【特集2】再エネとの相互補完が不可欠 まずはアンモニア混焼を先行


インタビュー:奥田久栄/JERA取締役常務執行役員 経営企画本部長

JERAは将来ビジョンで、再エネとゼロエミ火力の相互補完が必要だと打ち出した。これは政府の方針とも合致する。経営企画本部長の奥田久栄氏に、その方策を聞いた。

――「ゼロエミ火力」の実装を進める上で、JERAが果たすべき役割についてどう考えますか。

奥田 グローバルでは、エネルギー市場は価格競争から脱炭素競争のステージに入ったと思います。そうした中、当社はさまざまなシミュレーションを行い、昨年、2050年ゼロエミッションに向けたロードマップを発表しました。最大のメッセージは、今後も3E(環境性、供給安定性、経済性)を実現するためには、再エネとゼロエミ火力の相互補完が不可欠だということ。また将来的には、ボイラー式では石炭もアンモニアも、ガスタービンでは水素もLNGも利用することになり、燃料源の多様化にもつながります。日本の火力設備の半分を保有する立場から、ゼロエミ火力の実装をグローバルにリードしていきたい。

 ポイントは三つあり、一つは、水素、アンモニアを発電で現実的に使えるようなレベルでのバリューチェーンの構築です。次にゼロエミ火力の仲間づくりを、国内外問わず進めます。そして最後がグローバル展開。再エネだけでのゼロエミ化が難しい東南アジア諸国などに提案し、ゼロエミ火力をスタンダード化していく考えです。

――具体的なスケジュールは。

奥田 先行するのはアンモニア混焼で、碧南火力の実証では、23~24年から20%混焼を開始し、30年までに本格運用に着手する予定です。30年代前半には保有石炭火力全体で混焼率20%を達成、さらに混焼率を拡大し、40年代の専焼化開始を目指します。最終的な発電コストは、現在のLNG火力並みを目指す考えです。

 一方、水素混焼はまだ技術的課題が多く、まずは実機での安定運転を確認し、水素キャリアを選定。30年代に本格運用を開始し、混焼率を拡大していく方針です。

アンモニア供給体制確立が鍵 水素キャリア選定も急務

――それぞれどのような課題を克服する必要がありますか。

奥田 アンモニアについては、発電設備での技術的ハードルはそれほどなく、脱硝装置での取り扱い実績もあります。問題は上流側で、現在日本では主に肥料用として年間消費量は100万t程度ですが、これは碧南の100万kW級2基の20%混焼で消費してしまうレベル。ガス産出国の(化石燃料由来の)ブルーアンモニアの生産や、燃料用のサプライチェーンをどの程度のスピードで確立できるかが問われます。

 水素については、まずは最適なキャリアの選定が大きな壁です。どの手法が低コストで大量生産できるのか、検討を進めていきます。

 また、発電効率や運用の柔軟性などへの影響については、アンモニア混焼での問題はないとみており、水素に関しては今後検証していきます。

――燃料輸送船の脱炭素対策についてはどうでしょう。

奥田 国際的に規制が強化されていることは承知していますが、100点満点のCO2対策を最初から目指すと一層のコストアップ要因となり、それでゼロエミ火力の需要が抑制されては意味がありません。「スマート・トランジション」を意識し、ゼロエミ火力の需要の確立が見えてきた段階で、船舶の低炭素化に取り組む考えです。

――今後の政策への要望は。

奥田 従来のエネルギー政策はサプライサイドへの補助に偏ってきましたが、その効果は一時的です。ゼロエミ火力の需要を創生し、CO2フリー、かつ調整力も提供できることに対して市場の中で価値が付かなければ、社会実装は難しい。ある程度のコストアップは避けられませんが、それでもゼロエミ火力の需要が生まれるような政策誘導を望みます。

【特集1】燃料調達の現場で何が起きたのか LNG・石油を襲う異常事態


昨春にLNGスポット価格は暴落したが、秋以降アジア市場では一転して歴史的高値となった。石油供給網の弱体化も浮き彫りに。電力不足問題を引き起こした燃料調達の異常事態に迫る。

「需要が急増したLNG火力向けに在庫が吸い取られている。燃料調達の現場で、これまでにない事態が起きている」―。ある都市ガス会社関係者は、乱高下した昨年のLNGの市場動向と、それに端を発した年末年始の電力需給ひっ迫について、こう語る。

資源エネルギー庁は1月19日の電力・ガス基本政策小委員会で、電力会社所有のLNG在庫の推移について、12月中旬以降大幅に低下したが、1月10日ごろが在庫下振れのピークで、12月上旬の水準までは戻っていないものの在庫量は回復傾向にある、と報告した。ただ、1月から2月にかけては都市ガスも需要期であり、今後再び厳しい寒波が日本列島を覆うことがあれば、電力だけでなく都市ガス供給にも影響が生じる可能性がある。

複合要因でアジアのLNG需給がタイトに


LNG生産設備でトラブル頻発 パナマ運河リスクの顕在化も

LNGスポット市場の中で異変が起きているのは、アジアだけだ。そもそもの前提として、スポット市場の規模が全体の1割程度しかないという事情はあるが、そこにさまざまな要因が絡み合い、ここ1年ほどで北東アジアのLNGスポット価格は乱高下を記録している。JKM(日本・韓国への持ち届け価格)は、コロナ禍に伴い昨年4月末には100万Btu(英国熱量単位)当たり2ドルを割り史上最低価格を付けたが、夏以降上昇に転じ、12月には10ドル台、年明けには20ドル水準となり、一時は30ドルの大台も突破した。

