火力燃料を巡る情勢が激変する中、JERAの3代目社長に就任した。LNG調達の安定性、柔軟性の確保に加え、ゼロエミ火力への段階的な移行に力を入れる。
【インタビュー:奥田久栄/JERA社長CEO兼COO】
志賀 東京電力と中部電力の火力発電部門の統合会社として2015年に発足してから8年。3代目社長に就任されました。中部電力ご出身ですが、入社の経緯からお聞かせいただけますか。
奥田 学生時代から、地域経済の発展に貢献したいという気持ちを持っていました。また、英語で時事問題をディスカッションするサークルに入っており、米ソが核軍縮に合意し、レーガン・ゴルバチョフ両首脳が握手を交わす映像には大変衝撃を受けました。戦争勃発の端緒の多くがエネルギー問題であり、世界平和の礎として非常に大きいと感じたこともきっかけとなり、最終的に中部電力を選択しました。

アライアンス推進室長、JERA常務執行役員、取締役副社長執行役員 などを経て2023年4月から
代表取締役社長CEO兼COO。
志賀 19年にJERAの経営企画担当常務に就任されました。その後、わずか数年でエネルギーを巡る情勢は様変わりしてしまいましたね。
奥田 どのような情勢下においても、クリーンなエネルギーを安定的に届けるための新しい基盤を作るという当社の使命が変わることはありません。ただ、19年当時は、海外との資源獲得競争が激化していく中でこれを達成していくことに重きを置いていたのに対し、20年以降、新たに脱炭素への要請が強まったことで、より多くの手段を駆使しなければこれを実現できなくなりました。ゼロエミッション火力を実現するとともに、有事にも強い供給基盤、そしてデジタルを活用したプラットフォームを作り上げていくことで、使命を果たしていく方針です。ウクライナ問題を契機に、違う次元のエネルギーセキュリティが求められるようになりましたので、より困難な挑戦になると考えています。
統合で調達規模拡大 トレーディングに強み
志賀 統合のメリットをどう見ていますか。
奥田 とてつもないメリットがあったと思います。当初は、5年間で1000億円のシナジー効果を出すと言っていたのですが、22年度末でそれ以上の効果が出ています。業務の手法や発電所の運用を標準化することでコストダウンを図ることができましたし、燃料調達規模が拡大し、本社をシンガポールに置くJERAグローバルマーケッツ(GM)は、今や世界最強の燃料トレーディング部隊です。世界中の石炭、LNGの需給に関する情報を得ながら燃料を上手に動かして、売り手・買い手双方Win―Winの関係を作りながら収益を出すことができています。
志賀 30年ごろにはLNGの契約更改期を迎えることになります。
奥田 徐々にアンモニア・水素に置き換えていくとはいえ、LNGは当面の間、魅力的な低炭素燃料であり、今後10、20年は活用していかなければなりません。LNGが普及していないアジア諸国では、これから燃料転換していくわけですから50年においても魅力的であり続けるでしょう。一方で、これまでは一定量をベース的に利用することができましたが、これだけ再生可能エネルギーが導入され日本の電力需要も成長しないという状況ですから、LNGは調整力としての役割を担うようになっています。従来からあった季節間変動のみならず、再エネ導入による短期変動も大きくなり、安定性と柔軟性を確保していくことは非常に難しくなってきています。毎月一定量の受け入れとなる長期契約だけでは、求められているLNGの役割は果たすことはできません。長期、中期、短期の契約とスポット調達―。これらをいかに上手に組み合わせたポートフォリオを作り上げるかが、大きな焦点になります。そういったポートフォリオを組んだ上でも対応しきれない変動がありますから、その時により経済的に、確実に対応するためのトレーディング力を強化していくことも重要です。













