燃料油とLPが稼ぎ頭 地域新電力は危機に
海沿いの某地方都市で、燃料油やLPガスなどエネルギー販売事業を手掛けるK社。2016年の電力小売り全面自由化を受け、カーボンニュートラルを目指す地元自治体と共同で地域新電力X社を発足させた。太陽光や水力など地域の再エネ資源を活用した自前電源をベースに、日本卸電力取引所(JEPX)からも調達。事業開始から数年を経て、経営が軌道に乗り始めた矢先、JEPXのスポット高騰に見舞われた。
「ご多分に漏れず、X社も大赤字に転落し、存続の危機に立たされた」。こう話すのは、K社代表のZ氏。「一時は、大手エネルギー事業者系に売却する案も出たが、自治体側が地域新電力を何とか存続させたいと考えており、当社も支援を強化する形で何とか踏ん張っている」
幸い、K社では現在燃料油、LPガスの両事業が好調。新型コロナ禍の収束や、燃料油高騰に対する政府の激変緩和措置も奏功し、販売量、収益ともに安定した状態が続いているという。
「X社を立ち上げた当時の見立てでは、脱炭素社会の実現に向けて燃料油やLPガス販売は次第に縮小し、いずれはX社が地域のエネ供給で主役の座を担っていくと考えていた。ところが、現状では燃料油とLPガスのもうけで新電力を支える構図になっている。しかもX社の先行きは依然暗雲。脱炭素とは真逆の方向なので、これでいいのかという思いは正直ある」(Z氏)
こうした構図は他のエリアでも見られており、地域の再エネ資源を活用しながら、脱炭素化や経済活性化に結び付けていく事業の難しさが浮き彫りになっている。

北電の内外無差別絶賛 ネット媒体Nへの違和感
大手電力会社による内外無差別な卸取引を巡る議論が過熱する中、大手経済紙系のネット媒体「N」が「北電の群を抜く内外無差別対応、卸電力取引を社内外問わずブローカーに一本化」―のタイトルで配信した記事が、業界人の間で物議を醸している。
電力・ガス取引監視等委員会は、公平な電力市場競争環境を担保するために、電源の大部分を保有する大手電力各社に対し、自社の発電部門と小売部門間の取引と、社外の新電力などとの取引を公平に扱うよう求めている。
これに対応するため、各社は相対入札を実施するなど各様の取り組みで対応しているが、取引の透明性を確保するため第三者であるブローカーを介した卸売りの手法を選択したのが北電だ。
実際、6月27日に開催された電取委の制度設計専門会合でも、北電と沖縄電力の2社だけが23年度の相対契約について、「内外無差別な卸売りが担保されている」との評価を受けている。
だが、この記事に対し、電力市場に詳しいX氏は「まるで内外無差別であればあとはどうでもいいと言わんばかりだ」と厳しく批判する。記事の通り発電収益が最大化されているのであれば、それは発電部門が事業支配力を行使していることを意味し、独占禁止法抵触の可能性を指摘されてもおかしくないという。
北電社員の中からは、同記事中の「小売事業のことは小売部門が考える」との発言について、身内の小売部門を突き放すようなことを、胸を張って社外に言う必要があるのかと批判的な声も聞こえる。
「自社の小売りの競争力を削ぐような取り組みがまかり通るのであれば、いっそ発販分離してしまった方がいい」(X氏)。内外無差別への対応から、発販分離が一気に進んでもおかしくない。
話題の洋上公募第2戦 大手電力系が火花
再エネ海域利用法に基づき政府が実施する洋上風力公募が6月末に締め切られた。今回は応札企業に対し「かん口令」が敷かれているが、各海域を巡る情勢が少しずつ見えてきた。第一ラウンドを総取りした三菱商事以外の商社勢や外資の参加が目立つ中、注目されるのは大手電力系のR社とJ社の争いだ。両陣営とも、対象の4地点(秋田県八峰町・能代市沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖)のうち複数地点に応札しており、2地点ではバッティングしている。両社の親会社には同じ企業が名を連ねるが、応札に際して調整した様子はなく、激しい火花を散らしている。
