【特集2】創業来のエンジニアリング力発揮 太陽光発電事業でフル活用


【テス・エンジニアリング】

テス・エンジニアリングは、コージェネレーションや石油燃料から都市ガスへの燃料転換、ユーティリティーの更新など、省エネや環境、コスト削減などトータルにサポートするエンジニアリング会社だ。エネルギー管理指定工場に該当する大規模工場の顧客を中心に手掛けてきた。こうした顧客に対し、近年は太陽光発電の導入を提案しており好調だ。
日本国内の電力事情、世界的な情勢不安、円安などが重なり、エネルギー価格のボラティリティーは激しさを増し、この先も続くと見られている。髙崎敏宏社長は「太陽光はコスト面から見て、自家消費であれば採算が合う。環境価値も付与されるため時流に乗っている」と現状を説明する。

太陽光と蓄電池を併設した井村屋の工場


同社が扱う太陽光発電はEPC(設計・調達・建設)とPPA(電力購入契約)と二つの販売スキームを用意している。EPCは買い取りやリース契約、PPAは顧客の敷地内に無償で太陽光設備を設置する。ただし設備所有者はテス・エンジニアリングになる。どちらを選択するかは、企業の考えによってさまざま。23年6月期に同社が完成させた太陽光設備のうち、EPCは2万6800kW、PPAは1万1100kWだった。「PPAは契約が20年と長期にわたる。近年は太陽光設備の信頼性が証明されつつあり、企業のリスク要因が減っている」(髙崎社長)とのことだ。


小売電気事業者の知見 需給管理機能など利用


太陽光発電において、同社の強みは創業以来培った設備や工場構内工事に関する設備知見と累計100万kW超の施工実績、そして小売電気事業者としての需給管理機能などを太陽光発電事業にも展開している点だ。
23年11月には、三菱地所とバーチャルPPA契約を締結した。同社が三菱地所の関連施設の屋根上に太陽光発電システム(1400kW)を設置し、発電した電気を、同社グループの需給管理機能を活用しながら市場価格連動買い取り制度(FIP) を用いて卸電力市場などに売電し、売電した電気に紐づく環境価値を「非固定価格買い取り(非FIT) 非化石証書」として三菱地所に提供する。
23年10月発表の湖池屋九州阿蘇工場の案件では工場棟の屋根に?家消費型システムを設置したオンサイトPPAモデルだが、余剰電力が発生する場合は同需給管理機能を活?しながらFIP制度を?いて売電し、売電した電気に紐づく非化石証書を需要家に提供する計画だ。
髙崎社長は「企業の脱炭素化に貢献する取り組みを推し進めるため、さらに太陽光事業を拡大していきたい。再エネにとどまらす、コージェネ導入や燃料転換など、当社の中核となる事業も引き続き拡大していく構えだ」と話す。同社のエンジニアリング力を基礎にした太陽光事業は今後も多くの企業から注目されそうだ。

太陽光事業について語る髙崎社長

【特集3】エネルギー会社の不動産事業 資産・知見生かし国内外で活発化


環境に配慮した不動産事業を積極的に展開するエネルギー会社が増えている。エネルギー分野の知見を生かすとともに、顧客や地域のニーズに応える。

2019年から本格化したコロナ禍以降、不動産トレンドが目まぐるしく変化している。その要因はリモートワークの増加や環境に優しい住宅への需要の高まり、テクノロジーの進化などさまざまだ。

こうした流れを受け、エネルギー業界の中でも不動産事業を展開する企業が増えてきた。具体的にはグループの資産の活用やエネルギーに関する知見を生かした住宅事業、海外事業などだ。

ESGに基づいた開発 人と環境に優しい住まい

1963年に「緑とやすらぎのある住宅都市づくり」を目指して「森林都市株式会社」として発足した九電不動産。九州電力の子会社となった後は、グループ一体で不動産事業を強化してきた。

同社は住宅ブランドコンセプトとして「E-QUALITY(イークオリティ)」を掲げている。「これからの人と地球に、快適な住まいであること」を重視し、人や地球に優しい快適で経済的な暮らしであること(E-COLOGY)、信頼のエネルギーサービスによる安心を届けること(E-NERGY)、心を動かす安らぎや生活シーンを描くこと(E-MOTION)の3点を打ち出している。

同社が手掛ける分譲マンション「グランドオーク」シリーズは、高い環境性能を有し、カーボンニュートラル(CN)の実現に貢献する。オール電化や断熱構造はもちろん、Low-E複層ガラスや24時間換気システムなどを採用。一部の物件を除き、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の認証を受けている。家計にも環境にも優しい住まいとして人気を博している。

中部電力が主要株主の日本エスコンは、総合不動産デベロッパーとして幅広い事業を手掛けている。具体的には、分譲マンション・戸建住宅、商業・物流施設、オフィス、ホテル、賃貸レジデンスなどの開発、プロパティーマネジメント、企画コンサルティング、マンション管理、リノベーション事業などだ。20年1月には、北海道日本ハムファイターズ新球場周辺街づくりである「ボールパーク構想」に参画。新球場のネーミングライツを取得している。

