【エネルギービジネスのリーダー達】伊藤 幸彦/GOYOH 代表取締役
不動産価値を向上させるサービスを手掛けるGOYOHを2018年に立ち上げた。
オーナーに働きかける独自のビジネスで日本の不動産の持続可能性を追求する。

集合住宅やオフィスビルなど、不動産価値向上のためのサービスを提供するスタートアップ企業GOYOH(ゴヨウ)。2018年に創業、脱炭素化をはじめESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組むためのデータを可視化し、施策を提案するサービスツール「EaSyGo」を軸に、機関投資家など不動産オーナーに提案活動を行っている。
オーナー目線でデータを可視化 現場の行動変容を促す
本格的にサービスを開始したのは21年だが、既に外資系投資ファンドが保有・運用するオフィスビルや賃貸住宅、高級リゾート、ショッピングセンターといった50物件ほどで、脱炭素や社会課題解決のためのプログラムを導入するサービスを手掛けてきた。
「欧米市場と同じように、しっかりと省エネに取り組まなければ不動産の価値が棄損されてしまう社会が、もう間もなく日本にも到来する。持続可能な不動産を目指すためにはハードを整備するだけでは不十分で、そこで働く人や住む人に行動変化を促し着実に不動産の脱炭素化・ESGに貢献していきたい」と語るのは、伊藤幸彦代表取締役だ。
同社のように不動産テックと呼ばれる企業は国内にも存在しているが、その多くが管理会社やビルメンテナンス会社を対象にしている。しかし、ESGの目標を立て予算を決めるのはあくまでも不動産運用者や機関投資家などのオーナー。参入障壁の高いこの層に食い込み提案活動ができることは同社の大きな強みとなる。
実のところ、不動産オーナーが把握できるCO2排出量はビル全体の15%程度にすぎず、その多くがテナントや居住者の行動によるものだ。ここで対策を講じなければ抜本的な改善にはつながらない。機関投資家の目線でCO2排出量や電力利用量などを解析し、それに合わせてテナントや居住者に省エネ行動を促したり、省エネのための設備を最適化したりするための仕掛けを提案。一方で、それを現場で実現するためテナントや居住者に対し、利便性や快適性、地域貢献などの「やりがい」を提供し、それによって省エネや節電などの行動変容を促すのが同社の役割だ。
例えば外資系の不動産投資会社が保有・運用する東京・月島の高層マンション群「リバーシティ21 イーストタワーズI」では、EaSyGoと連動した専用ポータルサイトを住民に提供している。
コミュニティーの持続可能性を可視化。健康、省エネ、防災・災害対応、地域交流などをテーマにしたプログラムを、他社の先端テクノロジーやサービスと連携しながら提供している。住民にとってはよりよい生活環境が創出され、投資会社は経年により低下しかねない不動産価値の向上につながる。まさに、オーナーと住民でウィンウィンの関係を創出しようというわけだ。
なぜ、創業したばかりの同社が、こうした不動産オーナーの信頼を得て事業を展開することができているのか―。それは、前身のアスタリスク社でベントール・グリーンオークなど世界のESG不動産をリードする投資ファンドの事業パートナーとして、機関投資家に出資を募るビジネスに携わってきたからにほかならない。
社員数は12人と少数ながら、グローバルな金融、不動産といったさまざまな分野の最前線で経験を積んだ精鋭ばかり。伊藤氏自身も、不動産脱炭素のための枠組みであるCRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)に、グローバル科学委員として参加している。
バックパックで70カ国を旅 富裕層向けビジネス
高校中退後、バックパッカーとして70カ国以上を旅した。23歳の時にニューヨークで民泊ビジネスを立ち上げ、08年のリーマンショックを機に日本でも起業。以来、海外から日本の不動産に投資を呼び込んだり、世界中に生活やビジネス拠点を持つ超富裕層にサービスを提供したりといったビジネスを立ち上げてきた。世界中を旅行し、さまざまな国の文化や人と接しコミュニケーションを取った経験は、相手の懐深く入り込むスキルとして身に付き、仕事に生かされているという。
月島のリバーシティ21のポータルサイトでは、こども食堂に寄付したり、住民同士で不用品を交換し合ったりといったプログラムを提供しており、エネルギーの使用量削減はもとより、このプログラムを通じて何食分の食事をこども食堂に寄付できたかなどを目にすることができる。「社会に貢献していることを実感し、それが何よりも仕事のモチベーションになる」と伊藤氏。
今後は、業界唯一無二の存在感を発揮しながら、「不動産のESGを実現するためにさまざまな分野のテクノロジーやスタートアップ企業と連携を深めていきたい」と言う。それによって手付かずの市場を拡大し、同社の規模拡大を目指す構えだ。