【関西電力 森社長】グループの総力を結集し ゼロカーボン社会に挑戦 新たな時代を切り拓く


化石燃料の高騰や需給ひっ迫の懸念など、さまざまなリスクが顕在化する中で社長に就任した。グループの力を結集して課題に立ち向かい、持続的な成長への道を切り拓く。

【インタビュー:森望/関西電力社長】

志賀 指名委員会に選任され、6月に社長に就任しました。突然のことだったと思いますが、どのように受け止め、また、榊原定征会長からはどのような言葉があったのでしょうか。

 社長就任の打診があったのは、4月末の記者会見の直前のことでしたので、あまりに突然のことに驚きもあり、10秒ほど間を置いて「分かりました」と返しました。当社グループは、新型コロナウイルス禍の長期化や国際情勢の緊迫化、需給ひっ迫など、多方面にわたるリスクが予測を超えて複合的に発生する「激動の時代」に直面しています。榊原会長からは、再生可能エネルギー事業本部長や電力需給・取引推進室長といった、会社の新たな課題を担う組織の責任者を歴任してきた経験を生かし、機敏かつ柔軟に変化に対応しながら、資源価格高騰への対応や安全・安定供給の全う、ゼロカーボンの推進といった課題に向き合い、新たな時代を切り拓いてもらいたいとの言葉がありました。

志賀 それを踏まえて、社長就任に当たっての抱負をお聞かせください。

森 当社グループを取り巻く難局を乗り越えるためには、中期経営計画に掲げた「ゼロカーボンへの挑戦」「サービス・プロバイダーへの転換」「強靭な企業体質への改革」という、柱となる三つの取り組みをグループの総力を挙げ力強く推し進めていかなければなりません。グループの全従業員が一丸となって課題に立ち向かい、将来にわたり持続的成長の道を切り拓いていくことこそが、私の最大の使命です。その上で、特に力点を置きたいのが、①経営理念『あたりまえを守り、創る』のさらなる浸透、②全員が活躍できる企業グループの実現、③お客さまや社会の目線の徹底―の3点です。

もり・のぞむ 1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

 まず、経営理念のより一層の浸透により、安全・安定供給などを着実にやり遂げる「守る」と、新たな価値を創出する「創る」の両輪を同時にしっかりと進めていくとともに、それぞれをより高い次元で実践していくことを目指していきます。各従業員が、自身が守るものと創るものが何か、常に意識し行動することが重要です。

 また、現下の厳しい状況を乗り越えるためには、グループ全従業員が持てる力を最大限に発揮し、その総力を結集して難局に立ち向かう必要があります。そのためには、一人ひとりが安全かつ健康であることはもちろん、互いの多様性を認め合いながら仲間の成長や成功を喜び合うなど、全員が活き活きと働き、活躍できる企業グループを創り上げていかなければなりません。さらに、お客さまや社会の皆さまからの信頼は、事業活動を進めていく上でなくてはならないものです。この大切な信頼を賜るため、また、真に求められる価値をお届けするため、これからも一人ひとりが、常にお客さまや社会の目線に立って考え、行動できる企業グループを目指します。これらを実践していく当社を見て、「関西電力ってええやん」と言ってもらえる、そんな会社にしたいと考えています。

【特集1】燃料価格高騰に歴史的円安が追い打ち 岸田政権は国民生活を守り抜けるか


国際的な化石燃料価格の高騰と歴史的な円安の進行により、物価上昇が加速している。国民生活に大きな影響を与えるだけに、実効性のあるエネルギー価格の抑制策が不可欠だ。

物価の高騰が国民生活や経済活動を直撃している。食料品の値上げが相次いでいるほか、電気やガスといったエネルギー価格の上昇にも当面は歯止めがかかりそうにない。物価上昇の主因である化石燃料を巡る国際情勢がいつ落ち着きを見せるのか、円安がどこまで進行するのか見通しが付かず、暮らしへの不安は広がるばかりだ。

欧州エネルギー危機が波及 日本を襲う二重の苦しみ

化石燃料価格高騰の背景には、新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴い燃料需要が増加する中、ロシアがウクライナに侵攻。対露制裁に踏み切った欧州各国が、その一環としてロシア産の天然ガスや原油を禁輸する方針を打ち出したことがある。

もともと欧州の化石燃料需要におけるロシア産比率はガスが4割、石油が3分の1、石炭が4分の1と高い。ロシア産に代わる調達先の確保と冬の高需要に備えたガス貯蔵を急ぐが、この影響で、欧州の天然ガス価格の指標であるオランダTTFは、100万BTU(英国熱量単位)当たり50ドルを超え、需要期ではない夏場としては異例の高価格を付けている。そしてこれにつられるように、北東アジアのLNG価格の指標であるJKMスポット価格も40ドル台半ばまで上昇した。

石炭価格も高水準が続く。欧州諸国がガスを貯蔵する一方で、足下の電力需要を賄うために石炭火力への依存度を高めるなど、石炭を購入する動きが世界的に拡大しているためで、豪州産の一般炭指標価格は7月中旬現在、1t当たり400ドル超の超高値圏で推移している。

石油も、アメリカの利上げによる景気後退懸念からWTI原油先物が一旦は1バレル100ドルを切る水準まで下がったものの、7月18日には「ガスプロムが欧州の顧客にガス供給を保証することができないと伝えた」とのロイター通信の報道を受け、再び100ドル超に上昇した。

