【FEワイドまとめ】大規模工場群を丸ごとエネ制御 省エネ・BCP支えるスマエネの進化


【清原スマートエネルギープロジェクト】

東京ガスグループの技術を結集させた大規模なスマートエネルギーネットワークの運用がスタートしている。内陸型工業団地としては国内最大規模を誇る栃木県・清原工業団地の一角で、カルビー、キヤノン、久光製薬の名だたる企業の工場や事業所に対して、スマエネを展開。エネルギー供給設備の中核を担うガスエンジンの発電設備の総計は約3万5000kWで、運用の実務を担っている東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、「東京・田町や豊洲で運用してきた従来のスマエネの規模とは桁違いに大きい」とする。

「競争力のあるエネルギーコスト、それから、とにかく安定供給を重視してほしい」―。そんな需要家からのニーズに応える大規模スマエネ運用の姿とはどういうものか。東京大学の松本真由美・客員准教授が現場を視察したほか、需要家と一体となってプロジェクト実現へとこぎつけた、TGES関係者の話をまとめたプロジェクトストーリーをお送りする。

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【対談】エネルギーシステムの最適解 東京ガスグループの技術を結集

【キーパーソン】全ては需要家のニーズのために 総力上げて挑んだ大型プロジェクト

【インタビュー/荒川涼(栃木県)】官民連携のレジリエンス事業 エネ自給率を高めた栃木戦略

【特集2まとめ】再生する街と暮らし 付加価値を創出するエネルギー


街の再開発事業や大規模団地などの改修工事が、日本各地で活況を呈している。
こうした機会を活用し、新たなエネルギー技術・システムの導入が加速。
エネルギーの高効率化や環境負荷低減をはじめ、
暮らしの快適性や防災性の向上、また地域コミュニティの形成など、
街や住宅がより良いものへと生まれ変わっている。
さまざまな付加価値を創出する「再生」への取り組みを追った。

【ルポ/豊洲スマートエネルギープロジェクト(東京都江東区)】既存ビルを含めた面的供給 コンパクトな分散型モデルに

【ルポ/パナソニック(大阪府吹田市)】工場跡地活用のスマートシティ 実質再エネ100%電気を供給

【ルポ/西部ガス(福岡県宗像市)】インフラ企業ならではの団地再生 継続的に関わり地域の未来を育む

【座談会】住宅の歴史をつくった3社が集結 整備と再生に向けた今後の課題

【レポート/大阪ガス】暮らしの課題を浮き彫りに フォームを繰り返す集合住宅

【レポート/リンナイ】自宅の湯が温泉のような乳白色に 細かな気泡でリラックス効果

【レポート/パーパス】リモコンと浴室暖房乾燥機を活用 健康で快適な暮らしをサポート

インタビュー/石井敏康(東京ガスリノベーション)】エネルギー以外の成長分野確立目指す リフォーム提案をワンストップで

【特集1まとめ】4Dの大改革 改正法が仕掛ける電力分散化


菅政権が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、
エネルギー業界では電力の脱炭素化を探る動きが活発化している。
鍵を握るのが、再生可能エネルギーを最大限に活用できるか否かだ。
経済産業省は改正電気事業法に盛り込まれた特定卸供給・配電事業改革を軸に、
新たな分散型電力供給システムの構築に向けた制度議論に着手している。
「脱炭素」「デジタル化」「自由化」「分散化」という4つのDの改革の先に、
どのようなエネルギービジネスの変化が待ち受けているのだろうか。

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【アウトライン】4D改革が描く電力産業の未来像 社会構造のパラダイムシフトが不可欠

【座談会】脱炭素化社会は実現可能か 分散型システムの理想と現実

【インタビュー/下村貴裕(資源エネルギー庁)】脱炭素社会実現へ配電改革待ったなし 新たなビジネス創出にも期待

【インタビュー/岡本浩(東京電力パワーグリッド)】脱炭素宣言で加速する分散化 送配電会社の新たな役割とは

【インタビュー/都築実宏(エナリス)】DER制御と電力「価値」取引を両立 再エネ主力電源化に貢献する

【特集2まとめ】LPガスのレジリエンス力 日本の課題解決に挑む


災害時の「最後のとりで」として、分散型の強みを生かした
供給維持と早期復旧に貢献してきたLPガス。
こうしたレジリエンス向上とともに、新たなサービスや技術の導入などにより、
少子高齢化や過疎化といった地方の諸課題の解決に向けた動きも出始めた。
LPガスの果たす役割はますます広がりを見せている。

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【レポート】見直されるLPガスの優位性 災害・感染症対策に向けた役割

