【四国電力 宮本社長】「人の力」を最大化 各事業の収益力を高めグループの成長目指す


現行の中期経営計画はスタート当初に困難に直面しながらも、一つひとつ難局を乗り越え、経営目標を達成できる見通しとなった。

足元では脱炭素化とデジタル化が追い風となる中、新中計ではコア事業と拡張領域の双方で収益力を高め、経常利益650億円以上というさらに高い目標を掲げる。

【インタビュー:宮本喜弘/四国電力社長】

みやもと・よしひろ 1985年京都大学工学部卒後、同年四国電力入社。常務執行役員総合企画室経営企画部長、取締役常務執行役員総合企画室長(再生可能エネルギー部・広報部担当)などを経て、24年6月から現職。

井関 中期経営計画2025の最終年度ですが、達成状況はいかがですか。

宮本 2021年に公表した現行の中期経営計画では、「『電気事業』と『電気事業以外の事業』を両輪に、持続的な企業価値の創出を図っていくこと」を目標に、グループ全体で25年度に経常利益400億円以上、ROA(総資産利益率)3%程度といった経営目標を設定してきました。公表直後に燃料価格の高騰や需給ひっ迫により電気事業が大幅な赤字に陥るなど厳しいスタートとなりましたが、一つひとつ難局を乗り越えることで経営の正常化を図ることができました。また、情報通信事業や国際事業といった電気事業以外については、既存の取り組みの強化・拡大に加え、新規案件への参画や新規事業開拓の推進など、着実に利益拡大に向けた取り組みを進めてきました。これらにより、経常利益目標や、配当50円の実現、自己資本比率25%への引き上げといった経営目標を、おおむね達成できる見通しとなりました。

井関 電気事業以外では、メインはやはり情報通信事業ですか。

宮本 はい。情報通信事業が一番利益に貢献しています。子会社のSTNetが手掛ける光インターネット「ピカラ光」の四国の総世帯数に対する普及率は、9月末時点で23・7%、提供エリアに対する普及率では30・5%に達しています。利益面では、情報通信事業で、100億円以上の経常利益を出しており、現行中計の利益目標である400億円の4分の1を稼ぐほどまで成長しています。


縮小・均衡から増加へ 局面の変化はチャンス

井関 10月に公表した「よんでんグループ中期経営計画2030」のポイントは。

宮本 新たな中期経営計画のポイントは大きく二点あります。一点目は、電気をはじめとするエネルギー事業と情報通信事業を「コア事業」に位置付けた上で、これらの事業で培ってきた強みを生かしてお客さまや地域の皆さまに貢献することで、さらなる成長を目指すとしたことです。現行の中計では、省エネや人口減少の進展などによって、電気事業が縮小・均衡してしまうことがどうしても避けられず、これを補うために、電気事業以外の事業を成長させるというものでした。

しかしながら現在は、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展によって、低・脱炭素電力に対するお客さまや地域の皆さまからの新たなニーズが拡大するとともに、将来の電力需要が増加する可能性が生じるなど、新たなチャンスが生じています。新中計では、エネルギー事業と情報通信事業を通じて培ってきた強みを生かすことで、グループとしての成長を目指す姿を描くことができました。

脱炭素化とデジタル化の進展を収益機会拡大につなげる

二点目は、経営基盤の強化策の一つとして「よんでんグループ人材戦略」を策定したことです。グループの持続的な成長を実現するために必要不可欠な「人の力」を最大化することを目指し、基本方針に「従業員と会社が共に成長しながら持続的に価値を創造する」を掲げ、「会社が求める経営戦略の実現」と「従業員の充実した人生の実現」を両立するための人材マネジメント施策を推進していきたいと考えています。

井関 30年度経常利益目標(650億円以上)を達成するためには、25年度見通し(530億円)から120億円増加させる必要があります。

宮本 足元の利益水準には一過性要因も含まれているため、経常利益650億円以上という目標は、見た目以上にチャレンジングな水準であると認識しています。目標の達成に向けては、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展により生じる収益機会を捉えて当社の強みを生かすことで、コア事業に位置付ける電気事業や情報通信事業を中心に利益拡大を目指します。特に電気事業は、当社グループがこれまでに積み上げた知見や信頼が最も強みとなる領域であり、卸販売も含めた販売規模の拡大と収益性の向上を図っていきます。

