紆余曲折の議論を経てようやく、第六次エネルギー基本計画の全貌が見えてきた。日本のエネルギー政策はどこへ向かうのか。キーパーソン3人に期待と課題を語ってもらった。
〈出席者〉橘川武郎/国際大学副学長大学院国際経営学研究科教授、高村ゆかり/東京大学未来ビジョン研究センター教授、田辺新一/早稲田大学創造理工学部建築学科教授

―第六次エネルギー基本計画のこれまでの議論について、どう評価していますか。
橘川 米国で気候サミットが開かれた、4月22日の基本政策分科会の会合が象徴的でした。午後5時の「NDC(パリ協定に基づく温暖化ガス削減の国別目標)46%」との速報を受け発言したのですが、その時には保坂伸・資源エネルギー庁長官ら幹部がいずれも席を外していました。このNDCがいかにエネ庁にとって想定外だったかを物語っています。その後、予定されていた会合のキャンセルが相次ぎました。NDCが決まった後にその帳尻合わせでエネルギーミックスを決めるという逆転現象が、議論を難航させたのです。
高村 多くの先進国が社会の高次の目標として気候変動目標を設定した上で諸政策を議論しています。今回のことは政治的に突然出てきたという印象を持つ人が多いかもしれませんが、これが本来です。そういう意味で、菅義偉首相の「カーボンニュートラル宣言」は、エネルギー政策議論の枠組みを大きく変えたと言えます。
田辺 菅首相の宣言は、2050年に向けて日本の産業構造、社会構造が大きく変わっていくというメッセージです。18~19世紀の産業革命を一言で表現すれば石炭エネルギー革命です。これにより社会構造が変わり、機械工業が興り蒸気船や鉄道といった交通革命が起き、近代の住宅、建築、都市が出現しました。今後、われわれが迎えるのはこの産業革命以来の社会構造の変革でありエネルギー革命なのです。このような活動が、産業革命発祥地のイギリスから始まっていることが象徴的です。
―数値目標の実現性をどう考えますか。
橘川 一部には、達成が難しいとか目標が過大であるといった意見がありますが、むしろようやくグローバルスタンダートに戻ったと考えるべきです。現行のエネルギーミックスを策定した15年の「長期エネルギー需給見通し」の会合において、「30年に再生可能エネルギー比率を30%にするべきだ」と主張しましたが受け入れられませんでした。採用されていれば、今ごろは洋上風力発電が秋田県沖に相当数建ち、今度の30%代後半という目標もより現実性を持ったはずです。パリ協定の後にもかかわらず、18年にミックスを変えなかったことは大失策です。
高村 50年のエネルギー政策の方向性については広く了解されていますが、10年でできることは限られ、30年というのは相当に難しいタイミングです。足元でCO2排出量を最大限削減していくと同時に、中長期の脱炭素化に向けて、エネルギーインフラの寿命や投資サイクルを考慮して電源の差し替えを行っていかなければなりません。この時間軸の違う二つの取り組みをうまく実行しなければならないことが、30年の議論をより難しくしています。