【特集1/座談会】「分散化」は本当に有効なのか!? 強靭化へ新たな知見と教訓


火力発電所や国家石油ガス備蓄基地の被災などエネルギー関連設備も被害を受けた。

電力、ガス、石油業界は新たに得た知見を次の災害にどう生かすべきか。

【出席者】
草薙真一/兵庫県立大学副学長
荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授
藤井 聡/京都大学レジリエンス実践ユニット長

左から順に、草薙氏、萩本氏、藤井氏

―能登半島地震では配電設備の被害が大きく、停電復旧に約1カ月を要しました。

草薙 電力は被害範囲が広範で、一般送配電事業者(TSO)が送配電網協議会などを通じて連絡を取り合い、他電力が応援に入りました。また志賀原子力発電所のトラブルもあり、高い緊張感のもとで対応に当たっていた印象があります。

藤井 能登半島には七尾大田火力発電所と志賀原子力発電所という大きな発電所が二つあり、地震で七尾大田火力が稼働停止しました。発災直後には関西電力送配電から北陸電力送配電に対して最大60万kWのひっ迫融通が行われたものの、全国的なひっ迫は生じていません。ただ被害地域が広範囲となり多くの発電所が停止すると、3・11のように計画停電などの必要性が出てくる。改めて余裕を持った発電量確保の必要性を感じました。

荻本 七尾大田火力のような大きな電源は、送電線が高速道路のような役割を果たし、広い地域に電気を送り届けます。こうした供給は地域間融通で対応できましたが、今回の停電は家屋の倒壊に伴って電柱が倒れるなどが原因で、復旧へ必要な対応はさまざま。また被害を受けた家屋に電気を流すと、火災や漏電が起きかねません。個々の状態を確かめながらの復旧作業が求められた点が特徴です。

草薙 復旧作業では個々の需要家の顔を見ながら、直接対応するケースが多かったと聞きます。日本語を話せない外国人の被災者への対応などに苦労があったでしょう。

藤井 能登半島は新耐震基準に満たない建築物が約50%で、全国平均の13%と比べて格段に高い。家屋の耐震性によって災害時の停電が増えるメカニズムを再認識しました。

耐震化率が低く多数の家屋が倒壊した

荻本 今回の地震では広い面的な被害があり、復旧作業には道路などほかのインフラ復旧を待つ必要がありました。さらに道路が開通しても、アクセスに非常に時間がかかり、長時間の作業が行えないこともあった。

藤井 高速道路が七尾市で止まっていて、輪島市や珠洲市まで到達していません。「日本の隅々まで高速道路が整備されていれば……」との後悔は拭えません。

草薙 一方、道路の復旧がなかなか進まなかったことで、自衛隊の輸送艦などが海から支援物資の陸揚げを行いました。海からの救援はこれまでの災害ではあまり経験がなく、新たな学びとなりました。

藤井 七尾大田火力のような長期間の稼働停止の回避は、どれくらいの耐震補強で可能なのか、という検証は行う必要がありそうです。ただ電力自由化によって、強靭性の確保のための投資が削られてしまう側面は否定できません。本来は国費の投入も含めて、強靭性向上が図られるべきです。

荻本 設備の強靭化については、限られたお金をどこに投下するのか、社会全体での選択が必要となります。人口減少の中で過疎地への配電網をどこまで維持するのか、しないのかという判断も迫られるでしょう。


分散型電源の強みと弱み 地域に見合った選択を

―能登半島地震を受け、分散型電力システムの導入を求める声が高まりそうです。

荻本 災害時は、送配電網や電源の障害で広範囲で停電が発生します。その時、供給側は地域を超えた協力で復旧に向けて努力する。しかし、需要側の工夫も必要で、停電の影響の軽減のために需要側が貢献する「安定需給」の確立が求められています。これは、需要側が電気の使用を管理して自律することに加え、回復力の強化という効果もある。例えば電気自動車(EV)の今後の活用が挙げられます。バッテリー容量は大きくないので、冷暖房などには使えませんが、スマホの充電など停電の復旧予定に合わせて利用できれば効果は大きいでしょう。

草薙 EV活用時の課題の一つが、系統強度です。回転機を使わないので、交流の電圧波形を維持する能力が落ちてしまう。電力システム全体が小さかった時代は、系統強度の不足で電圧変動や周波数変動が起き、しばしば停電が発生しました。人口減少やEVの活用などでシステムの総体が小さくなると、またそうした問題が出てきます。

荻本 分散型電力システムは近年導入が始まり、まだ移行期にあります。移行期はシステムストレングスと呼ばれる交流電圧波形維持の問題など、さまざまな脆弱性を抱えている。例えば米国の西海岸では、合計100万kW級の多数の太陽光発電が一斉脱落した事例があります。ただシステムストレングスに対応するインバーターの開発や太陽光で発電した電気を貯めるバッテリーなど、脆弱性を補うにはお金がかかる。分散型電力システムはこうした現実を直視し、優先順位をつけて適用分野を広げる必要があります。

藤井 強靭性の強化という点で、地域分散的な電力システムが役立つという考えには必ずしも賛同できません。分散型では、例えば家屋倒壊などで太陽光発電が使えなければ電力供給は停止し、一つひとつ修理が必要となり、復旧に時間がかかる。しかし大きな発電所が多くあり、他地域からの融通システムの強靭性が確保されていれば、停電を最小限に抑えられる可能性が高い。

荻本 米国では、長い配電網の先に住宅や農場がある地域があり、ハリケーンによる配電線の被害の復旧にひと月もかかる例があります。そこで電力会社は、需要側に太陽光発電とバッテリーを設置する代わりに、配電線を撤去した。豪州の乾燥地帯でも、似たような事例があります。日本は国土が広大な2国と状況は異なりますが、「自立」の考え方としては頭に入れておくべきでしょう。

【特集1】避難所・仮設住宅のエネルギー環境 断水下の被災者を支えた貴重なインフラ


断水が被災者を苦しめる中、避難所へのエネルギー供給に大きな支障はなかった。

そして現在は仮設住宅の建設がピークに。事業者はその対応にフェーズを移している。

「水が出て流せることが当たり前ではない中、避難所でエネルギー面の不便がなかったことは助かった。エネルギーまで来なかったら目も当てられなかった」(七尾市福祉課)