また、コア事業からの拡張領域についても、例えば、国際事業については、現状の利益規模40億円から2倍程度への拡大を目指すなど、より高い成長を志向しています。高いハードルではありますが、ウズベキスタンにおける太陽光と風力発電事業など、既に参画済みの案件もあり、これらが今後5年の間に利益に貢献することになるため、十分に達成可能だと考えています。その他、脱炭素電力の供給やエネルギーソリューション事業についても、これまでのお客さまサービス的な位置付けからマネタイズを図っていくことで、収益の一つの柱として育成していきたいと考え、挑戦領域として位置付けました。

【特集2まとめ】社会課題を解決するインフラへ スマートメーター進化論


通信ネットワークを取り入れて進化するスマートメーター。


電力業界では第2世代の仕様が決まり、2025年度中に取り付けが始まる。


都市ガス業界では、大手3社が先陣を切って設置に乗り出したほか、データの送受信を担うセンターシステムの運用などに取り組む。


地方都市ガス事業者は、独自に導入を検討する動きが活発だ。


スマートメーターは大規模なシステム構築が求められてくるが、設備のスリム化、保安の高度化など、導入のメリットは大きい。


社会課題の解決するインフラの一翼を担うものになりそうだ。

【アウトライン】次世代スマメが拓く社会変容 情報産業の新たな価値創造へ

【インタビュー】「価値獲得」へ各社が手探り 自治体の付加価値向上も

【レポート】専門家交えガイドライン改定 外部接続に関する体制を強化

【レポート】異業種・自治体と共同実証 地域課題解決に資するサービス

【レポート】都市ガスの新たなインフラ創り 全域への設置完了へ着実に前進

【レポート】電力スマメの通信網を利用 コストを抑制し全件に導入へ

【トピックス】自治体や事業者と連携しサービス実証 製造業の枠超えソリューションを創出

【トピックス】唯一のIoT専業の通信事業者 多様な規格をそろえ事業に対応

【インタビュー】利便性とセキュリティを両立 30年代に全戸への導入目指す

【東京ガス 笹山社長CEO】経済性見極め成長投資 事業の効率化を進め安定した利益成長図る


今年度上期決算では過去最高水準となる最終利益を達成。

現行の中期経営計画の主要戦略はおおむね達成したが、成長性・収益性には改善の余地があるとし、次期中期経営計画で安定的な利益成長を目指す。

株主還元方針も予見性を重視した内容に転換した。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 2025年度上期決算をどう評価していますか。

笹山 上期は、前年同期比増収増益となり、全体として良好な結果を残すことができました。特に、エネルギー・ソリューションセグメントでは電力販売量の増加、そして海外セグメントでは北米シェールガス事業における販売単価の上昇が、業績を押し上げました。これらの要因により、最終利益は前年同期比約8倍の1296億円と、当社として過去最高水準に達しました。短期的な要因として、豪州持株会社の解散に伴う為替差益(特別利益)の計上が増益に寄与しましたが、これを除いても、通期で掲げた最終利益の目標を十分に達成できる水準です。

井関 都市ガス・電力販売量はどのように推移しましたか。

笹山 都市ガス販売量に関しては、家庭用が前年同期比で3・7%増加しました。これは、昨年の春の気温が高かったことに対し、今年は気温が低く、暖房需要が増加したことが背景にあります。一方で、一般工業用向けの需要は減少しました。これは、大口の離脱によるものではなく、一部産業の生産活動や発電用途の変動が影響しています。これにより、販売量は全体で前年同期比0・4%の減少となりました。電力販売量は19・6%増加しました。これは、猛暑に伴う空調需要の増加に加えて、小売りの契約件数の増加が寄与しています。


海外・エネ分野が好調 通期も増収増益

井関 通期見通しも増収増益を見込んでいます。

笹山 通期についても、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業での販売単価上昇など、エネルギーおよび海外セグメントが順調に推移しているため、売り上げ、利益ともに好調で、最終利益は前期比2・6倍の1940億円を見込んでいます。

北米シェールガス事業が好調だ

井関 株主還元方針が従来の総還元性向に基づくものから、中間キャッシュフローの中で、「成長投資」と「株主還元」に柔軟に配分する方式へ変更されました。この理由と狙いについて教えてください。

笹山 もともと、資本市場に対して予見性の高いメッセージを発信したいという考えが根底にありました。さまざまな株主との会話の中で、成長投資をしっかり行ってほしいという意見がある一方で、株主還元の予見性を重視される方が多くいます。そこで利益の成長に合わせた累進配当による着実な増配と総還元規模を明確化することにより、株主還元の予見性を高めることにしました。成長投資についても経済性を見極めながら実施し、企業価値を高めていきます。

