【特集1】核燃サイクルの「現在・過去・未来」 変わらない高速炉の意義再確認を


もんじゅ廃炉が決定打となり、日本の核燃料サイクル政策は足踏み状態が続いている。世界では将来の高速炉市場を見据えた動きがある一方、日本はこのままで良いのか。

稼働停止中の高速実験炉・常陽(提供:JAEA)

昨年の自民党総裁選を通じ、論点の一つとして核燃料サイクルが改めて耳目を集めた。政策の方向転換を訴える河野太郎氏の発言が波紋を広げた。結局、総裁選・衆院選を経て発足した岸田政権は従来方針を踏襲するが、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決定打となり暗礁に乗り上げた高速炉サイクルの開発は棚上げ状態が続く。

ウラン資源争奪戦時代へ 重要性増す高速炉サイクル


にもかかわらず、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料を軽水炉で使う軽水炉サイクル(プルサーマル)だけでなく、なぜ高速炉サイクルが必要なのか。その意義を再認識し、政策を前進させるべき局面を迎えている。

サイクルの重要な意義の一つが、ウラン資源の節約だ。軽水炉で発電に利用するのは、核分裂しやすいウラン235。ウラン鉱石に約0.7%含まれ、この濃度を3~5%まで高めて燃料集合体として使う。この使用済み燃料のうち、核分裂せずに残ったウラン235やウラン238、新たに発生したプルトニウム(Pu)239の計95~97%の資源が再利用可能になる。

今後ウラン資源争奪戦が激しさを増す中、資源節約の重要性はさらに高まる。経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)が2020年に発表した報告書によると、世界の原子力発電の規模は40年に6億2600万kWと18年の約1.6倍に、年間ウラン需要は40年に約10万tUと18年の約1.7倍へと増える。ウラン資源は有限ではあるものの、当面これらの需要を満たすのに十分な資源量は存在する。

ただし、「問題は価格だ。今世紀後半に世界全体の原子力設備容量が増加するので、必ずウラン価格が上がる。そのときに価格交渉能力を維持するには、天然ウランの新規購入を必要としない炉型が必要になる」(電力業界関係者)。プルサーマルでの資源節約効果は2割増し程度にしかならないとの試算もあり、新たな燃料調達が実質不要となる高速炉サイクルがやはり必要なのだ。

廃棄物処分量の減容化や、毒性の早期低下につながる面も大きい。使用済み燃料の直接処分での高レベル放射性廃棄物の体積は、再処理しガラス固化した場合の2.7~3.7倍との試算がある。また、発熱量や放射能毒性の継続期間も、直接処分の方が長期に及ぶ。ガラス固化体の主な核種はセシウムやストロンチウムなど半減期が比較的短いものだが、使用済み燃料には半減期が長期にわたるウランやプルトニウムがそのまま含まれるためだ。天然ウラン程度の毒性に減衰する期間は、直接処分では10万年にもなるのに対し、軽水炉サイクルでは約1万年。これが高速炉サイクルでは数百年程度とさらに短くて済む。

これらの点に加え、東京工業大学の齊藤正樹名誉教授は核不拡散の観点からの重要性を説く。「大量の使用済み燃料を処分する直接処分では、自然に(核兵器に使われる)Pu239の濃縮が進み、将来『プルトニウム鉱山』になり得る」と指摘。「プルトニウムの問題は『量』ではなく、核拡散抵抗性という『質』で考えるべきだ。現在は使用済み燃料に含まれるMA(マイナーアクチノイド)は処分する方針だが、これを軽水炉燃料に少量添加すると核兵器に使用できないPu238をつくり、核拡散抵抗性が増大する。さらに高速増殖炉のブランケットに添加すると、核拡散抵抗性の強いプルトニウムの増殖も可能。MAは全量回収しリサイクルすべきだ」と提案する。

【特集1】プルトニウム有効利用と長寿命核種の低減 高速炉サイクルの新たな可能性


日本では、高速炉により半減期の長いマイナーアクチノイド(МA)の低減が求められる。そのためにふさしい高速炉マルチリサイクルの方法を選定するべきである。

藤田玲子/科学技術振興機構・革新的研究開発推進プログラム プログラム・マネージャー

年明けに日本原子力研究開発機構(JAEA)と三菱重工業が米国のテラパワー社の高速炉計画に参画するというニュースが飛び込んできた。この件については新聞報道を参考にしていただくとして、日本における高速炉・サイクル計画について今一度、考える時期にきているのではないか。またもや、技術的な議論をする前に政治的な判断が見え隠れしている。

フランスの酸化物高速炉「ASTRID」から米国の金属燃料高速炉「PRISM」へ、いとも簡単に方向転換した。ナトリウム(Na)冷却こそ共通だが、燃料形態が酸化物と金属では全く異なるにもかかわらずNa高速炉と一括りにすることに違和感と危機感を抱く。本稿では、世界の高速炉の開発状況と、これを踏まえた日本が取るべき高速炉サイクルの今後について述べたい。

世界で高速炉サイクルの研究および技術開発を先進的に実施してきた国はフランス、ロシア、そして米国である。周知の通り、フランスとロシアは酸化物燃料高速炉を、米国は金属燃料高速炉を開発している。

酸化物燃料を用いたスーパーフェニックス


フランス 酸化物燃料の高速炉開発を主導


酸化物燃料を用いた高速炉開発はフランスが主導したが、2010年に高速原型炉フェニックス(25万kW)が廃炉になり、1997年にNa漏れ事故などによってほとんど稼働せずに高速実証炉スーパーフェニックス(124万kW)が閉鎖され、大型高速炉の開発が頓挫した。2006年に第4世代炉開発計画を開始し、12年に後継の高速原型炉ASTRID(60万kW)計画を始め、研究開発を進めてきた。

