【特集1】「三条委員会」の弊害あらわ 審査効率化は政府の重要課題


政府からの独立を目指して設立された規制委だが、安全審査では「独善」に陥っている感が否めない。
GX脱炭素法の付則では審査の効率化が加えられ、原発の最大限活用に向け運営の在り方の見直しが必要だ。

井伊重之/産経新聞客員論説委員

原子力規制の在り方が問われている。日本国内では中国電力の島根原子力発電所2号機が運転を始め、昨年秋に再稼働した東北電力の女川原発2号機と合わせ、合計14基の原発が商業運転に入った。石破茂政権は第7次エネルギー基本計画で、再生可能エネルギーと並んで原発を最大限活用する方針を掲げたが、国内に残る33基全ての原発再稼働は審査の停滞が響いて先が見通せない。そこでは原子力規制委員会の硬直的な安全審査が大きな障害となっている。

規制委は国家行政組織法第三条が適用される「三条委員会」と呼ばれる組織で、政府から独立した組織運営が認められている。この三条委員会には公正取引委員会や運輸安全委員会などがあるが、特に規制委は東京電力の福島第一原発事故を受け、旧原子力安全・保安院を経済産業省から切り離して発足した経緯がある。それだけに規制委は「政府からの独立」を何より重視しており、ともすれば原発をなるべく再稼働させないような安全審査に取り組んできたとも批判されている。

もちろん原発の安全性を確保するためには、徹底した安全審査が不可欠である。しかし、規制委も日本の行政組織である限り、その安全審査には一定の合理性も確保されていなければならない。それを欠いたままでは、規制委の信用がかえって損なわれるだけでなく、安全審査を受ける事業者が株主をはじめとした自らのステークホルダー(利害関係者)に対し、説明ができないからだ。

【特集1】規制が厳しければ安全なのか 米国の検査制度から学ぶこと


米国の検査プロセスはかつて日本と同様の課題を抱え、制度改革が行われた。
リスク情報の活用や事業者との対話重視など日本が学ぶ点は多い。

近藤寛子/マトリクスK代表

「日本の原子力規制は世界で最も厳しい水準」と言われることがある。これは、地震や津波などの自然災害に備えた多層的な対策を求める基準が導入されているためだ。しかし、原子力規制委員会の更田豊志前委員長は「規制をクリアすれば安全というわけではなく、継続的な改善が必要」と指摘している。その通りだ。

実際に過去には「基準を満たせば絶対に安全」と説明されていた時代があり、これが「安全神話」と呼ばれた。安全神話が事故を防げなかったことは、福島第一原子力発電所事故が示している。

だからと言って、基準を厳しくすることだけが安全を確保する方法なのだろうか。本稿では米国の制度を参考にしながら、「良い規制」とは何かを考察してみよう。

検査が細分化しすぎた日本 米国を参考に制度改革

原子力規制には「審査」と「検査」の二つの柱がある。審査は施設の変更や新しい施設の設置において設計の安全性を評価するもので、運転開始前に行われる。一方、検査は設置されている施設を対象にし、設計通りに設置されているか、設備の劣化や異常がないか、事業者の安全管理が適切に行われているか、トラブル発生時の対応が適正かなどを確認する。更田氏が言うように、審査をクリアした施設が自動的に安全であり続けるわけではなく、運転中の施設を継続的に検査し、必要に応じて改善を求める仕組みこそ不可欠なのだ。

日本の検査制度は、福島事故後、米国の原子炉監督プロセス(ROP)を参考に制度設計された。ROPは米国原子力規制委員会(NRC)の使命である「公衆の健康と安全を確保すること」を目的とし、リスク情報を活用しながら発電所の安全性を評価する仕組みである。
ROPが導入される以前の米国の検査制度には、いくつかの課題があった。細かい規則の順守に重点を置きすぎる傾向があり、発電所の実際の安全性よりも、ルールを形の上で満たすことが優先されがちだったのだ。

こうした反省を踏まえ、ROPでは発電所の安全性を実効的に評価・監視するためのプロセスが開発された。リスクに応じた重点検査、パフォーマンス重視の検査、事業者との対話の重視、透明性の確保などが特徴だ。ROPは事業者の自主的な安全確保を促しながら、NRCと協力して安全性を向上させる制度として運用されている。国際原子力機関(IAEA)からも「模範的な検査活動」と評価されている。

日本でも2020年以前から保安検査などを実施している。だが発電所の事故やトラブルが発生する度に見直しが行われ、検査制度が細分化、複雑化していった。16年にはIAEAが「検査制度の簡素化が必要」と勧告しており、これを受けて検査制度改革が進められた。

検査制度導入に当たってはROPを参考にしつつ、日本に適用可能な形を模索した点が特徴である。事業者の間では、制度の導入に期待と不安が交錯していた。制度の趣旨が正しく反映されることを望む一方で、制度の変更が発電所の安全性に与える影響を懸念する声もあった。また制度の運用次第では「規制に従うこと」が目的化し、本来の目的である安全向上の意識が薄れる可能性も指摘されていた。