避難所が数百カ所に及び全容がつかみきれない中、北陸電力送配電はまず数百人以上の施設への供給を優先し、その後100人単位へと広げていった。発電機車は合計95台体制で、商用電源でも対応した。復旧の進捗につれ送電ニーズも変化。「初めは人命に関わる避難所、その後はごみ処理場、火葬場、浄水場、防災無線など、自治体によっても異なる。経産省リエゾンが集約した情報を共有し対応することができた」(同社)。他方、細かい道路情報は誰も把握できず、重要施設に発電機車が一度で到着できないこともあった。

また、空調を含め全てLPガスを使用する輪島の日本航空学園のキャンパスは発災後、自衛隊や消防、電力などの最前線基地(現在は自治体応援者の基地)、そして避難所となった。ガスヒーポンや道路などが破損し断水していたが、厨房の配管が使用できることを確認。日本海ガスが、ローリーでの搬入などが可能かを確認した上でLPガスを配送できたのは3月上旬になってから。ただ、同校のLPGタンクは冬休み中で満タンであり、2カ月ほど在庫が持った。その間、同社はカセットボンベや寝具などの支援物資を送った。

仮設建設はピークを迎えている(石川県穴水町で)


仮設の建設最盛期 電力・LPガスの対応状況は

仮設住宅については、石川県が8月までに6600棟の完成を目指し、現在建設最盛期だ。

北陸電力送配電では、復旧作業しながら仮設用の電柱や配電設備を整備。平時同様、NTTと役割分担して電柱を設置する。入居に当たる電気の申し込み対応も増えてくる。「以前の住宅の電気契約をどうするか1件ずつ確認しつつ、高齢者などには丁寧に対応していく」(北陸電力七尾支店)。

他方、県LPガス協会が県土木部に要請し、地元販売店が仮設へのガス供給を担うことになった。というのも、東日本大震災では地元販売店に代わり配管工事などを担った大手事業者がそのまま顧客を獲得。さらに一部では工事関連費用を需要家に転嫁していたが、今回はエネ庁の指導により回避されている。

消費機器関連では、県は当初、高齢者への安全面の配慮からコンロはIH、給湯はLPガスと方針を掲げたが、早期にIHコンロが品薄に。以後はガスコンロを採用するが、据付工事で人手不足が課題となっているようだ。

【特集1】災害への強さを見せたLPガス 販売・配送の情報収集が課題に


設備被害を受けながらも、燃料油とLPガスは被災地へエネルギーを供給し続けた。

資源エネルギー庁の日置純子燃料流通政策室長に、災害対応から見えた課題を聞いた。

【インタビュー:日置純子/資源エネルギー庁燃料流通政策室長】

―能登地震でも災害に強いLPガスの利点が生かされました。

日置 いろいろありましたが、結果的に供給上の支障が生じることはなく、改めて災害に強く非常時に有用なエネルギーであることが確認されました。発災当初は北陸エリア向けの大半を担うENEOSグローブの七尾基地が出荷停止となり、特に産業用ガスをどう途切れさせることなく供給するかが大きな課題となりました。小規模ながらアストモスエネルギーの金沢基地をフル稼働させ、新潟、名古屋、四日市、堺といった基地からの配送や、限定的ながら七尾の出荷再開でなんとか乗り切れました。元売各社をはじめ、国土交通省や石川県の道路部局など関係者の理解と協力があってこそです。奥能登では充填所が被災しましたが、在庫や他地域からの応援配送で対応できました。

―今後の課題は。

日置 合理化に伴い日本海側にはLPガスの輸入基地が少なく、レジリエンスの観点から基地の配置や設備の在り方などを検討する必要があると考えています。資源エネルギー庁としても、情報収集に課題があったと認識しています。例えば、地元の小規模販売事業者の多くは配送を委託しているという実態が改めて浮き彫りになりました。応援配送の担い手たる事業者は誰なのか、災害に備えて情報を持っておく必要があります。また、被災している中で現地の人手が足りず、他エリアから支援に入るにしても宿泊施設もないような状況でどのような対応が可能なのか。今回の経験を踏まえ、対策を講じていきます。


中核SSはしっかり機能 初期対応で役割果たす

―中核SSは機能しましたか。

日置 発災当初は道路寸断でローリー車が入って来られず、非常用電源も3日で切れてしまうという状況下、病院や福祉施設、緊急車両、避難所への円滑な燃料供給を行うなど、非常に重要な役割を果たしたと評価しています。タンクへの浸水などにより運用できない設備も一部ありましたが、ハイオクのタンクにレギュラーガソリンを貯蔵するなど、緊急避難的な対応で初期の混乱を切り抜けることができました。自らも被災している中、高い使命感を持って対応していただけたことに感謝しています。

―今回の地震で、SSの過疎化が20年早く進んだという人がいます。

日置 地震をきっかけに、能登半島で人口や産業が戻らない場合、SSのニーズが減る可能性はもちろんありますが、国や自治体は、産業を含めた被災地の復興にしっかりと取り組んでいこうとしているところです。地震で設備に損傷を受けたSSやLPガス施設に対する補修費用の支援も行っています。現時点で悲観的なシナリオを描き、過疎化が進むと考えることは適切ではないと考えます。

ひおき・じゅんこ 京都大学卒業後、経済産業省入省。ネットワーク事業制度企画室長、デジタル取引環境整備室長などを経て23年7月から現職。

【特集1】疲労麻痺するほどの激務 被災支店の災害対応模様


北陸電力七尾支店では、発災直後の通信障害で従業員や家族の安否確認がままならず、支店に集まるのも苦慮した。そんな状態からスタートした同支店の災害対応の実情を、北角規良・営業部長と石塚聡・総務担当部長に聞いた。

七尾支店の北角氏(左)と石塚氏

非常時は支店長以下、部課長がすぐ出社する決まりだが、基幹道路が寸断し下道の被害も甚大。翌日にはほぼ全員集まり、本店と役割分担し後方支援に当たった。従業員の中には今も避難所から職場に通う人も。輪島営業所では火災で家を失った人、自宅全壊の人もいる。

食事面では本店の手配で賄えない支店従業員分を、地元スーパーに1カ月ほど提供してもらった。普段から顔を合わせる自治体職員や地域の人たちが、同社の要望に耳を傾けてくれたという。そして今も珠洲、輪島営業所には七尾支店が水を運ぶ。七尾は3月中旬にトイレの水を流せるようになったが、珠洲や輪島はまだ仮設トイレ。ただ、環境改善は大分進んできた。

