【イニシャルニュース 】T紙M記者もとりこ? 麻生太郎氏の魅力


T紙M記者もとりこ? 麻生太郎氏の魅力

官邸会見でのしつこい質問でお馴染みのT新聞のM記者。最近では質問前に自身の主張を延々と語る「演説」が賛否を呼んでいる。

彼女の暴走ぶりについて、T紙政治部が本人にクレームを伝えたと報じたのはデイリー新潮(6月4日)だ。この報道を目にしたM記者と同世代の記者が打ち明ける。「確かに社内でMの批判はあるが、Mほど取材する記者はいない。彼女の正義感は替えがきかない。原稿の出来はいまいちだが」

厳しい政権批判で知られるM記者だが、「あんまり悪く言わない」(同)という自民党の重鎮がいる。麻生太郎副総裁だ。麻生氏といえば、関係者の間で「半径2mの男」と評される。メディアを通して見る麻生氏は強面で近寄りにくそうだが、実際に話すと魅力的という意味だ。

大手紙の元官邸キャップは「血筋の良さが逆にコンプレックスで、言葉遣いなどをわざと雑にしているのではないか」と分析。育ちの良さが隠し切れないエピソードを次々に語る。

「国会のトイレで一緒になって驚いた。手を紙タオルで拭いた後、もう1度紙タオルを取って、シンクの周りに飛び散った水滴をきれいに拭いていた」「立ち姿が美しくなるように、ダブルのパンツの裾に石(重り)を入れている」

大手紙の経済部記者が続ける。「麻生さんは何だかんだで記者に慕われているし、官僚も悪く言わない。『なぜか好きになってしまう魅力』があるのだろう」

M記者もそんな麻生氏の魅力に取りつかれた1人なのかも。ただ貴重な会見の場を演説会場に変えるのはいかがなものか。

蓄電池も太陽光の二の舞に?


経産省のGX政策 航空機や半導体に関心?

岸田内閣の経済政策の柱はGXの推進だ。2022年末に打ち出された際には原子力の活用が主張され、10年間で150兆円の投資目標が示された。ところが経産省内部は今、飛行機製造や半導体など、日本が主導権を失った産業のテコ入れに浮かれているという。

半導体世界最大手の台湾のTSMCの熊本工場誘致は経産省の成果とされているが、工場建設費3兆円のうち1兆2000億円を日本政府が補助するという過剰な支援によるもの。その中心になったのが商務情報系幹部のN氏だ。国産半導体の重要性は言うまでもないが、なぜか「半導体サプライチェーン」がGX政策に盛り込まれている。

三菱重工はジェット機開発が失敗し撤退した。ところが製造産業局はGX政策に「次世代旅客機」を盛り込み、三菱重工を中心に官民の一体開発を探る。同局幹部のI氏はかつて「クールジャパン」政策の中心人物。N氏、I氏共にエネルギーの経歴はほとんどない。

「足元のエネルギーがガタガタなのに大風呂敷を広げて大丈夫なのか」。エネルギー畑を歩んだ経産省OBは不安を募らせている。


蓄電池大量落札の裏側 収益化提案するS社

2023年度の長期脱炭素電源オークションで大量落札された蓄電池に関する話題が尽きない。今回落札された大半の蓄電池は、B社やC社などの中国製だった。安価なシステムによる応札により、国内企業の多くが脱落した。

蓄電池の落札事業者は11社で、落札数は30件(109・2万kW)。その中で最も多く落札したのは、ヘキサ・エネルギーサービスの11件(34・2万kW)だ。同社の母体は、米国の投資A社がアジア向けの再エネ事業会社として立ち上げたH社。そのH社と蓄電所システムインテグレーターのS社が連携し、大量落札を実現したのだ。

業界関係者が疑問視するのは、S社が蓄電池ビジネスで収益向上を狙う手段として同オークションの活用を提案していることだ。〈オークションに参加することでさらなる収益が見込めるため、興味がある方はぜひ問い合わせを〉―。

国内産業的にメリットの少ないコスト最優先の海外蓄電池が、制度本来の趣旨である長期の電力安定供給と脱炭素の実現に貢献できるのか。次回公募までに仕組みの改善が求められる。

再エネで揺れる静岡県新知事 定まらない政治姿勢に県民困惑


5月の静岡県知事選で初当選を決めた前浜松市長、鈴木康友氏の再生可能エネルギー問題を巡る動きに注目が集まっている。再エネ開発について、政治姿勢が定まっていないからだ。乱開発を懸念する県民の声が根強い中、15年ぶりに誕生した新知事はエネ政策でどういうカラーを出していくのか。「お手並み拝見」の様子見が続きそうだ。

就任記者会見に臨む静岡県の鈴木知事
提供:時事通信

知事選でリニア中央新幹線への対応に注目が集まる中、隠れた争点となったのが再エネ問題だ。鈴木氏が2007年から市長を務めた浜松市は、太陽光発電の導入量が日本一だ。知事選で立憲民主党と国民民主党が推薦した鈴木氏は、旧民主党系で再エネを推進する勢力と近く、民主党政権時代に作られ再エネ利権化したFIT制度にも深い関わりがある。

鈴木氏は告示前の会見で「再生可能エネルギー導入日本一の静岡県をつくっていきたい」と表明。スタートアップを誘致し地域経済の活性化につなげることにも意欲を示していたが、知事選に突入後の街頭演説ではそうした姿勢を軟化。メガソーラーで山を削る乱開発に反対する考えをアピール。ちぐはぐな姿勢に有権者は困惑気味だ。