北東アジア向けLNG価格の推移 出典:S&P Global Plattsのデータをもとに経産省作成

もともと関係者の間では、コロナ禍でLNGプロジェクトへの投資が縮小、または後ろ倒しとなり、数年後に需給がタイトになる可能性が指摘されていた。しかしそれより前に、アジアのLNG市場が品薄状態となったのはなぜか。裏では、世界各地の生産設備でのトラブル頻発や、パナマ運河の大渋滞、中国や韓国のスポットの囲い込みといった事象が、同時多発的に起きていた。

環境省でCP議論再燃 排出権取引には違和感の声


コロナ禍で議論が中断していたカーボンプライシング(CP)に関する環境省の有識者会合が、1月から再開する。半年程度かけ議論を進める予定だ。小泉進次郎環境相は会見で「2021年の最大の目標はカーボンプライシングを前に進めること」と強調した。

経済産業省についても、電力や自動車産業での排出権取引を検討との一部報道があった。これに梶山弘志経産相は「個別の報道についての回答は差し控える」「成長戦略に資することのない制度を導入することはない」と説明した。

ただ、CPの中でも「排出権取引が名指しされたことには違和感を覚える」(エネルギー関係者)。カーボンニュートラル実現のためには基本的に排出は許容されず、炭素税などで財源を賄う手法しか成り立たないはずだからだ。また、20年に成立した改正エネルギー対策特別会計法では、勘定間の繰り入れを可能にしたが、この仕組みも炭素税でなければ生きてこない。

産業界では一部CP導入に前向きな声もあるが、既に地球温暖化対策税のほか、FITなど相応の負担を国民に課している以上、CPの費用対効果の見込みを示した上で俎上に載せることが必要だ。

LPガスの50年ビジョン模索 電気との共生がキーワード


【業界紙の目】古見純一郎/石油産業新聞社編集局長

菅義偉首相が所信表明演説において「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。その実現に向けてLPガス業界もスピード感を持った積極的な取り組みが求められている。

次期エネルギー基本計画を検討する総合資源エネルギー調査会基本政策分科会は2020年11月17日の会合で、改めて「2050年カーボンニュートラル」を前提に議論を進めることを確認。資源・燃料分科会も、カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策について議論をスタートさせた。

供給構造高度化法(10年11月基本方針改定)では、特定エネルギー供給事業者にバイオ導入目標を定めたが、LPガスは技術的、経済的に実施不可能として規制枠外となった。だが、燃料製品供給事業者のうち石油ガスを製造、供給する場合は「安定供給並びにバイオガスの賦存量および経済性等の制約も留意しつつ、石油ガスにバイオガスから製造される燃料を混和して利用することにより非化石エネルギー源の利用に取り組むこと」とした。日本LPガス協会は、高度化法施行を契機にLPガスのバイオ化の検討を始めており、何もしてこなかったわけではない。

海外を見ると、バイオLPガスの世界生産は現在、年間約20万tと少ない。製品のほぼ全てがバイオプロパンであり、バイオオイルを水素化処理してバイオディーゼルを生成する際の副産物として生成される。WLPGA(世界LPガス協会)の見通しでは30年に1億t超の潜在性を秘めるとし、オランダのSHVエナジー社は、既存燃料にバイオLPガスを混合して利用することでCO2を削減し、環境意識の高まりなどを追い風に、バイオLPガスを取り扱い製品の軸に据えていく考えも示した。

一方、WLPGAのワーキンググループによると、「生産プロセスは現在限られており、ほかの環境対応燃料によりLPガス産業の存在意義が脅かされる地域も見られる」「バイオ燃料の原料は100%植物油で、米国や北欧で生産は拡大傾向であるものの、そこから得られるバイオLPガスは最大でも、世界のLPガス生産量のわずか2%にとどまるため、脱炭素化対策のアピールには物足りない」などの課題が出されている。

資燃分科会ではどんな政策を打ち出すのか

津波の危機を逃れた東海第二 さらなる安全性向上対策が進展中


【日本原子力発電】

東海第二発電所は、東日本大震災で津波が襲来するも、無事冷温停止に至ったという実績がある。現在、さらなる安全性強化に向けて工事が進む現場を、東工大の奈良林直特任教授が視察した。

2020年の暮れ、東京工業大学の奈良林直特任教授の視察に同行し、新規制基準に基づく安全性向上対策工事が進行中の東海第二発電所(茨城県東海村)を訪れた。東海第二の風景は以前とは一変し、敷地内のありとあらゆる場所で、防潮堤設置に向けた準備や地盤改良などの作業が進んでいた。建屋では耐震補強工事が始まり、敷地内のいたるところに足場が組まれ、圧迫感が伝わってくる。

建設時と同等かそれ以上の工事がそこかしこで繰り広げられている様子を眼前にし、安全性向上対策工事がどれほど大掛かりなものか、初めて実感することができた。

鋼管杭の直径は大人の身長を優に超える2.5m
東海第二を視察した奈良林氏

巨大な防潮堤建設へ 広範囲の地盤改良も実施

奈良林氏はまず、「必要な設備更新をしており、『老朽化プラント』ではなく『リニューアルプラント』。さらに安全性向上対策工事や、バックフィットへの対応が行われていることが重要だ」と強調。また、これらの工事の中身はサイトごとに少しずつ異なると指摘し、東海第二については、「太平洋側では津波への備えが特に重要になる。地盤改良をしながら大規模な防潮堤を設置するという、すさまじい工事を目の当たりにしたし、相当な深さの貯水槽も印象的だった」と語った。

新規制基準への対応では、原子炉設置変更許可、工事計画認可、20年間の運転期間延長認可の審査が、18年に終了。順次工事に取り掛かり、22年末までに終える予定だ。現在は、19年に申請したテロ対策の特定重大事故等対処施設の審査が進んでいる。