しかしながら、18年にフランス原子力庁は当初60万kWとしていた出力を3分の1以下の10~20万kWに縮小し、予算のサポートが得られず最終的にはASTRID計画を放棄することになった。

ロシア 世界トップの酸化物高速炉開発

ロシアは旧ソ連時代から酸化物燃料高速炉開発を進めてきた。1973年にはBN―350(13万kW)の発電を開始し、その後、80年にBN―600(60万kW)を、2015年にはBN―800(88.5万kW)が運転を開始した。BN―800ではフルMOX炉心と閉高速炉サイクル、劣化ウラン(U)とプルトニウム(Pu)の有効利用の実証も目指している。

さらにBN―1200(122万kW)の研究開発を進めるとともに、混合窒化物燃料や鉛冷却高速炉の研究開発も進めており、酸化物高速炉開発では現在、世界のトップである。

【特集1】戦略ロードマップに基づき高速炉を開発 国は核燃サイクルを推進していく


経済産業省資源エネルギー庁 原子力立地・核燃料サイクル産業課 原子力政策課

政府は、プルトニウムなどを再利用する核燃料サイクルを原子力政策の基本方針としている。プルサーマルには資源有効利用の利点があり、六ヶ所再処理工場の稼働に向けた取り組みを進めていく。

六ヶ所再処理工場は対策工事を確実に進めてほしい(日本原燃ウェブサイトより)

政府は、第六次エネルギー基本計画でも閣議決定された通り、①高レベル放射性廃棄物の減容化、②有害度の低減、③資源の有効利用―などの観点から、使用済み燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを原子力発電所において再利用する核燃料サイクルを推進することを基本方針としている。

これを踏まえ、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、六ヶ所再処理工場の稼働に向けた取り組みやプルサーマルを推進するなど、引き続き核燃料サイクルを着実に進めていく。

現在、国は軽水炉でのMOX(混合酸化物)燃料利用(プルサーマル)を進めている。プルサーマルを進める意義は、使用済み燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを軽水炉において再利用するプルサーマルには、資源を有効利用できるという利点があるためである。

プルサーマルによって生じる使用済みMOX燃料の処理・処分の方策については、第六次エネルギー基本計画で閣議決定された通り、使用済みMOX燃料の発生状況とその保管状況、再処理技術の動向、関係自治体の意向などを踏まえながら、引き続き2030年代後半の技術確立をめどに研究開発に取り組みつつ検討を進めていく。


高速炉開発を推進 米・仏との協力を活用

高速炉の開発については、18年12月に策定した高速炉開発の「戦略ロードマップ」に基づいて取り組みを進めている。この高速炉開発の戦略ロードマップでは、当面5年間程度は、これまでに培った技術・人材を最大限活用し、民間によるイノベーションの活用による多様な技術間競争を促進して、その後、技術の絞り込みを行った上で、工程を具体化していくこととしている。

開発に当たっては、米国、フランスなどとの国際協力を活用しながら進めることとなっており、高速実験炉「常陽」、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」で積み重ねたデータや施設、日本メーカーの設計・製造能力などを活用し協力を加速していく。

こうした中、本年1月には米テラパワー社と日本原子力研究開発機構、三菱重工業との技術協力が開始されている。この協力を契機に、日米の高速炉協力のさらなる進展と、高速炉開発に関する技術力の発展に期待している。今世紀半ばの適切なタイミングにおいて、現実的なスケールの高速炉が運転を開始することを期待している。

六ヶ所再処理工場の稼働が迫っている。20年に原子力規制委員会から新規制基準に基づく許可を得たところであり、まずは足元の安全審査や対策工事を確実に進めていくことが重要と考えている。

【特集1】伝えたい「閉じたサイクル」の実力 貴重なウラン資源の有効利用


脱炭素の潮流により、今後、各国で原子力発電所が建設ラッシュを迎える。天然ウランの価格高騰が予想され、高速炉サイクル開発の必要性が増している。

【出席者】佐賀山 豊/日本原子力研究開発機構高速炉開発タスクフォース リーダー、澤田哲生/東京工業大学助教、田中治邦/日本原燃フェロー

左から佐賀山氏、澤田氏、田中氏

澤田 六ヶ所再処理工場の完成が迫る中、EU(欧州連合)がカーボンニュートラルのためにタクソノミーで原子力を選択肢に含めるなど、原子力の実力に関心が高まっています。 

 これから原子力開発を進めるには、資源を有効利用するための「閉じた核燃料サイクル」(※)、その中心となる高速炉の将来像を明確に示すことが欠かせません。ところが、今は将来像がぼやけています。核燃料サイクルは原子力政策の要です。今日はあらためてその意義をお聞きしたい。


天然ウランを余すことなく利用 高速炉サイクルの画期的な能力


田中 エネルギー資源のない日本にとって、準国産エネルギーである原子力はエネルギーを安定供給する上で不可欠です。さらに政府が2050年カーボンニュートラルを目指すことを決めた中、その必要性がより高まっています。

 軽水炉で利用するために天然ウランを濃縮してつくる燃料では、ウラン資源の0.7%しか使えません。もし、使用済み核燃料を再処理しないで、直接処分(ワンススルー)するならば、ウランの可採年数は化石資源と変わらないことになります。やはり、天然ウランのほとんどを占めるウラン238をプルトニウムに変えて、燃料として利用する核燃料サイクルが、原子力の最も望ましい利用方法です。そうすることで、原子力を長い期間にわたり安定的に利用することができます。