【インタビュー/橋爪優文(資源エネルギー庁)】安定供給を守り続けるLP業界 都道府県協会の役割が重要に

【TOKAI】TLCのニーズは地方にあり! 地元企業と連携し安定供給を確保

【インタビュー/小笠原剛(アストモスエネルギー)】調達地多様化で安定供給支える 系列超えた物流統廃合が必要に

【レポート】配送・供給体制の整備進む 鍵握るメーターの技術革新

【トピックス/日本財団災害危機サポートセンター】臨時療養施設を支えるLPガス

【トピックス/ジーアイビー】コインランドリーを避難所として活用

【トピックス/リンナイ】インスタのクチコミで広がる「乾太くん」 テレビCMで新たな利用シーン提案

安定供給を守り続けるLP業界 都道府県協会の役割が重要に


インタビュー:橋爪優文/資源エネルギー庁 石油流通課 企画官(液化石油ガス産業担当)

橋爪優文氏

本誌 九州を中心とした西日本で豪雨が発生するなど、今年も多くの地域が災害に見舞われました。LPガス事業者の災害からの復旧活動をどう見ますか。

橋爪 7月には熊本県球磨地域で洪水が発生しましたが、熊本県LPガス協会が現地に入り閉栓作業を行うなど、災害復旧に大きな役割を果たしたと聞いています。ここ数年は都道府県協会が自治体と協同で防災訓練を行う機会も増えており、秋田県LPガス協会は自治体に加え自衛隊とも防災訓練を行っています。こうした公的機関との交流機会を増やすことで、地域の防災能力を高められます。

本誌 政府として、防災対策に向けたLPガス業界への支援は行っていますか。

橋爪 LPガスには長期保存が可能というメリットがあります。ですので、非常時に電気や空調が特に必要となる病院や福祉施設、災害時に避難所になる体育館にLPガス非常用発電機や空調を導入する際に、補助金を出す事業を行っています。しかし、LPガスのメリットについて自治体職員にまだまだ理解されていない部分も多いです。また自治体の場合は多数の施設があるため、限られた地方財政の中でまとめて導入できません。複数年かけて整備していくため、時間が掛かってしまいますし、担当者も一定年数で変わることもあります。体育館での導入がなかなか進まないのが実情です。

 また、ある県のLPガス協会は自治体に小型のLPガス発電機を提供していましたが、数年後に災害が発生した際、自治体担当者が発電機の使用方法が分からず、全く使われなかったケースもあったそうです。こうした事態が再度起きないようにするためにも、防災訓練などで定期的に使い方を指導していく必要があると思います。

進むガス供給の高度化 重要性増す都道府県協会

本誌 低電力消費無線通信(LPWA)を用いたシステムを開発するなどして、業務効率化を進める企業が増えています。LPガス業界で進められる高度化をどう考えますか。

橋爪 IT技術を活用した業務効率化は、高齢化・人手不足に悩む業界の課題を解決するソリューションで、さらに推進していくべきだと考えています。

 自動検針や配送業務効率化を目指す中で、鍵を握るのがスマートメーターの活用です。スマメの議論は電気や都市ガス、水道でも行われており、政府も次世代スマメにまつわる検討会を複数開催しています。さまざまな議論をどうクロスオーバーさせるのか、しっかりと詰めていく必要もあるでしょう。制度化に当たっては先進地域と後発事業者をどう整合させるのか、イニシャルコストをどれだけ下げられるかが重要です。

本誌 人手不足、事業継承者不足など、LPガス業界は多くの課題を抱えています。今後はどのような支援を行っていきますか。

橋爪 事業者の廃業の多くは、収益減ではなく、後継者や継承者不足が原因です。事業者間でM&Aが行われていますが、事業者数が減ることは、災害対策で肝となる都道府県協会の活力衰退にもつながってしまいます。秋田県では地域の四つの事業者が合併した事例もあります。廃業を考えている事業者には安定供給を途切れさせないのと同時に、地域を守るという広い視野から秋田県のような事例を増やしてもらいたいですね。

 政府としてはLPガスの魅力を発信すると同時に、体育館へのLPガス設備導入や、災害時のバルク供給設備への補助金を今後も継続していきます。これらの施策を行い、全国のレジリエンス能力を高めていきます。

大口需要家が語る自由化の恩恵 店舗の電気代が劇的に低下


その意義を問われることの多い電力自由化だが、電気料金面での恩恵は確かにあった。大手チェーンストアのファシリティ業務に携わった関係者が、自由化を振り返る。

商業施設における電気料金削減効果は大きい

2000年の電力小売り部分自由化により、特定規模電気小売事業者(PPS)が誕生してから20年を迎えました。この間、電力制度改革が断続的に行われたことで、電力市場における競争は劇的に進んでいったと実感します。

特に関西エリアでは競争が激しい印象があります。現在の会社では北海道、仙台、和歌山の3地点に大口施設があるので、北海道電力、東北電力、関西電力など大手電力会社や新電力に声をかけて電力契約のコンペを開催。結果、北海道で9社、仙台で5社、和歌山では15社から応札があった。特に和歌山では小さな新電力も手を挙げており、自由化はここまで進んだのかと感心しました。

北海道、仙台のコンペの結果は、それぞれ北海道電力、東北電力が落札しました。ちなみに価格は以前勤めていたチェーンストアよりも安い価格でした。小さな需要だったからかもしれません。ちなみに、コンペには東京電力グループのテプコカスタマーサービス(TCS)も代理店を介して参加していました。東電グループはこれまでケーブルテレビ(CATV)や通信事業にも参入していますし、多くの販路を持っています。事業所も全国に点在しているため、全国展開ができるのでしょうね。

