【特集2】自治体や事業者と連携しサービス実証 製造業の枠超えソリューションを創出

【愛知時計電機】

愛知時計電機は、クラウド上でのデータ配信サービスを提供している。
個人情報漏えいのリスクがなく、使いやすいことから事業者に好評だ。

ガス、水道メーターの製造で国内トップシェアを誇る愛知時計電機。同社が提供する「アイチクラウド」は、スマートメーターからさまざまなデータをクラウド上に集め、事業者へインターネット経由で提供するデータ配信サービスだ。事業者にとっては高機能メーター設置による検針業務の効率化というメリットに加え、データの活用次第で新サービスの創出にもつなげることができる。

アイチクラウド全体イメージ図

「見守り」の有効性を実証 水道・都市ガス使用量を監視

アイチクラウドが多くの事業者に選ばれている理由は主に二つある。一つは、個人情報漏えいのリスクが回避されている点だ。検針端末の番号を顧客番号にひも付けており、消費者の個人情報は登録しない。そのため、個人情報は洩れようがない仕組みとなっている。二つ目は、企業がすでに運用している基幹システムと連携しやすい構造になっている点だ。基幹システムの改修を行うことで事業者は普段使っている基幹システムを操作すれば、連動してアイチクラウドが作動する仕組みを構築できる。結果的に、事業者にとっては使いやすく、情報更新ミスも起こりにくい。


同社はすでに自治体や地域のガス事業者と連携し、スマートメーターを活用した高齢者の見守り実証実験を実施している。静岡県掛川市や御殿場市では、高齢者世帯に設置したスマートメーターを通じてクラウドに自動収集された水道・都市ガスの1時間ごとの使用量データを監視。水道使用量では、使用状況が通常と異なる状況を検知した場合に安否確認の連絡を行うサービスの有効性について検証を行った。水道とガス、二つの使用量データを重ね合わせることで人の「生活サイクル」をより精緻に把握できる。今後は、健康異変を検知するコンテンツの創出など、データの持つ価値を最大化させる取り組みにもつなげていく。

武田賢治執行役員は「今後は他社との連携を通じて製造業の枠を超えたイノベーションを実現し、社会課題の解決に貢献していく」と語る。同社は今後、流体計測技術をコアに、社会的インパクトの強いソリューションの創出に注力していく構えだ。

【特集2】異業種・自治体と共同実証 地域課題解決に資するサービス

【四国電力送配電】

スマートメーターシステムを活用した事業が新たな展開を迎えている。
ガス・水道事業の効率化に加え、地域の課題解決にもつながりそうだ。

四国電力送配電は、地域の課題解決と持続可能な未来の実現を目指し、外部パートナーと連携、デジタル技術やデータを活用した新たなサービスの創出に取り組んでいる。


21年4月には、ガス・水道メーターの検針値を遠隔で自動収集する「IoT向け通信回線サービス」の提供を開始した。同サービスでは、整備済みのスマートメーターシステムを活用し、ガス・水道メーターに無線通信端末を接続。四国全域約260万台の電力スマートメーターがアンテナとなり、広範囲で安定した通信を実現している。このように複数事業者が一つの検針システムを共同利用し、検針値や警報情報などを自動収集する仕組みは、共同検針と呼ばれ、システム整備の合理化と社会コスト低減が期待されている。

水道メーターと無線通信端末


同社が電気事業用に構築したスマートメーターシステムは、10年以上安定稼働しており、電力メーターの検針値収集率はほぼ100%を誇る。また、電力スマートメーターとガス・水道メーターとの間は、近距離かつ省電力の無線通信のため、水道特有の過酷な環境でも電波が届きやすく、無線通信端末の電池が長持ちする点が特徴だ。さらに、強固な暗号化通信により、セキュリティを確保。無線通信端末に対して遠隔でのファームウェア更新も可能だ。


企画部ビジネスソリューショングループの亀井聖司マネージャーは、サービス開始当初に営業業務に携わった経験があり、「社内の各部で保有アセット活用の検討が活発化する中、附帯事業を将来の収益源となる成功例として新たな価値を創出したいという強い思いがあった」と当時を振り返る。地域のLPガス事業者である四国ガス燃料や水道事業者の香川県広域水道企業団などの協力を得て知見を蓄積し、サービスの優位性を積極的に訴求してきた。


こうして、ガス事業者へのサービス展開は比較的スムーズに進んだという。だが、水道事業への進出には苦戦した。亀井マネージャーは「最大の課題は費用対効果の算出だ」と話す。高度成長期に整備された水道インフラの老朽化に加え、人口減少による収入減、財政難など複数の課題が絡み合う中、自動収集した水道データの先進的な活用を推進する必要があった。

水道事業の経営効率を向上 インフラ強靭化への期待も

そこで今年4月、水道事業へのサービス展開を加速するべく、総合水インフラ企業のフソウと徳島県南部に位置する海陽町(人口約8000人)と提携し、住民サービスの向上や水道インフラの強靭化などの地域課題解決に資する共同実証に着手した。同町に水道施設等監視システムを導入するフソウが、水道施設の運転管理において経験とノウハウを保有していた。また、同町は23年度から四国電力送配電と水道遠隔検針に関する実証を実施しており、デジタル技術を活用した取り組みに理解・関心があったことから、共同実証を実施する運びとなった。

タッグを組んでサービス拡充を目指す


フソウの持ち株会社FUSOグループホールディングスの門脇恵一上席執行役員は、四国電力送配電について「既存社会資本の効率を高め、水道インフラにかかる社会コストの低減を追求するという理念が一致した」ことに加え、「フソウの事業発祥の地である四国で、地元企業の四国電力送配電と地域課題解決に取り組むことは地域貢献の一環としての意義もある」とタッグを組んだ意図を明かした。


今回の共同実証では、フソウの持つ管路に関する豊富な技術力と知見が加わり、水道データに関する検針業務以外の付加価値のアイデア創出と実証に取り組んでいる。このうち、管路漏水検知の実証では、管路漏水の疑いがある小規模地域(40世帯)で漏水箇所がほぼ特定され、今後は、管路の補修や新設を進める計画だ。給水量に対して料金として収入につながった水量の割合を示す有収率は、23年度の全国平均が89・3%。管路漏水防止対策の実施などによって有収率を高めることで、水道事業の経営効率の向上や安定給水の確保などが期待できる。