その経営戦力の一つに「ESG推進による社会課題への対応」を掲げている。環境に配慮したZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)や、地域の活性化を目指した地域密着型商業施設「トナリエ」の開発を進めている。また次世代型スマートハウスやコネクティッドホームなどの共同研究も行っており、暮らしの環境エネルギーやAIの活用による次世代の街づくりにも取り組んでいく。

IoT技術で省エネかつ経済的なエネマネを行う

会社ごとに特色ある事業展開 顧客や地域特性を深く理解

大阪ガスの子会社である大阪ガス都市開発は、大阪ガスビルディングをはじめとするグループ会社のビル管理業務だけでなく、一般顧客向けオフィスやマンションも手掛けている。

2000年代以降は、関西圏だけでなく首都圏にも進出し、賃貸マンション「アーバネックス」と分譲マンション「シーンズ」を展開してきた。SDGsやCNへの対応として、「シーンズ」ではZEHオリエンテッドを標準採用している。家庭用燃料電池のエネファームも採用しており、創エネも可能だ。

同社の不動産開発では、物件の快適性や高級感、サービスといった付加価値の提供を重視している。顧客に対して住まいに関するアンケートを実施し、その結果をもとに商品企画を行うことで、ニーズを取り込んでいる。とりわけ分譲マンションでは、入居後も個別に暮らしや快適性などについてヒアリングを行い、のちの開発に生かすことで物件の価値を高めてきたという。

成長分野である倉庫など物流にも参画する

賃貸と分譲にフィービジネスを加えた3本柱で事業を展開するのは、関電不動産開発だ。フィービジネスでは私募上場不動産投資信託(REIT)を扱う投資会社「関電不動産投資顧問」を設立。REITとは、投資者から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買の収益を投資者に配当するというものだ。

また同社では海外事業にも積極的に取り組んでいる。GDPの伸び率が日本よりも高い北米、豪州、タイの3カ国で展開。タイでは現地デベロッパーと組んで住宅を建設している。海外事業を展開する際には、カントリーリスクへの注意が不可欠だ。カントリーリスクとは、投資している国の経済や政治など不安定性に伴う市場の混乱・下落といった不確実性を意味する。こうしたリスクを踏まえた上で、投資を行う必要がある。

豪州での不動産開発を進めるのは、関電不動産開発だけではない。東京ガス不動産は、豪州での分譲マンション事業「Bloom(ブルーム)1」への参画を発表。今年2月に参画した「BANKSIA(バンクシア)」に続く豪州2件目の事業となる。

バンクシアとブルーム1は「グレンサイド」プロジェクト内の一環だ。同プロジェクトは南豪州の州都アデレードからほど近い、好立地で希少な大規模再開発プロジェクト。広大な敷地内に数多く存在するヘリテージ(歴史的建造物)の保全・活用など、環境や社会との調和を重視した住宅開発を行う。ブルーム1は郊外の戸建てから居住面積を縮小して住み替えるシニア層をターゲットに、魅力的な暮らしを提案する。そのためには住む人や地域、社会が求めることを深く理解する必要がある。

例えば、豪州では地元住民同士のつながりが重視されるため、ラウンジなどの共用施設を充実させ、コミュニティー形成を後押しする。また太陽光パネルやEV充電器の設置、再生可能エネルギー由来の電力を各住戸で使用できるといった環境への配慮にも重点を置いた。こうしたコンセプトが好評で、完成を待たずして完売した。

国内外問わず活発化するエネルギー会社による不動産開発。その動向に関心が高まる。

【特集3】豪州2件目の分譲マンション事業 地域と住民のニーズを理解し進める


【東京ガス不動産】

ワインの産地として有名な南豪州の州都アデレード―。その中心部から2㎞ほどのエリアで、大規模再開発事業「グレンサイド」プロジェクトが進む。東京ガス不動産は、同プロジェクト内の分譲マンション事業「Bloom(ブルーム)1」に参画する。今年2月に参画した「BANKSIA(バンクシア)」に続く、豪州2件目の分譲マンション開発事業だ。

コミュニティー形成を促す 環境への配慮も重視

豪州の分譲マンション購入者には、郊外の戸建てから住み替えるシニア世代層がいる。居住面積を縮小し移り住むことからダウンサイザーと呼ばれる。ブルーム1は、ダウンサイザーをターゲットとしたマンションだ。その間取りは2~3LDKが中心で、価格帯は1億円を超えるものも多い。竣工は2025年4月の予定だが、すでに完売するほどの人気ぶりだ。

人気の理由は開発コンセプトにある。豪州では地元住民同士のつながりを大切にする。そのため新天地でのコミュニティー形成が促進されるよう、ラウンジ、庭園、BBQエリアなどを設置。住民向けイベントも開催する。また利便性の高い生活施設が徒歩圏にあり、幅広い年齢層が生活する大規模住宅エリア内にあることで、社会とのつながりを保った生活が可能だ。