1店舗で1000万円減も 全体で20億円近い削減効果

2000年の特別高圧部門の自由化に次いで、04年には高圧部門でも自由化が始まったことで、大手電力会社とPPSの間で本格的な競争が始まりました。

自由化が始まった初期は、新規参入企業は両手で数えるぐらいしかいませんでした。しかし、高圧が自由化されてから新規事業者が増え、本格的に自由化が動き出したと実感しました。

当時はダイヤモンドパワー、エネット、イーレックス、サミットエナジー、JX日鉱日石エネルギー(現ENEOS)、エナリス、ファーストエスコ(現Fパワー)といったPPSと一通り契約しました。

結果、電力コストを大幅に削減することができました。自由化前の電気料金は燃料費調整額(燃調)込みで特別高圧が1kW時当たり20円台、高圧が同22円台でした。それが切り替えによって5~10%は確実に下がり、年間約1000万円もの電気料金を削減できた店舗もありました。06年には特別高圧が10円台、高圧が13円台にまで下がったのは驚きです。

当時、系列店舗で40万kWの需要があり、グループ全体では110万kWほど契約していました。切り替えたのは特別高圧だけでしたが、20億円近い削減効果があった。チェーンストアで1億円の利益を出すには、20億円以上の売上が必要だから、相当な恩恵がありましたね。

その一方で、大手電力会社の動きは鈍かった。詳しい理由は分かりませんが、PPSに高圧を取られると必死になって取り戻そうとしていた半面、特別高圧では巻き返しの動きは少なかったと思います。それに自由化後も大手電力会社がほかの地域に進出することはほとんどありませんでした。こちらから「エリア外の店舗に供給してほしい」とお願いしても、向こうの反応はなかったですね。

05年のことですが、九州電力が中国電力管内の商業施設と受電契約したと新聞が報じました。記事が掲載されたのは休日で、某大手電力会社の幹部はゴルフを楽しんでいましたが、報道を聞くと急きょ切り上げて緊急会議を行ったそうです。そんな話が伝わるぐらい大手電力の動きは鈍かった。

【特集1まとめ】電力自由化の四半世紀を総括 経産省主導の成果と禍根


電力事業の高コスト構造を是正する―。
そんな掛け声で始まった電力自由化から四半世紀が過ぎた。
この間、断続的に行われた制度改革は多岐にわたる。
一貫していたのは旧通産省時代からの官僚主導だ。
果たして、当初の狙いは達成されたのか。
新旧電力や需要家にどんな影響をもたらしたのか。
業界構造を塗り替えた大改革の成果と禍根を総括する。

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【アウトライン】IPP・PPSの変遷に見る電力自由化の過去・現在・未来

【レポート】自由化の効果を独自検証 電気料金水準はどう動いたか

【レポート】大口需要家が語る自由化の恩恵 店舗の電気代が劇的に低下

【レポート】「ポスト自由化」時代を考える 電力産業の向かうべき方向性

【座談会】自由化は何をもたらしたのか 草創期の第一人者たちが語る電力制度改革の原点と未来

地場企業として復興に貢献 社会の変化にどう立ち向かうか


釜石ガス

ラグビーW杯の会場になった釜石鵜住居復興スタジアム

鉄と海とラグビーの町・釜石。かつては製鉄の町として、また昨年秋のラグビーW杯では試合会場にもなったことで、多くのラグビーファンの注目を集めたことは記憶に新しい。

そんな釜石市で都市ガス事業を営んでいるのが、釜石ガスだ。1957年の創業以来、市街地を中心に都市ガス供給を続けており、現在は周辺市町村でLPガスを販売し、また電力小売りも電気販売代理店業務を手掛けている。

しかし、市の人口は63年の9万2000人をピークに右肩下がりを続け、2020年には3万2000人まで減少。そのうち約40%は65歳以上の老年層で、さらに20年後に同市の人口は2万人台にまで落ち込むと予想される。少子高齢化および過疎化が顕著な地域といえる。

そうした中、11年に東日本大震災が発生。三陸海岸には20m近い大津波が押し寄せ、釜石市内の住居のうち、約4分の1が壊滅。1000人以上の尊い命が失われた。海に近い同社社屋も1階部分が完全に浸水し、ガス製造プラントは全壊。導管網にも海水が入り込むなど、設備は壊滅的な被害を受けた。

地震後には地元岩手県にある花巻ガス、水沢ガス、親会社でもある東部ガスといった東北のガス会社が、片道数時間かけて釜石まで通いながら復旧に当たった。また岩谷産業などから支援物資として、LPガス容器やカセットコンロの提供も受けた。しかし停電が長期間続き、震災直後から明かり一つない釜石市内では、廃屋などで換金できる資材などを物色する窃盗集団が相次いで発生。このため各地から届いた支援物資を守るべく、社員がローテーションを組み、倉庫の前で野球のバットを片手に夜警を行ったという。