実証成果を四国で広く展開 福祉や防災への活用視野に

海陽町上下水道課上水・農集担当の長谷直樹氏は「サービス導入のおかげで住民サービスの向上や、自治体としての運営の高度化につながっている」と改善効果を実感しているという。


実際に同町では、検針員が現場に出向かずとも検針値を遠隔で自動収集できるようになった。また、データの一元管理による検針業務の効率化、漏水の疑いがある場合は、水道データをもとに住民への通知やアドバイスを実践している。さらに、今回の共同実証についても「成果や課題を踏まえて、町内の他エリアへの展開も視野に入れ、今後は導入数を増やしていくことを検討している」という。


人口減少や検針員の高齢化による人材不足、水道インフラの老朽化などへの対応として、今後ますます水道データの先進的な活用は広がりを見せることが想定される。両社は海陽町での実績を元に、四国エリアでの横展開を見込んでいる。


四国電力送配電企画部の淀靖典チーフマネージャーは「エネルギーとデジタルの力で未来を創造していくというビジョンの下、自治体などに向けた地域課題解決に資するサービスを軸に、保有アセットを活用した新規事業の創出に取り組んでいる。まずは、共同検針の普及を推進しつつ、ガス・水道事業を通じて地域を支えたい。その先には、高齢者の見守りなど、福祉分野や防災分野への活用も見据えている。『地域と共に』がわれわれの存在意義であり、地域の発展と、快適・安全・安心な暮らしに貢献していきたい」と今後の見通しと抱負を語った。

【特集2】都市ガスの新たなインフラ創り 全域への設置完了へ着実に前進

【東京ガスネットワーク】

都市ガス業界でスマートメーターの導入が着々と進んでいる。
供給エリア全域設置にいち早く着手した東京ガスネットワークを取材した。

首都圏を中心とした約1200万件への都市ガス供給を担う東京ガスネットワークは、2024年1月から供給エリア全域を対象にスマートメーターの導入を開始した。


現在、既存ガスメーターの検定有効期間満了(検満)による交換、あるいは新設などの時期にスマートメーターへの入れ替えを進めている。今年10月末時点の設置件数は約350万件。全需要家の3割ほどへの導入が完了したことになる。30年代前半には供給エリア全域への設置を終える計画だ。


既存のガスメーターは「マイコンメーター」と呼ばれ、家庭用を中心に供給エリア全域に設置されている。ガス使用量の計量機能に加え、高い保安機能を持っているのが特徴だ。ガス漏れや震度5強相当以上の地震の揺れを検知すると、自動でガスを即座に遮断する。東日本大震災などの災害時には、その威力を発揮してきた。

       無線機能付きマイコンメーター

複数タイプに先行導入 多種多様な通信環境を確認

この既存ガスメーターに通信端末を取り付けたのが、導入を進めているスマートメーターだ。一般的に、メーターは電池で駆動する。そのため、検満までの10年間、電池交換しなくて済むよう、省電力になる通信方式が採用されている。


まず、メーターで計測したガス使用量などの情報は、各需要家のメーター間を転送するマルチホップ通信によって中継器に送られる。続いて、中継器が集約したメーター数十台分の情報をLTE(携帯電話回線)通信網を介し、同社のセンターシステムに送信する仕組みだ。


同社は今回の全域導入を始めるにあたり、19年から一部エリアへの先行導入を実施してきた。最初に設置したのは商業ビルや工場、戸建て住宅、集合住宅など、さまざまなタイプの需要家が混在するエリア。スマートメーター推進部スマートメーター企画グループの滝沢孝一マネージャーは、「業務用、一般住宅用といったさまざまな環境下でのメーターの設置性や通信状況などを確認するためだった」とその意図を説明する。


例えば、メーター同士の距離が離れていた場合、マルチホップ通信ができるかどうかの確認が必要だ。マンションに設置したケースでは、ガスメーターが鉄製のボックスに設置されていたり、構造上の壁が隔たりとなる場合、通信環境が不安定になることも判明した。

課題に直面するたび、仮説を立てて検証を行い、改善策を講じていく―。この積み重ねによって築かれたノウハウが、全域導入に向けた大きな足掛かりへとつながった。

大手3社でシステム開発 維持管理費などを低減へ

将来的なスマートメーターの普及を見据え、20年からは大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークとともに、システムの共同開発も行ってきた。それがスマートメーターと3社の業務システム間での情報の送受信を担うセンターシステム「SMANEO(スマネオ)」だ。

スマートメーターによる遠隔検針の仕組み


その特徴は大きく三つ挙げられる。一つが通信方式の柔軟性だ。通信業界は技術の進歩が早く、通信方式が刻々と変化する。そこで、通信制御を行う「通信モジュール」と業務に関する情報の保持や処理を担う「業務モジュール」を分離したシステムを構築した。これにより、将来、通信方式が変わっても、通信モジュールだけを修正すれば対応が可能になっている。二つ目が、サーバーの拡張性だ。検満の時期に応じて、接続するスマートメーターが段階的に増えていく状況に対応できるよう、クラウド上でシステムを構築した。


最も苦労したのが、三つ目となる3社共通のインターフェース(API)を作ること。当然ながら、3社が保有する検針・メーター管理や緊急保安といった業務システムが必要とするインターフェースやシステム機能はそれぞれ異なる。そのため、1年近くかけて要件定義に取り組み、3社の業務に必要な機能やインターフェースの共通化を実現した。一方で、共同開発ならではのメリットもあった。同部スマートメーター事業グループの木津吉永マネージャーは、「3社の考えを持ち寄ってインターフェースを構築したことで、自社の業務にも生かせるノウハウや知見が得られた」という。システムの共通化、共同利用で、開発・維持管理コストの低減にもつながった。