ブルームは人生の花を再び咲かせてほしいと命名

エネルギー会社の不動産事業として環境配慮も重視する。複層ガラスの採用などによりエネルギー効率性を高め、快適な居住空間を提供。太陽光パネルやEV充電器の設置に加え、各住戸でも再生可能エネルギー由来の電力が利用可能だ。またデザインや高さなど、隣接するヘリテージ(歴史的建造物)との調和も図る。このコンセプトがアクティブ志向や高い環境意識を持つシニア層に好評だ。

東京ガス不動産オーストラリアの柴﨑裕之社長は「エネルギー会社としてエネルギー分野での環境配慮は重視していく。ESG型不動産開発を掲げているが、何を実現したいのかが重要。単に環境認証を満たすのではなく、生き生きと生活できる場を創出し、地域や社会と一体で価値が高まるような開発を行いたい。そのために住む人、地域、社会のニーズを理解し具現化していく」と抱負を語った。

【特集3】電力会社ならではの物件開発 関西デベロッパー最上位目指す


関西電力グループの中核を担う関電不動産開発は国内外に事業を拡大している。ESG投資に注目が集まる中、エネルギー会社の知見を生かした開発に注力する。

【インタビュー】藤野研一/関電不動産開発社長

ふじの・けんいち 1989年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、関西電力入社。お客さま本部副本部長、執行役員営業本部副本部長を経て、21年6月から現職。

―会社設立から現在までの事業状況についてお話頂けますか。

藤野 当社は2016年に旧関電不動産と旧MID都市開発を統合し設立されました。旧関電不動産は、関西電力の本支店ビルや社宅、社員寮などの保守維持管理をメインとする会社でした。統合によってMID都市開発の強みを生かして総合デベロッパーとなり、分譲事業と賃貸事業、フィービジネスの三本柱で展開しています。

 分譲マンションは「シエリア」ブランドで販売しており、近畿エリアでは昨年1141戸を販売し、2年連続販売戸数で第1位になりました。賃貸事業はオフィスビルをはじめ、ホテルや物流、商業施設などを手掛けています。

 フィービジネスでは私募REITの資産運用を行う「関電不動産投資顧問」を18年に設立しました。当社が所有する物件を私募REITに組み入れ、年1回増資するタイミングで資金を募り運用しています。資産規模は今年で500億円を超えました。

―国の50年カーボンニュートラル宣言以降、顧客の環境意識への高まりを感じますか。

藤野 お客さまからの環境や省エネに関する質問が増えています。当社はエネルギー会社の子会社であり、新築のマンションや戸建て、オフィスビルなどはZEH/ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)対応を標準化しています。当社がJV幹事企業の物件は全て導入しています。また、テナントの賃貸物件では、主に外資系企業からゼロカーボン電気を買いたい、RE100に対応した電気を買いたい、との要望を受けます。住宅でもZEHオリエンテッドの建物と説明すると反応するお客さまが増えています。私募REITでも、投資家はESGに取り組んでいるかを判断材料にします。このため、さまざまな環境認証を積極的に取得しています。

【特集3】高付加価値を意識した物件開発 ZEHなど環境配慮にも取り組む


【大阪ガス都市開発】

大阪ガス都市開発は大阪ガスの子会社として1965年に設立。以来、同社本社の大阪ガスビルディングをはじめとしたグループ会社のビル管理業務にとどまらず、一般の顧客を対象としたオフィスやマンションを手掛けてきた。

昨年の売上高構成を見ると、Daigasグループ関連が2割、その他が8割であり、現在はグループ外を顧客とする事業がメインとなっている。

2000年代以降は関西圏だけでなく、首都圏にも進出。新規に取得した用地に賃貸マンション「アーバネックス」と分譲マンション「シーンズ」を展開する。賃貸マンションの保有数は100棟を超え、取り扱い戸数は6000戸以上。分譲マンションも累計販売数は共同事業での共有戸数を含めると約6700戸に上る。

同社の不動産開発で欠かせないのが、物件の快適性や高級感、サービスといったハイスペックな付加価値の提供だ。住まいに関するきめ細やかなアンケートを実施するなど、些細な「気づき」や「ニーズ」を大切にし、商品企画に生かしている。特に、分譲マンションについては、入居後の顧客に対して、個別に新居の暮らしや物件の快適性などのヒアリングを行い、その結果を後の開発に反映してきた。これが奏功し、多くの顧客を獲得してきた。

近年はSDGsやカーボンニュートラルなど、環境を意識した建物づくりが社会的な要請として高まっており、不動産開発にもそうした要素を取り入れることが求められている。 経営企画部の新村隆浩副課長は「顧客のニーズ以外に、社会課題への対応が求められてきたのはここ数年の新たな展開だ。分譲マンションのシーンズでは22年4月以降、ZEHオリエンテッドを標準採用している。家庭用燃料電池『エネファーム』も採用し、創エネもできる特長をさらに生かしたい」と話す。

賃貸マンション「アーバネックス文京本郷」

首都圏の開発にも注力 独自サービスも展開

賃貸マンションでは、人口が多い首都圏にも注力している。「関西圏で蓄積してきた建設や改修工事、お客さまへのサービスなどのノウハウを生かした都市型住宅を拡大展開している」(新村氏)。