支援の輪はさらに広がった。県内ガス事業者や東京ガス、武州ガスからは移動式のガス発生装置64台の提供を受けて、震災から5日後には一部の総合病院や介護施設でのガス供給を再開。同年3月27日には、津波に襲われなかった非浸水地域6342戸に対し、移動式ガス発生装置でのガス供給を行うまでこぎ着けられた。

当時について、澤田龍明常務は「日本ガス協会さんや多くのガス会社さんから支援をいただき、大変ありがたかった」と振り返る。

スマコミ事業にも参画 市の環境負荷低減に貢献

震災で壊滅的な被害を受けた釜石市は、震災からの復興と災害に負けない町づくりとして、「釜石市復興まちづくり基本計画」、および低炭素や省エネなどによる資源循環型社会を目指す「環境未来都市構想」を12年に策定。市内ではスマートコミュニティの建設が計画され、スマコミ協議会には澤田常務が委員として参加し、市のエネルギー政策にも、同社は貢献を果たしている。

スマコミ計画では、非常時に防災拠点となる公共施設に太陽光パネルと蓄電池を導入することでレジリエンス能力を高めたほか、エネルギー利用を見える化するマネジメント設備を導入。同社は市民プールや小中学校、情報交流センターなど9カ所の公共施設の電力消費量や、各設備の機器異常などを集中管理する地域エネルギー管理システム(CEMS)の管理を行っている。また本システムで得られたデータを基に、市に対する省エネの助言も年に2回ほど行っているそうだ。

さらに上中島地区の復興住宅・計4棟156戸の運営に携わっている。復興住宅には太陽光パネルや太陽熱温水器による温水供給、一括受電による電気ガスの同時検針など、建物のエネルギー効率を向上させる各種システムが導入されている。現在、同社は復興住宅の検針業務などを担当しており、復興住宅の設計に際しては、レジリエンス能力の高いエネファームの全戸導入も提案。しかし「室外機の設置スペースの確保が難しかったこともあり、断念せざるを得なかった」(澤田常務)という。

求められる制度改正と意識改革 国益にかなう政策展開の条件


FIT制定後、再生可能エネルギーを巡るトラブルは絶えることがない。再エネ政策のあるべき姿について、4人の識者が持論を語った。

【座談会】山地憲治/地球環境産業技術研究機構・副理事長・研究所長、福島伸享/前衆議院議員、杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)・研究主幹。、渡邊開也/再生可能エネルギー長期安定電源推進協会・事務局長

左上・山地氏、右上・福島氏、左下・杉山氏、右下・渡邊氏

―再生可能エネルギーの建設・運営を巡るトラブルは依然として多い。再エネが置かれている現状についてどう考えますか。

山地 論点の一つに地域との共生ができていない問題があります。これまで安定供給を行ってきた電力会社とは毛色の異なる事業者が大量に入ってきたことで、事業規律が保たれていないと地元の人たちが考えている事例が数多くあります。これまで小規模太陽光のトラブルが注目されていましたが、最近は大規模太陽光でも問題が表面化しています。

 こうした事例に政府は、2022年から施行される改正再エネ特別措置法で、事業者に対し太陽光パネル廃棄費用の外部積み立てを義務化するなど対策を講じています。しかし事業者が多く、対応し切れていないのが現状です。

福島 再エネ政策の核であるFIT法の所管は経済産業省ですが、環境問題は環境省、森林関係は農林水産省の所管です。再エネに関連する制度を見ると、経産省所管の電気事業以外の開発に伴う、外部不経済の問題への法整備が非常に遅れている。

 政府も対策しようとしていますが、極めて性善説的な観点に立っています。FIT期間が終了したら、発電所をそのまま放棄して逃げる事業者も出てくるでしょう。利益だけを追求する事業者もいるという前提に立ち、経産省の電力政策とは別の観点からも制度を構築する必要があります。

渡邊 電気事業は儲かる・儲からない以前に、国民の大事なインフラです。昨年の12月に業界団体「再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」を立ち上げましたが、入会資格に「エネルギーが持つ社会的責任を意識すること」を加えています。

 当協会の会員も地域共生の話は総論では賛成。FIT賦課金は国民が負担しており、現在の状況が長続きしないものだというのは理解しています。しかし、地域に対して時間と人を費やして地域貢献を行うのかと聞かれれば、全員が「はい」と答えるとは限らない。民間企業である以上、ルール上可能であれば、ルールを使い切るものです。

山地 本来は再エネ電源を民間の活力を使って増やすことが制度の目的です。しかし活力の中には、悪知恵を含め、制度の許す範囲でいろんな知恵を出すことも含まれます。

杉山 これまでは再エネ発電の量を追求する政策でしたが、これからは質が大事になります。またFIT賦課金が3兆円近くになったこともあり、国民負担の軽減や系統制約など技術的な問題もクリアしなければなりません。なお技術支援を行う際に、既存技術を支援することは、逆に新規技術の開発を妨げる点も忘れてはなりません。再エネ政策は発電量の増大を求めるのではなく、技術開発を促進できるようにした方がいいでしょう。