全国再エネ問題連絡会の共同代表を務める山口雅之氏は「有権者に訴えたことが有言実行されることを期待したい」と強調。長尾敬・前自民党衆院議員は「生産地の人権や環境に配慮することなく極端に再エネにシフトするのでなく、原発を含めたエネルギーミックスの観点で議論を尽くすべきだ」と指摘する。

再エネの乱開発問題への対応を巡っては及び腰の姿勢が目立っていた前任の川勝平太前知事。鈴木氏は明確な政治姿勢を貫かなければ、有権者の信頼を勝ち取れない。

電気料金上昇でメディア炎上 求められる省エネ誘導政策


「今夏の猛暑予想を背景に、電気料金の上昇が社会問題になろうとしている。心配していたことが現実になった」(大手電力会社幹部)

本誌でも繰り返し報じてきた通り、再生可能エネルギー賦課金の上昇と国の負担軽減措置の終了に伴い、一般家庭の電気料金が7月分から前年同月比でkW時当たり9・09円上昇する。資源高・円安進行による燃料費上昇もあいまって、オール電化や大家族の家庭だと、前年同月比で5000円以上の値上がりになるケースも予想される。

電気料金問題を巡る報道が過熱

案の定、メディアの報道は過熱。とりわけ夕刊紙や週刊誌、ネットメディアの記事は……。

〈政府の電気料金補助廃止が直撃! この夏は「災害級の暑さ」予想で国民生活どうなるのか〉(日刊ゲンダイ)、〈電気代暴騰、補助金切れ、再エネ賦課金放置物価上昇に苦しむ国民を「恩着せ減税」でごまかす狙いか〉(夕刊フジ)、〈電気料金値上げに悲痛の声「健康で文化的な最低限度の生活ができなくなるぞ」(All About)、〈荻原博子さん怒告発電力8社は過去最高益なのに電気料金なぜ年3万円も上がる?〉(女性自身)―。言語道断といった論調だ。記事の中にはSNSを引用する形で目に余るミスリードも散見される。

いま政府に求められているのは、省エネ・節電対策を誘導する政策だ。2009年に実施されたエコポイント方式による省エネ家電への買い換え促進策などは、改めて検討してみる価値がある。市場価格メカニズムをゆがめる補助金の復活ではなく、省エネ支援こそが温暖化対策にも資する「王道の政策」か。

エネ基策定の前提厳しく 原子力水素の実現で活路開け


【巻頭インタビュー】橘川武郎/国際大学学長

政府は、第7次エネルギー基本計画の策定議論に着手した。

橘川武郎・国際大学学長にそのポイントと展望を聞いた。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大学・一橋大学・東京理科大学教授、国際大学教授・副学長を経て、2023年9月から現職。

―中長期のエネルギー政策の方向性を示す、第7次エネルギー基本計画の議論が始まりました。ポイントをどう見ますか。

橘川 今回は40年度のエネルギーと電源のミックス(構成比)を策定すると言われています。憂慮しているのが、5月13日のGX実行会議において、岸田文雄首相から今回のエネ基は単数ではなく、複数シナリオになることを示唆する発言があったことです。社会主義国でもない日本が中長期の計画を作ることについて、政府は日本がエネルギー貧困国で火力のウェイトが高く、ある程度の見通しを示さなければ原燃料を含む電源設備の投資計画が立てられないことを理由としてきました。それを踏まえれば、最も蓋然性の高い単数シナリオに基づくミックスを示すことが、筋だと言えます。

こうした発言が出てくるのは、「2035年にGHG(温室効果ガス)排出量を19年比60%削減する」という、非常に厳しい前提条件があるからだということは理解できます。現行の日本のNDC(温室効果ガス削減の国別目標)は13年比46%削減ですが、実は13年から19年の間に14%下がっているため、これを達成するには13年比66%削減しなければなりません。つまり、NDCを20ポイント上積みしなければならないのです。

とは言うものの、来年2月にブラジルで開催されるCOP30(気候変動枠組み条約第30回締約国会合)に向け、35年までのNDCの設定期限が迫っていますから、第7次エネ基はこれに合わせたシナリオを作らざるを得ません。

―足もとの現実と照らしても、実現は困難です。

橘川 40年にゼロエミ電源比率を80%まで引き上げる必要がありますからね。再生可能エネルギーはどんなに頑張って増やしても45%、水素・アンモニアが社会実装され5%と考えると、原子力で30%を担わなければなりません。ところが、今の再稼働状況を見ると、30年の稼働数は多く見積もっても20基程度で15%を担えるに過ぎず、第6次エネ基の20~22%すら未達となる可能性が高い。30%という数字を出すのは非現実的です。

この唯一の打開策が、原子力を電力としてのみならず、カーボンフリー水素の供給源とすることです。太陽光や風力といった変動型の再エネでは、電解装置の稼働率が低くコスト高になってしまいますが、原子力であればベースロード的に使えコストが下がる可能性があります。海外から水素を輸入する必要がなくなりエネルギー自給率の向上にも寄与し、さらには、電力市場に回す量を抑制することで再エネの出力抑制を最小限に抑え、原子力と再エネの両立にもつながります。

ですから、原子力の水素供給源としての活用について、最優先で議論するべきです。原子力に新たな用途があり、カーボンニュートラル(CN)実現へ絶対避けて通れないということを正面から打ち出せば、世論も原子力比率30%を受け入れやすくなり、原子力政策を前進させることができます。

エネルギーと食を支える企業として 未来を見据えCNLPG導入


【安田物産】

神奈川県大和市に本社を構える安田物産は、1955年に練炭や石炭などの家庭用燃料店としてスタート。現在ではLPガス販売を中心としたエネルギー事業、保育園・幼稚園や学校、介護施設などの給食事業を展開する。それゆえ、エネルギーの「供給者」と「消費者」という二つの面を持つ企業でもある。

