水素サプライチェーンの確立に向け産官学が連携した取り組みが加速している。
東北の福島県では水素や再エネの産業を集積する動きも誕生。
地産地消を実現することで世界に「Fukushima」を発信する。
本格利用を視野に入れ、液化水素調達用の船舶や受け入れ基地整備も進む。
「作る」「運ぶ」「使う」ー。
どれも欠かせないパーツがかみ合うように壮大なビジョンに向けて各社が奔走する。


地政学リスクの高まりや脱炭素の要請を背景に、世界で原子力発電の価値が見直されている。
ウランの争奪戦が見込まれる中、資源を再利用できる原子燃料サイクルの意義はこれまで以上に高まった。
国土が限られる日本にとっては、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減も避けて通れない。
こうした課題を解決するサイクルの確立に向け、日本の取り組みは着実に次のステージへと進みつつある。
描く青写真にどこまで近づいているのか。足りないピースは何か──。
六ヶ所再処理工場の竣工が見えてきた今、その真価を問う。

【アウトライン】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

ハメネイ師は、1979年のイラン・イスラム革命を主導したホメイニ師が89年に亡くなったことを受けて二代目の最高指導者に就任した。イスラム教シーア派の法学者として35年以上に及ぶ治世を続けてきた。4月に87歳を迎えるはずだった。
「米国に死を」をスローガンに掲げる革命政権の指導者らしく、最後まで米国に抵抗する道を選んだ。米国のトランプ政権はイランに核兵器開発にもつながるウラン濃縮を断念するよう重ねて求めてきたが、濃縮は原子力の平和利用の重要な柱として核拡散防止条約(NPT)でも認められている権利だとして要求を突っぱね続けきた。
最近は、米国との対立が激化する現状を、シーア派3代目イマームが7世紀後半にイラク南部のカルバラで、負けるとわかっていた戦いに挑み殉教した故事になぞらえる発言が目立っていた。米国に「ひざまずいて生き延びるのではなく、立ち上がって死ぬ」ことを潔しとした。
最高指導者の死を受けてイランのどうなるのか。様々なシナリオがある。
トランプ氏は28日の開戦時のビデオ演説で「我々の任務が終わったら、あなたたちの政府を掌握してください」とイラン国民に、体制転換を実現するよう促した。だが、現時点で最も可能性が高いのは、イスラム法学者をハメネイ師の後継に据えた「神権政治」継続だ。
ハメネイ師は今年1月末、初代の最高指導者ホメイニ師の息子であるハッサン・ホメイニ師とともに、テヘラン郊外にあるホメイニ廟で祈りを捧げる写真を公開した。革命政権を継続するためハッサン師を後継者にするというサインだとの分析もある。
また、ハメネイ師は昨年、米国とイスラエルとの「12日間戦争」後に、後継者候補3人を選んだとされる。ただ、その名前は公表されていない。突然の死に備えた準備を進めていたのは確実で、粛々と後継者が決まる可能性がある。
二つ目は、イラン革命防衛隊(IRGC)が実権を握る可能性だ。IRGCは、イラン革命後に、革命政権を守るために設立された軍隊だ。それまでの正規軍は、王政時代を支えてきた勢力であるため、革命政権は独自の軍隊を作りあげた。ただ、正規軍は現在も残る。軍に徴兵される兵士は、正規軍かIRGCの好きな方に入隊できる。正規軍には都会育ちのリベラル派、IRGCは田舎育ちの保守派が多いとされる。
革命から半世紀近くを経て、IRGCは軍としての機能だけでなく、巨大な企業群を形成した一大勢力となっている。一説には、イランの国内総生産(GDP)の何割かはIRGCの息のかかった活動と言われ、欧米などによる厳しい経済制裁が続く中、闇ビジネスなどの利権を独占している。こうした「利権」を守るためにも、革命政権の継続が必要で、体制内クーデターを起こしてでも、権力を奪取する可能性がある。ハメネイ師の後継者を上手に祭り上げながら、IRGCが院政を敷くなどさまざまなパターンが想定される。
2025年度に中期経営計画の最終年度を迎えた関西電力。
原子力7基体制の確立という経営の土台づくりと、
脱炭素化と事業変革に向けた投資を着実に進めてきた。
次のステージに向けて新たな経営計画の議論を深めているが、
産業の成長を支える安定供給という責務は変わらない。
【インタビュー:森望/関西電力社長】