こうした化石燃料価格の高騰に歴史的な円安が追い打ちをかけ、日本への影響も深刻だ。7月14日には1ドル139円台に突入。燃料のほぼ全量を輸入に頼る日本のエネルギー企業にとって、燃料高騰と円安のダブルパンチによるコスト増は大きな痛手だ。そしてそれは、電気・ガス・ガソリン料金に反映され、徐々に家計を圧迫し始めている。

【特集1】東ガスが原調上限を引き上げ 対応分かれる都市ガス業界


2017年の全面自由化を機に、多くの既存事業者で料金規制が撤廃済みの都市ガス。ここにきて原料費調整制度の調整上限を巡り、新たな動きが出てきた。

本稿締め切り直前の7月21日、驚きのニュースが飛び込んできた。東京ガスが、原料価格や為替の変動を都市ガス料金に反映するための原料費調整条項に基づく調整額の上限を引き上げると発表したのだ。現行では、基準平均原料価格の1・6倍の9万1600円を上限としているが、これを10月から段階的に引き上げ来年3月には15万6200円にする。

同社は、2021年10月に経過措置料金規制が解除されて以降も、規制下で義務付けられていた上限を維持してきた。しかし、原料費高騰の影響により、7~9月の3カ月連続でこの上限を超過。膨れ上がるコストを適切に料金に反映し、事業の安定性を確保できるよう見直しに踏み切った形だ。

強まる収益圧迫懸念 原調見直しへ他社も続くか

都市ガスの原料であるLNGの輸入価格は、全面自由化から新型コロナウイルス禍前までは1t当たり4万5000~6万5000円程度だったが、20年以降は9万5000円まで大幅に上昇。東ガスのほかにも、大阪ガスや北海道ガスなど、規制解除後も調整上限を維持している事業者は複数ある。いずれも8月の段階では若干の余裕があるとはいえ、上限到達が迫っているのは事実だ。

規制の縛りを受けないはずの都市ガス会社であっても、家庭向けをはじめとする一部の料金種で原調の上限を設定していれば、これを超えた分は自社で負担するしかなく、収益が圧迫される懸念が強まっている。

北海道ガスは「さまざまな状況を踏まえ、慎重に対応していきたい」(広報グループ)としているが、東ガスが先行したことで見直ししやすい空気は醸成されたはず。各社がどう動くのか。今後の業界動向が注目される。

都市ガス関係者の一人は、このタイミングでの東ガスの決断に、「7月末に大手電力会社が燃料費高騰対策を表明するとのうわさがあり、様子見するとばかり思っていた」と驚いた表情で語る。

とはいえ、料金規制が撤廃されたのであれば、当然、上限の廃止やフレキシブルな原調の見直しが可能であるはず。実際、全面自由化と同時に規制が外れた西部ガスや広島ガスは、早々に上限を廃止した。だが、今回の東ガスの原調見直しは、あくまでも上限の引き上げで廃止ではない。

実は、当初、規制解除と同時に上限を廃止してしまおうという動きはあったようだ。それが、大手3社の一角である東邦ガスと、地方の中小3社に経過措置規制が課されたままで原調の上限が継続されること、そして何よりも、電気料金との兼ね合いで資源エネルギー庁が難色を示したことにより実現には至らなかった。

「当時は、まさか上限までいくわけがないという甘い見通しもあった」と語るのは大手都市ガス関係者。その時点であれば、経営判断で上限廃止を断行できたのかもしれないが、「さまざまな要因で議論が停滞しているうちに、物価全体が高騰する今の情勢下で、需要家への影響が軽微とは言えない料金値上げや、それに伴う原調の基準価格見直しには慎重にならざるを得なくなった」という。

【特集1】電気料金はマクロ政策で重要な位置づけ 社会に受容される見直し必要


インタビュー:山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授

あらゆる物価が上昇する中、特にエネルギー価格への国民の関心は高い。山内弘隆・武蔵野大学特任教授は、社会に受容される料金見直しの重要性を強調する。

―多くの電力会社で、燃料費調整制度に基づく平均燃料価格が上限に達し、料金に反映しきれない状況が続いています。

山内 あらゆる物価が高騰している中でも、エネルギー、特に電気・ガス料金に消費者の注目が集まっており、マクロ政策的にも非常に重要な位置づけにあると思います。燃料費調整制度は、事業者の燃料調達における価格変動リスクを需要家にある程度転嫁することで、燃料調達の脆弱性を補完し電力の安定供給を確保するための仕組みであり、少なくともこれまではそれがきちんと機能してきたと考えています。

―長く規制料金の料金改定が行われていません。基準燃料価格を引き上げるためにも改定すべきでしょうか。

山内 東日本大震災の前後に料金改定したきりで、原価の洗い替えができないことからそのような状況になっているのでしょう。しかし、ここまでリスクが顕在化してしまったからには、料金改定に踏み切らざるを得ませんし、参議院選挙が終わり、これからそういった議論が本格化していくと思います。今年初めには、燃料費調整単価の上限到達が見え始めていたところに、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけ、電力会社の経営を取り巻く環境が悪化し、このままでは立ちいかなくなります。どのタイミングでどのような改定を行うのか。事業者の負担が少なく、かつ社会に受け入れられる方法が求められます。

価格変動に不慣れな新電力 プライシングに未熟さ

―経過措置料金規制は役割を終えたのではないでしょうか。

山内 今この段階で、経過措置規制を撤廃することは社会的に見て難しいのではないでしょうか。確かに、都市ガスは一部を残し規制が外れましたが、だからといって電気もすぐに外すということにはならないと思います。それよりも、燃料費調整制度の仕組みを現状に合わせて変えることの方が、現実的な解決策だと思います。

