【特集2まとめ】LPガス 脱炭素時代の針路 「地域密着」の強みを生かす


2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けLPガス業界の動きが活発だ。
元売り各社が脱炭素戦略を打ち出しCNLPガス販売を開始したのを皮切りに、
その先ではグリーンLPガスの実用化を目指す議論が行われている。
一方、地域の脱炭素化や経済活性化が重要な課題となる中、
「地域密着」を強みとするLPガス事業者の役割に内外の期待が高まる。
これからの脱炭素時代をどう生き抜くのか、LPガス業界の針路を探る。

【アウトライン】業界を挙げて低・脱炭素化へ 官民連携で地域活性化に貢献も

【インタビュー】LPガスグリーン化への挑戦 官民一体の取り組みに意義

【寄稿】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」

【レポート】NEDO実証でグリーン化模索 特約店の環境推進をサポート

【レポート】目指すは緑のLPガス 環境企業に出資しCN支える

【レポート】特約店向けに新商材でサポート 環境型LPガス運搬船を導入

【レポート】自治体の脱炭素化をサポート 新たな地域貢献の形を提示

【レポート】簡易ガスが秘める潜在力を探る 目指すはLPガス発のスマエネ

【レポート】カーボンオフセットガスを拡販 グループで45年CN達成目指す

【トピックス】CO2と一次エネルギー消費量を大幅削減 CNに貢献するハイブリッド給湯システム

【特集1まとめ】LNG危機のリアル 顕在化する脱露戦略の代償


世界のLNG市場が二つの危機にさらされている。「需給ひっ迫」と「価格高騰」だ。
主要7カ国(G7)による経済制裁などを背景に、ロシア産天然ガスの供給が減少。
依存度の高い欧州で危機が顕在化するとともに、アジア地域にも余波が襲い掛かる。
サハリンに権益を持つ日本も無関係ではいられない。今冬を世界は乗り切れるのか。
中長期的な影響・見通しも含め、世界を襲うLNG危機のリアルに迫る。

【アウトライン】変容する世界の天然ガス市場 LNG戦略の再構築が急務

【トピックス】支離滅裂の独エネルギー事情 脱原発を諦めない政府とメディアの重い責任

【レポート】最悪シナリオは回避できるか 「サハリン2」巡る日露の攻防

【座談会】プーチンに翻弄される世界市場 LNG危機の真相に迫る

【特集2まとめ】原子力発電の廃止措置 チャレンジングな事業の魅力と課題


長期間にわたり発電を続けた原子力発電所の廃止措置。
発電所に残った貴重な資源は再利用でき、跡地は有効活用できるなど、
循環型社会の形成に沿ったチャレンジングな事業だ。
一方、低レベル放射性廃棄物の処分などの課題も残っている。
日本ではこれから多くの原子力発電所がその役目を終える。
廃止措置に向けて備えは万全か―。現状と取り組みを報告する。

【アウトライン】原子力発電所の廃止措置 今に生きるJPDRでの実績

【レポート】現場で感じた「デコミカルチャー」 浜岡1、2号機の廃止措置を見て

【座談会】どう廃止措置に向き合うか 原子力の「後始末」の課題

【レポート】ライフサイクルを完結せよ 廃止措置の現場「最前線」報告

【トピックス】美浜発電所/発電とともに廃炉でもパイオニアに PWRでは初の廃止措置作業が進む

【トピックス】廃止措置をビジネスチャンスに 地元企業による連合体を結成

【特集2】廃止措置をビジネスチャンスに 地元企業による連合体を結成


福井県では今後、多くの原子力発電所の廃止措置が行われる。
これを前向きに捉え、ビジネスチャンスとする試みが進んでいる。

今後、本格化していく原子力発電所の廃止措置工事を、地域振興につなげようとする地方自治体の試みが見られる。福井県は2020年3月に「嶺南Eコースト計画」を策定した。

多くの原子力発電所が立地する福井県の嶺南地域に、人や企業、技術、投資を呼び込むためエネルギー(Energy)をキーワードに、地域経済の活性化(Economy)や環境に優しいまちづくり(Ecology)など、さまざまな「E」につなげていこうという思いから策定したものだ。

計画では、さまざまな地域振興プロジェクトを位置付けている。その一つとして、原子力リサイクルビジネス(デコミッショニングビジネス)の育成がある。

今後多くの原子力発電所の廃止措置工事が行わる中、地元企業による参入拡大を図り、元請けなどより高度な業務を受注できるよう、さまざまな企業の得意分野の技術、ノウハウ、人材を集めて、地元企業による連合体を作ろうというものだ。