井関 まずは2025年度が最終年度だった中期経営計画(21〜25年度)についてうかがいます。ロシアによるウクライナ侵攻や燃料価格の激騰など、エネルギーを取り巻く状況が激変した5年間でしたが、どう振り返りますか。
森 おっしゃる通り、現行の中計を策定した21年と現在では、エネルギーを取り巻く状況が全く異なっています。中計で大きなテーマとして掲げていたのは、「原子力7基の再稼動を成し遂げ、それを土台として困難を乗り越えていく」ということです。単なる数値目標ではなく、当社の存立基盤に関わる最重要課題でした。
井関 7基体制を確立したわけですが、経営への貢献度はどうですか。
森 極めて大きなインパクトがありましたが、道のりは平坦ではなかったです。これは立地地域をはじめ、福井県の皆さまのご理解のたまものです。また、原子力を動かすための資金調達を含め、財務状況は一時、有利子負債が大きく膨らむなど厳しい局面もありました。それでも、徹底したコスト効率化を全社一丸となって断行し、必要な資金を捻出してきました。7基体制が当社の揺るぎない基盤になっていることは間違いありません。
井関 中計は24年4月に財務目標などをアップデートしていますね。目標は達成できそうでしょうか。
森 第2四半期実績は堅調に推移し、昨年4月に公表した通期業績予想も上方修正しました。財務目標達成に向け着実に進捗しています。
GHG削減目標は前進 将来に向け攻めの投資
井関 中計では、成長戦略の柱として「EX(エネルギートランスフォーメーション)」「VX(バリュートランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」という三本柱を掲げています。
森 三つの柱は、単に中計の期間中だけ取り組めばいい施策ではありません。われわれが向き合うべき本質的な課題を整理したものだと考えています。
まずEXは、脱炭素化という世界的な潮流の中で、電源をより高効率で低炭素なものへと置き換えていく取り組みです。原子力の安定稼動だけでなく、再生可能エネルギーの新規開発、火力のゼロカーボン化、ゼロカーボン水素の活用、これらを支える最適な電力系統の実現など、その他の電源についても脱炭素化に向けた検討を加速させています。実績として、24年度の温室効果ガスの排出量は13年度比でスコープ1、2が59%削減、スコープ1~3では36%削減となっており、ゼロカーボンに向けた取り組みが前進しています。
井関 VXやBXについてはどうでしょうか。
森 VXはお客さまに新しい価値を提供する領域です。最近では、蓄電池ビジネスやモビリティ関連のサービス、あるいは太陽光発電とセットで電気をお届けするようなモデルなど、従来の電気事業の枠を超えた広がりを見せています。周辺領域を含めた新しいサービス提供は、着実に芽が出てきていると感じています。
そして、これらを支える基盤となるのがBXです。単なるコスト削減にとどまらず、仕事の在り方そのものを進化させる挑戦です。人財の確保はもちろん、AIの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使し、より付加価値の高い働き方を目指しています。
井関 5年間でEXに1兆500億円、VXに1200億円の投資目標、BXに900億円(25年度単年)のコスト削減目標を掲げていました。手応えはどうですか。
森 最終的な精査は年度末になりますが、各分野で具体的な取り組みが着実に進捗していると考えています。将来の成長に向けた攻めの投資を、計画通りの規模で実行できていることは大きな成果だと言えます。

