【特集2】輸送・産業分野のCN化支える 水素利活用の技術開発を推進


【東邦ガス】

自動車産業をはじめとするものづくりの企業が集積する東海エリア。東邦ガスは水素技術を磨きながら、輸送・産業分野でのCN化を支える。

これまでクリーンなエネルギーの都市ガス供給を通じて低炭素化に貢献してきた東邦ガス。2050年に向け「脱炭素化」の実現を目指すビジョンを打ち出しており、その中で水素利用について二つの柱を掲げている。一つは、同社知多緑浜工場を拠点とする水素サプライチェーンの構築だ。ここを拠点に天然ガス改質などで製造した水素を需要家へ供給したり、将来的には海外からの輸入水素の受入拠点化を目指すなど、中部地区の水素利用ニーズに応えていく構想だ。

また東邦ガスのほか、中部電力、岩谷産業、トヨタ自動車などを含めた17社が参画し、中部圏における水素の大規模利用の可能性を検討する「中部圏水素利用協議会」を通じて、中長期的な時間軸で水素社会の実現に取り組んでいく。

運輸・熱分野に水素利用 地産地消の環境価値

もう一つがモビリティや熱利用向け水素需要の創出だ。中部地区はモビリティ用途としての水素利用が進んでいることに加え、ものづくりを中心とした産業集積地であり、工場での環境意識は日に日に高まっている。そんなニーズに応えるため、水素利用拡大に向けた検証や技術開発を進めていく。そうした中、豊田市内で同社が運用する「豊田豊栄水素ステーション(ST)」の活用に新しい展開が見えてきた。ここは現地で都市ガスから水素を製造するオンサイト方式の水素STとして20年から運用を開始。燃料電池自動車(FCV)向けだけでなく、バスや小型トラック向けにも水素を充てんできる。

昨年から、ファミリーマートが実証で使用している配送トラックへの水素供給が始まった。しかも単なる水素ではなく、環境価値を付けて供給する。東邦ガス水素戦略のキーマンの一人である、技術研究所環境・新エネルギー技術の村松征直チーフはこう説明する。

「ここでは地産再エネを活用し、都市ガス由来のCО2フリー水素を供給しています。ST内で消費する電力では豊田市内の再エネ由来の環境価値を活用し、都市ガスでも中部圏内のJ-クレジットを使ってCO2をオフセットしています。地元の自治体に協力をいただき、社内の関係部署とも連携しながら築き上げたスキームです。ここで供給する水素は、愛知県独自の低炭素水素認証制度で認証を受けた環境価値のある水素です」。都市ガスと電気の両エネルギーに対し地元由来の環境価値を与えて、地産地消型のCO2フリー水素を供給する、興味深い取り組みだ。

地産地消の環境価値で運用する水素ステーション

また、「海」に目を向けても新しい動きがある。名古屋港を拠点とした水素利活用の拡大を検討していくため、東邦ガスや豊田通商など4社の取り組みがこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択された。フォークリフトなどの産業用車両や荷役機械への水素供給など、事業化を見据えた輸送分野で水素の利活用拡大に向け検討する。

名古屋港は、環境先進港である米国ロサンゼルス港と協力する覚書を締結済み。こうした取り組みを通じて、ロサンゼルス港でのノウハウも活用できる。

低コストで水素対応 最適な都市ガスとの混焼率

村松さんと共に東邦ガスの水素戦略を進めるもう一人のキーマンが業務用技術総括の山脇宏さんだ。山脇さんはこれまで、都市ガスと水素の混焼や都市ガスバーナの水素燃焼対応の開発に携わった経歴があり、まさに水素の熱利用分野の拡大を技術面で支えるエンジニアだ。そんな山脇さんが、ターゲットにしたのは450kW級のガスエンジンコージェネだ。ユーザーから水素混焼に関するニーズを聞き、コストを掛けずに最適な燃焼を実現することを目指した。

「水素は燃焼速度が速く、混焼すると異常燃焼が発生する恐れがあります。最悪の場合、設備が故障します。そこで定格出力維持を前提に、投入する空気との比率やタイミングなどを調整して最適な混焼率を探りました。結果、定格発電出力で35%の混焼率まで高めることができました」(山脇さん)

低出力下での混焼事例はこれまでも存在したが、定格運転での事例は、国内で初めてだ。しかも大幅な改造コストを必要としないメリットが期待できる。今後は、水素とガスの混合・供給方法の確立や、大幅な改造なしで制御可能な水素混焼率も見極めながら実用化を目指していく。

排ガス再循環部の部品交換 負担少なく水素バーナ化へ

山脇さんが水素利用拡大の一環で開発を進めるもう一つの設備が、工業炉バーナだ。昨年、東邦ガスは「シングルエンド・ラジアントチューブバーナ」と呼ばれる水素専焼に対応するバーナを開発した。水素は燃焼速度が速くなることに加えて、火炎温度が高いという特徴がある。例えば都市ガスバーナの燃焼温度が1200℃の場合、水素の燃焼温度は1400℃になり、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナ部品が劣化しやすいことが課題だった。そんなバーナに対して、ある解決策を見つけ出した。

「水素専焼バーナを作るのではなく、都市ガスバーナの一部である排ガス再循環の部品を変えるという発想です。排ガス再循環量を最適化することで都市ガス燃焼と同じNOX排出量にできます。これは、再循環構造部だけを脱着交換できるような仕組みで、バーナ本体の改造と比べて、10分の1程度のコストで水素専焼が可能になります」(山脇さん)

ものづくりの現場ではコージェネや工業炉は主力設備。そこから生まれる環境ニーズに、技術で応える東邦ガスの取り組みは、今後の脱炭素化モデルの理想的な産業構造の縮図である。

排ガス再循環の部品交換だけで水素化に対応する

【特集2】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開


【東京ガス】

東京・晴海地区再開発の目玉「水素エネルギー計画」を主導する東京ガス。水素パイプライン供給を国内で初めて商業化、2024年の運転開始を目指す。

東京五輪・パラリンピックが終了し、選手村のあった東京・晴海地区でも再開発が進んでいる。中でも水素供給事業を含むエネルギーインフラ計画には、各方面から大きな注目が集まっている。

この中核を担うのが東京ガスだ。大会期間中は選手村を走る燃料電池車やFCバスのPRに協力。大会終了後は選手村跡地に建つ大規模マンション群の地下に張り巡らされる水素パイプラインを整備する。

実用段階では日本初で、水素普及を見据えた脱炭素社会の先駆けとなる取り組みだ。将来的には再生可能エネルギー由来の電力を使って製造した水素を供給するなど、新しい街づくりへ環境、産業の両面で大きな効果が期待されている。

水素パイプライン敷設に 都市ガス事業のノウハウ

水素パイプラインの整備計画や運営を担当するのは、東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギー(川村俊雄社長)。東京ガスは事業者側の代表窓口として、水素ステーションを運営するENEOS、純水素型燃料電池の事業者3社との間で調整を受け持つことになった。延長約1㎞の水素パイプラインには、ガス事業法を適用することもあり、東京ガスの持つ都市ガス事業のノウハウを最大限に生かす形で進める。

水素を流すパイプラインには、工場や商業ビルで使う都市ガス用の中低圧供給パイプラインを使用。曲げ性能と耐震性能の高さが特長だ。しかし、水素には「脆化」という特定の金属をもろくする性質がある。

敷設する中低圧供給パイプライン

水素パイプラインには特殊な材料が必要との見方もある中、東京ガスエネルギー企画部エネルギー公共グループの福地文彦課長は「過去に日本ガス協会で試験を行い、今回水素を供給する条件下では、脆化が起きないことが実証された。パイプには実績のある安全な材料が使われる」と話す。

水道などライフラインの工事で水素パイプに傷がつく可能性も考慮して、パイプの上から防護鉄板を敷く対策を取った。その上に標識シートをかぶせることで注意喚起を十分に行うなど、損傷防止策に万全を期している。

水素パイプラインを保護するための対策

また、地震時における水素供給の緊急停止判断基準も厳格化した。東京ガスの都市ガス供給では各地区の想定被害に応じて60~90カインに設定しているが、東京・晴海地区の水素供給では60カインで供給を停止するように設定した。

水素の供給先は、住宅街や商業施設の5カ所に設置された純水素型燃料電池となる。そこから各家庭や施設に電力と熱を送る仕組みだ。燃料電池の排熱も利用し、共用部の給湯の予熱として使われる。

燃料電池はパナソニック製と東芝エネルギーシステムズ製の二つを採用した。パナソニック製は5kWモデルの発電効率が56%と非常に高く、貯湯ユニットで熱を利用でき、約1分で起動可能な点が評価された。同社の電池を6基連結して出力アップ、住宅街での運用を予定している。

設置するパナソニック製の純水素型燃料電池

東芝エネルギーシステムズ製は100kWの純水素型燃料電池を採用。昨年11月にトヨタ自動車本社工場(愛知県豊田市)で運転を開始するなど、多くの施設や工場で稼働実績があり、今回は商業施設で運用される。

純水素型燃料電池を2種 24年3月供給開始目指す

東京大会前の19年度に第1期工事が終了し、パイプライン全体の7割は敷設済みだ。残る3割の工事や燃料電池については、今年1月以降の第2期工事で設置する予定という。

晴海エコエネルギーがガス事業法に基づく小売り事業登録を完了してから供給開始を目指すため、実際の運用は24年3月ごろを予定している。福地課長は「大会終了後、ここからまた設備工事を行い、23年度の街開きまでに無事に供給を開始できるようにしたい」と意気込みを語った。

東京・晴海地区再開発のシンボルとなる水素計画。それを支える水素パイプラインは、文字通り地区の脱炭素化を進めていくための環境インフラだ。水素社会の実現を目指した東京五輪・パラリンピック後のレガシーとして新たな都市モデルとなるか注目される。

【特集2】低廉なグリーン水素供給へ 新燃焼プロセス実験設備を導入


【大阪ガス】

都市ガス業界にとって、カーボンニュートラル社会に向けたイノベーションは重要な経営課題。より安くグリーン水素を供給する革新的技術として期待されるのがケミカルルーピング燃焼技術だ。

大阪ガスが、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術として2020年11月、石炭フロンティア機構(JCOAL)と共に研究開発に着手した「ケミカルルーピング燃焼技術」。バイオマスや褐炭などの低品位石炭といった未利用資源を燃料に、酸化鉄が循環しながら三つの異なる化学反応で二酸化炭素(CO2)、水素、電気の3種類の有価物を生成する技術である。バイオマスを用いた場合、水電解よりも安くグリーン水素を提供できる可能性を秘める。

ケミカルルーピング燃焼プラントは、①酸化鉄と空気中の酸素が反応し、発電用の高温蒸気を生成するための熱が発生する「空気反応塔」、②酸化鉄中の酸素が燃料と反応しCO2を発生する「燃料反応塔」、③燃料との反応で一部の酸素を失った酸化鉄が水蒸気と反応し水素を発生する「水素生成塔」―で構成され、酸化鉄が①~③の反応・生成塔を循環することで連続的に各反応が進行する。

脱炭素に向けた革新的技術として期待されている

同社は昨年12月、このケミカルルーピング燃焼プラントのコールドモデル装置を、カーボンニュートラル技術の研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ」(大阪市此花区の酉島地区)内に設置した。2023~24年度に計画しているベンチスケール実証試験に向け、その試験に用いる装置の設計に必要な、酸化鉄粒子の循環流動特性に関するデータを取得するためだ。

コールドモデル装置は高さ約10m。実際に化学反応させるベンチスケール実証試験装置は温度が900℃に達するため金属で製作することになるが、同装置は酸化鉄の動きを観察するために内部を目視できるよう透明なアクリル樹脂でできている。ベンチスケール実証試験装置の規模は、燃料投入量にして300kWであり、コールドモデル装置と同程度の高さとなる予定。300kWの燃料を投入した際、理論上は1時間に水素を35?、CO2を0・1t、電気を30 kW時製造できるという。これは、25年度以降に同社が商用機として導入しようとしている設備規模の10~100分の1のスケールに当たる。