21年度は事業の可能性調査を実施し、11月の嶺南Eコースト計画推進会議において企業連合体の組織形態や事業内容、解決すべき課題などについて中間報告を行っている。

現在、電力事業者などと連携しタスクフォースを設置し、ビジネスの課題解決に向けた検討を進めている。行政と電力事業者、地元企業などが連携する新しい取り組みとして注目されそうだ。

【特集2】発電とともに廃炉でもパイオニアに PWRでは初の廃止措置作業が進む


美浜発電所

日本初のPWR(加圧水型炉)として約50年前に運開した美浜発電所では、廃炉分野でも他地点に先駆けた対応が進む。関西電力は1号機と2号機で、国内PWR初となる廃止措置を2017年度に開始。約30年かけて全工程を終える計画だ。

除染では欧州の知見活用 国内初の工事も滞りなく

既に系統除染や残存放射能調査などの解体準備が完了し、現在は第二段階に差し掛かったところ。22~35年度にかけて原子炉周辺設備や二次系統設備の解体撤去、新燃料・使用済み燃料の搬出を進める。続く第三段階では原子炉領域の解体撤去を、最終の第四段階では建屋などの解体撤去を進める。廃止措置技術センター廃止措置計画グループの生駒英也マネジャーは、「美浜発電所は解体でもパイオニアであるという気概で、安全最優先で取り組んでいく」と強調する。

1号機の復水器細管撤去の様子

いずれの作業も国内PWRでは初となる。作業員の被ばく低減のために最初に着手した系統除染では、欧州で実績がある仏原発メーカーのフラマトムが技術協力し、三菱重工業などと共同で実施した。運転時に一次冷却材に触れ、機器内面の汚染が大きい系統を対象に、薬品で除染。放射線量は除染前の9割以上の低減を達成し、オペレーションフロアと同レベルにまで抑制できた。

現在進行中の管理区域内の解体作業では、PWRの管理区域がBWR(沸騰水型炉)に比べ狭い点を踏まえて工夫する。管理区域内の設備を解体したエリアに解体物を保管する際、収納・作業性が良いボックスパレットを使用。解体と搬出のスピードのバランスを考え、工程に支障が出ないようにする。保管物はその後、放射性廃棄物として処理・処分するか、放射性物質として扱う必要のないものはクリアランス処理する。

県と協力し廃炉産業育成へ 地元企業の参画促す活動も

廃止措置最大の課題が、低レベル放射性廃棄物の処分先だ。米国などは処分場が決定済みだが、日本では、解体廃棄物の処分場は未定だ。この課題は美浜も例外ではなく、まずは着実なクリアランス処理のため、クリアランスと放射能レベルが低いL3処理の環境整備に取り組んでいく方針。そして原子炉領域の解体が始まる第三段階までには、L1、L2の解体・処理・処分を検討していく。

その実施に当たってはいわずもがな地元との調整が重要だ。クリアランスでは福井県が掲げる「嶺南Eコースト計画」の実現に向け、日本原子力発電や日本原子力研究開発機構(JAEA)とともに廃炉ビジネスの確立を目指している。さらに地元からは作業の安全対策に加え、地元経済への貢献を求める声が挙がる。関電では美浜に加えて大飯発電所でも、地元企業との共同研究や人材育成などで関連工事への参入を促す考えだ。

ただ、欧州などでは鉄鋼の代替などで広くクリアランスを活用しているのに対し、日本では電力の自主活用に限られ、制度の周知も不十分。「国の力も借りてクリアランスの取り組みを進めることが重要。また、電力間での議論や規制当局との対話を続け、最適な廃止措置作業の追求が必要になる」(生駒氏)

出口戦略まで見据え、国と電力会社、そして地元関係者が連携する体制の構築が求められる。

【特集2】どう廃止措置に向き合うか 原子力の「後始末」の課題


【出席者】紺谷 修/鹿島建設 原子力部技師長、佐藤忠道/元日本原子力発電 取締役、柳原 敏/福井大学 客員教授、澤田哲生/エネルギーサイエンティスト

廃止措置では低レベル放射性廃棄物の扱いなどが大きな課題になる。
実際の作業に関わる専門家が徹底討論で解決策を探った。

紺谷 修/鹿島建設 原子力部技師長(右上)、佐藤忠道/元日本原子力発電 取締役(右下)、柳原 敏/福井大学 客員教授(左下)、澤田哲生/エネルギーサイエンティスト(左上)

澤田(司会) 先日、浜岡原子力発電所1、2号機の廃止措置を視察してきました。現場で作業に取り組む人たちと接して実感したのは、「これはカルチャーだ」ということです。「後始末」という言葉があるように、日本人には「始めたものは、きれいに終えよう」という精神がある。役目を終えた原子力発電所をきちんと廃止することは、世間の人たちにも訴えかけるものがあるはずです。

