【記者通信】エネ代支援の補正予算案が閣議決定 危機克服の道筋見えず

ホルムズ海峡封鎖に基づくエネルギー価格高騰への対応を目的とした2026年度補正予算案が6月3日に閣議決定、国会で審議入りした。5日に成立する見通しだ。予算案の一般会計総額は3兆1135億円。具体的には、①ガソリン補助金の継続を想定し、中東問題に特化した「中東情勢等対応予備費」を創設するため、2兆5000億円を計上、②7~9月の電気・都市ガス料金について標準的な家庭で5000円程度支援するため、今年度当初予算の予備費から5135億円を支出することに伴い、予備費の使用分を穴埋め、③LPガスや特別高圧電力の料金低減を目的に、自治体の判断で使える「重点支援地方交付金」として1000億円を計上――の3本柱だ。

ロイター通信によると、補正後の歳​出は125兆4228億円に膨らみ、追​加歳出に伴う赤字国債⁠の増発で公債依存​度は26.1%に悪化。政府は当初予算の編成時​に​基礎⁠的財政収支(プライマリーバラ​ンス)が一般会計ベ​ース⁠で黒字になるとアピールしてきたが、⁠今​回の補正編成​で再び赤字に転じること​が避けられない情勢という。為替では円安が進み、3日午前時点で1ドル160円に迫る水準。11兆円規模の為替介入は帳消しになった形だ。そうした中で、今回の大型補正予算編成を巡っては、業界内外から費用対効果を疑問視する声が高まっている。

5000億円規模で電気ガス代支援も「子供の小遣いにもならない」

「7~9月の3カ月間の合計で、標準世帯にして5000円程度の電気・ガス代支援など、子供の小遣いにもならない金額だ。そのために、5000億円以上もの税金を投入する必要性がどこにあるのか。だいたい季節に関係なく、円安と原油高の局面が続く限り、エネルギー代が高止まりするのは避けられないだろう。高市(早苗)政権の人気取り政策にしか思えない」。大手メーカーに勤める横浜市在住の40代会社員は、こんな批判を投げ掛ける。

経済産業省によると、電気代の支援は一般家庭向けなど低圧の場合、7月と9月の使用分が1㎾時当たり3.5円、8月が4.5円。標準的な世帯だと、7月1490円、8月2084円、9月1536円の支援額になるという。ガス代については7月と9月の使用分が1㎥当たり14円、8月が18円だ、暮らし方やエネルギー機器の状況に応じて使用量は変動するため、戸建て住宅で在宅率の高い家庭ほど支援額は高くなる見込み。一方、ワンルームに単身で暮らし、日中不在が多く、夏はシャワーで済ませるような世帯は、恩恵を実感できそうもない。

「そもそもガスについては夏場にあまり使わず、支払う都市ガス料金もかなり安いので、補助金のありがたみを全然感じない。また、マイカーも持っていないから、ガソリン補助金も基本的に関係ない。それよりも、エアコンと給湯機がそろそろ買い替え時期なので、次は省エネタイプにしたいと考えているけど、何しろ高額。これを国が補助してくれると大いに助かる。東京都では『ゼロエミポイント』制度で買い替えを支援しているが、残念ながら埼玉県にはない。住んでいる地域によって、支援に格差があるのも納得がいかないので、ぜひ国レベルでの補助制度をお願いしたい。5000億円もの財源があれば、相当な購入支援ができるのではないか」(さいたま市在住の30代会社員)

【記者通信】国の先行く都の補正予算案 「サナエはユリコを見習うべき」の声も

東京都の小池百合子知事は5月29日、542億円規模の補正予算案を発表した。昨年の同予算は物価高対策として、夏場の水道料金無償化がメインだったが、今回はEVや再エネ・畜エネ、非石油由来製品の開発支援など「エネルギー需給構造などに向けた先駆的な施策に対し、前倒しで着手する中身」(小池氏)となった。

赤沢経産相に水素社会に向けた支援強化を要請する東京都の小池知事(右)