NRCの本部(メリーランド州)

【特集1】国民との意思疎通が肝要に 規制委の業務改善策を提起


日本が今後も原子力を活用するために規制委の存在は欠かせない。
より良い審査を実現するため、どのような変革が求められるのか。

巽 直樹アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター

第7次エネルギー基本計画では、「原子力依存度を可能な限り低減する」という従来の文言が外れ、次世代炉建て替えについては「廃炉を決定した事業者の敷地内建設」の道が開けた。インフラ整備には百年の計が必要だ。今世紀後半を見据え、核融合炉開発などへの理解も欠かせない。原子力の最大限活用に向け、国民とのコミュニケーション深化は、今すぐ始めても早過ぎはしない。

この点で原子力規制委員会が果たす役割は重要だ。高度な独立性を持つ三条委員会として再編され、孤高の存在となった感があるが、今後は国民の付託に応える必要性がより高まるのではないか。政府が原子力推進を後押しするにあたり、安全・安心に対する責任の前面に立てるのは、規制委をおいて他にはない。推進・反対の両派と距離を保ちつつ、政治が手を出しにくい領域に切り込める唯一無二の存在だからだ。

率先してデジタル化を 監視機関の設置を視野に

この期待に応えるには、人的・組織的リソースの強化が課題となる。新規制基準への適合性審査で待ち行列ができたことを考えると、申請ピーク時に柔軟な対応ができる体制構築も必要だ。

審査のスピードアップが度々望まれてきたため、処理能力拡大や効率性向上は最優先のテーマだ。産官学挙げて生成AIの活用が加速する中、新技術への取り組みも課題となる。米原子力規制委員会(NRC)は、AI活用について慎重姿勢を崩してはいない。国家機密につながる情報を取り扱うために当然であるが、規制委がモデルとした本家よりも先んじて導入することを制止するいわれはない。また、事業者に新技術活用を促すため、規制委が範を示すことも重要だ。膨大な時間を割く書類仕事などの業務量を減らすためには、官民協働によるデジタル技術導入の推進も一案だ。

行政手続法の標準処理期間(2年)が努力目標に過ぎなければ、安全サイドに立つ判断が審査を長引かせることは必然だ。しかし、この状況における国民への説明責任も問われる。こうした視点からは、NRCのように独立組織を監視する別の独立組織が必要ではないか。NRCには外部専門家の技術集団である原子炉安全諮問委員会や行政審判制度のための原子力安全許認可協議パネルなどがある。

これらの取り組みにより透明性を増すことで、国民とのコミュニケーションの質を高めることにつながると考える。

たつみ・なおき 信託銀行、電力会社、監査法人などを経て、現職。博士(経営学)。国際公共経済学会理事。4月から立命館大学ビジネススクール客員教授も兼務。

【特集1まとめ】原子力規制委の治外法権 国益を無視した独善と不合理


政府は第7次エネルギー基本計画で「原子力の最大限活用」を掲げたが、
東日本大震災後に再稼働を果たした原子力発電所は14基にとどまる。
適合性審査への申請から10年以上が経過したにもかかわらず、
いまだに多くのサイトが原子力規制委員会の審査中だ。
審査の合理性や進め方を巡っては見直しを求める声が根強い一方で、
規制委は「三条委員会」を盾に事実上〝聖域化〟しており、
政府側からは問題に触れにくいという弊害が生じている。
常識から逸脱した超長期審査の解消へ、規制の適正化は避けて通れない。
規制委の「治外法権」を巡る問題点と改善策を探った。

【アウトライン】規制委の“聖域化”はなぜ起きた? 審査体制の見直しが急務

【インタビュー】原子力再稼働は「極めて重要」知見の共有や人材の相互支援を

【レポート】「三条委員会」の弊害あらわ 審査効率化は政府の重要課題

【インタビュー】原子力「最大限活用」に向けて 規制のあるべき姿とは

【レポート】規制が厳しければ安全なのか 米国の検査制度から学ぶこと

【レポート】国民との意思疎通が肝要に 規制委の業務改善策を提起

【特集1まとめ】新生「第7次エネ基」の是非 亡国から興国への脱皮なるか


第6次エネルギー基本計画策定以降、地政学リスクやグリーン政策の弊害の顕在化、
さらにGX・DXに伴い電力需要は減少から急増傾向へ―と情勢は様変わりしている。
難しい連立方程式をどう解くのか。第7次議論に需要・供給両サイドの注目が集まる中、
政府案が示した答えはこれまでのアプローチの刷新、そして単一シナリオからの脱却だった。
第6次と比べバランスの取れた「現実路線」と、エネルギー業界の評価はおおむね前向きだが、エネルギー転換の難しさに直面する現場からはさまざまな声が挙がる。
果たして今回のエネ基は興国へとつながる道しるべとなるのか―。