関西地区の一部賃貸マンションでは「スマモル賃貸」などグループ各社のサービスを合わせて提供する。スマモル賃貸は、スマートロック「bitlock LITE」や警備員駆けつけサービス、優待・割引サービスがセットになった、集合住宅専用の電気料金プランだ。

オフィスなど法人向けの代表的な物件では、大阪ガス京都工場跡地の京都リサーチパーク(京都市)がある。地域の大学・研究機関や産業界、行政機関、国内外のリサーチパークと連携した経営支援や新産業創出支援などを行う研究開発拠点で、15棟を賃貸物件として保有している。

このほか、物流分野など成長分野への参画や、海外事業への着手の検討なども行う。直近では資産効率向上に向けて私募REIT事業を開始した。こうした施策によりさらなる成長を目指している。

【特集2】最新鋭火力発電をDXで運用 次世代ロールモデル構築へ


【JERA】

JERAは姉崎発電所の新1~3号機にデジタルパワープラントパッケージを導入した。これにより、発電所運用に関わるデータをクラウドに集積し業務の効率化・高度化を図る。

JERAは今年4?8月にかけて、姉崎火力発電所(千葉県)新1?3号機(各65万kW)
を運開した。同発電設備にはガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電設備を採用、燃焼温度の1650℃で高温度化したことにより、発電効率は世界最高水準の約63%(低位発熱量基準)を実現。更新前の設備と比較して1基当たりの年間発電量は約1割増加、CO2排出量は約3割削減した。姉崎発電所の佐賀賢太郎所長は「当社が保有する技術力と改善力の全てを注ぎ込んだ」と強調する。

今年運開した姉崎発電所新1~3号機


DPPでO&Mを効率化 事業環境変化にDXで対応

新1~3号機の運開で、同社がアピールするのが「デジタルパワープラント(DPP)」パッケージの導入だ。DPPは発電所のO&M(運転・保守)におけるリアルタイムデータや、これまで発電所員が保有していた知識や経験・ノウハウなどの情報をクラウド上に集積して共有化し、業務の効率化や高度化に役立てるものだ。
具体的には、三つのテーマで開発を進めている。一つ目は「時を超えてつながる」で、発電所運用に関する過去の膨大なデータを収集して予測に役立てる。二つ目は「空間を超えてつながる」で、発電所にいなくても遠隔地でデータを共有し、課題解決を図る。三つ目は「あいまいさを形にする」で、発電所の運用で熟練作業員の経験を頼りに運用していた技術をしっかり共有できる形にする―。これらに取り組むことによって、新しい価値を生み出していく。
渡部哲也副社長は「当社を取り巻く環境は大きく変化している。ウクライナやイスラエルなどに代表される世界の情勢、国内に目を向ければ少子高齢化、電力全面自由化など市場環境も大きく変わっている。この変化に対応するために、働き方を変えなくてはならない。これがDXに取り組む意義だ。最新鋭の発電所にDPPを導入することで、次世代を担う変革モデルを確立していく」と説明する。
新1?3号機の運転室を見るとDPP導入を推し進める様子が一目で分かる。写真のように、従来の運転室ではたくさん並んだスイッチや計器類が一切ない。運転員はパソコンを操作し、大きな共用モニターに運転状況やさまざまな情報が表示される。

姉崎発電所の運転室。スイッチや計器類は一切ない


DDPの中核を担うのは、同社東日本支社に設置したG―DAC
(Global-Data Analyzing Center)だ。同センターは国内外の発電所をIoTでデータ連携し、24時間遠隔サポートを行う部門で、現在はJERAの国内外発電所64ユニットを遠隔監視している。自社開発のアプリケーションを通して、設備の予兆管理によるトラブル回避、リアルタイムな情報とデータ分析による予知保全のサポートを行い、発電所の稼働率や熱効率の改善につなげている。発電所ではG―DACからデータ分析に基づく技術支援を得ながら、O&M業務を行う。


マイクロソフトと提携 グローバルにビジネス展開

9月にはマイクロソフトと発電所の運用効率向上、環境負荷低減を図るクラウドソリューションの共同開発を行うと発表した。具体的には、マイクロソフトの生成AI
や「Azure Digital Twins」技術、JERAが有する発電所データや知見、発電所の運用ノウハウを活用したO&Mソリューションを共同開発していく。
この一つとして、G―
DACと現場をつなぎ仮想空間(メタバース)を利用してO&M業務のやり取りを行う。G―DACのアナリストと発電所の作業員はアバターを通じて電話やチャットでコミュニケーションを図りながら、課題の解決を図る。海外の発電所の作業員との会話は同時に翻訳される仕組みになっている。
メタバース上では、JERAが長年蓄積してきたデータやノウハウを学習させた生成AI「エンタープライズナレッジアドバイザー(EKA)」が常時使用でき、「ChatGPT」のように自然言語で質問すると、膨大な資料に基づいた回答を得ることができる。これにより、発電所のノウハウを共有していく。

