢力となって破壊工作を行う事態になれば、石油・ガスインフラへの攻撃も懸念される。戦闘の停止に加え、紛争地域の監視が徹底されなければ、新たな問題の火種になりかねない。

仙台市ガスの公募締め切り 応募は「4社連合」のみか


仙台市ガス局の民営化を巡り、市による事業継承者の公募受付が10月29日に締め切られた。市は、提案内容の審査を経て来年5月に優先交渉権者を決定し、22年度内の事業譲渡を目指す。

これまでに東北電力と東京ガスの2社が公募申請したことを表明。両社は、石油資源開発(JAPEX)、ENEOS系特約店のカメイとともに企業連合を組んでおり、この4社連合以外の動きは聞こえてこない。民営化の方針が明らかになった当初は、都市ガスや電力、LPガスなど複数社が高い関心を示していたが、いずれも応募を断念したとみられる。

300億円を超える市場規模は大きな魅力だが、マレーシアの国営石油会社とのLNG長期契約など、ほかの公営ガスにはない課題が山積しているため、4社連合のような異業種による強力なタッグを組まない限り事業を継承することは事実上不可能といえる。

市は企業債残高を一括償還するため、400億円という割高な譲渡価格を設定した。競合が出ず価格がこれ以上つり上がらないことに胸をなでおろしているのは、4社連合にほかならない。

怒りに満ちた東京新聞 処理水放出で「禁じ手」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

この新聞は「怒り」が充満している。「東京新聞記者、停職2週間、取材中に暴力的行為」(読売11月1日)で、そう思った。

「記者は社会部の40歳代男性。政府が新型コロナ対策で配ったマスクの単価などを調べるため、厚労省に情報公開請求をしたが不開示。これを受け、9月4日に同省職員を取材した際、『ばかにしているのか』と大声をあげて机をたたくなどした」という。

怒りは記事もだ。東京11月3日社会面トップ「処理水放出方針、福島の漁師怒り」である。

東京電力福島第一原子力発電所近くの港で漁船に乗船し、漁を間近に見た記者の体験記らしいが、現場の描写はわずか。ほとんどは、記者の憤りを漁師たちのコメントに託してつづった文章だ。

「原発から出る汚染水を浄化処理した後の水について、政府は海洋放出の方針を決定しようとしている。反対の声を上げる漁業関係者の思いの底にあるのは、被災者と向き合わない国と東電への怒りだ」。冒頭からすごい。

共感し難いのは、「(海洋放出したら)漁業はやる人いなくなっと。自殺者が出るよ」という漁師のコメントの扱い方だ。「自殺者」の文言は不要だろう。

無用な自殺報道は、リスクの高い人の自殺を誘発しかねない。なので、世界保健機関(WHO)は『メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き』(自殺報道ガイドライン)を作っている。「やってはならないこと」は「自殺を問題解決策の一つであるかのように紹介しない」である。東京記事は一線を越えている。

今夏、自殺報道が相次いだ。コロナ禍で社会不安も広がる。朝日9月28日電子版「著名人の自殺、過度な報道を控えるよう要請、厚労省」によれば、「加藤勝信官房長官は28日の記者会見で、WHOガイドラインについて『順守をお願いしたい』と述べた」という。同感である。大震災から間もなく10年だ。なお、禁じ手を使って不安をあおるのか。

そもそも処理水問題は科学的に決着済みだ、と思う。

朝日が運営するAERA dot.サイト10月28日の「カンニング竹山、原発処理水海洋放出は保留、いま話し合わないでどうすんの?」は明快だ。

「当初は10月27日と予想されていた東京電力福島第一原発の処理水海洋放出の決定を菅首相はひとまず『保留』とした。お笑い芸人・カンニング竹山さんは、海洋放出しか方法はないとし、その理由を分かりやすく、そして強く訴える!」

要点を挙げる。

「重要なのは現状ですよね。福島第一原発の放射能を封じ込めるために使った冷却水は、いまのペースでタンクにためていくと2年後の2022年夏にはそのタンクを置く場所がなくなる」

「タンクにためている水を浄化処理したものに含まれている物質はトリチウムだけ」

「海洋放出は、原発を動かしているどこの国でもやっている。原発があればトリチウム水は出るから、海洋放出しか答えはない」

「韓国の知事が『原発汚染水の放流は大災害のはじまりだ』と主張したんだけど、いや、おまえの国の釜山の原発だってトリチウム水をガンガン流してるぞ!」

東電はしっかり水を浄化処理する。政府の原子力規制委員会は、浄化されたかどうかを厳格にチェックする。

そして放出。難しい話ではない。竹山さんに同感。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

異色の経産官僚がタッグ 河野氏の下で規制改革担当


経産官僚で異色の経歴を持つ山田正人氏が、10月末の人事で内閣府規制改革推進室参事官に就任した。エネルギー制度改革に意欲を見せる河野太郎・規制改革相の下で、山田氏がどんな手腕を発揮するのか、注目されている。

山田氏は1991年に旧通商産業省入省。核燃料サイクルに否定的と言われるなど改革派官僚として知られるほか、霞が関の男性キャリアで初の育児休暇を取得。その経験を書籍化するといった異色の経歴を持つ。

その後も横浜市副市長、消費者庁取引対策課長、経産省地域産業基盤整備課長、製品評価技術基盤機構(NITE)企画管理部長などを歴任。そして今年7月に中小企業基盤整備機構理事に就いたばかりだったが、今回の人事で内閣府に異動となった。

山田氏の異動は「自らの希望」(エネ業界関係者)とも言われ、「核燃サイクルは破綻している」と公言する河野大臣との相性は良さそうだ。河野氏は再エネ拡大のための規制緩和の検討など、さっそくエネルギー関連の案件に切り込んでいる。ここからさらに山田氏とどのような〝化学反応〟を見せるのか、関係者はかたずをのんで見守っている。