 さらに浜岡発電所の廃止措置の現場で聞くと、いろいろなビジネスが生まれる可能性もある。柳原さんはJPDRのプロジェクトに参加されていました。廃止措置について、どのように考えていますか。

柳原 廃止措置とは、原子力施設を解体して、そこにある物質を放射性廃棄物と有価物やクリアランス物に分け、両方ともに行く先を考えることです。澤田さんが廃止措置のカルチャーと言われましたが、運転のカルチャーとは全く別のものです。運転中は施設の健全性を維持することが最も重要ですが、廃止措置は施設を解体していく作業になる。ですから作業員による活動が大切になります。その作業員をうまく管理して、効率的に進めるプロジェクトマネジメントが欠かせなくなります。

澤田 廃止措置の仕事の魅力は何でしょうか。

柳原 原子力発電所はライフサイクルを完結しなければいけません。設計、建設、運転と続き、最後が廃止措置です。ですから、発電所の後始末をきっちりと行い、最後を見届けるという重要な役割があります。

 電力会社は運転のときは電気を売ることで収益を得ます。そのため運転を重視しますが、運転を終えた後は収益がありません。ですから関心も薄れがちになります。しかし、例えば原子力施設に存在している有価物などは循環型社会の中で再利用が可能な資源です。これらをいかに使うか。そういった観点から見ると、やりがいを持つことができる、非常に魅力的な仕事だと思っています。

澤田 佐藤さんは東海発電所の廃止措置に携われました。現在はどういう状況ですか。

佐藤 JPDRは原子炉の廃止措置がきちんとできることを示しました。それを受けて東海発電所では、商業用の原子炉が安全かつ経済的に廃止できることを実証する役割を担っています。さらに、商業用原子炉の廃止措置の規制や廃棄物の区分などのルールを確立すること、また、廃棄物の行く先について、ルートづくりの先鞭を付けたい考えもあります。

澤田 計画は当初の予定より遅れているようですが。

佐藤 そういった役目を果たそうと考えて2001年にスタートし、17年間で終える計画でした。しかし、福島第一原子力発電所事故などの影響で作業が遅れ、今は30年の終了を目指しています。

 規制のルール作りの点では、それまでの届け出制では基準が明確でないため事業者側、規制当局ともに大変な手間がかかりました。そのため規制当局と話し合い、認可基準が設けられて認可制に変更されました。

規制委発足で基準が厳格化 審査遅れる東海のL3処分

澤田 原子力発電所の解体廃棄物のほとんどが放射性のものではありません。しかし、わずかですが低レベル放射性廃棄物(L1、L2、L3)が出てくる。廃棄物処分の点ではどういう進展がありましたか。

佐藤 東海発電所の廃止措置がきっかけになり、05年にクリアランス制度ができました。低レベル放射性廃棄物の処分の規制基準も、原子力安全委員会が廃止措置を担当していたときに主要な部分はできていました。それを原子力規制委員会が受け継いだのですが、ほとんど白紙からの議論になってしまいました。最も放射能レベルの高いL1はようやく規制基準ができましたが、かなり厳しい基準になっています。

 規制委は、その基準を基に、L2やL3にも共通する事項は同じ考えで審査を行おうとしています。大規模な津波の評価ですとか、1000年後まで想定した安全性評価などです。申請後にゴールポストが動かされることになり、審査に非常に時間がかかっている。東海発電所のL3は、サイト内でのトレンチ埋設について15年に事業許可申請を規制委に提出しています。今も審査中ですが、L3について実績を残すことが期待されています。

澤田 既に着工しているところもありますが、今後、商業用原子炉だけで18基の廃止措置が本格化します(福島第一原子力発電所を除く)。効率的に進めなければ、とても全てを速やかに終えることはできない。いかに効率的に作業を進めるかが重要になります。

佐藤 廃止措置は工期が長くなっています。期間依存コストと言いますが、工期が長くなればその分、人件費、施設維持費などがトータルとして膨らんでいく。ですから期間の長期化は費用面でも課題です。

 重要なことは経験を生かすことです。東海発電所は蒸気発生器がフォーループで四つありました。1器目を壊して、2器目は1器目でうまくできなかった点を改善して壊した。すると、かなりのコスト削減になりました。廃止措置は現場が中心です。ですから、ただ単に書類に書かれたことだけでなく、現場で実際に得られた経験をヒアリングなどして、次に生かしていくことが大切になります。

柳原 運転中の原子力発電所のメンテナンスは、一般に発電所を造ったメーカーが行いますが、廃止措置は造ったメーカーが壊す必要はありません。米国やスペインの例をみると、廃止措置の専門会社が行っている国があります。それらの会社は、収益を得ることを念頭に作業します。