CNLPG取扱店証明書

同社の調理工場は神奈川県内に3カ所ある。このうち、海老名市にあるクッキングセンター湘南工場、ライスセンター湘南工場の2工場でカーボンニュートラルLPガス(CNLPG)を使用している。このCNLPGはジクシスがレモンガスに提供し、レモンガスが安田物産に卸販売しているものだ。

これまでもさまざまな環境保護活動を推進してきた同社の安田幹仁社長は、レモンガス主催のCNLPG勉強会に参加。中小の企業でも取り組みやすいと感じ、導入を決めた。2023年11月の導入開始から24年3月までの5カ月間で、23tのカーボンクレジットを購入・使用し、76tのオフセットを実現した。「努力が具体的数値となって可視化され、活動継続へのモチベーションになる」と語る。

しかし、コスト面を含め、手放しで喜べることばかりではない。現状、入札で有利に働くとまでは言えず、給食に関しても環境に配慮した製造工程は特に求められていない。それでもCNにこだわるのはなぜか。


環境保護、自社の人材確保 仕事に自信を持てるように

安田社長は理由を三つ挙げる。第一は、子どもたちに美しい自然を残したいためだ。「環境保護まで手が回らない企業がある一方で、当社が手掛けているのは子どもたちの食事。であれば、率先して子どもたちの未来を守る企業でありたい」

第二は、自社の人材確保のためだ。子どもたちは小学生の時からSDGs(持続可能な開発目標)について学んでいる。彼らが社会に出る頃、企業の環境活動は、入社の判断基準の一つになると捉えている。

第三は、職員に自信を持ってほしいためだ。エネルギーと食を支える企業の一員として、環境に配慮しながら日々業務にあたっていると胸を張って言える人材に育ってほしいという。

現在横浜市都筑区に建設中の工場は、25年春から同市立中の給食専門工場として、1日当たり1万8000食を調理する。また今夏、同市の学童保育でも昼食提供を開始予定で、多くの保護者から歓迎されている。仕事や育児に忙しい現代女性の支援という社会インフラとしても、今後が期待される企業だ。

「理念的検討」から「実務的検討」へ 液石法省令改正の今後のポイント


【論点】LPガス商慣行の是正/角田憲司・エネルギー事業コンサルタント

LPガス商慣行の是正を目指す液化石油ガス法の改正省令が4月2日に公布された。

一部7月2日に施行されるが、これを節目にした実行段階における検討の論点を考える。

商慣行是正の神髄は「LPガス事業者・産業が背負うコストに本来家賃に含まれるものを入れ込ませないこと=異物混入の禁止」である。これを許せばその分LPガス料金が高くなり、それがあだとなってLPガスが消費者から選ばれないエネルギーになる。「異物混入の禁止」をフローベースで早期かつ確実に実現することが何より大事である。

「異物」に着目して省令改正のポイントを整理すると表のようになる。留意すべきは施策間でカニバリゼーションが起きても「異物混入の禁止」を優先して運用することである。

省令改正のポイント


現場の混乱回避へ グレーゾーンつぶす運用を

ただ、今般の改正では「どんな異物もLPガス料金への混入を認めない」とはなっていない。「過大な営業行為の制限」の条項では賃貸オーナーや建売業者などへの正常な商慣習を超える(=過大な)利益供与が禁止されるのみであり、正常か過大かの判断も一義的には各事業者に委ねられる。さらに賃貸集合ではオーナーらに設備貸与した費用の回収分を新規の入居者のガス料金に計上することが禁止されるが、厳密な意味での営業行為規制ではないなど、ややリジット(厳格)さに欠ける。ゆえに法令の隙間や独自解釈による規制の抜け道も作りやすい。「グレーケース」を現場から提起し、場合によっては「ノーアクションレター制度(法令適用事前確認手続)」の活用など、LPガス事業者と規制当局で詳細な確認を行い、グレーゾーンを確実につぶす運用が重要となる。

加えて今般の改正は「不動産・建築業界の理解と協力があろうとなかろうと、LPガス事業者が腹をくくって解決を図る」というハードランディングを志向した。このため、今回の措置を認めない賃貸オーナーや住宅会社からの圧力によりLPガス事業者の法令順守の信念もぐらつきやすく、自社がホワイトになったとしてもグレーな事業者に顧客を奪われていくようでは法令遵守の意味がない、との誘惑に駆られやすい。LPガス市場はゼロサムで、誰かの利得は誰かの損失であるため、競争上の公平性を可能な限り維持した上で改革を進める必要がある。

さらに「LPガス事業者のみの規制」という「片務性」を解消しなければ真の商慣行是正にはならない。そのためには、①まずLPガス事業者が法令改正事項の遵守を通じて「範」を示し、②それをもって国土交通省所管の法令などにおいてもう一方の当事者に対する「是正のための規制」を促す―という「戦略」を全関係者で共有することが求められる。これが見えればLPガス事業者も頑張れるだろうし、消費者庁(消費者委員会)や消費者団体からの要請や、国交省ならびに同省が所管する不動産・住宅業界側の覚悟も増すのではないか(現状その方向にはあるが動きは弱い)。

SOEC合成メタン社会実装へ 大阪ガスがラボ試験開始


2050年カーボンニュートラル実現への大きな一歩となるか―。

大阪ガスは、従来技術よりも高いエネルギー変換効率が期待される「個体酸化物形電解セル(SOEC)メタネーション」のラボスケール試験装置を完成させ、この装置を用いた試験に乗り出した。

