省エネ法の改正でZEB化が求められる中、建築分野の対策は何か。山川教授は、第2・第3のエネルギーを活用することの重要性を説く。
【インタビュー】山川 智/東海大学・建築都市学部建築学科教授

―改正省エネ法が今年4月に施行されました。
山川 20年以上、省エネに取り組んできましたが、十分に浸透していません。省エネ法の強化は重要です。一方、将来を見据えると、エネルギーを減らす「省エネ」から「SX(サスティナブル・トランスフォーメーション)」への転換が必要と感じています。SXは持続可能を目指して環境価値を創出する取り組みで、DXの次のトレンドになると思います。
―省エネについての考え方も変わるのでしょうか。
山川 投資判断の際、光熱費削減による回収年数という損益計算だけではなく、SXによる企業価値の向上が重要になると思います。欧米の先進的な企業は、環境価値を創出する取り組みに積極的に投資しています。例えばカーボンオフセットへの投資にも、単価の高いクレジットを探して購入しています。創出する価値も高いからです。そうした企業が市場から評価され、顧客やESG投資が集まるようになります。
今後は企業のSXのコンセプトづくりから、計画、実施、ステークホルダーへの広告・広報などを通じて企業価値を向上する、という一連の取り組みのプロデュースが求められるでしょう。
求められるZEB化と熱利用 エネルギー再利用の時代へ
―建築分野ではZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化が求められてます。
山川 温室効果ガスはスコープ1~3により評価されます。建築分野のエネルギー利用も同様に三つの視点で捉えると取り組みやすいでしょう。一つ目は化石燃料です。これは削減を目指します。
二つ目は再生可能エネルギーです。再エネには電気と熱がありますが、ZEBの創エネの定義は電気のみを対象とし、熱は対象外です。太陽光発電は創エネとしてカウントされますが、太陽熱給湯は省エネという評価です。日本は固定価格買い取り制度の導入で太陽光の発電量が17.8倍に増え、国土面積当たりの設備容量は世界一となりました。しかし、国内の一次エネルギー供給に占める割合はわずか3.9%。身近にある太陽熱や大気熱、河川水熱などの再エネ熱も活用する視点が必要です。
三つ目がリサイクルエネルギーです。家庭やオフィスでは照明やパソコンなどが稼働しています。そのエネルギーは熱に変わり、機器が発熱します。熱は窓ガラスなどを通じて、また冷房により室外機や冷却塔を通じて建物外部に放熱されます。つまり、建物で使用したエネルギーの多くは、熱として大気に放熱・廃棄されています。これを再利用するものです。実際に北海道帯広市の病院ではその仕組みを導入し、効果が大きいことが分かりました。
今後は、これら第2・第3のエネルギーを活用していくことが重要になります。