インタビュー:荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授
再エネ主力電源時代の系統安定化策の一つとして、政府が強力に後押しする系統用蓄電池。系統WGの座長を務める荻本和彦・東京大学生産技術研究所特任教授に、その期待と課題を聞いた。
―系統用蓄電池に対してどのような役割を期待していますか。
荻本 再生可能エネルギーの導入拡大が進めば太陽光や風力発電の出力制御量が増えるため、調整力のニーズがますます高まることが予想されます。時間ごとの電力価格の差が生じることになりますから、系統への蓄電池導入が進むことにより、蓄電池裁定取引で電力システム全体の需給改善が図られることに加え、応答速度や継続時間などに応じたさまざまな種類の調整力のニーズに対応する役割が果たされることを期待しています。
―北海道エリアでの系統接続申し込み急増に伴う、系統増強の必要性が課題として浮上しました。
荻本 蓄電池側に制約が掛かることを回避するために送配電網を増強することは、本来の姿ではありません。また、系統WGでは、蓄電池が充電する際に需要方向の混雑が発生すれば、本来の電力需要の新たな接続を阻害するのではないかという懸念も指摘されていました。再エネの系統接続で起きたような問題を繰り返さぬよう、系統WGの議論を経て関係者による検討が始まっています。
資源エネルギー庁によると、現在、系統用蓄電池は「系統に直接つながれている設備」とのみ定義されています。しかし、本来求められている「系統の役に立つ」蓄電池にしていかなければ導入の意義はありません。系統安定化のために蓄電池をどのように活用するかしっかりと見極め、それを実現するための制度を充実させていくことは大きな課題です。どのような技術的な要件が必要なのかを明らかにして設備を形成していくことで、産業育成にもつながります。
―高いコストが課題です。
荻本 電源や需要側設備に併設されない蓄電池は、裁定取引と併せ調整力のニーズに合わせて自由に充放電ができます。市場取引で収入を得るほか収益源がなく、非常に高速・大容量の調整力になります。一方、エネ庁は、需要側の設備を活用した次世代型の分散型電力システムの検討にも着手しようとしていて、これは需要の都合があり使いづらく比較的ゆっくりとした制御に限られる面もありますが、高い経済性を期待できます。それぞれの特性を生かしながら活用していくことが肝要です。
―事業者に求めることは。
荻本 どのエリアでどのような出力制御が生じるかなど、これまでもある程度のデータが公開されてきましたが、今後は質・量がさらに充実した情報の提供が期待され、自社が設置しようとしている設備が、将来どのような価値を持つか検討しやすくなると考えられます。市場の将来のニーズを先見性を持って分析してそれに適した設備を設置することで、価値の高い、すなわち採算性の高い設備となります。今、北海道の調整力コストが他エリアよりも相対的に高いことは確かですが、将来に渡って高い水準であることを保証するものではありません。蓄電池を運用する20年間を見据え、本当の意味で系統に役立つ蓄電池などの設備を導入していただきたいと思います。