大阪ガスが公開したSOECメタネーションの試験装置

装置は水蒸気発生装置、SOEC電解装置、ガス合成装置で構成、再生可能エネルギーを利用し水とCO2からe―メタン(合成メタン)を生成する。製造能力は一般家庭2戸分に相当する毎時0・1N㎥で、今後、SOEC電解装置やメタン合成反応装置の性能確認を行うとともに、プロセス全体の運転データを取得し、目的とするエネルギー変換効率を達成するための検証を進める。

従来のサバティエ反応方式との違いは、原料として外部から水素を調達する必要がなく、水とCO2から一気通貫でe―メタンを製造できる点にある。また、約700~800℃の高温で電気分解し、メタン合成時の廃熱を有効活用することで、約85~90%という、サバティエ(約55~60%)を大幅に上回るエネルギー変換効率の実現も視野に入る。e―メタンの製造コストの大部分を再エネ電気が占めるため、製造コストを大幅に抑制できる可能性があるわけだ。

30年代後半から40年ごろの社会実装を念頭に要素技術の開発を進めつつ、ベンチスケール(一般家庭200戸相当)、パイロットスケール(同1万戸相当)と段階的に装置を大型化しながら小規模試験を行い、30年度の技術の確立を目指す。

河野氏が再エネTF廃止表明 拡大政策の潮目変化を象徴


再生可能エネルギー導入拡大政策の潮目の変化を象徴する出来事が起きた。河野太郎規制改革相が6月4日、自らの肝いりで発足させた内閣府の再エネ規制改革タスクフォース(TF)の廃止を表明したのだ。

その前日には、TF構成員の大林ミカ・自然エネルギー財団事務局長が作成した資料に中国国家電網のロゴマークが混入していた問題で、内閣府の大臣官房が「(ロゴ混入は)事務的な誤り」だったとし、「中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性を有していた事実は確認されなかった」とする調査結果を公表したばかり。それだけに突如のTF廃止は、業界内外で大きな話題を集めた。

内閣府の調査結果に自然エネ財団は歓迎声明を出したのだが……

関係筋によると、自民党の経済安全保障推進本部が調査結果に異を唱えたことが背景にある。本部長で経済安保族の筆頭格といえる甘利明前幹事長は4日、記者団に対し「中国との関係については調べが甘いのではないか。引き続き厳しく、再度調べようという話だ」と苦言を呈した。その後、林芳正官房長官が河野氏に対し、TFの運営方法に不適切な点があったとして注意を行った。「さすがの河野氏もTF廃止に踏み切らざるを得なかったようだ」(永田町筋)

TFは2020年12月1日に発足。大林氏ら再エネ推進派4人を構成員とし、経済産業省出身の山田正人・内閣府参事官が事務局を務めたことも話題を呼んだ。ただここ数年は乱開発が社会問題化するなど再エネに逆風が吹き始め、会合の開催頻度も低下。大林氏の資料問題が発覚した3月22日の会合が事実上の最終回となった形だ。

緊張感高まる火力の現場 組合員の声に耳を傾ける


【電力事業の現場力】電源開発労働組合

国内設備出力の約半分を占める火力発電所で、現場の実力が試されている。

変動負荷対応や新技術の導入では、安全確保が何よりも重要だ。

戦後の電力需要に対応するため、1952年に設立した電源開発(現Jパワー)。社名の通り、主に水力発電や火力発電の分野でパイオニア的な役割を担ってきた。オイルショック後には海外炭鉱の権益を獲得。松島火力発電所など、国内初となる海外炭燃料の大規模火力発電所の建設に取り組んだ。

運転センター(写真はいずれも竹原火力発電所)

こうした歴史から、現在のJパワーの国内設備出力の約半分を占めるのは石炭火力発電だ。火力発電所は西日本に多く、2011年の東日本大震災直後は、ベースロード電源としてわが国の安定供給を支えた。しかし、近年は再生可能エネルギーが大量導入され、原子力発電所の再稼働が相次いだ結果、石炭火力発電の役割は様変わりした。

求められる役割が調整力となったことで、現場の緊張感はいっそう増している。需要に応じての負荷変動対応では、機器の起動停止を繰り返す必要があり、ベースロード電源だった頃に比べて運転員の操作機会が増加。高経年化によるトラブルとも隣り合わせだ。

設備の補修に向けて運用・保守グループで打ち合わせ

新技術への対応も現場の課題としてのしかかる。国際的に非効率石炭火力発電所の廃止が求められている中で、バイオマス混焼の実施やアンモニア混焼に向けた準備が進められている。バイオマスは発熱の危険性があり、アンモニアは毒性を持つ。取り扱いには神経を注ぐが、石炭火力の脱炭素化を進める上で重要な取り組みだ。電源開発労働組合の小山豊書記長は「新技術の導入にあたっては、組合員の安全をしっかりと確保し、長時間労働や過重労働にならない体制を整えるため、現場の声にしっかりと耳を傾けることが重要だ」と語る。


海外での安全確保も重要 大間運開へ技術継承が鍵

Jパワーでは海外事業が拡大傾向にある。海外の発電容量は、すでに国内火力とほぼ同規模の約800万kW。米国やオーストラリアだけでなく、タイやフィリピンといったアジア各国に発電所の権益を保持している。

海外に組合員を派遣する際に労働組合が重視するのは、現地での安全衛生確保だ。発展途上国の中には、充実した医療にアクセスしづらい地域も存在する。また治安や居住環境が整っていない地点に組合員を派遣させるわけにはいかない。Jパワーの海外事業は今後も拡大予定で、労働組合の役割はより重要になりそうだ。