―新電力側からも、大手電力会社が値上げ改定しないことに不満が噴出しています。

山内 新電力の顧客獲得は、基本的に大手の規制料金に対してどれだけ有利な料金メニューを打ち出せるかにかかっていると思います。大手が値上げすれば、それに準じて自社の料金水準も引き上げることができるため、大きな関心事となっています。自由化で先行したイギリスでは、発電所を持たない新電力が多く参入し、料金メニューや契約形態を工夫することで顧客を獲得していました。少なくとも、電気のBtoB取引は金融商品のような側面があり、実際、イギリスの新電力の経営陣には金融業界の出身者が多くいます。

 ただ日本の場合は、マーケットの価格変動に慣れ親しんだイギリスの場合とは少し状況が異なります。そのために、新電力も経過措置料金規制の存在という大きな枠組みの中で勝負することになったわけです。今回の価格高騰危機で破綻した事業者も多くありますが、プライシングの点で未熟さが残ることは否めません。

やまうち・ひろたか 1955年千葉県生まれ。
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。
1998年から2019年まで一橋大学大学院商学研究科教授。
現在、一橋大学名誉教授、武蔵野大学経営学部特任教授。

【特集1】電気事業の正常化に欠かせず 燃料費転嫁と固定料金プラン


インタビュー:城口洋平/ENECHANGE代表取締役CEO

電気料金制度を巡り、業界内外からもさまざまな意見や要望が噴出している。正常化への切り札とは―。城口洋平・ENECHENGE代表取締役CEOに話を聞いた。

―燃料費調整制度を含む電気料金制度の見直しが不可避です。

城口 長期契約を中心とした調達戦略と燃調制度の上限設定もあり、日本の電気料金の値上がり幅は海外と比べても小さく、消費者にメリットがあるように見えます。しかし欧州各国では、料金が2倍、3倍に跳ね上がっても、小売り事業者はコストを回収しきれていません。燃料費の増減は燃調で調整するという原理原則を全うするためにも、燃調制度を見直し、燃料費を適切に小売り料金に転嫁する仕組みが必要です。

―現状では、消費者負担が無尽蔵に増えかねません。

城口 一時的には消費者の負担が増えますが、原子力発電や再生可能エネルギーが増えれば今の水準よりも下がることが期待されます。原発と再エネの最大限の活用、節電・節ガスなど化石燃料の使用量を減らすあらゆる手段を講じる必要があります。

―どのような見直しが求められますか。

城口 石炭や石油、LNGなど、料金設定時の平均燃料価格を基に固定の数式で算出する基準燃料価格では、国際的な燃料価格の変動をリアルタイムに反映することができません。燃料価格がJEPX(日本卸電力取引所)スポット価格に正しく反映されていることを前提とするのであれば、マーケットシグナルを反映した燃調に切り替えることも一つの考え方だと思います。少なくとも、一年に一度はフレキシブルに見直す仕組みにするべきです。

広がる独自燃調の採用 変動リスクの回避策とは

―燃調を含め、料金メニューをどう作りこむかは、新電力にとっても大きな課題です。

城口 新電力の多くは、大手電力の経過措置規制料金に合わせて料金メニューを設定しています。大手の中でも規制燃調と独自燃調を使い分ける動きがありますし、新電力も追随すると考えられます。

―固定料金メニューの必要性を主張されています。

城口 イギリスの事例ですが、小売り事業者が独自燃調を採用し事業者間の価格比較が困難になったことで、分かりやすさを訴求するために固定料金プランが生まれ、現在、自由料金を選択する世帯のほとんどがこれを選んでいます。燃料価格を正しく小売料金に転嫁しようとすれば、自ずとその変動の影響を受けないための固定料金メニューへのニーズが高まりますが、日本の場合、現行制度では燃料費が上がっても料金が上がらないため、固定料金にするメリットがありません。

 まずは、燃料価格を正しく反映できるよう燃調制度を見直し、その変動の影響を受けたくない需要家のための固定料金メニューを作る。そのためには、小売り事業者が価格をヘッジするための手段の充実が欠かせません。先行者が不利になりがちなので、固定メニューは大手が先行して固定プランを出し、新電力に広がっていくことが望まれます。

きぐち・ようへい 東大法学部卒、ケンブリッジ大
工学部修士・博士課程修了。ケンブリッジ大学在学中に
「ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ社」を設立。
2015年にENECHANGEを共同創業し代表取締役会長に就任。

【特集1】エネルギー巡る混乱は政策失敗のツケ 今こそ省エネ・再エネの深掘りを


インタビュー:田嶋 要/立憲民主党環境・エネルギー調査会長 衆議院議員

エネルギーを巡る諸問題が国民生活に影を落とす中、今後の政策はどうあるべきか。立憲民主党の田嶋要・衆議院議員は、省エネの推進と再エネの導入加速の必要性を訴える。

参院選とエネルギー政策
国政選挙において、これまでエネルギー問題はなかなか争点化しませんでしたが、電力・ガス料金が高止まりし生活に大きな影響を与えている中、国民の関心は相当高まっているのではないでしょうか。立憲民主党は、2030年5割、50年100%と、政府・与党よりも高い再生可能エネルギー発電比率の導入目標を掲げ、原発に依存しない自然エネルギー社会を作る方針はぶれていません。ところがこの10年、政府の施策はあいまい、不十分なことばかりで、結局、再エネ、省エネは中途半端、原発は動かず火力発電の大量退出を招いてしまいました。政策の失敗により、日本は先進国からだいぶ差を付けられてしまいました。