こうして、約2年の月日をかけ、SMANEOは無事に完成。22年12月からの東京ガスネットワークを皮切りに、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークでも順次、運用が始まっている。最終的に、3社合計で2200万台超のスマートメーターがSMANEOに接続される予定だ。


全域への導入を開始して、もうすぐ2年が経過する。「全てのメーターをつなぐ通信ネットワークの構築は、都市ガス供給事業における新たなインフラづくり。挑戦を重ねながら着実に前進していく」。同部の若狭匡輔部長は語る。同社は今後も目標とする完了時期に向けた設置を着実に進め、安定した運用に注力しながら、業務の効率化や保安・レジリエンスの高度化を図っていく構えだ。

(左から)木津マネージャー、若狭部長、滝沢マネージャー

【特集2】利便性とセキュリティを両立 30年代に全戸への導入を目指す

水道スマートメーター完全導入へのロードマップを描く東京都。先行実装の成果とデータ利活用の方向性、課題について聞いた。

インタビュー/向本 圭太郎・東京都水道局総務部企画調整課長

―水道スマートメーター導入の背景と、これまでの成果を教えてください。


向本 都の生産年齢人口は2025年をピークに減少に転じるとの予測です。その一方で最低賃金額は上昇で推移しており、将来も安定的に水道事業を運営するためには人手とかける業務の選択と集中が重要です。


 22年のスマートメーター導入開始から24年までの3年間で、都内全800万戸に対し約13万個を実装しました。具体的な成果として、自動検針のみならず、使用水量をグラフで確認できる「見える化」、お客さまが設定した条件を満たした場合にメールで通知する「見守り」、基準となる水量を検知した場合に通知する「漏水通知」を実現しました。これら3つの機能は、同時期にリリースした「東京都水道局アプリ」にも搭載しました。

行政の課題解決を目指す データ活用ルールを整備へ

―今後の計画はどうなっていますか。


向本 25~28年の4年間で合計約100万個の設置を目指します。その後も着実に切り替えを行い、30年代に全戸導入を達成する計画です。

―データ利活用をどう推進しますか。


向本 お客さまやさまざまな関係機関との協働を通じ、データの価値を最大化し、新しいソリューションを共創していきます。特に防災や福祉など、行政の課題解決に資するイノベーションの創出に取り組んでいきたいと考えており、具体的な協議も開始しています。


 また、お客さまアンケートの結果を踏まえて、標準的な世帯との使用水量の差異が分かる機能をアプリに実装していきたいと考えています。


―データの活用に向けた留意点は。


向本 データ利活用による利便性の向上と個人情報保護のバランスを取っていくことが重要だと考えています。例えば、水道使用水量のデータを行政の福祉サービスと連携させる事例や、電力分野で実現しているように、災害時に本人の安否確認などに活用するため基礎自治体などにデータを連携させる事例などが考えられます。ですが、本人同意の取り方や、データ利活用に関するガイドラインが十分に整備されていない状態です。


 今後は、国の検討会への参画や横浜市、大阪市など他の自治体との協議を通じ、こうした実務上の整理を早期に実現し、社会的に意義のあるデータ活用事例を実現したいと考えています。

むかいもと・けいたろう 2003年入庁。政策企画局などを経て、24年4月から現職。国土交通省「水道分野のスマートメーターの導入促進に係るワーキンググループ」委員。

【特集2】次世代スマメが拓く社会変容 情報産業の新たな価値創造へ

電力・ガスのスマートメーター普及が全国で進んでいる。
業務効率化、省エネ推進、データ利活用などのさらなる進展が期待される。

従来型メーターに通信機能が備わったスマートメーター(スマメ)。既に第一世代の導入は完了し、第二世代への置き換えが始まった今、どのような進化を遂げ、今後、社会にどのようなインパクトを与えようとしているのかに関心が集まっている。


第一世代の全件導入がもたらした成果は大きい。これまで人手に頼ってきた検針業務や電気の遮断・復旧を遠隔で行えるようになったことで、委託費用の抑制につながった。さらに、災害時に電力データを活用することで早期復旧に貢献している。


実際に、石川県は2024年の能登半島地震および奥能登豪雨の災害対応業務に電力データを活用。発災直後から復興支援までの幅広い場面での電力データの有効性が確認された。また、最近では「共同検針」の実証を始めた自治体もある。例えば四国電力送配電が取り組む、電力スマメのネットワークを利用して水道やガスなどの検針を行う共同検針は、社会的コストの合理化、検針保安業務の効率化などさまざまなメリットがある。

             集合住宅に設置されたスマートメーター

分散化・多層化志向に対応 リアルタイム制御が可能

第二世代導入を推進する背景にあるのが、再生可能エネルギーなど分散型エネルギーの導入拡大だ。再エネのコストが低下しているのに加え、デジタル技術の進展によるエネルギーマネジメントの高度化、災害時のレジリエンス強化に対する関心の高まりや、カーボンニュートラル宣言などが後押ししている。


とりわけ、分散化・多層化を志向する次世代の配電プラットフォームにおいては、データを活用した電力ネットワーク運用の高度化、電力分野以外への電力データの利用拡大、需要側リソースの拡大に伴う取引ニーズの多様化などに対応することが求められている。これにより、リアルタイムでの電力需給調整や、分散型電源の増加に対応した電圧制御、さらには多様なIoT機器との連携が期待されている。


今後10年間で8000万台を再度導入していくに当たり、23年6月に次世代スマメの計量部の仕様統一は完了している。その一方で、第一世代の導入と運用の経験から課題も浮き彫りになってきた。


一つは、導入に関わるコストを回収できるかどうかだ。レベニューキャップ制度の第一規制期間(23~27年度)においては物価上昇などは原価参入を認めないとされており、最近の物価高の影響を回避できていないのが実情だ。一般送配事業者がそういった影響を自助努力のみで吸収することには限界があり、物価などの変動影響を制度に適正に反映することが求められている。


二つ目は、情報セキュリティー対策だ。第一世代導入から「スマートメーターシステムセキュリティガイドライン」に準拠してきたが、さらに見直しを進め、今年2月に改定した。