542億円のうち、173億円を「先駆的施策」に費やす。小池氏は29日の会見で「ホルムズ海峡がストップしている状況などを鑑みて、石油だけに依存しないで、新しい産業を生み出すきっかけにすべき」だと予算の狙いを語った。

中心となるのは、83億円を計上したEV補助金の拡充だ。車両価格の上昇などを踏まえ、上限額を引き上げる。地産地消型再エネ・蓄エネ設備や需給最適化に向けたアグリゲーションビジネスへの補助には22億円を、省エネ設備の導入運用改善支援には36億円を充て、どちらも拡充する。

ホルムズ情勢を受け、非石油製品の開発支援・利用推進にも注力する。国内で製造した持続可能な航空燃料(SAF)は新たな支援策を打ち出した。当初予算で海外製造との価格差支援を実施しているが、羽田空港で国産SAFを供給する企業に既存燃料との価格差を補助する。

都が国に先駆けて「エネ需給構造改革」

水素社会の実現に向けた自治体間連携事業には1億円を計上した。小池氏は29日、愛知県の大村秀章知事、福島県の内堀雅雄知事と首相官邸や経済産業省を訪問し、水素社会の実現に向けた支援強化を要請。GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の水素・アンモニア施策への割り当ての拡充などを訴えた。

都の補正予算案には物価高騰対策なども含まれるが、6月5日成立予定の国の同予算案とは趣が異なる。国は3兆円超のうち、ほぼ全てをエネルギー料金への補助金に充てたが、都は中長期的な取り組みが目立つ。足元だけを見る国と、未来を見据える都──。小池氏は会見で「ピンチをチャンスに変える、その時ではないだろうか」と述べたが、今回ばかりは自らが好んで使う「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」を地で行ったように見える。

「ガソリン補助金はあくまで応急措置に過ぎない。世界的な石油危機下において、政府が取り組むべきはエネルギー需給構造改革だ」。自民党の有力議員は、エネルギーフォーラムの取材に対し、こう本音を明かした。東京都は今回の補正予算編成にあたり「エネルギー需給構造の転換」を柱に掲げた。本来、国が手掛けるべき施策を、都が国に先駆けて打ち出した格好と言っていい。「サナエ(高市早苗首相)はユリコ(小池氏)のやり方を見習うべきだ」。大手エネルギー会社の元幹部は、皮肉交じりにこう話す。政府・与党は、いつになったら「補助金バラマキ」のポピュリズムから脱却できるのだろうか。

【特集2まとめ】中東危機下の省エネ戦略 家庭・業務・産業の最前線

イラン戦争を機に、エネルギー利用の在り方が問われている。

今回の危機を契機に、さらなる省エネを進める必要がある。

1970年代の危機の時と比べて、技術革新が進展しており、

さまざまなエネルギー設備・製品が生み出されてきた。

さらに今は、2050年カーボンニュートラル実現の流れの中で、

水素など化石資源への依存度を抑える取り組みも進んでいる。

家庭用から産業用まで各分野の取り組みを追った。

【アウトライン】化石資源利用の課題再浮上 依存度減へ業界対応が加速

【インタビュー】3年間で7000億円の予算確保 非化石転換の設備更新を支援

【レポート】東京ガスが行動変容と機器制御によるDRを展開

【レポート】大阪ガスがエネファーム拡販 経済性と環境性を追求

【レポート】ベースロード需要を調整する中部電力の「冷蔵庫DR」

【レポート】伊藤忠エネクスが「テラりんアイ」で家電別電力消費量を可視化

【インタビュー】行動変容促す仕組みで社会全体の需要調整を

【レポート】赤坂熱供給が都心エリアの地冷運用にグリーン水素を活用

【レポート】Kenesが大学病院のエネルギー設備を一元管理で最適制御

【インタビュー】SHK制度改正で未利用エネ活用の進展に期待

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【レポート】CN実現へ水素対応商品を拡充 需要開拓を図る東邦ガス

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【インタビュー】「省エネとCN」一石二鳥の水素転換

【インタビュー】東京電力パワーグリッドが変圧設備の絶縁媒体に植物油を適用

【記者通信】国が燃料油補助を見直しへ 「目標価格」から「定額」へ変更か?