井関 まもなく東日本大震災の発生から15年を迎えます。福島第一原子力発電所の事故からこれまでの歩みを振り返った感想はどうでしょうか。
村松 やはり昨年策定された第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用が明確に位置付けられたことは、大きな意義があると感じています。2024年末には、福島第一と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機と島根2号機が再稼働を果たし、3・11以降を振り返っても、この1年余りは特に重要な時期だったと思います。さらに昨年末には、柏崎刈羽6・7号機と泊3号機の再稼働について、それぞれ地元同意を得ました。原子力全体として確かな前進が見られたと受け止めています。一方、基準地震動策定プロセスで発覚した不適切事案は、原子力推進の大前提は安全と信頼性の確保であることを、改めて強く認識させられました。
井関 当初、原子力規制委員会の対応次第では他のプラントへの影響が危惧されましたが。
村松 原子力事業者とメーカーで構成するATENA(原子力エネルギー協議会)からの要請を受け、電力各社は基準地震動に関する審査資料について同様の事案がなかったか速やかに調査を行いました。その結果、規制委の審査ガイドに基づく手法に則って適切に評価されていることなどを確認しています。
井関 柏崎刈羽6号機は1月21日に再稼働しましたが、制御棒の引き抜き中に警報が鳴り、一時停止させました。この件はどう受け止めていますか。
村松 規制委の山中伸介委員長は会見で、一旦停止し、安全を確保した上で対応を検討した東京電力の姿勢を評価しています。東電は2月9日の再起動後、3月中旬に営業運転の開始を予定しています。
再稼働に当たっては、使用前にプラント機器の健全性を確認するため、段階を追って数多くの検査を行います。その後、計画的に中間停止期間を設けるなど、安全を確認しながら慎重に起動させていきます。当社の東海第二も工事段階から検査段階へ徐々に移行しており、今回の事例を踏まえて対応していきます。一方で、原子力を支える産業界の事業再編などによりサプライヤーが縮小することで、設備調達や保守体制への影響が生じる可能性を懸念しています。
井関 こうした実情を、政府や規制委に継続的に訴えていくことが必要ではないでしょうか。
村松 まさにATENAや日本原子力産業協会などが、原子力産業における技術と人材の継続的な確保の重要性を折に触れて訴えており、それに対して政府も支援を進めています。
「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。
各賞および選考委員は以下のとおりです。
<各賞>
エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円
優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円
普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円
特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円
<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>
大橋 弘(東京大学副学長)
神津 カンナ(作家、エッセイスト)
田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)
十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)
山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)


井関 2025年はエネルギー・ガス業界にとってさまざまな出来事がありました。振り返っていかがですか。
藤原 25年は日米関税交渉から始まり、年末にかけては日中関係という新たな地政学上のキーワードが浮上した年でした。イスラエル・ガザ問題、ウクライナ・ロシア問題は終息しそうにありませんし、エネルギーに限らず日本経済を取り巻く環境はより厳しさを増したと実感しています。
当社のガス販売量の半分は製造工場向けです。家庭用の販売量を左右するのは気温や他社との競合ですが、日中間の緊張感の高まりが日本の産業界に影響し稼働率が低下すれば、当然、製造工場向けの販売が低迷します。ただでさえ中国は不景気が長引いているにもかかわらず、基礎化学品や鉄などの生産調整を行っていないため、安い製品が世界市場を席巻していることが日本の製造業を直撃しています。ガス販売量にも影響を与えてしまう以上、ガス業界にとってあまり良い話とは言えません。
一方で、22年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的な資源・エネルギー市場の大混乱から3年が経過し、石油、石炭、LNGともに価格が乱高下することなく落ち着きを見せていました。地政学上のリスクが新たな局面を迎えた一方、資源・エネルギー価格や為替は「凪」の状態―25年を総括するとそんな年でした。
井関 大阪ガスにとっては120周年の節目の年でしたね。
藤原 創立120周年、そして大阪・関西万国博覧会が開催されたメモリアルな年でした。日本ガス協会の総意でパビリオンのテーマにe―メタンを据え、未来を担う子供たちを含む約69万人の来場者に向けて発信することができました。e―メタンはアンモニアや水素と比べて出遅れ感が否めませんでしたが、認知度を高める非常に良い機会となりました。
井関 経営状況についてはどう分析していますか。
藤原 25年度は中期経営計画「Connecting Ambitious Dreams」の中間に当たる年であり、上期の海外事業の好調を反映して通期見通しを上方修正することができました。同時に、DOE(株主資本配当率)を3・0から3・5に、1株当たりの年間配当額を105円から120円に引き上げるなど、思い切った株主還元を決めることができ、滑り出しは好調です。
井関 海外事業好調の要因をお聞かせください。
藤原 北米におけるエネルギービジネスの収益性が高まっているためです。その背景には三つの要因があります。一つが、最近のデータセンター(DC)建設ラッシュに伴い電力需要が旺盛なこと。当社は北米において、天然ガスコンバインドサイクル発電所を複数保有しIPP(独立系発電事業者)ビジネスを展開しています。これまではあまり収益性が高くなかったのですが、PJM(米北東部地域の地域送電機関)市場では、長らく低迷していた容量市場価格が上昇し収益を押し上げています。