原発再稼働
政府・自民党はこれまで、原発問題の争点化も避けてきました。今の厳しい電力需給を背景に、審査中の原子力発電所の再稼働を進めようという動きが出ていますが、あくまでも安全規制に基づく規制委員会の合格と、実効性のある避難計画の策定を前提とした地元合意がなければ認められません。

料金高騰対策
燃料調達価格の高騰と円安の影響により、燃料費の変動を反映する燃料調整費は天井を打っています。燃料コストを回収できない事業者にとっては大きな打撃ですし、料金が高止まりし消費者にも重い負担を強いています。国民が苦しんでいる時に、期せずして税収増になる消費税負担も問題です。党として6月10日、ほかの野党3党とともに来年4月以降当面の間、消費税率を5%とする法案を提出しました。私は、生活に欠かせない電気・ガス料金は、暫定的に税率を0%にしても良いくらいだと考えています。石油元売りへの補助金のようなエネルギーを使用することに伴う負担増への支援に加え、省エネ機器や住宅の断熱性能を高めるなど、消費抑制につなげる施策への支援も不可欠です。

夏・冬の電力危機
これを機に、化石燃料になるべく依存しない社会へと転換を図るべきです。そのためにまずは、省エネを徹底しなければなりません。手を付けていない省エネの工夫はまだまだ無数にあり、エネルギー消費量を減らす余地は産業・運輸部門でも家庭部門でも大いにあります。また、今の苦しい状況は再エネにしっかり取り組んでこなかったことも要因です。省エネを進め、どうしても必要なエネルギーを地産地消を中心とする再エネに置き換える取り組みを、国民運動として推進しなければなりません。

炭素税・排出権取引
炭素税のポイントは、増税を目的としないことです。CO2を排出する、排出しないに着目した税体系に再設計することで、社会全体が炭素の排出量を減らすために取り組みやすくする制度でなければなりません。排出量取引は、東京都と埼玉県で実施し成果を上げているにもかかわらず、国の動きはあまりにも遅すぎます。早急に制度化を目指すべきです。

たじま・かなめ  1985年東京大学法学部卒、NTT入社。米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールにてMBA(経営学修士)取得。2003年衆院当選(千葉1区)。10年経済産業大臣政務官、原子力災害現地対策本部長などを歴任。当選7回。

【特集1】エネルギーは全ての活動の土台 サハリン権益は国益を守る視点で


インタビュー:額賀福志郎/自由民主党総合エネルギー戦略調査会長 衆議院議員

ウクライナ危機によって浮き彫りになった日本のエネルギー構造の脆弱性。額賀福志郎氏は、改めて安定供給と自給率向上の重要性を強調する。

参院選とエネルギー政策
ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーやさまざまな資材、食料価格が高騰しています。エネルギーは全ての社会・経済活動の土台であり、安定的で安価な供給が必要不可欠です。エネルギー安全保障の観点から自給率を向上させていくことが極めて大事です。

そのために、まず徹底した省エネを図らなければなりません。石油危機を機に官民を挙げて省エネ政策と産業構造の転換を図った結果、高度成長から安定成長につなげ産業界の競争力を高めてきた実績があります。

サハリン1、2
サハリン1は、原油輸入の9割を中東に依存するわが国にとって、貴重な調達先です。サハリン2からはLNG輸入量全体の約9%を調達しており、長期かつ安定的な供給に貢献している重要なプロジェクトです。日本が権益を手放しロシアや第三国がそれを取得した場合、ロシアを利する可能性があるばかりか、わが国のエネルギー安全保障を害し、制裁も緩みかねません。ロシアの侵略行為は、決して許すことはできない暴挙であり、価値観を同じくする欧米諸国などと連携し対応することは極めて重要です。一方で、したたかに国益を守る視点も忘れずに対処しなければなりません。

エネルギー価格高騰
ガソリンや農業、漁業の燃料費などの価格の高騰の激変緩和措置として、まず補助金を投じ、一定の抑制効果を上げています。政府として高騰に対応するため、引き続き価格抑制策を検討し万全を期します。同時にEVの補助金の増額、企業への省エネ設備導入補助など、需要面におけるエネルギー構造転換も支援し、国民生活や産業を守っていきます。

原発再稼働
エネルギー自給率の向上で求められているのが、再生可能エネルギーと原子力の最大限の活用です。エネルギーの安定供給により、中長期的な目標を持ちながら生活基盤、産業構造の転換を図ることが、カーボンニュートラル社会に向けて不可欠です。

新規制基準に適合すると認められた原子力発電については、地元の理解を得ながら再稼働を進めるほか、小型炉や高温ガス炉など革新炉の技術開発促進によって原子力の拡充を急ぎ、人材や技術者の維持・拡大につなげるとともに、サプライチェーンを守っていかなければなりません。

脱炭素社会の実現
バブル経済崩壊後、日本の産業の生産性、競争力は下降線をたどってきました。それは国家的な目標がなく、企業がリスクを負って投資できなかったためです。今、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)という国としての目標が立てられることで技術革新へのチャレンジがなされ、新しい成長産業が生まれ、国際競争力強化へと結びつきます。結果を出せるよう、これらの取り組みを支援していくことが、政府に課せられた最大の使命です。

ぬかが・ふくしろう  1944年生まれ。早大政治経済学部卒。茨城県会議員などを経て83年衆院議員当選。防衛庁長官、経済企画庁長官、財務大臣などを歴任。現在、総合エネルギー戦略調査会会長。当選13回。

