【出席者】紺谷 修/鹿島建設 原子力部技師長、佐藤忠道/元日本原子力発電 取締役、柳原 敏/福井大学 客員教授、澤田哲生/エネルギーサイエンティスト
廃止措置では低レベル放射性廃棄物の扱いなどが大きな課題になる。
実際の作業に関わる専門家が徹底討論で解決策を探った。
澤田(司会) 先日、浜岡原子力発電所1、2号機の廃止措置を視察してきました。現場で作業に取り組む人たちと接して実感したのは、「これはカルチャーだ」ということです。「後始末」という言葉があるように、日本人には「始めたものは、きれいに終えよう」という精神がある。役目を終えた原子力発電所をきちんと廃止することは、世間の人たちにも訴えかけるものがあるはずです。
さらに浜岡発電所の廃止措置の現場で聞くと、いろいろなビジネスが生まれる可能性もある。柳原さんはJPDRのプロジェクトに参加されていました。廃止措置について、どのように考えていますか。
柳原 廃止措置とは、原子力施設を解体して、そこにある物質を放射性廃棄物と有価物やクリアランス物に分け、両方ともに行く先を考えることです。澤田さんが廃止措置のカルチャーと言われましたが、運転のカルチャーとは全く別のものです。運転中は施設の健全性を維持することが最も重要ですが、廃止措置は施設を解体していく作業になる。ですから作業員による活動が大切になります。その作業員をうまく管理して、効率的に進めるプロジェクトマネジメントが欠かせなくなります。
澤田 廃止措置の仕事の魅力は何でしょうか。
柳原 原子力発電所はライフサイクルを完結しなければいけません。設計、建設、運転と続き、最後が廃止措置です。ですから、発電所の後始末をきっちりと行い、最後を見届けるという重要な役割があります。
電力会社は運転のときは電気を売ることで収益を得ます。そのため運転を重視しますが、運転を終えた後は収益がありません。ですから関心も薄れがちになります。しかし、例えば原子力施設に存在している有価物などは循環型社会の中で再利用が可能な資源です。これらをいかに使うか。そういった観点から見ると、やりがいを持つことができる、非常に魅力的な仕事だと思っています。
澤田 佐藤さんは東海発電所の廃止措置に携われました。現在はどういう状況ですか。
佐藤 JPDRは原子炉の廃止措置がきちんとできることを示しました。それを受けて東海発電所では、商業用の原子炉が安全かつ経済的に廃止できることを実証する役割を担っています。さらに、商業用原子炉の廃止措置の規制や廃棄物の区分などのルールを確立すること、また、廃棄物の行く先について、ルートづくりの先鞭を付けたい考えもあります。
澤田 計画は当初の予定より遅れているようですが。
佐藤 そういった役目を果たそうと考えて2001年にスタートし、17年間で終える計画でした。しかし、福島第一原子力発電所事故などの影響で作業が遅れ、今は30年の終了を目指しています。
規制のルール作りの点では、それまでの届け出制では基準が明確でないため事業者側、規制当局ともに大変な手間がかかりました。そのため規制当局と話し合い、認可基準が設けられて認可制に変更されました。
規制委発足で基準が厳格化 審査遅れる東海のL3処分
澤田 原子力発電所の解体廃棄物のほとんどが放射性のものではありません。しかし、わずかですが低レベル放射性廃棄物(L1、L2、L3)が出てくる。廃棄物処分の点ではどういう進展がありましたか。
佐藤 東海発電所の廃止措置がきっかけになり、05年にクリアランス制度ができました。低レベル放射性廃棄物の処分の規制基準も、原子力安全委員会が廃止措置を担当していたときに主要な部分はできていました。それを原子力規制委員会が受け継いだのですが、ほとんど白紙からの議論になってしまいました。最も放射能レベルの高いL1はようやく規制基準ができましたが、かなり厳しい基準になっています。
規制委は、その基準を基に、L2やL3にも共通する事項は同じ考えで審査を行おうとしています。大規模な津波の評価ですとか、1000年後まで想定した安全性評価などです。申請後にゴールポストが動かされることになり、審査に非常に時間がかかっている。東海発電所のL3は、サイト内でのトレンチ埋設について15年に事業許可申請を規制委に提出しています。今も審査中ですが、L3について実績を残すことが期待されています。
澤田 既に着工しているところもありますが、今後、商業用原子炉だけで18基の廃止措置が本格化します(福島第一原子力発電所を除く)。効率的に進めなければ、とても全てを速やかに終えることはできない。いかに効率的に作業を進めるかが重要になります。
佐藤 廃止措置は工期が長くなっています。期間依存コストと言いますが、工期が長くなればその分、人件費、施設維持費などがトータルとして膨らんでいく。ですから期間の長期化は費用面でも課題です。
重要なことは経験を生かすことです。東海発電所は蒸気発生器がフォーループで四つありました。1器目を壊して、2器目は1器目でうまくできなかった点を改善して壊した。すると、かなりのコスト削減になりました。廃止措置は現場が中心です。ですから、ただ単に書類に書かれたことだけでなく、現場で実際に得られた経験をヒアリングなどして、次に生かしていくことが大切になります。
柳原 運転中の原子力発電所のメンテナンスは、一般に発電所を造ったメーカーが行いますが、廃止措置は造ったメーカーが壊す必要はありません。米国やスペインの例をみると、廃止措置の専門会社が行っている国があります。それらの会社は、収益を得ることを念頭に作業します。
佐藤さんが言われたように、廃止措置は経験が大事です。何回も経験を積めば効率的に作業を進められる。専門会社がいろいろなプラントを手掛けて、そういう経験を積んで行うのが最も効率的な廃止措置だと思います。
今後、いくつかの原子力発電所の廃止措置では、管理区域内での解体作業が本格化します。海外での例を踏まえて、国、電力会社、産業界が全体で、専門会社などによる新たなビジネスの展開を考えていく必要があると思います。
紺谷 後ほど廃棄物の話題になると思いますが、最も放射能レベルの低いL3の処分にしても、国の規制が厳しくなっています。規制が厳しければ当然、お金、手間、人手がかかる。米国の場合は、大規模な処分場が国内に点在しているので、例えば圧力容器をバージ(はしけ)に積んで処分場に運んでいくこともできます。やはり、廃棄物処分を巡る課題が作業の効率化にも大きく影響していると思います。
澤田 高レベル放射性廃棄物の処分場の立地が電力業界にとって大きな課題ですが、廃止措置に伴って出てくる低レベルの場合はどうでしょうか。やはり処分場の確保に頭を痛めている発電所が多いようです。