【平木大作参議院議員】腹を括って立ち向かう


金融業界、経営コンサルタントとして第一線で働いた、公明党でも異色の経歴を持つ平木氏。エネルギー問題・中小企業支援と取り組む政策は難題ばかりだが、根気強く立ち向かう。

ひらき・だいさく 1974年長野県長野市生まれ。98年東大法学部卒、シティバンク入社。2008年IESEビジネススクール経営学修士課程(MBA)修了。ブーズ・アンド・カンパニー、シグマクシスを経て、13年参院初当選。経済産業省、内閣府、復興庁の大臣政務官を歴任。当選2回。

大学卒業後は外務省ではなく、当時「ビッグバン」とも称される規制緩和の真っただ中にあった金融業界へ。1998年にシティバンクに入社し、プライベートバンキング部門に配属された。当時について「一生この仕事を続けたいと思うぐらい、楽しかった」と振り返るが、入社から数年後、同僚の不祥事が発覚。金融庁の査察が入り、配属されていた部門そのものが潰れてしまう。

それから数年は事件の後処理に追われたが、「なぜ経営者がこのような事件が起こしてしまうのか」と深く考えた。そこで「経営とは何か」との疑問を解決すべく、スペイン・バルセロナのビジネススクールで経営について勉強し、MBAを取得。老舗の経営コンサルティング企業のブーズ・アンド・カンパニー(現Strategy&)に入社し、その後はベンチャー企業のシグマクシスへ。経営コンサルタントとして寝る間も惜しんで働いた。

転機を迎えたのは、公明党の議員向けの講演会でスピーカーとして登壇していたときのこと。参加していた国会議員から「選挙に出ないか」と誘われたことがきっかけだった。

「これまで経営コンサルタントとして多くの企業の協力をしてきたが、法規制の面で挫折せざるを得ない場面もあった。政治家は苦しんでいる人々を救うために、ルール作りに携われる大きな仕事だと魅力を感じた」

13年の参議院選挙に公明党から全国比例区で出馬し初当選。19年の参院選でも再選を果たした。政府では経済産業省、内閣府、復興庁の大臣政務官を経験。現在は参議院の厚生労働委員会に所属するほか、資源エネルギーに関する調査会の理事も務めている。

エンロン問題で自由化に疑問 強靭化やエネルギー分散化を推進

金融や経営コンサルなどのビジネス畑を歩んできた平木氏だが、かねてからエネルギーについて考える機会が多々あったそうだ。

はじめてエネルギー問題に触れたのは、ホームステイでロサンゼルス中心部から郊外に移動したときのこと。道中で地平線を覆うような風力発電の風車を目にして「日本と米国はこれほど違うのか」と目を丸くした。だが、一基も稼働しておらず、その理由を聞いたところ「動かしても赤字になる」との予想外の答えが返ってきた。幼いながらに「まだ再エネの時代じゃないのか」と思ったという。

シティバンク時代には、燃料から天候など、エネルギーにまつわる諸要素を金融商品にして時代の寵児となった、米エンロンが輝く姿を目の当たりにした。しかし、同社の不正取引はカリフォルニア電力危機を招いた要因となり、01年には会計不正が発覚して倒産。同社の興亡や米エネルギー業界で急激に進む金融化や自由化を見て「エネルギーの金融化は自由化を突き詰めた一つの姿だが、本当にこれでいいのか」との疑念も感じた。

昨年の台風19号では、千葉県で長期にわたり大停電が発生。党の千葉県本部に所属する平木氏は被災地に毎日赴き、地域の声に耳を傾け、「電気のありがたさを改めて実感した」という。また今年7月には西日本を中心に集中豪雨が発生するなど激甚災害が頻発。その対策として「国土強靭化と地球温暖化の要因となる化石燃料からの脱却を図るために、政治家が腹をくくって立ち向かっていかなければならない」といい、「エネルギーの地産地消や分散化を進めることが重要だ」と述べた。

「脱原発依存」を掲げる公明党だが、党のビジョンについては「長い目で見れば方向性として間違ってはいないが、原発の代替となる安定かつ低廉なエネルギーが必要だ」と話す。さらに「再エネ電源が抱える課題を克服し、主力電源に育て上げることは重要だ。しかし、小資源国の日本において、原発がエネルギーセキュリティの観点でも大きな役割を担っていることも忘れてはならない」と指摘する。

座右の銘は「百折不撓」。似た言葉に不撓不屈があるが、「百回折れても不屈という意味では、重い言葉であり熱意を感じる」と語る。エネルギー分野以外にも、中小企業のデジタル化支援にも熱心に取り組んでいる。

「遅れをよく指摘されるが、その分だけ伸びしろがある。日本の補助金制度は世界でもかなり拡充しているが、経営者の認知度は非常に低い。こうした制度を実際に使ってもらえるよう背中を押すのも、政治の役割だ」