佐藤さんが言われたように、廃止措置は経験が大事です。何回も経験を積めば効率的に作業を進められる。専門会社がいろいろなプラントを手掛けて、そういう経験を積んで行うのが最も効率的な廃止措置だと思います。

 今後、いくつかの原子力発電所の廃止措置では、管理区域内での解体作業が本格化します。海外での例を踏まえて、国、電力会社、産業界が全体で、専門会社などによる新たなビジネスの展開を考えていく必要があると思います。

廃止措置対象施設の推定汚染分布(新型転換炉「ふげん」の例)

紺谷 後ほど廃棄物の話題になると思いますが、最も放射能レベルの低いL3の処分にしても、国の規制が厳しくなっています。規制が厳しければ当然、お金、手間、人手がかかる。米国の場合は、大規模な処分場が国内に点在しているので、例えば圧力容器をバージ(はしけ)に積んで処分場に運んでいくこともできます。やはり、廃棄物処分を巡る課題が作業の効率化にも大きく影響していると思います。

澤田 高レベル放射性廃棄物の処分場の立地が電力業界にとって大きな課題ですが、廃止措置に伴って出てくる低レベルの場合はどうでしょうか。やはり処分場の確保に頭を痛めている発電所が多いようです。

【特集2】現場で感じた「デコミカルチャー」 浜岡1、2号機の廃止措置を見て


澤田哲生/エネルギーサイエンティスト

浜岡原子力発電所1、2号機は2009年度から廃止措置を行っている。長年、原子力の問題に向き合ってきた澤田哲生氏が現場での取り組みの状況を報告する。

私はかつて「デコミッショニング(廃止措置)研究会に来ないか」と、石川迪夫翁から声をかけられたことがあった。2014年ごろだった。当時何かと小忙しくしており、このお誘いをおそろかにしたまま今日に至ってしまったことを、今さらながら悔いている。

今回、浜岡1、2号機のデコミッショニングの現場を目の当たりにして、判然として心にわき上がったことが二つある。

まずデコミは事業者のみならず、広く人々にとっての安寧のよりどころであるということ、もう一つは伊勢神宮の式年遷宮のようにテクノロジーの伝承とリフレッシュメントがそこにあるということ。

廃止措置には式年遷宮に通じるものがあった

私には現場のスタッフの皆さんもなんだか張り合いがあるように見えた。これは石川翁の言うところの「デコミは楽しい」の精神に通じると思った。その一方で、デコミにはけっこう一筋縄ではいかない課題もある。

そして、今回のデコミ現場の視察を終えて私が感じたことは、「楽しい」も「複雑」もひっくるめてデコミはカルチャーなのだということだ。

廃止措置の現場に直行 タービンを分解・切断

浜岡原子力発電所にはこれまでに10回以上は訪れている。中学生や高校生、そして原子力に慎重な一般の人々とも見学会を催してきた。新型コロナ禍の期間を挟んで約3年ぶりの訪問である。

まず、スタッフから廃炉のイロハと現状などについて一通り説明を受けた。防潮堤がその後どのようになっているのかも気になったが、今回は1、2号機の廃止措置現場に直行である。

退役したマーク1型の格納容器を横目にしながら、制御棒駆動システムから加圧タンクなどがきれいに撤去された風景のなかを通過して、タービン建屋に向かった。

現在は4段階ある廃止措置の第2段階(15?22年度)における最終フェーズである。原子炉領域周辺設備(主にタービン建屋)の解体撤去が実施されている。

タービン建屋に入ると、タービンの外ぶた部分が外され、タービンブレードや軸受けなどが分解されて置かれていた。そして、それらは順次、大型のバンドソー(金属ノコギリ)に掛けられて細切れにされていく。実際に作業の様子を間近に見たが、時間の流れが非常にゆっくりと感じられた―。とても長い時間を費やす作業なのである。

細切れにされた金属片は、高さ50 cm程度、1・2m四方程度の鉄製の箱に収められる。そして、クリアランスレベル以下か否かを判定するために、放射能濃度の測定器に掛けられる。

クリアランスレベル以下の物々は「クリアランス物(金属)」と呼ばれる。クリアランス物とは、原子力発電所の運転・保守や解体によって出てくるもののうちで、極めて低い放射能レベル(年間0・01ミリシーベルト以下)であると国の機関(原子力規制庁)が確認したものをいう。クリアランス物は、一般の廃材と同様に再利用することが可能になる。

再利用され使われている側溝用のふた

浜岡1、2号機からは、これまでに約530tの金属のクリアランス物が発生している。クリアランス物以外の放射性廃材は、低レベル放射性廃棄物に分類される。

廃止措置によって発生する廃棄物の総量は45万tほどになる。それらは、放射性物質による汚染の有無や程度に応じて三つに分類される。①放射性廃棄物でない廃棄物、②放射性物質として扱う必要のないもの=クリアランス物。そして③低レベル放射性廃棄物―である(図参照)。