昨年12月に設置した燃焼プラントのコールドモデル装置

未利用資源を有効活用 最適なプロセス探る

ケミカルルーピング燃焼技術の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けた事業。燃料を空気で燃焼させると、排ガスに窒素やNOXが大量に混ざるが、酸化鉄中の酸素で燃焼させることで排ガスにそうした成分が混ざらず、追加設備を導入することなく高純度のCO2を回収することができる。

一方、燃料となるバイオマスや低品位石炭に含まれる灰やタールへの対策、水素生成に適した酸化鉄や反応条件の探索が実用化への大きな課題で、これらの課題を解決するための要素技術開発を行い、ベンチスケール装置で一連の反応を問題なく進行させられることを実証することが、同事業の目的だ。

ガス製造・発電・エンジニアリング事業部ガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの植田健太郎副課長は、「当社グループとしては、同事業の成果をもとに、バイオマスを燃料に、グリーン水素、グリーン電力、バイオ由来CO2を製造する装置として商用化し、各製品の需要家のカーボンニュートラル化に貢献することを目指しています」と語る。

バイオマスを燃料に水素、電気、CO2を製造するケミカルルーピング燃焼は、世界でも初めての取り組みだ。

2つのビジネスモデルを視野 水素とCO2の地産地消も

ビジネスモデルとしては、工場に本技術によるプラントを導入し、同社がエネルギーサービスを行うことや、同社グループが集中型のプラントを建設して各種製品を市場に販売することなどを視野に入れている。工場などに導入すれば、製造設備をCO2フリーの電気で稼働できるだけではなく、産業用途での水素やCO2の地産地消も実現できるというわけだ。

カーボンニュートラルリサーチハブでは、①都市ガス原料の脱炭素化、②水素・アンモニアの利活用、③電源の脱炭素化―の三つの切り口で、「エネルギーを〝つくる〟技術」と「エネルギーをうまく〝つかう〟技術」の研究開発に取り組んでおり、ケミカルルーピング燃焼技術は、「水素・アンモニアの利活用における〝つくる〟技術」に位置付けられる。

再生可能エネルギー由来の水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」や、VPP(仮想発電所)による再エネの有効活用といった、さまざまなカーボンニュートラル技術の研究・技術開発を加速させ、複数の選択肢を持ってカーボンニュートラル社会実現に貢献していく構えだ。

【特集2】液体水素の大量輸送時代が到来 供給網を構築した日本の技術力


石炭をガス化し、液体水素に仕上げて豪州から輸送する世界初の取り組みが始まった。ガス化技術や大量水素の船舶輸送技術などは、まさに日本の技術の英知である。

【司会】柏木孝夫/東京工業大学特命教授

【出席者】笹津浩司/電源開発取締役常務執行役員原田英一/川崎重工業常務執行役員水素戦略本部長

柏木孝夫東工大特命教授(左)、笹津浩司電源開発取締役常務(中)、原田英一川崎重工業常務(右)

柏木 第六次エネルギー基本計画に発電用燃料として、水素・アンモニアを1%利用と明記され、また国の2兆円のグリーンイノベーション基金で3700億円が水素向けとなりました。水素を取り巻く環境は重要な局面を迎えています。水素を切り口にした取り組み、加えて両社が協力した豪州からの液体水素調達について、その経緯などを教えてください。

笹津 当社は「J-POWER ”BLUE MISSION 2050”」を昨年2月に発表しました。CO2フリー発電の水力、風力、地熱、原子力を従来以上に加速度的に開発し、加えて水素をキーワードにCO2フリー水素発電の取り組みを打ち出しました。水素は単体では自然界にほとんど存在しません。そのため水電解、あるいはCO2の安定的な処理・利用を前提とした化石資源を改質して作る必要があります。

そのトランジション期では、まずは既設火力へ、長年培ってきた当社技術を導入します。「GENESISコア技術」と呼んでいますが、石炭のガス化・ガス精製、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)を適用し、将来はCO2フリー水素発電を成し遂げる計画です。

原田 当社も「グループビジョン2030」を発表し、環境エネルギー分野では水素やカーボンニュートラル(CN)を推進していきます。振り返ると2009年、政府は、50年に90年比で温暖化ガス80%削減を打ち出しました。当時、当社はLNG船や基地、中小型のガスタービン(GT)などLNGが中心でしたが、今後もこの製品群のままか議論した時、生まれた構想が水素チェーンでした。

水素は液体時にはLNG同様に極低温で、既存のLNG技術やインフラの一部を活用できます。ただ、大量の海上輸送技術がなかったため、この領域に挑戦しました。

LNG発電設備の経験から発電費に占める発電設備アセットはわずかで、大部分が産ガス国に渡る燃料費です。仮に水素に取り組むならばチェーン全域に関わろうと考えました。

まず全体のコンセプトを描き、技術を開発していきました。その際、自前技術にこだわることなく、例えば「石炭をガス化」する工程は、IGCC(石炭ガス化複合発電)実証で技術力のあるJパワーさんに協力をいただきました。また、水素は最終的にサスティナブルな資源になり得るわけですが、その水素源を考えたときに、非常に安価に調達できる豪州の褐炭に注目し、これならば液化して日本へ運べると考えたわけです。

豪州の安価な褐炭に注目 石炭をガス化し液化する

笹津 当社は豪州と親和性があります。日本にとって初めて海外炭となる豪州炭を導入したのは当社でして、もう40年近い歴史になります。また豪州大手オリジン・エナジーと組んでタスマニアでグリーン水素製造の検討を始めるなど、なじみのあるエリアです。そうした中で、褐炭資源を重要な水素源と位置付け、埋蔵量の多いビクトリア州で取り組みました。同州に、褐炭をガス化して水素製造する設備を作りました。小型ですが十分な性能を確認できました。また、バイオマスを約30%混ぜた水素製造も確認しました。

褐炭からガス化する豪州のプラント(「HySTRA, J-POWER / J-POWER Latrobe Valley)

原田 その水素を少し離れた場所まで運び、そこに当社と岩谷産業さんが液化・荷揚げ装置を作りました。1月末に水素をチャージし、液化した水素を船に積んで日本へ運んだわけです。これは液体水素でチェーンをつなぐという世界初の取り組みです。

また、10年以上も前に、ゼロからのスタートで豪州政府との交渉にあたり、長い時間をかけて政府との信頼関係を築いてきました。また本件は、日本、豪州に加えて、ビクトリア州から資金的な援助をいただいており、本当に感謝しています。

笹津 水素製造面でもレギュレーションなどが未整備だったため、政府支援があって進められました。ただ今後は製造した水素を活用するために、われわれの取り組みが国際的に認証されないと、事業化の見通しは立てられません。われわれは「死の谷」は越えたと思っていて、次は「ダーウィンの海」、つまり本格商用化の難しさの局面に来ていると感じています。

柏木 目指す供給価格は。

原田 今回の船体は小さく、船長は100mちょっとです。目指すは300mですので、現状は124分の1の大きさです。これだと運ぶだけで1N?当たり80円から90円で、経済性を確保できません。ところが124倍だと、船価は10倍にもなりません。また天然ガス価格のように大きく変動しませんので、30年にフルスケールを開発し、輸送費を2・5円、トータルの供給費30円を目指します。

専用船によって大量の液体水素を運搬する

笹津 大崎クールジェンのプラントは日量1200tの石炭を使ってIGCCを実証運用しています。これを水素製造として換算すると年間5万t。一方、政府目標は30年で300万tです。そのうち200万tはいわゆる副生水素などと言われているので、真水では100万tです。言い換えれば、大崎クールジェンのユニット20基分で充分達成できてしまいます。

さて話を豪州に移しますと、今後の事業化する場合には国内水素利用だけでなく、豪州域内での利用先もセットで考えていくことが必要です。その際のアイデアがあります。ビクトリア州は面白い場所で、褐炭だけでなく海側に天然ガス田が存在します。実はここからガスパイプ動脈が走っていまして、ここに10~20%の水素を混ぜることができるのです。商用化フェーズを見据えるにあたり、ある程度の事業性を見通すことができます。

動き出すCCSでネガエミ 航空・船舶と広がる用途先

原田 豪州に関して一つ重要なポイントがあります。それはCO2ストレージです。褐炭という安価な資源が存在するだけでなく、CCS(CO2の回収・貯留)ができる非常に恵まれた土地があって、政府はカーボンネットとなるCCSのプロジェクトを推進しています。これは一つの発電所からだけでなく、各エリアから運んだCO2を埋める。加えて最近、日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が本件への参画を決めるなど、豪州のCCSを巡る動きが活発化しています。

柏木 CCSについてはレギュレーションが決まっていません。米国や豪州、インドなどと連携しASEAN10ヵ国を取り込み、日本主導の制度整備が必要です。さて今後の展望や描いているシナリオを聞かせください。

笹津 「GENESIS松島」計画を進めています。稼働から約40年の松島火力にガス化システムを追設します。発電効率が上がり、さらに負荷変化率は1分間で10数%と、非常に機動性に優れたプラントになります。これは何を意味するか。再エネ大量時代では、需給調整の機能が極めて重要ですが、その調整電源としての役割を果たすわけです。

次に、既設ボイラにはアンモニア混焼など、また追設ガス化炉にはバイオマス混合ガス化を適用し、低CO2化を目指します。最後に小規模CCSを敷設すればほぼゼロエミッションできますし、大規模CCSになれば、ネガティブエミッションも実現します。

さて、ゼロエミに向け電力部門では厳しい道のりですが、取り組むターゲットが明確になりつつあります。一方、産業・輸送、民生分野の非電力部門では、電化が困難な分野もあり、完全なゼロエミは難しい状況です。そこで、ネガティブにする技術が必要です。その意味で当社技術が貢献できると思っています。

海外では化石資源を水素転換し、運んで発電燃料などに使う。石炭とバイオマス混合ガス化+CCUSによるネガエミ技術を環太平洋圏で展開するシナリオを考えています。

原田 水素の消費先を確保することが重要で、例えば小規模ですが神戸のポートアイランドで水素専焼のGTコージェネを18年から運転しています。水素は燃焼スピードが速いですが、その辺の技術については問題なく運転しています。これを例にすると、当社では多様な熱需要向けに小型から数万kW級の機種を数多く納めています。これらは、燃焼器を変えるだけで水素転換できます。ですので、まず天然ガスで運転し、安価な水素になればGTはそのまま、燃焼器のみを交換し水素発電できます。

さらに、CN宣言後は用途先の候補は広がっています。航空機や舶用、発電用エンジン、最近ではモーターサイクル向けの話が出ていて、大量の水素が必要になります。当社1社だけでは対応できませんので、今仲間づくりを進めているところです。

また、当社の事業活動で排出されるCO2対策は当社自らが先行して水素発電を導入したり、あるいは再エネと省エネを組み合わせたり、それでも排出するCO2は回収・利用する。30年までにそんなモデルケースを実現し提案したいです。

水素版FITと引き取り保証 予見性高めた制度導入を

柏木 専門企業の立場で、政策的な要望などをお話しください。

笹津 3点あります。当社が関与する水素製造パイロットプラントは成功裏に終わりましたが、事業開発はこれからで、ダーウィンの海を越えるためにどうしても支援が必要です。

 二つ目がCCSです。当社の再エネ設備からのグリーン水素製造はもちろんできますが、大量・安定的に、かつ安価に供給するにはブルー水素が重要です。そうなるとCCUSがマストですが、Uに大きく頼れないので、Sを進めないといけません。ですので国内外を含めたCCS推進に関する事業環境を政策的に整備していただく必要があります。これは民間企業だけでは不可能です。

 それから三つ目です。黎明期のLNG同様、サプライチェーンが発展途上で脆弱な間は、各パートで十分な効率性が担保されないので、結局、水素価格は高いわけです。それを使うための何らかの予見性がないと、事業化は難しい。価格緩和するような制度設計がポイントです。