二つ目が、シェールガス開発会社のサビン社が非常に生産量が好調であった上にヘンリーハブ価格が高めに推移したことです。ヘッジをしながら安定的に計画以上の利益を出すことができました。三つ目が、22年に火災事故が発生して以降、生産回復に努めてきたフリーポートLNG基地が、ようやく安定稼働に入ったことがあります。計画以上の稼働により、当社も出資者の一角として利益を獲得できるようになりました。

門倉 社長就任から9カ月、これまでを振り返って手ごたえや課題感などいかがでしょうか。
石山 就任以降、「実行力とスピード」重視の経営に全力で取り組んできました。改めて振り返ると、あっという間の9カ月だったと感じます。
当面の優先課題として注力してきた財務基盤の早期回復については、着実に進捗してきています。また、2024年12月に、14年ぶりに営業運転を再開した女川原子力発電所2号機が、大きなトラブルなく安定運転を継続できたことは、電力の安定供給やカーボンニュートラルへの貢献の観点から、大きな意義があると考えています。社員や協力企業はもとより、日ごろから当社の事業運営を支えていただいている地域の皆さまのご理解のおかげであり、心より感謝を申し上げます。1月14日からは、再稼働後初となる定期事業者検査を予定していることから、しっかりと対応していきます。
一方、東通原子力発電所で発生した核物質防護を巡る不適切な取り扱いについては、原子力事業への信頼を損なうものであり、極めて重く受け止めています。再発防止を徹底し、二度とこのようなことが発生しないよう真剣に取り組んでまいります。
当社を取り巻く事業環境については、電力小売り競争の激化、物価・金利の上昇と円安、米国政策に起因する国内経済の不透明感の高まりなど、想定以上に厳しくなっています。25年度は、一定程度の利益が確保できる見込みではありますが、足元ではフリーキャッシュフローが厳しい状況であることに加え、今後、電力の安定供給をはじめカーボンニュートラルへの対応やDXなどの成長への投資が控えていることを踏まえると、中長期的に稼ぐ道筋をつけることが重要だと考えています。