乾式排煙脱硫装置の巡視点検
異常音の有無を確認

大間原子力発電所については、新規制基準の適合性審査が行われている。Jパワーにとっては初めての原子力発電所で、運転技術習得のため、他電力で研修を受けた組合員もいる。ところが、審査の長期化で技術を身に着けた人財が定年退職するなど、今後は運転開始に向けての技術継承が課題だ。運転開始に向けては周辺自治体の理解が重要で、大間町をはじめ三ヶ町村への訪問活動を再開するなど理解活動にも注力する。

入念な確認作業を行う

関連企業との関係性について小山氏は「会社も組合も、Jパワーとグループ会社の関係は『兄弟』に似ていると認識している」と語る。他電力の場合、親子のように垂直的な関係になることが少なくないが、Jパワーは横のつながりを重視するのが特徴だ。この関係性は労働組合同士も変わらない。今後もグループ会社の労働組合と連携しながら、安定供給の現場を支えていく。

安定供給と脱炭素の狭間で翻弄 火力の課題放置にてこ入れ急務


エネルギー基本計画の見直し議論が盛り上がる中、ことさら先行き不透明なのが火力政策だ。

退出が進む中で現場は多様な課題に直面。求められる役割に応じた政策のアップデートが待ったなしだ。

安定供給と脱炭素の狭間で、その立ち位置がもっともあやふやな電源が火力といえる。

資源エネルギー庁は5月8日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会で「今後の火力政策について」という資料を示した。足元で電源構成の7割を占める火力は稼働率低下などで退出が進む一方、事業者には脱炭素化の大規模投資が求められる。課題を踏まえた今後の論点として、①火力の位置付け、②ゼロエミ化、③石炭火力の在り方、④供給力の確保、⑤燃料安定供給の確保―を挙げた。

これについてエネルギーコンサルタントの水上裕康・ヒロ・ミズカミ社長は「火力は縮小均衡をベースに、残った設備をいかにゼロエミ化するかという政策が強く打ち出されてきたが、ここへきて電力需要がかなり拡大するとの見通しが強まってきた。『これ以上、給電指令に応じるディスパッチャブル電源たる火力に退出されないよう、つなぎとめなければ』というエネ庁の危機感が強く感じられる」と感想を述べる。


3年ぶりに夏の節電なしも 安定供給危うい状況続く

実際、火力の設備容量は2016年度の1・65億kWから、23年度は1・49億kWまで減少した。これまで政府は非効率石炭火力のフェードアウトに向け、省エネ法での規制や、容量市場での設備利用率に応じた容量確保金の減額措置を導入。一方、供給力の確保に向けては、容量市場や長期脱炭素電源オークションを実施し、新たに予備電源の仕組みも始まる。

2年前の3月末、東京・東北エリアで初の「電力需給ひっ迫警報」が発令されたことは記憶に新しい。その後も政府は夏・冬の節電要請を行い、今夏は3年ぶりに行われないこととなったが、足元の需給は万全とは言い切れない状況が続いている。

今年3月27~29日、JERAは東京エリアの火力5地点で計画停止や出力低下を行った。天候悪化によるLNG調達の遅延と、気温低下に伴い燃料消費が思いのほか進んだためだが、結果的には、エリアの電力需給に大きな支障は出なかった。

しかしその背景には、卸電力市場に限界費用で玉出しするルールの影響があった。というのも、今回の事例は3月のLNGスポット価格が安かったことに起因する。2月まで安かった石炭価格が3月にLNGと逆転した結果、LNG火力の稼働が優先されて消費が一層進んだという。「限界費用での玉出しを監視されており、石炭火力を多く動かすような対応ができなかった」(水上氏)ためだ。他産業と異なり、電力市場はボラティリティーによる価格シグナルを意図的に抑えており、その弊害の一例といえる。

たびたび安定供給が危ぶまれながらも、もう一方の命題である脱炭素の具体化も待ったなし。そんな中、関係者に驚きを持って受け止められたのが、Jパワーが5月上旬に発表した新たな中期経営計画(2024~26年度)だ。国内石炭火力のトランジションで、地点ごとの方針を初めて示したのだ。

敦賀2号活断層問題に厳しい見解 7月末にも最終判断の見通し


約10年前、原子力規制委員会が開いた有識者会合の指摘に端を発し、日本原子力発電・敦賀発電所2号機の審査の停滞を招いた活断層問題。書類の書き換え問題を経て、昨年8月末に原電が補正書を提出後、審査が再開されたが、規制委は5月31日、焦点である原発敷地内のK断層の「活動性」について厳しい見解を示した。

6月6、7両日には、規制委が連続性に関する現地調査を実施した
提供:日本原子力発電

原電が各種分析結果を踏まえ後期更新世(12万~13万年前)以降の活動がないと評価したK断層について、規制委は「活動性は否定しきれない」とし、また、評価を行ったD―1トレンチなどについては「活動性を否定する地点として妥当とは言えない」と言及したのだ。

規制委は「補正書のK断層の活動性に係る説明が終了した」との認識を示している。ただ、原電は同日、引き続きK断層の活動性に関わる追加調査に取り組む意向を示しており、審査の継続を求めた。

また規制委は6月6、7の両日、K断層が原子炉建屋直下まで続いているか否かという「連続性」に関して、現地調査を実施した。原電側は7月中旬に、これまでの規制委のコメント全てに回答すると表明。規制委は、今回の現地調査のラップアップの審査会合を6月中に行った上で、7月末の審査会合で最終判断を示すとみられる。


