【イニシャルニュース 】燃料油とLPが稼ぎ頭 地域新電力は危機に


燃料油とLPが稼ぎ頭  地域新電力は危機に

海沿いの某地方都市で、燃料油やLPガスなどエネルギー販売事業を手掛けるK社。2016年の電力小売り全面自由化を受け、カーボンニュートラルを目指す地元自治体と共同で地域新電力X社を発足させた。太陽光や水力など地域の再エネ資源を活用した自前電源をベースに、日本卸電力取引所(JEPX)からも調達。事業開始から数年を経て、経営が軌道に乗り始めた矢先、JEPXのスポット高騰に見舞われた。

「ご多分に漏れず、X社も大赤字に転落し、存続の危機に立たされた」。こう話すのは、K社代表のZ氏。「一時は、大手エネルギー事業者系に売却する案も出たが、自治体側が地域新電力を何とか存続させたいと考えており、当社も支援を強化する形で何とか踏ん張っている」

幸い、K社では現在燃料油、LPガスの両事業が好調。新型コロナ禍の収束や、燃料油高騰に対する政府の激変緩和措置も奏功し、販売量、収益ともに安定した状態が続いているという。

「X社を立ち上げた当時の見立てでは、脱炭素社会の実現に向けて燃料油やLPガス販売は次第に縮小し、いずれはX社が地域のエネ供給で主役の座を担っていくと考えていた。ところが、現状では燃料油とLPガスのもうけで新電力を支える構図になっている。しかもX社の先行きは依然暗雲。脱炭素とは真逆の方向なので、これでいいのかという思いは正直ある」(Z氏)

こうした構図は他のエリアでも見られており、地域の再エネ資源を活用しながら、脱炭素化や経済活性化に結び付けていく事業の難しさが浮き彫りになっている。

燃料油販売は今や安定収益に⁉

北電の内外無差別絶賛  ネット媒体Nへの違和感

大手電力会社による内外無差別な卸取引を巡る議論が過熱する中、大手経済紙系のネット媒体「N」が「北電の群を抜く内外無差別対応、卸電力取引を社内外問わずブローカーに一本化」―のタイトルで配信した記事が、業界人の間で物議を醸している。

電力・ガス取引監視等委員会は、公平な電力市場競争環境を担保するために、電源の大部分を保有する大手電力各社に対し、自社の発電部門と小売部門間の取引と、社外の新電力などとの取引を公平に扱うよう求めている。

これに対応するため、各社は相対入札を実施するなど各様の取り組みで対応しているが、取引の透明性を確保するため第三者であるブローカーを介した卸売りの手法を選択したのが北電だ。

実際、6月27日に開催された電取委の制度設計専門会合でも、北電と沖縄電力の2社だけが23年度の相対契約について、「内外無差別な卸売りが担保されている」との評価を受けている。

だが、この記事に対し、電力市場に詳しいX氏は「まるで内外無差別であればあとはどうでもいいと言わんばかりだ」と厳しく批判する。記事の通り発電収益が最大化されているのであれば、それは発電部門が事業支配力を行使していることを意味し、独占禁止法抵触の可能性を指摘されてもおかしくないという。

北電社員の中からは、同記事中の「小売事業のことは小売部門が考える」との発言について、身内の小売部門を突き放すようなことを、胸を張って社外に言う必要があるのかと批判的な声も聞こえる。

「自社の小売りの競争力を削ぐような取り組みがまかり通るのであれば、いっそ発販分離してしまった方がいい」(X氏)。内外無差別への対応から、発販分離が一気に進んでもおかしくない。

話題の洋上公募第2戦  大手電力系が火花

再エネ海域利用法に基づき政府が実施する洋上風力公募が6月末に締め切られた。今回は応札企業に対し「かん口令」が敷かれているが、各海域を巡る情勢が少しずつ見えてきた。第一ラウンドを総取りした三菱商事以外の商社勢や外資の参加が目立つ中、注目されるのは大手電力系のR社とJ社の争いだ。両陣営とも、対象の4地点(秋田県八峰町・能代市沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖)のうち複数地点に応札しており、2地点ではバッティングしている。両社の親会社には同じ企業が名を連ねるが、応札に際して調整した様子はなく、激しい火花を散らしている。

自社ポートフォリオの脱炭素化に洋上風力が欠かせないとして、M&Aなどさまざまな手段を講じているJ社。今回は4地点中3地点に応札したとみられ、前回の辛苦をばねに悲願の落札に意欲を見せる。また、J社の大本命は次回以降のI地点とも言われている。公募では「国内実績」が必須。本命地点の権利獲得の確率をさらに高める意味でも、第2ラウンドの結果は重要な意味を持つ。

他方、R社は再エネ専業であり、最大30年占有できる促進区域への参入は必須だ。ある海域では自社軍より可能性が高い陣営に相乗りしたともみられ、第2ラウンドにかける意気込みが感じられる。

どちらの陣営に軍配が上がるのか。それとも勝者はまた別のグループとなるのか。引き続き業界の話題の的となりそうだ。

活況を呈す洋上風力ビジネス

船頭多くしてどこへ?  混迷する都のエネ政策

東京都のエネルギー政策にちぐはぐ感が否めない。都は二つの有識者会議を発足させた。一つは元首相補佐官の今井尚哉氏らによる「エネルギー問題アドバイザリーボード」。水素に光を当て、火力発電を供給力不足への対応策と位置付け、積極活用に都民の理解を得る方策なども論点に上げた。ある都政関係者は「地に足のついた議論が期待できる」と評価する。

もう一つは「再エネ実装専門家ボード」。コアメンバーには脱原発と再エネ推進を掲げるS財団のL理事らが参加している。初会合でL理事は、火力の調整力を認めない典型的な再エネ万能論をぶち上げた。「再エネに前のめりだった菅政権と、現実解を模索する岸田政権の良いとこ取りをしたいのだろう。政界風見鶏の小池知事らしい。でも方向性が定まるわけがない。船頭多くして何とやらだよ」(都政関係者)。迷走の末、エネ政策はどこにいくのか。

メタハイに暗雲も  引くに引けない事情

次世代のエネルギーとして注目されるメタンハイドレート。「2027年度までの商業化」を国は目指すが、状況は厳しい。調査と試掘が進むものの、深海から採取されるためにコストがかかるなど、いまだに商業生産の見通しは立っていない。しかし「政治主導で決まったプロジェクトのため引くに引けない状況」(経産省OB)という。

メタハイの調査は1990年代から始まり、それまで年数億円程度の調査費だった。それが、15年にいきなり100億円規模に拡大した。テコ入れが本格化したのは「安倍晋三元首相が関心を持ったため」(同)。当時は3.11の影響で全国の原発が停止中。さらに中国の経済成長に伴うエネルギーの爆食が大きな問題となり、自前資源の開発が叫ばれていた。

安倍氏に近いシンクタンク経営者で論客のA氏がメディアでメタハイの可能性を盛んに強調し、彼の支持層、保守派評論家が追随した。そして安倍氏の側近だった元経産相のS氏も関心を寄せた。「首相案件なら多額の予算が付くとみて、経産省は調査事業を拡大した」(同)という。