 今、MOX(混合酸化物)燃料を軽水炉に装荷するプルサーマルを進めています。プルサーマルでは天然ウランの利用効率が2割増しほどになる効果しかありません。しかし、プルトニウム燃料を高速炉で使うならば、天然ウランをほぼ全て使うことができます。ですから、将来は高速炉を中心とした核燃料サイクルにするべきです。プルサーマルは、それに切り替えるまでの第一ステップだと思っています。

澤田 世界中の国々が今後、脱炭素化を本格的に進めるならば、先進国を中心に原子力発電を増やさざるを得ません。中国、ロシアでは既に増えています。すると、ウラン資源の争奪が始まるかもしれない。その中で日本が原子力発電を続けるとすれば、閉じた核燃料サイクルの重要性が浮上してくるはずです。

佐賀山 その通りだと思います。田中さんも言われたように、高速炉を利用すれば天然ウランのほとんどを使うことができます。閉じた核燃料サイクルは資源の有効利用、すなわちエネルギー安全保障上非常に大きな意味を持ちます。さらに環境負荷の低減、つまり放射性廃棄物の減容と有害度を低減することもできます。

 具体的には、核分裂しないウラン238が原子炉内で中性子を吸収すると核分裂するプルトニウム239になります。軽水炉によるプルサーマル利用では、水で減速した熱中性子を利用するので、プルトニウム239の一部が核分裂しないプルトニウム240などになってしまう。プルトニウムが高次化して、核分裂をしないプルトニウムができてしまいます。一方、高速炉は高速中性子を利用するので、プルトニウムの高次化はほとんど起きません。

 さらに、使用済み燃料を再処理する際に、非常に長い時間放射線を出し続けるマイナーアクチノイド(MA)核種を分離し、プルトニウムと混ぜて燃料として燃やすことができます。軽水炉では廃棄物となるMAを高速炉では燃焼させることができるのです。これにより、高レベルの放射性廃棄物量を削減するとともに、放射能レベルが天然ウラン並みになるまでの時間を大幅に短縮し、有害度を低減することもできます。

 ですから、軽水炉でプルトニウムを混ぜたMOX燃料を使うことは可能ですが、効率はよくないし、放射性廃棄物の有害度を低減することができません。やはり高速炉で使うことが最もふさわしい。

澤田 すると、軽水炉サイクルとして、プルサーマルを進めることの意義をどう考えますか。

佐賀山 まず大切なことは、軽水炉の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを分離し、利用する技術を確立することです。その点で六ヶ所工場で再処理を行いプルサーマル利用を進めることは、核燃料サイクルを実用化していく上での第一歩です。さらにプルサーマルでの使用済みMOX燃料には、プルトニウムが多く含まれていますから、高速炉の運転開始をするときのスターターの燃料として使える。高速炉の燃料として貴重な資源です。

田中 そうですね。今、大量にたまっている使用済み燃料を六ヶ所工場で再処理をして、まずプルサーマルで1回使う。そして、使用済みMOX燃料のプルトニウムは将来、高速炉時代がきて、高速炉用の再処理工場ができたときに備えて温存して残していく。そういう点で、高速炉が普及していくまでのオプションとして、プルサーマルを進める意味は大きいと思います。


【論考/2月17日】 タクソノミー で原子力とガス認定 条件や情報開示義務を規定


EU(欧州連合)でここ数年議論になっていたEUタクソノミーの認定基準案が、ようやく示された。加盟国の間で意見が割れていた原子力と天然ガスは、条件付きで「グリーン」に認定する方針だ。加えて事業者に対し、投資家の判断基準となる情報開示義務を規定する。

角谷仁之/TMI総合法律事務所パートナー


2月2日、EC(欧州委員会)は、EUタクソノミーに一定の原子力及び天然ガス発電を盛り込む補完委任法案の最終案を公表した。EUタクソノミーは、2050年に「気候中立」を達成する目的に照らして、環境目的に貢献する経済活動への民間投資を促進するため、EU金融資本市場における市場参加者・発行会社を対象に、気候変動に対する持続可能性の確保に貢献する経済活動を産業別に判別する基準を提供している。

EUタクソノミーの認定基準を定めるタクソノミー規則では、対象とする経済活動を、再生可能エネルギー発電などの「低カーボン活動」(10条1項)、石炭発電などから低カーボンへの移行を目指す「過渡的な活動」(10条2項)、環境目的達成を「可能にする活動」(16条)の3種類に分けている。本年1月1日に公表された規則原案では、原子力および天然ガス発電を「過渡的な活動」に区分した。この間、タクソノミー認定のスクリーニング基準である①温室効果ガス排出抑制レベルが最高水準であること、②再エネ発電などの低カーボン活動の開発を阻害しないこと、③事業資産ライフサイクルでのCO2排出量の上限設定などの環境・安全基準――について、加盟国専門家グループと諮問機関により約3週間の期間でレビューされた。

諮問機関であるサステナブルファイナンス・プラットフォ―ムと一部の加盟国からは、原子力発電には気候変動対策以外の循環型経済への移行や生物多様性維持などの環境目的の観点から、天然ガス発電には化石燃料の有害性から、批判と疑問が提起された。しかしECは、EUタクソノミーは気候中立に貢献する低カーボン活動の判別だけでなく、技術的スクリーニング基準と一定期限を定めた「過渡的な活動」を通じ、各国の実情に応じて段階的に持続可能なエネルギーシステムを構築する取り組みも支持していると反論。批判勢力の主張を却下して最終案を示した。

