市場における「あと出しジャンケン」


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

今から約20年前のこと、欧米の資源メジャーが一斉に、石炭売買契約の買い主オプション(以下OP)をやめたいと言い出した。景気や天候に左右される燃料消費に応じ、一定価格で購入を増やせる便利な権利だったので、非常に困ったものだ。

当時は電力用炭の市場が育ってきた時期で、市場価格の下落時は、買い主はOPを行使せず、競争入札などで調達するようになった。そうなると、売り主はOP契約のために生産した石炭を投げ売りせざるを得ない。売り主は市場価格上昇の恩恵も放棄することになる。買い主に元の価格で売らねばならないからだ。市場が発達すると、OPは「あと出しジャンケン」のように、権利を持っているほうが一方的に儲かる仕組みとなる。

日本の電力取引でも卸売市場が活性化し、卸電力契約における「通告変更」というOPにがぜん価値が出てきた。例えば、買い主は、日頃は安価な市場からの購入を優先し、市場価格急騰時には相対からの購入を最大に増やせばよい。売り主は、急な増量の通告に対し、下手をするとkW時当たり200円の電気を市場から購入して供給する羽目になる。ところが、売り主が被る市場リスクへの対価という概念は旧来の卸電力契約にはなかった。契約kWの範囲内での通告変更は、基本料金の見返りとして当然のように扱われてきたのだ。基本料金はあくまで発電事業の固定費をカバーするものだった。

ここにきて、OPの価値は発販双方で認識されつつある。だが、価格を付けようにもいまだ「相場」というものがない。海外の市場では既に電力のオプションが活発に取引されるが、わが国でもこうした取引が次第に浸透し、「あと出しジャンケン」の価値が適正に認識される日を期待したい。

【ガス】なぎの状態に安心せず エネ安全保障の検討を


【業界スクランブル/ガス】

10月上旬にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を行ってから1か月が経った。現時点では、中東情勢緊迫化の状況はまだ深刻でないという見方なのだろうか。イスラエルからの報復攻撃が始まり、石油価格は一時期急騰する兆しがあったが、11月上旬の時点で80ドル前後を維持し、落ち着きを見せている。

天然ガス価格については、11月上旬のTTFは15ドル台、JKMが16ドル台とこちらも落ちついている。TTFの高騰をにらんで昨年急騰した石炭価格も、現在は豪州一般炭価格が120ドル台と同様の状況だ。

これから需要期の冬を迎えるが、欧州では暖冬予測が出ており、地下ガス貯蔵量も11月中旬には100%に達する見通しだ。さらに欧州の天然ガス需要量は例年の2割程度減少する傾向が続いている。ウクライナ戦争以来、ロシア産天然ガスの供給量は正常時の1割という状況が続いており、天然ガス不足の欧州がスポットLNGを相当量購入している状態は変わらないが、LNG需給自体は安定し、欧州天然ガス市場価格とスポットLNG価格はここ数年に比べて落ち着きを示している。

しかし、一度イスラエル・ハマス間の戦争がイエメン武装組織フーシ派ヒズボラ、そしてイランへ飛び火すると、広範囲に戦火が広がり、ホルムズ海峡の閉鎖、第三次石油危機へ一気に進んでしまう可能性も。ウクライナ戦争がエネルギー情勢を一変させたことは記憶に新しい。日本政府や各エネルギー企業は、今のなぎのような状況に安心してしまうのでなく、過去のさまざまな失敗経験を生かし、インテリジェンス能力を十分に効かせて、どのようなエネルギー危機であっても乗り越えられるような安全保障策を検討・準備しておく必要がある。(G)

「エネフェス」で冬商戦本格化 ハイブリッド給湯のメリット訴求


【ニチガスグループ】

 10月下旬から11月にかけて、ニチガスグループである東彩ガス、東日本ガス、北日本ガスの都市ガス各社が秋のガス展を開催した。各社共通して力を入れるのは、ヒートポンプとガス給湯を組み合わせた「ハイブリッド給湯機器」の拡販だ。

「総合エネルギー企業としての立場を明確にするため、従来の『ガス展』から『エネフェス』へと昨年改称した。扱う製品はガス給湯器だけでなく、蓄電池や太陽光発電パネル(PV)なども手掛け始めている。このエネフェスにふさわしい商品の一つがハイブリッド給湯(HB)で、昨年から本格的に販売している」。3社の中でもHBの販売実績が多い東彩ガスの展示会責任者である杉本晃一氏は話す。

ハイブリッド給湯のニーズが高まっている

ガス会社にとって、ヒートポンプを主体に動かすHBの販売は、裏を返せばガスの販売減を受け入れることを意味し、いわば「ご法度」商材だ。ただ、電気も販売し総合エネルギー企業を標榜するニチガスグループにとって、HBはおあつらえの商材である。


機器側の改良進む 簡単施工で導入加速へ

エンドユーザーの立場に立てば、HBを使うことで毎月のランニングコストとCO2が大幅に削減できる。エネルギー価格の上昇局面の昨今において家計に優しい商材ということでニーズが高まっているそうだ。杉本氏は「今回、展示会での販売を200台と見込んでいる。今期は昨年度の販売実績数を大きく上回るペースだ」と話す。