A氏はその後16年に、自民党から参議院議員に当選。彼に近しいK参議院議員、T衆議院議員とそれに近い河野太郎氏がメタハイ予算をバックアップし、政治の応援団の規模が増えるに連れて予算も膨らんだ。22年度に太平洋側の試掘が始まり、予算は約272億円になっている。

A氏は自らが調査した日本海側にもあると主張し、花角英世新潟県知事も、産業振興から関心を寄せている。経産省は6月に日本海側のメタハイ調査も始めると西村康稔経産相が表明。東電柏崎刈羽原発の再稼働のために新潟県に送る「お土産」に見える。

しかし、産出試験の結果は芳しくない。そもそも脱炭素・脱化石の世界的な潮流の中で、「メタハイ開発自体の意義が問われている」(大手電力関係者)と見る向きも。これまでに投じられた巨額の国家資金が海の藻屑と化さないことを祈るばかりだ。

経産・環境省人事で新体制 政策継続と新陳代謝図る


7月上旬、霞が関の人事が発令された。西村康稔経済産業相は今回の人事について「政策の継続性と新陳代謝の両立を図っていきたい」と説明。GX推進法総括責任者だった飯田祐二氏が経産次官、多様な問題が噴出したこの2年間、資源エネルギー庁長官を務めた保坂伸氏が経済産業審議官、そして保坂氏の後任のエネ庁長官には村瀬佳史氏が就任した。

人事が了承された6月27日の閣議に向かう西村大臣

安定供給と脱炭素の両立に向けた組織改編もあり、エネ庁資源・燃料部では石油・天然ガス課が「資源開発課」、石油精製備蓄課と石油流通課が「燃料供給基盤整備課」に、石炭課が「鉱物資源課」に統合されるなど、課の名称から化石燃料カラーを一掃。省エネルギー・新エネルギー部でも「水素・アンモニア課」を新設した。

他方、環境省では和田篤也次官が留任し、地球環境審議官に松澤裕氏、官房長に上田康治氏、総合環境政策統括官に鑓水洋氏といった体制に。会見で松澤氏は、欧州と異なり、火力も活用しつつ着実なトランジションを目指す日本のGXについて、「同じような事情の国を仲間につけ、こうしたアプローチもあると多くの国々に理解してもらうことが大事だ」とし、国際会議などの場で発信する必要性を強調した。(32頁に関連記事)

わが国原子力が直面する次の課題 EU方針踏まえ講じるべき策は


【識者の視点】奈須野 太/内閣府知的財産戦略推進事務局長

GX電源法が成立し原発運転期間に関する規制などが見直されたが、原子力を巡る課題は残存する。

同法成立に携わった内閣府幹部による、日本の原子力政策が取り組むべき課題への私見を紹介する。

今年の第211国会で「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX電源法)が成立した。筆者が担当した原子力基本法部分では、原子力委員会が6年ぶりに改定した「基本的考え方」を踏まえ、①国および原子力事業者が安全神話に陥り、東電福島事故を防止できなかったことを真摯に反省した上で、原子力事故の発生を常に想定し、その防止に向けて最大限努力すること、②国は、電力の安定供給の確保、カーボンニュートラル(CN)の実現、エネルギー供給の自律性向上に資するよう必要な措置を講ずる―などとした。福島事故の反省や2050年CNを踏まえた上で、原子力利用に係る原則が法律上も明確化され、気候変動と原子力政策がつながったのである。

また、原子炉等規制法に規定されていた原子炉の運転期間の規定が電気事業法に移管され、経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、原子力利用政策の観点から最長60年までの延長を認め、事業者が予見しがたい事由による停止期間に限りカウントから除外することとした。代わりに、高経年化した原子炉が30年超運転する場合、安全上の観点から10年ごとに原子力規制委員会の認可を受ける制度を、炉規法に設けた。これにより、立法趣旨につき議論のあった運転期間の規定の問題が解決をみて、安全確保を大前提に再稼働を進めていく環境が整備された。

タクソノミーの適格条件 最終処分のプロセス加速を

原子力政策の次なる課題の第一は、高レベル放射性廃棄物の最終処分のプロセス加速化である。

政府は、昨年末のGX実行会議および最終処分関係閣僚会議を踏まえ、最終処分の取り組み強化につき検討を重ねてきた。そして2月の最終処分関係閣僚会議で構成員の拡充を行い、一連の検討結果を取りまとめ、最終処分法の基本方針の改定案とした。その内容は、関係府省のメンバーを拡充した連携体制の構築、国から首長への直接的働きかけの強化、関心地域への国からの理解活動の実施や調査の検討の段階的申し入れからなる。

これに対し欧州では、持続可能な経済活動への投資をより確実なものにするため、何が持続可能な経済活動と呼べるのか、分類と基準・条件を法的文書として示す「タクソノミー」の取り組みを進めてきた。タクソノミーを参照して金融機関や投資家は投融資先を決定し、市場では財・サービスが選択される。市場はグローバルだから、わが国も無縁ではない。

原子力発電は、発電時における温室効果ガスの排出がほぼゼロであることから、一定の条件を満たすことで気候変動の緩和に貢献するとして、持続的な経済活動と認めることが22年に決定された。しかし持続的と認めるには、その活動が気候変動対策として有効であるだけでなく、汚染防止など他の環境目的を阻害しないものでなければならない。そこでタクソノミーでは原子力発電について、50年までの高レベル放射性廃棄物処分場の操業に向けた詳細かつ文書化された計画があることなどを適格条件とする。

日欧を比較すると、わが国では、政府側の取り組み強化に主眼が置かれている。欧州では、CNの目標年次から全体のロードマップを確定させるとともに、金融資本市場の後押しを受けつつ、資金の出し手であり、かつ財・サービスの購入者である国民を巻き込む工夫が凝らされている。

最終処分のプロセス加速化について、政府側の対応だけでは限界がある。気候変動と原子力政策、そしてグローバルな金融資本市場と財・サービス市場を俯瞰する欧州の例は参考とすべきだろう。

そして課題の第二は、事故耐性燃料の開発と実装である。

事故耐性燃料の開発・実装へ 金融・国民の理解不可欠

東電福島事故では、冷却機能を喪失した炉心内の高温の燃料被覆管と、ベントで炉心内圧が下がり急激に流入した水蒸気との反応で水素が大量発生し、爆発に至った。

原子炉の燃料集合体は、ジルコニウム合金の被覆管内に二酸化ウランの焼結体ペレットを装荷した多数の燃料棒により構成される。ジルコニウム合金は耐腐食性と併せ、熱中性子吸収が少ないため効率的な核分裂反応に寄与する特性を有するが、高温状態で水と反応し、熱と水素を発生させる。

福島事故の炉心溶融の主因は、核燃料の崩壊熱よりも、このジルコニウム・水反応とする見方もある。ジルコニウム合金表面にクロムコーティングした被覆管や炭化ケイ素複合材への置換など、事故時に水素が発生しにくい事故耐性燃料の開発と実装が急がれる。

福島の教訓から事故耐性燃料の導入が望ましい(出典:東京電力ホームページ、爆発後の1号機)

しかし事業者に事故耐性燃料の導入意欲を喚起することは難しく、技術成熟度も考えると法令での義務付けは時期尚早である。まずは関係者でロードマップを共有しつつ、研究開発と実装を促すことが必要ではないか。

