A 業界としてのまとまりは感じられない。大手電力会社は新しいチャレンジには及び腰のイメージがあるが、中三社は、実質ゼロに伴う電化推進をビジネスチャンスとして捉え、水素社会の実現やEV利活用の方向に動いている。電源についていえば、ガスタービンは水素混焼や水素専焼に改造できるので、LNG火力の比率が高いJERAは手を打ちやすいし、原子力が動いている関電も絵を描きやすいだろう。一方、石炭火力比率の高い電力会社は対応に頭を悩ませている。
―それに対し、日本ガス協会はいち早く、業界としての実質ゼロ宣言を行った。
B 2019年11月に東京ガスが実質ゼロに言及した衝撃は相当だった。大阪ガスは20年10月の「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」で、中期経営計画に実質ゼロ目標を位置付けることを検討すると言及。その後ガス協会が広瀬道明会長のイニシアチブにより「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を発表した。東邦ガスや西部ガスも追従するだろうが、地方ガスには従業員数が1~2桁の社も多く、彼らに対応をどう促すかが課題だ。多くのガス会社は、LNGを自社調達する大手都市ガスや大手電力などから卸を受けている。全国で実質ゼロを達成できるかは、こうしたリソースを持つ者が、メタネーション(合成メタン)を柱としたソリューションをどれだけ提供できるかにかかっている。そこで30年かけて天然ガス転換を成し遂げた経験が生きるだろう。ただ、天然ガス化完了が遅かった社はわずか十数年で次の課題に直面し、その点は気の毒だ。
―石油業界は一昔前なら実質ゼロに大反対したはずだが、時代は変わったようだ。
C 石油需要のうち、電源用と輸送用燃料が急速に先細りしている。遅かれ早かれ対応を迫られると覚悟しており、各社首脳陣は比較的冷静に受け止めている。電源用については、最後に脚光が当たったのは東日本大震災直後の電力需給ひっ迫時。「平時から石油火力を使っていないと有事に供給できない」と業界は言い続けてきたが、設備容量は減る一方だ。輸送用は、車の燃費改善と車需要の減退で、脱ガソリンの方向性は明らか。ENEOS、出光ともに、燃料油需要は40年に17年比半減との見通しを示している。ただ、これは50年CO2 8割減が前提なので、前倒しされる可能性がある。覚悟はしつつも、実質ゼロを国策としてエネルギーの視点で議論していくならば、次期エネルギー基本計画では将来の石油の位置付けを明確にしてもらいたい。
―LPガス業界の受け止めはどうだろうか。
D 日本LPガス協会は昨年、グリーンLPガスに関する研究会を立ち上げ、課題の整理などに着手している。現状では都市ガス会社と石油元売りの動きも見つつ、方向性を示すことになる。しかし、元売り、卸、小売りで切迫感に差があると感じている。元売りは、エネルギー供給構造高度化法施行を見据えた時点からLPガスのバイオ化を検討してきたものの、コストがネックとなるだろう。それを今回の実質ゼロで仕切り直そうというスタンスだ。一方、小売りでも先進的な事業者は、電力事業参入や水素技術の活用などを考えているが、大半は元売りの動きを眺めている感じ。いざとなったら商材を変えれば良いわけだしね。