浜岡1、2号機の廃止措置での廃棄物発生量

約45万tのうち、①が約35万t(79%)、②が約8万t(17%)、そして③が約2万t(4%)である。

35万tの①だが、これらはほとんどが原子炉建屋やタービン建屋のコンクリートであり、最終の第4段階で発生する。③の低レベル放射性廃棄物もほとんどが、今後始まる原子炉建屋内の廃止措置における格納容器、原子炉圧力容器や冷却系配管の解体によって発生するものである。

低レベル放射性廃棄物は、放射能レベルが極めて低いL3、比較的低いL2、比較的高いL1に分類される。

L3は先例(JPDR、東海発電所)にならえば敷地内に浅地中埋設処分する選択肢もあるが、L1とL2は、処分地は明確になっていない。青森県六ヶ所村の日本原燃敷地内にある低レベル放射性廃棄物の処分場に持ち込めるのは、日本各地の運転中の原子炉から出てくる低レベル放射性廃棄物のみで、運転を終了した後の廃止措置で出てきた低レベル放射性廃棄物は、現状は持ち込まないことになっている。また、L1は比較的少量ながらも70m以深の中深度処分をすることになっている。

【特集2】原子力発電所の廃止措置 今に生きるJPDRでの実績


石川迪夫原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

日本における原子力発電所の廃止措置は、既にJPDRで豊富な経験がある。第一線で廃炉作業に当たった石川迪夫氏が当時を振り返り、提言を行う。

原子力発電が始まった時に、廃止措置(廃炉)の話しが既に出ていたと言う。古い研究施設をそのまま土中に埋める隔離埋設、放射能の高い機器設備を格納容器の中に閉じ込めて保管する安全隔離、放射能を完全に除去して後を使用する解体撤去の3案であったという。今でもこの3案は国際原子力機関(IEAE)で使われている。


ところで、廃炉工事といえば危険な仕事と考えている人が日本には多い。これは間違いなのだが、その震源は欧州にある。原子力発電が始まりだした1970年ごろ、発電用原子炉の解体撤去は無理ではないかとの見解が欧州で生まれた。幾年も発電を続けた原子炉は強く放射化しているから、解体撤去工事は放射線安全上無理ではないかという意見だ。この話を聞きかじった日本の反対派は、「解体撤去ができない原発は、発電が終われば死の町を作る」と歪曲して宣伝した。


欧州発の懸念ともなれば、原子力と相性の悪いマスコミが見逃すはずがない。70年ごろから、反原発の気運が日本で急速に広まった理由の一つが、このマスコミ報道だ。それに伴って、廃炉は危険との認識も何となく日本に根づいた。

以降25年を経て、95年にJPDRの廃炉工事が日本で完了した。その総被ばく量(期間約8年)はわずか0・3シーベルト(Sv)・人だった。定期検査1回分(期間約1カ月)の約1Sv・人より大幅に少ない。日本原子力発電の東海発電所の廃炉工事も、総被ばく量は定期検査と同程度との予測だ。話と実績は全く違う。


その理由は、定検は原子炉停止直後に行うが、廃炉は停止後10年もたってから行われる工事だからだ。この時間の差が中の放射能量を1億分の1以下に減らす。

欧州の懸念の間違いは、放射能の減衰を勘定に入れない不安だけの思考だったことによる。反原発情報は、この種の誤り、フェイク話が多い。廃炉は工事であるから、労働災害のリスクは常に存在する。だがそれは放射線被ばくのリスクでない。これが総論の結論1だ。


ところが発電用原子炉には、炉心溶融を起こした事故炉もある。事故炉の廃炉は一般炉とは大違いだ。炉心が壊れている上に、強い放射能汚染が解体を妨げるので工事は大変だ。費用も多大だ。これに対して一般炉は、廃炉手順がほぼ定型化しており、被ばくも少ない。事故炉と一般炉では、廃炉はそれほど違う。これが結論の2だ。

廃炉第一号・JPDR 国際会議が計画を評価

以上二つの結論で総論は終える。だが今回は一般炉の廃炉特集だ。以降は、特殊な解体技術と思われていた廃炉が、一般化していった歴史について述べる。

まず日本の廃炉第一号、JPDRについて述べておこう。JPDRは63年、日本原子力研究所で日本最初の原子力発電を達成した発電用原子炉だ。その後研究に使われていたが、耐震基準の変更により安全規格に合わなくなり、75年ごろ廃炉と決まった。