井関 総還元性向の目標については、約2年半前に5割から4割へと引き下げ、話題となりました。今回の方針転換は、昨今の経済情勢の変化を踏まえたものなのでしょうか。

笹山 成長投資に注力するという基本的な考え方は、今後も変わりません。ただ、昨今のインフレ状況などの環境の変化を踏まえると、一株当たりの配当を順調に伸ばしていくことを示す方が、予見性がより高まると考えています。

具体的には、3カ年で総額2000億円以上の株主還元を予定しており、28年度までに一株当たり140円の配当を目指す方針を掲げています。数値目標を明示することで、投資家の皆さまに対して、より分かりやすいメッセージを届けられるよう意識しました。

【北海道電力 齋藤社長】新たな価値を創造し 北海道と共に力強く成長する


次世代半導体工場やデータセンターなどの新規立地により、北海道の中長期的な電力需要の見通しが増加に転じた。

この千載一遇のチャンスを確実に捉えるため、GXやDXに着実に対応し、新たな価値を創造。

地域と共にほくでんグループの成長を軌道に乗せる。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。


井関 10月31日に、泊発電所3号機再稼働後の電気料金値下げ見通しを公表しました。

齋藤 当社は、泊発電所の再稼働後には電気料金を値下げすることをお約束しており、一定の前提を設定し、3号機再稼働後の値下げ見通しを取りまとめました。再稼働に伴う費用の低減効果を反映した上で、今後の物価や金利の上昇による影響を緩和するために、カイゼン活動やDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進などの経営効率化のさらなる深掘りによる費用の削減効果を最大限織り込んだ結果、規制料金では、ご家庭向け電気料金で11%程度、自由料金全体では、平均7%程度の値下げとなる見通しです。  

この値下げ見通しについては、公表直後に鈴木直道北海道知事にも直接ご説明させていただきました。知事からは「値下げの内容や考え方について、道民の皆さまへ丁寧に説明していくことが重要」とのお話をいただきました。エネルギー資源に乏しい日本においては「S+3E」(安全、安定供給、経済、環境)の観点が重要です。こうした観点を踏まえた泊発電所の必要性について、道民の皆さまにご理解をいただけるよう、安全対策の取り組みに加え、今回お示しした電気料金の値下げ水準についても説明を尽くしていくとともに、早期再稼働に向け総力を挙げて取り組んでいきます。


運転開始時期を前倒し 安定供給に万全期す

井関 道内の人口減少の影響が懸念されますが、最新鋭の半導体工場やデータセンター(DC)の建設計画などによる需要増への期待が高まっています。

齋藤 札幌市も人口減少に転じ、北海道全体でも全国より速いスピードで過疎化が進んでいます。こうした状況下で、千歳市で建設が進むラピダスの半導体工場が今後量産体制に入りますし、工場の拡張も計画されていると聞いておりますので、地域経済の活性化や電力需要の増加につながると期待しています。また、寒冷地とあってさまざまな企業からDC建設計画のお話をいただいています。

井関 需要増に向け供給体制は万全ですか。

齋藤 電力供給については、まずは現在の電源設備をしっかり使っていくことで賄うことを考えています。これに加えて、石狩湾新港発電所2・3号機の運転開始時期を前倒しすることを決めました。長期的な需要増に向けて、泊発電所の重要性は一層高まってきます。安全性の確保を大前提に、脱炭素電源であり、燃料供給の安定性や長期的な価格安定性も有する泊発電所の早期再稼働を目指し、総力を挙げて対応を進めていきます。今後もお客さまに安定して電力を供給できるよう、当社の電源構成や発電設備の経年化状況を踏まえながら、電源開発、休廃止計画を検討していきます。

井関 3月に「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定しました。

齋藤 20年に策定した前回の経営ビジョンは、電気事業の自由化や市場化が進むとともに、人口減少や省エネの進展などにより北海道の電力需要が減少していくことを前提としていましたが、ほくでんグループを取り巻く環境が一変したことから、今般、大きく見直しました。この数年の間で、気候変動対策への機運が一層高まるとともに、地政学リスクの発現などを背景に経済安全保障やエネルギー安定供給が重視されるようになりました。国はエネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指しGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に推進しています。