エネルギーフォーラムが再三問題を提起してきた燃料油補助事業が、見直されることになりそうだ。関係筋によれば、レギュラーガソリン1ℓ当たり170円をターゲット価格に設定し補助額が変動する現行方式から、一律で定額を補助する方式に切り替わる可能性がある。それによって、利用者に価格変動のシグナルが伝わり、高騰時には節約を促す効果も期待できる。ただ、有識者の間では「補助金を中途半端に残すのではなく、財政事情を踏まえて廃止すべきだ」(市場関係者)とする見方も少なくない。出口戦略をどう描くのかも含め、議論の行方が注目される。

首都圏では相変わらず150円台の値札が目立つ(5月17日、千葉県船橋市内のガソリンスタンド)

萩生田光一幹事長代行は5月18日の会見で、イラン情勢を背景にした現在の燃料油補助について「文字通り激変緩和措置なので、この170円を全く見直しせずにこのまま延々と続けるというのも、かなり無理がある」と指摘。その上で、「新しい原油については、輸送のコストなどを含めてかなり高いものになっている。そういったことを国民に理解していただくことも、必要ではないか」との見解を示した。一方で、原油量に関しては「代替国も含めて7割くらいの供給、そして220日分の備蓄がまだある。そういう意味では量的には心配はないところまで切り抜けた」と述べた。

翌19日、赤沢亮正経済産業相は閣議後会見で、燃料油補助金の問題についてこう言及した。「燃料油価格の激変緩和措置は、ガソリン価格が200円を超える水準に急騰する恐れがあったことを念頭に、国民生活と経済活動を守るために緊急的に、可及的速やかにガソリン価格を引き下げるために講じたもの。与党からは中東情勢、価格動向、政策の持続可能性を勘案しつつ、政府として柔軟に対応すべきとの提言をいただいている。中東情勢が不透明な中、今後の物価動向や経済に与える影響を注視するとともに、経産省として必要な検討を進めていく」

そもそも燃料油の補助金制度は、萩生田氏が経産相を務めていた2022年1月に原油価格高騰に対処するための激変緩和措置としてスタートした。その後、原油高は収束したものの、今度は円安の進展による輸入コスト高が起きたことから、物価高騰対策として継続。昨年12月末、ガソリン暫定税率の廃止に伴って、ようやく終了した。しかし、そのわずか2カ月後に米国・イスラエルとイランの軍事衝突が勃発。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格が再び高騰したことで、3月19日に補助金が再開された格好だ。

【特集1まとめ】第3次石油危機 これでいいのか!日本の有事対策

米国とイランの和平交渉が「チキンレース」の様相を呈す中、
ホルムズ海峡問題の影響が深刻化の一途をたどっている。
中東依存度の高いアジア諸国は軒並み深刻な石油・ガス不足に。
一方、日本は備蓄放出、代替調達、燃料油補助などの緊急対策により、
今のところ経済活動・国民生活に大きな混乱は生じていない。
しかし、「第3次石油危機」と称されるほどの有事下、
長期化を想定した総合対策、需給構造の転換は必須の状況だ。
過去の石油ショックを教訓に、史上最大の危機をどう乗り越えるのか。
エネルギー問題に絡む政・官・学・業の関係者を徹底取材した。

【アウトライン】供給確保で高市政権の評価高まるが…批判相次ぐガソリン補助金の行方

【インタビュー】ホルムズ海峡再開後も石油の不足続く 示された備蓄の重要性

【レポート】史上最大の危機を乗り越えられるか 有事下のエネ供給最前線

【レポート】電力・ガス・石油業界、それぞれ連携強化し供給力確保に奔走

【検証】歴史に見る日本の役割と進路

【インタビュー】エネルギー有事対応をどう考えるか!政治家に問う危機突破の処方箋

【寄稿】日本のセキュアをいかに目指すか 見落とせない三つの危機

【記者通信】経済界が需要抑制を訴えるも国は否定 脱石油政策はどこへ?

