ロシアへの経済制裁が激しさを増し、エネルギー供給網などで深刻な分断が起き始めている。第一次石油危機をも超える今回の事態をどう乗り切るべきか。専門家が激論を交わした。
【出席者】藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー、加藤 学/国際協力銀行地経学リスク対応担当特命審議役、大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表

―ロシアの侵攻開始以降、エネルギーを始め世界経済に多大な影響が出ています。
加藤 ウクライナ東部出身のゼレンスキー大統領は44歳で、NATO(北大西洋条約機構)加盟を公約に掲げ大統領となりました。一方、ロシアのプーチン大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領らは60代後半で、旧ソ連の良き時代に生まれた世代。両者の間にはジェネレーションギャップがあります。プーチン氏は、ウクライナが主権国家となり30年かけて国体をつくり上げてきたことを理解していませんでした。ゼレンスキー氏はなかなかNATO加盟の旗を降ろしませんでしたが、ようやく政治の現実を見極め始めています。一方、NATO側もこの間、ロシアを仮想敵国として振る舞い続けました。
大場 ウクライナの抵抗、西側の経済制裁の踏み込み方、それを受けてもロシアが意思を変えないことは双方に取って予想外でした。結果、戦闘が長期化し、経済的にも人的にも犠牲の我慢比べになってしまった。ロシアの意思をくじくためには、米国に続く石油禁輸くらいの強い制裁が必要ですが、西側にも相当の覚悟が求められます。また、ジェネレーションギャップは西側にもいえる問題です。ソ連崩壊時に行った経済制裁では、ソ連への石油掘削機の輸出を禁じ、サウジアラビアと協力して石油価格をつり下げ、ソ連の内部崩壊へ導きました。そのイメージが西側首脳の一部に根強かったのではないでしょうか。しかし今は中国から機材を買えるし、原油価格は高い状況です。
藤 欧米の経済制裁は苛烈です。SWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除は予想されていましたが、ロシア中央銀行が保有する米ドルとユーロの外貨準備凍結は想定外でした。ロシアの軍事侵攻同様、欧米の経済制裁についても度が過ぎているのではないかと危惧しています。
加藤 キエフの軍事侵攻があり得ると事前に語っていた数少ない一人、米安全保障シンクタンク・CANのマイケル・コフマン氏は、ロシアの軍事侵攻は数カ月かかると見ています。プーチン氏にも側近からこのままでは国が亡ぶという訴えがあれば、ウクライナのNATO非加盟を巡る合意が一定の落としどころになるのではないでしょうか。ただ、ウクライナ側はロシアへの吸収や国土の分割などはクリティカルな問題で受け入れられず、難しい交渉になります。
藤 2008年のグルジア紛争後の処理がモデルになると思います。ロシアは南オセチアとアブハジアを一方的に承認し、現在に至っています。クリミアとドネツク・ルガンスク州の扱いは、ロシアとウクライナの間で玉虫色の合意となるでしょう。そうした状況が続けば、ウクライナはNATOに加盟できません。
―泥沼状態を抜ければ、世界経済の明るい兆しが見え始めるでしょうか。
藤 今回実施された経済制裁は米国ランド研究所が19年に発案したプランがベースだと言われています。敵国に与える打撃という点では極めて効果的ですが、「返り血を浴びる」というマイナス面も甚大です。制裁が長期化すれば、世界経済システム全体が毀損するリスクが生ずると言わざるを得ません。
懸念される欧州の社会不安 もっとも不安視されるドイツ
加藤 今は地経学の時代で、米露が直接戦争できない中、西側の主な武器は経済制裁となります。一方のロシアも、西側の市場経済体制に参加し、国民が所得を増やしてきたからこそ、プーチン体制が支持されてきました。外貨準備高のうち3000億ドルの凍結はロシアも意表を突かれた措置。ただし、SWIFTでは、ロシアは欧州とのエネルギー取引があるため、イラン向け制裁のように全銀行を除外することは難しく、数行に限る方針としました。
そして今起きているのはエネルギーサプライチェーンの分断です。ロシア産資源の生産量の世界シェアは天然ガス17%、石油13%、石炭5%ですが、禁輸を表明した米国に続き、欧州のトレーダーもロシア産原油を敬遠し始めました。このままだと未曽有の世界的なエネルギー安保危機に陥ることもあり得ます。
大場 世界シェアは輸出量ベースではガス40%、石油20%、石炭20%となり、影響はさらに大きい。仮にドイツのメルケル政権が続いていたら、ここまでの事態にはならなかったでしょう。メルケル氏は、ノルドストリーム2の稼働を承認するなという米国の要求を突っぱね、米国の対ロ政策に完全には同意しませんでした。しかし2月22日にロシアが東部2州の独立を容認したことに反発し、ショルツ政権が承認停止を発表。戦火のきっかけをつくってしまった。
藤 私も同感です。メルケル氏が政界からの引退を決めていなかったら、昨年1月にウクライナのゼレンスキー大統領がミンスク合意の破棄を宣言し、これに反発したロシアが圧力をかけ始めた段階で、両国の仲介を行っていたはずです。昨年後半になっても欧州が動かなかったために「部外者」の米国が前面に出たことで、問題がミンスク合意からNATOの東方拡大にすり替わってしまったのです。
加藤 特に痛いのは欧州とロシア間の人的交流の断絶です。露国営石油会社ではロスネフチが英BPのルーニーCEOを、ザルべジネフチがフランスのフィヨン元首相を役員に迎えるなど、ビジネスの深い人的交流が欧露のエネルギー安全保障に寄与してきました。しかし彼らも批判を恐れていずれも辞任。結局、米国の石油・LNGの輸出に依存せざるを得なくなります。