エネルギー、中小企業支援と、いずれも重要な問題であるにもかかわらず、なかなかフォーカスが当てられないテーマだ。ビジネスの最前線で培った知見を生かして、難題に根気強く立ち向かっていく。

未来のエネルギーシステム実現 六つの挑戦的課題の解決が不可欠


【羅針盤」髙島由布子/三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部 副本部長

2050年に期待されるエネルギーシステムの実現には挑戦的課題の解決が必要になる。今回は、50年のエネルギーシステム実現へ向けた課題解決の道筋を考える。

本シリーズは、2050年7月に出版した『三菱総研が描く 2050年エネルギービジョン』の内容について全3回で紹介している。最終回となる今回は、50年のエネルギーシステム実現へ向けた課題解決の道筋を考えたい。

六つの挑戦的課題 まず再エネを主力電源に

第1回で示した通り、50年に期待されるエネルギーシステムのポイントは、再エネ主力電源化、需要側の電化、分散リソースの適切なマネジメントの3点に集約される。

現在のエネルギーシステムから3点を実現するには多くの課題があり、無策ではとても到達できない。書籍では次の六つの挑戦的課題を取り上げ、その解決方法を論じている。ここでは紙面の都合上、次のうち①と②について紹介したい。

①再エネを永続的な主力電源とすること、②エネルギーマネジメントサービスが基盤となること、③エネルギー貯蔵システムを確立させること、④既存のアセット・インフラを有効活用すること、⑤エネルギー構造転換に向けた人材育成を進めること、⑥エネルギー構造転換を実現するための技術開発を進めること。

19年12月末時点で、旧一般電気事業者が管理している系統に接続された再エネの量を見ると、太陽光発電は5000万kWを超えており、政府の30年導入目標である6400万kWに近づいてきている。風力発電は接続済こそ400万kW強であって、30年の導入目標である1000万kWに対してまだ4割程度の導入にとどまっているが、接続契約申込みが別途1600万kW以上ある。

固定価格買い取り制度の導入によって、開発のリードタイムの短い太陽光発電の導入量が大きく伸びてきたが、接続契約申込みおよび接続検討申込みの状況を踏まえると、今後の導入という点では風力発電にシフトしていく可能性が高い。その中でも、陸上風力は既に風況の良い開発適地への導入が進んでおり、今後は洋上風力への期待が大きいと考えられる。

将来性が期待される風力発電であるが、国が掲げている目標は依然30年の1000万kWであり、市場の期待値に比べて目標水準が寂しいのが実態である。また、海外市場に比べた日本市場の立ち上がりの遅れなどが影響し、国内メーカーは相次いで風力発電市場から撤退してしまっている。

風力発電の市場自体は期待が持てるものの、国内産業として捉えると厳しい状況に置かれており、この現状を変えていくためには、官民が一体となって将来ビジョンを共有し、官にあっては市場拡大に向けた確固たる意志を民に示して市場をけん引し、民にあっては競争環境の中でコストダウンを図りながら国際競争力を高めていくことが望ましい。

そのほかのカーボンフリー電源の可能性として、原子力発電、カーボンフリー水素などが挙げられる。

風況や日射量の変化に応じて再エネによる発電量は変動することが避けられず、電力システム全体で需給のバランスを調整することが求められる。つまり、再エネ主力電源化を実現するには、エネルギーマネジメントサービスが基盤として存在することが前提条件となる。

元来、この役割は、電力会社が運営している発電所が担っており、石油火力やガス火力の一部は、発電量を柔軟に調整することが可能であり、再エネによる発電の変動を受け止めることができた。しかし、このような役割を、需要家サイドのエネルギーリソースが担うことで、再エネの主力電源化を促進することも可能である。

例えば、蓄電池や空調・照明の動作状況を調節し、再エネ由来電力の過不足に合わせて稼働させることで、電力システム全体の需給バランスを常に保つことができる。再エネを主力電源化していくためには、比較的規模の大きい供給サイドのリソースに加え、地域に分散している需要家サイドのリソースによる出力の調整も必要となっている。

需要家が自身だけでエネルギーマネジメントを行うのは、技術的にもビジネス的にも簡単ではない。そのため、需要家サイドに存在するさまざまなリソースの最適な運用サービスを提供する「エネルギーマネジメントサービス」事業者が登場し、需要家のためにさまざまな取り組みを行うようになるだろう。

新たなビジネス分野 VPP事業者に期待

エネルギーマネジメントサービスという新たなビジネス分野には、小売り電気事業者のみならず、ビルのエネルギー管理事業者や蓄電池などリソース機器販売会社、デベロッパー、ITベンダー、サービスステーションなどの参画も想定される。また、さまざまな需要家に点在する多数のリソースを束ねて同時に制御し、一つのサービスとして提供する『VPP事業』の誕生と、VPP事業者(分散型リソースアグリゲーター)の活躍も期待される。