製造するリンナイやノーリツによる機器側の改良も進む。最近では「PVモード」搭載機種もラインアップされている。昼間の太陽光の電気によってヒートポンプを優先稼働させて貯湯し、夜間の風呂向けなどの給湯需要を賄う。いわば再エネ自家消費の促進だ。

また、導入する際の設置工事も改善されている。ヒートポンプとガス給湯設備のセパレート式の機種や、電源のプラグイン式が登場している。前者は設置・施工ペースの制約をクリアできるし、後者は従来必要だった電気回りの工事が不要になる。「ランニングコスト面以外でも訴求できるポイントが増えている。国や自治体、あるいはメーカーからの補助金も組み合わせながら販売数を増やしていきたい」(杉本氏)

寒冷の季節に向かって、エネルギー機器の冬商戦が本格化する。エンドユーザーはいま商材に何を求めているのか。総合エネルギー企業を標榜する他の大手企業もニチガスの販売動向に関心を寄せている。

UAEでCOP28開幕 中東混乱で分断に拍車


【ワールドワイド/環境】

ハマスによるイスラエル攻撃により、中東情勢は緊迫化している。石油価格が上昇しているが、これが1970年代のような石油危機につながるとの見方は現在のところ少ない。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長のように「ハマス・イスラエル戦争は世界のクリーンエネルギー転換を加速させる」との観測もあるが、各国の温暖化対策強化につながるかは疑問である。

この戦争はむしろ、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される温暖化防止国際会議COP28の合意形成に暗雲を投げかける可能性がある。エネルギー価格の高騰が、多くの政府の関心を温暖化防止よりもエネルギー安全保障に向かわせることは、ウクライナ戦争で経験済みだ。議長国のUAEは、戦争中でも温暖化アジェンダを前に進めようと努力するだろう。しかし戦争が激しさを増せば、同じ中東地域で開催されるCOP28で温暖化対応だけが前進するだろうか。

懸念されるのは、イスラエルを明確に支持する西側諸国への「ロシアのウクライナ攻撃を非難する一方、ガザへの攻撃を続けるイスラエルを擁護するのはダブルスタンダードだ」というグローバルサウスからの批判だ。同様の批判は、温暖化防止の分野でも存在する。もともと温暖化問題は南北対立の要素が非常に強い。近年、西側先進国は1・5℃目標達成を重視する観点から化石燃料フェードアウトなどを提唱するが、「化石燃料を使って国富を築き上げた西側先進国が、途上国の経済発展に必要な化石燃料利用に反対するのは一方的な価値観の押しつけだ。エコ植民地主義だ」という反発が高まりつつある。

ウクライナ戦争によって生じた西側諸国とロシア・中国などの権威主義国家の分断、温暖化防止を巡るグローバルノースとグローバルサウスの対立に加え、ハマス・イスラエル戦争を巡ってグローバルサウスから西側諸国に対する反発が高まれば、西側諸国が主導する国際秩序の変更を企図している中国、ロシアにとっては好都合となる。中国、ロシアは主要20カ国・地域(G20)首脳会議の場でも西側先進国が主導する温暖化アジェンダに水をかけてきた。ハマス・イスラエル戦争はグローバルストックテイクという宿題を抱えたCOP28のハードルを上げているのだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】内外無差別と表裏一体 経過措置規制の見直し


【業界スクランブル/新電力】

電力小売事業者が、直近で最も重点的に行っている業務は卸電力の調達だ。年度単位で売買されることが多い卸電力の契約は、年末から年始にかけて相対交渉で締結されることが多かったが、ここ数年は毎年手法や仕組みが変わっており、時期も前倒しされてきている。

特に今年は、旧一般電気事業者系の卸販売の方式が複雑化している。昨年度から実施されている入札のパターンも多様化し、さまざまな条件が変化している上に、複数年契約も登場した。事業者ごとに条件が異なるため、比較が難しく、これまでの経験だけで対応できない担当者泣かせの状況といえよう。

「内外無差別」をより深化させるべく、各事業者が試行錯誤していることがよく分かる。特に多くの募集においてエリア需要に伴う制約や転売禁止といった条件が撤廃されたことは大きな変化である。これにより、卸電力の市場範囲はJEPXの分断に準じた形で画定されることになり、特に西日本においては実質的な競争市場にかなり近付いた。旧一電各社卸売の募集条件やタイミングがバラバラで調達の仕方は難しいが、新電力にとっては、悲願であった電源への平等なアクセスが実現しようとしているのである。

同じようなコスト構造で電源調達すれば、同じような料金水準で提供されるはず。そうなると現在のようにエリア間で提供される料金が大きく異なる状態は持続的ではない。みなし小売各社にとっても、毎年電源調達・電源構成が安定しない可能性もあり、原価性を持った経過措置料金の維持は困難化するだろう。業界および事業者の健全性を担保するために、経過措置料金の撤廃や標準メニューの在り方の見直しなどが、内外無差別と表裏一体の形で、必須になってくるだろう。(S)

