【特集1】効率的なCO2分離・回収技術を確立 石炭火力ゼロエミ化へ実証終了


中国電力とJパワーが大崎クールジェンで取り組んできた酸素吹きIGCC+CO2分離・回収技術。究極のクリーンコールテクノロジーとして脱炭素実現へのゲームチェンジャーになるか。

中国電力とJパワーが共同出資する大崎クールジェンでは2019年、石炭からガスを精製しそのガスから製造した水素で発電する「酸素吹きIGCC(石炭ガス化複合発電)」に、CO2分離・回収設備を付設し、石炭利用のゼロエミッション化に向けた技術実証を進めてきた。 

これは、ガス精製後の石炭ガス化ガスをCO2分離・回収設備へ送り、シフト反応により一酸化炭素(CO)と水蒸気(H2O)からCO2と水素(H2)に変換し、CO2吸収塔でCO2のみを分離・回収する仕組み。燃焼前の燃料ガスから分離するため、燃焼後の排ガスからに比べ、濃度が高く、エネルギーロスが少ない効率的なCO2の回収が可能になるという。CO2を分離した後の石炭ガス化ガスは、H2濃度が高いH2リッチなガスとなり、ガスタービンへ送られて火力燃料として発電に利用される。

16年度から3段階で進められてきたこの大崎クールジェンプロジェクトは、22年度で全ての実証スケジュールを完了。今後の計画については今のところ未定だ。

次に期待されるのは、ここで確立された技術が社会実装されることにより、石炭火力発電が新たな付加価値を持った発電インフラへと生まれ変わることだ。脱炭素の要請から、世界中で石炭火力の廃止が進んでいるが、他の化石燃料よりも安価で安定した調達が期待される石炭をカーボンフリーな形で利用し続けることができれば、資源の乏しい日本において、安定供給と環境性を兼ね備えた電源の一つとなり得る。

Jパワーは21年4月、「GENESIS松島計画」として、松島火力(長崎県松島市)2号機の酸素吹きIGCCへの転換を進め、CO2フリーの水素発電に向けた第一歩を踏み出すことを発表した。これにより、発電効率は約1割上昇し、CO2排出量は約1割削減できるという。

将来のゼロエミッション化に向けて、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)設備を追設するための用地を確保することとしており、26年度には、30年度のCCS開始を見据えた「CCUSレディ」の発電所として再出発することになる公算だ。

大崎クールジェンで培われた究極のクリーンコールテクノロジーともいえる酸素吹きIGCC+CO2分離・回収技術。脱炭素実現に向け、ゲームチェンジャーになることが期待される。

実証を終えたCO2分離・回収設備(2020年本誌撮影)

【特集2】世界各地でCNビジネスを探索 e-メタンで海外連携を強化


【大阪ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、都市ガスの脱炭素化の鍵を握る技術として期待されるメタネーション。Daigasグループは30年度に、都市ガスの1%にメタネーションによって生成される「e-methane(e-メタン、合成メタン)」を導入するほか、LNG火力発電の代替や、ローカル水素ネットワークの構築によるコンビナートなどへの供給といった水素直接利用を見据え、取り組みを加速させている。

水素を直接利用するには、今あるLNG基地やガス導管、ガス機器といったインフラの改修や新設が必要となるケースが考えられるが、水素とCO2から合成するe-メタンは現在の都市ガスとほぼ同じ成分であり、既存インフラを活用できるのが大きな利点だ。

とはいえ、e-メタンや水素を社会実装するためには、技術を確立することはもちろんのこと、クリーンな水素を安価に大量に調達できるかどうかが重要な鍵となる。国内のみでは限界があり、海外の事業者との協力関係が欠かせない。

e-メタンの製造に必要なクリーンな水素、CO2の調達を含め、海外におけるCN事業推進の中心的役割を担っているのが、資源・海外事業部の「資源・CN事業開発部」だ。同部は、上流液化事業部に各部署が手掛けていた脱炭素の取り組みを集約し、22年4月に発足。米国、豪州、シンガポール、英国の海外4拠点とも連携しながら、「e-メタン」「新エネルギー(水素、アンモニア・バイオガス)」「CCS(CO2の回収・貯留)・カーボンクレジット」の三つのカテゴリーを重点分野に、世界中でさまざまなビジネスチャンスを模索している。

e-メタン事業化へ 25年のFID目指す

e-メタン事業成立の鍵は、既存のLNG出荷基地へのアクセス・活用、安価な再エネや原料となる水、CO2の調達・確保ができること。そこで同社は現在、米国、豪州、ペルーなどにおいて事業化調査(FS)を実施しており、FSを通じて、再エネやCO2の調達、水素や合成メタンの製造、液化・輸送までのサプライチェーン構築に向けた検討を進めており、25年の初号案件の最終投資決定(FID)を目指している。