【特集1】八方ふさがりのエネルギー政策 票にならないから争点化せず 政治家・有権者に重い責任


ロシアのウクライナ侵攻は、日本の一次エネルギー安全保障戦略の抜本見直しを迫っている。第二次世界大戦後の世界秩序の大転換に、政治そして国民はどう向き合うべきか。

【出席者】 A政治家 B学識者 Cアナリスト

――エネルギー資源問題が需給、価格の両面で世界に混乱を巻き起こしている。さらにカーボンニュートラルという大きな政策課題が横たわり、国民経済・生活に与える影響は計り知れない。だが、これまでの国政選挙と同様、今回の参議院選でもエネルギー政策が争点として大きく取り上げられる可能性は低そうだ。

A そもそも日本のエネルギー政策は、業所管政策でしかなく総合的な戦略を描くという広い視点が欠けている。ロシアによるウクライナ侵攻後の日本を取り巻くエネルギー情勢が、それを見事に露呈させた。光熱費が上がったからと、補助金を投じたところでなんの解決にもならない。欧米を真似てばかりで、日本固有の問題を踏まえた戦略を考えてこなかったツケが回ってきたわけだ。地政学的な観点から日本としてどのようなエネルギーミックスを目指すのか、資源をどう調達していくのか、そういった根本的なことを考えていく必要があるよ。

B 国会では、立憲民主党が物価上昇に対する政府の責任を追及しているが、インフレ率を見ると欧米は7~8%と日本よりも高い。米国のエネルギー価格は10数%上昇で止まっているが、欧州は4割近く上がり、それがインフレに大きな影響を与えている。日本では、電気代が上がった結果、物価が上昇している側面が大きいが、そういった議論があまりない。エネルギーは非常に大事な国の政策なのに、エネルギーの議論をすると減る票はあるかもしれないが、増えることはないからと、選挙の争点にならない。ドイツはガソリンと電気、イタリアも電気代に補助金を投じているけど、予算が尽きれば継続できなくなるし、ある意味国民に対する「だまし」だ。抜本的な解決策を考えなければならないが、欧州はあまりにもロシア依存度が高く、それ以外打つ手がないのだろう。日本は幸いにもロシア依存率はそれほど高くないが、今から対応を考えておかないと非常にまずい。本来は選挙戦でそういう話をしてもらいたいのだが。

C ロシアのファクターは非常に大きい。中東有事を見据えてロシアからの輸入を増やして中東依存度を下げたわけだけど、これがまた上がることになる。サウジアラビアと米国の関係も良くないし中東で何が起きるか分からないから、一次エネルギーの安全保障戦略という意味で日本は振り出しに戻ってしまった。原子力に対する中途半場な態度は、政治の問題でもあり、それを放置してきた国民の責任でもある。票にならないとして政治家がエネルギーを語らないのは、票を入れない国民の側も悪いということ。エネルギーは自由化されたにもかかわらず、誰かが供給してくれるという国民意識が変わらなかったしっぺ返しを食らっている。政治家だけではなく、国民もしっかりしてもらいたい。


通常国会閉幕後の会見で岸田首相はエネルギー問題に言及(提供:首相官邸)

【特集1】比例区の動向 電力総連2議席に黄信号 原子力で「勝負」へ


電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)は現在、国民民主党議員として2人(小林正夫氏、浜野喜史氏)を参議院に送り出している。小林氏が今年勇退し、後継者として竹詰仁氏が参院比例区に出馬する。電気事業に精通した議員の2議席確保は労組関係者だけでなく、電力業界が望んでいることだ。しかし、今回の選挙は「過去になく厳しいものになる」と陣営は危機感を募らせている。

 国民民主党の参院比例区では、民間労組出身者が得票数を競い合う。浜野氏が当選した2019年の選挙で同党が比例区で得たのは三議席。浜野氏は3番目にすべり込んだが、電機連合出身候補者が落選している。

 7月の参院選比例区に出馬する候補は9人。このうち川合孝典氏(UAゼンセン)、浜口誠氏(自動車総連)、矢田稚子氏(電機連合)は現職で有力労組が支援する。電機連合は前回、東芝労組出身者が苦杯をなめたが、矢田氏はパナソニック労組の出身。前回を上回る票を得るとみられる。

 竹詰氏の議席を確保する「正攻法」は、国民民主党が得票数を伸ばすことだ。エネルギー危機が現実味を帯びる中、同党は原子力の分野で「勝負」に出た。自民党も明言を避けている「次世代炉へのリプレース」を公約で打ち出したのだ。「電力の安定供給は人の命にかかわること。われわれには政策に責任を持つ党という自負がある」。小林氏は踏み込んだ原子力政策を示した理由をこう話す。

 浜野氏が19年に獲得したのは約25万7000票。矢田氏が16年に得た票数(約21万5000票)を上回る。だが発電・小売り会社と送配電の分離後、電力会社の組合員の一体感は年々薄れているという。陣営は以前に増して気を引き締めるが、当落は不透明だ。

【特集1】新潟選挙区の動向 県知事選と同様の構図 原発再稼働は争点にならず


需給ひっ迫などの懸念から柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に期待が高まる中、新潟選挙区の動向が注目されている。自民党新人の小林一大氏、立憲民主党現職の森裕子氏ら4人が出馬。改選定数1をかけ事実上、小林氏と森氏の一騎打ちの様相だ。自民は同区の議席ゼロから1議席奪還を狙い、対する立民も最重要区と位置付ける。森氏が知名度では勝るものの、「県議の若手エース」と目され公認決定以降地道に活動してきた小林氏が追い上げを見せる。