【特集1】アプローチ刷新で議論百出 複数シナリオ化をどう読むか

【特集1】原子力を巡るブレーキを解除 現実路線に転換で合格点

【特集1】 「移行期」の難しさが随所で噴出 個別4分野の現在地を検証

【特集1】過去との対比で見える「原点回帰」GXビジョン登場で問われる役割

【特集1】産業・エネ政策を一体で最適設計 「日本が勝つ」シナリオに

【特集1】過去との対比で見える「原点回帰」GXビジョン登場で問われる役割


さまざまな着目点がある今エネ基だが、過去を総ざらいすると「原点回帰」が浮上する。
一方、GXビジョンにエネ基の内容が一部移管した面も。大場紀章氏が解説する。

大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表

昨年5月から総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会において14回にわたり審議・検討されてきた第7次エネルギー基本計画の素案が12月末に公開され、パブリックコメントにかけられた。改定案における最大の焦点の一つは、原子力政策に関する記述の変更である。まず、「原発依存度の低減」の文言は第5次、第6次と継続して記載されてきたが、今回の素案で削除。また、第4次以降言及がなかった新増設・リプレースに関して、「廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替え」を具体的に進めると記載された。

原子力政策については、既に2023年2月閣議決定の「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」において、「原子力の最大限活用」および「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え」などの大きな方針転換が行われていたが、今回の改定でさらに踏み込んだ内容になった。特に「建て替え」については「原発の敷地内」から「事業者のサイト内」に変わっただけで自由度が大幅に拡大するという〝霞が関文学〟の真骨頂のような表現となっている。とはいえ、やはり大元の方針転換はGX基本方針で定められていたわけで、必ずしもエネ基の議論が政策転換のドライバーになったとは言えないだろう。

個別数値があいまいに ボリュームは縮小へ

他にも変更された点は多岐にわたるが、筆者が注目したのは頁数の変化である。過去6回のエネ基は、改定ごとにほぼ一直線に頁数が増加してきたが、今回の改訂案は前回の128頁に比べて36%少ない82頁と大幅にボリュームが縮小し、内容的にもすっきりしたものとなっている(図)

ポイントは何の記述が減ったのかということになるが、注目すべき点の一つは、「エネルギー需給見通し」に関する記載(約4頁)がなくなったことである。第6次では、関連資料として「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」が同時に発表され、そこにある30年度の電源構成比やエネルギー源ごとの導入量、コストなどの「野心的な想定をおいた見通し」の数値がエネ基の本文にも盛り込まれた。結果、これが事実上の政府目標とみなされることになり、その実現可能性などについて注目が集まった。

しかし、今改定案ではバイオ燃料など一部を除き、そのような数値の記載がほとんどない。関連資料として「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」が公表されてはいるが、エネ基本文では全く言及がない。また今回の需給見通しでは、複数のシナリオによる幅のある数値となっているため、前回のようなエネルギー源ごとの個別目標とみなされるような数値はよりあいまいになっている。

第6次の印象が強いため、エネ基とは政府の数値目標を定めるものであるというイメージを持つ人が多いが、元々のエネ基は、エネルギー政策における諸課題を確認した上で政府が果たすべき役割の基本姿勢を示すものであり、初期の頃の計画では具体的な数値目標はほとんど示されていない。従って、今回の改定で頁数も内容も昔のエネ基に原点回帰したと言える。

また、「エネルギー需給見通し」とは、そもそも政府目標ではなく、実勢や政策を踏まえたなりゆきの値を示すことで、エネルギー安定供給へ向けた取り組みを促すという目的で作られてきたものである。エネ基と同時に発表する必要は必ずしもなく、前回や今回のような同時発表はむしろ例外的である。

                過去エネ基の頁数と内容の変遷

第4次以降に顕著 財政支援の記載が膨張

削減された項目は他にもあるが、頁数の減少に最も大きく寄与しているのは、第6次にあった「グリーン成長戦略」に関する記述(約17頁)がごっそりなくなったことである。「グリーン成長戦略」とは、2兆円のグリーンイノベーション(GI)基金を「成長が期待される14分野」に配分するというもので、第6次ではそれら14分野に対し年限付きの目標値を含む実行計画が詳細に述べられていた。

過去の第4次から第6次にかけてのエネ基ボリュームの増大要因の一つは、このような政府の財政支援を必要とする項目に関する記載が膨らんでいったからである。それを定量的に示しているのが、水素やアンモニアといった政府支援を必要とする項目に関する単語の出現頻度が、第4次から第6次にかけて急増大してきたことである(図)。そして、今改定案では頁数だけでなく、それらの単語の出現頻度も大幅に縮小した。「水素社会実現」や「水素ステーション」といった従来必ず盛り込まれた単語も姿を消した。

