<エネルギー人編> 電力・石油・ガス
東京電力がALPS処理水の海洋放出を開始した。
中国による嫌がらせ行為を日本国民はどう受け取ったか。
─迷惑電話などの嫌がらせ行為はマスコミの格好のネタになった。
ガス テレビを見ていると、漁業者の不安の声や嫌がらせの内容にフォーカスした報道が目立つ。いわゆる社会面的な報じ方だが、こうした報道が風評被害を増長させていないか。処理水放出の安全性や福島県へのふるさと納税額の急増、放出前と変わらず営業している飲食店なども積極的に取り上げるべきだ。
石油 ニュース番組では、最後の株価·為替情報と同じ扱いで淡々と「今日のトリチウム濃度」を伝えたらいい。原発事故直後、漁業者や農家は水産・農産物から基準値超えの放射性物質が検出された時だけニュースになるので困ると言っていた。彼らにとっては「安全」であることにニュースバリューがある。
電力 そもそも、処理水関連のニュースを大々的に報じる必要性があるのか。漁業者の苦悩はあれど、一般国民の生活にはほとんど影響しない。風評被害を増やすだけなら、報道しない方がマシだ。
「仮想敵」となった日本 習近平の異様な経済観
─外交問題になり、朝日や毎日は「対話」の重要性を説いた。
石油 理解する気がない相手と対話するのは時間の無駄だ。新聞がうわべの中国批判を繰り返す中、『ニューズウィーク』(9月12日号)の「処理水で中国が日本をたたく本当の理由」にはうなった。書いたのは香港生まれの経済学者リアン・イーゼン氏。
「共産党支配が始まった当初は地主が『人民の敵』としてサンドバッグになった。その後は『資本主義に走る特権的官僚』のレッテルを貼られた鄧小平ら『走資派』がその役目を果たし、鄧の時代、そして今の習近平時代には、『小日本』がたたかれることとなった」
共産党政権の歴史を振り返りながら、「反日」の根源を突き詰める重層的な内容だった。不動産バブル崩壊などの国内問題から国民の目を逸らすため、日本を「仮想敵」につるし上げたのだろう。
ガス 一連の対応は、日本人に中国と付き合う危険性を知らしめた。3月にはアステラス製薬の幹部が「スパイ容疑」で拘束され、今も5人の日本人が帰国できずにいる。中国経済の先行きは暗く、市場としての魅力もかつてほどではなくなった。
電力 中国は鄧小平以降、自由主義経済を取り入れて経済発展したが、習近平の経済観とは相容れないようだ。彼は欧米流の経済成長は浪費が多く「贅肉的」だとして批判的な立場に立つ。そして、消費主導ではなく「筋肉質」な技術大国にすると意気込んでいる。その「哲学」を裏付けるように、党機関紙『求是』によると8月16日の演説で、消費を促す景気刺激策は避け「忍耐」を促すと語ったという。
石油 実際に地方では、誕生日パーティや新築祝いが禁止というから驚きだ。
電力 そういう「ぜいたく」こそ経済成長につながるのだが……。倹約の奨励など前時代的な発想だ。日本が江戸の三代改革で失敗しているではないか。
ガス 習近平が経済オンチであることは間違いない。ただ党内政治にはめっぽう強く、権力闘争に勝利した習近平は3月、任期制限を撤廃した。彼がトップにいる限り、中国経済は危ういが、大躍進政策で大失敗した毛沢東をあがめるのが中国共産党だ。民主主義国と違い、経済的な失政は党内の権力争いには直結しない。
総選挙につながるシナリオ 補助金継続でいいのか
─処理水放出前には経済産業省が漁業者との折衝を繰り返し、最後は岸田文雄首相が政治決断を下した。
電力 経産省の粘り強い交渉と、岸田首相が「夏ごろ」という放出予定時期を守ったことは評価されるべきだ。
石油 日本政府にとっては、結果的に中国による強硬措置がプラスに働いた面もある。野党も中国を批判せざる得ず、政府批判はトーンダウンした。
ガス 中国が日本バッシングを始め、日本国民が一致団結。政権批判は沈静化―。政権がこうした流れを想定していたのなら恐ろしい。文春報道で騒がれていた裏で、木原誠二前官房副長官がシナリオを練っていたりして(笑)。
石油 そのシナリオには先がある。臨時国会で物価高に対応する経済対策を打ち出し、秋に解散総選挙―。早ければ「10月末解散」という噂も聞こえる。
─物価高対策には激変緩和措置の長期化など批判的な声も。
電力 岸田首相は植田和男日銀総裁と歩調を合わせているのだろう。植田総裁は就任就任前の日経(2022年7月6日)の「経済教室」で、食料·エネルギー価格の上昇など円安による悪影響には、「財政」による対応が適当と書いている。今年8月22日に岸田・植田両者は面会したが、こうした見方を共有したはずだ。
ガス 日米の金利差による円安はメリットの方が大きく、金融政策では対処しないということだ。イールドカーブ・コントロール(YCC)の修正で金融緩和の「出口論」が盛んだが、しばらくは継続されるだろう。
石油 そもそも植田総裁はかねてから、金融緩和の継続は必要だが、長期金利をコントロールするYCCには疑問を投げかけていた。金融緩和の「出口」には、任期(5年)をかけてゆっくりと向かうはずだ。
電力 物価高対策は企業や家計の負担軽減のために意義がある。ただ植田総裁は「経済教室」で「低所得層への所得支援を中心とする対応が適切」と書いていた。
─補助金以外の方法も「検討」してほしい。