 とはいえ「再稼働は争点にならない」というのが地元の一致した見方。再稼働容認派の品田宏夫・刈羽村長も「今は異常事態だがエネルギーは安定供給を損ねないことが当たり前で、再稼働は争点になりようがない」と強調する。

 それは5月29日の県知事選でも見て取れた。現職の花角英世氏が再稼働反対派の対立候補に大差で勝利。しかし花角氏は再稼働について「県の三つの検証結果が出るまで議論しない」とし、4年前の知事選の際から変わりはない。

 今回の公約でも、森氏はウクライナでの攻撃を踏まえ「原発リスクから新潟と日本を守る」と訴えるが、小林氏は「エネルギー資源を最大限活用し経済を活性化する」とし、原発は対立軸ではない。「ロシア問題で原子力を巡る潮目が変わるかとも思ったが、県民の原子力への関心は高くはない」(地元関係者)。政府が原子力政策を放置し、核物質防護に関する東電の不祥事が発生、さらに県の検証の完了も見通せない中、誰もすぐ原発が動くとは思っていない。

 地元では「東電が運転することが一番安全」(品田村長)などとなおも東電への信頼は厚い。ただ、関係者が議論を避け続けた結果が今の電力危機であり、そのツケはすぐ清算できるものではない。

【特集1】各政党が訴えるエネルギー政策は 7月10日投開票へ熱い論戦


「主張を掲げても得票につながらない」と、これまでの選挙戦でも争点化されてこなかったエネルギー問題。歴史的な需給ひっ迫と価格高騰の収束が見通せない中、各政党は諸問題にどう向き合うのか。

第26回参議院議員選挙が6月22日に公示され、7月10日投開票に向け候補者による熱い論戦が全国各地で繰り広げられている。

6月15日の通常国会閉幕を受けて記者会見に臨んだ岸田文雄首相が、「歴史を画する課題に日本がどう挑戦するのか、これを国民に判断いただく選挙になる」と述べた通り、ロシアによるウクライナ侵攻で国際秩序が根底から覆ろうとしている中、日本は政治、経済、安全保障戦略をどう描き直すべきなのか、各政党がビジョンを示し国民の信を問う好機であるはずだ。とりわけ、世界的なエネルギー有事は、日本においても価格高騰や需給ひっ迫危機を引き起こし、経済活動や国民生活の先行きに深刻な影を落としている。

問題は足下の価格高騰だけではない。日本政府は1970年代のオイルショックを契機に、エネルギー資源を安定的に低廉な価格で確保するため中東依存度を低減する政策を進めてきた。対ロ制裁のため、国際社会と協調してロシア産エネルギー資源の輸入を削減、停止することは規定路線だが、それにより中東依存が高まれば、「エネルギー安全保障戦略」は振り出しに戻ることになる。

与野党が避け続ける エネ政策の論点化

第二次世界大戦後、最大の転換点に差し掛かっていると言っても過言ではないが、各政党の選挙公約は、エネルギーに関しては相変わらず票集めのための耳心地の良い文言が並ぶばかりで、岸田首相が言う「国民の判断を仰ぐ」ものとは到底言えない。

原子力発電の再稼働問題一つを取ってもそうだ。燃料価格の高騰と需給ひっ迫に対応するため、岸田首相は「最大限の活用が大事」と言う。しかしどう再稼働を進めるのかというと「安全性を大前提に住民の理解を得ながら」と、従来よりも踏み込んだ言及はなく具体策は全く見えてこない。

その姿勢からは、「有事下の選挙で与党圧勝の構図が予想されており、わざわざ原発再稼働問題を掘り下げて波風を立てたくない」(政治事情通)という本音が見え隠れする。野党にしても同じで、与党が議論を避ける論点をあえて争点化しようという意気込みは感じられない。

7月10日投開票に向け論戦が繰り広げられている

原発再稼働、価格高騰対策、脱炭素戦略―。山積するエネルギー政策課題に、各政党はどう向き合おうとしているのか。それを探るべく、本誌エネルギーフォーラムは、自由民主、公明、立憲民主、維新の会、国民民主、共産、れいわ新選組の各政党にアンケートを実施した。

各党の回答の詳細は、19~20頁にまとめた。ここでは、その中でも特に注目度の高い①ロシア産エネルギー資源と安定供給、②料金高騰対策、③原発再稼働問題の3点にフォーカスする。

【東北電力 樋󠄀口社長】火力燃料の安定調達や 被災火力の早期復旧で 給力確保に万全を期す


燃料調達リスクや大規模地震による設備被害など、さまざまな課題に直面している。火力燃料の安定調達ならびに被災火力の早期復旧に全力を尽くし、2022年度の夏・冬における電力の供給力確保に努めていく。

【インタビュー:樋󠄀口康二郎/東北電力社長】

志賀 電力の供給力確保のためには燃料の安定調達が重要ですが、今後の燃料市場をどのように見ていますか。また、燃料の安定調達のためにどのような対策を講じていますか。

樋口 ロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、当面の間は燃料価格が高止まりする可能性が高いと考えています。石炭については、ロシア炭の禁輸方針を示した欧州諸国の需要家がロシア炭以外の海外炭調達を積極的に行っていることに加え、日本もロシア炭の段階的禁輸方針を示したことなどにより、世界的に需給のタイト感が続いています。

