ESGで不動産の価値向上を支援 手付かずの市場拡大狙う


【エネルギービジネスのリーダー達】伊藤 幸彦/GOYOH 代表取締役

不動産価値を向上させるサービスを手掛けるGOYOHを2018年に立ち上げた。

オーナーに働きかける独自のビジネスで日本の不動産の持続可能性を追求する。

いとう・ゆきひこ 早稲田大学高等学院を中退。2006年、バックパッカーとして訪れていたニューヨークで民泊事業を立ち上げ、08年に帰国しアスタリスクを設立。国内外の不動産投資ファンド向けのコンサルティングなどを手掛ける。18年にGOYOHを設立し代表取締役に就任。

集合住宅やオフィスビルなど、不動産価値向上のためのサービスを提供するスタートアップ企業GOYOH(ゴヨウ)。2018年に創業、脱炭素化をはじめESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組むためのデータを可視化し、施策を提案するサービスツール「EaSyGo」を軸に、機関投資家など不動産オーナーに提案活動を行っている。

オーナー目線でデータを可視化 現場の行動変容を促す

本格的にサービスを開始したのは21年だが、既に外資系投資ファンドが保有・運用するオフィスビルや賃貸住宅、高級リゾート、ショッピングセンターといった50物件ほどで、脱炭素や社会課題解決のためのプログラムを導入するサービスを手掛けてきた。

「欧米市場と同じように、しっかりと省エネに取り組まなければ不動産の価値が棄損されてしまう社会が、もう間もなく日本にも到来する。持続可能な不動産を目指すためにはハードを整備するだけでは不十分で、そこで働く人や住む人に行動変化を促し着実に不動産の脱炭素化・ESGに貢献していきたい」と語るのは、伊藤幸彦代表取締役だ。

同社のように不動産テックと呼ばれる企業は国内にも存在しているが、その多くが管理会社やビルメンテナンス会社を対象にしている。しかし、ESGの目標を立て予算を決めるのはあくまでも不動産運用者や機関投資家などのオーナー。参入障壁の高いこの層に食い込み提案活動ができることは同社の大きな強みとなる。

実のところ、不動産オーナーが把握できるCO2排出量はビル全体の15%程度にすぎず、その多くがテナントや居住者の行動によるものだ。ここで対策を講じなければ抜本的な改善にはつながらない。機関投資家の目線でCO2排出量や電力利用量などを解析し、それに合わせてテナントや居住者に省エネ行動を促したり、省エネのための設備を最適化したりするための仕掛けを提案。一方で、それを現場で実現するためテナントや居住者に対し、利便性や快適性、地域貢献などの「やりがい」を提供し、それによって省エネや節電などの行動変容を促すのが同社の役割だ。

例えば外資系の不動産投資会社が保有・運用する東京・月島の高層マンション群「リバーシティ21 イーストタワーズI」では、EaSyGoと連動した専用ポータルサイトを住民に提供している。

コミュニティーの持続可能性を可視化。健康、省エネ、防災・災害対応、地域交流などをテーマにしたプログラムを、他社の先端テクノロジーやサービスと連携しながら提供している。住民にとってはよりよい生活環境が創出され、投資会社は経年により低下しかねない不動産価値の向上につながる。まさに、オーナーと住民でウィンウィンの関係を創出しようというわけだ。

なぜ、創業したばかりの同社が、こうした不動産オーナーの信頼を得て事業を展開することができているのか―。それは、前身のアスタリスク社でベントール・グリーンオークなど世界のESG不動産をリードする投資ファンドの事業パートナーとして、機関投資家に出資を募るビジネスに携わってきたからにほかならない。

社員数は12人と少数ながら、グローバルな金融、不動産といったさまざまな分野の最前線で経験を積んだ精鋭ばかり。伊藤氏自身も、不動産脱炭素のための枠組みであるCRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)に、グローバル科学委員として参加している。

バックパックで70カ国を旅 富裕層向けビジネス

高校中退後、バックパッカーとして70カ国以上を旅した。23歳の時にニューヨークで民泊ビジネスを立ち上げ、08年のリーマンショックを機に日本でも起業。以来、海外から日本の不動産に投資を呼び込んだり、世界中に生活やビジネス拠点を持つ超富裕層にサービスを提供したりといったビジネスを立ち上げてきた。世界中を旅行し、さまざまな国の文化や人と接しコミュニケーションを取った経験は、相手の懐深く入り込むスキルとして身に付き、仕事に生かされているという。

月島のリバーシティ21のポータルサイトでは、こども食堂に寄付したり、住民同士で不用品を交換し合ったりといったプログラムを提供しており、エネルギーの使用量削減はもとより、このプログラムを通じて何食分の食事をこども食堂に寄付できたかなどを目にすることができる。「社会に貢献していることを実感し、それが何よりも仕事のモチベーションになる」と伊藤氏。

今後は、業界唯一無二の存在感を発揮しながら、「不動産のESGを実現するためにさまざまな分野のテクノロジーやスタートアップ企業と連携を深めていきたい」と言う。それによって手付かずの市場を拡大し、同社の規模拡大を目指す構えだ。

【原子力】待ったなし! 「核のごみ」の処分


【業界スクランブル/原子力】

核燃料サイクルの実現のため、2030年度までに泊原発3号機や浜岡4号機などを含めて12基以上でプルサーマル発電計画が進められている。だが、多くは福島第一原発事故を受けて停止し、再稼働の前提となる審査が難航するなど見通しは立っていない。電源開発も青森県にプルサーマル専用の大間原発を建設中で30年度の稼働を予定しているが、原子力規制委員会の審査が遅れている。