【マーケット情報/12月15日】原油上昇、需要回復の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み、小幅に上昇。需要回復の見込みが台頭した。

米国の連邦準備理事会は、年内最後となる13日の会合で、金利の据え置きを決定。また、2024年には引き下げる可能性を示唆した。さらに、欧州中央銀行、およびイングランド銀行も、金利を据え置いた。これにより、景気減速に歯止めがかかり、石油需要が回復するとの見方が広がった。

また、国際エネルギー機関が来年の石油需要予測を上方修正。先月より、GDP成長率の見通しが改善したことを要因とした。

中国では、11月の工業生産指数が前年比で改善し、2022年2月以来の最高を記録。価格の支えとなった。

一方で、中国における消費の減少は依然弱材料となっており、主要指標の上昇を小幅に留めた。


【12月15日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.43ドル(前週比0.20ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.55ドル(前週比0.71ドル高)、オマーン先物(DME)=76.04ドル(前週比0.19ドル高)、ドバイ現物(Argus)=76.40ドル(前週比0.64ドル高)

ドイツで新方式の洋上風力入札 事業者の負担増加を懸念


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは洋上風力拡大に向けて入札制度が一新され、2023年夏から二つの入札方式として①事業者調査方式、②政府調査方式―が導入された。①と②の大きな違いは、落札選定基準にある。①では入札額のみが判断されるのに対し、②では入札額に加えて複数の評価項目がある。それぞれ6月と8月に初回入札を実施したが、いずれも競争倍率が高く、入札額は非常に高額となった。

6月実施の①方式では、まずプロジェクトに対する補助(FIPのプレミアム)額について競争入札が行われる。最も低いプレミアム価格を提示した事業者が落札となり、指定海域の開発権利を得る。しかし、開発権利を求め、FIP補助なしでも落札希望(0セント入札と呼ばれる)の事業者が複数いる場合は、別枠で海域リース料に関わるオークションを実施し、最も高額な支払額を許諾した事業者が落札に至る。制度としてはFIP補助入札となっているものの、洋上風力の開発需要が高い限り、入札を通して事業者は政府へ多額の支払いを行うことになる。

初回入札では補助なし希望が殺到し、別枠のオークションを実施した。莫大な資金力を持つ石油メジャーのBPとトタルエネジーズが落札し、総支払額は約126億ユーロとなり、海域リース料としては国際的にも非常に高額となった。なお、RWEやオーステッドなどの大手電力は落札を逃した。

8月実施の②方式ではプレミアムは付与されず、開発権利をかけて入札が行われる。落札者の選定には入札額のほか、環境や社会問題などに対する事業者の取り組みを考慮する。初回入札ではRWE、ウォーターカントエナジー、バッテンフォールが開発権を獲得した。総支払額は総額7億8400万ユーロ、1MW当たりでは43万5555ユーロ相当となった。入札額の多寡のみによらない制度設計であるため、①方式(最低落札額=1MW当たり156万ユーロ)よりは低額となったものの、依然として高い水準であった。

これまでの洋上風力入札は電力会社中心であったのに対し、新たな事業者の参入が目立った今回の入札は一つの分岐点となったと思われる。高額化する入札額は洋上風力への参画ニーズの高さを示したと言えるが、インフレなどの影響で設備投資額が高騰している中、事業者にはさらなる負担増となる。特に入札額のみの評価となる①方式については、業界団体や大手電力からはルールの再検討を求める声が上がり、政府はどのように対応するのか注目される。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】資本分離が求められる 新聞社とテレビ局


【業界スクランブル/電力】

先日、某テレビ局のニュースで、いわゆるジャニーズ性加害問題に対しテレビ局が長年沈黙してきたことについて、内部調査の結果が報じられていた。視聴率を稼げるタレントを多数抱える同事務所への異常なまでの忖度が局内で生じていた実態を編成局長や報道局長が神妙な顔でコメントしていた。

本件、問題の所在が長年うわさされながら、同事務所に利害関係が薄い英国BBCが口火を切って、やっと日本のメディアが報じ始めたのであるが、同様に利害関係が薄いであろう日本の新聞までが沈黙していたのはなぜか。新聞社とテレビ局の間で資本関係があるからではないか。これがなかったら、性加害問題がこうも長期間タブーであり続けることはなく、被害者の一部は被害に遭わずにすんだのではないか。

この資本関係の弊害はほかにも思いつく。新聞に適用されている消費税の軽減税率や著作物再販売価格維持制度である。こうした新聞を優遇する制度には、以前から疑問視する意見がそれなりにあるが、新聞もテレビもほとんど報じない。

以前公取委が再販制度の見直しを検討し始めたときは、新聞は反対意見を一方的に叫ぶだけ、見直しを主張する識者は新聞からもテレビからも干されていた。かくして、国民生活にそれなりに影響するこれらの論点が国民に周知されることはなく、新聞を優遇する制度は今もなし崩し的に続けられている。

新聞社とテレビ局が資本関係を保つ必要性はどこにあるというのか。筆者は弊害しか思いつかない。日本の大手メディアが身内に対して批判の矛先が鈍るダブスタは相当に根が深いが、新聞社とテレビ局を資本分離したら少しは変わるだろう。発送電の資本分離よりメリットがあると思うのは筆者だけか。(V)

