【特集3】エネルギー会社の不動産事業 資産・知見生かし国内外で活発化


環境に配慮した不動産事業を積極的に展開するエネルギー会社が増えている。エネルギー分野の知見を生かすとともに、顧客や地域のニーズに応える。

2019年から本格化したコロナ禍以降、不動産トレンドが目まぐるしく変化している。その要因はリモートワークの増加や環境に優しい住宅への需要の高まり、テクノロジーの進化などさまざまだ。

こうした流れを受け、エネルギー業界の中でも不動産事業を展開する企業が増えてきた。具体的にはグループの資産の活用やエネルギーに関する知見を生かした住宅事業、海外事業などだ。

ESGに基づいた開発 人と環境に優しい住まい

1963年に「緑とやすらぎのある住宅都市づくり」を目指して「森林都市株式会社」として発足した九電不動産。九州電力の子会社となった後は、グループ一体で不動産事業を強化してきた。

同社は住宅ブランドコンセプトとして「E-QUALITY(イークオリティ)」を掲げている。「これからの人と地球に、快適な住まいであること」を重視し、人や地球に優しい快適で経済的な暮らしであること(E-COLOGY)、信頼のエネルギーサービスによる安心を届けること(E-NERGY)、心を動かす安らぎや生活シーンを描くこと(E-MOTION)の3点を打ち出している。

同社が手掛ける分譲マンション「グランドオーク」シリーズは、高い環境性能を有し、カーボンニュートラル(CN)の実現に貢献する。オール電化や断熱構造はもちろん、Low-E複層ガラスや24時間換気システムなどを採用。一部の物件を除き、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の認証を受けている。家計にも環境にも優しい住まいとして人気を博している。

中部電力が主要株主の日本エスコンは、総合不動産デベロッパーとして幅広い事業を手掛けている。具体的には、分譲マンション・戸建住宅、商業・物流施設、オフィス、ホテル、賃貸レジデンスなどの開発、プロパティーマネジメント、企画コンサルティング、マンション管理、リノベーション事業などだ。20年1月には、北海道日本ハムファイターズ新球場周辺街づくりである「ボールパーク構想」に参画。新球場のネーミングライツを取得している。

その経営戦力の一つに「ESG推進による社会課題への対応」を掲げている。環境に配慮したZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)や、地域の活性化を目指した地域密着型商業施設「トナリエ」の開発を進めている。また次世代型スマートハウスやコネクティッドホームなどの共同研究も行っており、暮らしの環境エネルギーやAIの活用による次世代の街づくりにも取り組んでいく。

IoT技術で省エネかつ経済的なエネマネを行う

会社ごとに特色ある事業展開 顧客や地域特性を深く理解

大阪ガスの子会社である大阪ガス都市開発は、大阪ガスビルディングをはじめとするグループ会社のビル管理業務だけでなく、一般顧客向けオフィスやマンションも手掛けている。

2000年代以降は、関西圏だけでなく首都圏にも進出し、賃貸マンション「アーバネックス」と分譲マンション「シーンズ」を展開してきた。SDGsやCNへの対応として、「シーンズ」ではZEHオリエンテッドを標準採用している。家庭用燃料電池のエネファームも採用しており、創エネも可能だ。

同社の不動産開発では、物件の快適性や高級感、サービスといった付加価値の提供を重視している。顧客に対して住まいに関するアンケートを実施し、その結果をもとに商品企画を行うことで、ニーズを取り込んでいる。とりわけ分譲マンションでは、入居後も個別に暮らしや快適性などについてヒアリングを行い、のちの開発に生かすことで物件の価値を高めてきたという。

成長分野である倉庫など物流にも参画する

賃貸と分譲にフィービジネスを加えた3本柱で事業を展開するのは、関電不動産開発だ。フィービジネスでは私募上場不動産投資信託(REIT)を扱う投資会社「関電不動産投資顧問」を設立。REITとは、投資者から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買の収益を投資者に配当するというものだ。

また同社では海外事業にも積極的に取り組んでいる。GDPの伸び率が日本よりも高い北米、豪州、タイの3カ国で展開。タイでは現地デベロッパーと組んで住宅を建設している。海外事業を展開する際には、カントリーリスクへの注意が不可欠だ。カントリーリスクとは、投資している国の経済や政治など不安定性に伴う市場の混乱・下落といった不確実性を意味する。こうしたリスクを踏まえた上で、投資を行う必要がある。

豪州での不動産開発を進めるのは、関電不動産開発だけではない。東京ガス不動産は、豪州での分譲マンション事業「Bloom(ブルーム)1」への参画を発表。今年2月に参画した「BANKSIA(バンクシア)」に続く豪州2件目の事業となる。

バンクシアとブルーム1は「グレンサイド」プロジェクト内の一環だ。同プロジェクトは南豪州の州都アデレードからほど近い、好立地で希少な大規模再開発プロジェクト。広大な敷地内に数多く存在するヘリテージ(歴史的建造物)の保全・活用など、環境や社会との調和を重視した住宅開発を行う。ブルーム1は郊外の戸建てから居住面積を縮小して住み替えるシニア層をターゲットに、魅力的な暮らしを提案する。そのためには住む人や地域、社会が求めることを深く理解する必要がある。

例えば、豪州では地元住民同士のつながりが重視されるため、ラウンジなどの共用施設を充実させ、コミュニティー形成を後押しする。また太陽光パネルやEV充電器の設置、再生可能エネルギー由来の電力を各住戸で使用できるといった環境への配慮にも重点を置いた。こうしたコンセプトが好評で、完成を待たずして完売した。

国内外問わず活発化するエネルギー会社による不動産開発。その動向に関心が高まる。

【特集2】最新鋭火力発電をDXで運用 次世代ロールモデル構築へ


【JERA】

JERAは姉崎発電所の新1~3号機にデジタルパワープラントパッケージを導入した。これにより、発電所運用に関わるデータをクラウドに集積し業務の効率化・高度化を図る。

