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井関 7月末に、2025年度の通期業績について、5年ぶりの減収増益との見通しを公表しました。
本永 売上高は期初予想から15億円上方修正しましたが、前年度に比べ販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の影響を主な要因として、前期を下回る見込みです。前年度は、夏の暑さが影響し販売電力量が23年度比5・4%と大きく伸びました。今年は7、8月の気温が昨夏よりも低かったことから販売電力量は伸び悩みましたが、9月に入ってからは厳しい暑さが続き、一転、好調に推移しています。
今年は台風が沖縄にほとんど接近していないことも、販売電力量が好調に推移する一因となっています。入域観光客数についても、8月単体で史上最高の107万5千人が訪れたと発表されましたが、気象条件に左右されず、計画通りに旅行していただけることも大きな後押しになるでしょう。
利益面では、期初予想から売上高は伸びたものの、電力需要の増加や燃料価格の上昇により、燃料費や他社購入電力料の増加も見込まれます。こうした影響を踏まえ、今後、グループ会社を含めた業績の見極めも必要なことから、営業利益100億円、経常利益80億円の期初予想を据え置きました。そこから少しでも上乗せしたいというのが本音です。
井関 来年4月に高圧部門の料金規制が解除されます。どう受け止めていますか。
本永 高圧部門で規制料金が残っているのは沖縄エリアだけですが、競争状況は他エリアとそん色がなく、電源アクセスの公平性が確保されていることが認められました。22年度の燃料価格高騰の際には、規制料金に燃料費調整の上限が設定されていることで収支に大きな影響がありましたが、この仕組みは事業者の負担が大きく、規制料金が安く抑えられることで競争を歪める可能性もあるため、解除が望ましいと考えています。
県内には現在、20社強の新電力が進出しているとみられ、低圧・高圧の両部門において競争が一段と激しさを増しています。低圧部門においては、10月から有力な事業者が参入しており、これまで以上に厳しい競争環境になるものと見込んでいます。
井関 これをきっかけに、どのような戦略で攻勢をかけますか。
本永 高圧部門でも、既に自由化されている領域で積極的な営業を展開していますし、解除後に自由料金の対象となるお客さまに対しても注力していきます。当社の強みは、お客さまのニーズに合わせて、ガス供給や省エネ診断など総合的なソリューションを提案できる点にあります。さらに、CO2フリーメニューや再生可能エネルギー由来のPPA(電力購入契約)を提案するなど、環境価値の提供にも対応しています。今後も、多様化するニーズに合わせた最適な選択肢を提供していきます。
井関 沖縄は再エネの適地が限られているように思いますが、どのように再エネ電源を拡大していきますか。
本永 沖縄にはメガソーラーを設置できる広大な土地はありません。そのため当社の戦略は、事業所や学校、公共施設などの屋根を活用し太陽光パネルを敷設するというものです。家庭向けを含め、お客さまの屋根に太陽光パネルを設置し、蓄電池と組み合わせる事業「かりーるーふ」を展開しています。
学校への設置は、環境教育に役立つだけでなく、災害時の拠点として非常用電源を確保する効果もあります。実際に、小中学校で導入が進んでおり、今後も高校などで取り組みを強化していきます。

井関 前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成しました。
加藤 その瞬間は非常に達成感を覚えました。ですが、直後から新たなグループ中計「ACT2027」が始動し、フルパワーで取り組んでいますので、余韻に浸る時間はそれほど長くありませんでした。
井関 社長就任から1年超。どう振り返りますか。
加藤 6月の株主総会でも、株主のお一人から「社長就任からの1年を総括してもらいたい」との質問をいただきました。想定問答にはなかったので驚きましたが、前年の株主総会で別の株主の方から「事業の裾野が広がっているのは分かるが、本業であるガスエネルギー事業強化に本腰を入れるべきではないか」と叱咤激励いただいたことを思い出し、それを踏まえてこの1年間の総括を述べました。
前年度の株主総会では、都市ガス、LPガスのみならず電力事業の強化を図り、総合エネルギー事業への回帰を進めていくこと、そして、芽が出てきた不動産事業との両輪で、収益をけん引していくことを宣言しました。それらを実現するべく、ガス事業ではひびきLNG基地における3号タンクの増設に着手。巨額の投資を伴いますので、最終投資決定の前からJERAと協議を重ねていました。