電気工事の測定記録を支援 DX化で煩雑な業務を効率化


【関電工】

建設業や電気工事業などで欠かせないのが、品質を担保する「データの測定・記録」だ。煩雑なこの作業に、現場では頭を悩ませてきた。例えば完成間近のビルの建設現場では、空調温度はしっかり制御されているか、フロアの照明は設計通りの照度になっているかなど、何百何千ものデータを測定・記録する必要がある。測定後の事後処理も煩雑だ。そのデータを社内に持ち帰り所定のフォーマットに再度入力し、最終的な報告書に仕上げる。入力ミスも生じる。

そうした改善アイテムとして「通信機能付きの測定器」が登場している。測定器で記録したデータを通信でエクセル記録に落とし込むようなソフトウェアだ。ただ、この方式だと個々の測定器メーカーの専用のソフトウェアに限定される。これではさまざまなメーカーの機種を使って測定している現場では不便だ。効率化できないものか―。そこで、電気工事を手掛ける関電工の技術部門が知恵を絞り編み出したのが、測定や記録のDX化を支える「BLuE」と呼ぶシステムだ。


共通のプラットフォーム ユーザー目線で構築

「一言で説明すると、多様なメーカーの測定値を取り込むことができる『共通プラットフォーム』を作った。現場に持参した測定器から値を読み込み、PDFやエクセルなどの図面や帳票に一瞬にして自動的に反映させる。事後処理も不要だ。電気工事に限らず測定業務であればあらゆる業界で利用可能だ」。戦略技術開発本部技術研究所の中島栄一副長は説明する。

共通プラットフォームで多様なメーカーの測定値を取り込む

関電工は、このプラットフォームの通信仕様を開示しているので、BLuEのユーザーは自由にアプリケーションを自作できる。昨年6月にサービスをリリースしてから1年ちょっとで社内ユーザーは1000件を突破し、測定地点は20万地点を超えたという。同社の試算では、測定100地点で約1時間の業務効率化を実現するそうだ。さらに、データが正確で報告書の信頼性も向上している。

それにしてもなぜ、電気工事を手掛ける関電工がこうしたソフトウェアを開発できたのか。それは同社がさまざまなメーカーの測定器を使い、常に現場でデータを測定しているヘビーユーザーだからだ。「これまでの不便が身に染みていた」(中島氏)。ソフト開発は手探りで、ゼロベースから試行錯誤で開発にこぎつけたそうだ。

「24年問題などで現場では『改善』が求められている。貢献できたら幸いだ。ただ当社の本業は、あくまでも電気工事。このシステムを使ってまずは現場の業務負荷の改善を進めたい」と中島氏は話す。

ベネズエラの原油生産量 制裁解除も増加は期待薄


【ワールドワイド/資源】

ベネズエラの原油生産量は1998年のピーク時には日量320万バレルを上回っていたが、現在日量80万バレル程度まで減少している。原油生産減に追い打ちをかけたのが、マドゥロ政権は公正な選挙を経ていないとして米国が2019年1月に石油産業に科した制裁だ。

今年10月17日、ベネズエラの与野党が来年に実施予定の大統領選挙を自由で公正なものにすると合意したことを受けて、米国は翌18日にこの制裁を6カ月間解除することとした。石油会社は米国から個別に許可を得なくとも、ベネズエラ国営石油会社PDVSAと協力してベネズエラで原油を生産し、輸出できるようになった。

早速、モレル・アンド・プロム(フランス)がPDVSAと原油増産に関する契約を締結するとし、レプソル(スペイン)がベネズエラでの事業を拡大する余地があるとの見方を示した。南米の国営石油会社も、ブラジルのペトロブラスがベネズエラのように石油が豊富な国での存在感を再確立することを検討したり、ボリビアのYPFBがPDVSAとベネズエラでの炭化水素開発に関する協定に署名するなどの動きがあった。15年にはベネズエラ産原油を日量44万バレルも輸入していたが、米国の制裁によって輸入を停止していたインドも、ベネズエラ産原油の輸入再開に向け検討を始めたという。

しかし、ベネズエラでは長年にわたり、原油生産設備や輸送インフラ、発電設備などに対して十分な投資が行われず、故障や老朽化しながらも放置されてきた。またチャベス前政権以降、多くの石油関連技術者が国外に脱出してしまい、技術者不足の問題にも直面している。これらの問題を解決し、原油生産量を増加させるには、多額の投資と時間が必要となる。

一方、米国の制裁解除期間は6カ月で、ベネズエラが公正な大統領選挙を実施できるよう合意を実行する場合にのみ更新されることになっている。

マドゥロ大統領が容易に権力を手放す可能性は低いと見られており、公正な選挙が行われるとの確信が持てないため、メジャーをはじめとする多くの石油会社はベネズエラに復帰し、投資を行うことに慎重にならざるを得ないだろう。このような状況から、米エネルギー情報局が、ベネズエラの原油生産量の伸びは来年末までに日量20万バレル未満にとどまるとするなど、急激なベネズエラの原油生産増は難しいとの見方が強く、原油市場への影響も大きくはないと考えられる。