配電部門の要請にはできる限り応えるよう努め、週2回の物資運搬は当初から続ける。また自治体のごみ回収がストップし、毎日2人ペアで作業員の宿泊先などのごみをトラックで回収。「2カ月ほどは疲労感が麻痺するほどの激務」だったが、現在、後方支援業務はかなり落ち着いてきた。

今回の教訓としては、「初動対応の一丁目一番地である従業員の安否確認、そして従業員の出社をいかにできるようにするか。また支店レベルでも地元企業との連携や能登エリアでの広域的連携体制の整備が今後の課題となる」と考えている。

【特集1】被災地のエネルギーインフラ事情をルポ 激甚複合災害に対峙した現場の奮闘記


被災地では多くのエネルギーインフラが被害を免れず、関係者はさまざまな課題に直面した。

他方、これまでの教訓が生きた場面も。甚大な複合災害に対峙した現場の生の声を拾った。

能登半島地震ではマグニチュード7・6、最大震度7を観測し、津波や液状化、火災といった大規模複合災害により、インフラの復旧は困難を極めた。道路の寸断や断水が長期に及び、かつ冬場の発災で、自らや家族が被災者というケースもある中、エネルギー関係者はどのように復旧に当たり、何を感じたのか。4月上旬に現地を取材し、当事者に発災から現在までを振り返ってもらった。


〈配電部門〉 困難極めた停電復旧

電力ネットワークでは今回、送変電設備でも一部被害があったものの、顕著だったのは配電設備だ。3月末時点で電柱の傾斜2310本、折損760本、断線・混線が1680カ所となっている。無電柱エリアでも路上機器に家屋が倒壊するなどの被害があった。

地震発生直後、石川県の能登地域を中心に約4万戸が停電し、北陸電力や他電力の応援部隊はアクセス可能なエリアから段階的に作業を実施していった(グラフ参照)。当初約200人が現地に入り、最大時は一日1400人規模で対応した。もともと奥能登の二つの事業所は所員が少なく、多数の人を投入してもさばききれないため、受け入れ可能な最大規模の人員が現地に赴いた。

到達困難な場所への作業員輸送に自衛隊が協力
提供:北陸電力

需要側設備の健全性が確認できない場合などを除き3月中旬には復旧したが、その間の苦労はほかの災害の比にならないものだった。北陸電力送配電配電部の越中洋・業務運営チーム統括は、「昨年末も奥能登では雪害があり、除雪し倒木を避けながら復旧作業を行った。しかし今回は複合災害であり、断水や渋滞も長期化。通常の停電復旧ではまず巡視し、被害を想定した上で班数などを考えるが、今回はそもそも巡視できないエリアが多数あった」と振り返る。特に被害が甚大な珠洲市や輪島市は、広いエリア内に設備が点在する上、なかなか現地に到達できなかった。

現地に入った作業員は3泊4日でローテーションを組み、被災地からいったん帰ってもすぐまた出向く、という日々がしばらく続いた。渋滞も悩みの種で、「ひどい時は金沢から珠洲に8時間かけて行き、1時間だけ作業して帰るなど、とにかく非効率だった」(越中氏)。また、罹災証明が発行されるまで道をふさぐ倒壊家屋を撤去できず、復旧させたくてもできない。1月いっぱいはそんな状況だった。

液状化で電柱が傾いたり沈下したりという箇所は、通電に問題がなければいったん仮復旧し、後から修復していくことになる。そうした対応にもまだ2年程度はかかる見通しだ。

そして何といっても、作業環境の改善がなかなか進まない点での苦労がつきなかった。通常であれば日が経つにつれ現場の環境はどんどん改善していくものだが、今回、1月ほど過酷な環境ではないにせよ、3カ月たっても大きく改善せず。現在でも共同の風呂や仮設トイレを使い、プライベート空間が限られる中で作業を続けている。

ただ、「大変な状況でも現場の配電復旧や後方支援は頑張ったし、雪慣れしていない他電力の人も1月いっぱいフルに活動してくれた」(同)。現在は仮復旧から本復旧の段階に入るとともに、仮設住宅への対応などが多くなってきた。今後、現場が直面した課題などを聞き取り、これからの訓練などに生かす方針だ。

発災以降の停電戸数の推移
提供:北陸電力

災害時連携計画が効力 応援要請が円滑に

越中氏は「場面場面で、これまでの災害の教訓が生きていたと感じた」とも強調する。まず大きかったのが災害時連携計画の存在だ。5年前の房総半島台風の教訓から、一般送配電事業者は同計画を策定し、経済産業省への届け出が義務付けられた。同計画に基づき今回、陸上自衛隊や海上保安庁の協力を得て、アクセス困難なエリアには作業員をヘリや船で輸送した。特に海保とは3年前に災害時の協定を結んだばかりだったが、ルールに基づき円滑に応援を求めることができた。

また、同計画では、仮復旧に関して全電力で統一した仕様・工法で行うこととしている。以前は応援に行くと部材や工法の違いに戸惑うことがあったが、ある程度統一できており、また統一できていないものについても拠点で作業前にレクを行うことでスムーズに対応できた。

さらに、経産省のリエゾンの存在も大きかったという。「リエゾンが災害対策総本部会議に参加して各部門が困っている話を吸い上げ、例えば道路啓開などの件で国土交通省に掛け合うなど、他省庁との懸け橋になってくれた」(同)