欧州ではここでもタクソノミーにおいて、既設および新設の発電用原子炉に対し、規制当局からの認可済み事故耐性燃料の25年までの導入を適格条件とする。期限に間に合わずとも直ちに運転を禁止されるものではないが、課題と期限が共有され、金融資本市場を通じて後押しされる。

研究開発を進めても、関係者にロードマップが共有され、これに金融資本市場、そして国民の理解と協力が得られなければ実装は困難だ。全ての者に原子力を「自分ごと」として捉えてもらう仕掛け作りが欠かせない。ここでも欧州を参考とすべきところがある。

なお、欧州における最終処分の取り組みおよび事故耐性燃料の記述は、今年7月下旬に原子力委員会から公表される「令和4年度版原子力白書」に依拠した。文中の意見は個人のものであり、政府または原子力委員会の見解ではない。

なすの・ふとし 1990年東京大学教養学科卒、通商産業省入省(当時)。エネ庁核燃料サイクル産業課、原子力損害賠償支援機構執行役員、経産省産業技術環境局長、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官(原子力政策室長)などを経て現職。

豊富な風資源を最大活用へ 北海道北部送電が本格稼働


風況が良く風力発電の適地として期待される北海道北部地域。現在も大型の陸上風力建設が急ピッチで進むが、系統規模が小さく接続量に限界があるのが悩みの種だ。この地域で今年4月、風力専用の送変電設備が商業運転を開始した。

設備は、稚内市から北海道電力ネットワークが中川町に建設した西中川変電所までの約80㎞の送電線とそれをつなぐ269基の鉄塔、北豊富変電所・開閉所、出力変動を緩和・調整するための蓄電池システム(72万kW時)で構成。その整備・運営を担うのが、風力発電大手のユーラスエナジーホールディングスやコスモエコパワーなどが出資する北海道北部風力送電だ。

北海道北部風力送電の北豊富変電所

同社は13年に経済産業省が公募した「風力発電のための送電網等の実証事業」の事業者として採択され、16年に大手電力会社以外の民間企業として初めて、送電事業のライセンスを取得、18年に建設工事に着手した。総事業費は約1050億円。そのうち4割を補助金で賄う。

25年3月末までに9カ所計54万kWが接続される予定だが、北電系統への連系容量は30万kWに過ぎない。同社は9カ所まとめて風力発電の出力変動を調整するとともに、発電総量が30万kWを超える場合は公平に抑制をかける。系統制約という一朝一夕には解決できない課題がある中で、資源を最大限活用するための一つの解決策として注目される。

   *  *  *

エネルギーフォーラムは、脱炭素化の先進的な取り組みを調査するため、6月末に視察ツアーを敢行。北海道北部風力送電のほか、道内各地のエネルギー施設を巡った。92頁からその模様を紹介する。

日本の技術で途上国に電気を届ける エネルギー研修を大学で実施


【JICA/早稲田大学】

「ナイジェリアでは経済成長が著しい。地下には天然ガス資源が埋蔵されているものの、発電設備が足りずに電力の需要が追い付かない状況だ。日本の事情や技術を学びたい」「電力系統の安定化のために、日本にはどのような技術があるのか。そして、どのような技術をサモアに持ち帰ることができるのか知りたい」―。

国際協力機構(JICA)と早稲田大学が連携し、主に発展途上国の電力供給の実務を担当している人材を対象とした、日本の技術を学ぶ研修会。6月に行われた研修の場で、ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんがそれぞれ来日した動機を話した。

この研修会は、「再エネ拡大に向けたスマートグリッドと分散型エネルギー資源の管理」をテーマに3年前からJICAが主体となって開催している。過去2年はコロナ禍の影響もあり、オンライン研修だったが、3回目となる今回は、研修生の来日が初めて実現。会場となる早稲田大学で研修生たちは日本の技術を学んだ。

途上国の研修生が日本の技術を学んだ

8カ国の研修生が学ぶ DRの仕組みに期待を抱く

研修会に参加した国はメキシコ、インドネシア、マレーシア、フィジー、サモア、ナイジェリア、ケニア、モロッコの8カ国だ。

ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんはともに公務員として国内のエネルギー供給を支えている立場の人だ。両国は、人口も再エネ導入量も増えており、いろいろな課題を抱えている。「今回の研修でデマンドレスポンス(DR)を学んだ。系統の安定化に対応するにはバッテリー導入が対策の一つだがコストが掛かる。でも、DRの仕組みであればコストを掛けずに対応できる」「日本にはいろいろな技術があることが分かった。自分たちが課題を解決しようとするときに、ゼロから準備しなくてもよいことが分かった」。いろいろと研修の手応えを感じているようだった。

早稲田大学にはエネルギー需給を管理するシミュレーション設備があるほか、エコーネットライトに対応した家電設備群が備えられた模擬住宅も存在する。エコーネットライトとは、家電同士の「会話」を支える通信規格のことだ。こうした規格によって、家電設備などを制御するDRをスムーズに行うことができる。

研修業務を担う早稲田大学の石井英雄・スマート社会技術融合研究機構研究院教授は「研修会の場は発展途上国の人たちが日本の技術を知ってもらう機会になる。こうした機会が、今後日本のメーカーが海外に展開するときの一助になれば」と話す。

どうなる!? 函南町メガソーラー計画 トーエネックの提訴で新局面に


函南町軽井沢地区のメガソーラー計画撤退を発表したトーエネックが、関係事業者を相手取り提訴した。

訴訟に踏み切った背景は何か。計画の行方はどうなるのか。静岡県や経産省の対応に、住民側の関心が集まる。

「事業性を評価した結果、事業の開始が困難と判断した」―。

静岡県函南町軽井沢地区で計画されてきたメガソーラー事業。土砂災害を懸念する地元住民らが反対運動を起こし、中部電力子会社のトーエネックが撤退を発表したのが今年1月のこと。あれから約半年。事態は思わぬ方向へと向かっている。

去る6月2日に「既払い金の返還等を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した」と発表したのは撤退を表明したトーエネックだった。なぜ提訴したのか、まずは事業内容を簡単に振り返ろう。

トーエネックは2017年、約65‌haの土地に約10万枚の太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める事業計画を立てた。再生可能エネルギー事業を手掛ける東京産業の斡旋で、ブルーキャピタルマネジメントが18年4月にFIT認定IDを取得。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、トーエネックがその後の事業を引き継いだ。事業開始を25年10月としていたが、計画が災害リスクを誘発するとして地元住民が猛反対。函南町長も計画への不同意を示したことで、トーエネックは計画を断念し、昨年10月の段階で114億9000万円の特別損失を計上。1月に撤退を発表した。

トーエネックによると、事業撤退に伴い、ブルー、東京産業の両社とこれまでの契約を解除。事業にかかった費用の返還などを求める協議を続けてきたが、「交渉による解決は困難と判断」(トーエネック担当者)。今回の訴訟に踏み切った格好だ。

訴訟を受けた2社は反発 「契約解除の理由がない」

トーエネックから訴訟を起こされた2社はいずれも反発している。ブルー社は「本件訴訟は一方的な内容かつ契約解除の理由がない」などとするコメントを発表。東京産業も「(トーエネックが)主張する本件地位譲渡契約解除は理由がないと考えている」としている。両社とも裁判を通じて契約の正当性を争う構えだ。