(舩木 弥和子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年12月号)


【東京ガス/顧客先でCO2資源化サービスを開始】

 東京ガスはこのほど、都市ガス機器利用時の排気に含まれるCO2と水酸化物を反応させ、炭酸塩をオンサイトで製造する「CO2資源化サービス」を開始した。オンサイトでCO2から炭酸塩を製造するサービスは日本初だ。グループ会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズが営業窓口となり、炭酸塩をオンサイト利用する工場などの産業用顧客を中心にサービス展開する。またオフィスビルや商業施設に向けても、炭酸塩を洗剤の原料にするなど、炭酸塩の利用用途を拡大する取り組みも進める。このサービスは、カナダ製の二酸化炭素回収装置「CarbinX™」を使用。同社の独自技術を加えて、日本でも排気中のCO2を吸収した炭酸塩を安定的に製造できるようにした。


【東京電力エナジーパートナー/複数発電・熱源をAI制御するシステムを開発】

東京電力エナジーパートナーは、AI技術を活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発した。蓄熱槽やコージェネを含めた複雑な電熱併給型システムの運用を最適化する。このシステムは、電力や熱需要を30分という短時間の周期を高精度に予測することから、設備の高効率運転を計画するだけでなく、デマンドレスポンスの要請にも柔軟に対応できる。東電は東京大学などとともに実際の地冷拠点でEMS開発を進めていた。今回のシステムには「エネルギー需要予測AI」「機器モデリングAI」「運転計画立案AI」のAIを搭載している。蓄熱槽は再エネの余剰電力を活用する設備として期待が高まっている。東電はこのシステムを24年度から製品化する。


【アメリカ穀物協会/自動車分野のCO2削減にバイオ燃料をアピール】

自動車分野での現実的なCO2排出削減策として、バイオ燃料への関心が高まっている。トウモロコシ、サトウキビなどからつくるバイオエタノールをガソリン・軽油などに混ぜて自動車燃料とするもの。バイオエタノールはカーボンニュートラルであり、アメリカでは10%混ぜた「E10」が既に一般的で、「E85」も市場に流通している。日本ではイソブテンと混合してETBEとして導入され、6月から「E7」の販売も始まったが、利用は年間50万㎘(原油換算)にとどまる。バイオエタノールの値段はガソリン価格プラス揮発油税ほど。米国産の輸入に携わるアメリカ穀物協会の浜本哲郎・日本代表は、「E10が普及すれば低コストでCO2排出を大幅に削減できる」と話している。


【積水化学工業・リノベる/住宅ストックの脱炭素社会への貢献を推進】

積水化学工業・住宅カンパニーとリノベるは、協業の第一弾として、ZEH水準リノベーションの提供を開始した。マンションを対象に、ZEH水準リノベーションの設計・施工、温熱計算、BELS申請、費用対効果の見える化を一貫して提供。区分マンションの買取再販事業、個人向けと法人向けのリノベーション請負事業の3チャネルで展開する。両社の技術力と提案力を掛け合わせ、良質な住宅ストックが循環する循環型住宅マーケットを創造、脱炭素社会実現に寄与していく。


【日本郵船ほか/LNGタグボートを改造 アンモニアで脱炭素化へ】

日本郵船は、グループ会社の新日本海洋社が東京湾内で運行していたLNG燃料タグボート「魁」を、アンモニア仕様とする改造工事を開始した。エンジン、燃料タンクを含む機関全体を交換するため、機関室を切断して既存のLNG燃料仕様の設備を取り出し、アンモニア燃料仕様のものを設置する。同社とIHI原動機、日本シップヤード社など4社がNEDOのグリーンイノベーション基金事業で採択された「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」の一環で行う。2024年6月に完成後、実証運行する予定。


【大阪ガス/関西初! 自治体と連携 ライザップのプログラム】

大阪ガスは、デジタルプラットフォーム「スマイLINK TV Stick」と、ライザップが提供する健康増進プログラムを連携させ、自宅のテレビ画面を通じて、奈良県内で住民の健康増進を促す実証をリモートで行う。実証に関する包括連携協定を大阪ガス、奈良県田原本町、ライザップグループの3者で締結した。近年、高齢化社会が問題視される中、地域全体で健康寿命を延ばして活性化を図り、健康格差を縮小することが重要になっている。地方自治体を対象にテレビを介したオンライン参加型のプログラムの提供は関西初。


【三菱重工エンジン&ターボチャージャ/大型エンジン単筒機で水素混焼率50%実現】

三菱重工エンジン&ターボチャージャは、発電用ガスエンジン(5750kW)の単筒試験機での水素混焼試験を実施し、定格相当出力において水素混焼率50%(体積比)までの安定燃焼を確認した。今後、プラント補機や制御仕様なども含む生産化に向けた仕様を決定し、2025年度中の商品化を目指す。カーボンニュートラル社会への対応として水素利用のニーズが高まっていることから、水素混焼・専焼の製品投入を加速し、低・脱炭素社会実現に向けた選択肢の拡充に寄与する。