日本では都市ガスの脱炭素化を目指し社会実装に向けた議論が始まっているが、海外ではまだまだこれから。資源・CN事業開発部CN事業推進チームの川崎浩司・ゼネラルマネジャーは、「生産国でも脱炭素化に向けた有望なソリューションとして認めてもらえるよう、パートナー企業と各国政府への働きかけを始めている」として、国際的な制度化を目指した活動にも注力していると明かす。同チームの中島崇副課長も、「LNG生産国では、日本向けには輸送の観点でe-メタンに強みがあるという認識が広がりつつある。今後は、アジアの他のLNG輸入国にも働きかけていきたい」と語る。

地産地消ビジネスで知見獲得 世界のCO2削減に貢献

一方、新エネルギー分野については、まずは海外での普及促進を目指し、水素、アンモニア、バイオガスの地産地消型ビジネスモデルの実現性を探っている段階だ。

例えば豪州では、現地の総合エネルギー事業最大手のAGL社がニューサウスウェールズ州などで検討を進めているグリーン水素ハブ構想のFSに参画中だ。同事業は、AGL社が保有している石炭・ガス火力発電の敷地内で、再エネ由来のグリーン水素を製造し、地域の工業地帯に供給するもので、中長期的には輸出も視野に入れる。

AGL社がニューサウスウェールズ州ハンターバレーに保有する火力発電設備
提供:Antony Evans, AGL Energy employee.

【特集1】地下350~500mの地質環境を研究 幌延町で進む安全性確認


高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分はどのように行われるのか。実際の地層処分を想定した試験研究を行っている地下施設がある北海道幌延町を訪れた。

幌延町は稚内空港から南へ車で1時間ほどの日本海に面する酪農の町。この風光明媚な場所に、日本で唯一の深地層の研究施設である日本原子力研究開発機構(JAEA)「幌延深地層研究センター」がある。

同センターは、地上施設の研究管理棟や試験棟、来訪者に地下深部での研究内容を紹介する「ゆめ地創館」と、地下の研究施設とで構成される。地下へは西立坑のエレベーターで350mの地下へ降りる。そこでは、稚内層と呼ばれる約500~400万年前に海底に堆積した珪質泥岩の地層を掘削した、全長約750mの水平坑道が眼前に現れる。

訪れたのは1月中旬。断続的に雪が降り地上は氷点下の寒さだったが、坑道内は温かく感じる。地下に100m進むごとに温度は3度上がるため、換気のために外気を入れていても坑道内は10℃程度に保たれているという。

高レベル放射性廃棄物(HLW)を地層処分するのは、地下深くの岩盤が持つ物質を閉じ込める力を利用するためだ。地下深部は自然災害や戦争といった外的要因による影響を受けにくい上に、酸素がないため金属の腐食が起こりにくく地下水の動きが極めて遅い。案内してくれた佐藤稔紀副所長によると、稚内層の深部では500万年前の海水がほとんど動かずにとどまっていることが分かっているという。

そうした安定した環境に、使用済み燃料を再処理した後、再利用できない廃液だけをガラス原料と混ぜて金属製のキャニスターと呼ばれる容器に注入し固化、炭素鋼などでつくられたオーバーパックで包み、さらに粘土を主成分とする緩衝材で覆った上で埋設する。つまり、天然と人工による多重のバリアによって放射性物質による影響が人間の生活圏に及ばないようにするのが、地層処分システムの考え方だ。

坑道をしばらく歩くと、この人工バリアの性能確認試験を行っているエリアに着く。コンクリート製の壁で閉鎖されているため実際に見ることはできないが、ガラス固化体の代わりにヒーター(95℃で加熱)を内蔵した模擬オーバーパックと緩衝材が埋設されており、そこに地下水を注入しながら、熱、水、力、化学の影響で人工バリアや周辺の岩盤にどのような変化が起きるのか、現象やメカニズムを解析しているという。人工バリアは2026年に解体し、オーバーパックの材料である炭素鋼の腐食の状況などを確認する計画だ。

埋設した人工バリアは2026年に解体予定だ

【北陸電力】持続的な成長へ 財務基盤を立て直し 成長領域に挑戦する


燃料価格の高騰で収支が悪化、2022年度は過去最大の最終赤字を見込む。持続可能な成長軌道に乗せるべく、財務基盤の立て直しと事業領域の拡大が急務だ。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

志賀 昨年11月、43年ぶりとなる低圧・規制料金の値上げ改定を申請しました。

松田 当社は東日本大震災以降、志賀原子力発電所の停止が長期化し、電力小売り全面自由化により競争が激化する中においても、全社を挙げて徹底した経営効率化を進め、電力の安定供給に努めるとともに規制料金については現行料金を維持してきました。