JERAは今年4?8月にかけて、姉崎火力発電所(千葉県)新1?3号機(各65万kW)
を運開した。同発電設備にはガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電設備を採用、燃焼温度の1650℃で高温度化したことにより、発電効率は世界最高水準の約63%(低位発熱量基準)を実現。更新前の設備と比較して1基当たりの年間発電量は約1割増加、CO2排出量は約3割削減した。姉崎発電所の佐賀賢太郎所長は「当社が保有する技術力と改善力の全てを注ぎ込んだ」と強調する。

今年運開した姉崎発電所新1~3号機


DPPでO&Mを効率化 事業環境変化にDXで対応

新1~3号機の運開で、同社がアピールするのが「デジタルパワープラント(DPP)」パッケージの導入だ。DPPは発電所のO&M(運転・保守)におけるリアルタイムデータや、これまで発電所員が保有していた知識や経験・ノウハウなどの情報をクラウド上に集積して共有化し、業務の効率化や高度化に役立てるものだ。
具体的には、三つのテーマで開発を進めている。一つ目は「時を超えてつながる」で、発電所運用に関する過去の膨大なデータを収集して予測に役立てる。二つ目は「空間を超えてつながる」で、発電所にいなくても遠隔地でデータを共有し、課題解決を図る。三つ目は「あいまいさを形にする」で、発電所の運用で熟練作業員の経験を頼りに運用していた技術をしっかり共有できる形にする―。これらに取り組むことによって、新しい価値を生み出していく。
渡部哲也副社長は「当社を取り巻く環境は大きく変化している。ウクライナやイスラエルなどに代表される世界の情勢、国内に目を向ければ少子高齢化、電力全面自由化など市場環境も大きく変わっている。この変化に対応するために、働き方を変えなくてはならない。これがDXに取り組む意義だ。最新鋭の発電所にDPPを導入することで、次世代を担う変革モデルを確立していく」と説明する。
新1?3号機の運転室を見るとDPP導入を推し進める様子が一目で分かる。写真のように、従来の運転室ではたくさん並んだスイッチや計器類が一切ない。運転員はパソコンを操作し、大きな共用モニターに運転状況やさまざまな情報が表示される。

姉崎発電所の運転室。スイッチや計器類は一切ない


DDPの中核を担うのは、同社東日本支社に設置したG―DAC
(Global-Data Analyzing Center)だ。同センターは国内外の発電所をIoTでデータ連携し、24時間遠隔サポートを行う部門で、現在はJERAの国内外発電所64ユニットを遠隔監視している。自社開発のアプリケーションを通して、設備の予兆管理によるトラブル回避、リアルタイムな情報とデータ分析による予知保全のサポートを行い、発電所の稼働率や熱効率の改善につなげている。発電所ではG―DACからデータ分析に基づく技術支援を得ながら、O&M業務を行う。


マイクロソフトと提携 グローバルにビジネス展開

9月にはマイクロソフトと発電所の運用効率向上、環境負荷低減を図るクラウドソリューションの共同開発を行うと発表した。具体的には、マイクロソフトの生成AI
や「Azure Digital Twins」技術、JERAが有する発電所データや知見、発電所の運用ノウハウを活用したO&Mソリューションを共同開発していく。
この一つとして、G―
DACと現場をつなぎ仮想空間(メタバース)を利用してO&M業務のやり取りを行う。G―DACのアナリストと発電所の作業員はアバターを通じて電話やチャットでコミュニケーションを図りながら、課題の解決を図る。海外の発電所の作業員との会話は同時に翻訳される仕組みになっている。
メタバース上では、JERAが長年蓄積してきたデータやノウハウを学習させた生成AI「エンタープライズナレッジアドバイザー(EKA)」が常時使用でき、「ChatGPT」のように自然言語で質問すると、膨大な資料に基づいた回答を得ることができる。これにより、発電所のノウハウを共有していく。

メタバース上のG-DACアナリストと発電所員
VRヘッドセットを装着してメタバースにアクセスする


JERAとマイクロソフトは、発電所運営の高度化、新たなイノベーションとビジネス機会を創出するための共同運営体制「Digital Acceleration Office」を構築する。
さらに、グローバルな顧客基盤を活用し、アジアを中心とした共同セールス・マーケティング活動も展開する予定だ。
DPPに関しては、今後も随時更新を行い、さらに性能を高めていく構えだ。

【特集2】岐路に立つ都市ガス産業 CN実現への転換期に挑む


2050年のカーボンニュートラル(CN)達成に向け、都市ガス産業は変革を求められている。地域に根差した低炭素化の取り組みや、各社の脱炭素戦略について総力取材を行った。

都市ガス業界は、2050年の脱炭素社会実現に向けた転換期にある。まずは30年のNDC(国別目標)の達成が求められている。そのために有効とされるのは、ほかの化石燃料から天然ガスへの移行、分散型コージェネや燃料電池の普及によるガスの高度利用、クレジットでカーボンオフセットしたカーボンニュートラル(CN)LNGの導入などだ。

地域に密着した脱炭素化 自治体と連携協定を締結

地方の都市ガス事業者は、地域に密着した脱炭素化の取り組みを進めている。その一つに、連携協定の締結によるCN都市ガスの供給がある。西部ガス長崎は長崎市と協定を締結。そのきっかけは、同市新庁舎へのCN都市ガス導入の提案だったという。自治体にCN都市ガスを供給するのは、西部ガスグループ初の取り組みとなる。また、秦野ガスは秦野市、東京ガスと協定を結び、東京ガスから卸供給を受け、本社事務所での自家消費に加え、秦野市役所へ供給を行っている。