実は、トーエネック、ブルー両社を巡っては、山梨県甲斐市菖蒲沢地区のメガソーラー開発事業でミソを付けた苦い経験がある。2年ほど前、ブルー社が林地開発許可を受けて工事を行ってきたメガソーラーの運営権利(FIT認定ID)を、トーエネックが取得。その後、調整池や水路、太陽光パネルの設置などで不正や欠陥が相次いで判明し、地元から不安の声が高まった。

山梨県の長崎幸太郎知事はトーエネックの幹部を県庁に呼び、設備の工事と維持管理に万全を期すよう要請。しかし同社が適切な措置を講じる前に、ブルー社に事業を売却してしまったことで激怒。メディアなどを通じて、「社会的な責任感が欠如している。極めて不誠実な行為で、強い憤りを禁じ得ない」「場合によっては人の命が関わる問題を放擲して逃げ去るのは、あまりにも無責任」などと痛烈に批判し、当時の幹部が謝罪する事態に追い込まれた。

「トーエネックからすれば、メンツをつぶされたようなもの。軽井沢案件で同じ轍を踏むことはできず、ブルー社にも責任の一端があると周知する狙いもあって、訴訟に踏み切ったのではないか」。事情通はこう話す。

ともあれ、住民側の最大の関心は、軽井沢計画のFIT認定IDの行方がどうなるか、だ。この点について、トーエネック側は「お答えできない」との立場だが、住民団体の幹部によれば「軽井沢計画は砂防指定地や土石流危険区域などに抵触していて、法令違反は明らか。静岡県は林地開発許可を取り消し、経産省も事業認定を取り消すべきだ」という。

実際、昨年12月には函南町議会が、林地開発許可の取り消しを求める請願を全会一致で可決。取り消し要望書を県に提出した。しかし関係者によれば、川勝平太・静岡県知事が林地開発許可取り消しに動く様子は今のところない。川勝氏の消極姿勢を巡っては、「再エネ推進派との関係性から、太陽光開発を否定する施策は打ち出しにくい」(地元関係者)とする見方や、「リニア問題の対応や自身のスキャンダルもあり、火種を抱えたくないのでは」(大手キー局記者)と勘繰る向きもある。

この問題に対し静岡県の動きは鈍い

認定IDの失効は回避か 川勝知事に重い責任

林地開発許可が取り消されない限り、経産省側も事業認定の取り消しには動きづらい。昨年4月施行の再エネ特措法に基づき、一定の期限までに運転開始に向けた進捗がない案件については認定を取り消す制度が導入され、今年3月末時点で約5万件が失効期限を迎えた。が、林地開発許可などを取得し系統連系工事着工申し込みが受領されている場合は、失効が猶予されるのだ。

FIT認定情報照会サイトで軽井沢計画を検索したところ、「23年4月1日以降、失効期限日を超過している可能性があり、認定状態を確認中」とのこと。ただ失効している場合は「認定が無効」と表示されるため、現時点では失効していない可能性が高い。

「トーエネックの撤退という大きな計画変更があり、認定の前提が崩れたことで、IDや訴訟の行方を注視していく。ブルー社が権利を引き続き、工事を強行するような展開だけは何としても避けなければならない」。前出の住民団体幹部は不安を募らせる。

今夏も、全国各地で豪雨による土砂崩れなどの被害が相次いでいる。メガソーラーの乱開発が土地に影響を与え、災害を引き起こす事例も年々増加傾向だ。21年7月には、静岡県熱海市の伊豆山で盛り土崩落による大規模土石流が発生し、28人もの犠牲者を出した。あのような悲惨な災害を回避すべく、国や自治体は住民の生命・財産を守るため最大限の措置を講じることが求められよう。

その意味で土石流災害を経験した県、とりわけ川勝知事の責任は重い。問題の軽井沢地区は、災害発生現場の伊豆山とは背中合わせの位置にあり、その距離はわずか4㎞と近接していることを、今一度思い返す必要がある。

秒読み段階の処理水放出 「国際情報戦」対応が重要に


「情報戦」は始まったばかりだ。福島第一原発の処理水放出を巡り岸田文雄首相は7日4日、来日した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長から海洋放出の安全性評価を含む包括報告書を受け取った。翌日、グロッシ氏は太田房江経済産業副大臣らと現地を視察。東京電力の小早川智明社長から説明を受けたグロッシ氏は「完璧だ」と評価した。

福島第一原発で東電の小早川社長から説明を受けるグロッシ事務局長と太田経済産業副大臣
提供:EPA=時事

日本政府は一部の国を除いた各国の理解を取り付けている。「反日」が根強い韓国でさえ、政府が国費をつぎ込み、海洋放出は危険ではないというユーチューブ広告を流すほどだ。IAEAのお墨付けを得て「科学か、非科学か」という次元で理解を求めた戦略的勝利といえよう。

一方で非科学的な反発を続けるのが、中国と韓国左派、北朝鮮だ。中国政府は処理水を「核汚染水」と表現し、日本の水産物規制を強化。韓国ではデモ隊が空港の貴賓室の前に座り込み、グロッシ氏への「物理的攻撃」に出た。

日本にも非科学的な姿勢を示した人物が一人。公明党の山口那津男代表だ。海洋放出の時期について、「海水浴シーズンは避けた方がいい」と発言。風評を広げる発言に批判が集まった。

原子力を巡る情報戦は「まだ序の口」と見る向きもある。というのも、六ヶ所再処理工場が稼働すれば海洋へのトリチウム放出量(管理目標値)は年間1京8000兆ベクレル。「京」という単位で明らかなように、福島第一原発だけでなく、中国や韓国の原発から出るトリチウム量をもしのぐ。

情報戦は、今後も日本の原子力政策と隣り合わせだ。だからこそ、今回の海洋放出を着実に実施する必要がある。

混迷深まる「中間貯蔵」の正念場 抵抗貫く青森・福井の舞台裏事情


関西電力は福井県の原発で発生する使用済み燃料の一部をフランスに搬出する方針を示した。

今年末に期限を迎える中間貯蔵施設の候補地提示を巡り、事態は正念場を迎えている。

「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と『同等の意義』がある」

物議を醸す見解だった。関電は6月12日、使用済みMOX燃料約10t、使用済みウラン燃料約190tを使用済みMOX燃料の再処理実証研究のためフランスに搬出する方針を発表。リリースで冒頭の表現を用い、杉本達治福井県知事に言明した「今年末までに中間貯蔵の候補地提示」との約束を「ひとまず果たされたと考えている」と結んだ。同月19日、経済産業省で杉本知事と面会した西村康稔経産相も同様の見方を示した。

福井県側の反応は厳しい。事実として、今回の方針は中間貯蔵の候補地を提示したわけではなく、搬出量は福井県内の原発で保管する全量の5%程度(約200t)に過ぎない。こうした理由から、6月13日の県議会全員協議会では議員から「関電の詭弁」との声も挙がった。福井県は本稿執筆時点(7月21日)で国に再説明を求めており、杉本知事は「国からの回答、立地市町の意見、県議会の考えを聞き、総合的に判断する」としている。