 しかし、ウクライナ紛争などに伴い、燃料価格がこれまで経験したことがないほど高い水準で推移し、現行規制料金の燃料調整額は2022年2月から上限に達しました。これは全国で当社が最初に到達しており、その後も上限価格と燃料価格の差がさらに拡大している状況にあります。

 この結果、22年度の収支見通しは、1970年代のオイルショックや震災直後の収支悪化をはるかに上回る1000億円という過去最大の赤字となる見込みです。緊急経営対策本部を立ち上げるなど、これまでコストダウンをはじめ聖域なき経営効率化を進めてきましたが、その効率化を大幅に上回るコスト増となっており、このままでは燃料の安定調達や電力設備の保全など電力の安定供給に万全を期すことに影響を及ぼしかねず、苦渋の決断ではありましたが、23年4月から規制料金を含む全ての電気料金の値上げをお願いさせていただくことにしました。

    まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、
    石川支店長などを経て、2019年取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 料金の原価算定に当たっては、26年1月の志賀2号機の再稼働を織り込んでいます。3年間の算定期間のうち3カ月にすぎないとはいえ、131億円の抑制効果は大きいですね。

松田 燃料価格高騰下においては、原子力の発電計画をどれだけ織り込むことができるかが値上げ幅を大きく左右します。志賀2号機は審査の第一歩目である敷地内審査も通過していないため、運転計画を織り込まないことも一つの考え方ではありますが、これから先の審査行程を最短で通過し、さらなる効率化・迅速化を実現することができれば、ハードルは高いですが絶対に不可能というわけでもありません。

 そうであれば、3カ月だけでもその抑制効果を料金に反映するとともに、しっかりと稼働を進めていくのだという意思を内外に示すべきだろうと判断しました。

【特集1】失われる石炭火力の優位性 安定供給危機の打開策とは


石炭火力の競争力が低下すれば、日本の電力供給を不安定化させかねない。発電事業者は調達の多様化などあらゆる手段を講じ、生き残りを図ろうとしている。

価格競争力、貯蔵性、供給安定性を有し、日本の低廉で安定した電力供給を支えてきた石炭火力発電。その燃料である一般炭の市場価格(豪州炭のスポット価格)が昨年9月、前年同月比8倍の1t当たり457・8ドルと過去最高額を記録して以降、高止まりの状態が続いており、その優位性に黄信号が灯っている。

ロシアによるウクライナ侵攻で、日本を含むG7(先進7カ国)の間でロシア産化石燃料の輸入を制限する動きが加速。これにより、石炭に限らず、石油やLNGといった化石燃料価格が軒並み上昇したが、その中でも石炭への影響は特に大きい。

昨年末に東北、北陸、中国、四国、沖縄の大手電力5社が経過措置料金の値上げ申請に踏み切ったが、その妥当性を審査する電力・ガス取引監視等委員会料金制度専門会合の1月11日の事務局資料を見ると、今回申請時の石炭の全日本通関価格(2022年7~9月の平均)は、前回申請時の5~6倍。LNGと石油の1・5~2・5と比較し、その上昇幅が突出して大きいことが分かる(図1参照)。

図1:火力燃料の全日本通関価格と為替レートの比較             出典:電力・ガス取引監視等委員会

大手電力会社のA氏は、「100ドル前後で安定していた石炭価格が200ドルを超えた時にも業界に衝撃が走ったが、まさか400ドル前後の高水準が継続することになるとは」と言い、これまで経験したことのない事態に危機感をあらわにする。

高コスト状態継続 電力安定供給に支障も

長期契約のLNGを燃焼する火力の発電単価1kW時当たり12円程度に対し、石炭火力は20円。発電事業関係者B氏によると「オイルリンクで取引される長期契約のLNGに劣後してしまっており、再生可能エネルギーの導入拡大の影響もあって、これまでのベース電源からミドル電源の運転パターンが加速している」という。

運転パターンが変化すれば、従来とは異なる頻繁な負荷変動を行うことになる。供給力不足による需給ひっ迫懸念が高まる状況下、火力電源には安定した稼働が求められているにもかかわらず、「これが設備トラブルの増加につながりかねない」(B氏)。

再エネ拡大により、石炭火力に求められる役割が、定格出力で安定運転し低廉な電気を供給するベース電源から、需要の変動に応じて出力を調整するミドル電源や予備力へと変わっていくことは中長期的な流れ。安定供給に資するためにも、低・脱炭素化を果たしながら一定程度の割合で活用していく必要がある。

【特集1】新技術実現と事業環境整備が不可欠 実効性高めるポイントを解説


小笠原潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

広域系統整備計画を具体化する上では、技術革新などさまざまな不確定要素が存在している。実効性を高めるために何が必要か。日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事が解説する。