佐賀ガスは、都市ガスをCN化するJクレジットにもこだわりを見せる。県有林由来のクレジットの使用や、2024年のクレジット化を目指し市有林でのモニタリングなどを進めている。

CN都市ガスとは別の手法でCO2削減に取り組むのは、広島ガスだ。同社は森林保全活動を通じて、地域活性化に貢献する。森林にはCO2吸収のほか、生物多様性の保全や土壌に水を貯えることによる防災といった多くの利点がある。顧客を招いたイベントの実施や森林組合との連携などにより、地域活性化にもつながっている。

森林保全活動により植樹されたヒノキ

また、北海道ガスはガスエンジン12基を有する「北ガス石狩発電所」を活用し、再生可能エネルギーの需給調整に挑戦する。市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用し、町営の風力発電所を持つ苫前町の電力を購入。同町の公共施設や事業者に供給することで、地域の脱炭素化を促進する。

地域に根差した取り組みが進む一方、メタネーションやCCS(CO2回収・貯留)・CCUS(CO2回収・利用・貯留)といった技術開発も加速中だ。国内資源開発大手のINPEXは、新潟県長岡市でe-メタン製造に向けた実証プラントの建設を進めている。長岡市周辺のガス田は埋蔵量、生産量とも国内最大規模だ。天然ガスを産出する際、e-メタン製造に必要なCO2が大量に調達可能。実証プラントができあがれば、世界最大級となる。

低炭素化による地方創生と脱炭素化を目指す技術開発の両輪で走る、都市ガス業界の取り組みに注目したい。

【特集2】強みが生きるCCS・CCUS 脱炭素の切り札に技術開発進める


【石油資源開発(JAPEX)】

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、石油資源開発(JAPEX)は「JAPEX2050」を策定し50年までに温室効果ガスネット排出量ゼロを目指す。 具体的には、同社のE&P(探査・生産)事業の知見が生きるCCS(CO2回収・貯留)/CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)による実質排出量の削減を主軸にすすめていき、同分野のトップランナーとして早期実現に向けて注力していく方針だ。


苫小牧と東新潟で調査を受託 生産した油ガス田を活用へ


その代表的な取り組みが、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の23年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の受託だ。JAPEXは苫小牧と東新潟エリアを請け負う。北海道・苫小牧エリアは出光興産と北海道電力、東新潟エリアは三菱ガス化学と東北電力、北越コーポレーション、野村総合研究所をパートナーとしてCCSの実現性調査を実施する。野村総合研究所を除くいずれの企業もCO2を排出源となる発電所や製油所、プラントや工場を持つ企業。しかも、貯留地として有望視されるJAPEXの油ガス田周辺に製造拠点があるため、CO2輸送にコストが掛からないのが大きな特長だ。

貯留地として有望視される東新潟ガス田


「油ガス田は生産した原油や天然ガスの貯留実績がある。CO2を圧入後も長期にわたって変化しない安心感がある。ただ、目標とする30年時点で貯留量年間約150万tに対し、規模が適しているかどうかは調査で見極めていきたい」。環境事業推進部・新規事業推進部担当の池野友徳常務執行役員はこう話す。
なお、苫小牧エリアは勇払油ガス田と、海域の新規貯留地の二つ候補地があり、年度内に決定する方針だ。
国のロードマップを見ても、水素やアンモニアなどの次世代燃料が台頭していく一方で、熱源として天然ガスの利用は続くとみている。その中でCO2の処分方法としてCCS・CCUSは必要であると示している。池野常務は「当社のスタンスも同様だ。長期にわたってこの取り組みを続けていく」と強調する。脱炭素の切り札にするべくCCS・CCUSの技術開発に注力していく構えだ。

【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。

【特集2】森林保全活動で地域活性化 CO2吸収以外の利点も


【広島ガス】

広島ガスの2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの一つに、森林保全活動がある。CO2の吸収に加え、雇用の創出や防災、生物多様性の保全など地域活性化と環境保全に貢献する取り組みだ。同社の森林保全活動は①地域貢献型、②分収造林型、③土地購入型―の三つのパターンで展開される。

広島ガスが森林保全活動を開始したのは、19年11月のことだ。広島県緑化センター内に「このまち思い 広島ガスの森」を開設。これが①に当たる。地域住民の憩いの場となるようベンチの設置や、木の生育を妨げる余分な樹木の除伐体験、新入社員による植樹などを行っている。顧客向けの除伐体験は今年で5回目を迎え、希望者は定員の4~5倍の人気ぶりだ。

除伐体験は親子連れを中心に好評だ

②は林野庁と分収造林契約を締結。分収造林とは、国以外の造林者が国有林に木を植え育成し、成木を販売した収益を国と分け合う制度だ。広島ガスはこの制度を用い、20年11月に神石高原町の星居山を開設。今年11月には同町の石屋山に「このまち思い 広島ガス神石高原の森」を開設する。

このほか、森林地を購入する形で、昨年1月に広島県竹原市に「このまち思い 広島ガス竹原の森」、今年2月に北海道日高郡に「このまち思い 広島ガス日高の森」を開設。これが③だ。竹原の森の未利用木材は、同社と中国電力が共同で運営する海田発電所でバイオマス発電に使用している。

「森林保全を手掛けるガス会社は他にもありますが、三つの型で幅広く展開しているのが当社の特徴」と、環境・社会貢献部環境グループの藤永展章氏は語る。

星居山の除幕式

地元の森林組合と連携 地域産業の下支えも担う

「われわれに森林保全の知見やノウハウはないので、地域の森林組合の協力を仰ぎながら進めている。SDGsにはパートナーシップの項目もあるが、本当によきパートナーに恵まれた」と話すのは、同部の永田征人マネジャーだ。植樹や除伐はもちろん、雑草の除去、鹿などによる食害対策、急斜面での作業など、森林保全には専門的な技術が求められる。こうした場面において森林組合との連携によって産業を下支えし、地域活性化につながるという。また、森林には土壌に水を貯える水源涵養の機能があり、土砂崩れなどを防ぐ役割も担っている。