原子力は3種類で条件提示 ガスには厳格な基準求める

原子力発電のスクリーニング基準では、他の環境目的を著しく阻害しないことを前提とし、事業内容を3種類に分けてそれぞれ設定。①放射性廃棄物の生成を抑制し、30年ごろの実用化を目指している第4世代原子炉の研究開発活動に関するタクソノミー認定要件を定める、②最高水準の環境性能と安全性を備えた最新の第3プラス世代原子炉(EPR=欧州加圧水型炉、ESBWR=高経済性・単純化沸騰水型原子炉など)の建設は40年までに当局の承認を得る、③既存の原子力発電所の改良と運転延長についてもライフサイクルでのCO2排出量、放射性廃棄物処理や安全性基準などを定めて40年までに当局の承認を得る――こととした(下記表参照)。

原子力発電のスクリーニング基準

【特集1】足元のオール電化には限界も 脱炭素時代の羅針盤を示せるか


インタビュー:今井尚哉 /キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

2021年に露呈した脱炭素と安定供給の両立の難しさを直視し、政策の見直しを迅速に図れるのか。前号に続き、内閣官房参与を務める今井尚哉氏に、エネルギー政策の課題・展望を直撃した。

いまい・たかや 1982年東京大学法学部卒、通商産業省入省。2006年に首相秘書官(第一次安倍内閣)、11年に資源エネルギー庁次長、12年に首相秘書官(第二次・三次・四次安倍内閣)。21年から現職。

―2021年は第六次エネルギー基本計画が紆余曲折を経て策定されました。その評価は。


今井 エネ基で経済産業省が貫いてきたのは積み上げです。だからこそ世界的な注目度が高かった。しかし今回初めてそのおきてを破りました。温暖化目標ありきで産業の羅針盤の体をなしていません。

 例えばアベノミクスでの経済成長率のターゲットは2%でしたが、そのままなら2%エネルギーが増えます。これをエネルギー転換などで年率オフセットして下降カーブに乗せ、最後は設備更新で一気にゼロに持っていく。ただ、重厚長大企業は数年単位で設備更新の岐路に直面するが、現時点では電炉かガス炉のどちらにすべきなのか。今のエネ基にはその答えがありません。電化できない分野では水素を燃やした熱の活用を目指しますが、実用化はまだ先です。まずはガス炉に転換してCO2原単位を減らしつつ、次の投資時期に水素炉に転換できるよう技術開発に努める。本来はそんなメッセージを発すべきでした。

 需要家側での現時点の最善策は、ガスコージェネレーションと再生可能エネルギーを組み合わせたスマートエネルギーシステムです。足元でのオール電化には限界があり、おそらく40~50年ごろまではガスコージェネ+再エネを超えるエネルギー効率は得られず、そこに水素や合成ガスを組み込めばプロセスで炭素が循環する。熱分野ではガスを主体に原単位を下げる作戦を取り、電源ではやはり原子力の活用が不可欠になります。

精緻なポートフォリオが必要 インフラ投資に覚悟を

―今夏策定予定のクリーンエネルギー戦略には何を望みますか。


今井
 太陽光は今後山岳地帯の開発が厳しくなり、風力もコスト低減や発電安定性に限界があります。結局火力と原子力を2~3割ずつというバランスの良いポートフォリオが現実解です。今度の戦略こそ再エネ一辺倒でなく、例えば石炭は既設を動かしつつ、アンモニア混焼やガス化、CCUS(CO2回収利用貯留)、IGCCやIGFC(石炭ガス化複合発電、石炭ガス化燃料電池複合発電)構想を、アジア、場合によっては中国とも協力して進めるべきです。またEUタクソノミーで認定された原子力を、日本もクリーンエネルギーに位置付け直し、分かりやすい羅針盤を示す。この戦略を岸田文雄首相が責任を持って参議院選までに策定し、それに沿って選挙の1年後にエネ基を見直せばいいのではないでしょうか。

 インフラの入れ替えには2兆円基金などでは全く足りません。炭素税を入れれば済むという次元ではなく、一般会計での新社会資本のインフラ投資が必要になります。米国やEUは既に着手しており、日本も、一般会計で回らないならグリーンボンド発行など、覚悟を決めて国全体で取り組むべきです。その覚悟もないままの46%目標は意味がありません。

【特集1】2050年CN実現は必達目標 安全を前提に原子力を活用する


インタビュー:保坂 伸/資源エネルギー庁長官

第六次エネルギー基本計画において、引き続き原子力を活用していく方針が明示された。保坂長官は、原子力は脱炭素社会実現への重要な選択肢の一つだと強調する。

ほさか・しん 1987年東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。13年秘書課長、19年貿易経済協力局長などを経て2020年7月から現職。

―これからのエネルギー政策における原子力の位置付けをどう考えますか。

保坂 第六次エネ基では、原子力について「必要な規模を持続的に活用する」ことが新たに明記されました。原子力をある程度活用しなければ、温室効果ガス2030年度46%削減(13年度比)も、50年カーボンニュートラル達成も困難です。厳しい世論があることを認識した上で、安全性を大前提にしながら、ある程度は使っていかざるを得ないことを明示したものとご理解ください。

―脱炭素社会実現に向け、再生可能エネルギーと並び、原子力は欠かせない電源の一つということですね。

保坂 30年まで8年を残すところとなり、目標達成は現在ある技術を総動員するしかありません。現時点で原子炉は10基しか稼働しておらず、国民や自治体からの信頼が十分に戻ったとは言えませんが、原子力比率20~22%の実現は再稼働にしっかり取り組んでいくことに尽きます。

 一方、50年目標は、現在の技術の延長で達成することは不可能です。CO2対策を施さない限りガス火力すら使えなくなる可能性がありますし、再エネは地理的に限界がある上に、50~60%を超えると高コストになる恐れがあります。そうした中でも50年カーボンニュートラルは必ず達成しなければならず、そのためには電源の選択肢を残しておかなければなりません。原子力は、その選択肢の一つです。