電力広域的運営推進機関が策定した「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」では、2050年を視野に入れた「ベースシナリオ」「需要立地自然体シナリオ」「需要立地誘導シナリオ」の三つの将来シナリオを基に費用便益分析を行い、広域系統増強の方針が示された。

電源構成については「再生可能エネルギーの最大限の導入に取り組む」との政府方針を受け、いずれのシナリオでも、太陽光約2億6000万kW、陸上風力約4100万kW、洋上風力約4500万kW―と同一条件とする一方、再エネ発電の出力変動や出力抑制回避に貢献する電解槽による水素製造、DAC(大気からのCO2直接回収)、蓄電池、EV自動車やヒートポンプといった再エネ余剰活用による電力需要シフトの制御可能性に差を設け、評価が行われている。

すなわち、ベースシナリオでは再エネ余剰活用需要の2割が制御可能、需要立地誘導シナリオではそれら需要の8割が制御可能、そして需要立地自然体シナリオではそれら需要の全量が一定負荷と設定され、これらの対策により、電力需要が従来比55%程度増加することになる。

欧州送電系統運用者ネットワーク「ENTSO―E」が「10カ年ネットワーク発展計画」で、電源構成について三つのシナリオを作成し、その上で広域的な系統増強の必要性について評価を行っているように、不確実性のある電源投資については複数シナリオを設定するのが通常の姿だ。

しかし、日本では、現段階で政府が示しているのは30年の電源構成見通しであり、50年についてはまだ何ら提示されていない。このため、広域機関は現状で考えられる最大限の再エネ導入を見込んだ上で、それを支える需要側設備の活用をシナリオとして振らせざるを得なかったものと考えられる。

今後の広域系統増強の行方は……

【特集1】エネルギー 初夢NEWS 5選 2023年に新聞・雑誌を賑す業界ニュースを大胆予想


2022年、話題に事欠くことがなかったエネルギー業界。23年にはどのようなニュースが業界を揺るがすことになるのか。本誌記者が一足早く見た「初夢」記事を紹介する。

経済産業省に登録している電力小売り事業者732社の8割近くが事実上の休業状態に追い込まれていることが、関係筋の話で分かった。2023年の冬に向けて欧州を中心にLNG価格が一段と高騰。これに連動する形で、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格なども高値圏で推移している。22年から続く調達コストの上昇を受け、新電力の多くが慢性的な赤字に陥っており、今後の事業撤退に拍車を掛けそうだ。

NEWS1:新電力8割が休業に 市場高騰の連鎖が影響

【解説】 「欧州では天然ガスの在庫が枯渇する23年の冬に深刻なガス不足に見舞われる可能性がある」。エネルギー研究機関の関係者は、こう警鐘を鳴らす。

ロシア産天然ガスの供給が滞る中で、マレーシアではペトロナス社がガスパイプライン損傷事故の影響でLNG輸出の「不可抗力」を宣言。米国や豪州でもLNG輸出を巡る不安が高まっている。そんな中で、中国が23年にゼロコロナ政策を解除すれば、景気の急回復によるエネルギーの爆食が復活。欧州を中心に、世界的なLNG需給ひっ迫が発生しよう。

これに伴い、欧州市場価格(TTF)高騰→北東アジア価格指標(JKM)高騰→JEPXスポット価格高騰→FIP(市場連動型の再エネ買い取り制度)高騰という「高騰の連鎖」が起きる可能性がある。「現在でも赤字が続いているのに、電力調達価格が一段と上昇すればもはや撤退しかない」。地域新電力幹部の嘆きは深い。

LNG需給は来冬こそ正念場を迎えるか

【記者通信/12月16日】新電力救済につながらず 公取委の「値下げこそ善」の発想


公正取引委員会の電力市場へのアクションが慌ただしい。

12月1日、2018年秋以降の中部、関西、中国、九州電力が高圧電力小売りにおける競争抑制を行ったことを咎め、公取委に自主申告をした関西電力以外の各社は課徴金(中国707億円、中部275.5億円、九州27億円)を課せられた。各社の取締役には、株主代表訴訟が降りかかるかもしれない。

さらに16日には、小売り130社に対し『電力市場における競争に係る実態調査』への回答依頼を発出した。調査対象は卸電力市場、各種市場、送配電業務、相対卸交渉における内外無差別、常時バックアップ、料金制度と広範であり、『旧一般電気事業者と新電力との間の公平な競争条件の整備・確保がなされているかどうか。現在の市場や制度が抱える課題について、競争環境確保の観点から改めて実態調査を行う』としている。

いずれの質問からも、「旧一般電気事業者が有利な立場にいて新電力を不当に痛めているはず」という問題意識が見える。しかし、新電力小売りにとって頭痛の種になっているのは、18年当時であれば、競争抑制ではなく17~18年前半の関西電力発の過度な値下げ競争であり、現時点であれば、経過措置料金の燃料費調整単価が上限に張り付き、電力実勢価格見合いでの逆ザヤ販売、自由料金でも不十分な値上げにとどまってしまっていることだ。