将来的には森林保全活動を拡大しつつ、環境価値の使い道についても調査・検討を進めたいという。多くの利点を持つ森林保全活動を通じたCNに期待が高まる。

【特集2】町営風力をFIPへ切り替え 非化石価値を地元に還元


【北海道ガス】

北海道北部の日本海沿岸に位置する小さな町――苫前町は豊かな資源に恵まれている。タコやエビ、ホタテなどの海産物、大きく甘い「とままえメロン」などの農産物、そして強く吹きすさぶ「風」だ。

風車の建設には、年平均風速が6m以上でないと事業性がないと言われているため、山の上などに建てるケースが多い。ところが、苫前町は街中でも平均風速7m弱を観測する「風のまち」だ。

同町は町営の風力発電所「苫前夕陽ヶ丘風力発電所」を有し、20年以上前から再生可能エネルギーの活用に取り組んできた。昨年1月にはゼロカーボンシティ宣言を表明。第一歩として、今年6月に北海道ガスと連携協定を結び、市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用した環境価値の地域内活用モデルの構築を目指す。

豊かな緑に囲まれた風車の年間総発電量は約600万kW時だ

知見を生かしたスキーム 今後は他地域への展開も

苫前町では、現行の固定価格買い取り(FIT)制度で再エネ由来電力を販売すると、非化石価値の活用が容易でないという課題を抱えていた。そこで、北海道ガスが提案したのはFITからFIPへの切り替えだ。北海道ガスが苫前町の電力を調達し、非化石価値を持つ電力として同町内の公共施設や事業者などに供給。地域の脱炭素化に貢献する。

このスキームでは、同社が発電計画・予測やバランシングの管理を行うため、町側にはインバランスなどのリスクはない。電力の売り先についても、北海道ガスが買うことで町側の不安を解消した。現在は切り替え手続きの申請中で、実際の電力供給は来年度以降を予定している。

こうした地域の電力を買い地域に供給する取り組みに、過去の知見が役立ったと話すのは、経営企画部経営企画グループの宮澤智裕氏だ。17年に連携協定を結んだ上士幌町では、地域電力会社を設立しエネルギーの地産地消を促進。今回は電力会社を地域につくるのではなく、その役割を北海道ガスが担うという新たなパターンとなった。「地域電力を立ち上げるのは簡単ではないが、苫前町のスキームなら地域に十分なエネルギーがあれば横展開が可能」と展望を語る。

宮澤氏は、「FIPへの切り替えはチャレンジングな試みとなる。インバランスが発生しないよう、当社が保有する12基のガスエンジンで構成される『北ガス石狩発電所』を活用して需給調整を行う。再エネが普及する中で、ガスエンジンの価値を高める取り組みの一つにしていきたい」と意気込みを見せた。

協定を締結し脱炭素化を促進

【特集2】自家消費率の最大化を目指した実証 日本企業の蓄電池やHP技術を活用


【NEDO】

環境先進国であるドイツで、再エネの自家消費率を高める実証が行われた。再エネ導入を促進し、新たなビジネスモデルの可能性を探る試みだ。

太陽光パネルと蓄電池を、給湯暖房のエア・トゥ・ウォーター(ATW)式のヒートポンプ(HP)と組み合わせ、住宅での再生可能エネルギーの自家消費率最大化を図る実証が、2015~17年度にドイツで行われた。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「スマートコミュニティ海外実証プロジェクト」の一つで、日本企業も参加している。

戸建てと集合住宅で検証 新ビジネスの可能性を示す

実証の舞台は古都シュパイヤー市だ。同市のエネルギー公社Stadtwerke Speyer(SWS)社と住宅公社GEWO社の協力の下、NTTドコモ、NTTファシリティーズ、旧日立化成、日立情報通信エンジニアリングからなるコンソーシアム主体で行われた。

実施に当たり、ドイツ側が実証サイトの選定や住民への対応、太陽光パネルの設置など、日本側がシステム運用・開発、設備導入、効果分析などを担当。スマートコミュニティ・エネルギーシステム部の櫻井愛子統括主幹は「住民がいる住宅で行ったため、シミュレーションとは異なり、実際の使用環境で検証できた」と話す。

戸建てを想定した世帯単位のモデルをタイプA、集合住宅を想定した棟単位のモデルをタイプBとした。再エネ機器をエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御することは、当時のドイツでは新しい技術だったという。

上がタイプA、下がタイプBのモデルイメージ図

実証の狙いは住宅への再エネ導入を促し、SWS社やGEWO社に新たなビジネスモデルを示すことにあった。結果としてタイプAでは約40%、タイプBでは約34%改善し、CO2の削減にもつながった。ビジネスモデルとしては両タイプとも、SWS社が設備を所有し需要家宅へ設置することを想定。利益確保と投資費用の回収が見込まれるとの結論に至った。

5年以上経った今でも、再エネの地産地消には拡大の余地がある。そのカギとなるのは、太陽光発電とHPの組み合わせかもしれない。

【特集2】CO検知で火災通報をより早く 安全向上に警報器買い替えを促進


【新コスモス電機】

新コスモス電機の一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」が発売から半年で2万台を突破するなど好調だ。同製品は100ppmの一酸化炭素(CO)を検知すると、音声で注意報を発するとともに、自動的にセンサー感度を通常の約2倍に引き上げ、煙センサーのみの火災警報器より早く発報するなどの特長を持つ。