主な改定点は、外部接続に関するセキュリティー強化で、外部機器・システムとの接続点におけるリスクアセスメントや脆弱性管理の徹底、接続点の最小化、ログ収集などの取り組みを明確化した。


また、外部接続事業者との管理・合意形成に関し、外部機器・システムとの接続や運用に関する責任分界点、通報・遮断・再接続手順などを整理し、合意形成を求める方針を明記した。今後増加することが見込まれる共同検針のように、電力以外のデータを電力ネットワークに受け入れることを考えれば、システム全体のセキュリティーの確保は極めて重要だ。

先行投資に膨大な負担 中小向けの支援を想定

ガス業界のスマートメーターについては、経済産業省が大手事業者とそれ以外の二つに分けて導入・運用のロードマップを示している。大手事業者は20~30年代前半までを導入段階、30年代前半以降を運用段階としている。このロードマップに沿って、東京、大阪、東邦の大手都市ガス3社は20年からシステムの共同開発に着手。その結果生まれたのが、個々のスマートメーターと3社の業務システム間で情報の送受信を担うセンターシステム「SMANEO(スマネオ)」だ。3社共通のインフラとして機能するため、開発・維持管理のコスト低減につながった。

ガスのスマートメーター化も今後進む


22年12月から東京ガスを皮切りに、大阪ガス、東邦ガスでも順次運用が始まっており 10年後には、3社合計2200万台超のスマメがSMANEOに接続される。これは全都市ガス需要家の約70%に相当し、都市ガス業界全体として業務の効率化や保安・レジリエンスの高度化が図られることになる。


中小事業者については、大手事業者の運用開始後に導入を始めるというロードマップが描かれている。20~30年代に検討、30年代以降に導入、40年代以降に運用というスケジュールだ。トライアルで導入している事業者も一部あるが、多くの事業者は現在、情報収集を進めているところ。導入には、メーター本体に加えて、通信ユニット、中継器、システム改修などの設備投資の負担が避けられない。今後、中小事業者が導入を加速させていくには、これらの膨大な先行投資を促す経済的な支援策が必要になると想定されている。一方で、スマメの導入は人件費の低減に直結するため、早期に導入を進めたいと考える事業者もいる。


本特集では、スマートメーターの次世代化を通じて、エネルギー供給の安定性と業務効率の向上を図るとともに、ビッグデータを活用した新たな価値創出を目指す取り組みを紹介する。

【特集2まとめ】社会課題を解決するインフラへ スマートメーター進化論

通信ネットワークを取り入れて進化するスマートメーター。


電力業界では第2世代の仕様が決まり、2025年度中に取り付けが始まる。


都市ガス業界では、大手3社が先陣を切って設置に乗り出したほか、データの送受信を担うセンターシステムの運用などに取り組む。


地方都市ガス事業者は、独自に導入を検討する動きが活発だ。


スマートメーターは大規模なシステム構築が求められてくるが、設備のスリム化、保安の高度化など、導入のメリットは大きい。


社会課題の解決するインフラの一翼を担うものになりそうだ。

【アウトライン】次世代スマメが拓く社会変容 情報産業の新たな価値創造へ

【インタビュー】「価値獲得」へ各社が手探り 自治体の付加価値向上も

【レポート】専門家交えガイドライン改定 外部接続に関する体制を強化

【レポート】異業種・自治体と共同実証 地域課題解決に資するサービス

【レポート】都市ガスの新たなインフラ創り 全域への設置完了へ着実に前進

【レポート】電力スマメの通信網を利用 コストを抑制し全件に導入へ

【トピックス】自治体や事業者と連携しサービス実証 製造業の枠超えソリューションを創出

【トピックス】唯一のIoT専業の通信事業者 多様な規格をそろえ事業に対応

【インタビュー】利便性とセキュリティを両立 30年代に全戸への導入目指す

【特集2】唯一のIoT専業の通信事業者 多様な規格をそろえ事業に対応

【ソラコム】

スマートメーターのようなIoT端末には通信が欠かせない。
ソラコムはIoT専業事業者としてエネ業界の通信導入を支援する。

ソラコムは2015年に創業したIoT専業の通信事業者。世界約200カ国で利用可能な通信サービスを展開し、契約回線は800万回線を超える。エネルギー業界でも同社を利用する企業が増え始めている。


同社の強みは、IoT通信に必要なデバイス、ネットワーク、クラウドの三つのソリューションを全て取り扱うことにある。「三つに関連する製品やサービスを展開することで、顧客は自社に合った形でソフトやハードをカスタマイズできる。顧客のデバイスへの組み込みも共同で取り組む体制を整えている」。テクノロジ・エバンジェリストの松下享平氏は事業の特徴をこう語る。


通信回線は5G、LTE、3G、LTE-M、LPWAなど多様な規格に対応する。キャリアはNTTドコモ、au、ソフトバンクから選択可能だ。1回線から契約できるため、事業規模を問わず柔軟に導入できる点も評価されている。

スマメ向けは低電力を重視 事業規模を問わず導入可能

エネルギー向けではスマートメーターなど使用量の通信に利用することが大半だ。このため、通信の安定性や耐環境性、低電力、セキュリティーなどを重視し、LTE-MやSigfoxといった規格を採用することが多い。

ソラコムの通信を採用した大崎電気工業のスマートメーター


スマートメーター向けではタイプが二つに大別される。製品自体に通信機能を組み込むものと、メーターに後付けで通信端末を併設するものだ。組み込み型では大崎電気工業の「らくらく検針」対応メーターが挙げられる。遠隔検針が1台から可能で、中小規模の商用ビルで導入しやすく、検針の効率化や省人化に寄与している。後付けタイプでは日本瓦斯(ニチガス)の「スペース蛍」がある。メーターをネットワークでつなぎ、検針や異常検知などに対応。ボンベの残量を検知して配送の効率化などにも応用する。

こうした事例は徐々に出てきたが、エネルギー業界の通信活用は始まったばかりだ。「今後のエネルギー業界のあるべき姿を考えると、現場との通信は欠かせないものになる。人手不足などの問題解消にもつなげたい」と松下氏。エネルギー業界においても、ソラコムは重要な存在になりそうだ。

