もんじゅ廃炉が決定打となり、日本の核燃料サイクル政策は足踏み状態が続いている。世界では将来の高速炉市場を見据えた動きがある一方、日本はこのままで良いのか。

昨年の自民党総裁選を通じ、論点の一つとして核燃料サイクルが改めて耳目を集めた。政策の方向転換を訴える河野太郎氏の発言が波紋を広げた。結局、総裁選・衆院選を経て発足した岸田政権は従来方針を踏襲するが、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決定打となり暗礁に乗り上げた高速炉サイクルの開発は棚上げ状態が続く。
ウラン資源争奪戦時代へ 重要性増す高速炉サイクル
にもかかわらず、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料を軽水炉で使う軽水炉サイクル(プルサーマル)だけでなく、なぜ高速炉サイクルが必要なのか。その意義を再認識し、政策を前進させるべき局面を迎えている。
サイクルの重要な意義の一つが、ウラン資源の節約だ。軽水炉で発電に利用するのは、核分裂しやすいウラン235。ウラン鉱石に約0.7%含まれ、この濃度を3~5%まで高めて燃料集合体として使う。この使用済み燃料のうち、核分裂せずに残ったウラン235やウラン238、新たに発生したプルトニウム(Pu)239の計95~97%の資源が再利用可能になる。
今後ウラン資源争奪戦が激しさを増す中、資源節約の重要性はさらに高まる。経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)が2020年に発表した報告書によると、世界の原子力発電の規模は40年に6億2600万kWと18年の約1.6倍に、年間ウラン需要は40年に約10万tUと18年の約1.7倍へと増える。ウラン資源は有限ではあるものの、当面これらの需要を満たすのに十分な資源量は存在する。
ただし、「問題は価格だ。今世紀後半に世界全体の原子力設備容量が増加するので、必ずウラン価格が上がる。そのときに価格交渉能力を維持するには、天然ウランの新規購入を必要としない炉型が必要になる」(電力業界関係者)。プルサーマルでの資源節約効果は2割増し程度にしかならないとの試算もあり、新たな燃料調達が実質不要となる高速炉サイクルがやはり必要なのだ。
廃棄物処分量の減容化や、毒性の早期低下につながる面も大きい。使用済み燃料の直接処分での高レベル放射性廃棄物の体積は、再処理しガラス固化した場合の2.7~3.7倍との試算がある。また、発熱量や放射能毒性の継続期間も、直接処分の方が長期に及ぶ。ガラス固化体の主な核種はセシウムやストロンチウムなど半減期が比較的短いものだが、使用済み燃料には半減期が長期にわたるウランやプルトニウムがそのまま含まれるためだ。天然ウラン程度の毒性に減衰する期間は、直接処分では10万年にもなるのに対し、軽水炉サイクルでは約1万年。これが高速炉サイクルでは数百年程度とさらに短くて済む。
これらの点に加え、東京工業大学の齊藤正樹名誉教授は核不拡散の観点からの重要性を説く。「大量の使用済み燃料を処分する直接処分では、自然に(核兵器に使われる)Pu239の濃縮が進み、将来『プルトニウム鉱山』になり得る」と指摘。「プルトニウムの問題は『量』ではなく、核拡散抵抗性という『質』で考えるべきだ。現在は使用済み燃料に含まれるMA(マイナーアクチノイド)は処分する方針だが、これを軽水炉燃料に少量添加すると核兵器に使用できないPu238をつくり、核拡散抵抗性が増大する。さらに高速増殖炉のブランケットに添加すると、核拡散抵抗性の強いプルトニウムの増殖も可能。MAは全量回収しリサイクルすべきだ」と提案する。