福井県の杉本達治知事(右)に方針を伝える関電の森望社長
提供:時事

立地自治体は一定評価 サイト内貯蔵の可能性は

その後、7月に入り、桜本宏副知事が高浜、おおい、美浜の各町長、美浜町に隣接する敦賀市長と次々に面談。この際、関電の原発が立地する高浜、おおい、美浜の3町長は今回の方針を「一歩前進」との表現で評価したが、「同等の意義」や約束が「果たされた」との見解には「違和感を禁じ得ない」(おおい町長)など苦言を呈した。杉本知事は7月13日の予算決算特別委員会で、「厳しい。一歩前進との声はあるが、今までの約束に至っていない思いがにじみ出ている」と述べ、「四半世紀以上の課題を解決しないといけない山場の時期が来ている」と強調した。

最終決着は、①サイト内での乾式貯蔵、②むつ中間貯蔵施設の共同利用―二つのシナリオが考えられる。だが、どちらも実現へのハードルは相当に高い。

使用済み燃料の貯蔵には、プール貯蔵のほかに金属製容器(キャスク)に入れ空気で冷やす「乾式貯蔵」がある。プール貯蔵よりも安全性が高く、中部電力、四国電力、九州電力はサイト内に乾式貯蔵施設の新設を計画し、運用開始に向け準備を進めている。

関電が所有する福井県内の原発は、稼働が続けば5~7年で貯蔵プールが満杯になる試算だ。21年2月、「23年末」を約束した関電の森本孝社長(当時)は「計画地点を確定できない場合には、確定できるまでの間、美浜3、高浜1、2号機の運転は実施しないという不退転の覚悟で臨みたい」と語ったが、実際に稼働停止した場合、立地自治体の損失は計り知れない。このため、立地自治体では運転継続や安全性の観点から、サイト内での乾式貯蔵の検討を求める声がある。それでも、福井県全体に受け入れられるかは不透明だ。

立地自治体は県南部の嶺南地域に密集するが、人口比は嶺北地域の4分の1程度に過ぎない。関電との約束の主体が県である以上、嶺北地域の理解が欠かせないが、今回の方針でむしろ反感を買っている状態だ。

宮下知事の態度軟化は 共同利用は「虫がよすぎる」

むつ中間貯蔵施設の共同利用にも、「宮下宗一郎」なる一人の男が立ちはだかる。20年12月、電気事業連合会は共同利用の方針を発表し、説明のために青森県へ幹部を派遣。三村申吾知事(当時)は「全く新しい話だ。本日は聞き置く」と回答を留保する中、むつ市の宮下市長(当時)が「あり得ないことだ」と強く反対して棚上げとなったのだ。

当時、電力業界と激しくやり合った宮下氏は、6月の青森県知事選で40万票を獲得して圧勝。再び共同利用を巡るキーマンとなった。就任会見では共同利用について「市長時代に申し上げたことと何ら変わらないので、同じスタンスで臨んでいきたい」と従来の姿勢を固持したが、宮下氏の決意は揺るがないのか。

宮下氏は原子力政策に理解がないわけではない。いや、むしろ「小野寺氏以上にしっかりとした信念を持っている」(後援会長を務めた末永洋一・青森大学元学長)。選挙公約でも、「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」と掲げた。

こうした宮下氏の姿勢もあってか、宮下氏が反対を貫くのは、関電をはじめ電力業界の対応に問題があったからと見る向きが少なくない。「中間貯蔵施設の運営主体である東京電力と日本原子力発電が方針を伝え、関電のトップが頭を下げればいい」(宮下陣営の関係者)など、電力側が筋を通すことで事態は打開できるのではないかというのだ。

加えて、青森県側には県やむつ市の財政状況から、核燃料税と使用済み核燃料税を求めて共同利用に積極的な声も存在する。宮下知事が県知事選で打ち出した県政改革を実現するためにも、核燃料税は予算確保策の一つだ。確かに「筋」や「金」の面から見れば賛成に傾く可能性もあるのだが、事はそう単純ではない。宮下知事のみならず、青森県側には共同利用への拒否感が根強くあるのだ。

福井県が県外搬出を求めたのは、使用済み燃料は消費地で引き受けるべきだとの理屈だった。しかし、都市部を中心とする消費地では貯蔵が難しい。「福井がダメ、消費地もダメ、だから青森」というのは唐突で、あまりに乱暴ではないか―。これが共同利用に反対する青森県側の理屈だ。異例の40万票を獲得した宮下知事が、簡単に首を縦に振るとは思えない。

関電は使用済み燃料の搬出容量を確保するため、引き続き「あらゆる可能性を追求」するとしている。今後はこうした関電の姿勢や核燃料サイクルの実現に向けた国のコミットを再確認するなど、国と福井県が協議した上で「方向性の整理」が行われる見込みだ。福井県側の違和感を払しょくし、納得感を得られるかが焦点だが、最終決着にはほど遠い。

LNG巡る潮目変化を象徴か 産消会議と資源外交の成果は?


ウクライナ戦争を背景に化石エネルギー資源の安定供給が世界主要国の重要な政策課題になる中、LNGの上流でも潮目が変わってきたようだ。

経済産業省は7月18日、LNGの生産国と消費国が集まる「LNG産消会議2023」を都内で開催した。国際エネルギー機関(IEA)と初めて共催し、17の国と地域が参加。LNGセキュリティの強化やLNGバリューチェーンのクリーン化などが議論の焦点となった。

冒頭、中東を歴訪中の岸田文雄首相が「今回の会議がエネルギーの、そして地球環境の未来を救うターニングポイントとなることを期待する」と動画であいさつ。LNGのクリーンな利用に向けた課題に対し産ガス国と消費国が連携して取り組む必要性を提起した。

会議では、①IEAのLNG分野に対する機能強化、②サプライチェーンから排出されるメタン対策への取り組み、③LNG調達支援に関する取り組み―を議論。この中で西村康稔経産相は、日本の取り組みとして、戦略的余剰LNGという新たな貯蔵制度や、仕向け地条項の撤廃に向けた世界的な取り組みのほか、日本貿易保険(NEXI)が金融機関から保険料を受け取り、短期契約の融資を肩代わりする支援策を表明した。

会議全体の成果については、LNGの安全保障強化やバリューチェーンのクリーン化に向けた課題を整理した上で、自主的な公約として議長国サマリーを発表した。

資源エネルギー庁資源開発課の長谷川裕也課長は、「日本からIEAの機能強化の議論を開始したこと、また議長サマリーに各国の政策を盛り込んだことは非常に重要だ」と話している。

今回のLNG産消会議は歴史の転換点となるか

岸田首相の中東歴訪 カタール復活へ地ならし

産消会議と並行する形で、岸田首相は中東3カ国(サウジアラビア、UAE、カタール)を訪れ、資源外交を展開した。エネルギー企業の幹部らも同行。とりわけカタールについては、増産権益の確保に向けた地ならしとして関係者の関心を集めた。かつてカタールとJERAは年間550万t規模のLNG長期契約を結んでいたが、21年末に終了したことで、関係が冷え込んだ。今回のトップセールスは中長期的な需要動向が見通せず、契約に二の足を踏むエネルギー事業者を、政府が全面的に支援するという意味で〝お墨付き〟を与えた格好といえる。

世界に目を向けても、LNG回帰とも取れる動きが進む。米石油大手のエクソンモービルは、30年までにLNG取扱量を現在の約2倍となる4000万t以上に拡大。英大手シェルも6月にLNG生産能力を年間1100万t増産すると発表した。「LNGの重要性が増すことで、日本が国際市場をリードする立場になる」。エネ庁幹部は意気込みを見せる。