他方、昨年に一般送配電事業者の顧客情報漏えい問題が明らかになったことを受け、災害対応時も非公開情報や個人情報の扱いには最大限の配慮をしながら対応したと振り返る。

【コラム/5月1日】IEAのフェイクニュース 「クリーンエネルギーで経済成長」は適切な評価か


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

IEA(国際エネルギー機関)がまたもや愚かな報告書を出した。タイトルは「クリーンエネルギーが経済成長の原動力となっている(Clean energy is boosting economic growth)」である。

https://www.iea.org/commentaries/clean-energy-is-boosting-economic-growth

報告書を見ると、

・2023年の世界GDP成長率の10%をクリーンエネルギーが占めた

としたうえで

・欧州では経済成長の3分の1がクリーンエネルギーによるものだった(図) として、欧州のクリーンエネルギー政策をやたらと持ち上げている。

だが、ここで何を勘定しているのかというと、

・クリーンエネルギー技術の製造:太陽光発電、風力発電、バッテリー製造のバリューチェーンにおけるクリーンエネルギー製造への投資

・クリーンな発電能力の導入:太陽光発電、風力発電、原子力発電、蓄電池など、クリーンな発電能力の導入と電力ネットワークへの投資

・クリーン機器販売:電気自動車(EV)やヒートポンプの販売

となっている。

つまり、

・再生可能エネルギーなどの導入による電気代高騰に伴う経済への悪影響

・EVの導入による運輸・物流コスト上昇に伴う経済への悪影響

などは入っていない。経済分析というのは、便益と費用と両方見なければ落第なのに、費用の方を見ていない。

それに、GDPが増えたといっても、可処分所得が増えないと意味が無い。ロシアが戦争のおかげで軍事費が増えてGDPが増えていると言っているのと同じような議論に過ぎない。

EUのGDPはかろうじて0.5%成長しているにすぎず、その3分の1がクリーン投資なのだそうだ。だが、そもそもなぜ0.5%しか成長していないかといえば、そのエネルギー政策があまりにまずかったからではないのか?

と言う訳で、IEAは経済分析能力を放棄して、EUなどの好むクリーン政策をひたすら正当化するだけの組織に成り下がってしまった。昔はもっとまともな分析をする組織であり、エネルギー安全保障を真剣に考える機関だったと思うが、残念なことだ。

こんなIEAなら無い方がよい。

IEA解体論は米国の共和党系シンクタンクで盛んに議論されている。「たぶんトランプ」になれば、ただでは済まないのは間違いなかろう。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

【静岡ガス 松本社長】30年ビジョン実現へ 中計で事業領域を拡大 組織開発・人材育成に力


2030年ビジョンの対応が加速する中、社長に就任。

自らが策定に携わった中期経営計画では、今後の成長に向け、事業領域の拡大を推進する。

信条でもある組織開発・人材育成に力を入れ、次の世代へのバトンリレーを着実にこなしていく。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは社長就任にあたっての抱負をお願いします。

松本「静岡ガスグループ2030年ビジョン」を確実に推進したいと考えています。社長職はバトンリレーのようなもので、2030年に向けた期間を担うべくビジョンを推進し、その次の成長やあり方を考えていくのが私の仕事です。それを進めるためには当然、人・組織が重要であり、そのための人材育成や組織力の強化が欠かせません。当社のビジョンは七つの事業で構成されていますが、特にこれらの推進に必須な人・組織を重点的に強化していく考えです。

井関 社長就任の打診はどなたから?

松本 岸田裕之会長(前社長)から伝えられました。本当に自分でいいのかと驚きましたが、挑戦したいという思いがあり、これまで育ててもらった先輩・後輩に恩返しするチャンスだとも考えました。また、静岡ガスの企業理念でもある「地域社会の発展」に貢献したいという気持ちが強く、引き受けることを決めました。

井関 入社後から今日まで、どのような歩みでしたか。

松本 最初の3年ほどは工場での生産やシステム関係の業務に携わった後、家庭用や産業用の営業を担当しました。1990年代半ばから2010年にかけて、産業用の需要拡大によって当社グループの販売量が増大したことに伴い、産業用の大口開拓の営業をメインに行いました。そのほか、技術系やインフラ関係、電力事業など一通りの分野を経験しました。

また、1999~2002年に日本ガス協会に出向する機会もありました。ちょうど大口の自由化が軌道に乗り始め、料金値下げ時の届け出化や選択約款の導入が始まった時期になります。自社に戻ってからは、エネルギー戦略部で主に電力事業を見ていました。当社は14年に電力の専業子会社として静岡ガス&パワーを設立しており、20年にはエネルギー戦略部長と静岡ガス&パワー社長を兼務。22年には経営戦略本部に移りました。その後、INPEXと東京ガスの合併会社・南富士パイプラインが経営戦略本部の所管だったこともあり、同社の代表取締役社長に就任しました。


三つのフェーズで対応 中計で事業領域拡大へ

井関 23年通期の業績評価と今期の業績見通しの感触はいかがですか。

松本 23年の業績については、原料費調整制度のスライドタイムラグによる一過性の増益が大きく、当期純利益は対前年比136・1%増の141億円ほどとなっています。ただ、エネルギー価格高騰などに伴い、小口のお客さまを中心にガスの使い控えなどによる減収が大きく、むしろ危機感を持っています。さらに新型コロナ感染症が第5類に引き下げられたことで巣ごもり需要がなくなったことや、特に今年1~2月は暖冬も重なり、販売量が減少しています。これは電力や石油系も同様の傾向にあるはずです。

加えて、輸出を中心とする製造業の在庫・生産調整でも使用量が減っており、この需要がすぐ増加に転じるとは考えにくく、例えば事業領域の拡大などは早急に取り組むべき課題の一つです。他方、一部の超大口のお客さまはまだ石炭や重油を使っており、都市ガスへの燃料転換推進などで引き続きガス事業の成長も図っていきます。

静岡ガスグループの2030年ビジョン

井関 24~26年の中期経営計画も発表されています。中計の狙いや実行にあたってのポイントはどうですか。

松本 グループの30年ビジョンの実現に向けて三つのフェーズで対応していきます。24年までが「信頼のブランド強化」、25年からの3年間は「事業領域の拡大」を目指す時期です。先ほど述べたように、都市ガス分野も伸ばしつつ、それ以外の事業領域の拡大をさらに進めていく方針です。

井関「信頼のブランド強化」の手応え、そして「事業領域の拡大」の柱となる事業の詳細を教えてください。

松本 前者については、コロナ禍で思うように動けない時期もありましたが、われわれが安全・安心を主張するだけでなく、お客さまから「静岡ガスは信頼できる」と捉えられ、一定のブランド力を築くことができたと思っています。後者では、一つは電力・再生可能エネルギー事業です。電力と再エネを一体で進めることで、30年ビジョンを構成する成長の柱の一つになるでしょう。もう一つは海外事業で、これまでローカルで進めていたものをグローバルに展開していきます。もちろん、ほかの事業も収縮させず、引き続き成長を目指します。