核燃サイクルの中核は再処理工場で、フル稼働すると年約7tのプルトニウムが製造される。プルサーマル発電ができる原発が増えないまま同計画の再処理が進むと、プルトニウムの供給過剰に陥る。

既に日本は海外に委託して再処理した分を含め、すでに約46tのプルトニウムを保持している。このままでは核兵器の原料にもなり得るとみられており、米国は余剰分の削減を求めている。保有量の8割を占める海外保管分の削減に取り組むことにしているが、急がなければならない。

一方、核燃サイクル最大の課題は、使用済み核燃料を再処理して出る「核のごみ」の行き先が未定なことだ。処分地選定の最初のステップである文献調査に応じたのは、北海道寿都町と神恵内村のみ。次の概要調査に進むには両町村長と北海道知事の同意が必要だが、鈴木直道知事は反対の姿勢を崩していない。

核のごみの処分や核燃サイクルを断念することになれば、青森県との約束に沿って高レベル放射性廃棄物などを原発立地地域に持ち帰ることになる。

まずは2町村の概要調査への移行が大切。それには文献調査への応募自治体を増やすことが欠かせない。国は原発立地自治体との「協議の場」をつくるなど、処分地選定に本腰を入れる。もう待ったなしだ。(S)

【検証 原発訴訟】原発訴訟を左右する判断の枠組み 裁判所は行政の審査過程をどう扱う


【最終回 志賀判決】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

最終回は、福島事故前に民事で唯一原子炉の運転差止めを認めた、志賀原発を巡る判決を取り上げる。

地裁と高裁で判断が割れたが、その理由は、福島事故後の原発訴訟の傾向にも通じるものがある。

これまで伊方最判(最高裁判決)、もんじゅ最判の考察後、福島第一原子力発電所事故後の裁判例を概説してきた。連載最後である今回は、この事故前に民事訴訟で原子炉の運転の差止めを認めた唯一の判決である2006年3月24日の金沢地裁判決(地裁判決)と、この判決を取り消した09年3月18日の名古屋高裁金沢支部判決(高裁判決)を扱いたい。問題となったのは、北陸電力が設置する志賀原子力発電所の2号炉(本件原子炉)である。

地裁が積極的に事実認定 異なる判断枠組みを採用

地裁判決は、立証責任等の判断枠組みについて、「原告ら(住民)において、被告(北陸電力)の安全設計や安全管理の方法に不備があり、本件原子炉の運転により原告らが許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証した場合には、公平の観点から、被告において、原告らが指摘する『許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険』が存在しないことについて、具体的根拠を示し、かつ、必要な資料を提出して反証を尽くすべき」であり、「これをしない場合には、上記『許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険』の存在を推認すべきである」とした。原子炉の運転差止めでよく用いられる伊方最判の判断枠組みを修正し、行政機関の審査過程も踏まえる判断枠組み(22年2月号参照)とは異なる判断枠組みを採用した。

地裁判決がこの判断枠組みを採用する理由の一つとして、「原子炉周辺住民が規制値を超える放射線被ばくをすれば、少なくともその健康が害される危険があるというべき」と述べた点は、放射線防護の考え方と放射線による健康影響とを混同していると思われる。加えてこの判断枠組みでは、行政機関の審査過程を踏まえないために、裁判所が積極的に事実認定に乗り出す方向になる。現に地裁判決では、「安全審査を経て通商産業大臣による本件原子炉の設置変更許可がなされているからといって当該原子炉施設の安全設計の妥当性に欠ける点がないと即断するべきものではなく、検討を要する問題点ごとに、安全審査においてどこまでの事項が審査されたのかを個別具体的に検討して判断すべきである」と打ち出した。

そして、「現在の地震学の知見に従えば、対応する活断層が確認されていないから起こり得ないとほぼ確実にいえるプレート内地震の規模は、マグニチュード7.2ないし7.3以上というべきである」と積極的に認定して、「設計用限界地震として想定した直下地震の規模であるマグニチュード6.5は小規模にすぎるのではないかとの強い疑問を払拭できない」などと耐震設計上の不備を述べた。本件原子炉の運転によって、周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険が存在することを推認すべきと判断して、運転の差止めを命じた。運転の差止めを認めるためには、伊方最判の判断枠組みを踏襲しない必要があったものと思われる。

なお、この判決で問題となった耐震設計審査指針は、06年9月の大幅改訂前の1978年の指針であり、現在の新規制基準とも大きく異なる。新規制基準から見ると、設計に用いる地震の想定が甘かった点は否めないところである。

一方、高裁判決は立証責任等の判断枠組みについて、「本件原子炉の安全性については、控訴人(北陸電力)の側において、まず、その安全性に欠ける点のないことについて、相当の根拠を示し、かつ、必要な資料を提出した上で主張立証する必要」があると指摘。「控訴人がこの主張立証を尽くさない場合には、本件原子炉に安全性に欠ける点があり、その周辺に居住する住民の生命、身体、健康が現に侵害され、又は侵害される具体的危険性があることが事実上推認されるものというべきである」とした。

ただし、本件原子炉施設が安全審査の指針などの定める安全上の基準を満たしていることが確認された場合には、本件原子炉の安全性について主張立証を尽くしたことになり、「本来主張立証責任を負う被控訴人(住民)らにおいて、被控訴人らの生命、身体、健康が現に侵害され、又は侵害される具体的危険があることについて、その主張立証責任に適った主張立証を行わなければならない」とした。結局は、住民側に具体的危険性があることの主張立証責任を負わせたに等しく、行政機関の審査過程を尊重した判断枠組みである。