エネルギーアナリストの中には、「化石回帰はウクライナ戦争などに伴う一時的な現象。欧米で脱炭素志向が主流であることに変わりはない」と見る向きも。果たして、来年の産消会議ではどんな議論が展開されることになるのか。

原子力開発最前線 三菱重工業 「SRZ―1200」に〝横綱〟の風格


【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

GXで原子力発電の役割が欠かせない中、三菱重工業は強力なラインアップを揃えた。

中でも安全性、経済性を格段に高めた革新軽水炉「SRZ―1200」には、〝横綱〟の風格が漂っている。

日本の重工業を常にリードしてきた三菱重工業。維新なった明治の治世、富国強兵策をガッチリと支えてきたのである。始祖・岩崎弥太郎の下、重厚長大をもって日本の産業構造の基盤を下支えすることは三菱の創業以来の至上ミッションであったし、それは実践と実績に基づいた史実でもある。

弥太郎の理念はその三綱領にあらたかである。①所期奉公(社会貢献)、②処事光明(フェアプレイ)、③立業貿易(グローバル対応)―。これらは昨今のSDGs(持続可能な開発目標)にも通じるものがある。

1873年の三菱商会の発足から今年でちょうど150年。三菱グループの枢要企業三社の一角をしめる三菱重工が、GX(グリーントランスフォーメーション)のエネルギー政策の要である「原子力発電を最大限に活用する」ための切り札を打ち出してきた。

それは三つの構成要素からなる。革新軽水炉、高温ガス炉、そして高速炉のトリニティだ。

最大限活用の切り札 三菱ならのラインアップ

SRZ―1200―。GXに欠かせない大量の電源、しかも既に実用化されている大型軽水炉の範疇で、太陽光や風力というVRE(変動電源)との相補性に優れる革新軽水炉をまず打ち出した。

革新軽水炉「SRZ―1200」のイメージ図

それに加えて、GXに欠かせない大量水素製造の可能性を秘めた高温ガス炉、そして資源小国日本の国是であるウラン資源の最大活用、つまり〝閉じた〟核燃料サイクルの中核を担うナトリウム冷却高速炉。いずれも実績に裏打ちされた原子力開発のリーディングカンパニーならではのラインアップである。それらは日本のみならずグローバルに通用するものである。

EUタクソノミーは欧州を基軸に、それぞれの発電方式が地球温暖化の阻止に役立つか否かのレッテルを貼る分類法であり、世界の価値基準と目される。そして、2023年1月に欧州議会で「原子力はグリーン」と裁定された。まことに真っ当かつ未来に明かりをともす喜ばしいニュースであった。

SRZ―1200は、3.11で得られた教訓が随所に実践展開された、まさに〝決め打ち〟の革新軽水炉である。

世界に目を転じれば、フィンランドでちょうど今年4月に稼働したヨーロッパ式大型軽水炉は、建造過程で変更に変更を重ね大幅な工期延長と最終的に1兆円を超えるコストを費やしてしまった。

三菱重工の〝決定打〟、SRZ―1200は、資源エネルギー庁が2030年の新設プラント建設費として想定している6200億円と同等の水準を目指すとしている。うれしい話ではないか。安全確保上、いわゆる世界一の極めて厳しい地震・津波対策が必須の日本でこの価格なのである。海外ではもっとお安くなるのではないか。

そして特定重大事故等対処施設(特重)は大幅な合理化も期待される。重大事故に対する安全確保の要は、建屋を強固な岩盤に埋め込むことによる耐震性強化、津波などによる溢水を排除するドライサイト、受動的と能動的な安全システムのベストミックス、二重格納容器による航空機などの外部飛来物への耐衝撃性の向上、そして放射性希ガス(XeやKr)さえも環境に漏らさない放射性物質放出防止システムの導入などである。

結果として、現行の原子力規制の下では追加設置が義務付けられているあの長大でドンキーな特重施設がもはや不要となる可能性を秘めている。これはとてつもなく明るいニュースだ。

3.11で得られた教訓を基に安全対策は多重性、多様性を重視している

原子力志望の若者 未来への熱い夢

原子力セグメント長の加藤顕彦常務執行役員の話では、ここ数年、三菱重工の原子力部門の新規採用は増加傾向にあるという。一部のアンチのメディアに惑わされることなく、自分の頭で思考する若者が確実に増えていることは、私自身の中学生や高校生への授業と対話交流、大学生・院生への講義などを通じて如実に感じてきた。

3.11以降、大学院の人財育成は助成金行政のもと、原子力分野では福島第一の廃炉と原子力規制に資源が集中投下されてきた。が、私に言わせればどちらも後ろ向きである。あまり夢がないのだ。これでは弥太郎の「三綱領SDGs」に能うところがない。革新的原子炉の研究にこそもっと熱い夢が語られ資源が配分され夢の実現がなされるべきである―そう思ってきた。

三菱重工には、原子力の革新的未来に応えようとする若者が集まってきているという。それは、いわゆる原子力プロパーの学部や選考ではなく、どうやらその他分野の工学や理学などから目先のきく若者がやってきているようなのである。

横綱を土俵に上げるには 政府は投資環境の整備を

土俵は整いつつある。つまり、政府はGXに向けて「原子力の最大活用」の掛け声のもと、革新軽水炉の新増設と従来の原子力政策を180度転換した。そして原子力産業の〝横綱〟、三菱重工はこれぞ決め打ちの革新軽水炉SRZ―1200をもって、土俵下でどっかりと構えている。横綱は呼び出しの声を待っている。設計図はある。工場も準備万端、手ぐすねを引いている。しかし呼び出し(発注)がなければ、横綱も土俵に上がることさえままならない。

電力会社が発注をためらう理由は何か。3.11以後の原子力を巡る環境の急速な悪化である。

稼働中の発電所をいきなり停止させる「仮処分」、いまだに再稼働の審査を続ける原子力規制委員会の怠惰、稼働を巡り「住民投票」をちらつかせる首長の存在―。 これだけのリスクが顕在化する中、誰がリプレース・新増設に数千億円の費用を融資するだろうか。投資した金額の回収を保証する枠組みをつくること。これこそが今、政府が取り組むべき事柄である。 今年、第7次エネルギー基本計画の策定が動き始める。この場で良識ある人たちが声を上げ、政府に重い腰を上げさせなければならない。

三菱重工は、呼び出されれば10年でSRZ―1200を完成させるという。政府が本腰を入れるならば、50年に向けてのGXにはなんとか間に合いそうである。

私たちは今、向こう半年程度で一体何が起こるのかを注視せざるを得ない―。そう思うのである。

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ工学所客員研究員、東京工業大学助教などを経て2022年から現職。工学博士。専門は原子核工学。著書に『原子核工学入門』『やってはいけない原発ゼロ』など。

【マーケット情報/7月28日】原油上昇、需要の回復期待がさらに拡大


先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇した。米国の利上げ終了観測や、中国の景気刺激策などから、需要増の見通しが広がった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が追加の利上げを発表した。ただ、市場では年内の再利上げの可能性は低いとの観測が広がり、需要の回復期待が高まった。第2四半期の米GDP成長率は年率換算で2.4%と、市場予測を上回った。これらを受けて、FRB議長が、年後半に不況入りする見通しはないとする発言も材料視された。