ホルムズ海峡封鎖に伴う石油供給の不足を巡って、日本国内で奇妙な現象が起きている。経済界が需要抑制に向けた対策の必要性を訴えているのに対し、政府・与党が経済・社会活動維持の観点からこれを否定するという構図が見られているのだ。米国とイラン側による和平交渉の再開が停滞する中、ホルムズ海峡の実質封鎖が続いており、原油価格相場は北海ブレントが4月27日に108ドル台を付け再び上昇傾向を強めている。中長期的な先行きが全く見通せない状況にもかかわらず、高市早苗政権は経済・社会活動維持の観点から安定供給確保への取り組みを強調するばかり。その姿勢には、需要家側からも疑問の声が上がっている。そもそも一昔前まで、国は「脱石油」と言っていたのだが・・・。

高市首相「経済・社会活動を止めるべきではない」

「燃油とか、そういうものについても、使うのを少し控えるように制限かけたらどうかという声もいただくが、しかしながら、私は経済活動、今止めるべきではないと思っている。社会活動も止めるべきではないと思っている」「日本全体として必要となる量は確保できており、年を越えて、石油の安定供給のめどはついている」――。27日に行われた参議院予算委員会での集中質疑で、高市早苗首相は立憲民主党の森本真治議員の質問に答える形で、需要制限に否定的な姿勢を示した。

現時点で石油節約の必要はないというのは、政府・与党の一致した見解だ。「政府がいま節約を呼びかけたらどうなるか。国民の不安をあおり、社会に混乱を招く恐れがある。備蓄放出や代替調達ルートの確保によって、当面必要な量の石油供給は手当てできている。いまは経済を回すことが重要であり、需要抑制などを行う時期ではない」(永田町関係者)

経団連会長「長期化を想定し需給両面で総合対策を」

一方、経済界の代表である経団連は異なる見解だ。筒井義信会長は、4月6日の定例会見で「需要抑制策の検討は、国民のマインドに大きな影響が出てくる可能性があるため、十分なアセスメント(評価)が必要だ。混乱を回避し、冷静な対応を促すため、安心の確保という観点に留意した発信が必要」としながらも、「石油備蓄に余裕があるうちに、長期化を想定した、需給両面での総合的な検討を急ぐべきだ。需要抑制策の検討に際しては、当然、マクロ経済への影響も斟酌しなければならない。また、検討にあたっては、省エネ・節電などに関し、経済界として必要な対応を政府に進言し、協力もしていく決意だ」「どのような節約の方法が考えられるのかという点について、具体的には申し上げないが、国際エネルギー機関が例示した対応策も踏まえ、わが国の特徴も考慮した形での需給両面での対策の中身、さらに発動の条件や対象を十分に検討する必要がある」などと強調。20日の会見でも「ホルムズ海峡の周辺国を含めて石油関連施設の破壊もみられる中、仮にホルムズ海峡の封鎖が解かれたとしても、復旧・復興に数カ月を要するのか、あるいは1~2年を要するのかを見通すことはできない。一定期間こうした状態が継続することを見据えて、様々な政策面での検討が必要となろう」と述べた。

【特集2まとめ】次世代燃料SAFの最前線 実装に向けた新たな挑戦

脱炭素に向け今、日本の航空業界が対応に乗り出している。

新型航空機を使った省エネ飛行や、航路改善による効率的な飛行など方策はさまざまだが、本丸はSAF(持続可能な航空燃料)の本格実装だ。

国内での生産・利用もさることながら、海外調達も視野に入れた利用拡大の取り組みに着手している。

SAFの一大産業化を目論む米国最新事情をレポートするとともに、日本における今後の展望や課題を探る。

【アウトライン】米国が主導する巨大産業化 最新の動きを現地レポート

【インタビュー】長期的な視野で原料・製品の確保へ 国内農産物の新規需要開拓を

【ディスカッション】社会実装に向けて官民が連携 コスト負担の最善策とは

【トピックス】商用化へホンダとIHIの技術開発が大きく進展

【特集1まとめ】全面自由化10年の教訓 電力小売りを巡る変遷と課題

2016年4月に電力小売り全面自由化がスタートしてから10年が経過した。
この間、新旧電力による「百花繚乱」の顧客争奪戦が展開された。
その一方で、異常気象やLNG不足、国際エネルギー価格高騰に伴う市場の混乱など、
さまざまなリスクに直面した10年間でもあった。
これらの教訓を踏まえて今、小売り事業者の在り方が見直される局面を迎えている。
産官学の関係者への取材を通じて、小売り事業が抱える課題と将来像を浮き彫りにする。