原田 「エンジンが悪いのではない。悪いのはCO2」というトヨタさんの言葉を借ると、悪いのは石炭ではなくてCO2です。内燃エンジンに携わる方々、化石資源の方々。こうした産業界が、順を追ってトランジションできる仕組みが必要です。どうしても欧州の制度設計の動きは速く、最近では貿易時に、製品製造時のCO2をカウントする国境炭素税を言い出しています。こうした主張に押し切られるのではなく、日本は自国の事情を踏まえた独自の主張を世界へ発信すべきです。

 それから、昨今の国内エネルギー情勢を見渡したとき、太陽光パネルや風力発電設備は中国や欧米勢が中心です。一方、水素は日本が主導できる技術領域です。例えば極低温の液体水素を運ぶ断熱技術。これは100℃のお湯を入れ1ヵ月後も1℃しか下がりません。これはLNGタンクの10倍の性能で、こうした技術をリーズナブルに提供できます。機器の多くを日本企業が提供すれば、自ずと国内に資金が還流します。

 そして今後CNを進める際の負担です。大量のCO2を排出する産業だけが背負うべき負担なのでしょうか。やはり国全体で広く薄く負担する仕組みを作っていただきたいと思います。日本には資源がなく、貿易で外貨を稼ぎ、それで資源を獲得している国ですので、輸出競争力を失わないように進めるべきです。

柏木 CO2フリー水素発電費を市場連動価格買い取り制度(FIP)にする発想もあります。

笹津 発電事業者の電気に限ればそうですね。また妥当性のある燃料価格にするには引き取り保証が良い方策で、自ずと上流投資は進みます。

原田 そうした仕組みは予見性を高め、リスクの高い初期には導入を進め価格を下げられます。期待収益率が低くても事業に着手できるからです。日本の技術投資も進みます。

柏木 いざという時、再エネは力になりませんが、長期間貯蔵できる水素は万が一の時でも発電用にも使えます。これはセキュリティ対策にもなり、広く薄く負担する総括原価で水素を支える仕組みがあってもいいと思います。国情に応じたエネルギーミックスをどう考えるかが国の英知です。本日はありがとうございました。

かしわぎ・たかお  1970年東京工業大工学部卒。79年博士号取得。東京農工大大学院教授、東工大総合研究院教授などを経て、12年から同大特命教授・名誉教授。政府のエネルギー関係の審議会委員。

ささつ・ひろし  1986年筑波大大学院環境科学研究科修了、電源開発入社。2003年技術開発センター水素・エネルギー供給グループリーダー、16年執行役員技術開発部長などを経て20年取締役常務執行役員。

はらだ・えいいち  1981年慶応大工学部卒、川崎重工業入社。2004年技術開発本部技術研究所熱技術研究部長、15年執行役員技術開発本部副本部長などを経て21年常務執行役員水素戦略本部長。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年3月号)


【東京電力ほか/宅内IoT利用の防災・減災サービス実現へ】

東京電力ホールディングス、東京電力パワーグリッド、足立区は共同で、宅内のIoT機器を活用した防災・減災サービスの実現に向けた実証を始める。このほど、実証に関する協定を結んだ。国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」の採択を受けたもので、国内初の取り組み。具体的には電力センサー機能を持つ「宅内IoT機器」を分電盤内に設置し、電気火災を予兆検知する。検知した場合は、技術員を派遣して対応する。宅内IoT機器を情報のハブとすることで、自治体が持つ防災情報の伝達の効果などを検証していく。足立区は今年度中に5世帯、来年度中に95世帯のモニターを募集する。東電HDがサービスを設計し、東電PGが電力データを収集する。

【東京ガスほか/自治体施設を利用したメタネーション実証】

東京ガスと横浜市は、メタネーションの実証試験に向けた連携協定を締結した。東京ガスは3月から、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で実証を開始する。内容は太陽光発電から水電解装置・メタネーション装置の実力や課題を把握し、カーボンニュートラルメタン製造から利用までの一連の技術・ノウハウの獲得を目指すもの。一方、横浜市は下水道センターなどから、下水処理してろ過した再生水、下水汚泥の処理工程で発生する消化ガス(バイオガス)、排ガスから分離回収したCO2など、環境負荷の低い資源を原料として東京ガス側に供給していく。こうした一連の取り組みにより、将来の脱炭素化に向けた技術開発を進めていく。

【東芝エネルギーシステムズ/大牟田市のバイオマス発電所が運開】

東芝エネルギーシステムズのグループ会社シグマパワー有明(SPAC)は、バイオマス発電所「大牟田第二発電所」(福岡県大牟田市、22万1000kW)が運開したと発表した。第一発電所は昨年12月に運転を開始しており、これでフル運用となった。同発電所は、2018年11月に建設を決定。SPACが既に運営するバイオマス発電「三川発電所」の隣接地に約200億円を投じて建設された。燃料にはPKS(ヤシ殻)を使用する。同社は太陽光発電、風力発電などの再エネ設備と蓄電池の分散型エネルギーを組み合わせ、発電量予測やリソース制御を行う「再エネアグリゲーション事業」に注力する。大牟田発電所も再エネ電源の一つとして活用し、事業間シナジー効果の創出を図っていく。

【三菱造船/舶用高圧式エンジン向け新システムを受注】

三菱造船は、舶用高圧式二元燃料エンジン向けのLNG燃料ガス供給システム「FGSS」を初受注した。システムは、LNG燃料タンク、ガス供給ユニット、制御装置などで構成されている。省スペースかつメンテナンス性に優れた機器モジュール設計によるカーゴスペースの最適設計、またカスタマイズ可能な独自の制御装置の採用などにより、優れた操作性と安全性の両立に貢献できる。今治造船グループ会社で建造されるLNG燃料自動車運搬船6隻に搭載される予定。

【IHI/アンモニア専焼に特化 ガスタービンを開発】

IHIは東北大学、産業技術総合研究所と共同で、NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」において、液体アンモニア専焼ガスタービンの研究開発に関する実証を行う。期間は2021年度から27年度まで。ガスタービンコージェネシステムからの温室効果ガス削減に向けて、2000kW級ガスタービンでのアンモニア100%専焼技術を開発するとともに、実証試験を通じた運用ノウハウの取得や安全対策などの検証を行い、早期の社会実装を目指す。

【富士電機/蓄電池用パワコン発売 再エネ普及拡大に貢献】

富士電機は再エネの普及拡大に向けて、電力系統の安定化を実現する大容量蓄電池用パワーコンディショナ(PCS)(DC1250V/2600kVA)を発売した。蓄電池の充放電機能を備えている。自社製パワー半導体を搭載し、最大98.2%の電力変換効率で電力損失を大幅に低減。待機時の電力消費量も97%削減する。昨年4月に始まった需給調整市場では、2024年度から電力系統内で需給バランスを調整し周波数を整える取引が開始される。電力系統に直接接続する大型蓄電池の需要の高まりが予想されている。

【住友共同電力/新居浜LNG基地にタンカー入港】

住友共同電力が購入するLNGを輸送するタンカーが、新居浜LNG基地に入港し、荷役を開始した。LNGは東京ガスとの売買契約に基づき購入するもので、基地のタンクは23万kl×1基。同社が7月の営業運転開始を目指している新居浜北火力発電所の主燃料として使用する。発電所は住友化学愛媛工場新居浜地区内に建設中で、化学プラントで発生する副生ガス(水素)も燃料として利用する計画だ。設備は発電効率に優れたコンバインドサイクル発電方式。工場の生産工程で必要なプロセス用蒸気を供給する熱電併給のコージェネレーションを構築することで、最新鋭のLNGコンバインド発電設備より優れた総合熱効率になる。省エネやCO2排出低減を実現する。

【大阪ガスほか/地元電源活用で再エネの地産地消】

大阪ガスとJR九州は、佐賀県内の駅舎に再エネ電気を供給することで合意した。Daigasグループが保有する佐賀県内の肥前・肥前南風力発電所(1500kW×20基)を利用し、非化石証書を組み合わせて再エネ電気をJR筑肥線の10の駅舎に供給する。大阪ガスの代理店となるDaigasエナジーが販売を担当。料金メニューはRE100の要件を満たす「D-Green RE100」となる。この取り組みによって、地元産の再エネ電源による「再エネ環境価値の地産地消」を実現する。

【中遠ガス/水道・ガスメーター活用 高齢者見守りの実証】

静岡ガスのグループ会社である中遠ガスは1月から約1年間、掛川市内の高齢者世帯13戸を対象に水道と都市ガスの使用量データから生活動向を24時間確認する実証実験に参画した。このような手法を見守りの用途に活用する取り組みは、静岡県内初の試み。今回の実証実験では、スマートメーターを取り付け、見守りサービスの有効性を検証する。

【古河電気ほか/EVでまちづくり 鉛蓄電池を供給】

古河電気工業と古河電池は、佐賀県上峰町と九州電力グループの連携協定における「EVを中心としたまちづくりプロジェクト」に対し、バイポーラ型鉛蓄電池を供給する。両社は、協定の目的に賛同し、このプロジェクトを通じて、EVなど電気を活用したまちづくりと、蓄電池を活用した災害などの緊急時における電力レジリエンスの強化に貢献していく。

【エア・ウォーターほか/ハイブリッド冷暖・給湯 省エネ大賞受賞】

エア・ウォーター北海道は、リンナイ、コロナと共同で、2021年度省エネ大賞の製品・ビジネスモデル部門で、省エネルギーセンター会長賞を受賞した。受賞した製品は、3社が共同で開発した寒冷地向けハイブリッド冷暖房・給湯システム「VIVIDO(ヴィヴィッド)」だ。LPガスのボイラーと電気式のヒートポンプを組み合わせた設置の制約もないハイブリッドシステムにより、ガスと電気の特性を発揮する。快適性、省エネ性、経済性、環境性を高いレベルで実現したことが高く評価され、同賞の受賞につながった。

【特集2】欧州から見た再エネ・水素事情 将来の安定供給に懸念強まる


【インタビュー: 髙木愛夫/火力原子力発電技術協会技術部長】

再エネや水素を進める欧州事情の中で、現地の事業者は何を思っているか。毎年、欧州発電事業者との技術会議に参加する火力原子力発電技術協会に話を聞いた。

―昨年、欧州大規模発電事業者技術協会(VGB)が主催する火力技術会議に参加されたようですね。

髙木 はい。VGBは大型火力を保有している欧州電力会社が主体の組織で、日本の重電メーカーなどの現地法人も加盟し、33カ国437法人が会員です。当会はパートナーという立場です。毎年、欧州各国の発電事業者の技術交流を目的に会議が開催されており、私は2017年から毎年参加しています。

―当時の様子はどうでしたか。

髙木 電力団体であるユーロエレクトリックの方が「これからは再生可能エネルギーの時代だ。研究開発についても再エネに全てを投資しよう。ゆくゆくは石炭火力を廃止していく」と講演していました。ところが、会場は「石炭火力をなくし、再エネだけで電力の安定供給を担えるわけがないだろ」と白けたムードでした。

―講演者は電気事業のプロですよね。

髙木 そうです。EUのエネルギー政策に携わっている方です。そういう方の講演だったのに、会場は「とんちんかんなことを言っている」という雰囲気でした。ところがその翌年、また同じ人が同じような内容の講演をしたのです。

―会場の反応はどうでしたか。

髙木 静かで、否定的な反応はありませんでした。火力発電事業者は再エネと共存していこう、という意識がすごく強くなったのかなと感じました。18年当時は、「火力の調整力」というキーワードがスポットを浴びていて、VGBは「フレキシビリティーツールボックス」という技術書を出版し、火力の調整力を高めるにはどういう技術が必要か、そんな議論を深めようとしていました。

ドイツに「右へ倣え」 再エネ資源を海外に求める

―石炭産業が主力のポーランドはどういうスタンスなのでしょうか。

髙木 私の感覚としてはポーランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、チェコなどはドイツに「右へ倣え」です。国家規模が小さい各国がユーロ圏で生き残るには、ドイツには逆らえないという感じです。例えばチェコはドイツ同様に38年に石炭を廃止するプランでしたが、ドイツの前倒しを受けて、チェコも踏襲します。