門倉 女川2号機の再稼働から1年以上が経過し、女川3号機・東通1号機の再稼働も期待されます。それぞれの現状を教えてください。
石山 女川3号機も東通1号機も重要な電源であり、各プラントの状況に応じて、対応すべきことを一つひとつ着実に進めていきたいと考えています。
女川3号機については、新規制基準適合性審査申請に向けた準備の一環として、25年1月20日から地質調査を実施しています。また、地質調査以外にも、女川2号機の審査で得られた知見・評価などを踏まえ、安全対策設備の配置計画検討などを実施する必要があります。現時点で申請時期を具体的に申し上げる状況にはありませんが、しっかりと準備を進めていきます。
東通1号機については、将来にわたって長期に、かつ安全に運転していく観点から、基準津波に対する裕度を高めるため「敷地造成」を計画し、現在その審査に対応しています。また、並行してPRA(確率論的リスク評価)津波対策の検討や安全対策設備の配置検討などのプラント審査準備を進めており、安全対策工事の完了時期の公表については、27年3月頃を目指しています。今回の不適切事案についてはしっかりと反省し、この教訓を生かすことで、再発防止を徹底します。その上で、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、できる限り早期の再稼働を目指していきます。
2050年カーボンニュートラル(CN)の実現が人々を救う―。
気候変動問題・対策を巡る世界の常識が揺らいでいる。
要因の一つが、行き過ぎたCN政策による弊害の顕在化だ。
各地でエネルギー料金が上昇し、再エネ拡大による環境破壊が進む。
主要国が表向きは「50年CN」の必要性を唱える裏側で、
CO2大量排出の軍事活動に注力する現実も鮮明化している。
歴史を振り返れば、「脱~」の取り組みはうまくいった試しがない。
「脱石油」「脱中東」「脱原発」―いずれも現実の壁を越えられないのだ。
「そもそもネットゼロを達成したところで昨今の異常気象は解消されない」
「貴重な資源でもあるCO2をまるで害悪のように扱っていいのか」
そんなCO2悪玉説への懐疑論も再燃する中、「脱炭素」の虚実に迫った。

【アウトライン】脱炭素偏重の弊害顕在化で揺り戻し 「適応」が気候変動対策の主軸になるか
【コラム】所詮は「平和な時代」のきれい事!? 軍事活動が優先される世界の国益事情
【インタビュー】実質ゼロ達成でも海の熱膨張止まらず 温暖化前提の未来像が不可欠
【寄稿】IPCC報告書は「自然」を軽視 気候変動への人為的影響は限定的
【寄稿】「1.5℃」厳しく「2℃」が妥当 求められる現実路線への修正

井関 「令和6年能登半島地震」の発生から2年が経過しました。復興状況をどう見ていますか。
松田 2024年元旦に発生した能登半島地震と、それに続く9月の奥能登豪雨により能登半島は大きな被害を受けました。着実に復興の歩みを進めていますが、完全な復興にはまだまだ時間がかかります。
北陸電力グループは配電設備、送変電設備、発電設備などに660億円にも及ぶ損害を被りました。停電については、発災後、1か月以内に復旧することができましたが、豪雨と併せて約3300本の電柱の建て替えが必要となりました。今年度中に3分の2の対応を終える予定ですが、残りの1100本は、道路の復旧状況などに合わせて進めて行く必要があるため、地元自治体などと連携して可能な限り早急に工事を進めていきます。
井関 今後の復興に向けどう取り組みますか。
松田 これまで、被害を受けた地域への移住促進や雇用創出、なりわい再建などを目的とした割引料金メニュー「こころをひとつに震災復興応援でんき」の創設や、災害により発生した流木や家屋などの解体がれきのバイオマス燃料としての活用などに取り組むことで、復興を支援してきました。割引メニューの申込件数は家庭・企業合わせて計1600件に上り、復興の後押しになると好評の声をいただいています。
また、地震により大量に発生した廃瓦(能登瓦)を有効活用するため、当社が開発した石炭灰に太陽光パネルガラスを混合し廃瓦も加えた「インターロッキングブロック」は、大阪・関西万博に出展したパビリオン「電力館」敷地の構内舗装に採用され、当社から提供させていただきました。閉幕後は全て持ち帰り、万博のレガシーとして、当社の本店ビル西側緑地帯などに再利用していく予定です。
また、自治体施設などでも活用のニーズがあれば使っていただきたいと考えています。これらの取り組みにとどまらず、廃瓦を復興事業に活用することを目指し、石川工業高等専門学校と共にフライアッシュコンクリートの活用方法についても共同研究を進めています。
井関 和倉温泉における復興プロジェクトにも参画しています。
松田 地元の方々を中心に、単なる復興ではなく、能登に暮らす人、働く人、訪れる人全てが幸せになれる創造的復興を目指して和倉温泉のまちづくり協議会が発足しました。当社もこの取り組みに積極的に参画し、専従の社員が「脱炭素エネルギーによる地域連携プロジェクト」のリーダーを務めています。
単なる再生ではなく、将来のカーボンニュートラル(CN)にどうつなげるかや、和倉温泉の貴重な温泉熱エネルギー(温泉排熱)を活用できないかなどを目的としており、エネルギー事業者としての知見を生かし、先進的な温泉地となるよう、地域の未来を見据えた取り組みをけん引していきます。
井関 震災で得た知見の活用にも積極的に取り組んでいます。
松田 未曽有の激甚災害を経験した事業者として、ハード面のレジリエンス強化はもとより、道路状況の把握や、資材や水・食料の調達、トイレや宿泊先の確保などのバックヤード業務、そして自治体などとの連携、規制上の課題など、いわゆるソフト面が非常に重要であると強く感じました。災害で得た知見や対策を全国の関係機関に共有・展開しレジリエンス強化に貢献することが使命、責務だと認識しています。レジリエンスの強化には、ハード・ソフト両面の知見の活用が欠かせません。現在、後方支援などにかかわるソフト面の知見については、実際の災害対応に当たり体験した課題や対応案を集約し、整理を行っているところです。

