日本は先行する欧米諸国の電力システム改革を参考に改革を進めてきた。
今、海外から学ぶこととは何か。山田光氏と戸田直樹氏に寄稿を寄せてもらった。
〈 電力システム巡る三つの脆弱性 それぞれの解決に何が必要か 〉
山田 光/スプリント・キャピタル・ジャパン代表
欧米では20年以上も前にさまざまに異なる形で、燃料・電力市場の自由化が始まったがいまだ完成形ではなく、試行錯誤やチャレンジが続いている。ここでは、日本の電力システム改革の過程で明らかになった三つの脆弱性を指摘したい。
一つ目が、政策の脆弱性だ。日本は、グロスビディングやベースロード(BL)市場など欧米のいくつかの制度をコピーしてきたが、つぎはぎの印象が強く、もともとの制度の背景や哲学を学んだのか疑問だ。導入に際しては事業者間の既得権益の調整や既存制度との整合性が重視され、政策の大義、長期ビジョン、哲学が見出しにくい。
電力政策に左右される事業者にとって大きな課題は「投資リスク」だが、改革の結果、電源投資の不足が露呈した。必要なIT投資もつぎはぎの制度の導入では対応が困難である。電源投資もIT投資も10年超の回収期間だが、政策は単年度、または経済産業省の担当者の交代で2~3年で変更されるところに大きなギャップがある。
制度設計では、どのような制度を入れればどのような電源構成、市場となり、その結果として電力市場価格がどうなるのか、データとシナリオによるシミュレーション運用を政策に生かすプロセスが不可欠であるが、現行の政策当局では難しい。解決策は民間レベルで長期ビジョンを客観的に捉えるシンクタンクの設置である。海外の経験者を入れて幅広く議論し、本物の専門家による市場デザインを構築するべきだ。
燃料取引を活性化 アジア大の市場形成が必須
二つ目が電力システムの脆弱性である。電力ビジネスの基本原則は、「安定性」「廉価性」「脱炭素」だ。日本の電力の安定性は、短期の信頼度と長期の供給力に依存しているが、その前提となるのがいまだに燃料調達である。信頼度係数のEUE(確率論的必要予備力算定)も、燃料の安定確保が前提だが、2021年秋の欧州でのエネルギー移行と22年4月のロシア侵攻で燃料市場が大きく変化したし、今後は天然ガスの余剰も予想されている。
一般送配電事業者が電気の需給調整の最終責任を負い、バランシング・オーソリティ(BA)だが、燃料の過不足調整は個社任せで国としてのBAは存在しない。政府は不足に備えて掛け声はかけるが、日本の燃料は個社のカーゴ調達であり、不足、または大幅余剰時、燃料取引の経験の少ない企業の場合にはそれが直接、事業収益に反映してしまう。内外無差別は競争政策として正しいが、燃料アクセスという視点ではLNGの内外無差別の議論が足りない。
この解決策は、アジア大での燃料市場を作りいつでもカーゴを転売できるプラットフォームを創出することである。そうすれば長期契約で多めに燃料を確保していてもいつでも転売できるし、日本よりも脱炭素義務の遅いアジア諸国と連携して、余った燃料を焚いてもらえる焚口を確保する方策も採れる。なお、日本企業が燃料取引を活性化させるには、時価会計の導入が基本となるし、国内の燃料インフラの第三者利用の拡大や欧州GIE(ガス・インフラストラクチャー・ヨーロッパ)のような情報開示もマストとなる。
そして三つ目が電力ビジネス経営の脆弱性で、特に旧一般電気事業者の経営に大幅な改革の必要性が見受けられる。おそらく社内の半数以上の人は過去の垂直統合型、総括原価のバリューチェーン型のマインドセットから脱却できていないだろうし、足元の販売は卸市場ベース、燃料調達は燃料市場ベースという時価評価型のマインドセットに切り替わっていないだろう。
旧来の自社販売の想定から電源計画を作り、燃料調達で需給管理するという考え方を踏襲したままで、燃料調達コストや発電コストの大幅な見直しがなければ、販売が低下し、電源と燃料が余り、収益を圧迫することになる。その解決策は、市場の活用やフォワードカーブによる「将来を見た」経営者と経営マインドへの大胆な切り替えにほかならない。グローバルスタンダードの評価軸を取り入れ、社外の専門家や先端的な新電力経営者をボードに積極的に登用する必要がある。ポートフォリオ最適化を優先し、外部目線でガバナンスやリスク管理を徹底チェックすることがコンプライアンスを守ることにもなる。身内に甘いロジックでは自民党やビッグモーターのようになるかもしれない。