【マーケット情報/4月29日】ブレント上昇もWTI下落、方向感欠く


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月22日から29日までの原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物、および中東原油を代表するドバイ現物が上昇。一方で、米国原油の指標となるWTI先物は小幅に下落。強弱材料が混在し、方向感を欠く値動きとなった。

上方圧力として働いているのは、米国における週間原油在庫の減少だ。輸出増と製油所の稼働率上昇で、1月19日以来の大幅減少となった。ガソリン在庫も、2023年12月下旬以来の最低を記録した。また、同国の製油所は、5月下旬に向けて、原油処理量を増やす計画。定修完了と、夏のガソリン需要期開始が要因となっている。

さらに、中東では、イエメンを拠点とする武装集団フーシが、4月中旬ぶりに船舶を攻撃。供給不安が広がった。 他方、サウジアラビアは29日に、イスラム武装組織ハマス、およびイスラエルに対して停戦を提言。ガザにおける情勢改善、今後の供給不安払拭への期待感が台頭し、価格の下方圧力となった。加えて、中国の3月原油輸入量は、前年比で減少。マージン縮小と、製油所の定修が背景にある。


【4月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=82.63ドル(前週比0.22ドル安)、ブレント先物(ICE)=88.40ドル(前週比1.40ドル高)、オマーン先物(DME)=89.27ドル(前週比2.43ドル高)、ドバイ現物(Argus)=88.95ドル(前週比2.72ドル高)

脱炭素時代の新たな覇権争い 「グリーン経済安保」の確立を


【今そこにある危機】北村 滋/前国家安全保障局長

脱ロシアと脱炭素の加速は中国リスクを高めかねない。

日本には中国に依存しない脱炭素戦略が求められている。

経済安全保障は、世界経済や地政学リスクの変化に伴ってその対象を不断に広げている。現在、最も注目すべきは地球環境問題への対処、とりわけ脱炭素の要請だ。

欧州連合(EU)は温室効果ガスの排出量を1990年比で2030年までに55%以上削減し、50年までに排出量を実質ゼロにすることを目標としてきた。21年7月には、その実現に向けた政策パッケージである「Fit for55」を公表。だがその7カ月後、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した。この突然の地政学リスクによって、EUはエネルギーのロシア依存からの脱却を急加速する。

EUはロシアのウクライナ侵攻前まで、天然ガスと石炭の4割、石油の4分の1をロシアに依存していた。開戦直後の22年3月、EU首脳らはフランス・ベルサイユで非公式会合を開き、可能な限り早期に依存関係を段階的に廃止し、27年までに依存度をゼロにする方針を確認した。欧州委員会は同月、「Fit for55」をさらに野心的にした「リパワーEU」の概要を発表。同計画は、①省エネ、②輸入先多角化、③クリーンエネルギーへの移行加速―の3本柱で構成されている。昨年3月に発表した「ネットゼロ産業法案」と並んで、脱炭素と経済安全保障の両政策の相互変容を示す「グリーン経済安全保障」政策の典型と言っていい。

G7は中国リスクの低減を掲げている


脱中国に動き出した欧米 米国は輸入制限を駆使

ロシア・ウクライナ戦争を契機として、リパワーEUという対ロシア・エネルギー安全保障の処方せんを描いた欧州委員会だが、それ自体に安全保障上のリスクが内包していることが明らかになる。再生可能エネルギーやその技術、サプライチェーン(供給網)の中国依存だ。ロシアからのエネルギー自立を目指した脱炭素の加速策は、結果としてロシアリスクを「中国リスク」に置き換えるものとなってしまったのだ。

フォンデアライエンEU委員長は昨年3月、EUと中国の関係に関する講演の中で「デカップリング(切り離し)ではなく、デリスキング(リスク低減)」という考え方を打ち出し、EUは同年6月、「EU経済安全保障戦略」を発表した。同戦略はEUが直面する経済安全保障上のリスクとして、サプライチェーンや重要インフラ、技術流出のほか、「経済的依存の武器化」などを挙げ、リスク評価を行う方針を掲げた。EUが打ち出した「デリスキング」という対中戦略は、昨年5月の主要7カ国(G7)広島サミットの首脳宣言にも採用された。

こうした中、欧州委員会が昨年3月に公表したのが「ネットゼロ産業法案」だった。同法案のポイントは「内製化」。対中依存を引き下げるため、30年までに太陽光や風力、水素など戦略的なネットゼロ技術製造能力の40%の域内生産、さらに脱炭素技術のサプライチェーンをEU域内にできる限り取り込むことを目指す。

軽量で曲がる次世代電池 来年事業化へ開発加速


【技術革新の扉】ペロブスカイト太陽電池/積水化学工業

2009年に日本で発明されて以来、次世代再エネとして注目されるペロブスカイト太陽電池。

シリコン太陽電池と同等の発電性能に加え、軽量で曲がるなどの特長を持つ。

「軽量」「フレキシブル」「連続生産可能」など―。ペロブスカイト太陽電池は従来の太陽電池技術では成し得なかった新領域を開拓するものとして、国内外で熾烈な開発競争が行われている。

ペロブスカイトとは、酸化鉱物の一種である灰チタン石のことを指す。独特の結晶構造をペロブスカイト構造と呼び、有機物を含む結晶を合成してつくることができるのが特長だ。これを桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループが太陽電池に応用、電解液を含む色素増感太陽電池に組み込み、光から電力に変換することに成功した。ただ、2009年当時は変換効率が3%台と低く注目されなかった。数年後、オックスフォード大学が固体型の開発に成功し、効率を10%以上まで引き上げ、世界中の研究者の間で話題となった。

「G7広島サミット2023」会場でも展示

ペロブスカイト太陽電池の優れた特長は、①塗布技術で連続生産できる、②プラスチック基板を利用可能で曲げに強く、重量がシリコン太陽電池の10分の1程度になる、③主原料のヨウ素など、材料や装置が日本国内で賄える、④固体化することでシリコンと同レベルの変換効率を実現するポテンシャルがある―などだ。