多数の証拠を提示 K断層の深さの調査も必要

ただ、有識者からは「審査では議論がかみ合っていないとの発言があり、K断層が副断層と呼ばれる地層表層のみのヒビかどうか調査が必要で、拙速な判断は避けるべきだ。調査なしで拙速な判断を下すと、岸田政権が掲げた原子力の最大限の活用に反する判断ミスになりかねない」(奈良林直・東京工業大学特任教授)といった指摘も挙がっている。

これまで原電は、活断層であることを否定するため、さまざまな証拠を提出して説明を重ねてきた。一方、規制委側が求めるのは明確な根拠であり、認識の食い違いも随所で見られている状況だ。

例えば、論点の一つであるK断層を覆う地層の堆積年代評価。最新の測定手法である光ルミネッセンス法によると、「13・3万プラスマイナス0・9万年より古い」という測定結果が示されたことから、規制委は、誤差を考慮すると、活動性を否定する評価とは矛盾すると指摘していた。これに対して原電は、火山灰分析などと併せて評価すれば、13万年前より古い層であると説明している。

仮に今回、新規制基準に適合しないと判断されれば、審査により廃炉を迫られる初のケースとなる。審査の効率化が求められるとはいえ、このまま重大な判断が示されることになるのか。そして有識者会合の指摘に端を発したこの議論が、いかなる結末を迎えるのか―。本件の行方に、関係者の視線が注がれている。

【特集2】分散する蓄電所をデジタルで制御 再エネ支える電力インフラに育成


【日本ガイシ】

移設可能な蓄電池に加えてシェアリング機能も付与。

発電所から需要家に至る幅広いニーズに応える。

複数の蓄電池で構成する蓄電所で再生可能エネルギーの電力を蓄え需要に応じて供給する―。日本ガイシは、大和証券グループ本社傘下で再エネ投資を手がける大和エナジー・インフラ(東京都千代田区)と連携し、こうした仕組みを回す「シェアリング機能付きハイブリッド蓄電所」の開発に乗り出した。2026年度中の事業化を目指す。脱炭素化に向けた再エネ電源の導入拡大に伴い、電力の需給バランスを整えるニーズが高まる中、調整電源として広げたい考えだ。

リコー環境事業開発センターにあるNAS電池

「StorageHub」と名付けた蓄電所では、大容量で長寿命という特性を備えるNAS電池にリチウムイオン電池を組み合わせた。蓄電池を物理的に移設できるよう設計し、シェアリング機能も付与。発電所から需要家に至る幅広いシーンの蓄電池ニーズに柔軟に応える。


システムの信頼性担保 ブロックチェーンを駆使

ビジネスモデルを構築するのは、日本ガイシとリコーが共同出資するNR-Power Lab(名古屋市千種区)。日本ガイシと大和エナジー・インフラが蓄電所を保有・管理する会社の設立を視野に検討。その会社が管理する蓄電所をNR-Power Labが最適制御する。そこで威力を発揮するのが、分散するエネルギー資源をデジタル技術で遠隔制御するVPP(バーチャルパワープラント)システム。資源の使用可能量や電力需要などを予測し、効率的に利用できるようにする。さらにシステムの信頼性を担保できるよう「分散型ID(識別子)」も採用。データを安全に管理できるブロックチェーン(分散型台帳)技術を駆使する。

こうしたシステムの有効性を実証するため11カ所に16機の蓄電池を順次配置する計画で、容量は計6.3MW時に達する予定。中でも岩手県では実証機を県内の太陽光発電所に併設し、NAS電池とリチウムイオン電池を協調制御するシステムを整備。来年1月の運転開始を目指す。

NR-Power Labの中西祐一社長は「天候に左右される再エネを主力電源として活用していくためには、電力の需給バランスを整える調整力が重要だ」と強調。その上で「5年先、10年先まで見据えて電力のインフラとしての責任を果たしていきたい」と述べた。

【特集2】脱炭素化に向けてエネ全体を最適化 コージェネなどの設備をAI制御


【大阪ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けて、再生可能エネルギーの大量導入が今後も見込まれている。再エネの大半を占める太陽光発電や風力発電は、天候や風向きに応じて出力が変動する。

この対応策の一つが需要をコントロールするデマンドレスポンス(DR)だ。一般送配電事業者などが発動するDRに対しエネルギー設備などの運用を制御することで、インセンティブを得ることができる。

23年4月には省エネ法が改正され、DR回数報告が義務化された。電力需給に応じてDRを実施すると省エネと評価されるようになったのだ。このように、DRが普及する環境が整備されつつあり、市場拡大が見込まれている。


VPPと省エネの制御機能 設備と分析の知見を統合

こうした中、大阪ガスとDaigasエナジーが手掛ける遠隔AI制御を利用したエネルギーマネジメントシステム「Energy Brain」が注目を集めている。Daigasグループのエネルギー設備の運用ノウハウやデータ分析技術を活用して開発されたクラウド基盤型エネマネシステムで、主に「自動VPP(バーチャルパワープラント)制御」と「省エネ制御」の二つの機能を有する。

自動VPP制御はコージェネ設備、空調設備、負荷設備、蓄電池などの顧客が所有する設備を遠隔自動制御するもの。顧客は設備操作の負担なしにDRを行うことができ、変動する再エネの調整力として寄与する。