一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO」


火災実験ラボ開設 多くの来場者で好評

2011年に全ての住宅に火災警報器の設置が義務化され、今年6月時点での設置率は84・3%に達する。設置の普及により、住宅火災による年間死者数は900人と減少したが近年は横ばい状態だ。令和4年版の消防白書によると、建物火災による死因のうち、CO中毒・窒息が4割を占めている。COは血液中のヘモグロビンと結び付きやすく、ごくわずかな量でも吸引し続けると中毒を引き起こすなど非常に毒性が強い。しかも無色・無臭。1分1秒でも早くCOの存在に気付くことが生死を分けることになる。「火災原因のトップはタバコの火の不始末による寝具への着火。布団は不完全燃焼を起こしやすく、炎はほとんど出ない。CO検知での注意喚起が有効」とリビング営業本部開発営業部の大和功部長は説明する。
新コスモス電機は5月に火災実験室「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を兵庫県三木市に開設した。COの危険性と合わせて、プラシオの有効性を伝えるための施設となっている。ラボ内では、寝室と台所を想定した実験スペースで、布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを実施する。実際に布団に火をつけ、煙式のみの火災警報器よりCOを検知するプラシオの方が早く警報する様子や、天ぷら油を熱して熱感知式より煙感知式の警報機の方が早く発報する様子など、火災と警報器の様子などが体験できる。

連日盛況のプラシオラボ


「開設して数カ月経つ。ガス業界や消防関係などを中心に多くの方に来場していただいている。10月までほぼ毎日予約で埋まっている」(大和部長)と盛況だ。
同社では小中学生を対象に「COとはどのようなガスなのか」といった内容を分かりやすく説明する教育プログラムも実施する予定。さらに、アミューズメント感覚で消費者が火災や警報器について理解できる内容なども目指す方針だ。
警報器は電池駆動で、寿命は約10年程度。前述の火災警報器の義務化の時期に設置した製品がちょうどリプレース時期に当たる。警報器が作動しないと、火災が増える可能性がある。同社では、販売チャンネルをガス事業者経由の販売に加え、電子商取引(EC)サイトや全国の家電量販店、ホームセンターに拡大するなど、販売活動に力を入れ、リプレースを促していく構えだ。

【特集2】熱供給ネットワーク整備が奏功 ブラックアウトで効力発揮


【北海道ガス】

日頃から確かな提案力で、大災害に備えてきた北海道ガスと北海道熱供給公社。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターや、札幌市のまちづくり計画に合わせて整備を進めてきた札幌都心部の熱供給ネットワークの整備が功を奏し、エネルギー供給を継続した。

「コージェネを核としたエネルギーセンターを整備し、熱供給ネットワークを通じてエネルギーを供給するというスキームが結実した」と話すのは、北海道熱供給公社営業部営業グループの末廣隆志氏。胆振東部地震では、創世エネルギーセンターを円滑に稼働でき、そのレジリエンスの高さを示す実績となった。

さっぽろ創世スクエア内のコージェネ

また胆振東部地震では、両社から防災に関する提案を受け設備を設置していたユーザーからうれしい反響も。停電時でも空調の自立運転が可能で、一部の電気が使える電源自立型ガスヒートポンプエアコン(GHP)を導入していたユーザーからは、空調を復帰させることができ、真冬の被災でも安心だとの声が寄せられたのだ。

道内の防災意識依然高い 自立型GHP導入進む

大規模地震の被災経験から、道内では防災に対する関心が高まっている。自治体による具体的な事例の一つに、札幌駅前の地下歩行空間への非常用発電機導入がある。胆振東部地震の際に、地下歩行空間を帰宅難民などの避難施設として使用した。一時的な停電に見舞われたものの、早期に復旧。この反省を踏まえ、強靭性向上のため、札幌市や北海道開発局などが非常用発電機を導入。同様の事態に備え、設備を整えている。

「胆振東部地震による被災から5年が経ち、ブラックアウトを経験したみなさんのレジリエンスへの意識は、当時よりは薄れてきているが、依然として高い」と、北海道ガス第一営業部都市エネルギーグループの伊藤智徳マネージャーは話す。

被災直後は電源自立型GHPや都市ガス仕様のコージェネ・発電機の引き合いが増加。通常のGHPから設計変更したホテルもあった。ほかにも、道内チェーン店舗を展開する企業では、本社社屋に自立型GHPと都市ガス仕様の発電機、札幌市内の旗艦店には自立型GHPを導入した。社員と地域住民のレジリエンスに貢献したい考えだという。

近年の環境性への関心の高まりから、法令で設置が義務付けられている主に重油・軽油仕様の非常用発電機に加えて、都市ガス仕様の発電機の導入を検討する需要家もいる。またガスシステムの導入で、省エネ性・強じん性・環境性を並立できるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)をアピールしており、導入事例が増えている。

「防災設備は災害が起きなければ必要ないものになり得る。被災から時間が経った後にどう訴求していくかが重要。料金メニューやサービスを組み合わせて提案を行っている。最近は脱炭素が注目されているが、レジリエンスも国や自治体に理解していただけるよう、啓蒙していく」と、伊藤氏は意気込みを語った。

【特集2】大災害の教訓を対策に反映 業界を越え協同で備える


近年、地震や台風をはじめとする災害が激甚化している。関東大震災から100年を数える今、エネルギー業界の災害対策を追った。

防災の日の由来となった関東大震災から100年の節目を迎えた今、エネルギー業界ではさまざまな災害対策が進められている。東京ガスは7月、関東大震災と同様の台風と地震、地震による火災と津波を想定した「複合災害」の訓練を行った。同社が複合災害の訓練を行うのは今回が初めてだ。グループ全体と協力企業を含め約2万人が参加。さらに東京ガスネットワークと協定を結んでいる警視庁との連携も確認した。

東京ガスの訓練の様子

関東大震災の死者約10万5000人のうち、火災の死者は約9万2000人に上る。こうした犠牲者を減らすべく、新コスモス電機は一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO (プラシオ)」の普及拡大を目指す。兵庫県三木市に「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開設し、火災と一酸化炭素の危険性、火災警報器の重要性の周知に努める。