【特集2まとめ】都市ガス「新エネ」への挑戦 見えてきた低炭素化の現実解


低炭素化の現実的な解を手繰り寄せようとする、都市ガス各社の動きが加速している。


究極のCNエネルギーであるe-メタンをはじめ、CO2回収といった難易度の高い技術開発も進めている。


注目すべきは、大手事業者の取り組みにとどまらない点だ。清掃工場と連携したバイオメタンによるガス供給など地方ガス自らが主体的に動き出す事例が生まれつつある。


企業の存続すら左右しかねない低・脱炭素化の潮流に各社はどのように挑んでいるのか。最新の動向を追う。

【アウトライン】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

【インタビュー】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成

【インタビュー】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe―メタンを製造

【インタビュー】CO2分離回収技術開発に注力 LNG未利用冷熱を有効活用

【インタビュー】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

【レポート】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入

【トピックス】分離膜方式採用のシステム開発 高濃度のメタンガス精製を実現

【レポート】小型風力発電が運転開始 再エネ開発の目標達成に注力

【レポート】水素利用のすそ野拡大へ 小規模需要の「壁」に挑む

【レポート】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証

【トピックス】独自技術で水素を高精度に検知 メタネーションを安全面から支援

【トピックス】特許技術の整流器により省スペース化 水素含有率をリアルタイムで計測

【特集1まとめ】バイオエタノールの総力戦 運輸部門CNレースで勝ち残れるか


トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料とする「バイオエタノール」が、
運輸部門のカーボンニュートラルの現実解として再び脚光を浴びている。
これまで主流だったEV(電気自動車)は、全世界で普及速度が鈍化。
エネルギー密度が高く運搬性や貯蔵性に優れる液体燃料の優位性が見直される中、
合成燃料「eフュエル」の商用化は2030年代前半まで待たなければならない。
そこで、既に製造技術が確立し製造コストもeフュエルに比べ安価な
バイオエタノールに白羽の矢が当たった形だ。
とはいえ、安定調達や燃料品質、供給インフラの整備、車両対応など、
社会実装に向けてはさまざまな課題が立ちふさがる。
政府、石油業界、そして自動車業界―。
バイオエタノールの導入実現に向け、官民一体の総力戦が幕を開けた。

【アウトライン】世界からの遅れ取り戻せ 官民を挙げた導入拡大策が始動

【レポート】「第2世代」で公道を走行 福島で動き出した燃料の未来

【レポート】輸出拡大で熱量上がる米国 日本はメリット享受できるか

【レポート】「食料か燃料か」から「食料も燃料も」へ 課題を克服する技術開発に注力を

【座談会】キーパーソンが語り合う バイオ燃料の将来像

【沖縄電力 本永社長】事業環境変化を好機に 新たな価値生む企業へ変革していく


右肩上がりの経済成長が期待される沖縄県。足元の電力需要も増加傾向にあり、事業を取り巻く環境は堅調に推移している。

調達力の抜本的強化や人財戦略を進め、新たな価値を生み続ける企業への変革を目指す。

【インタビュー:本永浩之/沖縄電力社長】

もとなが・ひろゆき 1988年慶応大学経済学部卒業、沖縄電力入社。2013年取締役総務部長を経て、15年副社長就任。お客さま本部長、企画本部長を担当。19年4月から現職。

井関 7月末に、2025年度の通期業績について、5年ぶりの減収増益との見通しを公表しました。

本永 売上高は期初予想から15億円上方修正しましたが、前年度に比べ販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の影響を主な要因として、前期を下回る見込みです。前年度は、夏の暑さが影響し販売電力量が23年度比5・4%と大きく伸びました。今年は7、8月の気温が昨夏よりも低かったことから販売電力量は伸び悩みましたが、9月に入ってからは厳しい暑さが続き、一転、好調に推移しています。

今年は台風が沖縄にほとんど接近していないことも、販売電力量が好調に推移する一因となっています。入域観光客数についても、8月単体で史上最高の107万5千人が訪れたと発表されましたが、気象条件に左右されず、計画通りに旅行していただけることも大きな後押しになるでしょう。

利益面では、期初予想から売上高は伸びたものの、電力需要の増加や燃料価格の上昇により、燃料費や他社購入電力料の増加も見込まれます。こうした影響を踏まえ、今後、グループ会社を含めた業績の見極めも必要なことから、営業利益100億円、経常利益80億円の期初予想を据え置きました。そこから少しでも上乗せしたいというのが本音です。


高圧料金の規制解除 総合力で顧客獲得

井関 来年4月に高圧部門の料金規制が解除されます。どう受け止めていますか。

本永 高圧部門で規制料金が残っているのは沖縄エリアだけですが、競争状況は他エリアとそん色がなく、電源アクセスの公平性が確保されていることが認められました。22年度の燃料価格高騰の際には、規制料金に燃料費調整の上限が設定されていることで収支に大きな影響がありましたが、この仕組みは事業者の負担が大きく、規制料金が安く抑えられることで競争を歪める可能性もあるため、解除が望ましいと考えています。