高裁判決がこのような判断枠組みを採用した背景には、地裁判決後の06年9月、それまでに蓄積された地震学などの知見を反映させて耐震設計審査指針が改訂され、当該指針が審査基準となっていたこと。さらに北陸電力が当該指針に照らした耐震安全性評価(耐震バックチェック)を行っていたことなどを、「時機に後れた攻撃防御方法ということはできない」としていることからも、それらについての考慮があったことがうかがわれる。

福島事故後に目立つ傾向 裁判所独自の厳しい態度

福島第一原子力発電所事故後は、民事訴訟で運転差止めを認めたものは地裁レベルで3件あり、仮処分では、地裁レベルの決定3件と高裁レベルの決定2件がある。事故後の社会の風潮もあると思われるが、裁判所が、行政機関の審査過程の尊重を基礎とした伊方最判の判断枠組みを修正した判断枠組みを用いながらも、実際には行政機関の審査過程を尊重せずに、独自に厳しい態度で臨む場合もある。

裁判所独自の厳しい姿勢が目立つ

その場合に大切なことは、裁判所の独自の考え方が尊重されるほどにきちんと審査を実施したのか、そして信頼される審査実績を積み重ねることであろう。もちろんどのような判断枠組みを用いるかのみで結論が変わるものではないが、それでもどのような判断枠組みを用いるかが結論に大きな影響を与えることも、やはり否定し難い。主張立証責任の判断枠組みでは、誰が何について主張立証責任を負っているか、主張立証に失敗した場合には何が推定されるのかが重要である。今後も原発訴訟の行方を注視していきたい。

最後に、1年間にわたりご愛読いただき、感謝いたします。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

・【検証 原発訴訟 Vol.9】https://energy-forum.co.jp/online-content/11164/

・【検証 原発訴訟 Vol.10】https://energy-forum.co.jp/online-content/11397/

・【検証 原発訴訟 Vol.11】https://energy-forum.co.jp/online-content/11790/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【石油】原油は下がる ガソリンは下がらず


【業界スクランブル/石油】

原油価格は下がってきたのに、ガソリン価格が下がらないのはなぜか―。

そう尋ねられて、筆者は驚いた。質問の主がエネルギー問題の権威だったからだ。

「経産省が毎週、補助金支給額をガソリン平均価格が基準価格(1ℓ当たり168円)になるように調整しているからです。原油価格が上がれば補助金は増額され、逆に下がれば減額されます」

「補助金の目的は、価格を下げることではなく、発動時点(2022年1月末)の水準に抑制(安定)させることですから、制度設計上、そのようになるのです」

この補助金、3兆円を超える巨額が投じられている割には世の中に知られていない。補助金の対象が、ガソリンだけではなく、灯油や軽油、重油、ジェット燃料にも出ていることすら知られていない。

確かに国会での審議もなく、コロナ対策の予備費から支出されて、反対の声も出ずにいつの間にか始まったものだ。また、計算方法も複雑で説明が難しいという難点もある。

石油元売り会社がポケットに入れていると思い込んでいる人もいる。元売り会社は、原油輸入代金支払いの増加分の補助金で、スタンド向け卸価格を抑制している形だ。補助金のトンネルを請け負っているだけなのである。

既に今年1月から補助金制度自体の縮減は始まっている。ただ、限度額(2月31円)の縮減ということで、支給額が18円40銭(2月第1週)と大きく下回っていることから、当面、実害は出ない。

ただ、この6月以降は、支給額自体が月5円ずつ減額されるもようで、9月末には廃止される予定になっている。この「出口戦略」、大きな宿題になりそうだ。(H)

【マーケット情報/3月17日】原油急落、金融不安が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

主要指標、軒並み急落。欧米における金融危機の懸念を受け、経済の冷え込みと石油需要後退の観測が強まった。

米国原油を代表するWTI先物は前週比9.94ドルの大幅下落となり、17日時点で、2021年12月上旬以来の最低を記録。北海原油の指標となるブレント先物も、前週から9.81ドル急落し、2021年12月下旬以来の最低となった。

米国のシリコンバレーバンク、およびシグネチャーバンクが破綻。さらに、米国金融機関の経営不安が欧州に飛び火し、スイスの大手クレディ・スイスの株価が急落。スイス中央銀行が収束に乗り出すこととなり、経済の減速、それにともなう石油需要後退の予測が広がった。

一方、米国では、市場対策として、連邦準備理事会が金利引き上げを停止するとの観測が台頭。また、OPECは、今年の中国の原油需要見通しを上方修正。ジェット燃料等の消費増を見込んだ。加えて、OPECとロシアは、現状の減産計画の年内維持を再確認した。ただ、油価の上昇圧力には至らなかった。

【3月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.74ドル(前週比ドル9.94安)、ブレント先物(ICE)=72.97ドル(前週比ドル9.81安)、オマーン先物(DME)=74.93ドル(前週ドル5.36安)、ドバイ現物(Argus)=74.92ドル(前週比ドル5.20安)

【ガス】貸付配管の商慣行問題 法改正を視野に検討


【業界スクランブル/ガス】

LPガス業界の懸案事項とされる「貸付配管・無償貸与問題」の解決への動きが新たな局面を迎えている。

資源エネルギー庁石油流通課は昨年12月に開催した全国LPガス協会流通委員会において、制度改正における基本方針を説明した。具体的には、消費設備、配管の費用を明確化し、ガス料金からの徴収を制限する仕組みを構築する考えだ。賃貸集合住宅の無償貸与については、昨年、朝日新聞が問題提起する形で連載し、それらを受け当時の経済産業大臣が会見で「解決すべき課題と認識している」と発言。社会問題化し、解決に向けた議論が再燃していた。