【特集2】専門家交えガイドライン改定 外部接続に関する体制を強化

【一般送配電事業者】

今年度、次世代スマートメーターの導入がいよいよスタートする。
計量部の仕様統一やガイドライン改訂など、設置に向けた準備が着々と進んでいる。

現行のスマートメーターの検定有効期間満了(検満)に伴い、今年度以降、次世代スマメへの入れ替えが順次始まる。次世代スマメは、今よりも細かい計測粒度(計測する間隔)で電力使用量の把握が可能。これにより、停電の早期解消といった電力レジリエンスの強化、新サービスによる需要家の利便性向上も期待される。


こうした中、一般送配電各社では導入開始に向けた体制を着々と整えてきた。2023年6月には、次世代スマメ計量部の仕様統一を完了。現在、作業手順や設置作業に係る工事費の策定、今年度分の購買契約などを進めている段階だ。


一般送配電各社が特に重視するのが、システム全体のセキュリティーを確保すること。日本電気協会は今年2月、「スマートメーターシステムセキュリティガイドライン」を改定した。この改訂にあたり、旧一般電気事業者やスマメシステムの提供者に加え、サイバーセキュリティーの専門組織や学識経験者を交えて議論。サイバー攻撃の動向や法制度などを踏まえ、外部接続に関するセキュリティー強化、外部接続事業者との合意形成などを盛り込む内容へとバージョンアップした。

能登の復興にデータを利用 自治体対応への有効性示す

一方、現行スマメの導入による成果も上がっている。一つが設備のスリム化だ。例えば、柱上変圧器(高電圧の電気を需要家向けに低電圧に変換する装置)の容量を決める際、需要家の使用電力を30分単位で把握することで、実際の最大電力に合った容量の選定が可能になった。

             都内に設置されたスマメ


また、経済産業省は、石川県と連携し、能登半島の地震・豪雨被害を踏まえ、被災者の救出・救助、避難者の生活や復旧・復興支援などに電力データを活用する実証を実施。さらに、実際の災害対応業務に電力データを活用した石川県の事例から、その有用性を確認している。

今後は民間企業などによるビジネス展開も予想される。現状、電力データを活用するためのシステムは一般送配電事業者が所有しているスマメデータを集約するシステム、データ利用者にサービスを提供する法人が所有するシステムなどが分離しており、システムを所有する事業者がそれぞれ異なる。


今後、電力・ガス基本政策小委員会の方針の下、事業者間でのシステム統合を進めていく状況だ。これによってシステムコストの低減を図ることができれば、電力データによるサービス事業の活性化、普及拡大につながることが見込まれる。

インフォメーション

越谷市/NTT東日本/イハシライフ

改造型EVを災害時の電力供給に活用

埼玉県越谷市とNTT東日本埼玉南支店、石油・ガス販売などを手掛けるイハシグループのイハシライフは、災害時の電力供給に可搬型バッテリーを搭載したEVの活用を始める。9月下旬に協定を締結した。NTT東がEVを所有し、イハシが運用する太陽光発電所などからバッテリーに充電、避難所へ運搬する。東日本では初のモデルだ。ガソリンエンジン車のエンジンや燃料タンクを取り除き、バッテリーやモーターを取り付けたコンバージョンEVを使う。改造はイハシが担当した。レジリエンス向上や脱炭素に加え、地域の車を地場の企業が改造することで、地域経済循環の向上も狙う取り組みだ。

グリッドスカイウェイ

送電線上空のドローン航路拡大へ体制整備

グリッドスカイウェイ有限責任事業組合は10月1日、東北電力ネットワークと電源開発送配電ネットワークが組合員となり、全国の主要な送配電設備を有する事業者がそろう15社連携体制を構築した。これにより、東京電力パワーグリッドと中国電力ネットワークに提供してきた航路プラットフォームを全国統一仕様で展開できる体制が整った。2027年度までに全国1万km超の送電線上空のドローン航路整備を目指す。同組合は同プラットフォームを電力設備の遠隔巡視・点検利用にとどまらず、他の事業者と連携することで、災害対応や物流など社会インフラとしての活用拡大を推進する構えだ。

東京ガスエンジニアリングソリューションズ

レーザー式アンモニア検知器の販売を開始

東京ガスエンジニアリングソリューションズは9月16日、レーザー式アンモニア検知器「レーザー・アンモニア」の販売を開始した。これまでのアンモニア検知は気体の採取が必要となる吸引式が採用されてきたが、手の届かない場所や広範囲の漏えい検知が困難であり、アンモニア接触によるセンサーの汚れや腐食劣化でのメンテナンス負担が課題だった。同製品は、10ppm・mレベルのアンモニアを最大30mの距離から気体の採取を行わずに検知できる高感度検知器。アンモニアを扱う現場の保安向上に加え、設備管理の高質化と高効率化の実現に貢献していく。

高砂熱学工業/TDK/由利本荘市

由利本荘市で低温排熱を有効活用した実証を計画

高砂熱学工業、TDK、秋田県由利本荘市の3者は、市の温水プールの低温排熱を活用した実証を来年4月に開始する。TDKの本荘工場西サイトに導入された高砂熱学工業の蓄熱システムを使い、工場から7km離れたプール施設の空調や温水を製造する。温水プールのCO2削減量は1年間に約6tを見込んでいる。実証は3年間行う計画だ。

GRID

九電に石炭受払計画AIシステムを納入

GRIDは9月、石炭受払計画を自動作成するAIシステムを九州電力苓北発電所などに納入し運用を開始した。石炭受払計画はこれまで熟練の人材が立案してきた。石炭の種類、混炭可否、設備制約など、多くの条件を考慮する必要があるほか、気象や電力需要の変動により頻繁な修正が求められ、高度な判断と多大な労力を要していたが、これらに自動対応する。

岩谷産業/東京都

水素燃料電池船「まほろば」を東京港で運航

岩谷産業は10月10日、東京都と協定を結び、東京港での水素燃料電池船の運航事業に取り組むと発表した。水素燃料電池船「まほろば」は、大阪・関西万博で大阪市内と会場までの交通手段となり、海上を動くパビリオンの役割を果たした。同事業を通じ、水素の魅力や環境負担軽減の有用性を広くアピールする。運航の開始時期は2026年度内を予定している。