―フランスはいかがでしたか。

髙木 それが、面白いのです。EDFの人がいて話をすると、「各国いろいろな事情があるから、政策は各国に委ねるべきだ」と。「日本は石炭を廃止するか決めていない」と伝えると、「そういう姿勢のままでもいいのではないか」という感じでした。あくまでも個人の意見ですが。

―ドイツはいま再エネを中心とした政策を展開しています。

髙木 確かにそうですが、再エネリソースは限られています。英国やスペインに洋上風力を作りドイツへ持ってくる、あるいは、北アフリカの風力や太陽光の再エネ資源を活用する。当然輸入です。なので「自国で再エネは賄えない」とドイツ人自らはっきりそう言っています。最終的には再エネからグリーン水素を作って運ぶ。各国でそんな検討をしています。

―欧州の水素利用はどのようなものですか。

髙木 製造業、電力、輸送用燃料、ビルディング(冷暖房)、輸出用などですが、国によって異なります。英国は産業用途がメインですね。ロシアは自国の天然ガスパイプラインを使った輸出用として考えています。

石炭火力無き不安感 安定供給の責任は系統側

―日本のエネルギー政策はどのように受け止められていますか。

髙木 一部の有識者が集まるような会議と、私がこれまで参加してきた会議は趣が全く異なります。前者はEUの中枢部にいる人たちで、「石炭がなくても困らない。再エネを進めよう。グリーン水素を世界中から集めよう」という考え方です。

 一方、私が参加してきたのは、あくまでも電力会社の現場をよく知る人たちの会議で、ビジネスベースで話をします。そういう方にとって、日本は極東の島国という印象しか持っておらず、日本のエネルギー政策について興味を持っているのは一部の方だけです。

―会議に参加して得た教訓は。

髙木 日本は、欧州の取り組みを意識しすぎないほうがいいと思います。日本の電力ネットワークは海外とつながっていません。資源も海外に依存しています。こうした日本の当たり前の事情を踏まえて議論すべきだと思います。また、会議に参加していて印象的だったのは、電力の現場を知っている皆さんと個別に話していくと、セキュリティー・オブ・サプライというワードを必ず口にします。「本当にこの先の安定供給は大丈夫なのか」と懸念していました。

―発電事業者側が今後、どうしていくべきか模索しているのですか。

髙木 模索できないわけです。目先では再エネを増やし、将来はグリーン水素を世界中から集めますが、その水素にしても、安定供給を前提としている場合、50年の時点では足りないことは明白です。いま進めている計画はステディーではなく、リスキーということは、現場を知っている人間は理解していて、「そういうときにどうやって電気を供給し続けられるか」と懸念しているわけです。

―懸念で終わらせてはいけませんね。

髙木 長期的な安定供給に責任を負うのは火力発電事業者側ではなく、系統運用者(TSO)側になります。系統側が電源を確保しておかないといけないわけで、その仕組みの中で発電事業者が対応するわけです。「本当に石炭を廃止して大丈夫なのか」と懸念を抱きつつ、「代替の電源を確保しておく責任はわれわれではない」と。次の火原協との交流会議はセキュリティー・オブ・サプライが議題の一つになると思います。

―石炭は残すべきですか。

髙木 使えるものならば、有効に使うべきですし、アンモニア混焼なども進めるべきです。日本の石炭火力の性能は、諸外国に比べてはるかに優れています。長い歴史から見ると、欧州は酸性雨の対策を解決できませんでした。だから石炭火力が減ってきた。ところが日本の煤煙処理技術は優れていて、NOXやSOX問題を解決できたため石炭を残せた。

―現在の日本の自動車産業と構図が似ていますね。

髙木 FCVを開発できなかった欧州勢がEVシフトした。欧州の方の「トヨタはすごい。VWは駄目だ」と言っていたことが印象的でした。

たかぎ・よしお  1978年東京工業大学入学。84年に同大総合理工学研究科修士課程を修了し、日本鋼管入社。95年に東京電力に入社し、電力技術研究所で流通設備などの技術開発に携わる。16年から現職。

【特集2】中国や韓国のニーズに応える 高付加価値機種の開発に注力


【トキコシステムソリューションズ】

ディスペンサーを手掛けるトキコは、国内だけでなく中韓にも市場を広げている。低コスト化が進む充てん設備で、今後はデュアル式などの高付加価値化に力を入れていく。

水素ディスペンサーの開発・設計から製造、水素ステーション(ST)に関わるエンジニアリングやメンテナンスを一気通貫で手掛けるトキコ。ディスペンサーはネオライズというネーミングで、最近では東京晴海水素ST、高輪ゲートウェイ水素STなどエネルギー事業者が運用するSTを受注。また、四国では地元民間企業が、独自に建設・運用するSTをサポートするなど、全国にトキコディスペンサーが普及している。

「水素関連設備は本社が販売しますが、保守などの対応は、全国にある当社販売網を活用します。水素STが全国に広がる中、どのような場所でもサポートできる体制にしたい」。営業本部インフラ・エンジニアリング営業部水素グループの中井寛マネージャーは話す。

そんなトキコは今、海外普及にも注力する。エリアは中国や韓国だ。昨夏、中国・上海の「水素ステーション設備展」に出展。そこでは、35MPaと70MPaの二つの圧力に対応する2ノズルタイプの「デュアル水素ディスペンサー」を参考出品で展示した。これまで、安全性や耐久性などの品質管理に厳しい日本で開発しており、中国や韓国の政府や企業からは日本品質製品を評価してもらっているそうだ。

「特に韓国のニーズは旺盛です。国を挙げてSTを整備しています。そのスピードは日本より速いと思います」。販売については、現地の代理店を通じて、ディスペンサー単体の販売を進めている。

大型画面やデュアル式 十分に進んだ低コスト化

3月から東京ビッグサイトで始まる水素・燃料電池展では新たなコンセプトモデルを展示する。昨年の同展では、将来のセルフ式対応のSTも視野に入れた「大型ディスプレイ」モデルを展示。本モデルについて来場したユーザーからヒアリングし、「外観がシンプルになった」「ディスプレイのタッチパネルはガソリン計量器と同じデザインタッチなので分かりやすい」といった評価を得たそうだ。

「ディスペンサーの価格自体はこれまで低下に次ぐ低下で、下がり切っています。今後は『大型ディスプレイ』のようなアプリケーション開発や中国で展示した『デュアルディスペンサー』のような付加価値を高めた開発に移っていくと思います」

高速道路や一般道路、空港や工場など地点ごとに果たすSTの役割は自ずと異なる。デュアル式は、通常圧力のFCV向けや低圧力のフォークリフトなど、異なる圧力の車両に同時充てんできる特徴を持つ。そうしたことから、トキコのデュアル式は、多様な車両が利用するSTにとって最適なディスペンサーとなりそうだ。

FC EXPO2021春モデルの充填機

※1月28日、岩谷産業がトキコシステムソリューションズを買収すると発表しました。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年2月号)


【東京ガスほか/CN都市ガス供給を茅ヶ崎市に報告】

東京ガスは神奈川県茅ヶ崎市の佐藤光市長に対し、東邦チタニウム茅ヶ崎工場にカーボンニュートラル(CN)都市ガスを導入したことを報告した。本件は神奈川県で初めての事例。供給量は年間約55万㎥。CO2削減量は年間約1500t。CN都市ガスは天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの過程で発生する温室効果ガスを、CO2クレジットで相殺することで、燃焼してもCO2が発生しないと見なされるLNG。東京ガスは「CN都市ガスは50年の脱炭素社会実現に向けた『トランディションエネルギー』として大きな期待が寄せられている。低炭素・脱炭素に向けた地に足を着けた取り組みの一環として活用してもらうと同時に、引き続きさまざまな連携をしていきたい」としている。

【東芝/再エネ利用の最大化を図る市場取引のAIシステム】

東芝は、再エネアグリゲーター向けに、AIシステムを活用した「電力市場取引戦略AI」を開発した。インバランスを回避し、市場取引での収益確保を支える。同社独自の「再エネ発電予測」技術を活用し、日本卸電力取引所の過去のデータから市場価格を予測する。再エネ発電量と市場価格の各予測値を組み合わせてマーケットリスクやインバランスを回避する独自のアルゴリズムを開発した。スポット市場と時間前市場における売り入札量の最適な割合をAIがはじき出す。この技術は、昨年12月から開始した経産省の再エネアグリゲーション実証事業で採用されている。東芝は発電出力変動に課題を抱える再エネ電源を、安定的な供給源とすることで、再エネ主力化を支えていく。

【Daigasエナジーほか/天然ガス・RPFが燃料の低炭素発電所を建設】

大阪ガスの子会社、Daigasエナジーは、東洋紡の岩国事業所(山口県岩国市)で、石炭火力発電所(1972年竣工、1万480kW)を低炭素電源へ切り替える更新工事を始めた。石炭から天然ガスと古紙および廃プラスチック類を主原料とした固形燃料(RPF)に転換。新設の発電所は2023年10月に運転開始予定。両社がエネルギーサービス契約を結んで、省エネ、低炭素化に資する高効率のガスタービンコージェネを導入し、Daigas側が電気と熱を供給する。燃料インフラでは、LNG貯槽(175kl)を5基新設する。新設の発電所では脱石炭の実現と本システムから発生する高温排ガス、LNGの冷熱を有効利用する省エネ制御が可能となり、年間約8万tのCO2排出量を削減する。

【大林組/スマートEMSを開発 トヨタ水素発電施設に】

大林組は、燃料電池や水素混焼型ガスエンジンなど運転の特性が異なる機器を最適に運転させるためのスマートエネルギーマネジメントシステムを開発した。トヨタ自動車の工場用自家発電設備の実証サイト、水素発電パークに導入。近接するパワートレイン3号館(PT3号館)に供給する電力と熱の最適管理に向け運用している。電力や熱の需要に合わせて環境性、経済性、水素利用量のどの項目を優先させるかをオペレーターが設定できる。PT3号館は環境評価指標であるLEEDの認証を取得している。

【清水建設/常温常圧で水素を貯蔵 太陽光の余剰でCO2削減】

清水建設は産業技術総合研究所と共同で、建物附帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を開発。郡山市総合地方卸売市場(福島県)内で、2年間の実証運用を経て、電力由来のCO2排出量を53%削減できることを確認した。太陽光発電の余剰電力を利用して水素を製造・貯蔵する。必要時に抽出して電力に変換する最先端の水素エネルギー蓄電設備だ。常温常圧で水素を吸蔵・放出する独自の水素吸蔵合金を利用しており、安全でコンパクトに水素を貯蔵できる。同社北陸支店の社屋内に実装し、実用化を目指す。

【日鉄エンジニアリング/東広島市にごみ処理 余熱による電力を供給】

日鉄エンジニアリングはこのほど、代表企業を務めて運営する「広島中央エコパーク」で廃棄物を処理する際に発生する電力を、東広島市と学校給食センターのほか21施設に供給する契約を締結した。契約電力は合計3163kW。広島中央エコパークは、高効率ごみ発電施設に汚泥再生処理センターを併設し、昨年10月に運営を開始した。東広島市のほか、周辺自治体で発生するさまざまな一般廃棄物を安定的に処理し、最大限に資源化することができる。

【岩谷産業ほか/水素・LPガスを混合 導管に注入して実証へ】

岩谷産業は、福島県でガス事業を手掛ける相馬ガスホールディングスと共同で、水素とLPガスの混合ガスを導管に供給することを目的とした検討を始めた。水素の混合技術、CO2削減効果、コンロや警報器などの性能や安全性を検証していく。将来は、相馬ガスのガス導管を活用して、エリア内の約500戸を対象とした実証を目指していく計画だ。