廃止措置前のJPDR

解体された跡地

以降の約10年、JPDRの職員たちは原子炉周辺の放射能分布の測定や計算、解体機器の開発や試作などの、廃炉工事に向けた取り組みを正攻法で進めた。準備がほぼ整い、工事開始と思われた時に、リーダーが工事の着手に二の足を踏んだ。廃炉は危険との欧州の懸念は、日本の原子力関係者にも影響していたのだ。原研首脳は困惑して、昔JPDRの建設運転に携わった僕に、お鉢を回した。これが僕と廃炉の縁の始まりだ。

着任して一カ月後、85年5月に第1回の廃炉国際会議がワシントンで開催された。廃炉に対する欧州の懸念の払拭も目的であったろう。JPDRの廃炉計画は会議開催寸前の飛び入りで申し込み、発表を許された。内容が、日本は原子炉を解体する機器を試作して工事の準備が整っており、解体の順序も放射能の高い炉心構造物から始め次いで圧力容器、生体遮へい、格納容器の順に行うという分かりやすいものだったからであろう。

話が前後するが、このJPDRの計画は職員が施設の保全を行う傍ら、全員で検討を重ねたものであった。主に研究員は放射線分布の計算を行い、高卒の技術系職員たちは試作機の開発に取り組んだ。発足当時の原研には、研究員に劣らぬ高い能力を持つ高卒技術系職員が、全国から希望して入所してきた。彼らの勉学と意思がJPDRの廃炉計画の作成を支え、かつ工事を成功させたことを、ここに付記しておく。

ここで余談を一つ。ワシントン会議の頃、廃炉に対するマスコミの見解は、前述の欧州の風潮を背景に、米国政府と対立していた。米国提案のシッピングポート発電所の廃炉予算は1億ドルだったが、ワシントンポストなどの有力紙は「廃炉費用は100億ドル必要」などと書き立てていた。

本格的な廃炉の世界最初の試みだから、スポンサーのエネルギー省(DOE)も自信があるわけでない。そこへ飛び入りの日本が「JPDR廃炉予算は、機器開発費を含めて200億円(約2億ドル)」と何も知らずに会議で発表したものだから、DOEは驚き、喜んだ。偶然だが、JPDRの費用がシッピングポートとほぼ同額だったからだ。苦戦の最中に、思いがけない援軍が現れたに等しい。

事情を知ったのは後日のことだが、DOEは発表に感謝し、以降JPDRを手厚く応援してくれた。DOEはJPDR職員の廃炉留学を受け入れたり、廃棄物施設の見学を許してくれたり、廃炉計画の全貌の伝達などの便宜を与えてくれた。

【特集1まとめ】電力値上げの必然性 燃料・卸市場高騰を乗り切れるか


燃料調達価格の高騰や卸電力市場価格の上昇を背景に、
新旧電力会社の料金値上げが待ったなしの情勢だ。
しかし現実は、大手電力各社の経過措置規制料金を中心に、
燃料費調整条項の上限値が設定されている影響で、
調達価格の上昇分を小売料金に反映できない状況が続く。
大手電力比での割安さを売りにする新電力も同様だ。
利用者への影響を抑えながら、収支悪化に歯止めを掛けられるのか。
調達コスト高騰にさらされるエネルギー各社の取り組みに迫った。

【アウトライン】燃料価格高騰に歴史的円安が追い打ち 岸田政権は国民生活を守り抜けるか

【レポート】大手電力10社に緊急アンケート 認可時と乖離する燃調の実情

【レポート】「規制」と「自由」の逆転現象 新電力が直面する料金戦略の難局

【レポート】東ガスが原調上限を引き上げ 対応分かれる都市ガス業界

【インタビュー】電気料金はマクロ政策で重要な位置づけ 社会に受容される見直し必要

【インタビュー】電気事業の正常化に欠かせず 燃料費転嫁と固定料金プラン

【特集1まとめ】エネルギー危機下の参院選 自民圧勝予想で政策はどう動く


ウクライナ戦争を背景に世界的なエネルギー有事が勃発している。
G7(主要7カ国)の一角を担うわが国も例外ではない。
資源価格・需給ひっ迫の荒波が経済・生活に押し寄せ始めた。
こうした中で、参議院議員選挙の投開票が7月10日に行われる。
山積するエネルギー政策課題に、各政党はどう挑もうとしているのか。
アンケート調査を通じて争点を浮き彫りにするとともに、
資源小国の日本として、今後選択すべき政策の方向性を探った。