【グリッド/AIで蓄電池を制御 再エネ電源の最適化へ】

グリッドはこのほど、社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」に追加する、蓄電池制御最適化エンジン「ReNom Charge」の開発を始めた。このサービスでは、AIが複数の再エネ発電や市場価格予測シナリオの中から変動リスクを確率的に計算。収益最⼤化やCO2最⼩化などの⽬的に沿って最適化された充放電計画を⾃動⽴案する。


【日本照明工業会/あかりの新たな可能性 募ったアイデアを表彰】

日本照明工業会は10月、「Lighting 5.0~未来のあかりアイデアコンテスト2023~」の表彰式を開催した。未来を照らすあかりの新しい可能性のアイデアを広く募集し、8歳から81歳まで計290件の応募の中から各賞を決定。最優秀賞は、住空間照明をカスタマイズできる「住人灯色―JUNIN TOIRO―」を発表したTOPPANの4人に決まった。


【日揮ほか/次世代太陽電池の実証 北海道の物流に設置】

日揮は、苫小牧埠頭社、エネコートテクノロジーズ社(エネコート)と3社で、北海道苫小牧市の物流施設に次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」を設置して共同実証実験を開始する。2024年初春から約1年間の予定。物流施設での実証は国内初で、屋根や壁面向けの新たな設置方法を開発・実証する。モジュール変換効率19.4%という高効率の開発に成功したエネコートは京都大学発のスタートアップ。日揮のエンジニアリング技術と融合させ、早期社会実装に資する施工方法や発電システムの開発に貢献する。


【きんでん・日立製作所/送電ケーブルの加工技能支援ソリューションを試行運用】

きんでんと日立製作所はこのほど、デジタル技術で77kV送電ケーブルジョインターを早期に育成する技能訓練支援ソリューションの試行運用を共同で開始した。同ソリューションは、77kV送電ケーブルの中間接続箱組立作業工程のうち、外部半導電層と絶縁層を規定された寸法にガラス片で切削してケーブル表面を鏡面状に加工する技能を対象としている。日立のセンサー付きグローブによって動作データを収集・数値化し、共同開発したアルゴリズムによって複数の技能検知項目を抽出してデータを比較・解析する。解析結果として改善するべき動作のポイントなどを提示。短期間で効率良く技能を習得することができるほか、作業の標準化や品質の安定化につなげことができる。

エビデンスを嫌悪する朝日 風評加害と印象操作にうんざり


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

あらゆる意味で理解に苦しむ。朝日11月1日夕刊「こころのはなし、数値的なエビデンス、なくてはダメ? 経験が導く感覚の中にも真実がある」である。

冒頭の「何をするにも合理性や客観性が求められ数値的なエビデンス(根拠)を示せと言われる時代。『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書)の著者で、大阪大教授の村上靖彦さん(53)にエビデンス重視の世の中にどう向きあえばいいか聞いた」からつまずく。

ページをめくると、記事は「オトナの保健室、男性、サイズの悩み切実?」。結論は「『大きければ』は幻想」らしく「小さいのも個性です」とあるのだが、「数値的なエビデンス」をあれこれ並べて男性をいじくり回す記事と同じ紙面にこれか、と。

ちなみに、冒頭記事には「聞き手・真田香菜子」とある。女性記者だろう。熱心な朝日読者、それも男性読者は、この日の夕刊を読んでどう反応したか。

内容もアレレだ。「エビデンスや客観性は、分断の道具として使われてきた」「先日、福島に行ったのですが、住民の方と原発処理水の話題になりました。その方は、福島で『汚染水』とは絶対に口にできないと言いました。政府が示したデータを信用できないという立場を示したら、問題にふたをしながら暮らしている周囲とあつれきが生まれる懸念があるようです」。福島県への風評加害をまだ続けたいらしい。

朝日はこの著作が大のお気に入りのようで、9月30日、10月7日紙面でも紹介している。後者は書評欄だ。メディアに、エビデンスつまり確実な取材は欠かせない。この新聞は大丈夫か。

心配は続く。同2日1面「ガザ難民キャンプ空爆、イスラエル『ハマス標的』、50人超死亡」だ。脇の「人口密集地、被害が集中、衛星データを分析」は群衆が狙い撃ちされているかのような地図を紹介する。2面には「ガザ保健省『家屋標的にした大虐殺』」の見出しも踊る。だが、空爆による主な被害は「施設」だ。

イスラエル軍はハマスによる10月7日の大量虐殺テロの後、200人超の人質奪回のためガザ地区への侵攻方針を表明した。これに伴う被害を抑えるため市民に避難を呼びかけてきた。避難方向を明示した印刷物を空から散布したり、ネットで情報を発信したり、電話で直接伝えたりと複数の手段を用いてきた。太平洋戦争時の空襲で大勢の犠牲者が出た日本とは状況が異なる。