家庭用需要家は、自由料金メニューから経過措置料金にシフトしており、このままでは経過措置料金解除基準から遠ざかるばかりだ。値下げを善とし、必要な価格転嫁を我慢させる発想こそが競争条件の整備、確保に逆行している。内外無差別についても、供給力減少の中で全小売り向け内外無差別を進めても十分な卸電力量にはならない。

公取委は、電力業界全体を覆う赤字体質改善にこそ注意を向けるべきではないか。

【特集1】「系統に役立つ」設備形成へ 技術的要件の見極めが必要


インタビュー:荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授

再エネ主力電源時代の系統安定化策の一つとして、政府が強力に後押しする系統用蓄電池。系統WGの座長を務める荻本和彦・東京大学生産技術研究所特任教授に、その期待と課題を聞いた。

―系統用蓄電池に対してどのような役割を期待していますか。

荻本 再生可能エネルギーの導入拡大が進めば太陽光や風力発電の出力制御量が増えるため、調整力のニーズがますます高まることが予想されます。時間ごとの電力価格の差が生じることになりますから、系統への蓄電池導入が進むことにより、蓄電池裁定取引で電力システム全体の需給改善が図られることに加え、応答速度や継続時間などに応じたさまざまな種類の調整力のニーズに対応する役割が果たされることを期待しています。

―北海道エリアでの系統接続申し込み急増に伴う、系統増強の必要性が課題として浮上しました。

荻本 蓄電池側に制約が掛かることを回避するために送配電網を増強することは、本来の姿ではありません。また、系統WGでは、蓄電池が充電する際に需要方向の混雑が発生すれば、本来の電力需要の新たな接続を阻害するのではないかという懸念も指摘されていました。再エネの系統接続で起きたような問題を繰り返さぬよう、系統WGの議論を経て関係者による検討が始まっています。

 資源エネルギー庁によると、現在、系統用蓄電池は「系統に直接つながれている設備」とのみ定義されています。しかし、本来求められている「系統の役に立つ」蓄電池にしていかなければ導入の意義はありません。系統安定化のために蓄電池をどのように活用するかしっかりと見極め、それを実現するための制度を充実させていくことは大きな課題です。どのような技術的な要件が必要なのかを明らかにして設備を形成していくことで、産業育成にもつながります。

―高いコストが課題です。

荻本 電源や需要側設備に併設されない蓄電池は、裁定取引と併せ調整力のニーズに合わせて自由に充放電ができます。市場取引で収入を得るほか収益源がなく、非常に高速・大容量の調整力になります。一方、エネ庁は、需要側の設備を活用した次世代型の分散型電力システムの検討にも着手しようとしていて、これは需要の都合があり使いづらく比較的ゆっくりとした制御に限られる面もありますが、高い経済性を期待できます。それぞれの特性を生かしながら活用していくことが肝要です。

―事業者に求めることは。

荻本 どのエリアでどのような出力制御が生じるかなど、これまでもある程度のデータが公開されてきましたが、今後は質・量がさらに充実した情報の提供が期待され、自社が設置しようとしている設備が、将来どのような価値を持つか検討しやすくなると考えられます。市場の将来のニーズを先見性を持って分析してそれに適した設備を設置することで、価値の高い、すなわち採算性の高い設備となります。今、北海道の調整力コストが他エリアよりも相対的に高いことは確かですが、将来に渡って高い水準であることを保証するものではありません。蓄電池を運用する20年間を見据え、本当の意味で系統に役立つ蓄電池などの設備を導入していただきたいと思います。

      おぎもと・かずひこ 1979年東京大学工学部卒、
      電源開発入社。技術研究開発、設備保全業務高度化、
      技術戦略などに従事。2008年から現職。
      専門はエネルギーシステムインテグレーション。

【Jパワー 渡部社長】電力安定供給に寄与し 国内外で脱炭素に挑戦 水素社会をリードする


電源の脱炭素化が急務となる中、会社創立から70年の節目を迎えた。電力安定供給という変わらぬ使命を果たしながら脱炭素を進め、水素社会のけん引役として世界で存在感を示す企業として成長し続けようとしている。

【インタビュー:渡部肇史/Jパワー社長】

志賀 ウクライナ情勢の膠着状態が続いています。燃料調達面にどのような影響が出ていますか。

渡部 2021年度の実績ベースですが、当社の火力発電所で使用する石炭の約8%をロシア産が占めています。石炭は性状が一様ではなく、発電所のボイラーによって相性が異なります。政府が経済制裁措置としてロシアからの石炭の原則禁輸を打ち出したことを受けて、今後はオーストラリアやインドネシアを中心とする産地の相性の良い性状の石炭に切り替えていかなければなりません。