具体的な工事内容を見ると、特に大掛かりなのが防潮堤工事だ。東日本大震災の知見を踏まえ、標高最大20mの堤を、内陸の西側を除きぐるりと敷地内を巡るように設置し、全長1.7㎞に及ぶ見込みだ。直径約2.5mの鋼管杭を、地下60mの岩盤まで打ち込み、巨大な堤を支える。「国内のサイトでは最大径で、頑丈な分、大変な工事になる」(奈良林氏)。これを基礎にし、地上部を鉄筋コンクリートで覆っていく。

堤の設置ルートでは、同時に地盤改良を行う。表層にセメントを注入して一定の深さの層まで攪拌固化する手法や、水ガラス系の薬液をポンプで地下に圧入する手法を、地中深さに応じて使い分ける。水ガラス系の手法は、地下鉄の海底トンネルを掘削する際などに採用される技術だという。

ほかにも、干渉物撤去や森林伐採なども行う必要がある。このように複数の作業に同時進行で取り掛かるので、防潮堤設置のためにはかなりの広さの作業スペースを確保しなければならない。

【覆面座談会】2021年エネ業界を大胆予想「脱炭素化宣言」の重い宿題


テーマ:2021年のエネルギーニュース

2021年を迎えても、引き続きエネルギー業界の話題はカーボンニュートラル(実質ゼロ)に集中しそうだ。エネルギー基本計画の改定や気候変動政策の行方など、21年はどんなニュースが駆け巡るのか。

〈出席者〉 Aアナリスト B電力業界人 C都市ガス業界人 D石油業界人

2021年、エネルギー業界にとって明るいニュースは増えるのか

―欧州に続き、20年は中国や日本が相次いで「実質ゼロ」宣言を行い、さらに米国では民主党政権への交代がほぼ確実となった。国際的にも内政的にも、気候変動対策強化の機運がさらに高まっていくことになる。

A 米民主党は、実際の政権運営が公約とは全く違うことも多く、バイデン政権がどのような政策を取るかは、動き出してみないと分からない。ただ、世界の気候変動対策強化の流れが加速することは間違いなく、日本もCOP26(温暖化防止国際会議グラスゴー会合)に向けてさらなる対応を迫られるだろう。

 数年前と比べ政策は様変わりし、第6次エネ基の書きぶりは大きく変わるはずだ。ただ、やはり原子力の見通しは立たないままだ。これでは実質ゼロに向けて実現可能性が高い政策を立てることは難しい。エネ基が絵に描いた餅になる状況は今後も続くかもね。

B 実質ゼロへの道筋をエネルギーミックスにどう落とし込むのか、夏ごろには姿が見えてくるし、それを踏まえ、地球温暖化対策計画での30年のCO2削減目標引き上げについても議論が収れんしていく。

 再エネ比率は今の30年22~24%から、30~35%程度への引き上げがあり得ると思う。そうなれば火力は削り、原子力は20~22%をキープというのが一つの姿。ただ原子力比率をキープするだけでは、絵に描いた餅から脱却できない。いま政策的にポジティブな裏付けがあるのは再エネだけ。足元では原子力の再稼働を着実に進めるべきで、再稼働を目指すプラントが必要な投資を行えるよう、政策の後押しを明確に打ち出すことが重要だ。

 一方、新増設への道筋を付けることと引き換えに、30年の原子力比率を下げるべきという考えの人がいるが、順序が逆。新増設への支援は再稼働よりはるかに難しい。できるところから着実に取り組むべきだ。

A 明確にすべきは、運転期間の延長と(長期停止期間を運転期間に含めない)カウントストップ。そうなれば準備中のユニットが全て動き、投資もしやすくなる。経済産業省はその地ならしに一生懸命取り組んでいる。

C カウントストップはある意味投資がいらないし、自民党の委員会で原子力規制庁が、あらためて運転期間をどう規定するかは立法政策、と明言した。電力業界としてはカウントストップの議員立法に向けて動いてほしいところだろう。

B でも、野党が原発ゼロ法案を掲げている中、与党が原発推進につながる議員立法を提出することが、本当にできるだろうか。

―20年は放射性廃棄物の最終処分場選定にも動きがあった。

B 文献調査に北海道の2自治体が応募したが、多くの自治体が手を挙げていく中で、本命の候補地を大事にしながら、環境を整えていくことになるだろう。急いては事を仕損じる。ただ、NUMO(原子力発電環境整備機構)はもっと危機感を持つべきだ。

業界団体・企業が相次ぎ言及 「カーボンゼロ」の温度差鮮明に


エネルギー事業者は、投げられたボールをどう返すのか―。菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言を受け、エネルギー関係の業界団体や各企業がそれぞれ言及する動きが出始めた。ただ、既に実装されている脱炭素電源という武器を持つ電力業界に対し、石油や都市ガス、LPガス業界は、事業の根幹である化石エネルギーの脱炭素化をこれから図らなければならず、温度差が鮮明になっている。

実質ゼロに向けたイノベーションを支える技術の筆頭として熱を帯びているのが水素関連の取り組みだ。エネルギーや自動車、金融など幅広い業界関係者でつくる水素バリューチェーン推進協議会は、20年12月7日に設立イベントを開催。社会実装プロジェクトの提案、ファンド創設、需要創出や規制緩和に関する政策提言などに取り組む方針を掲げた。

