東京電力福島第一原子力発電所で発生する、トリチウムなど核種を含んだ処理水の処分方法を巡り議論がなされる中、自民党の山本拓衆院議員が処理水の海洋放出に猛反対を続けている。主な理由は、①フランジ型タンクから溶接型タンクに置き換えた際の跡地を有効活用すれば貯蔵期間を2024年秋まで延ばすことができる、②処理水を再度ALPSでろ過しても基準値を超える濃度のものがある、③処理水を放出すれば長期間にわたり福島県に風評被害が蔓延する――の3点。自身のウェブサイトなどで繰り返し主張しているものだ。これに対し、資源エネルギー庁はどのように考えているのか。原子力発電所事故収束対応室を取材した。
まず、①について、奥田修司室長は「タンクをフランジ型から溶接型に建て替えることでスペースは確かに生じる。しかし、廃炉を進めるうえで必要な建物などを作らなければならないため、その空いたスペース全てを新たなタンクの建設に回すことはできない」と話す。廃炉全体のスケジュールを考えると、これ以上のタンク建設は難しいとの見解だ。
②についても、奥田室長は「二次処理を行っても基準値を超えている場合は、基準値以下になるまで三次処理、四次処理を行う考えだ」と指摘。少なくともトリチウムに関しては、国際原子力機関(IAEA)でも安全性が保証されており、世界各国の原子力発電所から放出が行われている。また、政府が軸とする処理水の海洋放出、水蒸気放出の2案ついて、IAEAは「処分方法が技術的にも実行可能で、国際的な慣例にも沿っていると考える」(グロッシー事務局長)とコメントをしており、放出にあたってIAEAが放射線モニタリングの実施や科学的な根拠に基づいた情報発信を行うなど、支援する意向を示している。その他核種についても基準濃度値になるまで再処理を行うのであれば安全性は保障されるといえよう。
その一方で、やっかいなのが③だ。奥田室長は「処理水の性状については専用のHPを開設し広く理解を得ようと取り組んでいる。地元関係者に向けた会合も、大小含めて過去数百回にわたって開催している」と話すが、現実のハードルは高い。今年2月に専門委員会が提出した報告書を見ると、風評被害対策について「農林水産物のモニタリング測定結果を分かりやすく発信、福島県産品棚の拡充、TV、ラジオ、ウェブ、SNSなどとのメディアミックスや、海外向けコンテンツの拡充、インフルエンサーを活用したホープツーリズム」など、さまざまな取り組みを挙げている。だが、これらの対策について「抜本的な解決策にはならない」との批判も付きまとう
実際のところ、海洋放出で最大の被害を受ける可能性のある、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は海洋放出に反対する決議を全会一致で可決したほか、福島、茨城、宮城の漁協も全面的に反対する姿勢を取り続けている。政府としては、風評被害対策に取り組む姿勢は見せているものの、地元関係者の同意を全く得られていないのが実情だ。
政府部内からは処理水問題について「9合目まで差し掛かっている」との評価が聞こえる。ある国会議員は「自民党内も山本議員以外は、海洋放出を容認する声が多数を占めており、漁連とのつながりも深い水産部会も同様だ」と強調する。菅義偉首相も総裁選の最中に「処理水問題は次の政権で結論を出す」と語るなど、問題解決の兆しは見え始めている。
山本議員は11月11日に政府関係者を伴って1F視察を行い、汚染水対策や処理水問題について説明を受けたそうだが、処理水問題に対しては「処理水の海洋放出しか選択肢がないという東京電力の主張は、正しくありません」と納得していない様子だ。
海洋放出への外堀が埋められる中、懸念を示す関係者との合意、つまり風評問題の解決という最後の「1合」を政府がどう乗り越えるのか。最終決着までの期限は刻一刻と迫りつつある。