志賀 オーストラリア炭を巡っては、欧州各国が既に争奪戦を繰り広げているようです。

渡部 引き合いの増加に合わせて増産されることが理想です。当社もオーストラリアの石炭会社と交渉をしているところですが、今のところ同国からの石炭調達に大きな影響は出ていません。

志賀 一般炭の価格が高騰していますが、収支にどのように影響しているでしょうか。

渡部 今のところは、国内の発電事業の収支については、一定期間で石炭価格上昇の影響を調整する仕組みはありますが、とはいえ、決算収支への影響を注視していかなければなりません。石炭のマーケットの高騰が早期に収まることを期待しています。

    わたなべ・としふみ 1977年Jパワー(電源開発)入社。
    2002年企画部長、06年取締役、09年常務、
    13年副社長などを経て16年6月から現職。

志賀 岸田政権が物価対策として電気料金を抑制する政策を打ち出せば、電力産業をはじめインフラを担う企業は体力を損なわれかねません。

渡部 大変難しい問題です。電力に限らず生活や経済に影響力がある事業は、政策の動向をうかがいながら事業を運営していかなければならないタイミングなのでしょう。電力産業においては、電力自由化の流れがある一方で、原子力のみならず石炭やガス火力、再生可能エネルギーなどほぼ全ての電源が政策の影響を強く受けるようになってきていると感じます。そのため、どの電源を選択するかという課題一つとっても、企業の自主判断だけでは立ち行かなくなってきています。

【特集1】系統用蓄電池ビジネス解禁 普及拡大へルール整備が急務


電気事業法改正により、系統用蓄電池を巡るビジネス環境が大きく変わろうとしている。一方で、系統に役立つ設備の導入に向けたルール整備が喫緊の課題に浮上している。

送電系統に単独で接続し充放電することで収益を得る「系統用蓄電池ビジネス」がにわかに脚光を浴びている。背景にあるのは、2050年カーボンニュートラルに向け再生可能エネルギー主力電源化を目指す政府の後押しだ。大手電力会社をはじめ、ENEOSや住友商事、オリックス、NTTアノードエナジーといったそうそうたる企業が参入を表明し、活況の様相を呈している。

第六次エネルギー基本計画では、30年度に発電総量の36~38%を再エネで賄うことを目指しており、そのメインは太陽光や風力といった自然変動型の再エネ。このため、出力抑制の回避や系統安定化のための調整力の確保は喫緊の課題であり、系統用蓄電池には、需要を超える発電量となった際にその電気を一時的に貯め、電気が足りない時に放電する「需給調整」や、周波数制御による「系統安定化」の役割が期待される。

実際、再エネ導入で先行してきた欧米では、系統用蓄電池を活用した卸電力市場や需給調整市場、容量市場における電力価値の取引ビジネスが既に始まっている。一方、揚水発電所による調整力の規模が大きい日本では、発電側にも需要側にも区分できない、電気事業法における位置付けのあいまいさに加え、収益化を実現するための市場がないこともあり、これまでは大手電力会社による実証事業にとどまってきたのが実情だ。

系統用蓄電池のビジネスモデル出典:資源エネルギー庁

ビジネスチャンス開けるか 各種市場で収益化期待

ところが21年度後半に入り、系統用蓄電池を巡る風向きが大きく変わった。

政府は、21年度補正予算で系統用蓄電池1案件に対し最大25億円の補助金を交付することを決定。今年4月までに13件に対する交付が決まり、23年にも運用が始まる見通しだ。また3月には、系統に接続し売電する計1万kW以上の蓄電池を「発電事業」に位置付けるとともに、系統への接続環境を整備する電気事業法改正案を閣議決定した。これまで系統用蓄電池導入の弊害になっていた制度やコストの課題を解消することで新規参入を促し、蓄電池ビジネスを一気に本格化させる狙いがある。

この政府方針に敏感に反応したのが、そこにビジネスチャンスを見出した企業だ。政府による後押しのなか、日本卸電力取引所(JEPX)におけるkW時(電力量)、容量市場におけるkW(供給力)に加え、需給調整市場における⊿kW(調整力)など、さまざまな市場における取引を通じて収益化が見込めると判断したことが参入の決め手となったようだ。

【特集1】大手電力「社債不調」の周辺事情 資金調達悪化を招く制度の歪み


2022年度上期、長期債を中心に電力債の発行が不調に終わる異例の事態が発生した。大手電力といえども、必要な資金を低コストで確実に確保することが難しくなりつつある実態が見えてきた。

「2022年度上期の社債市場では、かつてないほど電力債への注目度が高まっていた」

こう語るのは、金融市場関係者の一人だ。その理由として挙げるのが、大手電力13社(北海道、東北、東京電力パワーグリッド/リニューアブルパワー、JERA、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄、Jパワー)合計で1兆5300億円(4~8月)に上る電力債の発行規模だ。2兆2000億円だった21年度の半分以上、1兆8000億円だった20年度に近い規模を、5カ月という短期間で消化したことになる。