中国では、建設業界に対する景気刺激策の発表が市場で好感された。

国際通貨基金(IMF)は、米金融セクターにおける脆弱性の改善などを受けて、今年の世界経済成長予測を、4月の発表時から0.2%、上方修正した。

供給面では、米国の週間在庫が、輸入減から減少に転じた。石油ガスリグの稼働数が、前週から減少したことなども、油価の上昇圧力となった。

また、ナイジェリアでは、フォルカドス輸出ターミナルが、装置不具合とみられる原因から一時閉鎖された。サウジアラビアが、日量100万バレルの追加減産を9月も継続するとの見方が広がった。


【7月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.58ドル(前週比3.51ドル高)、ブレント先物(ICE)=84.99ドル(前週比3.92ドル高)、オマーン先物(DME)=85.26ドル(前週比3.61ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.97ドル(前週比3.50ドル高)

次代を創る学識者/金田一清香・広島大学大学院先進理工系科学研究科准教授


建物の省エネと快適な空間の両立を目指す建築環境工学。

この研究を生かし広島大学の2030年カーボンニュートラル達成に取り組む。

人間にとって最も身近な環境としての建築空間を考える建築環境工学。住宅に限らず、学校や店舗、ビルなど建築物全般の建築空間に関する学問であり、風の取り入れ方、空気の流れ、採光や断熱といった工学的設計を施し、快適な空間を実現していく。さらに、空調や換気設備においては省エネも踏まえなければならない。

この中で、金田一清香准教授は「空調システムの省エネルギー化」「未利用エネルギーの熱的活用」をテーマに取り組む。

現在注力するのが、2021年に広島大学が東広島市、住友商事と締結した連携協定と合わせて発表した「カーボンニュートラル(CN)×スマートキャンパス5・0宣言」に関する活動だ。大学敷地内に再生可能エネルギーを設置するなどして30年のCN達成を目指しており、金田一准教授は建物の省エネに関する取り組みを担当する。現在PPA(電力購入契約)で5000kWの太陽光発電を導入中。今後は金田一准教授が専門の地中熱利用システムの導入を進める計画だ。

地中熱に関しては20年ほど前から研究を行ってきた。欧州や中国の導入事例などを横目に見ながら、ポテンシャルの高さを感じていたが、ボーリングなどのコストがネックとなり、国内では大きな広がりを見せていない。

国内では、スウェーデンの家具大手イケアが複数店舗で地中熱設備を導入しており、金田一准教授の研究室でも運用面でサポートしている。地中熱は導入時だけでなく、導入後も継続して運用の仕組みづくりが必要とのことだ。広島大では比較的小規模な既存建物でも省エネ運用ができる仕組みを目指す。

「中国地方は温暖だが、東広島市は内陸で冬の冷え込みが厳しく、夏の冷房と冬の暖房で同じくらいの電力を消費する地域。地中熱は活用しやすい。大学は教員や学生の滞在時間が長く、多くのエネルギーを消費する。最適な設備が導入できたらと考える」(金田一氏)


北海道より寒い本州の住居 温暖地で快適な空間構築へ

北海道出身の金田一准教授は1972年の札幌五輪選手村施設を活用した集合住宅で育った。「当時ではまだ珍しい地域暖房を採用した建物で、家族で光熱費に関する話などをよくした。また、父が新聞記者でスパイクタイヤの粉じん公害問題を取材していた。今思い返すとそうした素地がエネルギーに関連する研究に携わるきっかけになったかもしれない」(同)

北海道から、東京と広島に移住して感じたことがある。それは温暖地のはずなのに家の中が寒いことだ。北海道の住居はきちんと断熱が施されており寒さをがまんすることはない。温暖地でも寒さをがまんしたり使用エネルギー量を増やすことなく、快適な空間で過ごせるように、温暖地の風習に合った全館暖房、セントラルヒーティングの構築も検討する。

そうした活動にも積極的に取り組んでいく考えだ。

きんだいち・さやか 1976年北海道生まれ。2004年9月北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士課程修了。北海道大学大学院工学研究科特任助教、東京大学大学院工学系研究科特任助教、広島大学大学院工学研究院助教を経て、18年から現職。

【メディア放談】関西電力の使用済み燃料貯蔵 意表を突いた中間貯蔵の解決策


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ・ジャーナリスト/5名

関西電力は使用済みMOX燃料、使用済み燃料をフランスに輸送する計画を明らかにした。

それで県外搬出を求めた福井県との約束を果たしたとするが、先行は見通せない。

―この座談会でも度々話題になった、関西電力の使用済み燃料中間貯蔵の問題に進展があった。仏オラノ社での使用済みMOX燃料の再処理の実施研究用に、関電の使用済みMOX燃料(10t)と使用済み燃料(190t)をフランスに輸送する。

ジャーナリスト 電事連の発表(6月12日)と同じタイミングで、関電の森望社長が福井県の杉本達治知事を訪れて、「中間貯蔵の県外立地と同じ意義がある」と説明した。フランスでの共同実証は電事連の発表で、一見、電力業界としての取り組みに見える。だが、実際は関電の関電による関電のための事業だと見ている。

―マスコミ関係者はそういう見方のようだ。

ジャーナリスト 六ケ所再処理工場ですら稼働していない中で、今、使用済みMOX燃料再処理の実証研究を始める必然性はない。日本から使用済みMOX燃料を運ぶ理由を、フランスよりもプルトニウム含有量が多いためとしているが、使用済み燃料の輸送も必要なのか分からない。

―確かに、なぜ費用をかけて、放射性物質の海上輸送というリスクを冒してまでフランスに運ぶのかとの疑問は残る。

ジャーナリスト 「2023年末までに中間貯蔵施設の計画地点を示す」という福井県との約束を果たすために練った計画だろう。関電は約束が果たせなければ、40年超運転の高浜1、2号機、美浜3号機を運転しないと明言していた。電力さんはどう思う?

電力 ノーコメントだ。

マスコミ ただ、今まで使用済みMOX燃料の再処理についてはあいまいなところがあった。以前、共同通信が「電力業界が使用済みMOX燃料の再処理を断念」と配信して、経産省も巻き込んで騒動になったこともあった。それで、プルサーマルを行っている発電所の地元の人たちは不安を募らせている。その点で、例え関電の中間貯蔵問題の解決が目的だったとしても、実証研究の開始は意義のあることだと思う。


リスク多い海外再処理 むつ市「拒絶」で準備か

―電力業界は、もう使用済み燃料の海外再処理は行わないと表明していたはずだ。

マスコミ 核不拡散上のリスクはあるし費用もかかる。それを再開するわけだから、かなりの時間をかけて水面下で国内外の関係者と調整していたはずだ。

関電は、電事連とエネ庁の幹部が20年12月に青森県むつ市を訪れた時から、役所と準備を進めていたんじゃないか。むつ市の中間貯蔵施設を電力業界が共同利用する案を当時の宮下宗一郎市長に示して、一蹴された。その時点で、23年末までの国内での計画地点の提示はあきらめたと思う。

【礒﨑哲史 国民民主党参議院議員】「次世代燃料に複数の選択肢を」


いそざき・てつじ 1969年生まれ。東京都出身。93年東京電機大学工学部卒、日産自動車入社。2005年日産労組常任委員、12年自動車総連特別中央執行委員。13年参院議員初当選(比例区)。21年3月国民民主党入党。同党副代表、参議院国会対策委員長。当選2回。