エビデンスとして、イスラエル政府と軍は、印刷物の現物、散布時の動画、ガザ地区住民との通話音声記録も公表している。

だが、パレスチナ紛争の経緯もあり、世界では過激な反ユダヤ活動が広がる。イスラエルとユダヤ人殲滅を活動目標とするハマスに共鳴した大規模デモも起きる。

米国では、ハマスの人質にされた女性や子供の支援を求めるポスターが破り捨てられる。欧州では、ユダヤ人の住居にホロコースト時と同じマークが描かれる。

そんな時に、エビデンスを軽視して「イスラエルによる大虐殺」の印象操作に加担すれば、沈静化は遠のくばかりだ。

そもそも、朝日が記事で引用した「ガザ保健省」は、テロを実施したハマスが指揮する。欧米メディは、印象操作を警戒して「ハマスが運営する保健省」などの呼称を使う。注釈なしではハマスの情報発信に無防備過ぎるだろう。

エビデンスが大切なのだ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/12月15日】電力ネットワークの法的分離と消費者の利益


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

昨年12月から今年の初めにかけて、大手電力会社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を、同じグループの小売会社に漏洩させていたことが発覚した。送配電子会社には、行為規制が導入され、情報交換のみならず、役員人事などの交流も制限されていた。しかし、送配電と小売の情報遮断ができていなかったことから、法的分離と行為規制の限界を指摘し、送配電の中立性を高めるために、送配電の所有権の分離を含むさらなる構造分離を求める声が上がっている。

このような中、内閣府の有識者会議は、今年3月2日、送配電部門を資本ごと切り離す所有権分離を提言している。また、政府は、6月16日の閣議決定で、所有権分離を検討することを規制改革の実施計画に盛り込み、経済産業省が、今年度中をめどに導入の是非を判断することとなった。検討結果は現時点で発表されていないが、法的分離にとどまる場合には、行為規制の遵守が徹底されることが必要だろう。

EUでも法的分離にとどまっていた電力会社にさらなる構造分離を求める動きがあった。EUでは、2003年「第2次電力ガス指令」で法的分離が行われていたが、2007年に、欧州委員会は、未だに十分な競争は機能していないとの認識の下、送電のさらなる構造分離を求めた。

オプションとしては、①所有権の分離、②ISO( independent system operator)化を挙げた(ISO化をオプションとしたのは、複雑な財産権問題を避けるためである)。しかし、所有権の分離、ISO化ともにドイツ・フランス等8カ国が反対したため、2009年に、エネルギー閣僚理事会はITO( independent transmission operator)を選択肢に加えることで合意した経緯がある。ITOは、法的分離の一形態で従来よりも規制を強めたものである。

この一連の議論の中で、欧州委員会が固執したのは、所有権の分離である。また、欧州の大部分の経済学者も所有権の分離を支持した。その論拠としては、ネットワークへのより公平なアクセスが確保されることが挙げられた。わが国でも、所有権の分離を支持する論拠は、系統へのアクセス条件の一層の整備である。

さらに、欧州委員会は、電力ネットワークの拡張がなかなか進まないのは、電力ネットワークへの第三者のアクセスの拡大を防ぐためと考えた。しかし、業界団体などからは、欧州委員会は、ネットワークへの公平なアクセスのみをあまりにも強調しすぎているという批判があった。現実には、電力会社が、ネットワークを所有している場合、経営戦略上それをどのように位置づけているだろうか。

筆者が、5年ほど前に、欧州の電力業界団体Eurelectric から欧州電気事業者の経営の重点を聞いたところでは、それらは再生可能エネルギー、ソリューションに加えて、電力ネットワークということであった。実際、ドイツの南西に位置する電力会社であるEnBWは、構造分離を法的分離にとどめているが、北部での風力発電が増大し、南北の高圧送電線の建設が急がれる中、その建設プロジェクトに積極的に関与することが、同社にとって重要な戦略になっているとのことであった( SuedLinkや ELTRANETのプロジェクト)。

電力市場が自由化されても、送電部門はなお独占にとどまっている。自由化で発電部門や小売部門は競争にさらされリスキーなビジネスになったと言えるが、送電部門は、規制料金の下で、多くの場合、安定的な利益をもたらしている。このことは、第三者への差別がなければ、法的分離された電力会社に、利益の増大のために、送電を拡大するインセンティブを付与する。

石油産業を巡るダイナミズムを実感 WPCカルガリー大会に出席して


【オピニオン】吉村 宇一郎/石油連盟 常務理事

9月17日から21日にかけて、世界石油会議(WPC)第24回カルガリー大会が開催され、世界の石油・ガスの生産国、消費国などから約5000人の参加があった。大会のスローガンを「Energy Transition: the Path to Net Zero」としたように、カーボンニュートラルを前提とした大会となった。

大会初日の冒頭に行われたMinisterial Dialogueでは、サウジアラビアのアブドルアジーズ・エネルギー大臣がインタビューを受ける形で話が聞けた。原油価格については不確実性を強調し、2カ月後の価格すらも分からないとするなど当然ながらはぐらかしていた。また、石油・ガスの供給国から、水素、再生可能エネルギー、メタノールなどのエネルギー供給国として貢献すると明言し、さまざまな国とプロジェクトを議論しているとした。列挙した国の中に日本が入っていたので、大臣の頭の中に日本が組み入れられているようで安心した。