電力業界にとってハードルとなるのは火力の脱炭素化だが、JERAは菅首相の宣言に先立ち、実質ゼロに向けたビジョンを発表。アプローチの一つに「再エネとゼロエミッション火力の相互補完」を掲げ、火力では非効率石炭火力の停廃止、アンモニア混焼や水素混焼の実証に取り組む。小野田聡社長は11月下旬の会見でも「ゼロエミッション火力は今ある発電所を活用しながらCO2を減らし、(再エネの)変動部分も賄っていく。火力が持つ役割はなくならない」と、あらためて強調した。

水素バリューチェーン推進協議会設立イベントには梶山弘志経産相(右から3人目)も駆けつけた

ガス業界からは前向き発言も 業界全体では険しい道のり

反応が鈍い化石エネ業界にあって、日本ガス協会と東京ガスからは、それぞれ意欲的な発言が飛び出した。脱炭素化ビジョンを19年末に発表した東ガスの内田高史社長は、政府方針の50年よりも早く達成したいと強調。脱炭素化に欠かせないメタネーション(合成メタン)の経済性についても、再エネが安い国で作った水素を合成メタンとして運搬すれば既存の設備が活用でき、「今のLNGとそん色ない価格で調達できる」と展望を語った。

さらに驚きをもって受け止められたのが、広瀬道明・ガス協会会長の発言だ。あくまで個人的なイメージとしつつも、「40年までに 30~50%、50年までに95~100%(削減)の導入を目指したい」と明言したのだ。第6次エネルギー基本計画でも30年以降の指標が示されるのか不透明な中、踏み込んだ広瀬会長の発言が、業界内をざわつかせている。特に人・物・金に限りがある地方の中小ガス事業者が、脱炭素化に対応できるかは全くの未知数だ。

石油元売りや特約店、LPガス会社も、多くの難題を抱える。とはいえ、地方の需要家を支える中小エネルギー企業の取り組みなくして、日本全体でのカーボンニュートラルが実現する日は来ない。政府は、実質ゼロに向けた研究開発を支援する2兆円の基金の創設や、脱炭素化に向けた設備投資を対象とした投資促進税制の創設などの措置を講ずる方針だ。こうした政策が、まだビジョンを表明していない各社の動きを後押しすることにつながるのか。

エネルギー以外の成長分野確立目指す リフォーム提案をワンストップで


インタビュー:石井敏康/東京ガスリノベーション 社長


本誌 東京ガスグループの住宅関連業務の2社が合併し、7月に東京ガスリノベーションが設立されました。合併にはどんな狙いが。

石井 まず、合併前の東京ガスリビングエンジニアリングでは、既存集合住宅のガス機器のメンテナンスや給排気設備回りのサービス、トイレやキッチンなどの機器交換と、間取り変更を伴わない、リフォーム手前の業務を行ってきました。他方、もう1社の東京ガスリモデリングはリフォーム専業で、両社とも首都圏を中心としつつも、事業領域はすみ分けてきました。しかし、ニーズに対しワンストップで対応できる体制にすべきとの判断から、シナジーのある2社の統合に踏み切りました。

住宅に関わる社会的ニーズとして、レジリエンス(強靱化)や高齢化社会への対応、省エネ、空き家対策などがあります。また、今後は既築の市場が主戦場になると言われていますが、業界ではまだまだ新築に目が向きがちです。しかし「2050年カーボンニュートラル」を目指すなら、新築よりボリュームがある既築の省エネの深掘りが、一層重要になります。

リフォーム業界で伍していく上で、例えば住宅メーカー系は系列のリフォームには強いですが、当社はさまざまな系列での実績があります。もともとはエネルギー回りや配管修理から入り、お客さまとの関係性を培ってきました。その距離感を大事に、お客さまの声に徹底的に耳を傾け、ニーズを実現する提案を心掛けています。

快適な省エネ提案を意識 コロナ対応も重要課題に

本誌 特に企業のカーボンニュートラル対策が注目されています。

石井 東ガスグループ経営ビジョン「Compass 2030」でも強調しましたが、CO2大幅削減に対応する中で、エネルギー以外の業務でも勝負しなければグループの成長は望めません。当社では先述の課題を踏まえ、各地域のライフバルとも連携しつつ、既築住宅への生活回りのサービス全般を訴求していきます。

具体的には、電化やレジリエンスに対するニーズの高まりの中で、太陽光と蓄電池のセット販売の強化、集合住宅向けコージェネレーションシステムやエネファームをさらに活用するサービスに力を入れます。また、当社の強みを生かし、高齢者が住まいやすい、断熱を含めた省エネ住宅へのリフォーム提案にも取り組みたい。ただ、カーボンニュートラルは意識しながらも、それが一番の目標ではないと思っています。ネットゼロで資産価値を上げつつ、お客さまのアイデアや希望を実現するような提案を目指していきます。

本誌 そしてコロナ禍も重要なキーワードとなっています。

石井 マイナスの面としては、修理と違いリフォームを急ぐケースは少ないため、非接触を求める傾向が強まったことで、上期の業績は厳しいものとなりました。一方、家庭で過ごす時間が増え、ワーキングスペースの確保や巣ごもり需要、感染予防に効果的な非接触・除菌・換気といった新たな需要が拡大しています。このニーズを掘り起こし、いかに響く提案ができるかが、今後の業績を取り戻す上で重要になります。また、オンラインツールの活用は、社内業務の効率化と、お客さまの時間節約の両面にメリットがあると捉えており、最大限活用しています。

社員には新しいことに尻込みせず挑戦することを求めています。失敗してもその過程を共有できれば、社にとってプラスになります。今年の新卒社員は、50年には50歳過ぎ。彼らが将来も当社で活躍できるよう、今からどれだけ新しい仕事を作っていけるか、挑戦していく所存です。