メタバース上のG-DACアナリストと発電所員
VRヘッドセットを装着してメタバースにアクセスする


JERAとマイクロソフトは、発電所運営の高度化、新たなイノベーションとビジネス機会を創出するための共同運営体制「Digital Acceleration Office」を構築する。
さらに、グローバルな顧客基盤を活用し、アジアを中心とした共同セールス・マーケティング活動も展開する予定だ。
DPPに関しては、今後も随時更新を行い、さらに性能を高めていく構えだ。

【特集3】環境認証で高付加価値化 物件の新規賃料上げに寄与


不動産業界においてもESGへの関心が高まっている。新規、既存問わず物件の環境認証の取得が活発に行われている。

さまざまな分野でESGへの関心が高まる中、不動産投資においても、環境への配慮を物件評価に折り込むことが一般的になってきた。特にE(環境)に関して、エネルギー会社は多くの知見を有しているため、その強みを不動産事業で発揮している。例えば、新規に開発する住宅、マンション、ビル物件をZEH/ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)に対応したり、既存物件の省エネ性能の向上を計ったり、太陽光発電、エコキュート、エネファーム、蓄電池といったエネルギー設備を導入する動きが活発だ。既存のオフィスビルや賃貸住宅では共用部の照明のLED化、空調設備などの更新、外壁や開口部の断熱強化など、エネルギー消費性能を向上する取り組みが行われている。

30年に向けてZEH物件が増えている

省エネ性能が高ければ、中長期的な視点で見て、光熱費などが削減され不動産価値向上につながり、物件オーナーは顧客の確保に有利になると考えられている。

その中から生まれた仕組みがグリーンリースだ。ビルオーナーとテナントが協力して、不動産の省エネなどの環境負荷低減や改善について、契約や覚書などで自主的に内容を取り決め、実践するもの。 例えば、省エネになる改修工事を行い、電気料金削減分の一部をビルオーナーにグリーンリース料として支払うことで、双方にメリットが生まれる。

建物性能の見える化 評価制度取得が活発に

デベロッパーでは、環境性能に関する評価制度などの取得・表示による建物性能の見える化の取り組みが盛んだ。「取得できる認証はなるべく取得する。それが不動産価値につながる」(デベロッパー幹部)

「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」「DBJGB(日本政策投資銀行グリーンビルディング」などは代表的な制度だ。

CASBEEは、2001年に国土交通省が主導し、建築環境・省エネルギー機構内の委員会によって開発された建築物の環境性能評価システムだ。日本国内の新築・既存建築物を評価対象とし、地球環境・周辺環境にいかに配慮しているか、ランニングコストに無駄がないか、利用者にとって快適か、などの性能を客観的に評価・表示するために利用する。省エネなどに限定された従来の環境性能よりも広い意味での環境性能を評価できるのが特長で、イギリスやカナダ、アメリカなどを参考に開発してつくられた。

DBJGBは2011年に創設された認証制度。不動産のサステナビリティーをESGに基づく五つの視点から評価し、主に既存物件の環境性能改善、建築・設計の技術的専門家に限らず不動産に携わる幅広い層のステークホルダーに利用されている。

こうした環境認証を取得したオフィスビルは未取得のオフィスビルより新規賃料が高くなる傾向にある。環境認証は不動産価値向上に大きくつながるため、さらに関心が高くなっていくとみられる。

【特集2】町営風力をFIPへ切り替え 非化石価値を地元に還元


【北海道ガス】

北海道北部の日本海沿岸に位置する小さな町――苫前町は豊かな資源に恵まれている。タコやエビ、ホタテなどの海産物、大きく甘い「とままえメロン」などの農産物、そして強く吹きすさぶ「風」だ。

風車の建設には、年平均風速が6m以上でないと事業性がないと言われているため、山の上などに建てるケースが多い。ところが、苫前町は街中でも平均風速7m弱を観測する「風のまち」だ。

同町は町営の風力発電所「苫前夕陽ヶ丘風力発電所」を有し、20年以上前から再生可能エネルギーの活用に取り組んできた。昨年1月にはゼロカーボンシティ宣言を表明。第一歩として、今年6月に北海道ガスと連携協定を結び、市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用した環境価値の地域内活用モデルの構築を目指す。

豊かな緑に囲まれた風車の年間総発電量は約600万kW時だ

知見を生かしたスキーム 今後は他地域への展開も

苫前町では、現行の固定価格買い取り(FIT)制度で再エネ由来電力を販売すると、非化石価値の活用が容易でないという課題を抱えていた。そこで、北海道ガスが提案したのはFITからFIPへの切り替えだ。北海道ガスが苫前町の電力を調達し、非化石価値を持つ電力として同町内の公共施設や事業者などに供給。地域の脱炭素化に貢献する。

このスキームでは、同社が発電計画・予測やバランシングの管理を行うため、町側にはインバランスなどのリスクはない。電力の売り先についても、北海道ガスが買うことで町側の不安を解消した。現在は切り替え手続きの申請中で、実際の電力供給は来年度以降を予定している。