 またLNGについても、ロシアからの供給途絶リスクを背景に各国の代替調達の動きが見られ、市場において厳しい需給バランスがしばらく継続する可能性が高いと考えています。今後の動向を注視するとともに、調達先を分散するなど柔軟に対応していきます。

志賀 代替調達の目途は立っているのでしょうか。

樋口 当社は、昨年度までの実績で、石炭・LNGともに1割程度をロシアから受け入れています。近距離ソースであるロシア炭は輸送費の面でメリットがありますが、供給途絶リスクがあることなどから足元では受入れを見合わせています。現時点では、ロシア炭の受入予定はありませんが、2022年度の石炭調達については北米などの他の産炭国から分散して調達することで、所要量を確保できる見通しです。

 LNGについてはサハリン2プロジェクトに関する売買契約に基づき、調達を継続しています。現時点で影響は出ていませんが、今後の状況変化により影響が出る可能性もゼロではないため動向を注視し、あらゆる代替手段の検討を進めていきます。

ひぐち・こうじろう
1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。18年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

【特集1】新電力から見た制度上の課題 事業継続へ業界健全化の秘策は?


事業縮小や撤退を進める新電力が相次ぐ中、事業継続に確固たる信念を持つ事業者も。関係者らは、政策や制度にどのような問題があると考えているのか。

「電力の安定供給確保」「電気料金の最大限の抑制」「電気利用者の選択肢の多様化と企業の事業機会の拡大」―の三つを目的に進められてきた電力小売り自由化。資源エネルギー庁によると、小売り事業者の登録数は2022年3月末までに752社(供給実績がある事業者は21年12月時点で587社)。大手電力会社の地域独占に風穴を開け、低価格戦略を軸に熾烈なシェア争いを繰り広げてきた。

しかし小売り全面自由化から6年。足元の状況を見ると、大規模地震や厳気象に見舞われるたびに電力不足に陥るなど、安定供給への信頼性は揺らぎ、再生可能エネルギー賦課金の上昇や燃料価格の高止まりにより、重い電気料金負担が需要家にのしかかっている。

そして特に高圧分野では、調達コストの上昇で低価格競争に耐え切れなくなった一部の新電力の間で需要家の切り離しが始まり、今後、さらに破綻や事業撤退・縮小など淘汰が加速していくことは目に見えている。

旧一般電気事業者の小売り部門やほかの新電力も、追加の供給力の調達が逆ザヤとなることから新規受付を停止中。契約先を見つけられない需要家は、セーフティーネットである一般送配電事業者の最終保障約款メニューに頼るしかない。需要家を巻き込む形で、制度が意図してこなかった事態に発展してしまっているのだ。

自由化の目的が達成されるどころかそれとは真逆に向かっている現状を、自由化の主役を担ってきた新電力関係者らはどう見ているのか。本誌アンケート調査では、政策・制度へのさまざまな問題意識が浮き彫りになった。

早期の安定供給確保策を 電源構成の適正化も不可欠

多くの新電力が求めるのは、まずは需給ひっ迫と市場価格高騰の解消に向けた手を早急に打つことだ。日本全体で必要とする電力需要を賄う供給体制が確保されていることは競争の大前提であり、価格、量の両面で電気の調達環境のボラティリティが高い現状が続く限り、業界全体の健全な発展など望むべくもない。

供給体制の不安定化の背景には、市場競争の促進と再エネの導入拡大が同時並行で進んだことで、安定電源である火力発電所の退出が急速に進んでしまったことにある。加えて、国際的な資源燃料の需給ひっ迫と価格高騰を背景に燃料調達リスクも顕在化。kW(供給力)、kW時(発電電力量)双方で不透明感が増す。

このためA社は、「国として安定電源を確保し、かつ十分な燃料を確保するために、実効性の高い制度設計が行われる必要がある」と要望する。

需給ひっ迫と価格高騰が新電力経営を直撃している

【特集1】電力小売りのビジネスモデルは崩壊 撤退が最良の選択肢なのか!?


市場競争を支えてきた潤沢で安価な供給力が失われ、新電力は総崩れの様相だ。小売りビジネスの最前線に立つ3人が、今の問題点を率直に語り合った。

〈出席者〉 A大手電力系新電力  B再エネ系新電力  C独立系新電力

―電力需給のひっ迫と市場価格高騰で、新電力が苦境に立たされている

A 手の打ちようがない状況だと言わざるを得ない。新電力ビジネスは、自社電源を保有しているケースを除けば仕入れ価格と販売価格の「さや」で儲けているに過ぎない。外部の発電事業者か日本卸電力取引所(JEPX)から調達するしかないが、相対では売り物がないし、市場価格では採算が取れない。もはや、需要を手放した者勝ちの様相だ。旧一般電気事業者(大手電力会社)でさえも同様で、潤沢に電源があるわけではなく新規の契約申し込みを断っている。お客さんを押し付け合うようなことが起きており、電力小売りのビジネスモデルが崩壊しかかっている。

B 各社とも需要を手放すか、料金値上げするかしか対応策がないほど、非常に厳しい状況に追い込まれている。このままでは、誰も新電力事業を継続できなくなってしまう。政府が電力システム改革を当初の予定通り進めようというのであれば、早急な改善を求めたい。電源を退出させるインセンティブが働いてしまった電力システム改革そのものに、その要因の一端があることは間違いない。

