テキサス州で発生した大寒波に伴う大停電は、危機を想定した電力システムの在り方に課題を投げかけた。1月の電力不足を何とか乗り越えた日本は、これらを制度設計の教訓としてどう生かすべきか。
2月中旬、北米の広い範囲を記録的な大寒波が襲った。氷点下の厳しい寒さで暖房需要が増大する一方、風力発電所のブレードやタービンの凍結、燃料制約によるガス火力発電所の計画外停止により電力需給がひっ迫。南部のテキサス州やルイジアナ州では停電が発生した。
中でも深刻だったのはテキサスだ。同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、14日午後7時ごろに冬季の過去最大電力6922万kWを記録した後、15日午前1時半ごろに計画停電を開始した。複数の発電機が計画外停止し、周波数が59・302Hzまで低下(低周波数負荷遮断は59・3Hzで設定)したためで、周波数を回復することでブラックアウト(全域停電)の回避を図った。
これについて日本エネルギー経済研究所電力・新エネルギーユニットの小笠原潤一研究理事は、「計画停電開始後の午前5時半ごろ、原子力発電(約130万kW)が計画外停止しており、実施に踏み切っていなければブラックアウトに至っていた可能性がある。それを回避できるギリギリのタイミングだった」と話す。

17日に計4600万kWが系統から脱落するなど苦しい需給の下、計画停電は18日まで続き、500万軒が影響を受けることになった。これを反映する形で、リアルタイム市場価格は15~18日の4日間にわたり上限の1MW時当たり9000ドルに達した。3月に入り同州最大の電力小売事業者ブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請するなど、その余波はいまだに続いている。
石炭火力が大量退出 ガスへの依存進む
停電被害の責任を取る形でERCOTの幹部は退任に追い込まれた。猛暑・寒波時に同州で需給ひっ迫する危険性が高まっていることは、既に2018年ごろから指摘されてきたことだ。にもかかわらず、なぜ対策が取られてこなかったのか。前出の小笠原氏は、「同州では11年2月と14年1月に寒波による需給ひっ迫が起きたのを機に、州公益事業委員会が冬季に高い信頼度を維持するのに不可欠な設備への凍結対策を指示し一定の効果を上げていた。だが、ガスの生産・供給設備については規制が異なるため、対策が進まなかった」との見方だ。
ただ、14年当時と比べると電源構成は大きく変化している。風力が大量に入ったことでガス余りを招き、価格が大幅に低下。それに対抗できなくなった石炭火力の大量退出が続き、ベースロード電源におけるガス火力依存が急速に進んでいるのだ。そんな電源構成でありながら、ガス火力が十分な機能を果たせるよう、生産設備の凍結対策がなされてこなかったという点では批判は免れない。
小笠原氏は、「テキサスの需給ひっ迫は、ベース電源である石炭火力の廃止と、燃料制約によるガスの供給不足が主因であり、日本の1月の需給ひっ迫と類似性が高い」と指摘した上で、「需給が厳しくなりやすい状況は、日本とテキサスに限ったことではない」とも明かす。
この冬は、世界的な低気温で英国やベルギーなど欧州各国でも、1kW時当たり400~500円を付け、厳しい需給状況が卸市場価格から見て取れた。英国では、1月8日に供給力の不足から容量拠出指示が出されている。実際の容量拠出はなかったとはいえ、ここからも需給がひっ迫しやすい状況がうかがえる。
これらの国・地域で共通しているのは、再エネ大量導入と自由化による競争促進で、不採算の電源に投資が起こりにくいという点だ。政策として再エネを導入する一方、石炭・天然ガス火力と原子力発電設備の閉鎖を進めている米カリフォルニア州でも、昨年8月に2日間にわたって計画停電が実施されたことは記憶に新しい。