自由化の効果を独自検証 電気料金水準はどう動いたか


「割高な電気料金を欧米並みに」という旗印の下、電気事業制度は変革の道を歩み始めた。数度の電事法改正、そして原発事故という転換点を経た電気料金の動向を振り返る。

1990年代、「高コスト構造で日本の電気代は世界的に割高な水準」だとして、自由化に伴う制度変更が次々と実施された。大手電力10社の全平均で90年代からの電気料金の変遷(図参照)を見ると、2010年まではおおむね低下傾向をたどっている。

この間、発電や小売り部門が段階的に自由化され、05年度までに販売電力量の6割が自由化対象となった。みずほ証券の又吉由香上級研究員は、「部分自由化により各社がコスト効率化などに取り組んだことで、90年代から2010年にかけては電気料金が順調に下がり、電力会社の財務体質の改善も進んでいった」と説明する。

大手電力10社の電気料金単価(家庭用・産業用の全体平均)の推移
出典:発受電月報、各社決算資料を基に経産省作成

一方、別の見方も。常葉大学の山本隆三教授は「電気料金の内訳をみると燃料費の影響が大きい。自由化で料金が下がったというのは誤解で、各社の電源構成比が主要因ではないか」と分析する。

高度経済成長に伴い、70年代までは電源開発とネットワーク形成が急ピッチで進んだ。二度のオイルショックを経て、電力各社は安定供給と発電コスト削減のために原子力発電所の建設に着手し、設備容量は2000年代にかけて急拡大した。石炭火力も地方電力が率先して導入を拡大し、90年代に入ると中三社も大規模設備を保有するようになった。

それが11年の福島第一原発事故で状況は一変する。原発の稼働停止に伴い火力を焚き増したことで燃料費が増大。同時にFITが導入され、再エネ賦課金という新たな要素が加わった。

原発停止と再エネ増で一転 想定外の値上がりへ

これにより、料金単価は上昇に転じる。ピークの14年度には家庭用が10年比約25%、産業向けは約38%も上昇。それ以降は原子力の稼働が進み、16年度には低圧部門までの小売り全面自由化が実施されたものの、原油価格に左右され増減を繰り返している。19年度は家庭用が同約22%増、産業用が約25%増の水準だ。全平均単価はkW時当たり19.5円と、25年前の水準に戻ってしまった。

ただ、FIT賦課金を除いた金額で比べると、15年度の料金の全平均同18.6円に対し、19年度は16.9円と約9%下がっている。長期的に見ても、賦課金と燃料費を除く要素で比較すれば、19年度の電気料金は94年比で3割下落している。

「地域循環共生圏」の主要パートナーに 地方ガス事業者の存在感に期待


インタビュー:西村治彦/環境省環境経済課長

環境省が提唱する「地域循環共生圏」は、今後各地で計画を実行するフェーズに入る。同省はそのパートナーとして、自治体や地銀に加え、地方都市ガス事業者の役割に期待している。

西村環境経済課長は、地域循環共生圏で地方都市ガスの参画に期待を示す

―地域循環共生圏は第5次環境基本計画(2018年閣議決定)で提唱されましたが、各地でどんな取り組みが進んでいますか。

西村 地域循環共生圏とは、地域の資源を活用し、経済・社会・環境課題の統合的解決を目指す政策です。ローカルSDGs(持続可能な開発目標)や環境省流の地方創生とも言え、菅政権が前政権から踏襲する「環境と経済の好循環」の流れを組む政策です。

プラットフォーム事業では、昨年度35団体、今年度32団体を採択しました。それぞれビジョンとチーム作りを進め、事業の具体化に入った地域もあります。例えばバイオマスタウンとして有名な岡山県真庭市は、牡蠣殻を土壌改良に使う米作りなど、さらに取り組みを膨らませています。横浜市と北岩手9市町村の再エネに関する広域連携や、神奈川県小田原市と地域新電力などが連携したカーシェアリングといった事業も進んでいます。

エネルギー関連については別途、脱炭素化のまちづくりモデル事業も用意し、今年度は51の自治体の再エネ事業を支援しています。

―中心的なプレーヤーは。

西村 地域へのアプローチでは自治体、あるいは地域金融機関を窓口にしていますが、ここにエネルギー事業者も有力パートナーとして関わってほしいと考えています。中でも約200社ある地方都市ガスの参画に期待しています。

小田原市では都市ガス事業者が主要プレーヤーとなっています。また地域循環共生圏とうたっていなくても、ガス会社は省エネに資する面的供給や地域貢献など、地域循環共生圏につながる内容を既に本業として取り組んでいるケースが多々あると認識しています。

脱炭素化への第一歩 省エネなどノウハウ活用を

西村 次期エネルギー基本計画の議論が始まり、論点が出てきましたが、中でも脱炭素化はエネルギー関係者にとって大きな課題の一つでしょう。

他方、地域のエネルギー事業者は供給、使用の両面で省エネにつながるノウハウを持っています。エネルギーサービスを土台に地域の課題を解決するビジネスモデルに、都市ガス会社などが関われば、社の経営にもプラスに働くことが期待されます。環境省・地方環境事務所として、日本ガス協会とも連携を深め、裾野を広げたいと思っています。

―ただ、都市ガス事業にとって脱炭素化への道筋を描くことは容易ではありません。

西村 経産省の「ガス事業の在り方研究会」でも脱炭素化が主要課題の一つとされていると承知しています。トランジションとしてのガスの利用を進めると同時に、既設インフラを有効活用できるCO2フリーのグリーンなガスという将来像につなげられるかどうか、大変注目しています。メタネーション(合成メタン)などの水素利用についても、現時点でのコストの壁は承知していますが、期待しています。