【特集2】水素利用のすそ野拡大へ 小規模需要の「壁」に挑む

【室蘭ガス】

水素は脱炭素社会実現への一つの重要な選択肢だ。ところが、高圧ガスの規制を受ける圧縮水素か、貯蔵・気化コストが高い液体水素が一般的で、少量を利用する需要家が選択しづらい次世代エネルギーとなっている。


こうした規制とコストの壁を打開するべく、室蘭ガス(北海道室蘭市)が市などと共同で取り組むのが、環境省委託事業「既存のガス配送網を活用した小規模需要家向け低圧水素配送モデル構築・実証事業」に採択された。LPガスの既存配送網を利用することで新たなインフラ構築のためのコストを抑えつつ、水素利用のすそ野を広げる狙いがある。

MHを利用し規制回避 LPガス混載でコスト抑制

実証のポイントの一つが、日本製鋼所M&Eが開発した水素吸蔵合金(MH)を利用することで、高圧ガス保安法の規制を受けない1MPa以下の低圧で水素配送を実現したことだ。金属原子の間に水素化物の形で取り込むことで、理論値では合金の体積の1000倍以上の水素を吸放出できる。

低圧水素を可能にしたMHタンク


もう一つのポイントは、再生可能エネルギー変動追従型の水素製造だ。供給する電力を平準化して製造するためには蓄電池が欠かせないが、設備コストがかかる。そこで、水電解装置を風力発電の変動に追従して稼働させ稼働率を上げることで製造コストの低減を図っている。さらには、ほとんどが大気放出されてしまう副生酸素も、市立室蘭水族館の養殖水槽に供給することで「価値化」している。

市保有の風車由来の電気で水素を製造


水素の供給先は、一般住宅の燃料電池(電気・熱)ロードヒーティングのボイラー(熱)、飲食店や宿泊施設のボイラー(熱)、金属加工工場における金属切断の熱源―の5カ所。無人、自動で水素が充填されたMHタンクをLPガスボンベと混載し、それぞれの需要家に配送する。タンクは約100㎏でLPガスの50㎏ボンベの約87㎏よりもやや重いが、LPガス配送インフラで無理なく配送できることを確認した。


営業部営業グループの吉田隆光参与は、「このモデルは水素を大量消費するには向かず、家庭の熱需要を全て置き換えるにはまだまだコストが高い。だが、割高になりがちな地方部のプロパンガスであれば、近い価格帯で実用化できる見込みは十分にある」と、実証を通じた手応えを語る。


残念ながら、今年度、実証期間を終えた後は、設備を撤去する予定とのこと。社会実装に向けた道のりには課題が残るが、再エネなどの地域資源を活用し製造した水素を、地域の多様な需要に応じて利用する自立分散型の地域水素サプライチェーンの可能性を示したと言える。

【特集2】小型風力発電が運転開始 再エネ開発の目標達成に注力

【広島ガス】

広島ガスは、今年4月に北海道で小型風力発電所の建設に着工し、9月末までに全8基の営業運転を開始した。  

 
8基の内訳は、道北地域(猿払村)2基、道央地域(石狩市厚田区、えりも町)4基、道南地域(江差町、松前町)2基で、発電規模は各19・2kW。8基合計の想定発電量は年間63万7000kW時となり、一般家庭約170世帯分の年間電力使用量に相当する。FIT(固定価格買い取り)制度を活用し、北海道電力ネットワークを通じて供給する。

            設置された風車(猿払村)


同社が小型風力発電事業に取り組むのは今回が初めて。経営企画部イノベーション推進室の嵯峨山巧主任は「風力発電事業の実施には、風況の良い立地であることが極めて重要と考え、設置場所の選定に力を入れた」と語る。


運転開始から間もないが「想定以上に風車が回っている」という。風力発電の仕組みやシステムの全体像を把握することや、住民説明会の実施など初めての経験で苦労もあった。それだけに、現地に足を運び、全8基の風車の完成を確認した時には「感無量だった」と振り返る。

電力小売りの販売地域拡大 電源のベストミックス探る

同社は30年度までに再生可能エネルギー電源取扱量6万kWを目標に掲げている。また、売上高に占める電力小売りや再エネの比率を、25年度の1%から27年度には4%と徐々に引き上げていくことで、長期的には電力を都市ガスやLPGに並ぶ主力事業に育てる計画だ。


電力小売りは、2月に販売開始した「このまち電気」の提供エリアを、当初の中国エリアに加えて9月には関東・東北エリアへ拡大した。今後も拡充を進め、30年度10万件の目標を目指していく考えだ。


来年度には同社単独では初となるバイオマス発電所の運転開始も控えている。小林清秀室長は「それぞれの再エネの強みを最大限に活用することを念頭に、電源開発を進めていく」と話す。ベストミックスを探りながら目標達成にまい進する構えだ。

【特集2】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

インタビュー/津曲貞利・日本ガス社長

〈インタビュアー〉伊藤菜々 電力系YouTuber(電気予報士)

津曲貞利(日本ガス社長)つまがり・さだとし 1980年早稲田大学法学部卒。84年日本ガス入社、常務、専務、副社長を歴任し2008年から現職=写真左。
伊藤菜々 (電気予報士)いとう・なな 1989年生まれ。上智大学経済学部卒。再エネファンドや新電力の立ち上げを経て独立。YouTubeチャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を運営し、電気について正しく分かりやすく発信中。

伊藤 カーボンニュートラル実現に向けたビジョンをお聞かせください。


津曲 まずエネルギー事業者としては、安定供給、保安の確保、安定価格が大前提です。昨今、化石燃料の使用が地球温暖化に与える影響が大きくなり、2050年に向けて対策を行っていくことも同様に大事です。しかしそこだけに焦点を当てて急ぐと、お客さまのニーズとかけ離れたり、高いエネルギー価格を強いたりすることになります。地域の課題解決に向け、生活に密着した取り組みを行うことが、地方のエネルギー事業者として重要だと考えます。