実証で使われたコージェネ

もう一つの省エネ制御では、Energy Brainが継続的に設備の運用改善を行っていく。省エネにはエネルギー実績使用量の分析、運用計画の策定、設備の制御変更を反復して実施することが有効だ。ただ、これまでは人の手を介して行っていたため、見直しの頻度や扱うデータ量に限りがあった。Energy Brainでは、独自の気象予測データ、エネルギー実績使用量、需要予測結果、電気・ガス料金情報などに基づき、最適な省エネ制御パターンを高頻度で見直し、コージェネなどを遠隔自動制御することで、省エネを実現する。

システム開発においては、コージェネなどの設備分野の知見と、需要予測や運用計画策定などの分析分野の知見を一つのシステムに統合するのに困難が伴った。「当社グループに、コージェネや空調などの消費機器、DRビジネス、予測技術、システム構築など、各分野の専門家はいたが、それらの知見を一つに集約し、かつシステム化するというのはこれでにない作業だった」。大阪ガスエナジーソリューション事業部電力サービス開発チームの辻長知リーダーはこう振り返る。また当初、顧客が所有する設備群のパターンをある程度標準化した想定モデルを軸に考えたが、実際は顧客ごとに運用事情が異なり、現場に合ったエンジニアリングや設定が必要になるなど、気づきがあったという。

同システムの営業を担当するDaigasエナジーでは、新設や改修予定の商業施設や工場をターゲットに提案中だ。同社ビジネス開発部ビジネス企画チームの福田祐樹リーダーは「従来、DRはインセンティブが得られる点が着目されてきたが、CNに向けた取り組みが一般化する中、お客さまの意識も変わりつつある。また、当社がエネルギーに関する顧客の情報を受け取り、自動制御を行うと、人手以上にきめ細かな運用が可能になるほか、エネルギー管理業務を効率化できるなどお客さまのメリットが生まれる」と同システムの強みを強調する。

「Energy Brain」の概要

現在、Energy Brainの実証は同社グループの産業集積施設「京都リサーチパーク(KRP)」で実施中だ。KRPは京都の有力企業やスタートアップなどが入居する新産業創出拠点。東地区と西地区に分かれており、今回の実証は東地区で実施している。東地区の2号館地下にはガスエンジン発電設備(815kW)が2台、排熱投入型ガス吸収冷温水機(ジェネリンク、400USRT)が4台、ガス吸収冷温水機(210USRT)が1台あり、実証ではこれらの運用データを受け取り、Energy Brainのクラウドに送信している。

実証では、自動VPP制御と省エネ制御を実施。具体的には省エネ制御が先行しており、実機で問題なく制御できることを確認した。現在は、冬季の省エネ制御実証に続き、中間期の省エネ制御に着手し始めたところだ。自動VPP制御は、他の実証先で一定の実績があることも踏まえ、KRPでも実施予定だ。今後、Energy Brainはクラウドの強みを生かし、他社が開発したクラウドシステムと連携していく。既に空調制御のクラウド型遠隔制御システムとの連携を実証済みとのことだ。こうした取り組みによって機能拡張を図っていく。


コージェネ大賞を受賞 連携や使い勝手向上を評価

Energy Brainは23年度コージェネ大賞特別賞を受賞した。これについて辻氏は、「DXによるエネルギー設備の連携や調和、使い勝手の向上が注目され、顧客からのニーズも顕在化してきた。今回の受賞はそうした点から評価された」と話す。

今後は設備などのハード面の性能向上だけではなく、Energy Brainのようなシステムによる全体最適が、CN実現に向けて大きな鍵を握りそうだ。

【特集2】日立製作所と巧みな連携プレー実現 複数事業所のエネ共同利用を最適化


東京ガスエンジニアリングソリューションズ

隣接する複数の事業所が電力や熱エネルギーを効率良く活用する――。茨城県日立市でこうしたシステムを運用しているのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と日立製作所だ。TGESが設置したコージェネレーションシステムなどのエネルギー設備を日立グループ3社4事業所が共同利用するという仕組みで、デジタル技術を駆使して高度に制御することも計画している。特定のエリア内で多彩なエネルギー資源を巧みに利用する先進事例として注目を集めそうだ。

日立製作所の大みか事業所


事業所単独で抱える課題 エネルギーサービスで解決

両社の事業は、複数の分散型電源を組み合わせたエネルギー供給網「マイクログリッド(小規模電力網)」を構築し、コージェネから発生する排熱利用システムを組み合わせる取り組みで、エネルギーの生産拠点と消費地の距離が近いことが特徴。送電ロスを最小限に抑えながら、排熱を生産プロセスで有効活用することで、効率的なエネルギー利用を実現している。

両社は今回、こうした分野でタッグを組み、昨年12月に日立グループの4事業所でマイクログリッド型エネルギー供給システムの運用を開始。一連の設備はTGESが保有し、エネルギーサービスとして運用する。

具体的には、TGESがコージェネ2基に加えて、冷水を作る吸収式冷凍機3基と蒸気を生み出すボイラー1基を設置。そこで生み出したエネルギーを、社会インフラを支える情報制御システムを手がける日立大みか事業所のほか、日立研究開発グループ茨城サイト(日立研究所臨海地区)、日立GEニュークリア・エナジー(日立事業所臨海工場内)、ミネベアパワーデバイス臨海工場(旧日立パワーデバイス臨海工場)にも届ける。

いずれの事業所も隣接しており、複数事業所で共同利用する一連の設備をエネルギーマネジメント事業者であるTGESが提供する。エネルギーの利用者が機器を所有・管理する必要がなくなることが、事業を成立させる上で重要なポイントの一つになったという。

日立は一連の環境を整えることで、事業所単独で解決が難しかったエネルギー運用の効率化という課題を解決し、エリア全体のエネルギーバランスを考慮しながら4事業所で電力と熱を利用できるようにした。