その一環で、地域循環共生圏においてエネルギー事業者との連携が進むことを願っています。

地産地消を柱に経営多角化 マイクログリッド実証に挑戦


【小田原ガス】

地元企業などとの連携を強化し、再エネ開発や電力小売り、さらにはEV(電気自動車)シェアリングなど、小田原ガスは新たなエネルギーサービスに果敢に挑戦している。その裏には、「ゼロエミッションが実現するなら、ガス導管は座礁資産になりかねない」(原正樹・小田原ガス社長)との危機感がある。

同社はここ10年ほどで、さまざまな新規事業を手掛けてきた。まず取り組んだのは再エネ開発だ。計画停電を経験した東日本大震災を機に、24社(当時)の地元企業が出資し、再エネ発電事業者「ほうとくエネルギー」を設立。現在、太陽光発電を中心に2100kWの再エネ電源を保有する。

その後スタートした電力小売り全面自由化を受け、2017年に地域電力の先駆けである「湘南電力」の株式を取得し、経営に参画した。地域で発電した再エネを活用し、神奈川県内の需要家に電力を供給。その収益の一部を湘南ベルマーレなどのパートナー企業に還元し、エネルギーや資金の地域循環を目指している。

今の調達先の主軸は卸電力取引所であるものの、非FIT再エネについては「ほうとくエネルギー」以外からも県内で調達先を広げ、18年時点で約1500万kW時と、調達量を年々伸ばしている。

「0円ソーラー」の利用拡大 再エネ充電のEVをシェア

湘南電力の低圧の顧客件数は約3500件と、堅調に推移しており、さらなる再エネ電源の確保が課題となっている。その一環で展開するサービスの一つが「0円ソーラー」だ。一般家庭に設置費無料でパネルを設置し、10年後には設備を無償譲渡する。その間、利用者は湘南電力から、切り替え前より安い価格で供給を受け、余剰分は湘南電力の電源として活用する。もちろん、非常時には自家消費することも可能だ。

県の補助金を活用し、1kW当たり4万円が助成される。設置費用の2割が補助金、残りを湘南電力が負担し、10年間で回収するモデルだ。同サービスの利用者は県内で約100件に上る。湘南電力社長も務める原氏は「FIT切れ電気を買い取っても顧客は大したメリットを感じません。自家消費型に移っていただき、余剰電力は地域内で回す。その中で湘南電力も利益を上げるという仕組みです」と、事業の狙いを説明する。

EVシェアリングなど新たなビジネスに積極的に挑戦

さらに、将来を見据えたビジネスモデルの模索にも積極姿勢を見せる。変動性再エネの導入が加速する中、需要側での調整力にEVを活用する取り組みが脚光を浴びている。湘南電力もEVの利活用に注目。スタートアップ企業のREXEV、小田原市と連携し、再エネを充電したEVのカーシェアリング事業を実施している。地域の温暖化対策や人口減少といった課題解決につなげるべく、脱炭素型の地域交通モデル構築を目指す。具体的には、①地域交通の脱炭素化、②地域資源の有効活用、③災害に強いまちづくり、④住民サービスの向上―を狙う。同事業は環境省の地域循環共生圏構築のモデル事業に採択された。

バスやタクシー、地域住民が利用するカーシェアリングにEVを導入し、地域の再エネ電気を充電。問題なく移動できるよう、充電残量を管理する。現在、市内に34台のEVを設置。ある程度のボリュームを確保しており、そのバッテリーは、平時は系統の負荷軽減に、また非常時は電力供給の継続につなげる構想だ。サービスの利用者は500人余りに上る。

温暖化将来予測はあくまで仮説 CO2の影響範囲見極めを


【気候危機の真相Vol.02】田中博/筑波大学計算科学研究センター教授

近年の温暖化は人為起源との仮定を基に「気候危機」が叫ばれているが、予測はあくまで仮説だ。不確実性があるにもかかわらず、巨額を投じて温暖化対策を実施することは、正しい選択なのか。

日本国内では、「地球温暖化は人為起源によるもので、科学的には疑いがなく、今すぐ対策を講じないと取り返しがつかなくなる」と信じている人が大勢いる。「この問題は温暖化対策に消極的な大人たちの責任であり、将来を担う子どもたちに環境破壊のつけを残してはいけない」と、一部の政治家やマスメディアが声高に主張する。とても扇情的な内容だが、果たして本当だろうか。筆者は、近年の温暖化の半分は自然変動で、科学的には疑いが残っており、その不確実性から今すぐ膨大な国費を費やして対応するには問題があると考えている。「かけがえのない地球を守る」という美しすぎる枕詞で始まる温暖化脅威論に異議を唱える者はいないだろうが、不確かな将来予測を根拠に毎年何兆円もの血税が使われることには、はなはだ疑問を抱いている。

気候変動には人為起源の温暖化のほかに、化石燃料の放出とは無関係の自然変動が必ず含まれている。従って、温暖化の将来予測では、この自然変動を差し引いて考える必要がある。この二つが正しく分離されないと、温暖化対策と称して甚大な経済的損害を被ることになる。ところが、現在の気候モデルでは、過去の長期的な自然変動を正しく表現できないことが、一般にはあまり知られていない。