電力事業では、再生可能エネルギーの開発に加えてひびき発電所(LNG火力、62万kW)が今年度中に運転開始を予定しています。これに合わせて、小売販売・卸販売を強化する体制を構築し、営業活動を活発化させています。不動産事業は、山口県下関市に本社を置くグループ会社のエス トラストが、北部九州を中心とした分譲マンション開発を展開し、非常に順調に推移しています。西部ガス都市開発が手掛ける賃貸事業も、順調にストックを積み上げ安定収入の確保につながっています。
また、社内コミュニケーションの充実を図るため、経営層と従業員層との距離を縮めて、風通しの良いグループ風土づくりのための施策も打ち出しているということも、この1年の振り返りとしてご説明しました。
井関 第1四半期決算は増収増益で、最終利益は前年同期比86%増と過去最高を記録しました。
加藤 不動産や電力・その他エネルギー事業の好調に加え、ひびきLNG基地の減価償却費の減少が、増益の主な要因です。 非需要期の決算とはいえ、23年度以来2期ぶりに全てのセグメントが利益に貢献するなど、「ACT2027」の達成に向けバランスの取れた良いスタートを切れたと思います。
井関 九州経済の好調も、業績を押し上げることになりそうですね。
加藤 はい。この夏を見ても、記録的な猛暑によって家庭用のガス需要は減っていますが、業務用のガスヒートポンプエアコン(GHP)の需要が堅調に伸びています。工場の新規の立地計画や撤退など、プラスマイナスの影響はさまざまありますが、福岡市天神エリアにおける都市再開発誘導事業「天神ビッグバン」で街が一層活気づいてますし、TSMCの工場誘致に伴い関連産業も周辺に進出してきているので、九州経済の手堅い成長と共にエネルギー分野はまだまだ浮上すると見ています。



井関 6月に社長に就任されました。これまでをどう振り返りますか。
西山 2000~03年に当時の鎌田迪貞社長の秘書を務め、社長としての振る舞いを見て大変な仕事だなという印象を持っていました。私自身が実際に就任してみて、やはり責任の重さを実感しています。スケジュール上の忙しさもありますが、さまざまな経営判断を最終的には自ら下さなければならない、そこに社員の生活がかかっているということの責任の大きさ、重さを日々感じながら、仕事に向き合っています。
井関 九州電力に入社して以降、最も印象に残っていることは何でしょうか。
西山 最初の赴任地である熊本でのことですが、当時は社員が各家庭を回って未収金を回収していたんですね。私も1カ月に400~500軒を回っていて、その中には、経済的な理由でどうしても払えないご家庭もありました。電気が止まれば生活が成り立ちません。そうした皆さんが、できるだけ安心して電気を使っていただけるようにしていかなければならないと強く感じたことが、私の原体験です。
もちろん、事業はサステナブブルでなければならず、収益を上げて社員や株主、地域の皆さまに還元していかなければなりません。九州エリアは、半導体工場の集積やデータセンターの建設などにより、今後、電力需要の増加が見込まれています。こうした動きは、当社が原子力の安全・安定運転、再生可能エネルギーの積極的な開発・導入などにより、業界トップレベルの非化石電源比率を誇っていることに加え、全国的に見て低廉な料金水準であることなどから、企業にとって九州での立地が魅力的であるためと考えています。
これからも、電力の安定供給を堅持するとともに、環境価値の高い電気といった九州の強みを生かして企業の立地を促し、地域経済が潤いながら当社も利益を上げる―そのような循環を創り上げていきたいと考えています。