今後、エネルギーマネジメントサービスを円滑に発展させていくためには、技術面の向上のみならず、VPPやP2Pの新しいエネルギービジネス活性化に向けた規制緩和など制度設計、さらには、多数のリソース・発電所からやり取りされるエネルギー関連データを迅速かつ安全に流通・活用させる取り組みが求められる。 書籍『三菱総研が描く 2050年エネルギービジョン』では、ここで取り上げられなかった課題への対応に加え、緊急追補版として、新型コロナウイルスによる電力需要への影響分析結果を掲載している。ご関心あれば、そちらもぜひ手に取ってご一読いただきたい。

たかしま・ゆふこ 慶応大学大学院理工学研究科修士課程修了、三菱総合研究所に入社。2018年から現職。同年より海外事業本部を兼務。

【第1回】2050年のエネルギーシステム 資源の適切なマネジメントを

【第2回】2050年の日本の在り方 生活・地域とエネルギーの関わり

暗殺未遂でノルドストリーム2に暗雲


【ワールドワイド/コラム】

ロシア産の天然ガスをドイツに運ぶパイプライン計画、「ノルドストリーム2」の稼働に暗雲が垂れ込めてきた。ドイツ政府は、西シベリアからモスクワに向かう機上で意識不明となり、その後、ドイツの病院に搬送されたロシアの野党指導者ナワリヌイ氏について、殺傷力の高いノビチョク系の神経剤が使われたと断定。ナワリヌイ氏が反体制派の有力なリーダーであることから、ロシア当局による暗殺未遂の疑いが強いとして、独政府は詳細な説明を求めている。ドイツのマース外相は、ロシアが暗殺未遂疑惑について適切な行動を取らなかった場合、ノルドストリーム2計画の見直しもあり得ると言明。メルケル首相も計画を再検討する意向を示した。

ノルドストリーム2は、バルト海を通ってドイツとロシアを結ぶ全長1200㎞のパイプライン。既に大部分の工事を終えている。脱原発・石炭の方針を掲げるドイツにとって、発電用として今後、天然ガスはより欠かせない燃料となる。ロシアとしても、関係が悪化するウクライナを通さずガス需要が増える西欧にガスを売りたい意向があり、両者の思惑が一致して建設が進んできた。

一方、米国はこのパイプライン計画に対して反対の姿勢を示してきた。2017年に発効した「ロシア・イラン・北朝鮮制裁法」は、ノルドストリーム2を阻止することが目的の一つだったといわれる。6月に上院に提出された制裁強化法案では、今までの建設などに携わる事業者だけでなく、保険や法的支援、港湾サービスに携わる企業も制裁の対象としている。 仮に中止となった場合、脱原発・石炭にかじを取っているドイツをはじめ、西欧各国は大きくエネルギー政策の見直しを迫られるかもしれない。

貸し借りで合意を形成 したたかなEUの得意技


【ワールドワイド/環境】

現在、EU諸国はグリーンリカバリーや2030年目標の見直しにつき、年内に結論を出すべく7月以降、EU議長国ドイツの下で協議を続けている。

ドイツは50年に炭素中立、30年目標を現在の1990年比40%減から50〜55%減に引き上げるEU気候法案を年内にも取りまとめたい考えだ。そもそも、現行施策のままでも30年40%減目標を上回る44%削減程度が達成できそうだという試算結果もある。

欧州議会はこの方針を支持することで足並みがそろっているが、加盟国政府間の足並みは必ずしもそろっていない。それでなくてもコロナにより多くの欧州諸国が経済停滞に悩んでおり、グリーンアジェンダになかなか注力できない状況にある。ドイツを支持しているのは西欧・北欧諸国であり、30年55%削減目標を支持している一方、石炭依存度の高い東欧諸国は大幅な目標引き上げには慎重なポジションだ。昨年12月、欧州理事会で50年炭素中立を合意しようとした際、ただ1カ国反対に回ったのはポーランドであったが、EU気候法案に同目標を書き込むことについて昨年同様反対することは確実だ。

加盟国は排出削減のための技術選択についても意見が一致していない。ブルガリア、ルーマニア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアは気候目標とその影響に関する調査に当たって特定の技術を排除すべきではないとの文書を欧州委員会に提出。だが欧州内にはドイツ、オーストリアなどの強固な反原発国がおり、温暖化対策目標達成の手段として原子力を盛り込むことに難色を示している。

温暖化対策目標やエネルギー、気候変動パッケージを議論する際、西欧・北欧対東欧という構図が出来上がることは14年に現行目標が決定されたときも全く同様だった。遅れてEUに加盟し、一人当たりGDPにおいて西欧・北欧諸国を下回る一方、引き続き化石燃料に依存するこれらの諸国を説得する材料は「金の力」である。

100億ユーロ規模の「公正な移行(Just Transition)基金」にアクセスするためには50年炭素中立目標を受け入れることが求められている。ポーランドが同目標を受け入れれば、公正な移行基金の27%近くを受け取ることになるといわれている。いろいろな貸し借り関係で合意を作り出すのは、したたかなEUの得意技である。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