【グランフロント大阪/全電力を再エネ由来 関西大型複合ビルで初】

グランフロント大阪は、9月から施設内で使用する電力を全て再エネ由来に切り替える。関西エリアの大規模複合施設では初めてのことだ。この施設では20年度実績で約8000万kW時の電力を消費しており、今回、再エネ電力へと切り替えることで年間で約2万5000tのCO2を削減する。関西電力が調達する非化石証書付きの電力を活用する。

【住友電気工業/自社プラットフォームによるEV実証を開始】

住友電気工業は運営するプラットフォーム「Open Vehicle-Grid Integration Platform(OVGIP)」を利用して、米Xcel Energyと自動車メーカー4社がEV(電気自動車)充電実証実験を開始したと発表した。EVの普及を想定し、蓄電池をスマートグリッドの一要素ととらえ、系統安定化や送配電線の混雑緩和などに利用する。実証実験では、自動車メーカーが通信するデータや信号を使用しEVの充電時間を遠隔管理。利用者が電力需要の低い時間帯に充電することを促す。

【イーモビリティパワー/水素・LPガスを混合 導管に注入して実証へ】

イーモビリティパワー(四ツ柳尚子社長)は2021年末、横浜市の首都高速道路・大黒パーキングエリア(PA)に、国内で初めてEVなどを6台同時に充電できる新型急速充電器を設置した。総出力は200kWで、1口最大90kWのスピード充電が可能となる。その特徴はパワーシェアリングによる効率運用で、接続中のEVの状態に合わせて充電器出力をシェアするもの。また、新型充電器は「2020年度グッドデザイン賞」を受賞している。同社は、今後も高速道路PAでの設置を増やしていきたい考えだ。

【北海道電力ネットワークほか/灯油タンクの残量監視センサーを開発】

北海道電力ネットワークとゼロスペックは、電力スマートメーターに通信可能な灯油タンク残量センサー(スマートオイルセンサー)を開発した。3月末まで通信状況の実証試験を行う。一般的に灯油の配送は、定期的配送または顧客の灯油残量確認・依頼に基づいている。実証では配送事業者がタンク内の残量データを検知するスマートオイルセンサーを活用し、給油時期の適正化や効率的な配送ルートの設定など、計画的な配送につなげる。電力スマメは北海道内の広範囲に敷設されているため、ほぼ全域での活用が見込める。寒冷地の北海道では重要なライフラインである灯油の供給について、人口減少や高齢化による配送の担い手不足などにより、効率的な配送が求められている。

【特集2】室内からアウトドア向けまで ガスを使った嗜好品の数々


キッチンライフの充実化やアウトドアへのニーズなど家庭用機器への期待はさまざまだ。そんな多様な嗜好に応えようと、各社は技術や発想に磨きをかけている。東邦ガス、リンナイ、岩谷産業の取り組みを追った

新発想で挑んだ商品開発 クラウドファンディング利用の成果

東邦ガス

東邦ガスはクラウドファンディングを利用して商品開発を行った。多機能減圧鍋「グルミール」で行った取り組みは注目されそうだ。

東邦ガスは新たなニーズに応えられる商材を提供するべく、ユニークな仕組みのテストマーケティングを活用した商品を開発した。その仕組みとは「クラウドファンディング(CF)」だ。正式に商品化する前に試行販売(1個当たり1万円程度)という形で応援購入者を募り、目標金額に到達したらニーズがあると判断し商品化する。応援購入者には開発した商品を還元する。こんなフローによって商品化されたのが、多機能減圧鍋「グルミール」だ。エネルギー業界で、こうした仕組みで商品化をした例は初めてと言っていい。

ニーズに合った商品化 売れないリスクを低減

これまで東邦ガスではガス機器や床暖房などのガス関連設備の開発をした経験はあるが、鍋のような家庭用商品を開発したことはない。そんな初商品を、なぜCFで商品化するのか。技術研究所家庭用技術総括の佐宗洋子次長は次のように説明する。

「テストマーケティングの意味合いが強いです。試作品や商品コンセプトをCFサイトに掲載して、応援購入者がどの程度集まるかによって、われわれが考えたコンセプトに本当にニーズがあるかを測ることができます。同時に商品化したけれど売れないというリスクを低減します。加えて、お客さまのご質問やご要望を商品化の際に反映しブラッシュアップできます」。そんな経緯で生まれたのが今回の多機能減圧鍋だ。

製品開発には、「ガスコンロを楽しく使ってもらう」ということをコンセプトに据え、鍋メーカーの北陸アルミニウムと共同で取り組んだ。

最大の特長は、鍋内部の圧力を下げることで鍋を加熱し続けなくても沸騰状態を維持することが可能な「減圧鍋」であること。煮物料理などをつくるときに具材の煮崩れが少ない、味が染み込やすい、加熱時間が短縮できる―といったメリットがある。また無水調理にも対応する。

炊飯においては、メーカー各社から自動炊飯機能を搭載したガスコンロが販売されているものの、専用炊飯鍋は自社製コンロにしか対応しておらず、汎用性に課題を抱えていた。そこで、東邦ガスはコンロメーカーの協力を得ながら、各コンロの火力の強弱や燃焼具合を確認。各種チューンアップして、あらゆるコンロの自動炊飯機能に対応した。

このほか、重量は1.5㎏と、調理の時短に定評がある圧力鍋や、鉄鋳物でできた無水鍋に比べて軽量。吹きこぼれが起きにくい形状にしたり、鍋内部の目盛りが目立たないようにしたりするなど、機能性と意匠性を両立できるよう鍋メーカーやデザイン会社と研究し、そのまま食卓に置いても違和感のない商品に仕上げた。

目標金額を1時間半で達成 第三弾の商品開発も計画

CFを利用した商品化に対して、社内からは「面白い」との反応が多く、トントン拍子で企画が進んでいったという。一方で、「本当に売れるのか」(佐宗次長)との不安がよぎったものの、ふたを開けてみれば、商品化が成立する目標金額の100万円は支援の募集を開始してからわずか1時間半で達成。最終的には1000万円を超す応援購入を集めた(募集は終了)。今回利用したCFサイト「Makuake」内でもかなりヒットした商品だといい、ホームページ内でも大きく扱われていた。

グルミールは、今年6月下旬から東邦ガスの公式ウェブショップや販売店「エネドゥ」店頭で販売する予定という。

さらに、東邦ガスでは、第二弾として、太陽熱を蓄えて繰り返し使えるエコな防寒マットの試行販売を行い、こちらも目標金額を達成した。

佐宗次長は、「CFで新しい商品の開発に挑戦できることが今回の取り組みでよく分かりました。開発を進めることでデザイン会社や鍋メーカーなど、これまで付き合いの少なかった人たちと協力することができ会社としての視野も広がります。挑戦を続けることで、生活を豊かにしたいですね」と、第三弾の商品開発も計画しているという。 暮らしを便利にする商品開発の新しい方法として、CFを採用した東邦ガスの取り組みは、業界から注目されそうだ。

第2弾となった防寒マットは太陽熱利用のエコな商材だ

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年1月号)


【関西電力他/EV走行中給電システムの制御技術を開発】

関西電力、ダイヘン、大林組の3社は、「電気自動車(EV)走行中給電システム」の技術開発に取り組む。NEDOの助成事業に採択された。このプロジェクトは、道路に埋め込んだコイルと、EVに設置したコイルとの間で、電磁誘導の原理で送電するもの。EV走行時に給電することで、走行距離の延長や、充電の利便性の向上を目指していく。また、走行中の給電システムと都市全体のエネルギーマネジメントシステムの技術開発にも取り組む。EV車両の位置情報や再エネ発電量などの電力需給情報を取得し、給電システムからEV車両へ最適な給電制御を行う。こうした仕組みによって、昼間に余剰となる再エネ電気の有効活用につなげていく考えだ。

【東京ガスほか/水素燃焼式の電池向け焼成炉を世界で初めて開発】

東京ガスは、ノリタケカンパニーリミテド、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と共同で、世界で初めて水素燃焼による、リチウムイオン電池向けの焼成炉、「ネロー」を開発した。ネローは、ノリタケの焼成炉技術と、東京ガス・TGESの水素燃焼技術を融合させたもの。水素を燃料として、リチウムイオン電池電極材の製造工程で1000℃以上の安定した熱処理を行うことができる。水素専焼による高温焼成はNOxが発生しやすく安定した加熱などに課題があったが、独自の燃焼技術によりNOxの発生を抑制した。耐久性に優れたバーナーで安定加熱が可能となり、商品化が実現した。焼成時のゼロカーボンを実現する装置となる。

【電力中央研究所/カーボンニュートラル実現に向けた各種研究を紹介】

電力中央研究所はこのほど、「研究報告会2021」を有楽町朝日ホール(東京都千代田区)で開催した。報告会は昨今の新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて、これまでの報告会で初めて会場参加とオンライン配信を併用して開催。オンラインには800人以上の申し込みがあった。開会の挨拶に松浦昌則理事長が登壇。プログラムでは、基調講演として『「2050年カーボンニュートラル」への挑戦~実現に向けた課題と取り組み~』のプレゼンテーションを筆頭に、ゼロエミッション火力実現の概況、原子力の利活用、CO2を資源として循環させるカーボンリサイクル、カーボンニュートラル実現に向けた系統網の形成―など、電中研で進めている研究や取り組みを紹介した。

【三菱造船・商船三井/液化CO2輸送船の概念研究を完了】

三菱造船と商船三井は、液化CO2の輸送船(LCO2船)に関するコンセプトスタディー(概念研究)を完了した。LCO2船は、大気中や産業で発生するCO2を分離・回収し、貯蔵・利用するCCUS(CO2回収・利用・貯蔵)を行う際に、貯蔵および利用拠点まで輸送する役割を担う手段として、将来的な需要拡大が期待される。両社は今後も三菱造船のガスハンドリング技術と、商船三井の運航に関する豊富な知見を統合して、船舶によるCO2輸送技術の開発を促進していく。

【IHIほか/再エネで水素の製造・利活用の実証開始】

IHIは、北九州パワー、北九州市、ENE

OSなど5社と共同で、自治体新電力による地域の再エネを活用したCO2フリー水素の製造・供給の実証事業に取り組んでいる。このたび、複数の再エネを同時制御する「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム」を活用した水素製造の実証試験を開始した。発電量変化の特性が異なる複数の再エネから水電解装置で効率よく水素を製造。サプライチェーンで運用し、低コストなCO2フリー水素の製造・供給モデルを構築する。

【東洋計器/70周年記念誌を発行 ヒット商品誕生秘話も】

東洋計器はこのほど、創業70周年を記念した周年誌「東洋計器70年史」(全17章、639ページ)を発行した。同誌では1999年度から2020年度までの事業内容を振り返るほか、ハイブリッドカウンター「HyC―5」、メーター向けIoT端末「IoT―R」、水道スマートメーターへの参入など、同社が手掛けてきたさまざまなプロジェクトストーリーなどを掲載している。

【レモンガス/LPガスの配送技術 認定審査で技を競う】

LP販売のレモンガスは、LPガス容器の優秀な配送員を認定する審査を実施した。認定審査を受けたのは30~50歳代の計9人の男性たち。制限時間の10分以内に、50㎏の容器を持ち運んで取り換え設置する。審査員は、安全に容器を設置できたか、顧客への作業完了を報告したか、同社が手掛ける電気販売を提案していたかなどの項目をチェックした。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2021年12月号)


【東京電力ホールディングス他/災害時の再エネ利用拡大実証】

東京電力ホールディングス、東京電力エナジーパートナー、ヨークベニマルの3社は、再エネや電気自動車(EV)などを活用した災害時向けの電力供給システムの実証を始めた。「V2X機能付きマルチPCS」と呼ぶシステムを搭載していることが特徴だ。これは直流電源として太陽光発電や蓄電池、EVを接続し、各種電気機器に交流電気を供給する。ヨークベニマルの茨城県内のショッピング店舗を防災拠点に位置付け、停電が長期化する場合に備えて蓄電池の残容量を監視したり、近隣の電力融通が可能なEVの充電量などの情報を取得することで、非常時における電力の安定供給性の可能性を検証していく。非常時の再エネ利用の拡大にもつなげていく。

