都市ガス原料のカーボンニュートラル化で期待がかかるメタネーション技術。大阪ガスは、過去から蓄積された知見を駆使し技術の確立を急ぐ。
桒原洋介/大阪ガス企画部カーボンニュートラル推進室長
―昨今のエネルギー危機を背景に、メタネーションなど技術革新への期待が高まっています。
桒原 需給ひっ迫や価格高騰に直面し、エネルギー政策の基本であるS(安全性)プラス3E(安定供給、経済性、環境性)のバランスが取れたエネルギー供給の重要性が改めて認識されています。大きな流れとしてカーボンニュートラル(CN)社会に向かっていくことは間違いなく、エネルギー事業者は他社と切磋琢磨しながらCNでありつつ低廉なエネルギーを安定的に供給できるよう、技術開発に挑戦していかなければなりません。企業が予見性を持って革新的な技術の研究開発に臨めるよう、脱炭素化の価値を明確にする政策、制度による後押しも不可欠です。
ガスシフトを加速 削減貢献量1000万tへ
―Daigasグループとして、脱炭素化にどのように取り組んでいますか。
桒原 2021年1月にCNビジョンを打ち出し、グループを挙げてCNに真剣に取り組んでいくことを表明しました。このビジョンでは、50年にCN達成を目指す決意とともに、その中間目標として30年に目標とする具体的な数値を掲げ、国内外で再生可能エネルギー500万kWの普及に貢献すること、国内の電力事業の再エネ比率を50%程度とすること、そしてCO2排出削減貢献量1000万tを目指すこととしています。火力燃料を石炭からガスに置き換えることで当社のガス販売に伴うCO2排出量は増えますが、社会全体のCO2排出量削減につながります。これをカウントすることで、社会全体の排出量削減に寄与していることを示すことができます。さらに今年3月には、メタネーション推進官民協議会において、30年に都市ガス販売量の1%を「e-methane(e―メタン)」(合成メタン)とする目標を打ち出しました。
―これまでの取り組みの加速と、技術革新の双方が重要だということですね。
桒原 CNと低廉性、供給安定性を兼ね備え、社会のニーズに対応したエネルギーを最適な形で供給できるよう、ガス、電気、水素、アンモニアなどさまざまな可能性について選択肢を狭めることなく追求していきます。中でもe―メタンは、都市ガス事業者として先陣を切って取り組んでいるところで、e―メタンの普及・環境価値確立を目指したCO2流通を可視化する取り組みも開始しました。
―都市ガス原料のCN化を実現するには、e―メタンを大量に製造することが必要です。
桒原 CO2と再エネ由来の水素を反応させて都市ガスの主成分であるメタンを生成する技術としてメタネーションがあります。現段階では大量に製造する技術が確立しておらず、技術革新に向け当社が取り組んでいるのは主に三つです。一つは、水素とCO2から触媒を介してe―メタンと水を生成するサバティエ反応を利用した方式。INPEXと共同で、新潟県長岡市において、24年度にも、製造能力1時間当たり400N㎥のメタネーション設備を設置し、都市ガス導管に注入するNEDOの実証実験を開始する予定で、30年1%の達成に大きく近づくための重要なプロジェクトです。当社の都市ガス販売量1%は、LNG船1隻分に相当する規模。実現に向けた、突破口にしたいと考えています。
サバティエのさらに先を見据えた技術として開発に取り組んでいるのが、SOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーションです。SOECのエネルギー変換効率は、サバティエの約60%に対し約90%と高く、再エネが普及しグリーン水素のコストが低減すれば、現行の天然ガスと同等価格を目指せると考えられ、e―メタンを広めるために非常に有用な技術です。この技術開発には、大阪ガスが燃料電池の分野でSOFCに取り組んできた知見が役立っています。
最後に、下水や生ごみを原料にe―メタンを生成するバイオメタネーションです。大阪市などと共同で、海老江下水処理場において、処理場で発生するバイオガスを活用したバイオメタネーションのフィールド試験を年度内に開始する予定です。バイオガス中には 40%のCO2が含まれ、このCO2を利用してメタンを製造しようという狙いです。既存の下水処理場の発酵槽をそのまま活用し、水素とうまく反応させることができれば大きな追加の設備がなくメタンを増産できます。ここで使われる発酵技術にも、当社が過去から取り組んできた知見を生かすことができます。
生ごみ由来のバイオメタネーションについては、環境省の実証事業として、25年度に開催される大阪・関西万博での実証実験を計画しています。万博会場から出る生ごみを集め、メタネーション装置に投入してメタンを製造し、会場内の熱供給設備やガス厨房で利用します。その前段として、大阪市此花区のごみ焼却工場において、市内で発生する生ごみから得られるバイオガスから、1時間当たり5N㎥規模のメタンを製造する実証設備の建設を23年度に開始します。下水や生ごみで全ての都市ガス需要を代替できるわけではありませんが、地産地消でエネルギーを作ることは大きなメリットであり、今後、自治体などと連携して可能性を追求していきます。
研究開発のハブ拠点 CN軸に創造・協創を促進
―カーボンニュートラルリサーチハブは、CN化に向けどのような役割を担うことになりますか。
桒原 大阪市此花区酉島のガス製造工場の跡地に21年10月、CN技術の研究開発拠点としてカーボンニュートラルリサーチハブを開設しました。その目的は、CN化に向けて社内の意識を変えてCNを軸に部門横断的な交流を促進すること、グループの取り組みを社外に発信すること、社外とのアライアンスを推進することにあります。個社でできることには限界がありますので、ここを拠点に異業種を含めたさまざまな企業とのアライアンスの可能性を探っていかなければなりません。実際、開設から1年で産業界や行政関係者など約600組2000人が見学に訪れ、手ごたえを感じています。25年度には、より創造、協創につながるような新たな研究棟を建てる計画で、50年CN化に向け、取り組みを一層加速させていきます。
くわはら・ようすけ 2000年に大阪ガス入社。入社以来、高圧ガスパイプラインの建設など、主にガス事業の基盤インフラ整備に従事。22年4月に企画部に新設されたカーボンニュートラル推進室の室長に着任。Daigasグループのカーボンニュートラル化の方針・計画策定、推進・実行強化に向けた取り組み全般に従事。