こうした地域の電力を買い地域に供給する取り組みに、過去の知見が役立ったと話すのは、経営企画部経営企画グループの宮澤智裕氏だ。17年に連携協定を結んだ上士幌町では、地域電力会社を設立しエネルギーの地産地消を促進。今回は電力会社を地域につくるのではなく、その役割を北海道ガスが担うという新たなパターンとなった。「地域電力を立ち上げるのは簡単ではないが、苫前町のスキームなら地域に十分なエネルギーがあれば横展開が可能」と展望を語る。

宮澤氏は、「FIPへの切り替えはチャレンジングな試みとなる。インバランスが発生しないよう、当社が保有する12基のガスエンジンで構成される『北ガス石狩発電所』を活用して需給調整を行う。再エネが普及する中で、ガスエンジンの価値を高める取り組みの一つにしていきたい」と意気込みを見せた。

協定を締結し脱炭素化を促進

【特集2】岐路に立つ都市ガス産業 CN実現への転換期に挑む


2050年のカーボンニュートラル(CN)達成に向け、都市ガス産業は変革を求められている。地域に根差した低炭素化の取り組みや、各社の脱炭素戦略について総力取材を行った。

都市ガス業界は、2050年の脱炭素社会実現に向けた転換期にある。まずは30年のNDC(国別目標)の達成が求められている。そのために有効とされるのは、ほかの化石燃料から天然ガスへの移行、分散型コージェネや燃料電池の普及によるガスの高度利用、クレジットでカーボンオフセットしたカーボンニュートラル(CN)LNGの導入などだ。

地域に密着した脱炭素化 自治体と連携協定を締結

地方の都市ガス事業者は、地域に密着した脱炭素化の取り組みを進めている。その一つに、連携協定の締結によるCN都市ガスの供給がある。西部ガス長崎は長崎市と協定を締結。そのきっかけは、同市新庁舎へのCN都市ガス導入の提案だったという。自治体にCN都市ガスを供給するのは、西部ガスグループ初の取り組みとなる。また、秦野ガスは秦野市、東京ガスと協定を結び、東京ガスから卸供給を受け、本社事務所での自家消費に加え、秦野市役所へ供給を行っている。

佐賀ガスは、都市ガスをCN化するJクレジットにもこだわりを見せる。県有林由来のクレジットの使用や、2024年のクレジット化を目指し市有林でのモニタリングなどを進めている。

CN都市ガスとは別の手法でCO2削減に取り組むのは、広島ガスだ。同社は森林保全活動を通じて、地域活性化に貢献する。森林にはCO2吸収のほか、生物多様性の保全や土壌に水を貯えることによる防災といった多くの利点がある。顧客を招いたイベントの実施や森林組合との連携などにより、地域活性化にもつながっている。

森林保全活動により植樹されたヒノキ

また、北海道ガスはガスエンジン12基を有する「北ガス石狩発電所」を活用し、再生可能エネルギーの需給調整に挑戦する。市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用し、町営の風力発電所を持つ苫前町の電力を購入。同町の公共施設や事業者に供給することで、地域の脱炭素化を促進する。

地域に根差した取り組みが進む一方、メタネーションやCCS(CO2回収・貯留)・CCUS(CO2回収・利用・貯留)といった技術開発も加速中だ。国内資源開発大手のINPEXは、新潟県長岡市でe-メタン製造に向けた実証プラントの建設を進めている。長岡市周辺のガス田は埋蔵量、生産量とも国内最大規模だ。天然ガスを産出する際、e-メタン製造に必要なCO2が大量に調達可能。実証プラントができあがれば、世界最大級となる。

低炭素化による地方創生と脱炭素化を目指す技術開発の両輪で走る、都市ガス業界の取り組みに注目したい。

【特集2】強みが生きるCCS・CCUS 脱炭素の切り札に技術開発進める


【石油資源開発(JAPEX)】

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、石油資源開発(JAPEX)は「JAPEX2050」を策定し50年までに温室効果ガスネット排出量ゼロを目指す。 具体的には、同社のE&P(探査・生産)事業の知見が生きるCCS(CO2回収・貯留)/CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)による実質排出量の削減を主軸にすすめていき、同分野のトップランナーとして早期実現に向けて注力していく方針だ。


苫小牧と東新潟で調査を受託 生産した油ガス田を活用へ


その代表的な取り組みが、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の23年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の受託だ。JAPEXは苫小牧と東新潟エリアを請け負う。北海道・苫小牧エリアは出光興産と北海道電力、東新潟エリアは三菱ガス化学と東北電力、北越コーポレーション、野村総合研究所をパートナーとしてCCSの実現性調査を実施する。野村総合研究所を除くいずれの企業もCO2を排出源となる発電所や製油所、プラントや工場を持つ企業。しかも、貯留地として有望視されるJAPEXの油ガス田周辺に製造拠点があるため、CO2輸送にコストが掛からないのが大きな特長だ。