この問題はLPガス販売事業者が賃貸集合住宅などにガスを供給する見返りとして、ガス管や給湯器、さらにエアコンなどの設備を賃貸住宅オーナーなどに代わって負担。その費用を入居者のLPガス料金に上乗せして回収する、業界の商慣行だ。また戸建住宅においては、消費者がガス供給の解約を求める際に、配管などの費用として高額な違約金を請求するなどのトラブルも問題となっている。新制度では、ガス料金について「基本料金」、「従量料金」のみとし、設備費は除外するなど完全に分離。各種設備費については別途、売買契約の締結などを検討し、消費配管などの所有権は建物所有者への移転を検討する。

長年の商慣行、ビジネスモデルの転換にLPガス事業者からは「きちんとした猶予期間を設けてほしい」、「自由市場のLPガスの貸付配管の分離を求めるのは価格介入なのでは」との声も挙がる。いずれにせよ、新制度の実効性についてはLPガス業界のみならず、国土交通省、公正取引委員会や消費者庁などとの連携は必須となる。なお、改正に向けた議論は3月上旬からスタートする。(F)

【新電力】値上げ申請で痛感 おかしな規制料金


【業界スクランブル/新電力】

旧一般電気事業者5社の電力規制料金改定申請審査が、電取委料金審査会合にて昨年12月7日以降、本稿執筆の1月中旬時点までで4回行われた。いくつか雑感を述べたい。

各項目について非常に丁寧な審査、検討が加えられているがゆえに、改定に時間を要する。この間、申請各社だけでなく新電力各社の財務状況は悪化するばかりだ。エネ庁の議論は諸事細部まで丁寧に検討、議論を行うがゆえに情勢の変化への追随力が乏しい。

一定期間をカバーする料金であるのだから、燃料費以外にも調整要素を認め、審査を簡略化するような取り組みを行うべきだった。そもそも料金審査に限らず電力制度設計(例えば脱炭素オークション)にインフレ調整が織り込まれていない点が不思議だ。前年度CPI変動分の原価反映を織り込めば、面倒な手続きがかなり減るだろう。申請を受けてから個別審査では時間がかかるばかりだ。

好例が、全体費用の8%程度の人件費議論だ。今回消費者庁から3%程度の賃金引上げ要請が出ているところ、エスカレーションの織り込みは以前しないと決めたはずとの反論が委員から出て、話題になっていた。そこにこだわってどういう全体メリットがあるのか。

審査から話を移す。

新電力の中には規制料金維持を強く求めるところもあれば、撤廃を希望するところもある。前者は従来型の規制料金(比較的高い固定価格+燃調)が維持されると思い込んでいるのか。

原子力再稼働済みの関西、九州は値上げせず。中部電力も黒字転換の見通しが立ったためか、値上げ申請に踏み切る気配はない。居住地域次第で各家庭の電気料金が大きく違ってくる。規制料金は社会政策を負っているとされるが既におかしい。(K)

「兵站」SMRと戦艦武蔵


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

世界的なエネルギー危機にあって、原子力、なかでもSMR(小型モジュール炉)が注目を集めるが、ここに来て、その燃料供給に黄信号が灯っている。

多くのSMRは、HALEU(高純度低濃縮ウラン)と呼ばれる、濃縮度が20%程度のウランを使用する。通常の3~5%よりも高い濃縮度の燃料の採用により、炉の小型化や、燃料取替周期の長期化が図りやすいためだ。ところが現在、この燃料を供給できるのはテネックスというロシア企業一社であるため、ウクライナでの戦争開始とともに、その供給が怪しくなった。欧米の濃縮会社でも技術的には製造可能だが、許認可を取得して生産開始するまで、最低5年はかかるという。テラパワーおよびX-エナジーは、米国政府の助成を得て、2028年までにそれぞれ試験用原子炉を建設することになっているが、計画通りの運開が危うくなってきた。

この話を聞いて、吉村昭の小説「戦艦武蔵」を思い出した。武蔵は大和とともに海軍の期待を一身に背負った超弩級戦艦だが、南方の任務についた昭和18(1943)年には、重油の調達がままならず、トラック島の環礁に係留されていることが多かったという。自慢の46センチ砲も活躍の場が与えられなかった。戦艦や発電所にかかわらず、高性能の機械が誕生するのは胸躍る出来事だ。これに対し、燃料や消耗部品、糧食の補給などは、ともすると忘れられがちではないか。太平洋戦争で物資輸送に徴用された商船は、十分な護衛もなく、その損失は軍艦をはるかに上回ったという。折しも、世界は未曽有のエネルギー危機に見舞われている。エネルギー業界は、改めて自社の「兵站」を問い直すときではなかろうか。それにしてもSMRには期待どおりの活躍を祈るばかりだ。

保管から廃棄までをワンストップ 九電グループの文書電子化サービス


【九州電力】

九州電力と記録情報マネジメント、Qsolの3社は、紙文書の電子化サービスを開始する。

調査から電子化、廃棄処分までを担い、高いセキュリティー確保とDXにつなげる。

 九州電力とグループ会社の記録情報マネジメント(RIM)、Qsolは3社合同で「九電グループドキュメント電子化サービス」(Zeropaper)を開発した。

RIMのスキャニングサービスやQsolの電子文書保管システムといった、グループ会社の実績と強みを組み合わせ、紙文書の保管から電子化、廃棄処分までをワンストップで手掛ける。世の中のペーパーレス化や働き方改革、コロナ禍でのリモートワークの浸透を追い風に、2020年10月、九電はデジタル化サービス標準化ワーキンググループを設置し検討を始めた。現在、九電グループ内で試行運用を行っており、秋には本格提供を開始する。