【アウトライン】各政党が訴えるエネルギー政策は 7月10日投開票へ熱い論戦

【ルポ】新潟選挙区の動向 県知事選と同様の構図 原発再稼働は争点にならず

【ルポ】比例区の動向 電力総連2議席に黄信号 原子力で「勝負」へ

【アンケート】主要政党のエネルギー政策

【覆面座談会】八方ふさがりのエネルギー政策 票にならないから争点化せず 政治家・有権者に重い責任

【インタビュー】エネルギーは全ての活動の土台 サハリン権益は国益を守る視点で

【インタビュー】エネルギー巡る混乱は政策失敗のツケ 今こそ省エネ・再エネの深掘りを

【特集1まとめ】新電力 生き残りの「境界線」 逆風下の経営を独自検証


電力自由化の主役である「新電力」が強烈な逆風にさらされている。
最大の原因は言うまでもなく、昨年来の卸市場価格の異常高騰だ。
調達コストが増大した結果、21年度決算は軒並みの大幅減益に。
資金力や顧客基盤の弱い事業者を中心に撤退の動きが加速し始めた。
こうした事態を受け、経産省の審議会などでは制度見直しの議論が進む。
本誌は主要新電力を対象に経営・制度に関するアンケート調査を実施。
そこから見えてきた数々の問題点、そして生き残りへの境界線とは?

【アウトライン】異常な市場高騰で二極化が加速 減益決算に見る新電力の試練

【覆面座談会】電力小売りのビジネスモデルは崩壊 撤退が最良の選択肢なのか!?

【レポート】新電力から見た制度上の課題 事業継続へ業界健全化の秘策は?

【特集2まとめ】地方創生時代のガス事業 強み生かし循環型社会構築へ


全面自由化や人口減少、コロナ禍などの影響を受け、地方のガス事業者は今、事業環境の大きな変化に直面している。人・物・金の経営資源に限りがある中小にとって、生き残りのカギを握るのは、自治体など地域との連携だ。地域密着型の強みを生かしたユニークな取り組みが加速し始めた。

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【レポート】地方創生時代の新たな役割 求められる自治体との連携強化

【大多喜ガス】競争力向上への体制を整備 中計2021に新方策の導入も

【インタビュー/山内弘隆(一橋大学)】システムの分散化と強靭化に活路 地方ガスの新たな役割とは

【インタビュー/広瀬道明(日本ガス協会)】新たな需要開拓や技術の確立 分離後は導管会社が担い手に

【小田原ガス】地産地消を柱に経営多角化 マイクログリッド実証に挑戦

【鳥取ガス】地元密着で信頼される電力会社に 「地域貢献」に向けた事業を展開

【釜石ガス】地場企業として復興に貢献 社会の変化にどう立ち向かうか

【理研計器】定置式ガス検知センサーを新開発 海外の大型プラントに展開へ

【I・T・O(旧伊藤工機)】LPガスで都市ガスと電気を製造 病院や避難所のBCP対策に貢献

【インタビュー/西村治彦(環境省)】「地域循環共生圏」の主要パートナーに 地方ガス事業者の存在感に期待

【特集1まとめ】良い再エネ・悪い再エネ 成否は「地域共生」にあり


わが国の政策として主力電源化を目指す再生可能エネルギー。
去る通常国会での再エネ特別措置法の成立などFIT見直しが進む中、
開発を巡っては地元とトラブルに至るケースがあとを絶たない。
里山の自然環境を破壊したり、住民への対応・説明を怠ったり、
地域経済をないがしろにしたり、災害の危険を誘発したり……。
もちろん、地元とうまく協調・連携しているケースは数多い。
再エネ開発の成否を左右するキーワードは、果たして何か。
現地取材を通じ「地域共生」の重要性が浮かび上がる。
「脱炭素」だけがSDGs(持続可能な開発目標)ではない。

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【レポート】再エネ開発を巡る「うわさの現場」 住民・企業・環境との共生を探る

【座談会】求められる制度改正と意識改革 国益にかなう政策展開の条件

【メディア放談】地方紙のエネルギー報道 原子力への地方紙の厳しい視線


出席者>電力・原子力・ジャーナリスト・マスコミ業界関係者4人

原子力バックエンドが動きだしたが、原発立地県などの地方紙の見る目は厳しい。しかし、エネルギー報道では、地方紙ならではの記事が多くある。

―原子力のバックエンドが動きだそうとしている。日本原燃の六ヶ所再処理工場が原子力規制委員会の審査に「合格」し、高レベル放射性廃棄物の処分場選定も、文献調査に手を上げそうな自治体が出てきている。

電力 ようやく一歩、前に踏み出そうとしている。もっとも、これからが大変。マスコミの論調を見ても、使用済み燃料の再処理については、ほとんどの大手紙が否定的な書きぶりだ。