井関 今年は酷暑の割に予備率には比較的余裕がある印象です。火力の運用面はどうでしょうか。
菅野 昨年同時期に比べて火力の稼働率が相当上がっています。スポット市場はどのエリアもゼロ円のコマが減り、それだけ火力電源が動いており、逆に言えば当社を含む発電事業者がマーケットを見ながら適切に運用しているといえます。
全体の需要が底上げされており、昨年1年間で2%弱増えました。特に今年は6月から暑い日が多く、早い時期から需要が増加しています。需要が大きく予備率が厳しい時期に計画外停止が起こらないよう、火力の定期検査を端境期に偏らせないなど、どの事業者も工夫しているはずです。石炭火力も日常的にフルの出力から最低負荷まで変動させる運用が増えており、ボイラーの金属の熱収縮による影響を予見し、集中的にどこをチェックするべきなのか、精度を高めていかなければなりません。
それでもトラブルは起こり得るので、いざという時はなるべく早く戦列に復帰させることが必須となります。
井関 第1四半期(4~6月)は減収増益でした。
菅野 3月末に松島火力が全て停止し、また今年度は容量市場の単価が大幅に下がるなど、減収要因がいくつかあります。それに対し、再生可能エネルギーでは水力や風力の発電量が増え、火力ではLNGと石炭の価格差が保たれた状況にあるなどの増収要因である程度回復しました。加えて北米ガス火力権益の売却益を計上したことにより、想定をやや上回ったと捉えています。
井関 第7次エネルギー基本計画を踏まえ、分野ごとに具体的な政策の検討が進んでいます。特に注目している点は?
菅野 電力需要の伸びのスピード感が重要です。実際今年度にかけて少し伸び、そしてデータセンター(DC)の需要はこれからが本番との見方があります。他方、政府が掲げるS+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)を三つとも満たすことは相当に難しいです。個々の事業者としては何を優先するのか、ある程度腹をくくる必要があると思います。事業者としての最適解は何か、判断を迫られ、具体的な行動となって現れる日が近いのではないでしょうか。

井関 ワット・ビット連携(電力系統と通信基盤の一体整備)の議論が進む中、日立製作所と社会インフラ事業者向けのAI用DCを共同検討しています。
菅野 印西市(千葉県)や京阪奈(京都府)などの系統接続容量は上限に近づきつつあり、電力供給と通信のインフラが整っている別の地方へのDC設置を目指すという議論が浮上していますね。DCの中でも即応性が求められるものや、AIの学習用などの役割分担があり、あるいは公共インフラではより高度なセキュリティーが求められています。われわれは、学習用かつ公共インフラに近いDCは地方設置が可能だと考え、ビジネスチャンスを狙っています。
当社には電源や通信インフラなどの情報はありますが、AI・需要に関する知見は少なく、具体的なDCのニーズを把握する上でパートナーが必要でした。今回、日本発で最も世界的なプレーヤーである日立製作所との連携に至りました。
井関 そこでも火力は重要な役割を果たすのでしょうか。
菅野 GAFAMなどのビックテックはCO2フリー電力で全て賄うと標榜しています。現実的には火力電源も非化石証書でオフセットし使う場面が出てくるでしょうが、当社としては水力や風力などのカーボンニュートラル(CN)な電気で供給するよう努力します。