RIMは、機密文書処理の専門会社だ。九電の新規事業育成支援制度の第5号として01年に誕生。福岡市近郊に「福岡セキュリティセンター」を構え、紙文書の保管・管理、台帳化、電子化するサービスを提供してきた。情報セキュリティーマネジメントシステムについての国際基準ISO27001を取得しており、山口県から九州エリアまで3000を超える企業・団体との取引実績を誇る。

Qsolは、20年以上前から「電子契約保管システム」を提供するIT企業だ。企業間取引の電子契約書についてe―文書法や電子帳簿保存法に対応したタイムスタンプなどの機能を搭載。電子での保管などもサポートし、管理コストの低減にも貢献している。

九電の宮島真一ICT事業推進担当部長は、「一見対極にあるような事業だが、以前からこの二つを組み合わせられるのではないかと考えていた」と振り返る。

(左から)永野部長、宮島担当部長、原取締役

顧客に合わせサービス提供 高いセキュリティーの確保

所有している膨大な紙文書について、「社内保管を減らし、スペースを有効利用したい」「移転に伴い整理し、賃料のコストダウンにつなげたい」という企業は多い。電子化へのニーズも高まっている。だが、保管・電子化・廃棄処分を社内で仕分けるとなると、なかなか進まなくなるのが現状だ。

Zeropaperでは、顧客は自社のニーズや予算に合わせ、紙文書の①調査、②改善提案、③保管、④台帳化、⑤電子化、⑥廃棄処分―といったサービスフローの中から、項目を自由に選べる。仕分けをせずに預けてしまうこともできるのだ。その後、依頼に応じてRIMが紙文書の調査、台帳化などを進める。

RIMの原淳一郎取締役営業部長は、「仕分けをする時間がない、電子化の予算がかけられないなど、保管や電子化のハードルは高い。まずは預かり、相談しながら対応できることがZeropaperの強み」と強調する。

ワンストップで文書を扱うことは、セキュリティー確保にもつながる。一般的に、紙文書を外部保管する場合は倉庫・物流業者に、データ化する場合はIT企業に、廃棄する場合は廃棄物処理事業者にそれぞれ委託する。複数社が関わると、何らかのアクシデントで文書の散逸や紛失が起こるリスクはゼロではない。

Zeropaperでは、紙文書は全て福岡セキュリティセンターに運ばれ処理される。企業から預かる際はニーズに合わせて、個人情報保護輸送モードや警送輸送などで運搬する。

福岡セキュリティセンターは、(一財)日本品質保証機構が示す「リサイクル処理センター安全対策適合認定」を取得し、検査基準に則った管理体制で運用している。この施設内で①~⑥のサービスフローに対応する。廃棄処分する場合は文章が読めない細かさに裁断。インゴット化しラップフィルムで梱包した後、契約製紙工場に運びリサイクルされる。

サービス概要図。九電はZeropaperの企画・営業支援を行う

DX推進にも貢献 広く外販を目指す

通常、文書を電子化する場合、検索しやすくするため担当者がルールに基づきキーワードを入力して指定のフォルダに保存していく。

Qsolは、DXの推進を視野に技術力を発揮し、この一連の作業を自動化する開発を進めている。将来的には一般文書や契約書、図面にも対応させる計画だ。

Qsolの永野裕和産業営業部長は、「電子文書を各担当部署が管理するのではなく、一つのシステムに一元的に保存すれば、検索性も向上し業務効率も上がる。だが、そのための作業が増えないようにしたい」と話し、自動化を人件費削減にもつなげたいと続ける。

九電グループは、経営目標として30年に連結経常利益の半分である750億円を、国内電気事業以外で達成することを目指している。九電の宮島担当部長は、「グループが協力して目標に挑む中で、ZeropaperはDXに貢献できる事業。広く外販していく。アナログとデジタルを融合させてグループの強みを最大限生かしたい」と抱負を語った。

福岡セキュリティセンター。左の施設(5階建、延床面積3889m2)を増設する

【電力】「二枚舌」は感心せず 原発再稼働の空売り


【業界スクランブル/電力】

電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合で、東北・北陸などみなし小売り電気事業者5社による料金改定申請の審査が行われている。

1月27日の会合では、3社が供給計画上は再稼働時期未定となっている原子力発電所について、料金算定期間中に再稼働する前提で、料金の上昇幅をいくばくか抑制していることを明らかにした。

事業者が自主的に行ったことなのか、経済産業省の指導があったのか筆者は知る立場にないが、供給計画との間で二枚舌を使うのは感心しない。今の電気料金も一定の原発再稼働を織り込んでいるが、事業者と経産省だけではどうにもコントロールできないことを安易に織り込んだ結果、フィクションと化してしまったのは周知の通り。泊の再稼働を新料金に織り込まず、再稼働したら値下げすると説明した北海道の方が誠実だ。

空売りを禁止するから安定供給は問題ない……これは、電気事業法に第2条の12の供給能力確保義務を新設する際に、当時の経産大臣が国会審議で使った言い回しだ。面白くも適切でもない喩えに苦笑したことを覚えているが、今回のことの方が空売りと呼ぶのにふさわしい。

そもそもなぜ料金改定が必要になったのか。西側諸国が結束してロシアの暴挙と戦っているからだ。海を隔てているとはいえ、わが国は中露の隣国だ。今は戦時中であり、その行方が安全保障上の自分ごととして返ってくるという緊張感がもっと必要ではないか。