業界の垣根を越えた連携にも注目だ。関西電力送配電は、自衛隊とは被災地へ駆けつける訓練、NTTグループとはNTTの電柱に電線をはり電力を復旧する応急送電訓練を行うほか、阪神高速道路とは災害時の停電・交通情報の共有やサービスエリアを復旧拠点として利用する協定を結んでいる。自治体とも協定を締結しており、今後は拡大していきたい考えだ。

自治体との協力が奏功 BCP対策機器の導入も

エネルギー事業者と自治体による街づくりが防災に奏功した事例がある。北海道ガスが手掛けた複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターと、札幌都心部の熱供給ネットワークだ。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、停電を免れ、エネルギー供給を継続できた。また、石油業界と「ランニングストック」と呼ばれる対策を進めているのは、東京都だ。都内150以上のガソリンスタンドと連携し、一定量のガソリンや軽油を確保している。都が平時からこれらの燃料の消費を担保し、有事に品不足を回避。そして、非常時には緊急車両などに優先的に供給を行う仕組みだ。

激甚災害が頻発する中で、BCP(事業継続計画)対策機器への関心も高まっている。ガソリン計量機メーカーのタツノでは、緊急用バッテリー可搬式計量機や給油所向けの緊急用発電機などを提供。災害で停電が発生したり、地下タンクへの配管などに被害が出たりしても、営業の継続が可能だ。

こうしてエネルギー事業者や自治体、メーカーなどが持てる技術や知見を集結させ、来る激甚災害に備えている。

【特集2】大地震からのガス復旧に貢献 重要施設向け製品が好調


【I・T・O】

ガス供給機器メーカーのI・T・Oが35年にわたり注力するのが移動式ガス発生装置だ。1995年の阪神・淡路大震災、2004年、07年の新潟中越地震と中越沖地震、甚大な被害をもたらした東日本大震災、記憶に新しい16年の熊本地震や18年の大阪北部地震―。いずれの地震においても都市ガス事業者は同装置を携えて被災地で復旧作業を行った。
移動式ガス発生装置の誕生は、90年までさかのぼる。当時、旧通産省では都市ガスを高カロリーガスに統一する「IGF21」計画を進めており、日本ガス協会のワーキンググループで13Aに統一するための熱量変換工事用設備として移動式ガス発生装置を取り上げた。しかし︑当時のガス事業法では使用が認められておらず、阪神・淡路大震災の際︑避難所で都市ガスが使えず各方面から指摘された︒﹁移動式を活用できないか﹂との要望で急きょ制度が見直され、同年中に製品化にこぎ着けた。


簡単に操作できる装置 病院など重要施設向けに販売

被災現場では一刻も早い復旧が求められている。特に避難所となる学校や、病院や福祉施設などはエネルギーが不可欠だ。そこで、同社はだれでも簡単にタッチパネルで操作して供給できる液化石油ガスエアー(プロパンエアー)発生装置「New PA」を開発した。現在は、同装置を組み込んだ都市ガスと電気を製造する防災減災システム「BOGETS」として販売している。これはNew PAと、都市ガスとプロパンエアーを切り替えるワンウェイロックバルブ、耐震LPガス容器スタンド、ガス成分とガス臭を吸着するパージユニットなどで構成される。
「医療機関は既設の発電機が医療設備の稼働に利用できると思っているが、実際はスプリンクラーなど消火設備向けなので利用できない。小中学校では体育館の空調設置がこれから進む。そうした施設に向けてガス発電機と合わせてさらに拡販していきたい」と営業本部長の高野克己氏は話す。

防災減災システムの核となる「New PA」


今年も台風が甚大な被害をもたらしている。全国各地の自治体がBOGETSに関心を寄せているという。災害に欠かせない存在として、さらに普及していきそうだ。

【特集2】メタネーションの要となる技術 排ガス・大気中からCO2を回収


【東邦ガス】

水素とCO2からメタンを合成するメタネーションのキーテクノロジーとして、東邦ガスが研究開発に注力するのは、原料となるCO2の分離回収技術だ。早期社会実装を目指し、技術の確立やコスト低減といった課題に立ち向かう。

一般的に、CO2の分離回収技術には三つの方式がある。液体に溶け込ませて別の場所で放出させる化学吸収式、多孔体の表面に付着させて回収する物理吸着式、ガスのうちCO2を優先的に通す膜を用いる膜分離式だ。同社は分離回収対象を①需要家先、②LNG基地近傍の発電所など、③大気中―の三つに分類し、特徴に合わせた技術開発を行っている。

①では、工場などの排ガスからCO2を分離回収する。回収量が比較的少ないことや、設備の設置スペースの制限などが課題となる。こうした中小規模の場合、低濃度のCO2に対してもコンパクトに設備導入が可能な物理吸着式や膜分離式が適すると考えている。

物理吸着式や膜分離式でのコスト低減には、吸着剤や分離膜の性能向上が必須となる。東邦ガスは大学やメーカーと協力し、さまざまな素材を模索中だ。実験とシミュレーションで、物理吸着と膜分離の最適な組み合わせや順序なども探究。機器によって量やCO2の濃度が異なる排ガスに、オーダーメイドで対応できるよう、試行錯誤を重ねている。2030年までの社会実装を目指し、22年度から模擬排ガス・実排ガスでの評価を行い、20年代半ばからは需要家先での実証を予定している。

②では、化学吸収式とLNGの未利用冷熱を組み合わせた「Cryo-Capture(クライオキャプチャー)」を開発中だ。同技術はグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択され、CO2回収コストの抜本的な低減(1t当たり2000円台)を目標としている。