井関 6月下旬の会見で、地方創生・ 産業高付加価値化と一体となるGX(グリーントランスフォーメーション)開発に向けた新たな試みを発表しました。まさに産業政策とエネルギー政策は絡め合いながら考えるべき問題であり、注目しています。
奥田 例えば英国は製造業主体から、金融とデジタル主軸のモデルに脱皮し、エネルギーは原子力と再生可能エネルギー、天然ガスで賄い、電気料金が上がってもこの産業構造で世界と伍していく戦略です。われわれも相応のコストがかかる脱炭素を現実的に進めていくには、環境価値の高いエネルギーを使っても競争力が落ちないような産業・社会構造の変革が必須です。そして、GXは地域の関係者との連携なしには成し遂げられないと思います。
井関 洋上風力や水素・アンモニアの拠点で地域の産業振興を図る方針ですが、具体案は?
奥田 地方創生や工業地帯の再開発とセットで、各地域のニーズをくんだGXで地方も潤う流れを定着させたい。既に、各地には付加価値の高い製品が存在します。一から新しいモノを作るのではなく、既存のモノを適切な価値で売れる仕組みづくりが有効ではないか、という仮説に基づき、今後ショーケースを順次お見せする予定です。
例えば当社の洋上風力開発拠点である秋田県は魅力的な食の宝庫ですが、国内ではその利益が地元へ十分に還元されていません。日本で売られている日本酒が、欧州などでは数十倍で売られていることがあり、その差額は欧州側の利益となります。マーケティングやブランドストーリーの工夫によって、利益が日本の生産者に還元される仕組みを作り上げることが必要です。その点、ピュアな地産地消のクリーンエネルギーである洋上風力を使って製造し、付加価値をさらに高めれば良い循環が生じるのではないか。また、人手不足の問題には最新のデジタル技術による支援も考えています。
井関 地方創生を重視する現政権の方針にも合致しますね。 奥田 地方で開発した再エネの電気を全て東京に持ってくるという昭和のモデルのままでは、地方で持続的な雇用が生まれません。これでは地方での再エネ開発は行き詰まるでしょう。
井関 それにしても今年は6月から連日の猛暑続きで、需給への影響が懸念されます。元々、端境期は定期点検中の火力が多いですが、足元の運用ではどんな工夫を行っていますか。
奥田 ここ数年、夏の需要ピークが早まる傾向にあり、冬もピークが早まる、あるいは長期化しています。定検の時期をなるべく前倒し夏冬フル稼働できるよう工夫していますが、それでも需給が厳しくなる場面があります。一方で再エネが大量に普及し、出力変動に応じて日常的に火力の起動停止を行っており、それに伴って故障が増え、計画外停止につながっています。古い設備はどうしても金属疲労が起きやすく、リプレースを着実に進めることがやはり重要です。JERA設立以降、リプレースを経て営業運転に至った設備は700万kW以上、計画中も含めると1000万kW以上です。多くが計画より前倒しで運開し、需給ひっ迫の際には試運転の設備も含めて供給力としてできる限り提供してきました。

井関 再エネの拡大により、火力の運用は様変わりしましたね。
奥田 五井や姉崎はコンバインドサイクル発電ですが、ガスタービン単体のシンプルサイクル運転も可能で、実はこれがミソ。太陽光の出力変動に合わせる上で、スチームタービンも動かすと迅速性に関しては劣ります。供給力としての役割はもちろん、しわ取りとしてのガス火力の機能をフルに発揮できるよう、時代に合った火力発電所に変えていくことを意識しています。
井関 デジタル技術の活用にも力を入れていますね。
奥田 起動停止が頻発する中、機器の傷み度合いを正確に把握することが重要です。「予兆管理」と呼んでおり、AIで予兆を見つけ、早めに部品を交換することで計画外停止を防いでいます。こうしたDPP(デジタルパワープラント)化は、姉崎など最新鋭設備から導入し、徐々に拡大しています。
井関 6月中旬には袖ケ浦のリプレースに向け環境アセスメントの準備を開始。2032年度以降の運開を目指しています。
奥田 運転開始から50年たち計画外停止の蓋然性が高まる中、現役で稼働する2~4号機の計300万kWを260万kWの最新鋭に入れ替えました。引き続き安定供給に貢献していきます。
井関 近隣では東京ガスの袖ケ浦火力の新設も進行中ですが、今後両者が連携する可能性は?
奥田 今はまだそこまで考えていません。アセスの準備を始めたばかりで、その結果を踏まえてから、さまざまな可能性を考えることになるかと思います。