モノ作りへの興味から日産に入社。労働者が安心して働ける環境づくりに奔走する。

当選後は「対決よりも解決」の姿勢を堅持。議論ではデータに基づいた政策を訴える。

幼い頃からモノ作り、特に車のメカニズム部分に興味があった。「将来は車の開発に携わりたい」と思い、東京電機大で機械工学を学び、日産自動車に入社した。開発部門で腕を振るう中、労働組合の活動にも従事。真面目に地道に働く組合員が、安心感を得られる環境づくりに奔走した。

2011年秋ごろに、組合幹部から政治家への転身を打診された。これまで支える立場だった議員に自分がなれるだろうか、という思いを抱える中で「働く者の代表として、声をかけてもらった期待に応えたい」と政治の世界に飛び込む覚悟を決めた。13年の参議院選挙に民主党(当時)から比例区で出馬すると、約27万1500票を獲得し、同党の比例区で最多得票を得た。

参議院議員になってからは、自動車産業での経験を生かし、議員として各委員会で質疑を行い、政府・与党に政策を実行するよう提案してきた。中でも16年の決算委員会では、対面通行の高速道路で反対車線飛び出しによる死傷事故が増加していることを懸念。中央分離帯をラバーポールから安全性の高いワイヤーロープに変更することで事故数を減らせると説得した。

すると「委員会終了後に、国交省から『先ほど礒﨑先生から質問があった問題について、大臣からすぐ検討するよう指示があった』と言われた」。野党でも批判ありきで質問するのではなく、データに基づいた議論をすれば政策は動くと確信した。民主党以降は民進党を経て、21年に国民民主党に合流。現在は党副代表、参議院国会対策委員長を務める。労組出身として働く人の不安を解消するために活動する信念はこれまでも、これからも変わらない。

自動車産業での知見、労働組合での経験はエネルギー分野にも生かされている。自動車関係の諸税では購入時、保有時、使用時の3段階で9種類の税金が課せられ、二重課税や税収用途変更を問題視。とりわけエネルギー面では、ガソリン価格に含まれる税金から、消費税が上乗せされる構造の見直しを訴える。石油燃料の代替えとなる可能性がある水素由来の液体燃料や合成燃料(e―フュエル)に対しても、カーボンプライシング(CP)などの課税には疑問を呈している。

内燃機関の未来については「液体燃料でなければならない分野と、電気自動車(EV)、燃料電池を活用できる分野。どちらか一つではなく、さまざまな組み合わせで総合的に進むだろう」と予測する。液体燃料は持続可能な航空燃料(SAF)や、船舶での活用が前提だが、自動車産業も液体燃料普及の一端を担うことができると話す。

他方で、電気自動車の普及促進も欠かせない。水素を燃料とする燃料電池車(FCV)やEVには、既存設備の活用や環境面など、それぞれに強みを持ち、水素製造コストやレアメタル埋蔵量などで課題を抱える。「インドや東南アジアなど新興国の産業が何を望むのかも重要だ」。次世代燃料に複数の選択肢を持ちながら、同時並行で開発する必要性を訴える。


GX法案は「時間かけ議論が必要」 雇用配慮しながら脱炭素を訴える

5月には、参議院で可決成立した「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」について、経済産業委員会のメンバーとして精力的に質疑を行った。電気事業法、原子炉等規制法、原子力基本法、再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)、再処理等拠出金法の5改正案による「束ね法案」として提出された同法案について「時間をかけて法案の中身を審議する必要性を感じた」と、法案を束ねたことによるマイナス面を指摘。原子力法案と再エネ法案を分けて議論すべきだと話した。

自身もGXの推進は理解するものの、その中身が国民に広く知れ渡っていない現在の状況に警鐘を鳴らしている。車のEV化に伴う産業従事者の不安の声を聞き、「GX脱炭素電源法」より先に成立した「GX推進法」の中に、雇用に配慮しながら脱炭素を進める「公正な移行」という条文の記載を与野党で調整した。

問題の周知に必要なのは、丁寧な議論と、時間をかけた国民への説明だと話す。「エネルギーは普段当たり前にあるが、不都合が起きて初めて『当たり前ではない』と気づく世界。知っているようで理解するには難しい話が多い」。議論を分かりやすく伝え、国民民主党の「対決より解決」の姿勢を堅持する。

多忙な議員生活の傍ら、数少ない癒しのひと時は家族との家庭菜園だ。「車の機械をいじるのと同じで、やはりモノ作りが好き」だと話す。これからもモノ作りの精神で一つひとつ着実に成果を生み出し、現実的かつ柔軟な政策を提案していく。

掛川市で耕作放棄地を利用 地域振興へ新たな名産目指す


【エネルギー企業と食】中部電力×ホップ栽培

中部電力では地域振興の一環として、静岡県掛川市で耕作放棄地を利用したホップの試験栽培を行っている。4月には地元の小学生20人を招いて、ホップの植え付け体験会を開催。およそ1400㎡の土地に約200株を植えた。中部電力静岡支店・地域共生グループの清水康広副長は「この取り組みが、掛川市の産業活性化と地域振興につながればうれしい」と話す。

中部電力の清水康広氏(右)と、農業法人「多好喜」の鈴木孝之氏(左)

栽培のきっかけは、静岡経済同友会の会議体「テイクオフ静岡」で、クラフトビール事業などを手掛ける「ZOO(伏見陽介社長)」が、ホップ活用策を提案したことだ。「中部電力の掲げる地域振興の理念と共通する部分があった」(中部電力静岡支店・地域共生グループ中野進課長)として、中部電力が事業の安定化まで協力。地元の農業法人「多好喜」が栽培を担う。柑橘系の香りが特徴のカスケードという品種を採用し、昨年度から始めた栽培は500株に達した。近隣の島田市でもホップ栽培の実績があることから、掛川市でも新たな地域事業になると見込んでいる。実ったホップは地場産ビールとして販売を検討するほか、風味を付けた炭酸水など新たな商品開発にも取り組む予定。

品質の良いホップが育つには3~5年ほどかかると言われる。初年度に栽培を始めたホップは来年夏に3年目を迎える。取材で訪れた栽培地では、2年目のホップながら、収穫を前に青々とした実がついていた。清水氏は「ホップの栽培は掛川の主力農産業である茶畑と収穫時期がずれている。地元の新たな産業に育てていきたい」と将来を見据えた。掛川市も「耕作放棄地の増加や農業の担い手不足に直面している。今回の活動が課題解決の一助になれば」と期待を寄せる。

ホップ栽培は、次世代に向けた環境教育の側面でも地域に貢献している。4月の植え付け体験会に参加した小学生は、畑に穴を掘ってホップの苗を植え、肥料や水をまくなど、地場農産業の大切さを学ぶ機会に。生徒たちからは「苗が成長するのが楽しみ」と大好評だったという。「ホップの天ぷらも食べてもらったが、子供たちには少し苦かったようだ」と清水氏は振り返る。

中部電力は、地域の課題解決や地域の発展に少しでも貢献できればという考えのもと、全社を挙げて「地域共生活動」を展開しており、ホップ栽培などを通じて、地域の皆さまからの信頼に応え、エネルギー企業として地域と共にこれからも歩んでいく。