【アウトライン】規制のゆがみが招いた勝者なき戦い 安定供給阻害しない競争へ転換できるか

【インタビュー】高まるリスクマネジメントへのニーズ 中長期市場は先物取引にシナジーもたらす

【インタビュー】成果あるも競争の質はやや期待外れ 規制料金は合理的変更が必要

座談会】先駆者たちが語る新電力の現在地 直面する問題と政策への注文

【寄稿】需要家の行動を左右する制度設計 次の10年の鍵は「選ぶ力」の醸成

【インタビュー】新規参入促進から規律重視に 「責任ある事業者」へ転換必要

【緊急特集 まとめ】イランショック 現実化した「ホルムズ封鎖」の脅威 ※期間限定無料公開

エネルギー輸送の要衝「ホルムズ海峡」の封鎖が現実のものとなった。
原油、ナフサ、LNGなどの供給に大きな支障が出るとともに、国際市場価格が高騰。
石油のホルムズ依存度が9割を超える日本のエネルギー政策は重大な局面を迎えている。
需給ひっ迫への懸念が高まる状況下で、政府は消費を下支えする補助金を復活させた。
1970年代の経験を生かせない的外れぶりに、エネルギー関係者の危機感は強まるばかりだ。

【アウトライン】世界を襲う未曽有の危機 有事でも消費を促す日本の的外れ政策

【レポート】ナフサ高騰で製品不足へ 国主導で緊急対策計画策定を

【レポート】アジア太平洋諸国で供給逼迫 石油緊急事態体制への移行が急務

【インタビュー】自衛隊派遣はあり得るのか!? 備蓄が底つけば「存立危機事態」も

【コラム】イラン核兵器開発の阻止は「核カード」が交渉の切り札に

【記者通信/3月26日】史上最大の危機に史上最低の政策⁉ 燃料油補助でまたも巨額の国費投入

原油価格高騰の激変緩和措置、また物価高対策として、2022年1月27日から25年12月31日まで続いた燃料油(ガソリン、軽油、灯油など)への補助金支給政策が、ホルムズ海峡の実質封鎖に伴う供給ひっ迫下の価格高騰対策として復活した。世界的なエネルギー有事にもかからず、消費支援のために巨額の国費がなし崩し的に投入されようとしている。

補助金の効果か、3月22日に早くも160円台に値下げしたガソリンスタンド(埼玉県川口市)

日本政府は3月19日から、レギュラーガソリンの全国平均価格を1ℓ当たり170円に抑えることを目的に、元売り各社に対する燃料油補助金の支給を再開。財源には約2800億円の基金の残高を活用するとともに、24日には今年度予算の予備費から8000億円を基金に拠出することを閣議決定した。さらに政府は必要に応じて、26年度予算案に計上されている1兆円の予備費からも補助金の支出を検討する構えだ。

加えて、政府は26日、石油の国家備蓄1カ月分の放出を順次開始した。16日に実施した民間備蓄15日分の放出に続く措置で、あわせて過去最大となる45日分を放出する。また、ホルムズ海峡を経由しない原油調達先の多角化を急いでいる。「供給安定化」と「価格低廉化」の同時達成を狙っているわけだが、出口の見通せない補助金政策による財政負担の増大は円安を加速させ、原油調達コストがさらに上昇するという悪循環を招く可能性もある。

ホルムズ封鎖で中東からの石油供給が途絶している現在、日本には250日分の備蓄があるとはいえ、本来は限られた在庫をできる限り長くもたせるため、価格を値上げし、少なくとも一般利用者については消費抑制に向かわせる政策が必要だ。補助金が支給される前の16日時点で、石油情報センターが公表したガソリンの全国平均価格は1ℓ当たり190.8円と前週の161.8円から急激に上昇。ことレジャー目的のマイカー利用者は3月中旬ごろにドライブを控えたり、鉄道やバスといった公共交通機関を利用したりするなど、ガソリン代を節約する行動に出始めた。しかし、19日以降は補助金支給の効果が表れ始め、23日時点の全国平均価格は177.7円で前週から13.1円の値下がり。首都圏などの競争の激しい地域では1ℓ160円程度の看板を掲げるガソリンスタンドもみられている。