―脱炭素化の流れを主導する欧州でも原子力が再評価されているようです。

保坂 再エネで電力の100%を賄うことは、風況に恵まれた欧州でさえも難しいと言われ、その不足を補う手段として原子力が位置付けられていると思われます。最終処分問題を含め、各国とも原子力に課題があることを理解した上で、安全性に十分配慮しながら政策に取り組んでいるのだと見ています。

―岸田首相が所信表明演説の中で、クリーンエネルギー戦略の策定を掲げました。

保坂 昨年12月に策定されたグリーン成長戦略は、50年目標の達成に向けたブレークスルー技術の確立のためのイノベーションの研究開発についてまとめたものです。エネ基は、エネルギー政策の基本的なコンセプトや考え方を示すもので、どちらも具体的な政策の進め方を記したものではありません。それらを基に、30年までの取り組み、そして40、50年に向けた実効的な戦略を作っていかなければなりません。

 例えばエネ基では、CCUS(CO2回収・利用・貯留)やカーボンリサイクルなどの取り組みについては示唆されていますが、研究開発を含め民間企業とどう協働していくかといった具体策が必要です。グリーン成長戦略が主に研究開発をテーマとしていたのに対し、今回のクリーンエネルギー戦略では、それらの実装を含めた、より具体的な道筋が示されることをイメージしています。

【特集1】今度こそ地に足の着いた議論を 不可欠な大型炉のリプレース


インタビュー:今井尚哉/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

この10年原子力政策の停滞が続き、脱炭素路線でも潮目は変わらず。ここからどうてこ入れすべきか。安倍内閣で首相秘書官を、そして現在も内閣官房参与を務める今井氏に考えを聞いた。

いまい・たかや 1982年東京大学法学部卒、通商産業省入省。2006年に首相秘書官(第一次安倍内閣)、11年に資源エネルギー庁次長、12年に首相秘書官(第二次・三次・四次安倍内閣)。21年から現職。

―脱炭素路線が敷かれてもなお原子力の議論は深まっていません。

今井 原子力というベースロードの脱炭素電源がなければ、産業は成り立ちません。一度原子力を放棄すれば技術的な系譜が途切れるといった面も加味し、将来へのルートを周到に作る必要があります。 建設中も含めて今ある36基を全て再稼働することが基本になります。60年運転も技術的な問題はないと思いますので、炉ごとに審査を経て、一歩ずつ進めていくことになります。

―しかし再稼働はいまだに9基。スピードアップが不可欠です。

今井 特にBWR(沸騰水型炉)でSs(基準地震動)が策定できないために耐震設計が決まらず、規制の予見可能性がない状況が続きました。時間がかかったことは事実ですが、現在は36基のほとんどでSsの問題をクリアしています。後は地元合意を進めていくことになります。国がより明確なメッセージを出す必要性がある一方、やはり柏崎刈羽発電所の核物質防護に関する不祥事の影響が大きく、原子力への国民感情が元に戻ってしまったことは残念です。

―新増設・リプレースについてはどうでしょうか。

今井 マストです。でなければオプションは先細る一方です。一時政府内では、原発比率20%には何基必要で、その半分くらい稼働したらリプレースの議論に着手する、といったアイデアがありました。実際はそこに至らず私も責任を感じていますが、今度こそリプレースの議論を安定供給のためにやり抜く必要があります。ある程度地点を思い描いた上で、地に足の着いた議論にしてほしいと思います。閣議決定前の第六次エネルギー基本計画を、もう1年かけて練り直すという意見もありましたが、これも実現はしませんでした。今度のクリーンエネルギー戦略が、真の第六次エネ基として読めるものに仕上げるべきだと思います。

―公明党はリプレースに慎重姿勢です。

今井 公明党の事情はありますが、今自民党で政策を考案するグループにはしっかりした人が揃っているので、その点は心配していません。ただ、安全性が高いからと一足飛びに小型炉にフォーカスし過ぎ、リプレースの議論が進まなくなることを懸念しています。まずは技術が確立済みの大型炉のリプレースに尽力すべきです。

―規制の見直しについては。

今井 今の規制は設計段階での対策ばかりを重視し、ハード面のみ着眼すれば過剰防護のように見えます。本来は、事業者が有事の際にさまざまな事象を想定したオペレーションが徹底できるかを重点的に審査すべきです。福島事故の最大の教訓は、最後は事業者のオペレーションにかかっているということでした。それを原子力規制庁職員は再認識してほしい。「原子力村」ではなく、良い意味での規制庁とエネ庁、事業者の協力の輪をつくる必要があり、そこに私も貢献したい。クリーンエネルギー戦略の裏側で、こうした取り組みも必要です。

【特集1】原子力も「最大限の活用」必要 リプレース含め政策見直しを


インタビュー:滝波宏文/自民党参議院議員

閣議決定されたエネルギー基本計画は、再生可能エネルギーを重視し原子力発電を評価していない。滝波議員は危機感を抱き、「原子力のリプレースを含め、政策の見直しは欠かせない」と主張する。

たきなみ・ひろふみ 1994年東京大学法学部卒、大蔵省(当時)入省。2013年参議院議員(当選2回)。参院資源エネルギー調査会筆頭理事、予算委員会理事などを歴任。党総合エネルギー戦略調査会幹事。