伊藤 下水汚泥、生ゴミによるバイオガス活用に取り組んだきっかけは何でしょうか。


津曲 初めは、大隅地区での畜産糞尿からバイオガスを抽出する実証を行いましたが、糞尿の集荷やバイオガスの配送コストが見合わず、うまくいきませんでした。この経験から生活残さを中心に検討し、自治体の清掃工場や下水処理場でのバイオガス事業の実現を視野に研究を進めることになりました。この時、環境問題に力を入れていた森博幸・鹿児島市長(当時)に構想をお話したところ、市長と担当部局が生活残さのバイオガス活用という循環型の取り組みに深い理解を示してくださいました。市民の生活残さが、同じく市民の使う都市ガスに戻ってくるという分かりやすさが、実現の決め手になったと思います。
 自由化を競争にさらされる不安ではなく、未来志向のチャンスとして捉えています。ガス事業者から総合エネルギーマネジメント事業者へと転身していく将来が見えました。


伊藤 バイオガスの取り組みは計画段階から含めると10年以上の年月がかかっています。

津曲 エネルギー事業はやはり安定供給、安全の確保、経済性が大前提となるため、それを差し置いてまで急ぐものではありません。目の前の課題と、50年を見据えた長期スパンの両軸で事業運営を考えています。

電気・ガスを適材適所で クレジットも有効策

伊藤 発電や熱利用でなく都市ガス原料としてのバイオガス活用は独自の取り組みです。


津曲 ガスは電気よりもスピードとパワーが強く、例えば、コインランドリーの熱源はほぼガスの火力です。生活の利便性も考えて、電気、ガスともに適材適所で使用することが大切です。ガスもカーボンクレジットを活用すべきです。適地でない場所への無理なプラント建設や運送コストも省けますし、適地での地方での取り組みも加速すると思います。

伊藤 鹿児島市との関係を構築する上で何がポイントでしたか。


津曲 エネルギーは生活に密着したもので、生活の課題は行政の課題でもあります。常に行政と連携しながら課題を共有し、先を見ることが大事です。「明珠在掌」という言葉があります。これは「貴重なものは遠くでなく掌の中にある」という意味です。周りの事例をまねするだけではなく自分の地域をよく見て、地産地消で行政課題を解決する取り組みを、地域から世界へ広めていく心意気が大事です。


伊藤 地産地消、循環型の取り組みでは何が大切でしょうか。


津曲 静脈を動脈に流していくことが重要です。ごみや下水処理は廃棄物を処理することが主目的であり、税金で運営されています。本来は処理で終わってしまうところにプラスでバイオガス生産設備を増設することで廃棄物をエネルギー資源として再活用でき、静脈を動脈に返すことができると考えています。

【特集2】独自技術で水素を高精度に検知 メタネーションを安全面から支援

【新コスモス電機】

40年ほど前から水素検知の技術を築いてきた新コスモス電機。
安全対策の観点から水素社会を支え、その存在感が増している。

都市ガス業界では、2050年のカーボンニュートラル(CN)実現を見据え、水素とCO2からメタンを合成するメタネーションなどの技術開発が行われている。これらの設備の運用において、安全性確保のため、ガスや水素の漏れをいち早く検知することが必要だ。


新コスモス電機は約40年前から産業分野において水素を選択的に検知する技術開発を行い、さまざまな検知器を製品化してきた。それらのラインアップの中で、今後、メタネーション設備などでの活用が期待されるのが、定置型の拡散式ガス検知部「KD-12」だ。

    「KD-12」には水素対応の防爆構造を採用した

研究成果が詰まった技術 水素だけを通す保護膜を使用

最大の特長は、同社独自の熱線型半導体式センサー技術。「長年にわたる研究開発で培ってきたノウハウが詰まっている」。経営企画室の十河泉広報部長はこう話す。核となるセンサー部分は、コイル状の白金線に金属酸化物半導体を焼き付け、保護膜で覆われている。わずか直径0.4~0.7mmほどの球体だ。検知するガス種に応じてセンサーの素材や対応温度を変えることで、さまざまなガスの検知が可能になる。例えば、水素を検知する際には、水素以外の分子を通しにくい保護膜を使用。「空気中のさまざまなガスより分子の小さい水素だけが保護膜を通り抜けるので、微量かつ低濃度でも高精度に検知できる」(十河部長)という。その他、アンモニアやメタンなどの検知部にも同センサー技術を用いてガスに応じた選択性をもたせている。


現場に配慮した機能もポイントだ。以前の機種は、検知部のほか警報部が監視室などに設置されていたが、「KD-12」にはガス濃度と警報の表示盤を本体に搭載。これにより、警報部が不要になり、ガス漏れの発生が現場ですぐ分かるようになった。また、従来は二人体制で行っていた点検・メンテナンスも、検知部のみなので一人での作業が可能だ。さらに、現場で磁気スティックを使い、表示盤で確認しながら調整もできるようになった。


同社のセンサー技術を用いた検知警報器は全国の水素ステーションの約8割で採用されているほか、アンモニア混焼の火力発電所などでの活用も進んでいる。CN実現を支える機器として、活躍の場がさらに広がりそうだ。

【特集2まとめ】都市ガス「新エネ」への挑戦 見えてきた低炭素化の現実解

低炭素化の現実的な解を手繰り寄せようとする、都市ガス各社の動きが加速している。


究極のCNエネルギーであるe-メタンをはじめ、CO2回収といった難易度の高い技術開発も進めている。


注目すべきは、大手事業者の取り組みにとどまらない点だ。清掃工場と連携したバイオメタンによるガス供給など地方ガス自らが主体的に動き出す事例が生まれつつある。


企業の存続すら左右しかねない低・脱炭素化の潮流に各社はどのように挑んでいるのか。最新の動向を追う。

【アウトライン】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

【インタビュー】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成

【インタビュー】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe―メタンを製造

【インタビュー】CO2分離回収技術開発に注力 LNG未利用冷熱を有効活用

【インタビュー】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

【レポート】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入

【トピックス】分離膜方式採用のシステム開発 高濃度のメタンガス精製を実現

【レポート】小型風力発電が運転開始 再エネ開発の目標達成に注力

【レポート】水素利用のすそ野拡大へ 小規模需要の「壁」に挑む

【レポート】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証

【トピックス】独自技術で水素を高精度に検知 メタネーションを安全面から支援

【トピックス】特許技術の整流器により省スペース化 水素含有率をリアルタイムで計測

【特集2】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

第7次エネ基でCN実現“後”の天然ガスの重要性が強調された。
都市ガス業界はこの方針転換をどう生かすべきか。国際大学の橘川武郎学長に聞いた。

橘川武郎(国際大学学長)
きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大学・一橋大学・東京理科大学教授、国際大学教授・副学長を経て、2023年9月から現職。