C 当社のように、自ら発電所を持ちロングポジションになっている新電力の場合、現状ではそれほど経営への影響は大きくない。ただ、逆にJEPXスポット価格が非常に安い局面では、化石燃料による電源を保有するリスクが高まり苦しくなることもあり得る。今がいいからと言って供給力以上に需要を増やそうとは思えないし、新規契約は原則として受け付けていない。顧客を増やすよりも、供給力を温存しておいて市場が高騰した際に供出した方がよほど収益に寄与するからね。今の制度では、そういうインセンティブが働いてしまう。大きなリスクを抱えた業界だと改めて認識している。

顕在化した制度の「抜け」 コスト負担の在り方に課題

―このような状況になった要因は複数あると考えられるが、最も大きな要素と考えられるのは何だろう。

C 例えば2024年度に受け渡しが始まる容量市場は、毎年落札価格が変動するし、稼働率が一定以上確保できないとペナルティを課せられる。本来、再生可能エネルギーの変動性を補うもので低稼働率であるべきなのだから矛盾している。システム改革のコンセプトはいいとしても、詳細制度の整合が取れておらず穴が空いてしまっている。

B 供給力(kW)、発電電力量(kW時)を確保するために必要なコストを業界全体で負担してこなかった結果、現状のような事態を招いたと見ている。新電力からしてみれば、そのような負担を各事業者に課す制度がない以上はどうすることもできなかった。どのような制度が最良かと問われると答えるのは難しいが、設備を持たない事業者も含めて安定供給のために必要なコストを分担する仕組みが早急に必要だと思う。大手電力会社に対し、可変費ベースの市場への玉出しを半強制するようなことを何年も続けてしまったことが間違いだったわけだから。

A 総じて低水準で推移してきたJEPX価格を背景に、発電事業者はピーク・ミドル電源を持つ意味がなくなってしまったことが、需給ひっ迫と市場価格高騰を招いてきたわけだけど、最近の価格高騰の背景には、kWではなくkW時不足がある。これは電力システム改革ではなく、LNG調達におけるスポット調達の比率を高めてみたり、供給の多角化戦略と称してロシアから調達したりといった資源エネルギー政策によるものだ。

 その背景には再エネ政策がある。再エネのために火力を持っていることが損になる状況を作り出してしまった。太陽光のような不安定電源がJEPXの価格を決めていて、複数のリスクが並行して存在しレジリエンスがない状況に陥っている。新電力にしても、こうした制度の欠陥を都合よく捉えて短期的視点で事業を展開していたことは否めない。

悪天候下では太陽光の出力は期待できない

【特集1】電力を取り巻く不確実性高まる 社会全体で対応力の向上を


インタビュー:岡本 浩東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員

2022年度冬季も、東京電力パワーグリッドエリアの需給は厳しい見通しだ。DRや節電要請など、より予見性を持った需要側の対策が重要だと強調する。

―3月22日の需給ひっ迫は、追加的な供給対策と需要側の協力で広範囲におよぶ停電は回避されました。

岡本 需給ひっ迫の際、広く社会の皆さまに節電へのご協力をいただいたことで広範囲におよぶ停電が発生することなく乗り切ることができました。この場を借りて、改めて深く感謝申し上げます。

―予備力の持ち方や供給信頼度評価の課題を浮き彫りにしたのではないでしょうか。

岡本 今回のように、夏季や冬季の最大需要が出る時期ではなくても、発電設備が計画的な点検停止に入っている中、加えて悪天候で太陽光の低出力が重なると厳しい需給になることもあり得ます。今後は、そういったことを考慮した余力の持ち方が求められます。

―需給ひっ迫の頻度を減らすには、供給側の対策が不可欠です。

岡本 確かに供給力対策は重要ですが、最も大事なことは、それが間に合う対策かどうかです。容量市場は実需給の4年前に取引されますが、一般送配電事業者による供給力の公募は、今年度夏季や冬季に頼れる追加供給力を求めるので、必要なタイミングで必要な量を確保できなければ意味がありません。それをいかに適切に行っていくかにかかっています。

―22年度冬季も、相当厳しい需給が予想されています。

岡本 当社としても、供給力の追加公募の枠組みについて今後、国と検討を進めてまいりますが、今から積み上げることで需給ギャップが埋まるのかは不透明です。3月16日の福島県沖地震で影響を受けた発電設備がどれだけ復帰するのか、また、いつどこで地震が起きるか分かりませんし、ロシア・ウクライナ情勢がどうなるのかなど、不確実な要素が多い。そのため、お客さまへ節電をお願いさせていただく場合も考えなければなりません。

―安定供給の確保を前提に電力システム改革を進めてきたはずですが、計画停電も辞さないということでしょうか。

岡本 当社としては、東日本大震災の際に計画停電で大変なご迷惑をおかけしていますし、今後も計画停電は実施しないという原則が変わることはありません。一方で、デマンド・レスポンス(DR)などの仕組みの活用や節電のお願いなどを、より予見性を持って実施することが重要です。

 地震など自然災害で発電・流通設備がダメージを受けたり、国際情勢の影響により燃料制約が生じたり、さらに再生可能エネルギーの導入量が増えて気象の影響が拡大するなど、電力を取り巻く不確実性が高まっており、供給側だけで対応していてはコストの著しい増加が避けられません。

 こうしたさまざまな不確実性への対応力は、社会全体で向上させる必要があると考えています。カーボンニュートラル社会に向かう中でのエネルギーの使い方について、広く社会の皆さまにもご関心を持っていただきたいと考えています。

おかもと・ひろし 1993年東京大学大学院
工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、
同年東京電力入社。2015年常務執行役、
16年東京電力ホールディングス常務執行役を経て、
17年から現職。
著書「グリッドで理解する電力システム」は
第42回エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞。