【特集2まとめ】 拡大する蓄電池ビジネス 再エネ有効利用の切り札へ


再生可能エネルギーの大量導入に必要不可欠な調整力―。
そんな役割を担う蓄電池を生かす舞台が家庭と産業分野で拡大中だ。
太陽光発電などの再エネ設備と連携し自家消費を促す展開が加速。
電力コスト削減やピーク時の電力消費を抑え込む効果に注目が集まる。
EVに蓄えた電力を暮らしや災害時に融通する技術も進歩する。
革新的電池ビジネスの育成を目指すエネ業界の最新動向に迫った。

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【特集1/新春特別座談会】政界のキーマンと徹底議論 「原子力新時代」を創ろう!


政治が不安定化する中で、日本のエネルギー政策はどうあるべきか。
気脈を通じる玉木氏と福島氏からは、あっと驚く提案も……。

〈司会〉
竹内純子(国際環境経済研究所理事)

福島伸享

玉木 雄一郎(衆議院議員)

左から、玉木氏、福島氏、竹内氏

竹内 お二人は当選同期のエネルギー政策通です。ズバリ、エネ政策最大の課題は何ですか。

玉木 「再生可能エネルギーか原発か」という二項対立から抜け出せないことです。二度のオイルショックの後、中東依存脱却を目指して原子力を推進したにもかかわらず、電力の7割近くを火力発電に頼り、原油はほぼ全て中東に依存している。国際情勢が混とんとしているにもかかわらず、「再エネか原発か」というイデオロギー対立でいがみ合っている。政治のリーダーシップがないし、国民全体で危機感を共有できていません。

福島 そういう現実を踏まえない議論をしていること自体が危機ですよ。再エネが増えたとはいえ、当面は化石燃料に一定程度頼らざるを得ない。小資源国の日本にとって、供給途絶が起きれば日本は窮地に追い込まれます。かつてはそれを補う産業や技術があったけれど、衰えてしまった。経済力も低下した。バーゲニングパワー(交渉能力)が何もない状況で国際環境の変化に対応しなければならない深刻な状況にあります。

竹内 エネルギーは国民の生命に関わります。化石燃料を持たず、さらに島国なのに、エネルギー教育はほぼない。自分たちの命を守る政策を真剣に考えられているのでしょうか。

玉木 外交・安全保障と同じで、エネルギー政策が政権によってコロコロ変わってはいけません。ただ先の衆院選では、自民党は公約に新増設やリプレースを書かなかったし、公明党は「原子力に依存しない社会」を掲げた。自公政権が原子力政策を転換するのではと、危惧している関係者も多いんじゃないですか。

竹内 コスト面に目を移すと、再エネ賦課金が年間約2・7兆円となり、2030年過ぎまで増加傾向が続くとの見通しもあります。電気という生活必需品に掛かる消費税のようなものですから、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」上で極めて大きな問題ですよね。

賦課金は工夫して見直しを 「手取りを増やす」エネ政策

玉木 再エネ賦課金は明らかに見直しの時期を迎えています。いまだに「太陽光が一番安い」という人がいますが、それなら補助はいらないでしょう 。即時廃止は難しいですが、例えば期間を長くすれば単一年度の負担を下げられるかもしません。既契約分は賦課金ではなく税金で国が肩代わりする手もあります。

竹内 国民負担からは逃れられません。所得が上がらない原因の一つはエネルギーコストですからね。

玉木 そうです。賃金を増やせと声高に主張するだけではダメで、これから電力需要が増える中でどのように安価で安定的な電力を供給していくのか。現実的な議論をしない限り、経済成長や「手取りを増やす」ことにはつながりません。そのためには、少なくとも安全基準を満たした原子力発電所は稼働させる必要がある。北海道で発電した電気を本州に運ぶ海底直流送電の計画がありますが、そこに莫大な資金を投入するくらいなら現地で産業を作ればいい。原子力規制委員会の運転中審査も認めて、「原子力新時代」を創らないといけません。

福島 2024年は円安と物価高が日本を襲いました。その主要因はエネルギーと食糧の自給率の低さです。輸入に頼れば頼るほど、それは円安要因になる。では負のスパイラルを脱却するためにどうするかを考えた時、原子力を手放すという選択肢はあり得ないでしょう。

玉木 日本のGDP(国内総生産)は約600兆円。そのうち約25兆円を化石燃料の購入費として支払っています。近年ではデジタル赤字も6兆円もある。国内で回せていれば誰かの所得になっていたお金が、国外に流出している。この構造を放っておいていいわけがない。

【特集1まとめ】アウトルック2025 「乙巳」が示す復活と再生


元日の能登半島地震の衝撃で幕を開けた2024年。
気候的には各地で記録的な猛暑となり、エネルギー需要は急増。
ただ供給力面で大問題は起こらず、需給・価格はおおむね安定した。
BWR・東日本初となる東北電力女川2号機の再稼働も特筆される。
2025年最大の目玉は、第7次エネルギー基本計画の策定だ。
原子力推進にかじを切った岸田文雄政権から石破茂政権に代わり、
国民民主党が大きく躍進した影響がどう現れてくるのか、注目される。
温暖化否定派の米トランプ政権復活による国際動向からも目が離せない。
干支の乙巳は「再生や変化を繰り返し柔軟に発展していく」という。
果たして、25年はエネルギー業界にとってどんな年となるのか。

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【中部電力 林社長】将来の情勢見据えた経営ビジョンを実現し 政策目標にも貢献へ


昨今の情勢変化を先取りした経営ビジョンの実現に全力投球する。

脱炭素ではグループで複数地点の洋上風力の開発に関わるほか、浜岡原子力発電所の審査過程も一つステップアップした。

電気事業以外では不動産をはじめ、中部エリア内外で強みを生かした事業展開を加速させている。

【インタビュー:林 欣吾/中部電力社長】

はやし・きんご 1984年京都大学法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。

 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。


利益水準拡大に手応え 洋上風力の開発に全力

志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。

 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。

足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。

志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。

 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。

志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。

 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。

志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。

 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。

【東北電力 樋󠄀口社長】電力の安定供給維持へ 自己資本を積み増し財務基盤を回復する


東日本大震災で被災した原子力発電所として初めて、女川原子力発電所2号機が再稼働を果たした。

東北地方の東日本大震災からの復興、そして電力の安定供給とカーボンニュートラルへの貢献に向け、大きな一歩を踏み出した。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。

樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。

これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。

志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。

樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。

今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】経営合理性の追求とESG経営の徹底を両立 組織の価値観を変える


エネルギー業界が大きな転換点を迎える中、2024年4月に西部ガスホールディングス社長に就任した。

引き続きガスエネルギー事業を中核に据えつつ、ESG経営を徹底することで組織の価値観を変え、脱炭素社会で社員が誇りを持ち続けられる企業としての礎を築く。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西南学院大学法学部卒、西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

志賀 社長就任を打診された際、即承諾したそうですね。

加藤 酒見俊夫会長(現相談役)からの打診に間髪入れず「頑張ります」と答えてしまい、その後に「私のような者で大丈夫でしょうか」と付け足すことになりました。道永幸典社長(現会長)からは、「漫画一コマの間もなく受けたね」とからかわれ、その後、北九州の取引先の間では即答することを「加藤の1秒」と言われていたようです。社長になればさらにいろいろなことにチャレンジできるのですから、私としては「よし来た」でしたね。

志賀 24年4月の就任からこれまでをどう振り返りますか。

加藤 正解が分からない中でのかじ取りだからこそワクワクする反面、経営資源を預かる職責の重みを感じています。同時に、当社グループで働く社員が「自信と誇り、プライドを持って業務に取り組むグループ経営」を実践したいという強い思いもあります。そのためには、経営層が大汗をかいて取り組んでいることを可能な限り感じてもらう必要がある。そこで、私の人となりを含め社長としての考えや方向性を正しく伝えようと、グループ報ウェブサイトに動画配信チャンネル「卓二の部屋」を開設しました。「形式百回は、ありのまま一回に如かず」という気持ちで、さまざまな動画を配信し、経営層とグループ社員の距離を縮めていきたいと考えています。今後は少し業務寄りの内容を増やそうと思案中です。


人的資本経営に注力 社員の誇りを高める

志賀 社長としての抱負は。

加藤 現在の事業環境は、前門の「ガス小売全面自由化」、後門の「脱炭素化」の様相です。そこにウクライナクライシス、電源調達価格の高騰、LNG産出国のトラブルなどが重なり、経験則の無力さを感じています。こうした状況下でも日々現場で働いているグループ社員、そしてその家族が、2050年においても西部ガスグループに勤めていて良かったと誇りを持てる礎を築くことが私の役割です。会社は株主のものですが、社員が幸せを感じながら生きるための源泉でなければなりません。

動画配信などを通じ、社員との距離を縮めている

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の徹底は、そのためのミッションの一つであり、「サステナビリティ経営」「資本コスト経営」「グループネットワーク経営」、そして「人的資本経営」にチャレンジしていきます。特に人的資本経営については、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による労働環境の再整備・スマートワーク化やキャリア採用の拡大を進め、ダイバーシティと健康経営、女性活躍推進に取り組みます。文字通り、ワークフォースから西部ガスグループ社員ならではのヒューマンリソースへの転換です。これは、既存組織の価値観や既存制度の文化を変えることになり、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、このパラダイムシフトと脱炭素に向かう経営合理性の追求をパラレルに進めるという、現代ミッションとして挑んでいかなければなりません。何よりも、人材育成とPDCAの徹底、そして新規事業を創出できるマネジメント力を強化する必要があります。

【特集2まとめ】阪神・淡路大震災の記憶つなぐ ガス復旧に見る保安・防災の進化


1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した。
震度7に達する地震は交通インフラを破壊しただけでなく、
大規模な火災を引き起こし、エネルギ―インフラの復旧に長い時間を要した。
この復旧活動からの教訓が現代の防災・保安に生かされている。
30年前の当事者の対応を振り返りながら、最新の防災、保安対策への
取り組みや製品、ソリューションなど、ソフトとハード両面で最前線に迫った

【大阪ガス・伊丹産業】今につながる30年前の経験 関係者が明かす当時の奮闘記

東京ガスネットワーク】次代を見据え進化する有事対策 先進的事業で安心な社会づくり

【岡山ガス】法人車両のドラレコを活用 AIを活用した新保安システム

【東洋計器】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築

【I・T・O】自治体やエネルギー事業者が注目 生活用水が確保できる新設備

【リンナイ】給湯器が気象情報と連動 事前にタンクユニットに貯湯

【新コスモス電機】認知が足りないCO中毒事故 火災対策と一体での取り組み必要

【東京電力PG】スマメ活用で早期に停電範囲を把握 次世代品ではさらに高度な運用へ

【岩谷産業】「マルヰ会」が全国一斉訓練 予測不能な救援出動に万全の備え

【タツノ】燃料供給の拠点を支える立役者 多彩な展開で事業継続力の強化担う

【北海道電力 齋藤社長】北海道をCN拠点へ 脱炭素技術を社会実装 GXビジョンを実現する


最先端の半導体工場やデータセンターの建設が相次ぎ、
今後、大幅な電力需要増が見込まれる北海道。

これまでの知見や技術を最大限活用し
企業の円滑な進出をサポートするとともに、
脱炭素技術の社会実装を着実に進める。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。

井関 今夏は全国的に記録的な猛暑となり、各地で電力需給がひっ迫しました。冬季に向けた供給体制は盤石ですか。

齋藤 10月29日の電力・ガス基本政策小委員会において、今年度冬季の需給に関する見通しが示されました。北海道エリアは最も厳しい1月でも、10年に1度の厳寒を想定した最大需要に対する予備率を10%以上確保できる見通しです。北海道においては暖房機器の稼働などにより、冬季が電力需要のピークとなります。引き続き、ほくでんグループ各社が緊張感を持って設備保全などに努め、安定供給を果たしていきます。

井関 昨年度の長期脱炭素電源オークションで、石狩湾新港発電所2号機の新設と苫東厚真発電所4号機の既設改修で応札し、落札されました。

齋藤 北海道エリアは電力需要の増加に加えて再生可能エネルギーの導入拡大が見込まれていますが、それぞれがいつ、どの程度の規模であるかを見通すことは難しく、予見性の観点から新規電源投資のリスクが大きい状況です。

長期脱炭素電源オークションで落札した電源は、原則20年にわたり、他市場収益(卸取引市場・需給調整市場・非化石収入など)を約90%還付する必要があるものの、建設費用や運転開始後の維持費、事業報酬を回収できる制度であるため、投資回収の予見性が確保できるものと考えています。

井関 石狩湾新港2号機の前倒し稼働を決めました。不透明な電力需要にどのように対応していくことになりますか。

苫東厚真発電所4号機ではアンモニア混焼を予定している

齋藤 石狩湾新港2号機の運転開始時期を、2034年12月から30年度まで前倒しすることにしました。電力広域的運営推進機関が公表している北海道エリアの需要想定では、経済成長やデータセンター(DC)・半導体工場の新増設が続くことによる需要増が、人口減少や節電・省エネなどの減少影響を上回ると見込まれ、当社として、将来の需要増を踏まえ前倒しが必要だと判断したものです。社長に就任した昨年6月ごろは、今後需要が縮小していく中で地域に寄り添いながらどう生き残っていくかが課題でしたが、ラピダスの千歳進出を機に半年ほどで状況は一変したと感じています。 こうした需要増に対しては、まずは既存の発電設備を活用しながら供給していく方針です。それでも、北海道の300万~400万kWという需要規模の中に100万kW規模のハイパースケールDCが立地すれば電力システムへの影響は甚大です。発電設備、ネットワーク設備の在り方を考え、効率的かつ迅速に産業を誘致する観点からプッシュ型で増強を進めていく必要があると考えています。とはいえ、それには資金調達と資金回収の面で大きな課題があります。