今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、「原子力の最大限活用」の文言が話題をさらった。だが、より注目すべきは、天然ガスを「カーボンニュートラル(CN)実現後も重要なエネルギー源」と位置付けた点である。これまで脱炭素化の文脈では、CN後の天然ガス利用は想定されていなかったことを考えれば、大きな方向転換と言える。ガス業界にとっては、かつてない追い風だ。


こうした流れの中で、足元で業界が取り組むべきは石炭や石油から天然ガスへの「燃料転換」だ。高い熱効率を維持したまま、転換した分だけCO2排出量を低減できる。燃転はこれまで大規模な供給エリアを中心に進められてきたが、今後は中小規模エリアや鉄鋼業などのハードトゥアベイト産業にも広げていく必要がある。e―メタンといった次世代技術の実用化に向けた取り組みも重要だが、当面は燃転を通じて着実に低炭素化を進めていくことを最優先すべきだ。


日本ガス協会は6月、新ビジョンと具体的なアクションプランを発表した。内田高史会長の下で策定された「内田ビジョン」は、第7次エネ基の方向転換を踏まえて、業界としての中長期戦略を再定義したものだ。

中長期の供給割合を再設定 大手の投資判断は不透明

旧ビジョンからの最大の変更点は、2050年時点におけるe―メタンとバイオガスの供給割合を、従来の「9割」から「5割~9割」へと幅をもたせたことにある。従来はe―メタンを主軸に、残りの1割を水素、バイオガスで補う想定だったが、内田ビジョンでは方針を転換し、天然ガスが1~5割を担う将来像を示したわけだ。


もっとも、東京、大阪、東邦の都市ガス大手3社にとっては、投資判断が難しくなるといった側面もある。e―メタン、バイオガス、カーボンニュートラルLNGといった原料構成の多様化は、複数の技術に分散投資した結果、利益を食い合う「カニバリゼーション」を起こしかねないためだ。


3社はこれまで、水素とCO2からメタンを生成する「サバティエ方式」を用いた大規模メタネーションの実証拠点として、キャメロンLNG基地を有する米ルイジアナ州や水素パイプライン網が発達するテキサス州などを候補地に検討を進めてきた。しかし、肝心の米国ではトランプ政権による方針転換で支援が縮小傾向にあり、投資環境は不透明さを増している。こうした状況下では、撤退を余儀なくされるケースも想定される。


ただ、明るい話題もある。サバティエ方式よりもエネルギー変換効率が高く、外部水素を必要としない「SOEC(固体酸化物形電解セル)」方式の実証が進みつつあるのだ。大阪ガスは大阪市内の酉島地区を拠点に、いち早くベンチスケールでの実証に着手した。SOECがオンサイト型のメタネーション技術として、サバティエ方式に先んじて普及する可能性もある。


大手にとっては懸念材料がある一方、準大手の目線では、新たなチャンスが広がったとも言える。旧ビジョンでは50年時点で「e―メタン9割」を想定していたが、これには大規模投資が必要で、参入の余地は限られていた。だが、新ビジョンでバイオガスやオフセットを活用した天然ガス利用が選択肢に加わったことで、中規模・地方事業者にも新たな事業展開の余地が生まれたわけだ。


その象徴的な取り組みを行っているのが日本ガス(鹿児島市)だ。同社は22年1月から、鹿児島市内の南部清掃工場内で生成するバイオガスを都市ガス原料として活用している。発電用途での使用が本格化するFIT(固定価格買い取り制度)の導入以前から準備を進め、今では地産地消型のエネルギー利用のモデルケースとなっている。

ごみを分解する発酵槽(日本ガス)


バイオガス以外では、西部ガスと北海道ガスが、北九州市のひびきLNG基地を拠点に、地域内の再生可能エネルギーを用いたe―メタン製造の実証を進めている。こうした準大手事業者による地産地消型のエネルギー供給に向けた動きは今後、一層加速していくと見られる。

次世代技術の活用が前提に エネ価格は高騰の見込み

第7次エネ基では天然ガスの重要性とともに、排出係数を低下させる野心的な目標を掲げている。「リスクシナリオ」では、40年時点の火力電源全体の排出係数を1kW時当たり0・31㎏とする試算を示した。火力の中で最も排出係数の低いLNGコンバインドサイクルで0・47(21年度時点)であることを考えれば、この設定水準がいかに低いかが分かる。これには相当量の水素やアンモニアの混焼が不可欠で、実際に活用する際にはCCS(CO2回収・貯留)やDAC(大気直接回収)などと組み合わせることが前提となる。これらの技術コストを加味すれば、カーボンプライシングの基準はCO21t当たり2万円程度が妥当となりそうだ。大半の国内事業者が1t当たり数千円台と想定するが、より高い水準を織り込まなければ現実的な事業モデルは描けない。


こうした背景を踏まえれば、今後エネルギー価格の上昇は避けられないことは自明だろう。従来のエネルギー価値に環境価値が付加される以上、価格への転換は必然であることを社会全体で共有する必要がある。


天然ガスの活用とCNは決して矛盾するものではない。排出量と吸収量がイコールになりさえすればいいのだ。まずは燃転を通じて低炭素化を進め、その上でe―メタンやバイオガスといった次世代技術導入への道を探っていくことが、都市ガス業界に求められる姿である。(談)