A 21年のエネルギーに関わる最も大きな話題は低・脱炭素化だった。全く合理性はないが、22年はこれがどこまで加速するかがポイントになる。それから、新型コロナウイルス対策の影響も無視できない。政治家が政策面でアピールしやすいのが厄介で、結果的に行き過ぎた対策を断行しそれに右往左往させられる可能性が大いにある。実際、エネルギー需要が回復基調にあったところにオミクロン株のショックが襲い、急ブレーキがかかった。また、コロナ禍の影響が残る限り過剰流動性が残るので、需給が引き締まらずとも価格が下がりにくい状況になりかねない。ただでさえ、過度な低・脱炭素政策のために世界のエネルギー需給構造は歪んでしまっている。電力分野を中心に、一層需給がひっ迫しやすくなるのではないか。
資源価格高騰で拡大するか メジャーによる上流投資
B 数年前の上流投資不足の影響が尾を引き、新たなコロナショックでよほど需要が落ち込みでもしない限り、経済が回復し化石資源需要が高まれば価格は上昇するだろう。IMF(国際通貨基金)などの金融当局は、インフレは短期的と言っていたが、最近になってパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長らが意外と長引くかもしれないと言い始めている。化石燃料価格の高止まりによる生産コスト押し上げの影響が長期化すると、金融緩和の出口戦略を描きづらくなるので金融政策に影響が及ぶことも懸念している。
C 欧米の石油大手5社は、石油・天然ガスの価格高騰を背景に上流投資を増やすと表明している。ただし、これまでと大きく違うのは、機関投資家や金融機関が化石燃料への投融資を止めようとしていることだ。そうなれば、産油国やオイルメジャーは手元のキャッシュフローで投資しなければならなくなる。原油や天然ガス価格が下がれば投資できなくなるわけで、価格がこれまで以上に投融資を左右することは間違いない。
A エネルギー価格を押し上げているのは、新興国・発展途上国の需要の増大によるところが大きい。先進国は既に頭打ちだが、こうした国々は人口増加と経済発展にともない、ますます化石燃料を必要とするはずだ。需給バランスだけを見れば、今年よりも来年緩むとは到底思えないが。
B そういう意味で注目しているのは、米シェールオイルの開発動向。今の生産量の低迷はバイデン政権の規制やコロナとは関係なく、シェールオイル業界に投資していた人たちのマインドが、成長よりもキャッシュフロー優先に変わってしまったことが影響している。もともと9000箇所ほどあった生産を開始していない井戸が一年で40%も減っていて、このままでは22年末にゼロになり、いよいよ新規投資しなければ生産を維持できなくなる。今はその瀬戸際にいて、そのサインが出ればマーケットが大きく反応することになるだろう。
C 20年春には、原油先物市場でネガティブプライスが付くほど燃料市況が暴落し、エクソンモービルやシェブロンは、配当資金を確保するためにキャッシュが必要で新規開発を止めざるを得なかった。今は、どちらも開発を進めると言っているし、世界最大の原油とガスの生産国であるアメリカの動向次第で供給量が増える可能性は十分あり得るよ。米エネルギー省は、22年の価格は少しだが下がると予想し、実際、欧米の天然ガス、原油価格は少し下がり始めている。米国は、自国企業が増産に踏み切ることで、21年の最高価格に達するようなことはないと見ている。
B 日米が増産を要請しても、OPEC(石油輸出国機構)プラスは5年前の投資不足が響いていて増産できる状況にない。サウジアラビアも21年7月の減産幅縮小の合意から逸脱した決断をするとは考えづらいし、OPEC側での需給調整は政治的に難しいだろう。さらなる高値に突入するかは、全てシェール次第と言えそうだ。
A 日本の電力自由化が、電気料金の低廉化を前提にスタートしたことに違和感がある。競争圧力で下がることもあれば、外部環境によって上がることもあるわけで、上がったから自由化が進んでいないとは言えないし、逆に下がったからといってそれを自由化の効果だとも言い切れないはずだ。実際、1990年代以降、2010年まで電気料金は低下傾向をたどったが、それ以降は上昇している。それは主に、原子力停止後の火力発電の焚き増しによる燃料費の増大と、再生可能エネルギーの賦課金という外部要因に起因している。
B 欧州の電力自由化は、国営の電力事業を民営化することで効率化を図り、値下げにつなげる狙いがあった。一方、日本の場合、既に民間企業が事業を運営しており、総括原価の下で重複性を回避するような設備形成をしていた。自由化で効率化するといっても、それほど値下げの余地がないのは分かり切っていたことだ。
C 自由化して非対称規制を入れれば新規参入者は一定のシェアを取ることができるが、いずれ緩和されれば既存事業者がシェアを取り返し寡占化が進むと考えるのが一般的だ。発電設備が余っている状態で自由化し、余剰電力を限界費用でマーケットに投入するのを強制したことで、新規参入者の調達コストが下がりシェア競争が進んだ。ところが、自然変動型の再エネが大量導入され、最近は大手電力会社が火力電源の最適化を進めており、供給力がタイトになりつつある。自由化の効能の産業組織論的なサイクルと電気事業の設備量のサイクルで価格は上下するので、自由化に一定の効果は望めるのかもしれないが、下がり続けることを期待できるわけではない。
今後も電気料金は上昇傾向 再エネと燃料費が押し上げ
―2030年に向け、料金水準はどうなっていくだろうか。
A これまでの料金単価の推移を見れば、今後も上昇していくだろう。FITを卒業しない限り再エネ賦課金は当面高止まったままだし、とりわけ今は化石燃料への依存度が高いので、燃料価格上昇の影響は今後の料金に色濃く反映されていくのではないか。
B 再エネ賦課金はもちろん、変動再エネ大量導入に見合ったバックアップ用の電源を抱える必要があり、制度が過剰設備保有を促している状況で下がる余地はない。既に料金に反映されない回収不能投資のために泣いている事業者もいるわけで、これを加えたら今も相当な電気料金になるはずだ。電気料金として表面化していなくても、電気事業のためのコストは確かに生じている。自由化は小売り分野に偏重しているが、小売り事業者がいくら頑張って販管費を圧縮したところで、最終支払単価に占める割合の小さい小売りが捻出できる値下げ分は限定的だ。