すなわち、わが国は原子力を停止し続けていることで西側の足を引っ張っていることを自覚するべきだ。安易な空売りではなく、稼働できる原発は稼働、新安全基準への対応は稼働と並行して進めるくらいの大胆な行動が必要ではないか。(U)

秘密の温暖化外交にメス ケリー特使の調査開始


【ワールドワイド/環境】

米国では共和党が多数を奪還した下院において、ケリー気候変動特使について調査が行われる予定だ。下院監視・説明責任委員会のコーマー委員長(共和党)は2月2日にケリー氏に対し、バイデン政権における同氏の位置付けとこれまでの中国共産党とのハイレベル気候交渉に関して調査を行うと発表した。コーマー議長は「貴特使は貴オフィスのスタッフ、支出に関する我々からの度重なる情報開示要請を無視し、我々の経済成長を阻害し、議会権限を迂回し、気候変動に名を借りて外交政策に脅かす活動に従事してきた。議会は貴使の透明性をもった文書・情報開示を求める」と述べた。

ケリー氏の「大統領気候特使」というポジションはこれまで存在せず、上院の承認を必要としていない。国務省内に設置された気候特使室は45人のスタッフと年間1390万ドル(18億円)の予算を割り当てられている。バイデン政権の外交政策の重要な柱である温暖化外交のトップにある一方、その活動内容については固く口を閉ざしており、野党共和党からの批判にさらされてきた。

コーマー議長は2月16日までにケリーオフィスの予算、人員リスト、肩書、給与、ケリー氏の気候特使としての国内外出張の明細などを提出するよう求めている。ケリー氏は就任後から世界各地を回り、ハイレベル温暖化会議を含む気候外交に従事している。特に2021年には2度にわたって中国を訪問し、中国の60年カーボンニュートラル目標や30年ピークアウト目標の前倒しを働きかけたが、中国はこれを拒否している。

コーマー委員長はケリー氏が中国との気候交渉を推進する一方で、中国の人権侵害に対して弱腰であることも強く批判している。ケリー氏は21年11月に中国製のソーラーパネル製造における奴隷労働問題について「その点については承知しているが、自分の職務は気候特使であり、気候アジェンダを前に進めることだ」と発言し、共和党から批判を浴びている。

もともとケリー氏には気候変動問題を重視するあまり、米国にとって重要な他の戦略目的を犠牲にするのではないかとの懸念が民主党系のブルッキングス研究所からも出されていた。下院で共和党が多数をとったことにより、バイデン政権のエネルギー温暖化政策に対してブレーキをかける動きが顕在化してくることが予想される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/3月17日】需要家目線での制度のあり方とは


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

激動の2022年度も3月を残すのみとなった。依然として国の審議会の開催は旺盛で、筆者が動向を追っている審議会の開催件数を数えてみたところ、年始休みのあった1月、そして日数の少ない2月という時期にもかかわらず、2か月で54件も開催されていた。

前回のコラムから約2か月が経ったが、その間、GX関連で2本の束ね法案が閣議決定し、1月に開会した国会に提出されたほか、来期以降のFIT/FIPの調達価格などの条件、CCS(CO2の回収・貯留)の長期ロードマップ、広域連系系統のマスタープラン、再エネの長期電源化・地域共生、原子力利用の基本的考え方、カーボンフットプリントレポート・ガイドライン等の取りまとめ案が提出された。

 また、2026年度分の容量市場のメインオークション、ベースロード市場、非化石価値取引市場といった各市場の約定結果も公表されている。

一方、一般送配電事業者とみなし小売電気事業者間での情報漏えい事案が判明し、報告徴収等が行われる等、電気事業のあり方についての議論も行われている状況である。

全体的に慌ただしく年度末を駆け抜けているようで、来年度も同様に進んでいくと見られている。

「複雑でわからない」「自社に関係するのか」などの意見多数

最近では、企業や自治体といったエネルギーを利用する立ち場である需要家も、カーボンニュートラルや脱炭素化、そのための省エネ実施や再エネ調達、燃料転換などに取り組むケースが増えている。その際、国の政策や制度に少しでも触れる機会があるのではないだろうか。

以前、法人企業の方々に制度動向の勉強会を行ったことがあったが、「内容が専門的で複雑すぎる」「制度の数が多くて追うことができない」「そもそもこの制度は自社の事業に関係するものなのか」といった懸念や不安の声を聞くことが多かった。

本業でエネルギー事業を行っている事業者ですら全体を網羅・把握し、かつ自社のビジネスのリスクとチャンスに生かせるかは見極めが非常に難しいのだから、需要家が理解するのは、もっと大変なことは言うまでもない。

また、カーボンニュートラルは今、始めることが重要でありつつ、その結果は中長期という時間軸で捉えればよいというものではあるが、一方で、足元のエネルギー価格高騰などによる電気料金の値上げについては、喫緊の課題として捉えないといけないといった、時間軸を踏まえた対応もしなければならない。

そう考えると、電気事業を始めとしたエネルギーや環境に関する政策・制度の動向は、その影響を直接受ける供給側だけでなく、最終的に電気料金や事業活動に反映されてくる需要家も、同じように大切だということが分かる。

電気料金に係る影響で制度を見てみると

 電気事業だけでも政策や制度が多く複雑で、かつ毎年のように変わっていく状況下で、エネルギー事業者は、自社のビジネスに関わる影響を調べ、分析し、対応を図っているが、利用する側の需要家にとっては、それがどのように影響するかは、よっぽど興味があるか、企業経営に大きなインパクトがあるといったことがないと、真剣に考える機会は少ないだろう。