【時流潮流/3月24日】イラン戦争で「我が世の春」を謳歌するロシア

米国とイスラエルが開始したイラン戦争は4週間目に入り、長期化する様相が強まっている。米国は、イランの石油積み出し基地であるカーグ島の封鎖や上陸作戦に対応できる強襲揚陸艦部隊を日本の佐世保や、西海岸のサンディエゴから派遣。これらの部隊が中東地域に到着する3月下旬以後、新たな展開が起きる可能性がある。

イランによるホルムズ海峡閉鎖の長期化で、エネルギー市場の混乱も続く。そうした中、「我が世の春」を謳歌している国がロシアだ。この戦争で、多くの恩恵を被っている。

まずは石油・ガス価格の上昇だ。開戦直前まで国際的な原油安に加え、欧米による厳しい経済制裁により、ロシアは大幅な値引きを強いられていた。今年1月の石油・ガス収入は50億ドルにまで落ち込み、今年1~2月の財政赤字は国内総生産(GDP)の1.5%に達した。わずか2カ月で年間予想額の1.6%に近づいたことで、政府は予算縮減策の検討に着手した。ウクライナでの戦争継続にも疑問符がつく事態に追い込まれつつあった。

だが、イラク戦争開戦とホルムズ海峡封鎖という「神風」が吹く。1バレル=65ドル台だった原油価格は、一時、119ドルまで上昇、その後も100ドルをはさんだ取引が続く。ロシアのウラル産原油の値引き幅も一気に縮小した。ロシアの臨時収入は1カ月で30~40億ドルに達するとされる。まさに「棚ぼた」だ。

2点目は、米国による制裁の一時停止だ。トランプ米政権は、原油の流通量を確保しようと、ウクライナ戦争を機に発動していたロシア産原油への制裁措置を解除した。米国民に不人気なガソリン価格上昇をできるだけ抑え込むのが狙いだ。

制裁解除により、ロシア産原油の購入を控えていた中国の石油大手シノペックやペトロチャイナなどが購入再開に興味を示すほか、インドやトルコも購入量を増やしている。

米国は、あろうことか3月19日にはイランへの原油制裁も解除した。イランの戦費調達を容易にする恐れがあるが、原油価格の安定を優先させた。制裁措置の停止はいずれも1カ月が期限だが、戦争と同様に長期化すると予想されている。

三つ目は、ロシアが米国との新たな交渉道具を手にした点だ。昨年、イランと戦略的パートナーシップを結んだロシアは、開戦以後、中東に展開している米軍や周辺諸国の軍の位置座標や情報をイランに提供している。また、イランがウクライナ攻撃用にロシアに供与したシャヘド型ドローンを改造して能力向上を図ったものをイランに「逆輸出」している。

米国は、これらを問題視しているが、ロシアのドミトリエフ特別代表は11日に米南部フロリダであった米露協議の場で「米国がウクライナに実施している情報提供を停止すれば、ロシアもイラン支援をやめる」と、取引を持ちかけた。機を見るに敏、使えるものは何でも使おうというロシアのしたたかさが透けて見える。ロシアに詳しい外交官は「ロシアは『無』から『有』を生み出す天才だ。今回がその典型的な例だ」と取材に答えた。

ウクライナ戦争に「追い風」か 肥料価格上昇も収入増に

報道も含め世界の関心が中東に集まれば、ウクライナ戦争の注目度が落ちることもロシアにとっては追い風になる。米国は、中東諸国を守ることを優先してミサイル迎撃用のパトリオット・ミサイルを中東に手厚く配備する作業を進めており、ウクライナに武器が届かず守りが手薄になっている。ロシアはその隙を突きウクライナに攻勢をかける準備を整えつつある。元手となるのは、石油価格上昇で得た臨時収入だ。さらに、国際的な注目を浴びずに攻勢を仕掛けられるのも大きな利点だ。

