インタビュー:定光裕樹/資源エネルギー庁資源・燃料部長
脱炭素化の潮流は、日本の化石資源調達に抜本的な見直しを迫っている。今後の調達戦略はどうあるべきか。定光裕樹資源・燃料部長は、技術協力を含めたより包括的な資源外交の重要性が増していると強調する。
―さまざまな資源を巡る環境が激変する中、資源・燃料部長に就任されました。
定光 この10年の間、「S+3E」という政策の軸は変わっていませんが、この1、2年ほどでカーボンニュートラルなど脱炭素をめぐる要請が、想定を超える勢いで高まっています。これまで以上に難易度の高い目標が設定され、目標と足下の現実のギャップが格段に広がっています。これから2030年、50年に向けてこれをうまく埋めていく必要がありますし、そのためには国民や企業に、非常に強力な行動変容を促していくことになります。政策の力が試されていると強く感じます。
―資源価格が高騰を続けています。その要因についてどう見ていますか。
定光 石油、石炭、天然ガスなど資源全般の値段が上昇傾向にあり、その要因はいくつかあると考えています。一つは、低金利の中で投資先を探して資金がコモディティに流れ込んでいること。もう一つは、新型コロナウイルス禍の需要減に合わせ生産を縮小していたところ、最近になって想定を上回る需要回復が見込まれるようになり需給ギャップが生じていること。そして、脱化石の潮流の中で化石資源の生産に投資が向かなくなり、供給が細ってしまうのではないかとの懸念を持つ人が増えていることです。こうした要因が組み合わさり、資源価格高騰につながっていると見ています。
30年度も化石比率7割 適正な上流投資確保に懸念
―脱炭素の潮流は不可逆であり、中長期的にはさらにその傾向が強まりそうです。
定光 脱炭素社会の実現に向け、企業はマスメディアや資本市場から投資見直しへの過度な圧力にさらされているように思えます。その影響で、適正規模の上流投資が確保されないリスクが高まっていることを大変憂慮しています。今回のエネルギー基本計画の素案でも、一次エネルギーベースでは30年度時点で7割を化石燃料が占めるとしています。化石燃料が突然不要になるわけではないのです。IEAがネットゼロ・シナリオで上流投資が不要と言っていると誤解されている方も多いですが、四百以上の対策が成就すればという条件付きの話です。国民のみなさまに丁寧に説明し、こうした誤解を解消していかなければならないと考えています。
―上流メジャーが、化石燃料生産への投資を縮小しつつあり、日本の調達への影響が懸念されます。
定光 大変難しい問題です。消費量全体が減っていくとはいえ、資源を輸入する上でさまざまな地政学のリスクがあることに変わりありません。米国が中東への関心・関与を下げている上、東シナ海、南シナ海では中国がプレゼンスを高めています。自主開発比率を可能な限り高めることの重要性が一層増していることを踏まえ、エネ基の素案では石油・天然ガスの自主開発比率19年度の34・7%から30年度に50%以上、40年度に60%以上に引き上げることを目指すこととしています。
そうは言っても、従来に比べ上流投資を続けるハードルが高くなっていることも事実です。上流開発会社は、メタン排出の抑制、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)、電源として再生エネルギーの活用、オフセット・クレジット活用など、カーボンインテンシティ(炭素集約度)を下げる仕組みと組み合わせた開発が求められています。そういった意味でも、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)がしっかりと開発を支援していくことに意義があります。
―トランジションとしてLNGを活用していく上では、基地や導管などのガスインフラ整備への投資が求められます。
定光 今後も想定されるLNGの需給ひっ迫局面においても一定の需給調整能力を持つためには、継続的な上流投資に加え、尤度を持った玉の確保や、基地や導管への投資が確保される必要があります。中国や韓国は戦略的な対応を進めています。今の電力市場が、燃料の安定調達も含め中長期的に必要な投資を確保する仕組みとして十分機能しているか、所管する電力・ガス事業部とも議論していきたいと考えています。
水素やアンモニアも 脱炭素で資源国と協力
―昨年新国際資源戦略を策定しましたが、わずか1年で資源を巡る環境が激変してしまいました。最新の状況を踏まえて、改めて議論するべきではないでしょうか。
定光 そう思います。エネ基では、今後は包括的な資源外交が必要だと記述していますが、資源に関する議論に割く時間が十分だったとは言えません。これまでは、資源戦略と言えば石油と天然ガスの確保がメインでしたが、脱炭素社会を見据えればアンモニアや水素の活用、さらにカーボンリサイクル技術の活用が欠かせません。これまでの資源外交で関係を築いてきた国々の中には、日本よりもコストも含め良い条件で脱炭素燃料を生産できる国がありますので、これからもこの関係を維持し続ける必要があります。
また、石油・天然ガスを引き取りつつ、日本で排出されたCO2を産出国側で埋めてもらうような選択肢もありますし、そのための技術協力も可能です。実際、そういった脱炭素の技術に関して日本と協力しながらプロジェクトのFS(事業可能性の検証)を進めたいという資源国は多く存在しています。
米国、オーストラリア、中東諸国、カナダ、ロシアなど、先人が石油、天然ガス、石炭といった資源確保する上で資源国と築いてきた信頼関係は、日本にとって非常に大きなソフトパワーです。脱炭素社会に向け、そのような良い関係性をさらに発展させていかなければなりませんし、より包括的な資源外交を求められると思います。