 そのような疑問をもち、ここ最近、企業への講演や勉強会を行う際に、需要家目線の制度のあり方について話す機会も多くなってきた。今回は、その中で、企業における電気料金と制度の関係について簡単に取り上げたいと思う。

 ここでは、企業の電気料金を構成する要素に対して、電気事業に関する主な政策や制度が、どのように関わってくるのかを表してみた(資料1)。

 電気料金を構成する要素として、基本料金(kW単価)、電力量料金(kW時単価)、燃料費調整額、再エネ賦課金、そして環境価値(証書・クレジット)の4つに分類した。

 そして、それぞれの要素に対して、政策な制度が影響する範囲をプロットし、電気料金のコストアップ・ダウン、または状況に応じてアップにもダウンにもなり得るものに色分けしている(赤:コストアップ、青:コストダウン、橙:アップorダウン)。

 例えば、この4月から新たな制度に生まれ変わる託送料金のレベニューキャップ制度。既に電力取引監視等委員会の審査が終了し、申請されていた託送等供給約款が1月27日に認可された。認可された託送料金は、全てのエリア、全ての電圧帯において現行比で単価が値上げされている。特に、固定費の早期回収の必要性もあり、各社、基本料金の値上げ幅が大きくなっている。もちろん、電力量料金も一部を除いて値上げされている。これが需要家の電気料金に与える影響は、基本料金と電力量料金の値上げとなる。託送料金は小売電気料金の原価の一部であることから、託送料金の値上げ分は必然的に小売料金に反映されてくる。特に基本料金の値上げ幅が大きいということもあり、需要家にとっては、最大需要電力の最適化を図ることで、基本料金の値上げの影響を軽減できるケースも出てくる。同じ4月から施行される改正省エネ法でも電気需要の最適化が求められるが、DRを生かす場面が増えることが予想される。

 また、昨年来、原子力政策について国での議論が再燃し、基本的な方向性の整理が行われた。2月にはGX脱炭素電源法が閣議決定され、原子力に関する法改正も盛り込まれている。足下では次の夏以降に、追加で7基の再稼働を国が前面に立つことで対応するとの方向が出されたが、原子力発電の再稼働が進めば、その分、化石燃料の輸入、火力発電の稼働にも影響が少なからずあるため、燃調費の上昇の抑制に繋がることが期待される。

 また、最近、少しずつ採用が増えている自己託送制度。太陽光発電を活用したものが多いが、この制度で発電・利用した電力量については、燃料費調整や再エネ賦課金は課せられないため、足元の電気料金高騰下では、一定程度有用となる。一定程度と言っているのは、太陽光発電だけでは需要の全てを賄えないことから、不足分は依然として小売り電気事業者から通常と同じ電力小売が必要な点、資材価格高騰などで太陽光発電システムの価格が思ったほど下げ切れていないことと託送料金がこの4月から値上げることを踏まえてのことである。また、エネ庁の中間整理の中で、自己託送で受けた電気を需要地内の他の需要で使用するケースが存在の確認を踏まえ、その場合は小売り事業に該当するとの方向性が示されている。そうすると、再エネ賦課金は課せられることになる可能性があり、注意が必要である。

 今、紹介してきた施策はごく一部であるが、需要家が自分事として、このように電気料金を例に制度の影響を考えてみることも必要である。

 ただし、まだ専門的で難しいことが多いことから、エネルギー事業者やコンサルティング会社などが、自社のサービスと合わせて丁寧に教えていくことも求められるだろう。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

ガス火力に依存した英国 国民負担の増加続く


【ワールドワイド/経営】

近年気候変動対策を政策の主眼に据え経済成長を狙ってきた英国だが、2022年はウクライナ侵攻の影響を大きく受けた。

英国の電力部門では過去10年間、脱炭素化に向け、再エネ電源の導入と脱石炭が急速に進められ、代わりにガス火力への依存がさらに増した。これが、国際的なガス価格と英国の卸電力価格の高騰を直結させた。調整電源であるガス火力の発電コスト上昇が限界価格をつり上げたためである。

今冬の一番の懸念はガス不足に陥ることであった。幸い、年末年始の気候が温暖であったことから天然ガスの備蓄が安定し、エネルギー価格も多少下落した。しかし、1月後半には気温が低下し、電力需要抑制が呼びかけられた。他方、今冬までに閉鎖予定であった複数の石炭火力発電所も供給力不足時の切り札として延命されている。

英国では19年から規制機関が一般家庭の標準的な電気・ガス料金の単価に上限を設定している。卸電力・ガス価格の高騰に伴い、この上限は、直前の半年間と比較し22年4月に54%、10月にはそこからさらに80%上昇した。負担急増から国民を保護するために政府は22年10月から半年間、上限を一律で引き下げる介入措置を講じて給付金も支給した。それでも23年1月時点で電気・ガス料金の負担増加は前年比で実質2倍となり、消費者物価指数も約9%上昇を記録するなど国民生活を圧迫している。

政府介入による上限引き下げ措置では、もともとの上限との差額分を国がエネルギー小売り事業者に補填する。そのため国全体の負担は増加の一途にある。しかし、政府介入がなかった場合、23年1月の上限は前年同月比約3・5倍に達する。

料金上昇によりエネルギー貧困世帯の拡大が危惧される。英国では、電気料金を滞納しがちな需要家は、プリペイド式のメーターに半強制的に切り替えられる。消費者団体によると、昨年はプリペイド料金をチャージできずに電力供給を受けられなくなった軒数が過去10年間の累積数を上回った。