その半面、水分や酸素に触れると結晶構造に乱れが生じ、瞬く間に発電効率が低下するという課題がある。


目指すはフレキシブル 液晶の封止材技術を応用

現在、ペロブスカイト太陽電池の開発で先行しているのが積水化学工業だ。ペロブスカイトが注目される以前、太陽電池向けでは自社技術が生きる保護フィルムをテーマに開発していた。しかし、中国製太陽電池の普及による価格低下などに伴い、良い製品をつくっても事業として成立するのが難しい環境が続いていた。そんなタイミングで、オックスフォード大の論文が目に止まった。ペロブスカイト太陽電池を試作すると、確かに高い変換効率を示したが、1日で発電しなくなった。

「技術として有望だが、開発テーマの重点に耐久性を置くか、変換効率を置くかで半年ほど検討した結果、社内の液晶ディスプレイで世界トップシェアを獲得する封止材の技術を応用すれば、耐久性を向上できるのではないかとの結論に至った。さらに、つくるなら他には真似できない製品を目指し、最初からフレキシブルの実現を開発目標に定めて進めた」。PVプロジェクトの森田健晴副ヘッドは、こう語る。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年4月号)


自己託送制度の見直し/都市ガスのカーボンニュートラル化

Q 電気事業における自己託送制度活用の要件厳格化で、どのような影響が考えられますか。

A 自己託送に関わる指針の改正により、①発電設備は、自己託送利用者が自ら設置したものに限られ、他の者が設置した発電設備を譲り受け、または貸与を受けること(賃借型)は認められない、②電気の供給を受ける一の需要場所(オフィスビルなど)について、自己託送利用者と当該需要場所におけるすべての者とが密接な関係を有する必要がある―とされました。

電気事業法上、自己託送を利用できるのは「非電気事業用電気工作物…を維持し、及び運用する(第2条第1項第5号ロ)」者ですが、「維持し、及び運用する」とは、その設備の所有を要しないと解されます(2020年度版電気事業法の解説83頁)。自己託送の目的は、「需要家が保有する自家用発電設備による余剰電力の有効活用(第68回電力・ガス基本政策小委員会 資料3の11頁)」ですが、だとすれば、自己託送利用者が発電設備を保有することを自己託送の要件とすることはやむを得ないとしても、自ら設置したことまで要求するのは行き過ぎと言えるでしょう。

電気事業法施行規則2条3号によると、密接な関係がない供給者と需要家は、長期にわたる組合契約を締結することで、自己託送を利用することができます。賃借型が認められない以上、組合型の自己託送の増加が見込まれますが、①組合契約により組成される組合の役割についての規定はなく、②長期の契約が求められるため、組合員の変更(加入及び脱退)が自己託送において認められるか不明である―といった問題もあります。

自己託送利用者の予測可能性の確保のため、組合型の要件を事前に明確に定め、公表されることが望まれます。

回答者:深津功二/TMI総合法律事務所 パートナー弁護士


Q 都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化に向けた取り組みと課題を教えてください。

A ガス業界は「S(安全)+3E(安定供給、経済、環境)」を前提に、足元では天然ガスの供給拡大を通じて低炭素化に貢献し、将来的には供給するガス自体をCN化することで、国内産業の発展と2050年CN達成の両立を目指しています。

ガスのCN化を実現する上で重要な役割を担うのが「e-メタン」です。e-メタンは回収したCO2と水素から作られ、燃焼しても大気中のCO2量を増やさないCNなエネルギーです。ガス導管やガス機器などの既存設備はそのまま利用できるため、新たに大規模なインフラ・設備投資を行う必要がなく、社会コストやお客さまの支出を抑制しながら、温暖化対策への貢献が可能です。

昨年末にはGX経済移行債の支援対象が示され、e-メタンを含む「水素等」分野においては、15年間で3兆円規模の支援が予定されるなど、日本のエネルギー政策においてもCNに向けた有力な手段として期待されています。現在、国内外で複数のプロジェクトが検討されており、米国キャメロンLNG基地を活用した日本へのe-メタン導入では、東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・三菱商事などが連携し、30年に約13万t/年(家庭用・約50万件)のe-メタン輸入を目指しています。

e-メタンの社会実装に向けては、既存の燃料であるLNG輸入価格との価格差に留意した導入促進策の検討に加え、燃焼時の CO2を誰が削減したことにするのかなど、その取り扱いに関する国内・国際ルール整備が必要となります。特に国際ルール整備においては、まずは特定の国との二国間での調整やルール確認などが重要となり、事業者の投資予見性の観点からも早期の協議が期待されています。

回答者:奥田 篤 /日本ガス協会カーボンニュートラル推進センター長

【コラム/4月26日】福島事故の真相探索 第3話


石川迪夫

第3話 ペデスタル壁にできた空洞

破損写真を独自に検証

ペデスタルの破損写真(写真B、第2話)について、われわれは独自の検討を試みた。

注意しておきたいことは、1号機の炉心位置からペデスタルの床上まで、約15ⅿの大きな落差があることである。この落差を越えて、圧力容器の中で起きる炉心溶融が、なぜ15mも下にあるペデスタル床の壁の損傷と結びつくのか、この謎解きの前半が第3話であり、1号機事故の解明の手掛かりとなる。

なおこの謎解きの過程で、福島第一2、3号機、並びにTMI事故での炉心溶融と水素爆発の過程もより明確となったので、それも随所で触れる。

当然のことだが、事故解明を行っていると、不明確な事故記録に沢山ぶつかる。事故検討を試みるにはそれらを明確にする必要があるが、繁多な事故対応業務においては、連絡や操作の記録に漏れや誤りが起きるのは防ぎようがない。加えて、上記事故の解明には、これまで原子力関係者が等閑視してきたジルカロイ・水反応の理解が必要である。この説明や解説には多くの紙幅を必要とする。

難解な話ではないのだが、読者が始めて見聞きする話が多いので、本論に入る前に説明すべき事柄が多いためだ。だが、本論に入る前の説明で、読者が読みくたびれてしまっては何にもならないので、今回は結論を先に述べて、説明を後に回す書き方を採用してみた。読み通してもらうための配慮であるが、通例を破って結論を先に述べる失礼をお詫び申し上げる。


注水で床に水溜りが

今回は、「空洞化」をつくった現象の前座説明が主体である。

結論から先に述べると、ペデスタル壁の空洞が出来た原因は、ペデスタルの床に溜まった水溜まりに高温の燃料棒が落ちてきて、激しいジルカロイ・水反応の発熱――ジルカロイ燃焼――が起きた事による。