自社ポートフォリオの脱炭素化に洋上風力が欠かせないとして、M&Aなどさまざまな手段を講じているJ社。今回は4地点中3地点に応札したとみられ、前回の辛苦をばねに悲願の落札に意欲を見せる。また、J社の大本命は次回以降のI地点とも言われている。公募では「国内実績」が必須。本命地点の権利獲得の確率をさらに高める意味でも、第2ラウンドの結果は重要な意味を持つ。
他方、R社は再エネ専業であり、最大30年占有できる促進区域への参入は必須だ。ある海域では自社軍より可能性が高い陣営に相乗りしたともみられ、第2ラウンドにかける意気込みが感じられる。
どちらの陣営に軍配が上がるのか。それとも勝者はまた別のグループとなるのか。引き続き業界の話題の的となりそうだ。

船頭多くしてどこへ? 混迷する都のエネ政策
東京都のエネルギー政策にちぐはぐ感が否めない。都は二つの有識者会議を発足させた。一つは元首相補佐官の今井尚哉氏らによる「エネルギー問題アドバイザリーボード」。水素に光を当て、火力発電を供給力不足への対応策と位置付け、積極活用に都民の理解を得る方策なども論点に上げた。ある都政関係者は「地に足のついた議論が期待できる」と評価する。
もう一つは「再エネ実装専門家ボード」。コアメンバーには脱原発と再エネ推進を掲げるS財団のL理事らが参加している。初会合でL理事は、火力の調整力を認めない典型的な再エネ万能論をぶち上げた。「再エネに前のめりだった菅政権と、現実解を模索する岸田政権の良いとこ取りをしたいのだろう。政界風見鶏の小池知事らしい。でも方向性が定まるわけがない。船頭多くして何とやらだよ」(都政関係者)。迷走の末、エネ政策はどこにいくのか。
メタハイに暗雲も 引くに引けない事情
次世代のエネルギーとして注目されるメタンハイドレート。「2027年度までの商業化」を国は目指すが、状況は厳しい。調査と試掘が進むものの、深海から採取されるためにコストがかかるなど、いまだに商業生産の見通しは立っていない。しかし「政治主導で決まったプロジェクトのため引くに引けない状況」(経産省OB)という。
メタハイの調査は1990年代から始まり、それまで年数億円程度の調査費だった。それが、15年にいきなり100億円規模に拡大した。テコ入れが本格化したのは「安倍晋三元首相が関心を持ったため」(同)。当時は3.11の影響で全国の原発が停止中。さらに中国の経済成長に伴うエネルギーの爆食が大きな問題となり、自前資源の開発が叫ばれていた。
安倍氏に近いシンクタンク経営者で論客のA氏がメディアでメタハイの可能性を盛んに強調し、彼の支持層、保守派評論家が追随した。そして安倍氏の側近だった元経産相のS氏も関心を寄せた。「首相案件なら多額の予算が付くとみて、経産省は調査事業を拡大した」(同)という。
A氏はその後16年に、自民党から参議院議員に当選。彼に近しいK参議院議員、T衆議院議員とそれに近い河野太郎氏がメタハイ予算をバックアップし、政治の応援団の規模が増えるに連れて予算も膨らんだ。22年度に太平洋側の試掘が始まり、予算は約272億円になっている。
A氏は自らが調査した日本海側にもあると主張し、花角英世新潟県知事も、産業振興から関心を寄せている。経産省は6月に日本海側のメタハイ調査も始めると西村康稔経産相が表明。東電柏崎刈羽原発の再稼働のために新潟県に送る「お土産」に見える。
しかし、産出試験の結果は芳しくない。そもそも脱炭素・脱化石の世界的な潮流の中で、「メタハイ開発自体の意義が問われている」(大手電力関係者)と見る向きも。これまでに投じられた巨額の国家資金が海の藻屑と化さないことを祈るばかりだ。