貯留地として有望視される東新潟ガス田


「油ガス田は生産した原油や天然ガスの貯留実績がある。CO2を圧入後も長期にわたって変化しない安心感がある。ただ、目標とする30年時点で貯留量年間約150万tに対し、規模が適しているかどうかは調査で見極めていきたい」。環境事業推進部・新規事業推進部担当の池野友徳常務執行役員はこう話す。
なお、苫小牧エリアは勇払油ガス田と、海域の新規貯留地の二つ候補地があり、年度内に決定する方針だ。
国のロードマップを見ても、水素やアンモニアなどの次世代燃料が台頭していく一方で、熱源として天然ガスの利用は続くとみている。その中でCO2の処分方法としてCCS・CCUSは必要であると示している。池野常務は「当社のスタンスも同様だ。長期にわたってこの取り組みを続けていく」と強調する。脱炭素の切り札にするべくCCS・CCUSの技術開発に注力していく構えだ。

【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。

【特集2】森林保全活動で地域活性化 CO2吸収以外の利点も


【広島ガス】

広島ガスの2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの一つに、森林保全活動がある。CO2の吸収に加え、雇用の創出や防災、生物多様性の保全など地域活性化と環境保全に貢献する取り組みだ。同社の森林保全活動は①地域貢献型、②分収造林型、③土地購入型―の三つのパターンで展開される。

広島ガスが森林保全活動を開始したのは、19年11月のことだ。広島県緑化センター内に「このまち思い 広島ガスの森」を開設。これが①に当たる。地域住民の憩いの場となるようベンチの設置や、木の生育を妨げる余分な樹木の除伐体験、新入社員による植樹などを行っている。顧客向けの除伐体験は今年で5回目を迎え、希望者は定員の4~5倍の人気ぶりだ。

除伐体験は親子連れを中心に好評だ

②は林野庁と分収造林契約を締結。分収造林とは、国以外の造林者が国有林に木を植え育成し、成木を販売した収益を国と分け合う制度だ。広島ガスはこの制度を用い、20年11月に神石高原町の星居山を開設。今年11月には同町の石屋山に「このまち思い 広島ガス神石高原の森」を開設する。

このほか、森林地を購入する形で、昨年1月に広島県竹原市に「このまち思い 広島ガス竹原の森」、今年2月に北海道日高郡に「このまち思い 広島ガス日高の森」を開設。これが③だ。竹原の森の未利用木材は、同社と中国電力が共同で運営する海田発電所でバイオマス発電に使用している。

「森林保全を手掛けるガス会社は他にもありますが、三つの型で幅広く展開しているのが当社の特徴」と、環境・社会貢献部環境グループの藤永展章氏は語る。

星居山の除幕式

地元の森林組合と連携 地域産業の下支えも担う

「われわれに森林保全の知見やノウハウはないので、地域の森林組合の協力を仰ぎながら進めている。SDGsにはパートナーシップの項目もあるが、本当によきパートナーに恵まれた」と話すのは、同部の永田征人マネジャーだ。植樹や除伐はもちろん、雑草の除去、鹿などによる食害対策、急斜面での作業など、森林保全には専門的な技術が求められる。こうした場面において森林組合との連携によって産業を下支えし、地域活性化につながるという。また、森林には土壌に水を貯える水源涵養の機能があり、土砂崩れなどを防ぐ役割も担っている。

将来的には森林保全活動を拡大しつつ、環境価値の使い道についても調査・検討を進めたいという。多くの利点を持つ森林保全活動を通じたCNに期待が高まる。

【特集2】自家消費率の最大化を目指した実証 日本企業の蓄電池やHP技術を活用


【NEDO】

環境先進国であるドイツで、再エネの自家消費率を高める実証が行われた。再エネ導入を促進し、新たなビジネスモデルの可能性を探る試みだ。

太陽光パネルと蓄電池を、給湯暖房のエア・トゥ・ウォーター(ATW)式のヒートポンプ(HP)と組み合わせ、住宅での再生可能エネルギーの自家消費率最大化を図る実証が、2015~17年度にドイツで行われた。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「スマートコミュニティ海外実証プロジェクト」の一つで、日本企業も参加している。

戸建てと集合住宅で検証 新ビジネスの可能性を示す

実証の舞台は古都シュパイヤー市だ。同市のエネルギー公社Stadtwerke Speyer(SWS)社と住宅公社GEWO社の協力の下、NTTドコモ、NTTファシリティーズ、旧日立化成、日立情報通信エンジニアリングからなるコンソーシアム主体で行われた。

実施に当たり、ドイツ側が実証サイトの選定や住民への対応、太陽光パネルの設置など、日本側がシステム運用・開発、設備導入、効果分析などを担当。スマートコミュニティ・エネルギーシステム部の櫻井愛子統括主幹は「住民がいる住宅で行ったため、シミュレーションとは異なり、実際の使用環境で検証できた」と話す。

戸建てを想定した世帯単位のモデルをタイプA、集合住宅を想定した棟単位のモデルをタイプBとした。再エネ機器をエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御することは、当時のドイツでは新しい技術だったという。

上がタイプA、下がタイプBのモデルイメージ図

実証の狙いは住宅への再エネ導入を促し、SWS社やGEWO社に新たなビジネスモデルを示すことにあった。結果としてタイプAでは約40%、タイプBでは約34%改善し、CO2の削減にもつながった。ビジネスモデルとしては両タイプとも、SWS社が設備を所有し需要家宅へ設置することを想定。利益確保と投資費用の回収が見込まれるとの結論に至った。