以降その説明に入るのだが、なぜ原子炉の事故が15ⅿも下のペデスタルに損傷を及ぼしたのか、その謎を解くための手がかりは、事故時の炉心状況変化の正確な把握と、その変化を追いながら炉心からペデスタルにいたるまでの空間の変化状況を知ることである。

まず事故状況の復習から。津波で全電源喪失状態に陥った1号機は、炉心への水の補給が全くできなかったので、事故当日の11日の深夜には原子炉の水が全て蒸発してなくなり、原子炉圧力容器は空っぽになっていた。従って、炉心の冷却は輻射(放)熱に頼る状態となり、炉心が発する崩壊熱によって温度は徐々に上昇して、12日午前2時半ごろには、圧力容器の底は後述する高温クリープ破壊*1を起こして破れ、底に穴が開いた状態となった。

破壊時点での炉心温度は、中心の高温部分では2000℃を超えていたであろう。また、この時点で崩壊熱は、原子炉出力の0.6%程度にまで下がって低くなっていた。

2000℃の炉心が放散する輻射熱を受けて、圧力容器内部のステンレス鋼製の炉心構造体は溶融したり、変形したりしていた。炉心直上に配備された炉心スプレー配管も溶融・変形して、仮に原子炉に水が送られても、炉心へのスプレー水が満足に放散される状態にはなかった。

12日午前5時ごろ、東京電力は消防車を使って、空っぽの原子炉への送水を開始した。注水には上記の炉心スプレー配管を使った。詳細は後に譲るが、炉心スプレーに送られた約21トンの水のほとんどは、壊れた配管から流出して圧力容器の壁を伝って流れ下り、破壊された圧力容器の底を通ってペデスタル床上に溜まったと考えられる。配管の壊れた炉心スプレーは、炉心を冷やす本来の目的を果たせなかったのだ。

だが、この床上に溜まった水が、後述のペデスタル壁の損傷をもたらしたジルカロイ・水反応の主役であり、1号機に起きた水素爆発の元凶であることを覚えておいてほしい。

【コラム/4月25日】構造改革(Do Something)を考える~第3弾、財投・政府系金融機関改革の今日


飯倉 穣/エコノミスト

1、 「構造改革」の意味~明確な定義なし、官製用語

経済政策として構造改革の言葉が、平成時代を舞った。市場機能の貫徹を標榜した。公的なものの民営化、規制緩和、貿易制限廃止等である。市場原理かつ競争促進政策が要であった。それらは構造的な改革だったであろうか。

現経済の行き詰まりを見れば、これまでの構造改革は現状認識の間違いから出発した対策の連続であった。構造とは何かと改めて問うと疑問も多い。経済論的に「構造改革」の言葉に明確な定義は見当たらない。官製用語である。政治学的意味は、何かする(Do  something)で、単なるプロパガンダのようである。

「経済構造」(経済学的意味)として捉えれば、構造パラメーターと呼ばれ短中期的に一定と考える条件(貯蓄心、勤労精神、社会秩序維持の態度、技術水準、技術革新状態、教育水準等)のようである。これらの条件は、現経済活動の枠組みである。その条件を変更した場合、日本経済が、成長・健全化に向かうか、余り変わらずか、逆に混沌に落ち込むか不明である。一連の“構造改革“は、それを目指す提案もあるが、多くは既得権奪取狙いの制度変更である。成長と関係希薄なパイの再配分か混乱となる。

この視点で電力自由化、郵政民営化を述べてきた。今回は、構造改革の路線上にあった財投・政府系金融機関改革を考える。


2、目玉構造改革のその後

電力改革検証は本質を回避

平成以降、幸いにも行政でPDCA(計画・実行・確認・改善)を意識させた。所謂“構造改革”も検証対象となり、時折話題となる。例えば電力システム改革(電力自由化)の検証が進行中である。検討資料は、発送配電分離による各工程分離の問題に入ることなく、電源確保(容量市場)、卸電力市場・小売市場の不都合を手直しする弥縫策に終始している。本質に近づかない議論に首を傾げる。

郵政民営化は蒸し返しか

構造改革最大の目玉だった郵政民営化はどうか。郵政民営化委員会意見(2024年3月7日)でも今後のビジネスモデル不明・経営者の指導力不足を嘆く。そして報道は伝える。「郵政民営化撤回 動く局長会自民議連が法改正検討 維持コスト捻出狙い 郵政側は反対 行方は不透明」(朝日同4月5日)。郵政民営化に伴う経済的・政治的利害関係が輻輳し、今後の方向は迷走しそうである。

財投・政府系金融機関整理は音無し

郵政民営化と同時に構造改革の柱だった財政投融資・政府系金融機関改革もあった。入り口(郵貯等)、中間(資金運用部・財投計画)、出口(運用先・特殊法人等)の区分けで、それぞれ問題の指摘があった。議論は、入り口(郵貯等)の民営化を中心に進んだ。中間は、郵貯等の資金運用部預託廃止、財投債で必要資金調達となった。同時に出口の運用先の特殊法人・政府系金融機関の整理が大々的に取り上げられた。そして官邸主導で大胆な事業合理化・統廃合を実施した。その制度変更直後、金融危機発生で一部手直し再活用があった。その後制度改革の成否はあまり話題とならない。何故だろうか。


3、財政投融資(資金の流れ)の見直し

財政投融資は、財投債等で調達された財政投融資資金(財政融資資金勘定・投資勘定の区分あり)で、国の政策(財政投融資計画)に沿い、特会、地方公共団体、政府関係機関、独立行政法人等に長期・固定・低利の融資や出資をする。

2000年まで郵貯・年金等の預託が原資だったが、制度見直し(法改正00年)で資金運用部・預託廃止となった。現在、財政投融資計画は、金融市場から財投債で必要資金を調達し、必要額を財投機関に投融資する。加えて機関の健全性判断を市場に委ねる意味で、財投機関は、事業に必要な資金を自主調達(財投機関債)する。この点は政策遂行の視点から評価が分かれる。

これで財投は、預託義務資金から解放され、財投原資の市場化で、市場との整合性確保、財投計画の肥大化防止、自主調達で政府関係機関の経営効率化等に努める姿になったという。金利の決定システムが、政治的・官庁的交渉・手続き(従来国債金利に0.2%上乗せ)から、金融市場(財投債発行)に移行した。民間と郵貯は、イコールフッテイングとなる。制度変更で郵政は、郵貯等の自主運用のメリットとリスクを抱えることになった。