【JERA他/碧南火力でアンモニアの小規模利用】

JERAとIHIは、JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)5号機で、燃料アンモニアの小規模利用試験を開始した。両社は今年6月から2025年3月までの約4年間、NEDOの助成を受け、大型の商用火力発電機で燃料アンモニアの大規模な利用を行う実証事業に取り組んでいる。24年度に4号機でアンモニア20%混焼を目指す。今回の5号機での燃料アンモニアの小規模利用は、4号機での大規模混焼に用いる実証用バーナーの開発を目的としたもの。バーナー全48本のうち2本を試験用に改造し、材質の違いによる影響や実証用バーナーに必要な条件を調べる。使用するアンモニアは約200t。同発電所敷地内の脱硝用アンモニアタンクから5号機の試験用バーナーに供給する。

【IHI/大型アンモニア受入基地の開発へ】

IHIは大型のアンモニア(NH3)受け入れ基地の開発に着手した。国内ではNH3を火力発電に利用する期待が高まっており、2050年には現在の消費量の30倍となる年間約3000万tの需要が生じると言われている。同社はこれまで培ったNH3の受け入れ・貯蔵技術を拡充することで、輸入する大量のNH3を効率的に受け入れるインフラを早期・低コストで確立したい考えだ。受け入れ基地の開発のため、燃料NH3の大量需要が見込まれる地域を想定し、運用と防災に関する設計条件の検討を開始。保有する腐食に関する知見や材料についての実験技術を利用して基地の大型化を進める。25年ごろの開発完了を目指す。LNG級となる大型NH3貯蔵タンクの開発にも着手している。

【住友電気工業/米国海底電力ケーブルが完成】

住友電気工業と住友電気U.S.A.は、米国アラスカ州の海底電力ケーブル更新プロジェクトが8月に完成したと発表した。両社は同州の電力事業者Southeast Alaska Power Agencyから海底電力ケーブルシステムの設計、調達、建設を含めたEPC契約を受注。同州ランゲル近郊のヴァンク島とウォロンコフスキー島を結ぶケーブルを既存の138kVOFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)から環境保全性に優れた69kVのXLPE(架橋ポリエチレン)ケーブルに更新した。

【ヤンマーエネルギーシステム/複数の再エネで脱炭素】

ヤンマーエネルギーシステムは、「琵琶湖カントリー倶楽部」で、ゴルフ場としては日本で初となるカーボンニュートラルを今年度中に実現する。太陽光発電や木質チップを燃料としたバイオマスボイラーで施設内のエネルギーを供給する。ヤンマーの独自技術によるエネルギー制御システムで、CO2を削減する。大阪ガスから新設の非FITを中心とした再エネ電気を活用。さらにJクレジットを使うことで、実質CO2ゼロを実現する。この技術をもとに、同社はCNによるエネルギーサービスを目指す。

【大阪ガス/タイ衣料工場でガス転換】

大阪ガスのグループ会社である大阪ガスタイランド (OGT) 社は、パルファンテキスタイル社と、ガス供給の契約を結んだ。パルファン社がタイで操業している衣料品製造工場向けにCNG(圧縮天然ガス)として供給する。工場で使用している石炭だき水管ボイラーを高効率なガスだき貫流ボイラーに交換し、温室効果ガスを削減する。OGTは、工場へのCNG供給設備とガスだきボイラーの設置工事を進め、来年7月からの供給開始を目指す。CNGはトレーラーを活用して供給する。OGT社にとって石炭からの転換は初。

【商船三井他/アンモニア燃料の大型輸送船を開発へ】

商船三井は名村造船所(大阪府大阪市)、三菱造船とともに、大型のアンモニア(NH3)郵送船を共同開発することで合意した。船舶の燃料もNH3を採用する。NH3は燃焼時にCO2を排出しない次世代のクリーンエネルギーとして火力発電所での石炭混焼利用や、水素キャリアとしての活用を中心に今後大規模な需要が見込まれている。カーボンニュートラルを実現する有力な選択肢として位置付けられており、2030年に300万t、50年に3000万tの年間需要が想定されている。こうした需要増に応えるべく、同社は大型輸送船を開発して社会の脱炭素化に貢献する。NH3を主燃料とする船舶用主機関は開発中であり、発注に向けて3社が協業体制を取り早期の導入を目指す。

【シーメンス・ガメサ/日本法人を2022年に設置】

風力発電機大手のシーメンス・ガメサは、日本市場における事業戦略説明会を実施し、2022年に日本法人を設立する構想を明かした。現在の日本拠点は支店の位置付けだが、22年2月に「Siemens Gamesa Renewable Energy株式会社」を設立する。日本支店を株式会社化することで、国内で進められる洋上風力発電所開発などに対応するべく運営のスピード化を図りたい考え。ラッセル・ケイト支店長は「洋上・陸上風力ともに日本市場の1位を目指す」と意気込んでいる。

【日本ガイシ/ベルギー拠点にNAS電池】

日本ガイシはドイツの化学メーカー、BASFのベルギー・アントワープ拠点に納入した電力貯蔵用NAS電池がこのほど運開したと発表した。BASFの子会社BASF New Business GmbHから受注。NAS電池は最大出力1000kW、容量5800kW時で、コンテナ型NAS電池4台で構成されている。アントワープにあるBASFの統合生産拠点で電力網に接続された。

【ENEOS/米国で高効率ガス火力が運開】

ENEOSは米国子会社を通じて15%の権益を取得する米オハイオ州のサウスフィールドエナジー天然ガス火力発電所が運転を開始した発表した。同発電所は、出力約118万kWの高効率ガスタービンによるガスコンバインドサイクル方式を採用。発電した電力は、米国最大の卸電力市場であるPJMを通じて、米国北東部各州の需要地に供給される。

【ニチガス/神奈川にデポステを開設】

ニチガスが神奈川県相模原市に、県内で3地点目となるLPガス物流拠点「デポステーション」の運用を始めた。同社にとって18番目のデポステとなる。貯蔵量は80tで、主な配送エリアは相模原市、東京都町田市、山梨県上野原市・大月市。画像認証技術で容器のトレーサビリティを実施するゲートを設置。今春完成した「夢の絆・川崎」から出荷することで物流コストを抑えた。「(デポステを)ほかのLPガス事業者と共同で利用する体制を整えている」としており、他社の配送コストの削減にもつなげていく。

【特集2 インフラ保守編】進化するパイプライン運用 人材難や高齢化対策の最適解


熟練技術者の人手不足など、悩みが尽きないエネルギーのインフラ業界。AI活用やデジタル化による高度な運用で悩みを解決する。

【大阪ガス】

埋設管位置をAIが判定する新技術 レーダーでインフラの無傷を目指す

道路の地下に埋設している水道管、下水管、電力・通信ケーブル、ガス管など、日々の生活や経済活動に欠かせない重要インフラ。その状況は、通信インフラのさらなる整備、無電柱化などへの取り組みに代表されるように、年々複雑化している。

道路を掘削するガス工事の際に、ガス管はもちろんのこと、ほかのインフラにも被害を与えてはならない―。そんな使命を胸に、大阪ガスが着目した技術がAIだ。このたび地中レーダーに関する「AI自動判定ソフトウェア」を開発した。

地下状況に応じた探査法 肝となる画像解析

大阪ガスによるガス管の工事現場では、図面情報、磁界で地下のガス管を探査するパイプロケーターと呼ぶ手法、さらに地中レーダーを使用するなど、状況に応じてさまざまなやり方で地下内部を探査している。

一方で課題もある。「埋設状況によっては、その埋設管を示す波形の判定が難しいケースがありました。より正確に波形を特定するには一定の経験が必要でした。そうした課題を背景に、波形の判定にAIを活用する仕組みを開発したわけです」。ガス管工事分野でこの道40年のベテラン技術屋、ネットワークカンパニー導管計画部R&Dチームの綱崎勝副課長は説明する。

レーダーの原理図

埋設管位置把握とAI判定―。このロジックを紐解くには少々複雑であり、まず地中レーダーの原理を知っておく必要がある。レーダーを使った地下探査の際、地上から地中に向けて電波を発射。探査レーダーの走査距離と電波の反射具合から、埋設されている深度を探り当てるもので、山なりの双曲線画像となっている(上図参照)。およそ1・4m程度の深度に埋設されているが、ここで描き出される画像が曲者なのだ。

例えば道路のアスファルトと土壌との境界面、埋設管が重なった場合、あるいは埋設管以外の大きな石や構造物が混ざってしまった場合、さらには粘性が高い土質で信号強度が低下してしまったケースなど、レーダーからの反射の波形が読み取りづらくなってしまう。このほか、地下水の状況によっても変わる。

こうした埋設環境の影響をもろに受ける電波を基に画像から正確な埋設管を読み取るには、綱崎さんのような熟練の技術屋が必要だった。

そこで、熟練者の経験値や頭脳をAIに学習させて画像を判定させようと取り組んだ。

AI活用の二つの方式 スパースモデリングの神髄

まず、大阪ガスが目を付けたのがディープラーニング方式だ。数万枚以上に及ぶ画像のデータから、埋設管の特長を学習させてパイプと非パイプを判定する。つまり数万枚の画像と埋設管を紐付けるわけだ。ただ、このやり方では必要な学習量が膨大過ぎるため、システム構築に時間がかかってしまう。

次に注目したのがスパースモデリングと呼ぶ技術だ。大阪ガスが出資するHACARUS社の技術で、これは目から鱗の仕組みである。綱崎副課長と共に同じチームで技術開発に取り組んできた中森裕明副課長は次のように説明する。

「やみくもに画像を覚えるディープラーニング方式ではなく、あらかじめ埋設管の波形をいろいろな数式を使って定義したのです。こうすることで少量の探査画像から埋設管の特徴を学習できます。また、AIが判定しやすくするために、画像の濃淡を調整処理することで波形画像がより鮮明になるよう工夫を施しました。結果的に、データ数は数百枚程度で済みました」

ディープラーニングとスパースモデリングの比較

技術開発の効果は歴然 水平展開にも期待

大阪ガスでは6月からこのシステムを導入して運用しており、AI以前と以後とではその効果は大きく改善された。

まず「AI以前」となる現場作業では、76%だった現場作業員による埋設管の検出率は、「AI以後」は89%となった。また実際に埋設管ではないものを余分に検出した割合は、36%だったものから8%へと大変な改善効果があった。

どうすればほかのインフラを破損させずにガス管工事を進められるか。そんな保安品質の向上を目指して進められた技術開発。一方で、「36%」の余分検出率からも分るように、地中を掘削しても、ガス管にたどり着けない、骨折り損になってしまう工事が存在していることも事実である。この技術を使うことで作業の出戻りを防ぐ「作業効率の改善」という意味でも、大きな価値はあるだろう。

保安品質と作業効率の向上を実現した大阪ガスの「スマート」な技術開発。他社への水平展開にも期待が持たれる。

【JFEエンジニアリング】

事業者ごとにカスタマイズ可能 管路・施設の維持管理に最適

日本国内のあらゆるインフラで、設備の老朽化が進んでいる。都市ガス導管も例外ではない。維持管理の重要性が増しているものの、保守点検・補修に関わる技術ノウハウは、作業者個人に依存している面が多く、熟練作業者が持つ属人化された技術の伝承が少子高齢化や担い手不足により進んでいない。一方、デジタルソリューションの導入に関して、事業者は業務の効率化や、事業継続の面で理解はあるものの、対象の絞り込みや活用効果の具現化が難しく、先送りされる傾向にある。

これまで、中小規模の都市ガス事業者で導入したシステムは大手事業者のシステムを利用していた。しかし、大手事業者のシステムは設備の大きいインフラ向けのため多機能であり、操作には専門知識を備えた人の配置が必要となる。運用面で中小規模の都市ガス事業者のニーズとミスマッチな部分もあることから、自らの運用状況に合ったシステムを探す事業者が多くいた。