GI基金の事業は現在も継続しており、グリーン成長戦略がなくなったわけではないが、現在ではより包括的な産業政策であるGXに事実上統合され、支援項目や数値目標の多くは第7次エネ基素案と同時に策定された「GX2040ビジョン(案)」に盛り込まれている。同ビジョン案は47頁あるので、従来エネ基に盛り込まれていた内容の一部がこちらに移管されたと考えれば、単純にエネ基のボリュームが小さくなったというより、合わせるとむしろ増えたとさえ言える。

こうしてみると、今回の改定でエネ基は原点回帰した一方で、拡大し続けてきた役割がリセットされたとも言え、結果的にエネ基自体の役割は大きく後退したように思える。これからのエネ基のあるべき姿とは何なのだろうか。

おおば・のりあき 京都大学大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学。環境やエネルギー、交通、先端技術分野の調査研究を行う民間シンクタンクを経て2015年にフリーに転身。21年にポスト石油戦略研究所を設立。

【特集1】産業・エネ政策を一体で最適設計 「日本が勝つ」シナリオに


脱炭素社会を見据え、日本の産業はいかに国際競争力を高めていくのか。
兵頭誠之氏は、「日本が勝つ」シナリオを科学的、合理的根拠に基づき作り上げるべきだと訴える。

【インタビュー:兵頭誠之/住友商事会長・経済同友会エネルギー委員会委員長】

―第7次エネルギー基本計画とGX2040ビジョンの素案について、どう受け止めていますか。

兵頭 将来見通しに高い不確実性がある中、エネ基ではあらゆる脱炭素メニューの活用を追求し、カーボンニュートラル(CN)を実現していくこと、GX2040ビジョンではエネルギー政策と産業政策を一体的に遂行していくことが示されました。経済同友会として、この基本的な方向性に賛同します。
 

再生可能エネルギーの利用において非常に不利でありながら、産業・社会の再構築を実現しなければならないことが今、日本が抱えている本質的な課題です。産業政策と社会行動変容、そしてエネルギー政策は一体であり、パッケージで考えなければ最適な設計にはなり得ません。日本特有の事情を科学的、合理的に分析しつつ、既存の社会資本をできるだけ有効活用し、諸外国よりも効率性の高いシステムを構築するためのエネルギー転換プロセスを描けるか―。日本の知恵の出しどころです。

―相当な紆余曲折をたどることになりそうです。

兵頭 世界最高水準のS+3E(安全性、経済効率性、安定性、環境適合性)、かつCNを手にする手段としてさまざまな脱炭素メニューの選択肢を持つ必要があります。イノベーションの進展によって、選択するべきメニュー、社会インフラの構築の在り方は大きく変わりますので、今決めつけることはできません。社会・エネルギー・産業システムをどのように作り上げていくのか。確かにコンセンサスの形成は困難ですが、社会、一般消費者、産業界それぞれの利益代表者と行政との間で対話を重ねることが重要だと考えています。

―産業構造は大きく変わるのでしょうか。

兵頭 海外から化石燃料以外の燃料を輸入し、既存の産業構造を維持したまま国内産業が世界に冠たるものとして生き残れる保証はありません。全体最適を考慮すれば、グリーン水素・アンモニアの製造国で産業バリューチェーンを構築することも含めて、どのような選択肢があるか検討する必要があります。産業構造は政府の指示で決まるものではなく、競争原理や個社の戦略立案の下、産業界自ら改革していくことになります。

―政策に求めることは。

兵頭 行政の役割は、画一的な方針で投資行動を促すことではありません。財政負担を伴う補助金政策などは最小限にとどめるべきです。行政の本来の役割はルールづくりにあります。国際競争力に優れる民間の脱炭素投資と、グリーン価値創造投資行動を促す評価と報酬(グリーンプレミアムまたは炭素税)のメカニズムと市場ルールの形成を早急に進めていただきたい。それでこそ、産業界は質の高い投資行動を選択し、優先順位を付けながら規律ある投資実行を継続することができます。

ひょうどう・まさゆき 1984年京都大学大学院卒、住友商事入社。2018年代表取締役社長執行役員CEO、24年4月から現職。23年4月経済同友会エネルギー委員会委員長。

【特集1】 「移行期」の難しさが随所で噴出 個別4分野の現在地を検証


1.5℃に向けた課題認識はエネ基で触れているが、実際の政策は今後の議論に委ねることになる。
洋上風力、原子力、火力、次世代燃料の4分野で、それぞれの足元の課題を探った。

検証1 洋上風力発電 採算ラインクリアなるか

前回、主力電源に躍り出た再生可能エネルギー。第7次でも、原子力と並び最大限活用すべき脱炭素電源として主力化路線を維持。需給見通しでは、再エネはさらに野心的に2040年度4~5割、発電電力量で4400億~6000億kW時もの規模となる。ただ、23年度の速報値は22・9%にとどまる。