電力業界としては、原子力施設が立地する地元の県紙やブロック紙の論調が大切で、取り上げ方を注意深く見ている。やはり再処理事業については厳しい記事が目立っている。

マスコミ 再処理で地方紙、ブロック紙を見てみると、それぞれ書きぶりは微妙に違うけれど、やはりトーンは否定的なものが多い。原発立地県でなくても、例えば長崎新聞は、長崎に投下された原爆がプルトニウム型だっただけに、プルトニウムに拒否反応がある。六ヶ所工場の「審査合格」の記事で、原子力に否定的な勝田忠広明大教授のコメントを掲載していた。勝田氏は「国の政策として恥ずかしい」とまで言っていた。

ジャーナリスト 玄海原発が立地する佐賀新聞もサイクルには厳しい。前原子力規制委員長の田中俊一さんのインタビューを掲載している。田中さんは核燃サイクルに否定的で、必要性と技術の欠如、それに余剰プルトニウムの問題から、「サイクルは現実的に不可能」と言い切っている。初代規制委員長として田中さんの影響力は少なくないから、業界としては頭が痛い記事だった思う。

長崎新聞の厳しい視線 原爆5000発分は勉強不足

原子力 長崎新聞は、玄海原発でのプルサーマル実施にも厳しい視線を向けていた。被爆地・長崎のマスコミとして、プルトニウム利用に疑問を投げ掛けるのは、ある意味で当然だと思う。

ただ、例えば愛媛新聞は、「(日本は)既に46t、原爆5000発分に相当するプルトニウムを保有している」と社説で指摘している。確かにプルトニウムは国内外に46tあるが、「質」の点において、それらが全て核兵器の原料となることはない。

電力会社が持っているプルトニウムの中には、原爆の原料にふさわしいプルトニウム239のほかに、質量数が238、240、242など核拡散抵抗性が強いものも含まれている。そのことを理解していない。愛媛新聞に限らず大手紙も含めて、その点で勉強不足のマスコミが多い。

電力 保有しているプルトニウムが原爆の材料に転用することが難しいことは、非常に複雑で分かりにくい。これは丁寧に説明を繰り返していくしかない。

原子力 日本はIAEA(国際原子力機関)の保障措置の「優等生」と言われていて、六ヶ所工場には廃棄物中の極微量の核物質を測る装置もある。さらに再処理した後の最終製品は、核兵器に不向きなウラン・プルトニウム混合酸化物として取り出している。

とにかく、核物質の平和利用には気を使っている。でも、そういったことがマスコミに取り上げられることは、まずない。

ジャーナリスト それは、マスコミに期待する方が間違っていると思う。

―高レベル廃棄物の処分でも、北海道の寿都町長が文献調査の応募に前向きな姿勢を示した。

電力 高知県東洋町の田島裕起町長が文献調査に手を挙げてから13年経って、ようやく動きが出てきた。寿都町に続いて、北海道の神恵内村でも、商工会が応募検討を求めている。

いくつかほかの自治体でも、これから声が挙がると思う。最後は町長が辞職に追い込まれた東洋町の二の舞を繰り返さないように、静かに見守っていくしかない。

ジャーナリスト 原子力が嫌いな北海道新聞は、応募は容認できないだろうね。社説を見てみると、「財政と引き換えに安全性が疑問視される処分場の誘致に動くのは安易にすぎないか」とか、「いったん交付金をもらってしまえば、処分場建設へ国の働きかけが強まるだろう」とか、とにかく交付される20億円が目当ての応募だとしようとしている。

しかし、東洋町の田島町長と同じように、寿都町の片岡春雄町長も、原子力バックエンドのことをとてもよく勉強している。もっとも、メディアはそのことを伝えようとしない。

マスコミ 確かにコロナ不況もあり、過疎化が進む地方自治体の財政はどこも非常に厳しい。だけど、ただ単にカネが目的だとして、いずれはどこかに処分しなければならない高レベル廃棄物を「われわれの地域で処分はさせない」で突っぱねてしまうのは、あまりに無責任だろう。

地方紙ならではの記事 仙台市ガス局民営化を詳報

―原子力関連以外の報道で、地方紙の読みどころは。

ガス 地方のエネルギー関連施設などの動きは、やはり地方紙を見ないと分からない。地元の人たちが発電所や工場の建設などを、どう受け止めているか報道する記事は参考になる。仙台市ガス局の民営化でも、詳しく報道していたのは河北新報だった。

石油 地方で事故が起きた時は、地方紙の記事をまず探す。郡山市のLP爆発事故でも、東京の業界関係者は地方紙の報道に頼るしかなかった。

マスコミ 今、大手紙よりもヤフーニュースの方がよく読まれている。内容さえよければ、地方紙の記事がどんどん読まれるようになっていくよ。

―情報発信も「東京一極集中」は早く解消されるべきだね。