―クリーンエネルギー戦略への期待は。

滝波 そもそも日本は資源がなく、海外とつながる電力系統もありません。一方、経済大国なので膨大な電力を要します。しかも、京都議定書を作った環境責任国です。

 この日本のエネルギーを巡る高い制約条件の下、基本計画の作成ではS+3Eのうち一つのE(環境)だけではなく、全体をアップグレードすべきだと主張しました。しかし、環境だけがクローズアップされてしまった。再生可能エネルギーを最大限増やすのは当然ですが、本当は同様に原子力も最大限活用するとしなければいけませんでした。この点、残念ながら今回閣議決定された第六次エネルギー基本計画は「赤点」だと言わざるを得ません。答えが分かっているはずなのに、その答えが書ききれていない。クリーンエネルギー戦略は、残る二つのE(エネルギー安全保障、経済性)について、原子力のリプレースも含めて、基本計画の不足を補完する役割を持たせるべきだと考えています。

―原子力について問題意識は。

滝波 心配していることは、福島事故から10年が経ちましたが、原子力の足が止まり、世界に誇れるわが国の技術、人材が衰退の危機に瀕していることです。

 さらに懸念しているのは、立地地域のことです。これまでは、リスクを負いながらも、安定安価な電力を大都会をはじめ消費地に送るという「誇りある国策への協力」が成り立っていました。それは、一つには安全性などが向上する最新鋭の発電所を造ってきたからです。既存の発電所が年数を経ていくだけで、「死んでいく技術」とただ何十年も向き合えと言われるのでは、「もうついていけない」と立地地域も思うでしょう。

―規制行政をどう考えますか。

滝波 私は財務省の出身です。元行政マンとして見て、大きな問題があると思っています。行政はデュープロセス(法の適正な手続き)に沿って、予見可能性などを確保しなければなりません。

 例えば、原子力施設の審査の標準処理期間は2年間とされていますが、守られていません。新規制基準導入の直後はともかく、多くの審査の結果、ノウハウなどが蓄積され、本来ならば審査期間は2年に収束していくべきです。しかし、そういう姿勢が原子力規制委員会に見えません。

 事業者に対し単にノーと言い続け責任を押し付けるだけでは、機能する規制行政とはいえません。さまざまなステークホルダーと対話を深め、どうやれば現実的、効率的に安全性を高めていけるかを追求していくのが本来の役目です。

 来年、更田豊志委員長が任期を終えます。規制委の委員は国会の同意が必要なので、誰が委員長にふさわしいかも含め、より科学的、合理的、現実的にと、規制行政の刷新が必要だと考えています。

 今後、運転延長、カウントストップの議論も本格化します。10年間を振り返り、スピード感を持って法改正も含めて規制委・規制庁の行政を見直していきます。

【特集1】SMRは軽水炉代替となるか 日本での実用化に規制の障壁


日本原子力学会フェロー/田中隆則

小型で安全性の高いSMR(小型モジュール炉)が、大型軽水炉に代わる炉として日本でも注目を浴びている。しかし、わが国での実用化には、審査期間の長期化やプラントメーカーの取り組みの遅れなどの課題がある。

現在、新たな原子炉としてSMR(小型モジュール炉)が注目されている。

その特性は、まず出力が小さいことであり、動的な安全系を採用しなくても自然循環などのフルパッシブ系で安全性能を達成でき、機器・設備の大幅な簡素化が可能となる。内蔵放射能も小さいことから、緊急時の避難区域も縮小できるとされている。また、原子炉格納容器内に圧力容器など主要な原子炉系機器を収め、原子炉システム全体を一つのモジュールとして工場で完成させることにより、後はサイトに輸送、据付けて二次系とつなぐだけで利用できるため、工期の大幅な短縮と品質向上を同時に達成することができる。

ニュースケール・パワー社は開発で先行する(ニュースケール社ウェブサイトより)

SMRはこのような特性によって、次のような利用環境の変化に適応するエネルギーシステムとして期待をされている。

その一つは、電力事業の自由化による投資環境の変化である。大型炉の開発・導入は、巨額の投資を要するうえ、建設工期の長期化や電気料金の低減、規制制度の変更による追加投資などのリスクがある。一方、SMRは小型であり投資額が小さい。また、現地での工事が少なく短期に完成、早期の資金回収が見込まれる。順次、原子炉を追加設置する分散投資により、資金リスクを抑え出力増を図ることもできる。また、コスト面についても、パッシブ系の採用による設備の簡素化、運転保守の効率化などにより、大型炉並みのコスト低減が図れる可能性もある。

次に脱炭素化を目指すエネルギー環境の変化である。再生可能エネルギーの出力変動を補完するSMRの負荷追従性が期待されている。また、産業界の脱炭素化を進めるための熱エネルギーの供給源として、小型で立地に柔軟性のあるSMRは産業施設の近辺に設置し、その熱需要にも応えられると期待されている。

さらに、災害などへのレジリエンス性へのニーズである。SMRは、頻繁な燃料供給も要らず、天候にも左右されないことから、大規模な電力系統がダウンした場合のマイクロ・グリッドの基幹電源としての役割も期待される。


ベンチャー・大学が参入 各国政府も開発を支援

SMRの開発は、プラントメーカーに加え、ベンチャーや大学・研究機関など多くの組織で進められており、各国の政府も開発を支援している。特に、SMRの開発に国を挙げて力を入れている国として、米国、カナダ、英国を挙げることができる。これらの国では、原子力産業振興の柱として、SMRに注目している。

特に米国は、中国とロシアが国際的な原子力発電プラント市場を先導している現状に危機感を抱き、原子力分野でのリーダーシップを回復するため、議会、政府、規制機関、産業界が協力してSMRの開発・導入に取り組んでいる。

