【羅針盤」髙島由布子/三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部 副本部長
2050年に期待されるエネルギーシステムの実現には挑戦的課題の解決が必要になる。今回は、50年のエネルギーシステム実現へ向けた課題解決の道筋を考える。
本シリーズは、2050年7月に出版した『三菱総研が描く 2050年エネルギービジョン』の内容について全3回で紹介している。最終回となる今回は、50年のエネルギーシステム実現へ向けた課題解決の道筋を考えたい。
六つの挑戦的課題 まず再エネを主力電源に
第1回で示した通り、50年に期待されるエネルギーシステムのポイントは、再エネ主力電源化、需要側の電化、分散リソースの適切なマネジメントの3点に集約される。
現在のエネルギーシステムから3点を実現するには多くの課題があり、無策ではとても到達できない。書籍では次の六つの挑戦的課題を取り上げ、その解決方法を論じている。ここでは紙面の都合上、次のうち①と②について紹介したい。
①再エネを永続的な主力電源とすること、②エネルギーマネジメントサービスが基盤となること、③エネルギー貯蔵システムを確立させること、④既存のアセット・インフラを有効活用すること、⑤エネルギー構造転換に向けた人材育成を進めること、⑥エネルギー構造転換を実現するための技術開発を進めること。
19年12月末時点で、旧一般電気事業者が管理している系統に接続された再エネの量を見ると、太陽光発電は5000万kWを超えており、政府の30年導入目標である6400万kWに近づいてきている。風力発電は接続済こそ400万kW強であって、30年の導入目標である1000万kWに対してまだ4割程度の導入にとどまっているが、接続契約申込みが別途1600万kW以上ある。
固定価格買い取り制度の導入によって、開発のリードタイムの短い太陽光発電の導入量が大きく伸びてきたが、接続契約申込みおよび接続検討申込みの状況を踏まえると、今後の導入という点では風力発電にシフトしていく可能性が高い。その中でも、陸上風力は既に風況の良い開発適地への導入が進んでおり、今後は洋上風力への期待が大きいと考えられる。
将来性が期待される風力発電であるが、国が掲げている目標は依然30年の1000万kWであり、市場の期待値に比べて目標水準が寂しいのが実態である。また、海外市場に比べた日本市場の立ち上がりの遅れなどが影響し、国内メーカーは相次いで風力発電市場から撤退してしまっている。
風力発電の市場自体は期待が持てるものの、国内産業として捉えると厳しい状況に置かれており、この現状を変えていくためには、官民が一体となって将来ビジョンを共有し、官にあっては市場拡大に向けた確固たる意志を民に示して市場をけん引し、民にあっては競争環境の中でコストダウンを図りながら国際競争力を高めていくことが望ましい。
そのほかのカーボンフリー電源の可能性として、原子力発電、カーボンフリー水素などが挙げられる。
風況や日射量の変化に応じて再エネによる発電量は変動することが避けられず、電力システム全体で需給のバランスを調整することが求められる。つまり、再エネ主力電源化を実現するには、エネルギーマネジメントサービスが基盤として存在することが前提条件となる。
元来、この役割は、電力会社が運営している発電所が担っており、石油火力やガス火力の一部は、発電量を柔軟に調整することが可能であり、再エネによる発電の変動を受け止めることができた。しかし、このような役割を、需要家サイドのエネルギーリソースが担うことで、再エネの主力電源化を促進することも可能である。
例えば、蓄電池や空調・照明の動作状況を調節し、再エネ由来電力の過不足に合わせて稼働させることで、電力システム全体の需給バランスを常に保つことができる。再エネを主力電源化していくためには、比較的規模の大きい供給サイドのリソースに加え、地域に分散している需要家サイドのリソースによる出力の調整も必要となっている。
需要家が自身だけでエネルギーマネジメントを行うのは、技術的にもビジネス的にも簡単ではない。そのため、需要家サイドに存在するさまざまなリソースの最適な運用サービスを提供する「エネルギーマネジメントサービス」事業者が登場し、需要家のためにさまざまな取り組みを行うようになるだろう。
新たなビジネス分野 VPP事業者に期待
エネルギーマネジメントサービスという新たなビジネス分野には、小売り電気事業者のみならず、ビルのエネルギー管理事業者や蓄電池などリソース機器販売会社、デベロッパー、ITベンダー、サービスステーションなどの参画も想定される。また、さまざまな需要家に点在する多数のリソースを束ねて同時に制御し、一つのサービスとして提供する『VPP事業』の誕生と、VPP事業者(分散型リソースアグリゲーター)の活躍も期待される。
今後、エネルギーマネジメントサービスを円滑に発展させていくためには、技術面の向上のみならず、VPPやP2Pの新しいエネルギービジネス活性化に向けた規制緩和など制度設計、さらには、多数のリソース・発電所からやり取りされるエネルギー関連データを迅速かつ安全に流通・活用させる取り組みが求められる。 書籍『三菱総研が描く 2050年エネルギービジョン』では、ここで取り上げられなかった課題への対応に加え、緊急追補版として、新型コロナウイルスによる電力需要への影響分析結果を掲載している。ご関心あれば、そちらもぜひ手に取ってご一読いただきたい。
たかしま・ゆふこ 慶応大学大学院理工学研究科修士課程修了、三菱総合研究所に入社。2018年から現職。同年より海外事業本部を兼務。
【第1回】2050年のエネルギーシステム 資源の適切なマネジメントを
【第2回】2050年の日本の在り方 生活・地域とエネルギーの関わり