とりわけ「切り札」とされるのが洋上風力だ。当面の目標は30年10 GW(1GW=100万kW)、40年は浮体式を含め30~45 GWだが、これらはあくまで認定ベース。以前から掲げる目標でもあり、今回引き上げはしなかった。それでも、難易度は相当高い。ENEOSリニューアブル・エナジー(ERE)の浜中淳一・経営戦略部長は、30年認定で仮に政府公募がラウンド8(R8)までとすれば、「R3までで約4・5GWであり、政府主導の海域準備が順調に進み、残り4~5回で5・5GW、1回当たり1GW超ペースで行かないと10 GW目標が達成できない」と指摘する。ただ、一部では着床式の入札は残り数回との見方も。さらに40年に向けては排他的経済水域(EEZ)の活用も含めて浮体式のスピードアップが必須となる。

世界ではプロジェクトの中断・撤退が相次ぐ。ロシア・ウクライナ戦争以降のインフレの影響でコストが急上昇し、政治的理由で経済の分断が進み、サプライチェーンがうまく作れないといった事情からだ。JERAは、「風車は4年前と比較して1・5~1・8倍までコストが上昇。こうした中で急激に脱炭素化を進めてしまうと、欧州で見られるように一気に生産拠点の海外移転や産業空洞化につながる恐れがある」と説明する。また、欧州では電気料金が日本の倍程度高いため再エネなどのコスト上昇も一定程度受け入れられると指摘。日本とはマーケット水準の価格が全く異なってきているのだ。

国内に目を向けると、これまで政府公募を落札してきた事業者はどこも最終投資決定(FID)に至っていない。特にR2ではルール変更で「迅速性」が評価されるようになり、中でも秋田県潟上市沖でJERAが代表を務める陣営は28年6月末運開と最も早い計画を示し、トップでFIDを行うはずの案件として動向が注目される。また、秋田県八峰・能代沖を落札したEREは「現時点で大きな計画変更はないが、コスト増の影響はある。部材調達や、公募時点の想定より上昇したコストをどう工夫するかは、業界共通の課題だ」(浜中氏)と強調する。

そこで資源エネルギー庁と国土交通省は、電源投資完遂に向けた制度の在り方を昨年11月に提示した。例えば、資本費に占める割合の大きい費目について物価指数を考慮し、物価変動率40%を上限とする「価格調整スキーム」を導入。また価格点を巡り、FIP(市場連動買い取り)基準価格を1kW時3円の「ゼロプレミアム」で札入れしなかった場合でも、今までほど決定的な点差がつかないようにする方針だ。これらは基本的にR4以降のリスク緩和のため。価格調整は一定の条件を満たせばR3までの事業者にも適用される見込みだが、新制度適用後の将来の物価変動のみで、それまでに生じた部分は対象外だ。

もっとも苦しい立場なのが、R1で3海域を総取りした三菱商事の陣営だろう。R2以降はFIPとなり、ゼロプレミアムで札入れし需要家とのPPA(電力販売契約)が収益のメインだ。一方、R1はFIT(固定価格買い取り)で、商事は11・99~16・49円という衝撃価格で落札。PPAも活用するとされるが、FITの買取価格に依存するところが大きい。価格調整は先述のような条件となり、大した上乗せとはならない。

いずれにせよ事業者はFIDに向けて、公募ルールの範囲で最大限工夫し、採算ラインをクリアしなければならない。EPC(設計・調達・施工)事業者に対しては発注内容の面でコストをどれだけ下げられるか。その上で、需要家とのPPA価格について、上振れをどこまで受け入れてもらえるか、という交渉が待ち受ける。浜中氏は「どちらも大きな課題。スケジュールもタイトだが、自社での工夫に加え、各所との交渉に励み解決していく」と語る。

洋上風力はインフレの荒波をどう超えていくのか

【特集1】原子力を巡るブレーキを解除 現実路線に転換で合格点


少数与党となった中、自民党はエネ基の議論にどのような姿勢で臨んだのか。
かつて経済産業副大臣を務め、今回は党内議論をまとめた山際大志郎衆議院議員に聞いた。

【インタビュー:山際 大志郎/自民党 総合エネルギー戦略調査会幹事長】

─第7次エネルギー基本計画のポイントを教えてください。

山際 前回のエネ基の策定以降、ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争激化など大きく変わったファンダメンタルズ(経済の基礎条件)を踏まえ、現実的かつ柔軟な計画にする必要がありました。脱炭素やエネルギー安全保障、トランプ政権の誕生などさまざまな要因が絡む中で複雑な連立方程式を解かなければならず、電源構成は幅を持った数値になっています。