【特集1】脱炭素とエネルギー危機で大揺れ 原子力回帰に向かう欧州事情


欧州では、脱炭素時代の安定供給体制を模索する中、原子力回帰の動きが拡大している。脱原発にこだわるドイツなどに対し、フランスを中心とした推進派がそれを凌駕しつつある。

再生可能エネルギーが拡大する一方、石炭火力の閉鎖が進み、ガス火力依存度が上昇したことで、エネルギー危機に直面した欧州。そんな状況下で巻き起こっているのが、原子力をグリーンな技術と認めるか否か、という論争だ。

EU(欧州連合)はここ数年、持続可能な経済活動を分類する「タクソノミー」の検討に注力している。タクソノミーは、EC(欧州委員会)が2019年末に発表した気候変動政策「欧州グリーンディール」の柱の一つで、持続可能な発展を後押しする資金誘導を狙った新たな金融手法だ。ここでの原子力の扱いが争点の一つとなっているのだ。

マクロン大統領の原発への積極発言が目立つ(提供:朝日新聞社)

当初、原子力については環境的な放射性物質の有害性を否定できないとして、持続可能な活動リストに含めない方針だった。リストから漏れた技術には、今後EU内で資金が集まらなくなることを意味する。だが、19年末に欧州議会とEU理事会が合意したタクソノミーの規則案では、「原子力は除外もしないし、組み入れもしない」と軌道修正した。原子力推進派の働きかけによるもので、その後の作業を通じて改めて扱いを判断することにした。

ECは今春、タクソノミーの詳細な「グリーン・リスト」を公表したものの、原子力の扱いは、同じく争点である天然ガスとともに今回も決着がつかず、リストに含まれなかった。リストの適用は来年1月1日からの予定だが、推進派、反対派各国からのロビー活動が盛んになり、決定が何カ月も遅れているのだ。


原子力はグリーンか否か EU内の政治的駆け引き激化

原子力が脱炭素電源であることは言わずもがなだが、EU内で意見が割れているのは核廃棄物の環境影響の評価だ。この点を検証したECの科学的専門機関のJRC(EU共同研究センター)は、原子力が太陽光や風力発電に比べて「健康や環境問題について悪影響が大きいことを示す指標はない」と結論付けたが、さらに二つの専門家グループが検討を続けている。

それを横目に、原子力推進派と反対派の対立が激化している。「タクソノミーについては本来技術的に判断すべき話だが、完全に政治的駆け引きになっている」(海外電力調査会調査第一部原子力グループ)。EU内の多数派は、フランスを筆頭にフィンランドやポーランド、ブルガリアなどの推進派だ。このうち10カ国が10月中旬、ガス価格の高騰を受け、脱炭素化には原子力が不可欠だとする声明を発表。「欧州は14カ国で原子炉126基を運転し、世界最高水準の信頼性と安全性を保障する能力を有し、廃棄物処理についても同様」だと強調した。

【特集1】運転延長に新増設・リプレース 原発復活への険しい道のり


原発比率20~22%とカーボンニュートラルの実現には政策の再構築が必須となる。カウントストップ、運転期間延長、新増設・リプレースといった具体策が待ったなしだ。

クリーンエネルギー戦略では、CO2排出のない大規模電源、原子力に大きな期待がかかる。原子力に課せられるミッションは、まずエネルギー基本計画で示された2030年の電源構成比20~22%(発電電力量1900~2000億kW時)の目標達成だ。

現在、30年に稼働が可能な原発は36基(新規制基準の審査未申請8基、建設中3基を含む)存在し、合計出力は3722万1000kW。仮に全基が40年の運転期間を20年延長し、稼働率8割で運転したとしよう。30年の発電電力量は約2600億kW時になり、目標を十分クリアできる水準になる。36基でなく、既に稼働中の原発に、審査に合格、あるいは審査中を加えた27基でも、2000億kW時は達成できる。

ただしこれはあくまで机上の計算であり、地元同意の行方や、司法リスク、また火山灰対策のような規制の「バックフィット」といった想定外の事象でふいになる可能性はある。

しかも、40年代に入ると原発は次々と60年の「寿命」を迎えていく(表参照)。50年までに止まる原発は13基で、合計出力は1185万7000kW、発電電力量は約831億kW時に上る。この分を再生可能エネルギーで賄うことは現実的ではないだろう。

各プラントの運転期間60年到達年

気候モデルでノーベル賞受賞 「政治」を嫌った真鍋氏の信念


ノーベル物理学賞の受賞が決まり、会見する真鍋氏(10月5日、米ニュージャージー州)

2021年のノーベル物理学賞を、米プリンストン大上席研究員で地球科学者の真鍋淑郎氏らが受賞することが決まった。地球温暖化を予測する気候モデルを開発した功績が評価された。

真鍋氏は1960年代に大気大循環モデルを世界に先駆けて構築し、特に1964年の「放射対流平衡モデル」は気象学のブレークスルーともいえる画期的論文と評価されている。こうした研究成果は、今日の多くの気候予測モデルの礎となっている。

アラスカ大時代に真鍋氏と親交があった田中博・筑波大教授は「ノーベル物理学賞に地球科学はないと思っていただけに、大変喜ばしいこと」と快挙を称える。真鍋氏は「筋金入りのサイエンティストであり、ポリティクス(政治的駆け引き)にねじ曲げられることを大変嫌っていた」(田中氏)。「考えよ」を常に自分に言い聞かせており、机の上に「考えよ」と記された盾が置いてあったことが印象的だったと振り返る。

気候変動を巡る現状はポリティクスがまん延しているといっても過言ではなく、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)と対立する見解の科学者には「懐疑論者」のレッテルが貼られている。