5年以上経った今でも、再エネの地産地消には拡大の余地がある。そのカギとなるのは、太陽光発電とHPの組み合わせかもしれない。

【特集2】CO検知で火災通報をより早く 安全向上に警報器買い替えを促進


【新コスモス電機】

新コスモス電機の一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」が発売から半年で2万台を突破するなど好調だ。同製品は100ppmの一酸化炭素(CO)を検知すると、音声で注意報を発するとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げ、煙センサーのみの火災警報器より早く発報するなどの特長を持つ。

一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO」


火災実験ラボ開設 多くの来場者で好評

2011年に全ての住宅に火災警報器の設置が義務化され、今年6月時点での設置率は84・3%に達する。設置の普及により、住宅火災による年間死者数は900人と減少したが近年は横ばい状態だ。令和4年版の消防白書によると、建物火災による死因のうち、CO中毒・窒息が4割を占めている。COは血液中のヘモグロビンと結び付きやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭。1分1秒でも早くCOの存在に気付くことが生死を分けることになる。「火災原因のトップはタバコの火の不始末による寝具への着火。布団は不完全燃焼を起こしやすく、炎はほとんど出ない。CO検知での注意喚起が有効」とリビング営業本部開発営業部の大和功部長は説明する。
新コスモス電機は5月に火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。COの危険性と合わせて、プラシオの有効性を伝えるための施設となっている。ラボ内では、寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団に火をつけ、煙式のみの火災警報器よりCOを検知するプラシオの方が早く警報する様子や、天ぷら油を熱して熱感知式より煙感知式の警報機の方が早く発報する様子など、火災と警報器の様子などが体験できる。

連日盛況のプラシオラボ


「開設して数カ月経つ。ガス業界や消防関係などを中心に多くの方に来場していただいている。10月までほぼ毎日予約で埋まっている」(大和部長)と盛況だ。
同社では小中学生を対象に「COとはどのようなガスなのか」といった内容を分かりやすく説明する教育プログラムも実施する予定。さらに、アミューズメント感覚で消費者が火災や警報器について理解できる内容なども目指す方針だ。
警報器は電池駆動で、寿命は約10年程度。前述の火災警報器の義務化の時期に設置した製品がちょうどリプレース時期に当たる。警報器が作動しないと、火災が増える可能性がある。同社では、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、電子商取引(EC)サイトや全国の家電量販店、ホームセンターに拡大するなど、販売活動に力を入れ、リプレースを促していく構えだ。

【特集2】大災害の教訓を対策に反映 業界を越え協同で備える


近年、地震や台風をはじめとする災害が激甚化している。関東大震災から100年を数える今、エネルギー業界の災害対策を追った。

防災の日の由来となった関東大震災から100年の節目を迎えた今、エネルギー業界ではさまざまな災害対策が進められている。東京ガスは7月、関東大震災と同様の台風と地震、地震による火災と津波を想定した「複合災害」の訓練を行った。同社が複合災害の訓練を行うのは今回が初めてだ。グループ全体と協力企業を含め約2万人が参加。さらに東京ガスネットワークと協定を結んでいる警視庁との連携も確認した。

東京ガスの訓練の様子

関東大震災の死者約10万5000人のうち、火災の死者は約9万2000人に上る。こうした犠牲者を減らすべく、新コスモス電機は一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO (プラシオ)」の普及拡大を目指す。兵庫県三木市に「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開設し、火災と一酸化炭素の危険性、火災警報器の重要性の周知に努める。

業界の垣根を越えた連携にも注目だ。関西電力送配電は、自衛隊とは被災地へ駆けつける訓練、NTTグループとはNTTの電柱に電線をはり電力を復旧する応急送電訓練を行うほか、阪神高速道路とは災害時の停電・交通情報の共有やサービスエリアを復旧拠点として利用する協定を結んでいる。自治体とも協定を締結しており、今後は拡大していきたい考えだ。

自治体との協力が奏功 BCP対策機器の導入も

エネルギー事業者と自治体による街づくりが防災に奏功した事例がある。北海道ガスが手掛けた複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターと、札幌都心部の熱供給ネットワークだ。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、停電を免れ、エネルギー供給を継続できた。また、石油業界と「ランニングストック」と呼ばれる対策を進めているのは、東京都だ。都内150以上のガソリンスタンドと連携し、一定量のガソリンや軽油を確保している。都が平時からこれらの燃料の消費を担保し、有事に品不足を回避。そして、非常時には緊急車両などに優先的に供給を行う仕組みだ。

激甚災害が頻発する中で、BCP(事業継続計画)対策機器への関心も高まっている。ガソリン計量機メーカーのタツノでは、緊急用バッテリー可搬式計量機や給油所向けの緊急用発電機などを提供。災害で停電が発生したり、地下タンクへの配管などに被害が出たりしても、営業の継続が可能だ。

こうしてエネルギー事業者や自治体、メーカーなどが持てる技術や知見を集結させ、来る激甚災害に備えている。