例を挙げると、地震直後、能登半島全域が緊急用務空域(=事前の現地確認・申請が必要)に指定されたことで、迅速なドローンによる巡視・点検の妨げになったほか、避難所に電気を供給する電源車の軽油燃料取り扱いにおいて消防法による事前承認が必要になるなど、規制面での壁があることに直面しました。また、1日最大1400人もの復旧作業員が使う仮設トイレのし尿処理など、さまざまな困難があった訳でありますが、当時は一つ一つ、それぞれ関係機関と調整しながら解決を図ってきました。こうした経験を踏まえ、平時のうちに、遅滞なき災害対応、課題解消に向けて、国、地元自治体などの行政機関、災害時連携協定を締結している関係各所への働きかけ、防災訓練の強化などを通じて対応の実践的なブラッシュアップを図っていくことが重要であり、引き続き取り組んでいきます。


井関 2025年度上期決算をどう評価していますか。
笹山 上期は、前年同期比増収増益となり、全体として良好な結果を残すことができました。特に、エネルギー・ソリューションセグメントでは電力販売量の増加、そして海外セグメントでは北米シェールガス事業における販売単価の上昇が、業績を押し上げました。これらの要因により、最終利益は前年同期比約8倍の1296億円と、当社として過去最高水準に達しました。短期的な要因として、豪州持株会社の解散に伴う為替差益(特別利益)の計上が増益に寄与しましたが、これを除いても、通期で掲げた最終利益の目標を十分に達成できる水準です。
井関 都市ガス・電力販売量はどのように推移しましたか。
笹山 都市ガス販売量に関しては、家庭用が前年同期比で3・7%増加しました。これは、昨年の春の気温が高かったことに対し、今年は気温が低く、暖房需要が増加したことが背景にあります。一方で、一般工業用向けの需要は減少しました。これは、大口の離脱によるものではなく、一部産業の生産活動や発電用途の変動が影響しています。これにより、販売量は全体で前年同期比0・4%の減少となりました。電力販売量は19・6%増加しました。これは、猛暑に伴う空調需要の増加に加えて、小売りの契約件数の増加が寄与しています。
井関 通期見通しも増収増益を見込んでいます。
笹山 通期についても、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業での販売単価上昇など、エネルギーおよび海外セグメントが順調に推移しているため、売り上げ、利益ともに好調で、最終利益は前期比2・6倍の1940億円を見込んでいます。