人為起源はどの程度か 絶対ではないIPCC報告

図は、欧米の主要な研究機関による気候モデルを過去1000年間にわたり走らせた結果の気温変化である。長周期変動を引き起こすメカニズムが組み込まれていない(分かっていない)ので、流体の揺らぎとして発生する内部変動(これも自然変動の一部)を除けば、長周期変動は存在せず、トレンドもない。一方、近年観測された温暖化(100年で0.7℃)は、モデルの自然変動(ここでは内部変動)では説明できない温度上昇となっている。よってこの部分は人為起源のCO2の増加によるものである、との考察から、ここだけは人為起源の外力としてモデルに組み込み、モデルをチューニングすることで観測と一致させている。このモデルの結果は、かつて「ホッケースティック」と名付けられた観測結果と同じで、この温度の急勾配を将来に外挿して危機的な将来の温暖化が予測されているのである。しかし、こうした結果がおかしいことは明らかだ。

モデルによる過去1000年の温度変化(左)と、過去100年の観測による温暖化(近藤 2003)

最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告では、西暦1000年ころには中世の温暖期があり、1500~1800年ころには小氷期があったとされ、最近の200年間は100年当たり0.5℃のリニアートレンドで気温が上昇している。この1000年スケールの変動は、人為起源ではなく自然変動であることは確かである。その大振幅の自然変動を気候モデルは再現できないので、図のように真っ平らな気温変化にしかならないのだ。もし、この長周期の自然変動の原因が今後解明され、過去1000年の大きな変動とともに、近年200年間のリニアートレンドが自然変動で再現されたとすると、人為起源にその原因を求めた気候モデル予測の根拠は総崩れとなる。温暖化の半分は自然変動ということになり、100年後の温暖化はたかだか1℃程度になる。

温暖化の「科学」は決着したのか 議論を封殺する風潮に異議あり


【気候危機の真相Vol.01】杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

急進的な温暖化対策を求める声が強まるが、その前提とされる科学的議論は果たして決着したのか。大手メディアがあまり取り上げないさまざまな「事実」について、専門家のリレーで徹底検証する。

いま日本では、次の「物語」が共有されている。「地球温暖化が起きている。このままだと生態系は破壊され、災害が増大し、人間生活は大きな悪影響を受ける。温暖化の原因は化石燃料を燃やすことで発生するCO2であり、2050年までのCO2排出量実質ゼロが必要。温暖化対策は待ったなしの状態である」と。メディアは、物語がいったん出来上がると、それに沿って取材をする。つまり物語に合うエピソードだけを拾い集めてそれを強化するという「確証バイアス」がある。

さらに、行政・政治が強く関与した科学は大きくゆがむことがある。旧石器時代の遺跡が捏造された「ゴッドハンド事件」が最悪の例だ。地球温暖化の「科学」は「明らか」とする意見が声高に言われるが、本当に大丈夫なのだろうか。

本稿では、50年までのゼロエミッションなどの極端な対策が必要という意見を温暖化「脅威論」。温暖化自体は否定しないが、そこまで極端な対策は不要との意見を「懐疑論」とし、その是非を論じていく。

米国の半分が懐疑論 科学者も議会で証言

米国の世論は日本とは全く異なり、脅威論と懐疑論のバランスが拮抗している。①温暖化は党派的な問題で、共和党支持者は懐疑論であること、②既存の権威や学説に挑戦する科学的態度が尊重されること、③これらを反映してバランスが拮抗した報道がなされていること―といった理由からだ。

米国の調査機関ピューリサーチセンターが、米国の福祉にとって何が重要な脅威かを聞いた調査結果がある。注目されるのは「気候変動」について、民主党支持者の84%が重要な脅威と答える一方、共和党ではわずか27%にとどまることである。米国政治は党派で大きく分かれているにせよ、ほかの問題ではここまで開きが無い。気候変動こそが、もっとも党派間で意見が対立する問題となっている。

日本で脅威論を否定するとバカ扱いされる傾向にあるが、米国では違う。共和党支持者がここまで脅威論を否定するのは、科学に無知だからではなく、十分に知識を持った上で否定していると見る方が妥当であろう。

米国では、多くの科学者が議会で脅威論を真っ向から否定しており、特に有名なのはアラバマ大のジョン・クリスティである。彼は地球規模の気温測定の第一人者で、「UAH」の略号で知られる重要な気温データセットを40年間構築、発表し続けてきた。その彼が17年の議会証言で用いたのが次頁の図である。データはそれぞれ、①IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で用いた気候モデルによる熱帯の空の温度上昇予測の平均(周囲の細い線はさまざまなモデルによる予測)、②気球による観測、③リモートセンシングによる衛星観測、④②③などの観測データを総合的に再分析した推計値―となっている。

クリスティが米国議会証言で用いたデータ


この図を用いてクリスティは、熱帯の空の温度上昇は予想されたほど起きず、気候モデルはいずれも大外れだったと断じた。その主張を詳しく論じることはほかの機会に譲るが、指摘したいのは、「日本の議会・政府・大手メディアは、このような意見をきちんと聞いているか。このような図を見て、検討したことがあるか」ということである。こうした脅威論への強力な反対意見を、ほとんどの人は知らないのではなかろうか。

【記者通信/10月28日】後手に回る再エネトラブル対応 量追求の政策から卒業を


菅義偉首相の「2050年脱炭素化」宣言を受け、各省庁が再エネ主力化政策のテコ入れに着手し始めた。経済産業省や環境省の動向に加え、河野太郎行政改革相が意欲を見せる再エネ関連の規制緩和の行方が注目されている。

ただ、12年のFIT導入以降、各地で再エネトラブルの発生が後を絶たない。特に目立つのが小規模太陽光だ。法に基づく環境アセスメントの対象外であり、再エネ開発の経験がない事業者も多い。こうした事業者が、土地規制のないエリアだからと言って山を切り崩したり、近隣住民の生活に影響を与えたり、といった乱開発を引き起こしている。