クライオキャプチャーは、吸収塔、再生塔、昇華槽で構成される。まず吸収塔下部から排ガスを送入し、上部から散布する吸収液でCO2を分離。CO2が溶け込んだ吸収液は再生塔に送られる。吸収液からCO2を放出させることを「再生」といい、LNG冷熱を活用した減圧により再生する。

再生塔とつながる昇華槽をLNG冷熱で冷やすと、CO2のドライアイス化(昇華)が起こる。昇華により体積が小さくなる原理を利用し、ポンプを使わずに減圧することが可能だ。この減圧再生で、吸収液からCO2が放出されていく。こうして生成されたドライアイスは、復温で高圧ガスや液化炭酸として取り出すこともできる。

クライオキャプチャーのCO2分離回収の仕組み

LNG冷熱を有効活用 少量のエネで分離回収

クライオキャプチャーの特長は、少ないエネルギー投入でCO2回収を実現する点だ。吸収液を再生するとき、通常のボイラーによる加熱再生とは異なり、未利用だったLNG冷熱を有効活用し、燃料は不要。減圧する際にポンプも使用しないため、電力消費もない。

28~30年度のパイロット実証フェーズでは、LNG基地にパイロット機を実際に設置する予定。回収したCO2と水電解で製造した水素を用いたメタネーションなど、一連のカーボンリサイクル実証を行う計画だ。

LNG基地実装イメージ。カーボンリサイクルの実証を行う予定だ

③では、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」において、大気中のCO2直接回収の研究開発を行っている。排ガス中のCO2濃度が約10%であるのに対し、空気中の濃度は400ppm(0・04%)と、排ガスの100分の1以下でとても希薄だ。ゆえに、空気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の技術的難易度は、非常に高い。

DAC技術には、主に化学吸収式や固体吸収式が用いられる。吸収液や吸収材からCO2を放出させるためには高温の熱源が必要であり、エネルギーを大量に投入することになる。東邦ガスが手掛ける「Cryo-DAC(クライオダック)」は、クライオキャプチャーと同じ仕組みのため、少量のエネルギーでCO2を分離回収できる。

ムーンショット型研究開発事業の研究開発期間は、最長10年間。そのうち、22~24年度でベンチスケールの装置を開発し、25~29年度でパイロット機を開発する計画だという。クライオダックはその研究成果を評価され、第一ステージである20~22年度の審査を見事に通過。23~24年度の研究開発継続が決まった。

「CO2の分離回収技術は、脱炭素の要となる技術。回収したCO2を再利用したe―メタンは、CO2排出が実質ゼロとなることに加えて、そのe―メタン利用時に発生するCO2を回収し、固定化や地中に埋めるなどすれば、カーボンネガティブが実現できる可能性もある。e―メタンをはじめとしたカーボンリサイクルの取り組みを進めていきたい」と、技術研究所環境・新エネルギー技術グループの薮下雅崇チーフは語る。

国内外での検討が進行中 地産地消の取り組みも

こうした革新的なCO2分離回収技術の開発と同時に、メタネーション技術の実証や国内外での実案件の事業性検討も着々と進めている。国外では、30年にはe―メタン1%以上の導入を目指して、三菱商事と東邦ガスを含む大手都市ガス3社による北米での事業性検討などに取り組んでいる。国内では、地域のCO2を活用する知多市との実証、アイシン、デンソーとの中部地区におけるCO2地域循環モデル検討などが進む。

知多市との実証では、下水処理場から出るバイオガス由来のCO2を利用する。毎時5㎥ほどの小規模な実証だが、①バイオガス由来のCO2の利用、②都市ガスの原料として利用するのは国内初、③実証段階から水電解による水素にこだわる―というのが特長だ。

アイシン、デンソーとはCO2の地産地消による循環モデルの事業性検討も行う。工業地帯の中部地区では、ものづくりにおけるCO2排出は大きな課題だ。東邦ガスは地域の課題を地域で解決することを探索し、CO2の循環をソリューションとして捉えている。

メタネーションをはじめカーボンリサイクルの要となるCO2の分離回収技術に可能性を見出した東邦ガスの挑戦に、今後も注目だ。

【特集2】合成燃料用試作プラントを建設 サプライチェーンの構築を急ぐ


【ENEOS】

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、ENEOSは次世代エネルギー事業に多角的に参入し、合成燃料の開発において、合成燃料やSAF(再生航空燃料)などにも取り組む。2040年までに、合成燃料はプラント規模として日産1万バレル程度、SAFは国内最大の供給体制を確立しシェア50%獲得を目指している。

5月にトヨタと合成燃料の走行試験を実施した

合成燃料の開発は22年にグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として採択されたことを契機に研究を本格化した。GTL(ガス液化油)技術で培ったFT(触媒反応)合成技術やアップグレーディング技術などを活用し、合成粗油を製造、精製することで目的の液体燃料をつくり分けることができる。

合成燃料は石油由来の製品と同等の性状でありながら、水素とCO2を原料とするため、製品ライフサイクル全体においてCO2排出量を抑えることのできるCN燃料である。

合成燃料の実用化に向けた課題はコストだ。大量の再エネ水素と高濃度のCO2を調達し安価な製造が必須と言われている。経済産業省の試算によると現状の製造コストは1ℓ当たり700円程度で、内訳は水素が634円、CO2が同32円、製造コストが同33円。水素が合成燃料コストの大半を占める。将来、海外の水素価格が政府目標の127円まで下がれば、そのコストは200円程度に下がると予測されている。

早坂和章サステナブル技術研究所長は「製造コストの大半を占める再エネ水素を安価に調達しなければならない。まずは国内でサプライチェーン構築に向けた開発を行う。商用化の製造拠点は決まっていないが、海外での製造も想定している」と説明する。