中小事業者のニーズに応える 低コストで維持管理サポート

そうした事業者に向けて、JFEエンジニアリングは管路・施設保守点検システム「Panacea」を販売している。同システムはマッピングシステムの「PLM(パイプラインライブラリーズマップ)」、と保守点検電子帳票の「LANEX-Data」で構成されている。各事業者のニーズに応え、かつ低コストで運用に合った維持管理をサポートする点が強みとなっている。

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Panaceaのシステム構成例

PLMシステムの地図上で維持管理に必要な多くの情報を一元管理できる。都市ガス導管の敷設位置はシステム上で座標管理されているため、正確かつ更新も容易だ。作業者はスマートフォンやタブレットを用いて、座標認識された現場でデータを入力できる。事務所にはクラウド経由で作業者の入力データをリアルタイムで共有できるので有事の際、迅速に対応が行える。さらに、地図上で電気や上下水道、通信など、ほかの工事に関する情報も管理できる。

パイプライン事業部流送設計部の畠中省三技術グループマネージャーは「工事を行う際に必要な埋没物情報は、電気や上下水道といった事業者同士で共有しています。この情報は、ほかの埋没物を破損させないためにも事前把握が重要です。これらを現場にいながらリアルタイムで確認できます」と説明する。

このほか、PLMでは、ハザードマップや断層、災害履歴を重ねて表示することができる。管路の安全制の見える化も可能だ。

LANEX-Dataでは、電子帳票を用いた保守点検が可能であり、データを一元管理できる。現場で報告書の作成ができ、事務所での作業を削減したり、日報を月報に変換するなど、書類作成業務を90%削減できる。さらに、複数箇所から同時にデータを共有・変更できるため、上司など管理者が同時に作業内容を確認し指示や承認を行える。

現場においては、作業効率化に加えて、点検漏れ防止や、精度向上などメリットがある。具体的には、QRコードを用いて電子帳票と点検作業を紐付ける方法がある。施設や工事など、さまざまな対象物に取り付けて連携することで、設備のカタログや取扱説明書を登録したり、即座に電子帳票を開いたり、電話をかけたりすることが実現する。

また、スマートフォンをメーターにかざすとAIが自動でゲージ値を読み取り、点検作業時間を短縮、読み取りミスを防ぐことも可能だ。メーター読み取りの際、あらかじめ設定したしきい値から外れたデータを取得すると、警告を出して運転状況の異常を速やかに知らせる。警告は作業員が確認できるのはもちろんのこと、関係者に自動でメール通知を行い、リスクの共有化も瞬時に可能だ。

ガス営業部プロジェクト営業室の加藤雄三氏は「各事業者へのヒアリングから、デジタル化に向けた動きは行いつつも、現状、多くの事業者が紙ベースでの維持管理を行っています。書類をデジタル化し、ネットワークを利用することで、効率化できることが格段に増えます。加えて、従来の書式と見た目をそろえ、使い勝手の良いシステムとしデジタル化へのスムーズな移行ができるよう構築しました」と話す。

日常点検データを分析 設備の健全性をサポート

都市ガス導管のEPC(設計・調達・建設)で国内トップの実績を持つJFEエンジはパイプライン操業用の「パイプラインSCADAシステム」や非定常流送解析「Win GAIA」などを多くの事業者に導入してきた実績がある。今回、こうした運転に関わるソリューションと合わせて維持管理作業者の運用面をサポートするPanaceaの導入を推し進めている。

さらに、事業者の設備の健全性のサポートも考えている。「例えば、お客さまのパイプでさび汁が出たら、対応策を考え、補修すべきかどうかなど、健全性の評価、補修計画の立案など維持管理支援を行います。」と畠中技術グループマネージャーはアピールする。

その他、日常点検で得られる腐食、割れ、振動、地盤変動や地震による変位などのデータを分析する。次に運転効率や流量・圧力、強度、防食状態、防振性、耐震性などの性能を設計思想に基づき評価し、劣化に対する適正な検査方法、補修方法の提案や補修施工などに対応する。

実際、Panaceaの導入を検討・構築を検討する段階では、都市ガス事業者によって維持管理運用方法がそれぞれ異なるため、「各事業者の作業員の視点に立った工夫が必要です。予算に応じ、事業者ニーズに合致した最適なシステムや通信機能が備わったものをご提案できます」(加藤氏)

Panaceaを裏側で支える同社の「グローバルリモートセンター(GRC)」の存在も大きい。同センターは全国の運営プラントのデータを集約・監視・遠隔運転できる機能を有し、廃棄物処理施設の完全自動運転を実現するなど、JFEの最新ITが集約された拠点となっている。Panaceaのデータ管理もGRCで行われている。

将来的には、同拠点を核に、AI・ビッグデータを活用できるデータ解析ツール「Pla’cello」など同社が有するITソリューションと連携・活用して、都市ガスインフラのさらなる高度化を推し進めていく計画だ。

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スマホでメーターの数値を読み取る

【特集2 設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も


AIやビッグデータの活用で保安の高度化が進んでいる。それだけにとどまらず新サービス創出につながる動きも出てきた。

三菱重工業

目指すは「自動自律化」発電設備の有効活用に貢献

2015年ごろ、業務効率改善やコスト削減などを図るため、ビジネスにおけるデジタル化の気運が高まった。エネルギー分野も例外ではない。同時期に始まった小売り全面自由化と相まって、デジタルを利用した新たな仕組みを導入する動きが加速していた。

世界で81台の火力発電に導入 企業の脱炭素化を支援

三菱重工業では、発電プラントのO&M(運用・保守)ソリューション「TOMONI」の開発に着手、17年から国内外の顧客へのサービス提供を行っている。現在、GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)発電を中心に全世界で81台の火力発電設備に導入されており、高レベルのサイバーセキュリティーを有するクラウド環境を利用して、サービスを展開中だ。現在、火力発電にとどまらず、地熱発電の運用にも利用されている。

TOMONIによるサービスの概略図

近年、同社がTOMONIにおいて注力するのが、「脱炭素化・低炭素化に向けた発電資産の有効活用」と、「業務プロセスのデジタル化による高度化」だ。当初、デジタル化の意義や目的として、効率化やコスト削減などが挙げられてきた。近年は「脱炭素」という目標が全世界的に掲げられている。この動きに追従できる発電設備ソリューションを求める声が高まっているという。

エナジートランジション&パワー事業本部技術戦略室の石垣博康主幹技師は「脱炭素化には長い期間を要します。お客さまには、まず所有する発電設備の低炭素化・デジタル化をTOMONIを使って推進することを提案しています」と語る。

TOMONIを用いた脱炭素化に向けた取り組みとして進めているのが、①脱炭素のための自動自律プラントの実現、②プラントライフサイクルを通じたデジタル活用、③デジタル化による脱炭素化支援―だ。

①では、プラントの運転・保守をAIによって支援する。三菱重工では開発ロードマップを策定、20〜21年ではシステムがO&Mをサポートすること、22〜24年ではAIによって各アプリが学習しO&Mを部分最適化すること、25年以降はAIによって各アプリがリンクして全体最適化を実現する、という3段階に分けて取り組みを進めている。

同社高砂製作所内に実証発電設備を用いて、実装・検証を進めている。既存のプラント運転自動化のアプローチを中心に、ユニット起動過程、運転中のトリップ要因を分析し、事前検査や試験で異常を回避するなど、可用性の向上を図る。また、GTCCで再生可能エネルギーへの負荷追従に対応したり、バイオマスと石炭の混焼、売電や燃料にかかるコストを最適化し、利益の最大化を図るといった取り組みを進めている。石垣博康主幹技師は「多様な燃料への対応について、TOMONIではAIを使ったボイラー燃焼調整システムを提供します。このAIは、三菱重工のエンジニアが24時間そばにいて最適調整を行ってくれる感覚です。GTCCでは、ガスタービンの翼の冷却を負荷追従に合わせて調整したり、脱硫装置も制限値にできるだけ近づけて運用しコスト削減するといったことを可能にします」と説明する。

②では、プラントの建設から運転、リプレースまでを最適化していく。最近、多いのが建設試運転における活用だ。コロナ禍によって海外への渡航が制限されている。そこで建設試運転を行う際、日本の拠点と海外の発電所をTOMONIでつないで、日本から支援した。また、発電所の性能保証において、従来は1カ月分の稼働データを取得・解析し保証していたが、現在はTOMONIを用いてリアルタイム監視したデータを活用して保証している。このほかの業務では、検査記録データの設計利用、プラント性能の劣化監視、トラブル対応支援、点検データ技術文書の管理、トラブル対応支援、遠隔監視、顧客コミュニケーションなどを行う。

発電所では、2、3年ごとに定期検査がある。これまでは現場の損傷データを紙やエクセルなどで管理していた。これをデジタル化し前回の定期検査データを参照しながら、どの箇所の更新作業が必要か、次回に持ち越しても大丈夫か、などを顧客と相談しながら決める判断材料としている。データ管理を行うことでO&Mをより精緻に進めるわけだ。

③では、産業用の顧客向けに、所有する自家発電設備の安定稼働、設備価値の維持と向上を図りながら脱炭素化をサポートしていく。産業向け発電設備では工場で利用する熱をつくり利用することが多い。工場の需要に合わせて熱をたくさんつくると電気が余剰となる。そこで、工場で使用する電力をあらかじめ予測して、翌日に入札して売電し、インバランスもうまく調整するといった仕組みの実証を進めている。さらに、高砂製作所では、設備の状態に応じた負荷運用支援など、より複雑かつ多様な顧客ニーズに柔軟に対応できる発電設備を目指して、開発を進めている。

水素など次世代燃料に対応 蓄電池やCCUSとも連携

脱炭素に向けては、水素やアンモニアといった次世代燃料を火力発電で活用するため、研究開発が進んでいる。加えて、蓄電池やCCUS(CO2回収・転換利用・貯留)ユニットとの連携など、開発テーマは多岐にわたる。「これらをサポートしていくためにも、デジタル技術は必須です。開発にタイムラグが起きないようにまい進していきます」と石垣主幹技師は意気込む。

次世代エネルギーにおいて、三菱重工のデジタル技術に求められる役割はさらに大きくなっていきそうだ。

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】エネルギー設備を精緻に管理 データを掛け合わせ故障を予兆

日本全国でエネルギーサービスを展開する東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)。同社の設備管理の中核を担っているシステムが、「ヘリオネット21」だ。
同システムで、ガスエンジンやガスタービンなどを利用したコージェネレーションシステム、ボイラー、冷凍機など、各種設備に専用の端末を設置してデータを集めることで、全国各地に点在する設備の運転状況を把握する。

ヘリオネットセンターの制御室


設備の不調をつぶさに検知 メーカーとともに機能向上

データは24時間365日遠隔監視を行うヘリオネットセンターに集約され、あらかじめ設定された数値を外れた際などには、故障予知検出として、その詳細を監視室のディスプレイに表示する。同社社員が状況を確認し、これまでのメンテナンス履歴などを集めた自社のデータベースから、当該設備はどのような状態なのか、類似の設備で同じような兆候が発生したかなどを検索。これらデータを総合的にかんがみながら、緊急停止を伴う故障が発生しないように対応を行っている。
稼働状況を常時監視することで、一瞬の不調も見逃さないのがヘリオネット21の大きな特長だ。
例えば同社が管理する出力2400kWの20気筒ガスエンジンでは、シリンダーの一つの排気温度が数秒間だけ急速に落ち、すぐに元に戻った。温度の急変は一瞬の出来事で、エンジンの出力も回復したということもあり、本来であればメーカーが事前に定めている故障とされない事象だった。
しかしデータの動きや自社で行ってきたこれまでのメンテナンス経験などを基に、重大な故障の予兆と判断し、今回のケースでは、夜間の設備停止可能時間を見計らって故障の疑いのあるシリンダーの点火プラグとガス噴射弁を交換し、故障による緊急停止を未然に防いだ。
「小さな予兆とはいえ、今後重大な故障につながる可能性もある。そうなれば経済的な損失にもなるので、予防保全はとっても大きな意味があります」。エンジニアリング本部カスタマー技術部ヘリオネットセンターの橋本博課長はそう話す。
また、設備から得たデータやユーザーとしての運用知見は、機器メーカーとも共有されており、製品開発にも生かされている。同センターの金澤仁所長は、「メーカーと協力して設計の段階から設備を故障させないシステム作りを行うのも、当社の取り組みの特長。メンテナンス項目や点検周期を見直すことで、設備を故障させない運用の実現を目指しています」と胸を張る。