それだけ、ウクライナ危機を背景に世界的な資源価格高騰と円安進行によるコストの増大が、大手電力の資金繰りを圧迫しているということを意味しているわけだが、去る7月には、10年以上の長期債を中心に、中部、北陸、中国という複数の大手電力が予定する発行額を確保できない異例の事態が生じてしまった。

今春以降、インフレを抑制するために欧米の主要中央銀行は利上げを加速させ、日本市場でも日銀の判断に関心が集まり、一部では利上げ観測が流れていた。結局、ゼロ金利政策を堅持した結果、欧米との金利差は拡大。メガバンクの関係者は、「金利の水準と債券の価値に相関関係がある中で、投資家の多くが『今はリスクが高い』と様子見を決め込んだ」と、事情を説明する。

折悪く、社債発行と世界的な金融情勢の混乱から債券市場が大揺れとなったタイミングが重なったことで、投資家にとっては手堅い運用先の代表格である電力債でさえ不調に終わったということのようだ。ただ、外部事情による要因が大きいとはいえ、これまである程度低コストで必要な資金を確実に調達できていた電力業界に与えた衝撃は大きい。

金融業界の動向が大手電力の資金調達を左右する

大手電力関係者は、「電力債の発行が不調に終わるなど前代未聞のことだ」と、直面する事態を重く受け止める。別の電力業界関係者も、通常10年以上の長期債が主流だが、償還期間が3年といった短期債も起債されていることに、「大手電力各社がいかに資金繰りに苦労しているかを象徴している」と悲観する。

【特集1】旧一電の「今そこにある危機」 財務基盤の脆弱化を阻止できるか


稲垣健一/デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー マネージングディレクター

全面自由化後も、電力供給のプラットフォームの役割を担ってきた大手電力会社。悪化した財務基盤の健全化、そしてインフラとしての電力供給システムの維持には何が必要か。

電力会社の経営について経済ニュースで話題になる機会が増えている昨今ではあるが、最終保障義務を背負い、電力自由化後も電力供給のプラットフォームである旧一般電気事業者(本稿ではプラットフォーム電力会社「PF電力」と呼称)の財務基盤脆化の懸念については、大きな話題になっていない。だが、表の通り、営業キャッシュ・フローは急速に縮小、投資キャッシュ・フローを賄えなくなっている。

実は、最近のエネルギー危機で急速に懸念が顕在化したわけではなく、前からさまざまな警鐘が鳴らされていたが、見過ごされてきたのが実態だと思料している。本稿では、PF電力の財務基盤の変遷について、キーとなるいくつかの数字とともに背景を読み解き、今後の対応について考えてみたい。

まずは系統電力の総需要を確認したい。東日本大震災前の2010年度は9311億kW時、小売り全面自由化直前の15年度は8415億kW時、直近期である21年度は8818億kW時(いずれも全国の送電端ベース)と、減少傾向にあることが分かる。

大手電力会社の経営データ    著者作成

系統電力からの脱落トレンド 将来の設備維持に懸念

節電意識の高まりや人口の頭打ちに加え、オンサイトPPA(電力供給契約)を含む再生可能エネルギーの自家消費による系統電力からの電力購入の減少が背景にあるとみられる。この系統電力からの脱落トレンドは、PF電力の発電、送配電、小売り全事業にとってパイの縮小となるため、当然ながら財務基盤に直接的に影響しているが、それだけでなく将来にわたり電力系統設備を維持していこうとする際に大きな問題が生じる可能性をはらんでいる。

【特集1】大手電力の財務問題を徹底討論 制度改革の影響と対策


安定供給のための投資を円滑に行えるよう、大手電力の財務体質改善が急務だ。どのような政策的な支援、そして企業自らの収益拡大努力が求められているのか。

【出席者】山内弘隆/武蔵野大学経営学部 特任教授、伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表兼アナリスト、廣瀬和貞/アジアエネルギー研究所 代表、巽 直樹KPMGコンサルティング/プリンシパル

左上から時計回りに山内氏、伊藤氏、巽氏、廣瀬氏

山内 大手電力会社の社債を巡る信用力・格付け低下の現状と、資金調達への影響をどう見ていますか。まずはそれぞれの問題意識をお聞かせください。

廣瀬 この7月、大手電力の資金調達に異変が生じていました。これまでも、発行額が募集金額を少し下回ることはありましたが、半分にも満たないという極端な事例が発生したのです。ただ8月以降は、米国をはじめ主要国の金融政策、金利政策が徐々に見えてきて日本の債券市場も落ち着きを取り戻してきたので、資金調達に目立った支障は出ていないと見ています。大手電力の格付け、信用力全体が下がっていることもさることながら、今まで全電力一律だった格付けが、東京・中部・関西電力の中3社とそのほかの地方電力とで、格差が生じ始めていることも、昨今の大きな特徴だと言えます。