一方、風力は太陽光よりもノウハウが必要で、ある程度の規模の企業が関わるケースが多い。ただ、太陽光ほど目立ちはしないものの、風力でトラブルに巻き込まれる地域も少なからず存在する。例えば山形県鶴岡市では、大規模ウインドファームの計画が立ち上がり、事業者は8月上旬から環境アセスメントの手続きを開始した。しかし地元への事前説明をおろそかにし、合意形成に失敗。すぐに反対運動が巻き起こり、アセス開始から1カ月足らずで白紙撤回する羽目になった。

実は当該エリアは、出羽三山神社などが日本遺産に認定されている山岳信仰の聖地。実際に足を運んでみると、景観のすばらしさと神聖な趣に圧倒される。市街地から離れた場所にあるが、平日でも多くの観光客が訪れていた。この地での大規模風力計画に、地域の関係者が一致団結して反対するのも頷ける。事業者は恐らく風況の良さからこの地域に白羽の矢を立てたが、住民の宝である景観や文化に対する配慮に欠けていた。

出羽三山神社の三神合祭殿(残念ながら萱屋根の修理中)
ここにお参りすれば出羽三山を構成する3つの山を参ったとみなされる
神社の麓の入り口にある随神門。ここより内側が神の領域に
麓には宿坊街が広がる

これまで何度か再エネトラブルに見舞われた人々に話を聞く機会があったが、多く聞かれたのは「再エネ拡大自体は賛成だが、むやみな開発を止める手立ては必要」という意見。これからは「再エネが増えるならなんでもよし」という訳にはいかない。きちんとした発電事業を営むという意識に欠ける事業者の退出を促すことも必要だ。再エネ業界でも、エネルギー事業者として社会的責任を果たすという意識を持った企業が集まった「再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」が昨年末発足するなど、現状の是正に向けた動きが出ている。規制緩和で再エネ導入量だけを追求するのではなく、望ましい形の事業が増えるよう、再エネ規制の在り方についても議論を深める必要がある。

脱「原発・石炭」政策の強行で暗雲 矛盾を隠せないドイツのエネ改革


気候危機の真相Vol.07】川口マーン惠美/作家

脱原発に続き脱石炭を強行するドイツだが、代替となるべき風力やガス開発も順調とは言い難い。国民はCO2削減の必要性を信じてやまないが、エネルギー改革の矛盾は隠せなくなりつつある。

コロナでドイツへ帰りそびれ、ようやく7月、5カ月ぶりにフランクフルト空港に降り立った。現在、国内線が飛んでいないため、ここが飛行機での終着駅だ。そこから家族の迎えの車で約5時間、旧東独のライプツィヒに向かう。

アウトバーンの両脇は、たいてい森や、牧草地や、茫々としたただの空き地だが、走っても走っても風車が目に飛び込んでくる。場所によっては地平線の彼方まで見渡すかぎりの風車の林。巨大な羽が殺風景な風景の中でグルグル回っている様は、あまりにも無機質で気味が悪い。私はいつも、第3次世界大戦で人類が死に絶えた後はこういう光景になるのではないかと、想像を逞しくする。

本来、ドイツ人というのは景観をことのほか大切にする人たちだ。森に対する愛着は半端ではないし、バルト海の洋上タービンは岸から見えないほど遠くに立てる。突拍子もないデザインや色彩の建造物は、個人の住宅でさえ許可されないことが多い。そのうえ都市計画や造園も上手で、そこには自然への愛着のみならず、遠大な哲学までが織り込まれる。だから、今でも分からないのだ。そこまで自然と景観にこだわる人たちが、なぜ、このおぞましい風車の乱立を看過しているのかということが。

近くに行けば分かるが、風車は巨大で、羽が上がった時の全体の高さが150mに達するものもまれではない。だから、支柱も、それを支える基礎もすべてコンクリート。もし、いつかこれらが不要になったとき、この巨大なコンクリートの塊が速やかに撤去されるとは思えない。基礎部分はそのまま放置されるのではないかと想像すると、風車の林は、私の目には悲しくなるほどの自然破壊に映る。ドイツ人は、取り返しのつかないことをしているのではないか。

代替電源には程遠い風力 温暖化対策拡充で国民負担増

ドイツ政府の掲げているエネルギー政策は、2022年末までに6基残っている原発を止め、さらに38年までに、現在90基余りの石炭・褐炭火力発電所をすべて止めるというものだ。これによってベースロード電源がゴッソリ減るが、その分は風力で代替する(太陽光は設備容量は大きいが、ベースロードとしては当てにされていない)。そして、50年までにCO2を、1990年比で80〜95%削減するのが目標である。

ただ、風車で石炭・褐炭火力発電所1基を代替しようとすれば、およそ850基、原発なら1330基が必要だとか。ドイツには既に2.7万基の風車があるが、もちろん足りない。しかし現在、立地の制約や、近隣住民による反対運動で工事が行き詰まっており、困ったドイツ政府は8月、建設を加速するために「投資促進法」という法案まで作った。これにより、住民訴訟は一足飛びで上級裁判所の管轄となり、これまでのように控訴で長々と建設が中断する事態が避けられるという。考えようによれば、国民の権利を縮小させる強権的な法律である。

ただ、根本的な疑問は、ドイツが風車を何万基も立てれば、世界のCO2が減るのかどうかだ。ドイツの排出分など全体からすればたかが知れている。しかも、CO2が減ったとして、それで地球温暖化が止まるのか? 本誌の読者なら、CO2と温暖化がそれほど深い相関性を持たないらしいことは既にご存知だろう。ちなみに、ドイツ人が本当に効果的にCO2を削減したいなら、CO2フリーの原発を安全に留意しながら利用する手もあるはずだが、なぜか、その議論はタブーだ。