日常業務をDXで効率化 ペーパーレスアプリを開発

TGESはほかにも、ヘリオネット21で得られるデータや、気象データ、運用に関する知見などを活用することで、エネルギー設備を自動最適運用し、さらなる省エネやコスト低減を図るサービス「ヘリオネットアドバンス」も提供している。また、昨年から設備管理で発生する繁雑な業務のデジタル化にも取り組んでいる。

設備管理業務のDX化を実現


紙の帳票をタブレット端末に持ち替えて、「補給水やオイルの漏れはないか」「薬液の残量はどれぐらいか」―など、設備を巡視する管理員が、日常点検を行う。
これにより、紙の時代よりも点検データの検索性・分析性が大きく向上するほか、帳票の付随データとして写真を貼り付け、その上に文字を書き込むなど、画像編集ソフトなどで別途必要になる作業もタブレット上で完結することができる。
さらにアーカイブ機能も搭載し、紙の時代では持ち運びに苦労する資料の取り扱いが手軽になるほか、設備の技術図書や操作マニュアルも現地で簡単に検索・閲覧でき、点検業務や突発トラブル報告業務を効率化した。
現在は自社設備の管理業務で試験的に運用し、今後機能を拡充していく方針。数年以内には外販も想定しているそうだ。同センターの雨宮俊課長は「現場における毎日の点検業務は慣れがある反面、新たな手法の導入にハードルのあるケースが多いです。一方で、毎日の定常業務なので効率化による費用対効果は大きいです。今回開発したツールは、お客さまのニーズを基に設備管理業務に役立つDX技術をパッケージ化したもので、操作性も簡便なためアナログからデジタルへ違和感なく移行できます。今後もお客さまの声を重視しながら機能開発を続けていきます」と語った。
高度なシステムと優秀な設備技術員を組み合わせることで、TGESは設備保守の高度化に力を入れていく。

左から雨宮氏、橋本氏、金澤氏


【特集2】電気料金負担が重荷の中小企業 「S+3E」前提の脱炭素に期待


【インタビュー:大下英和/日本商工会議所産業政策第二部部長】

脱炭素時代に向けて、中小企業は今何を思っているのか。日本商工会議所に、需要家の立場から話を聞いた。

―現状のエネルギー情勢をどのように受け止めていますか。

大下  日本商工会議所は全国515の商工会議所の連合体で、会員事業者数は122万件に上り、その9割以上が中小企業です。東日本大震災以降の原発停止やFIT賦課金で電力価格が高い水準です。コロナ禍で中小企業の事業環境が厳しくなる中、電力コストが重荷になっている状況です。

―業界はカーボンニュートラルへ(CN)の取り組みに軸足を移し始めています。

大下  エネルギー政策の基本であるS(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)の四つの要素を前提に取り組む必要があります。環境の追求は大切ですがエネルギーのコストアップは中小企業にとって死活問題です。

 今夏、会員企業に実施したアンケート調査では、上昇傾向にある電力料金について「経営にマイナスの影響」との回答が85%に達しました。毎年、調査を実施していますが、ここまで高い数値が出たのは初めてのことです。

―国は再生可能エネルギーの主力電源化を進めています。

大下  再エネだけに頼ることに懸念を抱いています。脱炭素への取り組みは進めるべきですが、再エネ主力化に向けては、安定供給を支える蓄電設備や電力系統網の増強が必要です。現実的な時間軸やコスト負担の見通しを国民や中小企業に示したうえで議論を進めていくべきです。

 また、3Eの一つである安定供給は、経済活動や国民生活に不可欠です。北海道停電、千葉県を中心とした台風被害による大規模停電は、企業の事業継続にも大きな影響を及ぼしました。災害の多い日本で、再エネを主力化しかつ安定供給を維持し続けることの大切さや難しさを痛感しています。

安定供給の難しさ痛感 LNG火力の役割高い

―天然ガスやLNG利用、あるいはその他の電源について何か意見はありますか。

大下  自然環境により発電量が変動する再エネ電源を拡大していくうえでは、バックアップとしての火力発電の助けが必要です。その際、LNG火力の役割は大きいと考えています。また産業分野では、電化による対応が難しい高温域も存在しており、天然ガスの活用が期待されます。同時に官民が連携し、LNGを安定的に調達できるように産ガス国との良好な関係を維持し、海外権益の獲得など上流開発への取り組みを強化してもらいたいと思います。

 加えて、電力の安定供給と経済効率性の観点から、原発の活用が極めて重要だと考えています。大前提となる安全性が確認された原発については再稼働するとともに、原発を電源構成の中にしっかり位置付け、リプレースや新増設も選択肢として除外せずに議論してもらいたいと考えます。

―ガス会社への要望は。

大下  「脱炭素=電化」というイメージですが、電気のみに頼ると、逆にリスクとなります。多様なエネルギーをバランスよく組み合わせることがレジリエンスを高める上で重要です。既存のパイプラインを通じたCN都市ガスの供給、水素サプライチェーンの構築などで、脱炭素への取り組みを支えていただくことを期待しています。

―今後、日本商工会議所として取り組むことは。

大下  日本商工会議所では、現在、全国の商工会議所による環境アクションプランの策定を進めています。各地の商工会議所が、中小企業の脱炭素への取り組みを支援するとともに自治体と連携し、地元のガス会社や電力会社の協力もいただきながら、地域の取り組みを進めていければと思います。

【特集2】動き出した関東エリアの事業者 大手に続く地方ガス「脱炭素」への挑戦


家庭用や大口需要家からの脱炭素ニーズが生まれている。CN都市ガスを扱い始めた桐生ガスや厚木ガスの取り組みを追った。

脱炭素社会を支えていくのは再生可能エネルギーなどの「CO2フリー電気」だけではない。カーボンニュートラル(CN)都市ガスも、選択肢として保有しておきたいエネルギーの一つである。そんな新しい商材であるガスを巡って、大手事業者が先行していた取り組みが、地方ガス事業者にも広がってきている。

家庭用初の桐生ガス 1㎥単価7・7円増の負担

1925年に創業し、100年近くの歴史を持つ老舗の都市ガス事業者、桐生ガス。群馬県桐生市や太田市を供給エリアに抱え、約2万3000件の需要家を持っている。都市ガスの卸元はINPEXで、エリア内の需要構造は主に家庭用が中心だ。

そんな同社がこの度、INPEXとCN都市ガスの売買契約を結んだことで、日本の地方ガス事業者の中で一般家庭向けとしては初めてCN都市ガスの小売りを開始することになった。

「当社の自社消費分をCN都市ガスへと切り替えるほか、小口向けにオプションメニューとして販売を始めました」。そのように説明するのは桐生ガス営業部の村上恵理次長だ。

INPEXからの具体的な調達量や調達金額は公表していないが、ユーザーはオプションとして1㎥当たり7・7円を付加金として負担するスキームである。7・7円はINPEXからの卸値に加えて事務手数料などを加えた価格としている。

8月から販売を始めて以降、環境意識の高い家庭用需要家からすでに数件の申込みがあったという。また9月末には地元の金融機関である群馬銀行桐生支店向けに、桐生ガスの法人需要家としては初めて、供給を始めるなど、少しずつ販売数量を伸ばしている。

「他のエリアの地方都市ガス会社に加えて、当社供給エリア内の飲料、繊維、自動車部品の大口ユーザーからも問い合わせをもらっています」と村上さんは今後の展開に期待を寄せている。

「公益事業の精神を体し、良質低廉なる気体燃料を豊富円滑に供給する」を社是として、これまで地元に貢献しながら地元とともに持続可能な事業を営んできた桐生ガス。今後は、脱炭素を支える新たな商材を加えて、地元地域へ貢献していく。

「INPEXと売買契約を結びました」(村上さん:右)

大口需要家持つ厚木ガス 世界的企業のニーズを探る

脱炭素の波は神奈川県の県央エリアにも訪れている。1959年に創業して以来、約60年にわたって神奈川県厚木市や伊勢原市を中心に供給し続けている厚木ガス。創業当初700件程度だった供給軒数は、現在5万5000件程にまで伸びている。LPガス事業や簡易ガス事業などガス体エネルギー事業に加え、高圧向けの電力事業を始めるなど総合エネルギー事業者として歩み始めている。そんな同社も今、脱炭素戦略に奔走している。

ソニー、NTT、日産自動車、リコー―。厚木ガスの供給エリア内には、世界に名だたる企業の研究所が立地している。特に厚木ガス本社の両脇にはソニー厚木テクノロジーセンターが隣接するなど、グローバル企業からの「エネルギーへのニーズ」には敏感にならざるを得ない。

「世の中が脱炭素社会へと歩み出す中、従来から行ってきた重油から都市ガスへの燃料転換、あるいは高効率なコージェネ設備を導入して低炭素化を進めていくだけでは、解決しません。われわれとしては、これまで安定供給を支えるために整備してきた既存のガスインフラを座礁資産としないためにも脱炭素時代にふさわしいメニューを用意しておくことが極めて重要だと考えています」。厚木ガス営業本部長の鈴木正樹取締役はそう話す。

「脱炭素=電化」―。鈴木取締役がエネルギーのニーズについて、需要家からヒアリングする中、多くのユーザーはそんなイメージを持っていたそうだ。つまり、CN都市ガスの存在そのものがほとんど認知されていない状況だったというのだ。

そこで、厚木ガスでは、都市ガスの卸元でもある東京ガスと協議。その結果、CN都市ガスの卸売りを快諾してもらい、まずはその認知度向上に努め始めており、現在、大口需要家向けに具体的な小売り営業を展開中だ。例えば、某機械メーカーでは、エネルギー設備のリプレースのタイミングで、CN都市ガスの導入を検討してもらっているそうだ。

厚木ガスのガスホルダー

環境価値の国内法展開 大手会社との連携が必要

厚木ガスではCN都市ガスの認知度向上に向けて奔走しているが、事業規模が小さい地方都市ガス事業者による1社の自助努力では限界がある。旗振り役を担うべき大手都市ガス事業者に加えて、政策的な広報活動も必要になってくるだろう。一方で、認知度を高めていくだけでは本格的な普及には到底至らない。そこで、二つほど課題があるだろう。

一つは政策面だ。厚木ガスが指摘するのは、「CN都市ガスによるCO2削減分の価値を、国内法である省エネ法や温対法(地球温暖化対策推進法)へ適用できるかどうか」だ。現状では、そのあたりの法律的な交通整理が未整備である。ユーザーにしてみれば、コストを掛けてCO2削減に貢献したのに、その評価を得られないのでは、意味がない。これからの政策課題となるだろう。

もうひとつは、エネルギー設備のエンジニアリングに関する課題で、特に大口ユーザーに当てはまることがある。需要家には、CN都市ガスの導入を選択するのか、電化にするのか、あるいはBCP(事業継続計画)の観点から電気とガスのハイブリッドエネルギー方式を望むのか、などさまざまなユーザーが存在している。その選択を決断するタイミングは、需要側の設備更新の時期と重なるケースが多いだろう。その際、それなりの設備のエンジニアリング力が求められていくはずだ。かなりの技術力を要する。「エンジニアリング力があって、エネルギーサービスを手掛ける大手事業者と連携することが不可欠になると考えています」(鈴木取締役)。

本格的な普及に向けて、まだまだ課題を残しているCN都市ガスではあるが、その取り組みはまさに今、地方を含めた業界大で始まったばかりである。