このほか、ロシアが主要供給国となっている肥料の価格上昇もロシアの収入増につながる。中東湾岸諸国は肥料の3分の1、尿素の5割を国際市場に供給してきたが、石油や天然ガスと同様。ホルムズ海峡を通航できない状況が続く。

ロシアの「おらが春」はいつまで続くのか。それはトランプ氏の差配にかかっている。

【論考/3月16日】燃料油補助復活が日本を自滅させる、これだけの理由

ホルムズ海峡の事実上封鎖が長期化すれば、実際上、原油価格に上限はなくなる。バレル当たり100ドルや150ドルは平時の価格であり、200ドルでも全く足りない。在庫取り崩しに限界が見えた時点で、無制限の上昇圧力が掛かり始めるのだ。多くの輸入国で石油不足が市場による調整力を超え、政府による制御・統制を余儀なくされよう。それはアジア・太平洋地域で始まり、輸入依存度の高い諸国で最も顕著となる。もちろん、日本も例外ではない。【論考/3月12日】に引き続き、考えてみる。

一般的にバレル当たり100ドルに関しては、それ以上は「超」高値圏という閾値(threshold)として言及されることが多い。3月第2週時点でも、ホルムズ海峡封鎖を前提にしながら、100ドル代前半の予想が主流だ。例えば3月9日付けウォールストリートジャーナル紙が伝えた金融・エネルギー調査関係4社の見通しは、130ドルから150ドルの間に集まる。

しかしこの価格帯は、巨大な供給途絶量の現実に対し、低すぎて全く釣り合わない。例えばロシアによるウクライナ侵略開始後、2022年3月から7月の間、ブレント原油価格はバレル当たり100ドルから130ドルの範囲で推移した。しかしこの間、ロシア原油の輸出は順調に続き、不安はあったものの、実体的な供給ひっ迫は何ら生じていない。

また、11年から13年まで、いわゆる「コモディティー・スーパー・サイクル」と呼ばれた商品価格の上昇期に、ブレント原油は25年実質価格で平均150~160ドルだったが、この時も不測の供給途絶はなく、石油消費も年率平均3%弱の高率で増加していた。実質150ドル前後の価格は、当時の生産費用の上昇に応じて、供給・需要側双方に新規投資・技術革新を促す、市場の自律的反応だった。事実、この価格を拠り所として、10年代後半に米国で「シェール革命」が開花している。

【記者通信/3月11日】福島原発事故から15年 浮上する「廃炉」以外の選択肢

福島第一原発(1F)事故から15年が経過した。原発再稼働や運転期間の延長、建て替えなど、原子力の活用に向けて歯車は回りだした。一方で遅滞を取り戻せずにいるのが1Fの廃炉だ。政府と東京電力は事故直後に示した「2051年までの廃炉完了」という目標を維持している。しかし、この目標を「現実的なものに見直すべきだ」とする意見が目立ち始めている。

東電は現時点で51年目標を変更しない方針だ。その背景には、現場環境の改善がある。処理水の海洋放出は計画通り行われ、作業エリアの大半で一般作業服での作業が可能になった。使用済み燃料プールからの燃料取り出しも進展し、事故直後のような緊急対応の段階は脱した。燃料デブリ取り出しに集中できる時期を迎えつつある。

それでも、51年目標は非現実的だとする声は根強い。事故直後に示された中長期ロードマップでは、21年までにデブリ取り出し開始を予定していた。しかし、4年以上経過した今、推計880tのうち、取り出したのは試験回収での0.9gにすぎない。格納容器内部の状況把握、デブリの性質の解析、遠隔ロボットの技術開発など課題山積で、回収開始から全量取り出しまで68~170年かかるという試算もある。これでは51年どころか22世紀に突入してしまう。

NHKは11日のウェブ版記事「福島第一原発事故15年 2051年までの廃炉 実現の見通し立たず」で〈現在は核燃料デブリの取り出しを終える具体的な時期は示されておらず、政府と東京電力が掲げる2051年までの廃炉の完了を実現できる見通しは立たない状況となっています〉と伝えた。

