2050年カーボンニュートラルへの対応という難題を突き付けられたエネルギー業界。業界に身を置く関係者は、これをどう受け止めるのか。緊急アンケートを実施した。
そもそも、エネルギー関係者は2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)の実現可能性を、どう考えているのだろうか。この問いに対し、電力業界の意見は半々に割れた。
実現可能との回答の大半は、原子力の活用が前提になると強調する。「火力の代替として、太陽光、風力、水力などの再エネ比率を上げ、さらに原発の新設および再稼働を行えば可能」、「理論上は可能だが、原子力の活用は不可欠。60年利用はもちろん、多少の新設も必要だ」と、原子力政策の前進が前提条件との指摘が相次いだ。
都市ガス業界の回答を見ると、「過去の技術の進展を考えれば、今後30年での実質ゼロ実現は可能だと思う」、「劇的な技術革新が必要だが、50年までにブレークスルーが起きる可能性もある」など、前向きな回答が多い印象だ。その一方で、都市ガスと同じく化石エネルギーの取り扱いが本業であるLPガス、石油の両業界からは、「業界として炭素由来の燃料を使用するため、業界単体での実質ゼロは難しい」(LPガス)など、懐疑的な意見が多い。中でも、「カーボンを販売して成り立っている業界として『ゼロ』は不可能」という石油業界からは、回答がほとんど返ってこなかった。石油業界がビジョンを描く難しさを物語っている。

具体的なビジョンについては、同じ業界内でも多種多様な意見が寄せられた。
「系統電源から分散型電源へと変化し、再エネに蓄電池がセットされて構築される世の中になる。そこにビジネスとしてどう入っていくのかを考えていかなければならない」(電力)、「kW時や㎥といった供給量を基盤とするビジネスを捨て、顧客を起点としたビジネスに変わること」(電力)、「都市ガス供給事業者から新しい価値の創造企業に生まれ変わることが必要。エネルギー供給では単に再エネに取り組むだけではなく、再エネ電気と再エネ熱を社会でうまく使えるようなシステム作りを他業界と取り組む必要がある」(都市ガス)、「実質ゼロ実現に向けたビジョンを持たないという選択肢はない」(LPガス)などなど、社の本業自体を変える節目になると捉える関係者が多い。
とはいえ、「まずもって政策的なロードマップの明示が先だ。(炭素を資源として活用する)カーボンリサイクル技術やCCS(CO2回収・貯留)などの技術の進捗に期待しながら、できる範囲内で進めていくしかない」(LPガス)と、今後の行方を見守るスタンスも散見された。
ビジネス変革を期待 投資負担は懸念材料に
では、大変革を伴う実質ゼロは、業界にとってどんなメリットが期待できるのか。この点については、多くの関係者が、ビジネスモデルの変革を挙げた。
「太陽光発電や蓄電池など、新たな分野を切り開いていける。また電気自動車(EV)などの次世代エネルギー車に移り変われば、需要拡大のチャンスにもなる」(電力)、「再エネ拡大、火力発電のゼロエミッション化などは今まで培ってきた経験・技術を生かせる取り組み。チャレンジによってこうした事業分野でのさらなる成長が見込める」(電力)、「再エネ系新電力として、主にデマンドサイドでのビジネスモデルを推進するための社会的な追い風が期待できる」(新電力)、「事業変革を促す大きなドライブとなる」(都市ガス)などだ。
一方、自由化市場の中で実質ゼロに取り組まざるを得ない状況に、消極的な意見が一定数あることも事実だ。「長期にわたり社が事業継続を図る上で、避けて通れない課題。実質ゼロへのチャレンジが顧客から選ばれる要素となり、生き残っていくための条件になっていく」(電力)、「取り組んでいることをPRしなければ、お客さまから選択されるエネルギーになり得ない。メリットを求めるというよりも、責務として対応すべき」(LPガス)といった率直な意見も挙がった。
やはり、長期にわたる投資の負担や、自社資産の座礁化などを懸念する声は根強い。「実質ゼロにチャレンジする過程で、研究費や設備投資などの相応の支出が必要になると認識。期待した効果が得られなかった場合には、事業継続が困難になる恐れもある」。電力関係者はこう指摘する。
上流関係者は「早期の実質ゼロ実現が可能となる説得力のある戦略を立て、社会・投資家などのステークホルダーに理解を得ることによって、企業として生き残る可能性が高まる。しかし、新領域の事業で本業と同様の経済的リターンを得られるかは不透明だ。企業価値を維持し、投資家の理解を得ながら事業ポートフォリオの組み換えができるのか、疑問が残るものの、選択肢はほかにない」と、苦しい胸の内を明かす。何かしらのインセンティブがなければ、業界そのものが潰れる可能性も。