4、政府関係金融機関の見直し

財政投融資対象は、民業補完の視点で事業整理もあった。とりわけ政府系金融機関は、90年代以降一貫して見直し対象だった。類似業務機関の廃止統合が行われた(北東・開銀、医療・環衛・国民等)。そして「政策金融機関改革の基本方針」(05年11月)は、政策金融機能を、①中小零細企業・個人、②海外資源確保・国際競争力確保、③円借款に限定し、他は撤退とした。また政策金融は、貸出残高GDP比半減、財政負担なし、再編後も縮小努力、民営化機関は完全民営化の方針を示した。

この結果、国民・中小・農林・沖縄・国際協力銀行の統合(日本政策金融公庫)、政投銀・商中の完全民営化、公営公庫の廃止・自治体移管(地方公共団体金融機構)があった。その後紆余曲折を経て、財投対象として政府関係機関(沖縄振興開発金融公庫、株式会社日本政策金融公庫、株式会社国際協力銀行、独立行政法人国際協力機構有償資金協力部門)、株式会社日本政策投資銀行、株式会社商工組合中央金庫となる。

融資対象は、政策公庫が、中小・個人・農林水産業、政投銀は産業・インフラ・地域・海外、国際協力は、重要物資確保・海外展開等である。機関再編・業務整理後、リーマンショックあり、コロナウイルス感染あり、日本経済停滞に伴う活性化必要対策ありで、政策金融の役割は、山あり谷ありである。

前回策定時から周辺環境が激変 エネルギー基本計画改定に一言


【多事争論】話題:第7次エネルギー基本計画

今年、エネ基改定が予定される中、関係者からはさまざまな意見が出始めている。

産業界からの提案、そして現行からの大転換を唱える有識者の意見を紹介する。


〈 GXに向け新たなアプローチで 現実的なバランス感が必須 〉

視点A:手塚宏之/国際環境経済研究所主席研究員

エネルギー基本計画は「安全性」「安定供給」「経済効率性の向上」「環境への適合」というエネルギー政策の基本方針にのっとり、わが国の基本的な方向性を示すものである。エネルギー政策基本法に基づき3年ごとの改定が規定されていて、今年は3年ぶりに新たな第7次エネルギー基本計画が検討されることになっている。現行の第6次計画は2021年10月に閣議決定され、そこでのテーマは、東日本大震災と福島第一原発事故から10年の節目ということもあり、「安全性」がいかなる事情よりも最優先すべき大前提であると強調した。その上で、前年に菅政権が発表した「50年カーボンニュートラル」への道筋を示すことと、そうした気候変動対策(「環境への適応」)を進めつつ、「安全性」の確保を大前提に「安定供給」の確保やエネルギーコストの低減(「経済効率性の向上」)に向けた取り組みを示すことを重要なテーマとして策定されたものである。

しかしその後3年で日本を取り巻く国際情勢は大きく様変わりした。22年5月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、化石燃料輸出大国であったロシア産エネルギーの輸入制限による世界的なエネルギー価格高騰と調達不安をもたらし、さらに昨年10月、ハマスによるイスラエル攻撃から始まったパレスチナ紛争は、中東地域からの石油、天然ガスなどの輸入に依存してきた日本のエネルギー安全保障にさらなる影を落としている。

一次エネルギー供給のおよそ8割を輸入化石燃料に依存する日本にとって、こうしたエネルギーを取り巻く世界情勢の不安定化は、国民生活、産業活動の死活問題に直結する深刻な安全保障上の危機である。脱化石燃料、脱炭素といった理想論は長期的に取り組むべき課題であり、目の前の現実問題として石油、天然ガスの輸入が途絶するような事態を招けば、たちまち輸送用燃料と熱供給の大半、電力供給の約4割が途絶する。そして国内の社会経済活動は大混乱し、食料生産や供給も途絶して、国民は困窮生活に追い込まれることになる。

次期計画は、現下の国際情勢を踏まえ、エネルギー安全保障(安定供給)の確保を最上位概念に据えて策定されるべきだ。

産業界の視点から次期計画に求めるのは、「経済効率性の向上」と「環境への適合」のバランスの取り方である。欧州では、脱炭素化政策の下で脱石炭と、再生可能エネルギーの普及政策を進める中、ロシア産の安価な天然ガス供給が途絶することで、エネルギーコストが跳ね上がり、深刻な脱工業化が始まっている。欧州企業は域内設備投資を控え始め、エネルギーコストが安い中国や北米地域に生産拠点を移転し始めている。

【需要家】誰のための合成メタン? ガスワーキングの波紋


【業界スクランブル/需要家】

2月29日、ガス事業制度検討ワーキンググループでの一幕。「ガス導管と関係ない費用を託送料金原価に算入することは筋悪であり、もし同様の提案が電力の議論で出れば袋叩きに遭う」。経産省の事務方が一通りの説明を終えるのを待つ間、委員から発せられた一声が注目された。ガス体エネルギーのカーボンニュートラル化が進まない現状について、合成メタンで解決を図りたいという趣旨に対するコメントだ。

過去に開かれたガスの在り方検討会では、水素などの温室効果ガスを発生させないガス体エネルギーを導管に混入させると、需要家は既存の燃焼機器の買い換えを迫られ、数兆円規模の負担が生じる可能性があるとして、大手ガスは需要家保護の点で水素混入には難色を示していた。彼らが目指すのは、合成メタンの導入だ。

ただし、合成メタンの製造には、空気中などからCO2を回収しグリーン水素を製造して、その炭素と水素を合成するなど、高度な技術開発が不可欠だ。結果、グリーン水素よりもコストが高く、熱量当たりの単価が上昇するという。また、それ以前に合成メタンが非化石エネルギー源由来であることをどう証明するかなど課題を積み残す。

話を戻すと、こうした費用増をガスの全需要家の均等負担にすれば大手ガスは安心して合成メタンを大量生産できる。ただ大手ガスだけの取り組みを託送原価に算入することは、新規参入者のガス料金低廉化に向けた努力に水を差す。国民負担の抑制に努めるべき経産省が大手ガスだけが取り組む合成メタンを公共部門の託送原価に織込む方向を示すとは……。(Y)