この目標に向けて、同社では日産1バレルのベンチプラントを24年度上期から運転を開始し、検証を行う。その後、同300バレルのパイロットプラントの運転を通じ、その後できるだけ早い段階での社会実装を目指す。

航空燃料の10%をSAFに 和歌山製油所を製造拠点

SAFでは、政府が国内航空会社や石油元売りに対し、30年までに航空燃料使用量のうち、10%をSAFに置き換えるよう促している。これに対応するため、ENEOSでは、和歌山製油所を活用し製造体制確立に取り組んでいるほか、国内生産開始前の対応として、輸入体制構築を進めている。

SAFの原料調達・製造技術においては、ノウハウと実績を持つ仏エネルギー大手のトタルと協業。将来的に両社は年間30万t(40万㎘)のSAF製造を想定し、製造事業を行う合弁会社を設立予定だ。海外でも、日本への輸出を視野に入れ、豪州Ampol社と製造設備投資に関する初期検討を開始した。

開発や事業化の取り組みが急速に進む合成燃料とSAF。石油元売最大手の取り組みが今後の動向の大きな鍵を握っている。

【特集2】革新技術で高効率・低コスト化 自社実証・海外検討と並行


【東京ガス】

ガスのカーボンニュートラル(CN)化技術であるメタネーションの開発が加速している。東京ガスは①国内小規模実証、②国内地産地消、③海外大規模製造・サプライチェーン構築―の取り組みにより、2030年のe-メタン1%導入を目指す。

①では横浜テクノステーションなどでの自社実証が進行中だ。22年3月にスタートした実証は順調。製造能力は12・5N㎥/時で、純度97%以上のe-メタンを製造する。現在は、再生可能エネルギーの変動を考慮した負荷変動特性評価などの試験が行われている。今年度中を目途にITM社製の水電解装置の導入を予定しているほか、近隣施設で排出されるCO2を有効活用する準備も進められている。

②では横浜市の清掃工場や下水処理場の排ガスやバイオガス、再生水などを活用する地域実証モデル構築や、富士フイルムとその工場が位置する南足柄市とのものづくりにおけるCNモデルの確立などを検討している。

横浜テクノステーションの実証は順調に進む

進む海外での事業性検討 適切なルールの確立も

③では海外サプライチェーンの構築も進む。メタネーションは、液化・出荷基地やLNG船、受け入れ基地など既存の都市ガスインフラを利用できるというメリットを持つ。設備の新設が必要な液化水素やアンモニアと比べて、コスト面において優位といった試算もある。ゆえに、水電解に使用する再エネ由来の電力が安価な海外でe-メタンを製造し、日本へ輸送する方法が検討されている。

候補地としては北米や豪州、マレーシアなどが挙げられ、グローバル企業や総合商社と事業性検討を行っている。中でも、先行しているのは、三菱商事と東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの4社で取り組む米国でのプロジェクトだ。具体的には、テキサス州・ルイジアナ州でのe-メタン製造、キャメロンLNG基地などの既存サプライチェーンを活用した液化・輸送などに取り組む。このプロジェクトでは、都市ガス3社合計で年間1億8000万N㎥、そのうち東京ガスは年間8000万N㎥のe-メタンを調達する予定となっている。

海外で製造したe-メタンを日本で使用する場合、いくつかの課題がある。その一つが「CNの価値」を誰が有するのかという点だ。e-メタンはCO2を回収してつくられるため、トータルではCO2排出実質ゼロとなる。国境を越える場合には、e-メタン燃焼時の排出をカウントしないなどの二国間のルールづくりが必要だ。また、流通などの過程でe-メタンの環境価値を適切に管理できる証書制度や価値取引の仕組みなども求められる。加えて、現状e-メタンはLNGよりも高価なため、社会実装には水素・アンモニアと同等の価格差に対する支援も必要となる。

「いずれも当社だけでは解決できない課題なので、国や業界を巻き込んで仕組みや制度を確立できるよう働きかけている」と、水素・カーボンマネジメント技術戦略部革新的メタネーション技術開発グループの小笠原慶マネージャーは話す。

革新的技術で効率向上 既存技術の課題をクリア

三つの取り組みと並行して、革新技術のハイブリッドサバティエとPEM(固体高分子膜)CO2還元の技術も開発中だ。既存技術のサバティエ方式は古くから知られているが、装置コストの低減や合成効率の向上、大規模化に向けたシステムの大型化、熱マネジメントといった課題もある。こうした課題をクリアするのが、二つの革新的メタネーション技術だ。

ハイブリッドサバティエのデバイス
PEMCO2還元のセル

ハイブリッドサバティエは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、PEMCO2還元は大阪大学と連携して開発を進めている。ハイブリッドサバティエは、もともとJAXAが宇宙船の中で空気を再生するために開発を始めた技術だという。これを地上でのメタン製造に応用。低温でのサバティエ反応と、そこで発生する熱を水電解へ利用する。既存技術のサバティエ方式では約500℃の大きな発熱を伴うのに対し、ハイブリッドサバティエでは水電解で80℃、サバティエ反応で220℃ほど。熱の活用により、電気分解に必要な電力の削減を実現する。

また、排熱の水電解への利用によって50%程度だった効率を、将来的には80%以上に引き上げることを目指す。さらに、ハイブリッドサバティエは既存技術の組み合わせで構成されるため、早期の実用化も期待されている。

一方、PEMCO2還元の特長は、一つのデバイスでメタネーションが完結することだ。水電解と類似したセルスタックを開発。一つのセルで水だけでなくCO2も還元する。そのため、シンプルかつコンパクトなシステムとなる上、コスト低減にもつながる。また、電極の条件などを変えることでメタン以外の副生成物の合成が可能。eフューエルなどへの展開も視野に入れ、30年以降の実用化を目指している。

東京ガスが手掛ける革新的メタネーション技術―。その社会実装に期待が高まる。