─どう評価しますか

山際 前回のエネ基と比較すると、「現実路線に戻した計画」として合格点が与えられるのではないでしょうか。
 原子力に関しては「依存度を可能な限り低減する」という文言を削除し、次世代炉への建て替えについては「廃炉を決定した事業者のサイト内」で具体化を進める方針を示しました。今まで掛かっていたブレーキを外し、政府が再稼働や建て替えを進める姿勢を打ち出したことは評価できます。

党内意見に変化 国民一丸で計画実現を

─自民党内ではどのような議論がありましたか。

山際 党内で原子力に関してネガティブなことを言う人はいなくなりました。またカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーを増やす必要があるという点でも一致しています。ただ原発なら最終処分場や避難道路の整備、再エネなら乱開発や太陽光パネルの廃棄問題、洋上風力建設の資材高騰などの課題に手当てを行っていく必要があります。計画の実現には政府や民間事業者、需要側の取り組みが不可欠で、国民が一丸となって努力するしかありません。

─昨年の衆院選では自民党内で原子力政策に力を入れていた議員の落選が目立ちました。その影響はありましたか。

山際 エネルギー政策について強い責任感とバランス感覚を持つ彼らが、エネ基の議論に参加できなかったことは大きな痛手でした。ただ、だからといってエネ基に悪い影響を与えたわけではありません。われわれを通じて彼らの意見もしっかりと取り入れられています。

─公明党は「将来的に原発に依存しない社会を目指す」との方針を掲げていますが、「可能な限り低減」の削除などを認めました。

山際 他党の話ですから詳しくは分かりませんが、将来的に電力が足りなくなり、それが経済成長を阻害してはならないという観点から現実的な判断をされたのだと思います。
─国民民主党についてはいかがですか。年末にエネ基に関する要請を政府に提出しました。
山際 要請書を読みましたが、書かれていた内容は賛同する点が多いです。多くがエネ基に反映されていると思います。

やまぎわ・だいしろう 1968年東京都生まれ。99年東大大学院農学生命科学研究科博士課程修了。2003年衆院選で初当選。経済産業副大臣などを歴任。当選7回。

【特集1】アプローチ刷新で議論百出 複数シナリオ化をどう読むか


「積み上げ」から「バックキャスト」に転換した第7次はエネ基のターニングポイントになったと言える。
複数シナリオに基づく需給見通し、そしてプランBの「リスクシナリオ」にさまざまな受け止めが出ている。

「安全保障などの言葉は並ぶが、定量的なことは何も書かれていない」「『リスクシナリオ』がエネ基を意味のないものにした」―。昨年末に示された第7次エネルギー基本計画案を巡ってはまさに議論百出で、各所の関心の高さがうかがえる。エネルギー業界からは歓迎の声が目立つ中、冒頭のように否定的な声もちらほら。それは3年ぶりの改定というだけでなく、アプローチが刷新されたことによる部分が大きい。

エネルギー政策でCO2問題が重視されるようになって以降、政府は対策の積み上げでエネルギー需給見通しを示してきた。しかし今回は、CO2削減割合を「1・5℃目標」の経路に沿った2040年度13年度比70%程度減とピン止めし、バックキャストで導いた。グリーンに振れ、荒業で需要を低く抑えてまで無理な単一シナリオを描いた第6次の反省が、スタートラインとなっている。

               図1 エネルギー需給見通しのイメージ

第6次の反省が起点 強調されたキーワードは

今回強調されたのが、「第6次以降の状況変化」「産業競争力の向上」「コスト上昇の最大限抑制」「投資回収の予見性」といったキーワードだ。

ロシア・ウクライナ戦争の勃発や中東情勢の緊迫化などを受け、今回、安全性が大前提である点は不変ながら、3Eでは「安定供給を第一」と修正。その上で「経済合理的な対策から優先的に講じる」などコストに関する記述が随所で登場する。

需要側の変化も大きい。データセンターや半導体製造、エネルギー多消費産業などで電力需要の増加が見込まれる中、「脱炭素電源の確保が産業競争力に直結する」と強調する。再生可能エネルギーか原子力かの二項対立を脱し、脱炭素電源への投資回収の予見性を高め、新規投資の促進やファイナンス環境の整備の必要性を打ち出した。

また、エネ基や地球温暖化対策計画と併せて、産業構造や産業立地などの方向性を示す「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」案を策定。23年7月閣議決定のGX推進戦略を改訂し、分野別投資戦略も上書きした格好だ。

隠れがちなポイントとして、実は今回の需給見通しから省エネ量の記載がなくなった。カーボンニュートラル(CN)に向けては電化や非化石転換が一層重要になるためで、こうした視点で既に省エネ法は改正済みだ。