伊藤 欧米では、規制・制度改革のタイミングでエネルギー事業者の格付けが一気に5~6段階も引き下げられたことがあります。日本の場合も、一般担保が外れれば同じような状況が生じるリスクがあると考えるべきでしょう。また、大手電力間の財務体質には極めて大きな差があります。収益力や競争力の差によって、今後さらに資金調達力、事業展開力の格差が広がる可能性があります。7月の段階では、金融情勢や来年4月に黒田東彦日銀総裁が任期を終えた後の金利政策変更への懸念がかなり強く、各発行体は来年以降、低コストで安定的に資金を調達できるかどうか不安視しており、大手電力といえども目標とする発行額を確保できない事態が起きました。今落ち着いているように見えるのは、あらかじめマーケットの状況をヒアリングして発行額を調整しているからで、状況は大きく変わっていません。

巽 2021年度決算が発表された4月下旬ごろまでは、社債発行額の6~7割が電力債でした。相対的に電力債の方がまだ良いということで選ばれていたとも言えます。ところが、その3カ月後に状況が急激に悪化してしまい、これは一時的なものではなく継続するものと考えられます。その意味でも、一般担保が外れるかどうかが今後を大きく左右します。大手電力会社は、リファイナンスに対する危機感を急に持つことができるのでしょうか。気が付いた時には取り返しがつかない状況になっているのではないかと懸念しています。今後、外部環境がどう変わっていくのか注視しなければなりません。

【特集1】変容する世界の天然ガス市場 LNG戦略の再構築が急務


EUによる化石資源の脱ロシア化が世界の天然ガス・LNG市場の混乱に拍車をかけている。日本は脱炭素化とエネルギー安全保障を両立すべく、LNG戦略の再構築を急がなければならない。

「夏はどうにか乗り切れそうだが、冬が本当に怖い。日本はLNGの供給が途絶してしまうリスクに十分に備えられるのだろうか」

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから早くも半年が経過。事態が収束せず、LNG不足に陥るリスクをなかなか払拭できない現状に、エネルギー業界関係者は不安を募らせている。欧米による対露制裁が強化される中、ロシアはガスを武器に欧州に揺さぶりをかける。日本にとっても対岸の火事ではない。

ウクライナ情勢の緊迫化を背景に、需給・価格の両面で危機に直面している世界の天然ガス・LNG。特に深刻なのは、石油・石炭を含むエネルギー資源の多くをロシアからの輸入に依存してきた欧州だ。ロシアが、経済制裁への報復と言わんばかりにパイプラインによる欧州へのガス供給を大幅に絞っているからだ。

資源の脱ロシアを進める欧州 パイプライン供給巡る攻防

ロシアからドイツ経由で欧州にガスを送る主要パイプライン「ノルドストリーム1」は6月以降、供給量が例年の2~3割程度まで激減。ロシア国営のガスプロムはその理由について、「カナダで修繕中の設備の返却が遅れているため」と説明していたが、7月に修理品が戻されて以降も供給量は回復しないままだ。

それどころか、同社は8月19日には、「定期メンテナンスのため」として、31日から9月2日までの3日間ノルドストリーム1を通じたガスの供給を停止すると発表。これを受け、欧州の天然ガス市場価格は前週末比で10%以上値上がりした。前年同期比で約7倍近い高水準だ。

ノルドストリーム1を巡る攻防からは、欧州を窮地に追い込み分断させようとするロシアの思惑が透けて見える。EUは、ロシア産ガスの輸入量を年内に3分の1まで減らすことを決定しているが、LNGなど代替調達先の確保や石炭など他燃料への切り替えが十分に進まないまま、ロシア主導でこれが実現してしまう可能性すらあるのだ。学識者の一人は、「ロシアのさじ加減次第で、真冬の間に欧州の地下ガス貯蔵が枯渇してもおかしくない」と危ぶむ。

「中でも厳しい状況に追い込まれるのはドイツの産業界だ」と指摘するのは、国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏。欧州随一の工業国であり、ロシア産ガスへの依存率が高いドイツ経済について、IMF(国際通貨基金)はガスの供給が途絶えた場合、今年第4四半期のGDP成長率はマイナス4・8%と予想している。高井氏は、「大口需要家の生産活動が停滞するだけではなく、調達コストが転嫁されれば一般家庭のガス料金は5倍程度まで上昇する可能性もある。ドイツ国内は大変な状況に陥るだろう」という。

ドイツでは洋上のLNGターミナルの建設が進む                   提供:時事通信フォト