Plenary1では、サウジアラビアの国営石油会社のナセルCEO、エクソンモービル社のウッズCEOなどが参加したパネルが開催された。ナセル氏は、IEAは専門的なエネルギー需給予測機関から、「政治的な先棒を担ぐような」機関に変貌したと批判していた。エネルギー安全保障の優先度があがったこと、国・地域(グローバルサウスなど)によってエネルギー政策が異なるのは当然、そして石油需要はこれからも増え続けるという趣旨の発言があった。産油国として当然の主張であろう。ウッズ氏は1日に1億バレルも消費するグローバルな石油エネルギーシステムを置き換える困難さについて一般の人々の理解不足を指摘しつつ、脱炭素を進めるには規制や支援が十分に行われ、市場を置き換えるような大規模なプロジェクトの実働が必要とした。水素などの取り組みについて触れるも、CCS(CO2回収・貯留)に言及することが多かったのは、この事業で利益を見込めると考えていること(米国のIRA法の支援があるからか)の表れと感じた。

人材確保についてのセッションもあった。今回は、他の業界からの人材受け入れが必要であり、魅力的と思われる業界とならなければならないという趣旨のメッセージであった。それほど人材確保が困難なのかと印象であったが、水素、メタノール、合成燃料などの新たなエネルギー供給産業として変革することで、関心を持つ人が増えるという意識であり、前向きな気持ちになることができた。

WPCは名称をWPCエナジーとこの大会以降から変更し、石油・ガスだけでなくエネルギー全般についても活動の対象とした。足元のエネルギー供給責任を果たしながらも、石油業界は変化するという意思表明と受け止めている。石油連盟は昨年5月に定款を変更し、水素、アンモニア、合成燃料、SAFなどの新燃料も活動の対象とし、新燃料を含む石油産業の健全な発展を図り、国民経済のサステナブルな発展に寄与することとしている。

よしむら・ういちろう 1982年東京大学工学部電気工学科卒、通商産業省(当時)入省。国際原子力機関(IAEA)、原子力安全・保安院、経済協力機構(OECD)勤務などを経て2014年から現職。

エネルギー地産地消を呼び水に オールドニュータウン再生へ


【地域エネルギー最前線】 大阪府堺市

かつてのにぎわいが去った「オールドニュータウン」問題が全国津々浦々で報じられている。

脱炭素化でこの解決を図ろうという新たなモデルを目指す挑戦が、堺市で始まっている。

高度経済成長期に各地のベッドタウンで開発が進んだニュータウン(NT)は、おしなべて今、危機に直面している。西日本最大規模の泉北NT(大阪府堺市)も街びらきから半世紀が経過する中、多分に漏れず、全国平均を上回る高齢化と、老朽インフラへの対応が喫緊の課題となっている。

泉北NTエリアでは府営住宅の建て替えや集約化が計画されており、これに伴って創出される活用地を民間に売却する予定だ。その区画に、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)から二段上の「次世代ZEHプラス」を整備し、子育て世帯を呼び込もうという計画が動いている。市は「不動産価値が落ちる郊外のNTを、先進的な取り組みで価値向上につなげたい。難しさはあるが、全国的にこうした問題が顕在化する中、チャレンジすべき取り組みだ」(脱炭素先行地域推進室)と説明する。

実は既に、市には泉北NTの一画で同様のモデルを実施した経験がある。市立小学校跡地を大和ハウスグループに売却し、2013年に誕生した「晴美台エコモデルタウン」だ。全65戸をZEH化することで街区全体のエネルギー消費量を創エネ量が上回り、独自に「ZET(ネットエゼロエネルギータウン)」と呼んでいる。脱炭素と絡めた学校跡地の活用は当時珍しく、大和ハウスとしても先進的な取り組みとして注目された。

「ZET」として成果を示した晴美台エコモデルタウン

小学校跡地再生の実績 「ZET」第二弾へ

今回はこれをさらに大規模、高性能化し、ZETの範囲を広げようというのだ。新たに供給が想定される住宅は約180戸。また全戸を次世代ZEHプラス化するだけでなく、太陽光発電(PV)(想定出力計1260kW)と、蓄電池の最大限の導入を図る。経験に基づいた計画は実現可能性が高いとの評価を受け、環境省の脱炭素先行地域に選定された。

晴美台のケースではFIT(固定価格買取制度)で余剰売電も行ったが、脱炭素先行地域では補助金が手厚い代わりに、FITなどの既存制度は活用できない。最大限の自家消費を追求し、実需給の面でいかに「ZET」に近づけられるかが勝負だ。また住宅の供給は一挙にではなく数十戸ずつ進めるため、街区全体というより、住宅ごとのエネルギー自給率向上が基本となる。

「今回は政策も絡み、さまざまな条件付きでの開発となり、販売価格面などで難しさはある。しかし、住宅性能が高く健康増進にもつながるZEHは、自然に選ばれる住まいになると考える」(同)。さまざまな世代を呼び込みNT全体の魅力が上がるという好循環の実現は、民間事業者も含めて可能だと捉えている。