もろもろの視点を満たしつつ、1・5℃の経路に沿った絵姿を積み上げで描くことはもはや不可能だった。ただ、欧米ではNDC(温暖化ガス削減の国別目標)とエネ政策は必ずしも合致せず。日本の手法こそ例外的で、アプローチの転換はむしろ国際標準に近づいたともいえる。
そのアウトプットとして、複数シナリオを基にした需給見通しの概要は図の通りだ。将来の技術動向などさまざまな不確実性を念頭に、各項目の数字に幅を持たせた。40年度の温暖化ガス削減割合は13年度比73%とし、省エネや非化石転換を進めることで最終エネルギー消費量は1~2割減る一方、発電電力量は1~2割増加へ。電源構成では、再エネは4~5割、原子力は2割程度を目指す。一方、火力は3~4割程度とし、内訳は示さず。水素・アンモニアの数字も姿を消した。

特筆すべきは、需給見通しとは別途、脱炭素技術のコスト低減が十分進まず既存技術を中心とするケース、いわゆる「リスクシナリオ」を示した点だ。最終エネ消費量や発電電力量は需給見通しと大きな差はないが、電源構成では再エネ4割弱、原子力2割、火力4割強となる。LNGの長期契約を含め安定供給の確保を万全にすることが重要だとし、LNG需要見通しを7400万t程度と記した。この場合、CO2削減は61%程度にとどまり、1・5℃の経路には乗らない。

排出削減コストはどうか。需給見通しではCO21t当たり300~470ドル程度で、欧米より高くなるシナリオもある。他方、リスクシナリオでは1・5℃相当の中位置的な炭素価格として257ドル、欧米などと一律の想定とした。

資源エネルギー庁の小高篤志・戦略企画室長は「今回は手法が前例踏襲でなく、エネルギーミックスの数字をどう導くか。また、シナリオ分析の内容を世の中にどう分かりやすく伝えるかという点に腐心した」と振り返る。需給見通しの策定に当たり6機関にシナリオ分析を依頼。①コスト最適化の考え方に基づいていること、②最大限の経済成長を目指すこと、③海外との相対的なエネルギー価格差を踏まえた評価が可能なこと―という要素を備えた地球環境産業技術研究機構(RITE)の分析を軸に、数字を大くくり化して最終的な方向性とした。

             図2 シナリオ別の最終エネルギー消費量と電力供給

【特集2】都がカーボン半減へ施策推進 住宅向け対策のサポートに力


脱炭素支援の一環で蓄電池の導入を後押ししている。
電気代の節約や防災にもつながる都の支援策に迫った。

【インタビュー】東條 左絵子(東京都環境局気候変動対策部家庭エネルギー対策課長)

―都は2050年にCO2排出実質ゼロに貢献すると宣言し、「カーボンハーフ」という目標を掲げました。その一環で、家庭向けの施策を強化しています。

東條 カーボンハーフは、2030年までに温暖化ガス排出量を50%削減(2000年比)することを目指す取り組みです。その実現に向けて喫緊の課題となっているのが、都内全体のCO2排出量の約3割を占める家庭部門の排出量の削減です。産業部門や運輸部門のCO2排出量が減少傾向にあるのに対して、家庭部門では22年度の排出量が2000年度比で2割以上増加していました。こうした中、家庭における太陽光発電由来の電気の自家消費量の増大や非常時のエネルギー自立性の向上を目的として、家庭における蓄電池導入促進事業を実施しています。

―蓄電池導入促進事業の内容について教えてください。

東條 蓄電池設置に係る費用の4分の3を補助しています。以前の事業では費用の2分の1を補助する形でしたが、23年1月末から現行の補助率に引き上げました。国や区市町村の補助金との併用が可能で、DR(デマンドレスポンス)の実証に参加した場合には10万円の上乗せ補助を受け取ることができるため、さらなる自己負担の低減が見込めます。また、補助の申込みから蓄電池の設置までが複数年度にわたる場合でも、支援が可能となっています。補助の対象となるのは、「SII」(環境共創イニシアチブ)に登録された未使用の蓄電池を都内住宅に新規に設置する場合です。また、補助金の申込みから1年以内に機器設置に係る報告書を提出する必要があるほか、6年間の処分制限期間内に機器の取り外しや目的外使用などを行った場合は、補助金の返還が必要となります。

―住宅部門との連携も重視しています。

東條 既存住宅への機器設置に際して必要となる住宅診断や改装前の点検などは、住宅関連分野における政策管理を担う住宅政策本部の調査データを基に行います。ほかにも、承認機種の選定を共同で行うなど、住宅の脱炭素化に向けた連携体制も整えています。

―都民に対して、どのような啓発活動を進めていきたいと考えていますか。

東條 蓄電池設置によるメリットをより多くの都民に認識してもらえるよう、太陽光発電装置と併せて設置することで、日々の光熱費の削減につながることや災害時にも電気が使用できることなどを継続してPRしていきたいと考えています。

とうじょう・さえこ(東京都環境局気候変動対策部家庭エネルギー対策課長)