政府の対応は短期的には料金引き下げによる需要家の保護、その財源確保のための石油・ガス事業者や再エネ発電事業者に対する超過利潤税の適用となっている。

中長期的には陸上・洋上風力や太陽光のさらなる導入、原子力の新設、省エネの促進などによる化石燃料依存の低減がカギとなっている。また、卸電力市場の改革により発電種別や地域別の市場分割も検討されている。難局に対峙する英国の政策の動向が注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

環境都市構想研が設立10周年 「どうする日本」で記念講演会


【環境都市研究所】

元東京ガス副社長の草野成郎氏が代表を務めるエネルギー系シンクタンクの環境都市構想研究所が2月1日、設立10周年を祝う記念講演会を東京・銀座で開いた。日本総合研究所会長の寺島実郎氏ら5人の講師陣が世界情勢から日本経済、外交・安全保障問題などをテーマに講演。広瀬道明会長ら東京ガスの幹部・OBをはじめ、エネルギー業界を中心に全国から約130人の関係者が参加した。

会の冒頭、草野氏は次のようにあいさつ。「この10年を振り返ると、2008年にはリーマンショックがあり、11年には東日本大震災で大変な打撃を受けた。それ以降、さしたる回復もないままに、この数年は新型コロナに翻弄され、昨年はロシアによるウクライナ侵攻、そして安倍(晋三)元総理の暗殺。もはや停滞などというものではなく、劣化の一途をたどっている」「そうした中で、環境都市構想研究所が10年間やってこられたのは、活動の拠点を提供していただいている北海道石狩市や、関係者の方々のご支援・ご協力のたまもの。この10年を機に、支持をいただいた方々にどう報いるかを思い悩んだところ、沈滞した日本がここからはい上がる道は何なのかを議論する場を用意することではないかと考えた。本日は、この主旨に賛同する5人から『どうする日本!』の示唆をいただく」

会の冒頭にあいさつする草野代表

続いて来賓の広瀬氏があいさつし、「現在エネルギーは大変な状況になっている。円安とかウクライナとか(原因は)いろいろあるが、現実にこれだけ値上がっていることについては、お詫びするしかない」「(4月1日付で東京ガス社長に就く)笹山(晋一)さんには、草野さんのDNAが脈々と流れている。トヨタの豊田章男社長は(トップ交代の会見で)『クルマ屋を超えられない。それが私の限界』と言われたが、笹山さんにはガス屋を超えたガス屋になってほしい」などと述べた。

有識者・政治家が講演 日本の国力低下に危機感

記念講演の内容は次の通り。石川和男・社会保障経済研究所代表「日本が抱える諸課題と解決の方向」、小山堅・日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員「世界のエネルギー危機の本質と日本の課題」、斎藤健法相「経済不振・政治不信から脱却の道」、和田義明内閣府副大臣「日本の外交・安保戦略」、寺島氏「日本再生の道筋とシニア世代の役割」―。

5人の話に概ね共通していたのは、日本の国力低下が加速していることへの危機感だ。寺島氏は講演の中で、明治期(1868~1945年)、戦後期(45~2022年)、未来圏(22~2100年)と77年区切りで時代認識を整理し、未来圏の経済基盤として「レジリエンス力の強化―食と農、医療・防災、水、エネルギー」を提起した。

資源大国豪州の燃料高騰 安く国内供給できぬ理由は


【ワールドワイド/資源】

2022年6月、豪州東海岸3州(クイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州)を襲った寒波に端を発した電力危機は、資源大国豪州が抱える国内エネルギー問題を露呈した。石炭火力発電所の早期閉鎖の動きと発電設備の老朽化と不具合による稼働率低下が主な原因。これを補う太陽光などの再生可能エネルギーは急速に拡大しているものの、電力需要に追い付いていないのが要因の一つに挙げられている。発電量のわずか8%を賄うガス火力発電も影響を受け、国際的なガス価格の上昇もあり、国内ガスの調達価格は高騰した。

国内でガスの供給が不足し、東海岸に三カ所あるLNG設備の所有者がLNGを輸出しようとする際、自社のガス田だけではガスが不足し、市場や第三者から調達しようとする場合に、関税法に基づいて政府が輸出規制を課すことができる豪州国内ガス安全保障メカニズム(ADGSM)という制度がある。長期契約を除く非契約LNGを海外スポット市場で販売しようとしても、国内向けに優先的に販売することになる。22年10月上旬、東海岸のLNG輸出業者は、23年に国内向けに十分な量のガスを供給することを政府と約し覚書を締結。これにより23年のADGSM発動は見送られた。

しかし、国内向け天然ガスの販売価格は海外市場価格と連動することから、ガスを使用する製造業と国民はガス価格に上限(プライスキャップ)を設けることを主張。労働党政権は22年12月9日に州政府と協議の上、プライスキャップを導入することを発表した。

ガス生産者はガス価格を1GJ当たり12豪ドル(mmBtu当たり8・74米ドル、豪ドル=0・69米ドルで換算)を超えて卸してはならなくなった。有効期間は1年間であるが、23年の供給契約はほぼ締結されていることから、効果は限定的でこの有効期間は延長される公算が高い。

「規制内容が定義されておらず将来の不確実性が高いことから、プロジェクトにおける新規供給への投資や、複数年の供給契約を結ぶことが困難となっている」との指摘があり、ガス生産者は政府の介入が逆に国内供給を確保する業界の役割を難しくしていると批判。ガス生産者は価格が現在より高かった数カ月前に供給契約を結んでいるため、卸売価格が下がってもすぐにエンドユーザー向けの価格を下げることができず、小規模製造業は、政府は行動規範を策定したものの発効するまでは高額な料金を支払い続けるとみられる。

(加藤 望/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)