稲垣健一/デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー マネージングディレクター
全面自由化後も、電力供給のプラットフォームの役割を担ってきた大手電力会社。悪化した財務基盤の健全化、そしてインフラとしての電力供給システムの維持には何が必要か。
電力会社の経営について経済ニュースで話題になる機会が増えている昨今ではあるが、最終保障義務を背負い、電力自由化後も電力供給のプラットフォームである旧一般電気事業者(本稿ではプラットフォーム電力会社「PF電力」と呼称)の財務基盤脆化の懸念については、大きな話題になっていない。だが、表の通り、営業キャッシュ・フローは急速に縮小、投資キャッシュ・フローを賄えなくなっている。
実は、最近のエネルギー危機で急速に懸念が顕在化したわけではなく、前からさまざまな警鐘が鳴らされていたが、見過ごされてきたのが実態だと思料している。本稿では、PF電力の財務基盤の変遷について、キーとなるいくつかの数字とともに背景を読み解き、今後の対応について考えてみたい。
まずは系統電力の総需要を確認したい。東日本大震災前の2010年度は9311億kW時、小売り全面自由化直前の15年度は8415億kW時、直近期である21年度は8818億kW時(いずれも全国の送電端ベース)と、減少傾向にあることが分かる。

系統電力からの脱落トレンド 将来の設備維持に懸念
節電意識の高まりや人口の頭打ちに加え、オンサイトPPA(電力供給契約)を含む再生可能エネルギーの自家消費による系統電力からの電力購入の減少が背景にあるとみられる。この系統電力からの脱落トレンドは、PF電力の発電、送配電、小売り全事業にとってパイの縮小となるため、当然ながら財務基盤に直接的に影響しているが、それだけでなく将来にわたり電力系統設備を維持していこうとする際に大きな問題が生じる可能性をはらんでいる。