エネルギーを共同利用する4事業所は、クリーンルームの空調で使う化石燃料由来の熱エネルギー利用量を大幅に減らすという利点も得られる。4事業所からのCO2排出量の約15%に相当する年間約4500t(22年10月時点の試算値)が削減される見込みで、こうした活動を通じて脱炭素化に貢献したい考えだ。

運営面では、TGESが運営する遠隔監視センターから24 時間365日体制で一連のシステムを監視する体制を構築し、各種設備の安定稼働と最適運転を実現。エネルギー供給のレジリエンス(強靭性)を高めようと、コージェネに停電時に発電機を自立起動させる「BOS(ブラックアウトスタート)仕様」も取り入れた。

将来的には、デジタル技術を駆使して社会や事業の課題解決を支援する日立のソリューション「Lumada(ルマーダ)」も組み合わせて最適なエネルギー制御を追求。現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進していく。


関東圏の工場に展開 全体最適で脱炭素化へ

日立と日立パワーソリューションズは、昨年9月に関東圏に広がる日立グループの約20カ所の事業所をデジタルでつなぎ、複数拠点にまたがるエネルギー利用の全体最適を図る取り組みを開始した。

TGESと日立がタッグを組む背景には、脱炭素化という世界の潮流がある。TGESは「エネルギーを扱うプロ」として、各種機器を最適に制御して高効率に運用したりエネルギーの共同利用を実現したりするためのノウハウを蓄積し、CO2排出量を削減する課題に向き合ってきた。

コージェネの排熱も有効活用する

東京ガスグループは昨秋、脱炭素、最適化、レジリエンスという三つの価値を提供するソリューション事業ブランド「IGNITURE(イグニチャー)」を立ち上げた。今回の取り組みもその一環だ。

TGES産業エネルギー営業本部プロジェクト推進部で今回の事業のプロジェクトマネージャーを務める菅野均氏は、「複数の事業所をまとめてエネルギーを最適利用するモデルは幅広い業種に応用が可能。今後も全国での水平展開を目指したい」と意欲を示した。

一方で日立グループは30年度までに自社の事業活動で「カーボンニュートラル」を達成するという長期目標を掲げるとともに、GX(グリーントランスフォーメーション)を促進するソリューション事業を強化している。日立パワーソリューションズソリューション事業推進本部フロントエンジニアリング部の佐野賢治担当部長も「稼働データのモニタリングだけでなく、収集データの解析結果を運用の改善に役立てるなど、ビッグデータの高度利用も視野に入れていきたい」と力を込める。

分散型エネルギー社会の先頭を走る両社の挑戦からは、今後とも目が離せない。

【特集2】空気の力で電力需給ニーズに対応 LNG冷熱利用で効率化目指す


【住友重機械工業】

液化空気が気体に戻る際に得られる膨張エネルギーで発電する―。そんな空気の蓄電池を備える「液化空気エネルギー貯蔵(LAES)システム」の可能性を追求するのが、住友重機械工業だ。住友重機は、脱炭素化の追い風に乗る再生可能エネルギーの普及を支えようと、LAESシステムの市場開拓に注力している。

気象状況や時間帯によって出力が左右される再エネの導入が進むと、多くの電力調整も必要となる。そうした不安定電源を最大限に活用できるようにする切り札として注目されているのが、LAESシステムだ。

空気の力で蓄電するシステム

特徴の一つが、大容量で長時間の電力供給に対応できるという点で、数GW時という規模の電力貯蔵が省スペースで実現。揚水発電を代替することも可能だ。さらにリチウムイオン蓄電池との比較で、設備寿命が長く環境負荷が小さいなど、多くの項目で優位に立つ。回転体によるタービン発電機を持つことから、慣性力による電力系統への安定化にも貢献できる。

こうした特徴を武器に同社は、LAESシステムの導入に向けた検討や設計から建設・試運転までを総合的に手がける体制を強化してきた。

システムの実証に向けて住友重機は、広島ガスと連携。商用実証プラントを広ガスの廿日市工場(広島県廿日市市)に建設し、2025年の運転開始を目指している。両社は22年12月に業務提携契約を締結。LNGの冷熱の有効な活用策を探っていた広ガスと、蓄電市場の開拓に向けた知見を蓄積したい住友重機の考えが一致した。

計画によると、住友重機が20年に出資した英スタートアップのHighview Enterprisesが持つLAES技術を生かす。この技術を活用する実証プラントは日本初で、「5MW×4時間貯蔵」という能力を誇る。


AIが広がる時代も視野 質の良い電力で支える

具体的には、再エネなどの余剰電力で圧縮した空気をマイナス160℃程度まで冷やして液体にし、タンクに貯蔵。冷却の際には、基地からのLNG冷熱も有効に活用し、システム全体の効率を高める。

液体空気が、電力が必要な場合に加熱し、膨張させてタービンを回す仕組みとなっている。電力需要の高いタイミングに発電することで、脱炭素や電力需給の安定化に貢献したい考えだ。発電した電気を巡っては、アグリゲーターを通じて電力市場へ供給するという。

生成AIの普及などを背景に、情報処理を担うデータセンターで使う電力の需要が大幅に拡大する方向にある。

住友重機エネルギー環境事業部の長尾亙・事業開発推進部長はそうした潮流に触れ、「エネルギー貯蔵と電力系統安定化の双方を担える一石二鳥の技術がLAES。データセンターの運用を環境にやさしい質の良い電力で支えるニーズにも応えたい」と意欲を示した。エネルギー業界に新風を注ぐ挑戦から今後とも目が離せない。