廃炉か、それとも……

こうした現実を前に、廃炉を巡る議論は「いつ終わるか」だけでなく、「どう終わらせるか」にも広がっている。10日には毎日新聞がウェブ版に「原発事故の跡地利用に『遺構』支持する声 『議論早すぎる』の指摘も」との記事を公開。1Fの一部を原爆ドームのように「遺構」として残すことを提案する大学教授の声などを取り上げた。

朝日新聞も11日の朝刊オピニオン欄で、〈更地にして返してもらえると思っている福島県民も多いでしょうが、国と東京電力は廃炉の最終形をあいまいにしたままで、不誠実です。(中略)現実的で具体的な工程を練り直すべきではないでしょうか〉と、福島県いわき市を拠点に活動する地域活動家のインタビューを掲載した。

被災地である福島への責任として廃炉以外の選択肢を模索することは、これまで世論的にタブー視されてきたが、左派系の有力メディアがそこに目線を向け始めたことは、ある意味で驚きだ。

全量取り出し、石棺化、遺構化──。それぞれ技術的困難性や周辺地域の再利用の制約、放射線量の維持管理などの課題がある。1F処理の方針は東電の再建に直結する話で、高度な政治的判断が必要だ。廃炉にかかる費用はすでに5.2兆円が確定しており、政府が試算した8兆円枠を超えることは不可避とみられている。それだけに「廃炉→更地」化を諦めるのであれば、時期は早いに越したことはない。そう遠くない将来、国民的議論が巻き起こりそうな予感がする。

【特集2まとめ】水素国産化へ産官学の挑戦 地域実装と最新技術の現在地

水素サプライチェーンの確立に向け産官学が連携した取り組みが加速している。

東北の福島県では水素や再エネの産業を集積する動きも誕生。

地産地消を実現することで世界に「Fukushima」を発信する。

本格利用を視野に入れ、液化水素調達用の船舶や受け入れ基地整備も進む。

「作る」「運ぶ」「使う」ー。

どれも欠かせないパーツがかみ合うように壮大なビジョンに向けて各社が奔走する。

【アウトライン】福島県で広がる再エネ水素の先導モデル

【インタビュー】福島県が新ビジネスの創出を後押し 企業連携促す支援機関に活力

【インタビュー】最先端の技術実証の結節点 浪江町が世界を視野に研究機関を整備

【レポート】岩谷産業が極める液体水素と冷熱利用技術

【レポート】世界初の商用化供給網の確立に挑む川崎重工

【レポート】既存インフラを活用する東邦ガスのターコイズ技術

【レポート】日揮が福島再エネ使ったグリーンアンモニア製造を実証

【トピックス】三菱化工機の水蒸気改質技術が大手鉄鋼で活躍

【トピックス】充填時間を大幅短縮 タツノ製ディスペンサーが韓国で高評価

【トピックス】川重冷熱が水素式吸収冷温水機で都市ガス並み低NOx化を実現

【トピックス】東京都が水素社会を身近に感じるイベントを開催

【特集1まとめ】原子燃料サイクルの号砲 数々の困難克服し実現なるか

地政学リスクの高まりや脱炭素の要請を背景に、世界で原子力発電の価値が見直されている。

ウランの争奪戦が見込まれる中、資源を再利用できる原子燃料サイクルの意義はこれまで以上に高まった。

国土が限られる日本にとっては、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減も避けて通れない。

こうした課題を解決するサイクルの確立に向け、日本の取り組みは着実に次のステージへと進みつつある。

描く青写真にどこまで近づいているのか。足りないピースは何か──。

六ヶ所再処理工場の竣工が見えてきた今、その真価を問う。

【アウトライン】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

【インタビュー】「プルサーマルの先駆者」玄海町が示した立地のプライド

【寄稿】批判一辺倒のメディアが抱える問題と本質

【寄稿】燃料供給安定化へ国産化の推進を

【座談会】バックエンドの課題克服へ示すべき国家の覚悟

【インタビュー】次代担う東大生が評価する政策の現状