井関 株主還元方針が従来の総還元性向に基づくものから、中間キャッシュフローの中で、「成長投資」と「株主還元」に柔軟に配分する方式へ変更されました。この理由と狙いについて教えてください。
笹山 もともと、資本市場に対して予見性の高いメッセージを発信したいという考えが根底にありました。さまざまな株主との会話の中で、成長投資をしっかり行ってほしいという意見がある一方で、株主還元の予見性を重視される方が多くいます。そこで利益の成長に合わせた累進配当による着実な増配と総還元規模を明確化することにより、株主還元の予見性を高めることにしました。成長投資についても経済性を見極めながら実施し、企業価値を高めていきます。
井関 総還元性向の目標については、約2年半前に5割から4割へと引き下げ、話題となりました。今回の方針転換は、昨今の経済情勢の変化を踏まえたものなのでしょうか。
笹山 成長投資に注力するという基本的な考え方は、今後も変わりません。ただ、昨今のインフレ状況などの環境の変化を踏まえると、一株当たりの配当を順調に伸ばしていくことを示す方が、予見性がより高まると考えています。
具体的には、3カ年で総額2000億円以上の株主還元を予定しており、28年度までに一株当たり140円の配当を目指す方針を掲げています。数値目標を明示することで、投資家の皆さまに対して、より分かりやすいメッセージを届けられるよう意識しました。

井関 10月31日に、泊発電所3号機再稼働後の電気料金値下げ見通しを公表しました。
齋藤 当社は、泊発電所の再稼働後には電気料金を値下げすることをお約束しており、一定の前提を設定し、3号機再稼働後の値下げ見通しを取りまとめました。再稼働に伴う費用の低減効果を反映した上で、今後の物価や金利の上昇による影響を緩和するために、カイゼン活動やDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進などの経営効率化のさらなる深掘りによる費用の削減効果を最大限織り込んだ結果、規制料金では、ご家庭向け電気料金で11%程度、自由料金全体では、平均7%程度の値下げとなる見通しです。
この値下げ見通しについては、公表直後に鈴木直道北海道知事にも直接ご説明させていただきました。知事からは「値下げの内容や考え方について、道民の皆さまへ丁寧に説明していくことが重要」とのお話をいただきました。エネルギー資源に乏しい日本においては「S+3E」(安全、安定供給、経済、環境)の観点が重要です。こうした観点を踏まえた泊発電所の必要性について、道民の皆さまにご理解をいただけるよう、安全対策の取り組みに加え、今回お示しした電気料金の値下げ水準についても説明を尽くしていくとともに、早期再稼働に向け総力を挙げて取り組んでいきます。
井関 道内の人口減少の影響が懸念されますが、最新鋭の半導体工場やデータセンター(DC)の建設計画などによる需要増への期待が高まっています。
齋藤 札幌市も人口減少に転じ、北海道全体でも全国より速いスピードで過疎化が進んでいます。こうした状況下で、千歳市で建設が進むラピダスの半導体工場が今後量産体制に入りますし、工場の拡張も計画されていると聞いておりますので、地域経済の活性化や電力需要の増加につながると期待しています。また、寒冷地とあってさまざまな企業からDC建設計画のお話をいただいています。
井関 需要増に向け供給体制は万全ですか。
齋藤 電力供給については、まずは現在の電源設備をしっかり使っていくことで賄うことを考えています。これに加えて、石狩湾新港発電所2・3号機の運転開始時期を前倒しすることを決めました。長期的な需要増に向けて、泊発電所の重要性は一層高まってきます。安全性の確保を大前提に、脱炭素電源であり、燃料供給の安定性や長期的な価格安定性も有する泊発電所の早期再稼働を目指し、総力を挙げて対応を進めていきます。今後もお客さまに安定して電力を供給できるよう、当社の電源構成や発電設備の経年化状況を踏まえながら、電源開発、休廃止計画を検討していきます。
井関 3月に「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定しました。
齋藤 20年に策定した前回の経営ビジョンは、電気事業の自由化や市場化が進むとともに、人口減少や省エネの進展などにより北海道の電力需要が減少していくことを前提としていましたが、ほくでんグループを取り巻く環境が一変したことから、今般、大きく見直しました。この数年の間で、気候変動対策への機運が一層高まるとともに、地政学リスクの発現などを背景に経済安全保障やエネルギー安定供給が重視されるようになりました。国はエネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指しGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に推進しています。