水素導入拡大を目指すドイツ 電気事業者の活路となるか


【ワールドワイド/経営】

水素社会構築に向けた機運が世界的に高まる中、2050年カーボンニュートラルを目指す欧州各国の間でも、燃焼時にCO2を排出しないクリーン燃料である水素に対する期待が近年高まっている。20年6月にはドイツが「国家水素戦略」を策定し、その翌月にはEUも独自の水素戦略を発表した。

水素の長所は、水素そのものを燃料電池自動車(FCV)などに利用できるほか、CO2と反応させることで天然ガスの主成分であるメタンやさまざまな化学物質を生成し、建設、工業、石油精製など多様な部門で低炭素化を実現できる点にある。将来の脱炭素化のためには運輸・暖房部門などで電化を進めることが必須であるが、電化が困難な長距離輸送や工業プロセスにおいてカーボンフリー水素の活用が鍵を握るとされている。

ドイツの国家水素戦略は、国内市場の確立のため30年までに水電解装置5GW(1GW=100万kW)を導入し、可能な場合はさらに35年まで(遅くとも40年まで)に追加で5GWの導入を目指す野心的なビジョンを掲げている。同戦略の実現のため、ドイツ政府は90億ユーロ(約1兆800億円)という巨額の資金を拠出する計画である。

本戦略の特徴は、再エネ由来のグリーン水素のみを長期的に持続可能とした点にある。カーボンフリー水素の製造方法には再エネ余剰電力を利用した水の電気分解のほか、化石燃料の改質(CCSと組み合わせたいわゆるブルー水素)などがある。英国などにおいては導入の中心はブルー水素とされ、グリーン水素は製造コストが高額であるなどの理由から将来的に果たす役割は限定的とされるが、ドイツの戦略はこれとは対照的である。

ただし、ドイツにおいても国内の再エネ導入量だけで将来的な水素需要を賄うのは難しいことから、再エネポテンシャルが豊富な国との間で協力体制を構築し、これらの国で生産される水素の輸入を目指すとしている。

水素戦略による支援強化の流れを受けて、ドイツの電気事業者も水素関連の実証実験や新たなビジネスに積極的に乗り出している。顕著なのは、RWE、ユニパーといった大手電気事業者が製鉄事業者と協働した水素製造プロジェクトである。グリーン水素製造から事業者が十分な収益を確保できるようになるのは早くても30年以降という見方が強いが、電気事業者が水素を通して脱炭素化を目指す業界と協働する動きは、今後欧州で広がっていくことが予想される。

佐藤 愛/海外電力調査会調査第一部

油価は下落も開発は進展 メキシコが抱える不思議


【ワールドワイド/資源】

2020年春以降、石油需要の減少と油価下落により、石油各社は探鉱・開発投資を削減。多くの産油国で探鉱・開発が停滞している。ところが、メキシコでは他国と比べて比較的活発な探鉱・開発が続けられている。

その背景として、同国は石油生産増加のためにコロナ対策のロックダウン中も探鉱・開発を継続させたこと、探鉱・開発の中心的存在である国営石油会社ペメックスが設備投資を大幅に減らさなかったことなどが要因とみられている。さらに、コロナ対策で石油行政を司る国家炭化水素委員会が3月中旬から約1カ月間閉鎖、探鉱・開発計画の変更申請の承認が遅れているため、油価下落以前のペースで活動が行われている見方もある。

しかし、最大の理由は13年以降、ペニャニエト前政権下で行われたエネルギー改革に基づき実施された鉱区入札を通じて、同国に参入した石油会社による探鉱・開発がピークを迎えつつあることであろう。メキシコ湾大水深域では、シェル(英蘭)、レプソル(スペイン)、CNOOC(中国)が予定通りに探鉱中で、試掘作業が佳境に入っている。

マーフィーオイル(米)は掘削を延期したが、坑井数は増やす計画で、同国での探鉱についての前向きな姿勢を崩していない。そしてこれら企業によって大水深域での探鉱が成功する事例が出始めており、今後の結果次第では、同国沖合がブラジルなどと並び大水深のホットスポットになる可能性を示唆する声もある。

またメキシコ湾浅海域でも、BP(英)関連企業やエニ(イタリア)が予定より早く石油生産を開始、あるいはその生産量を増加しようとしている。ペメックスの探鉱・開発が予定通り進まず、19年4月から20年4月の同社の石油生産の伸びは2%と小さいのに対し、これら石油会社の20年4月の石油生産量は合計で日量6万バレル弱と少ないものの、前年比では70%の増加となっている。

メキシコの石油生産量は2000年代初頭には日量380万バレルを上回っていたが、現在は半分以下の170万バレル程度まで減少している。この石油生産を増加させるためロペスオブラドール現政権は、市況とは逆に政府支援の下でペメックス強化を図っており、ほかの石油会社の貢献度が高まっている状況や、各社の活動が今後の増産に不可欠であることを理解する必要がある。

そして外国企業を含む石油会社による探鉱・開発を促進し、現政権後に停止された鉱区入札を再開することも考慮してほしいところだ。

舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部