田中氏は「真鍋先生は『CO2が増えれば気温が上がるだろう』とサイエンスを語ってきた。しかし気候危機のような過激な主張が流布したのは、ポリティクスを優先する一部グループの仕業。温暖化議論を再度ポリティクスからサイエンスに戻し、見解の多様性を尊重しながら公正な立場で調べ直す必要がある」と提言する。

本誌ウェブサイトでは、真鍋氏に関する田中氏の寄稿全文を公開しています。

【特集1】エネルギー有識者3人が直言 新政権への期待と注文


「再エネ最優先」にまい進した菅政権から岸田政権へ。その方向性はどう変化するのか。新政権のエネルギー政策に何を望むのか、有識者の考えを聞いた。

左から澤田氏、橘川氏、山地氏

山地憲治/地球環境産業技術研究機構 理事長・研究所長

「成長と分配」への変化 リアリズムとバランスに期待


つくづく政治の世界は難しいと思う。事実や論理に基づいて進める研究の世界とは大きく異なり、政治は民意に沿わなければ存立基盤を失う。しかも民意は移ろいやすく、政治は短期間で結果責任が問われる。

民主主義の下では選挙で選ばれた政権が国家権力を担う。英国元首相ウィンストン・チャーチルの皮肉としてよく知られているが、「これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、民主主義は最悪の政治形態」という認識を、私も共有している。

多くのエネルギー関係者は、自民党総裁選で岸田文雄氏が選ばれたことにホッとしているだろう。しかし、過大な期待は持たない方が良い。エネルギー・環境問題は重要だが、さまざまな国家的課題の一つでしかない。私は、安倍・菅政権で繰り返されていた「成長(経済)と環境の好循環」というスローガンが、岸田政権になって「成長と分配の好循環」に変化したことに注目している。成長と環境の好循環は難しいことを美しく表現しただけと違和感があったが、成長と分配の好循環は現実的課題に対応していると思う。

岸田政権にはリアリズムを期待したい。「安全性を確認した原発の再稼働を進める」ことは世論の現状では妥当な方針である。リプレースや新増設、40年を超える長期運転などにも取り組んでほしいが、選挙前にこのような主張をすることは合理的とは思えない。

カーボンニュートラルの実現には「あらゆる選択肢を総動員する」という方針の下で、原子力の持続的活用を含めて、バランスよくエネルギー・環境政策を進めていただきたい。

バランスが取れた再エネ主力化政策に修正できるか

【北陸電力 松田社長】ゲームチェンジ見据えお客さまに喜ばれるソリューション提供へ


経営環境が厳しさを増す中での新体制発足。デジタル化社会の到来や脱炭素化の進展など社会構造の変化を捉え、事業領域の拡大を図り、さらなる成長に向けた戦略を模索する。

まつだ・こうじ
1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 直近で取締役を2年、また副社長を経験せずに社長に就任した初のケースと聞いています。今の経営環境をどう見ていますか。

松田 人口減少や少子高齢化が急速に進む中で、デジタル化への対応に加え、2050年カーボンニュートラルの実現や、30年のCO2削減目標の大幅引き上げなど、気候変動関連の変革は予想以上に激しく、私たちを取り巻く環境のゲームチェンジの気配を感じています。このような変化に直面している状況で、今回重責を担うことになり身の引き締まる思いです。そうした中、既存の電気事業をベースに電気事業の枠を超えて成長戦略をどう立てていくかが最重要課題です。

脱炭素化への挑戦 社の強みをフル活用

志賀 北陸電力の特色である水力発電の豊富さなど、自社の強みや弱みをどう捉えていますか。

松田 大きな強みである水力発電比率は全国平均1割程度に対し、当社比率は約3割を占めています。先人達が日本でも有数の急流河川をエネルギー資源とすることに苦心を重ねてきたおかげであり、気候変動問題を中心に脱炭素化への関心が高まるほど、この財産をしっかり生かしていく重要性が増していると思います。戦中・戦後の電力供給体制検討の際、当初案では北陸エリアは中部ブロックに属する構想でしたが、地域の後押しを受け、当社初代社長の山田昌作らが、北陸地域の気候・歴史・文化・風土は異なること、また、これまで努力し開発してきた電源を使って生活や産業が営まれ、北陸の経済圏は独立していることを力説し、北陸地域として独立することが認められました。こうした変化の時代こそ歴史の再認識が大切であり、今後の経営ビジョンにおいても地域を大切に思う気持ちをベースに、地域の課題解決に貢献し、地域とともに発展していくことが大事だと考えています。

志賀 カーボンニュートラルに取り組む中で、具体的に社の強みをどう発揮していきますか。

松田 近年、ゼロエミッションや再生可能エネルギー電気調達への関心やご要望が高まっており、エネルギー消費に関するニーズにもしっかりと応える必要があります。当社の財産である水力発電については、さらなる新設やリプレース、既存設備の改修に着実に取り組みます。さらに福井県あらわ沖での洋上風力発電、富山県朝日町での陸上風力発電の事業化をはじめとする再エネ開発に向けても積極的に動いていくなど、再エネ主力電源化に向けてはアクセルを相当踏まなければなりません。ただ、洋上風力は技術的、経済的な検討がまだ必要ですし、陸上風力や太陽光についても適地が減る中で土砂崩れリスクなどへの目配りも重要です。当社は30年度までに再エネ発電量を18年度対比で20億kW時増加させる目標を掲げています。うち、めどが立っているのは16.4億kW時です。目標達成に向けた取り組みを加速させるとともに、さらなる開発目標の拡大へ検討を進めていきます。

北陸電力グループ カーボンニュートラル達成に向けたロードマップ(概要)