【特集2】新たな通勤スタイルを検証 CO2量削減にもつなげる


【テス・エンジニアリング】

テス・エンジニアリングはコージェネレーションや天然ガスへの燃料転換の促進にとどまらず、再生可能エネルギー電源の導入からコスト対策の提案まで手掛ける総合的なソリューションを提供している。そんな同社が、培った技術や経験を土台に追求する分野が「EVの蓄電池化」だ。

そうした取り組みの一環で、椿本チエインと共同で「通勤用EVを活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実証実験」を開始。同社は埼玉工場(埼玉県飯能市)に自社製V2X(ビークル・ツー・エックス)対応の充放電装置「eLINK」を4台設置し、従業員の通勤用EVに充放電を行う試みに着手した。

テス・エンジニアリング電力需給本部電力需給グループEVプロジェクトチームの武智貴信チーム長は「EVが蓄電池として機能するようになれば、余剰電力の有効活用や出力制御率の低減を実現することができる」と強調。得意のEMS(エネルギーマネジメントシステム)を生かすことにも意欲を示した。

「eLINK」を用いて充電する

【特集2まとめ】 拡大する蓄電池ビジネス 再エネ有効利用の切り札へ


再生可能エネルギーの大量導入に必要不可欠な調整力―。
そんな役割を担う蓄電池を生かす舞台が家庭と産業分野で拡大中だ。
太陽光発電などの再エネ設備と連携し自家消費を促す展開が加速。
電力コスト削減やピーク時の電力消費を抑え込む効果に注目が集まる。
EVに蓄えた電力を暮らしや災害時に融通する技術も進歩する。
革新的電池ビジネスの育成を目指すエネ業界の最新動向に迫った。

【レポート】充放電用途が家庭から産業へ拡大 社会課題解決の切り札として有望視

【レポート】九州エリアで相次ぎ本格運転へ 最適運用で利益獲得を目指す

【レポート】関西と九州で25年上期に始動 電力取引の実績と知見を生かす

【レポート】創業の地にマイクログリッド構築 有事の際もエネ安定供給を実現

【レポート】太陽光発電とリチウムイオン連携 オンサイトで電力無駄なく活用

【レポート】工場内で革新的エネ利用を促進 ガス関連子会社と強力タッグ

【レポート】新たな通勤スタイルを検証 CO2量削減にもつなげる

【インタビュー】都がカーボン半減へ施策推進 住宅向け対策のサポートに力

【トピックス】新商材で高付加価値ニーズに対応 顧客メリットの最大化を目指す

【特集2】日本の事情を踏まえた製品を拡販 海外市場の開拓も見据えて挑む


創業4年目を機に蓄電池事業に弾みをつけている。
輸送のしやすさやコストの優位性が大きな武器だ。

【パワーX】

「自然エネルギーの爆発的普及を実現する」をミッションに掲げるパワーエックス(パワーX)は、創業4年目を迎えた。2023年10月に産業用蓄電池の量産を開始し、第1号製品をセンコーグループの物流倉庫(宮崎県都城市)に設置してから1年が過ぎた。

25年に販売を始めるのが「メガパワーJP」だ。「JP」は日本のことで、国内の系統用特高蓄電所がターゲット。系統用蓄電池はグローバル製品が大半で、広い道路を通って広大なスペースに設置する前提で製造していることが多い。そうした製品を道が狭く入り組み、用地が限られた日本に設置することは難しい。そこで、多くの日本企業からの相談を踏まえて開発した同製品は、10フィートコンテナで重量も25tと軽量だ。水冷モジュールを搭載し、従来品の1.8倍のエネルギー密度を実現した。

利用者目線で小型・軽量化 設置場所の選択肢が増える

メリットは、第1にコンテナを置く面積が従来品の最大40%にまで削減でき、より小さな土地で蓄電所を運開できること。その結果、設置可能な場所の選択肢が増える。第2が、蓄電池を小型・軽量化して輸送できるエリアを大幅に拡大したことだ。従来品は大型のため、けん引には長い三軸トレーラーを使う必要があり、カーブを曲がりきれないなどの問題があった。また重量の関係で、坂道を登れない、あるいは渡れない橋もあった。また、そのような特別車両の通行には道路管理者の通行許可が必要であり、手配に1カ月以上かかるため、すぐには蓄電池を設置できないというデメリットもあった。メガパワーJPであれば、日本の地方に多い幅6mの道路のカーブや交差点、高速道路も通行可能で、通行申請が必要な場合でも従来より短期間で許可が下りるなど、輸送スピードやコストの面で大幅に改良された。

事業企画推進部の春日章治シニアマネージャーは「今年はいよいよ飛躍の年。国外初出荷も実現させ、当社の蓄電池で、最近元気がないと言われる日本の製造業を元気にするきっかけにしたい」と意気込む。日本での展開の先には海外進出を見据えている。今後も同社の動向から目が離せない。

直流電圧に対応する「メガパワーJP」
提供:パワーX