県内には現在、20社強の新電力が進出しているとみられ、低圧・高圧の両部門において競争が一段と激しさを増しています。低圧部門においては、10月から有力な事業者が参入しており、これまで以上に厳しい競争環境になるものと見込んでいます。

井関 これをきっかけに、どのような戦略で攻勢をかけますか。

本永 高圧部門でも、既に自由化されている領域で積極的な営業を展開していますし、解除後に自由料金の対象となるお客さまに対しても注力していきます。当社の強みは、お客さまのニーズに合わせて、ガス供給や省エネ診断など総合的なソリューションを提案できる点にあります。さらに、CO2フリーメニューや再生可能エネルギー由来のPPA(電力購入契約)を提案するなど、環境価値の提供にも対応しています。今後も、多様化するニーズに合わせた最適な選択肢を提供していきます。

井関 沖縄は再エネの適地が限られているように思いますが、どのように再エネ電源を拡大していきますか。

本永 沖縄にはメガソーラーを設置できる広大な土地はありません。そのため当社の戦略は、事業所や学校、公共施設などの屋根を活用し太陽光パネルを敷設するというものです。家庭向けを含め、お客さまの屋根に太陽光パネルを設置し、蓄電池と組み合わせる事業「かりーるーふ」を展開しています。

学校への設置は、環境教育に役立つだけでなく、災害時の拠点として非常用電源を確保する効果もあります。実際に、小中学校で導入が進んでおり、今後も高校などで取り組みを強化していきます。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】グループ各社が自律し、価値観を共有しながら健全な成長を目指す


前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成。今年度、新たなグループ中計「ACT2027」をスタートさせた。

本業のガスエネルギー事業にやや回帰しつつ、不動産や電力事業も強化し収益力の向上を目指す。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

井関 前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成しました。

加藤 その瞬間は非常に達成感を覚えました。ですが、直後から新たなグループ中計「ACT2027」が始動し、フルパワーで取り組んでいますので、余韻に浸る時間はそれほど長くありませんでした。

井関 社長就任から1年超。どう振り返りますか。

加藤 6月の株主総会でも、株主のお一人から「社長就任からの1年を総括してもらいたい」との質問をいただきました。想定問答にはなかったので驚きましたが、前年の株主総会で別の株主の方から「事業の裾野が広がっているのは分かるが、本業であるガスエネルギー事業強化に本腰を入れるべきではないか」と叱咤激励いただいたことを思い出し、それを踏まえてこの1年間の総括を述べました。

前年度の株主総会では、都市ガス、LPガスのみならず電力事業の強化を図り、総合エネルギー事業への回帰を進めていくこと、そして、芽が出てきた不動産事業との両輪で、収益をけん引していくことを宣言しました。それらを実現するべく、ガス事業ではひびきLNG基地における3号タンクの増設に着手。巨額の投資を伴いますので、最終投資決定の前からJERAと協議を重ねていました。

エス トラストのオーヴィジョン井尻。不動産事業は着実に安定収入に貢献

電力事業では、再生可能エネルギーの開発に加えてひびき発電所(LNG火力、62万kW)が今年度中に運転開始を予定しています。これに合わせて、小売販売・卸販売を強化する体制を構築し、営業活動を活発化させています。不動産事業は、山口県下関市に本社を置くグループ会社のエス トラストが、北部九州を中心とした分譲マンション開発を展開し、非常に順調に推移しています。西部ガス都市開発が手掛ける賃貸事業も、順調にストックを積み上げ安定収入の確保につながっています。

また、社内コミュニケーションの充実を図るため、経営層と従業員層との距離を縮めて、風通しの良いグループ風土づくりのための施策も打ち出しているということも、この1年の振り返りとしてご説明しました。


不動産事業が好調 九州経済は手堅く成長

井関 第1四半期決算は増収増益で、最終利益は前年同期比86%増と過去最高を記録しました。

加藤 不動産や電力・その他エネルギー事業の好調に加え、ひびきLNG基地の減価償却費の減少が、増益の主な要因です。 非需要期の決算とはいえ、23年度以来2期ぶりに全てのセグメントが利益に貢献するなど、「ACT2027」の達成に向けバランスの取れた良いスタートを切れたと思います。

井関 九州経済の好調も、業績を押し上げることになりそうですね。

加藤 はい。この夏を見ても、記録的な猛暑によって家庭用のガス需要は減っていますが、業務用のガスヒートポンプエアコン(GHP)の需要が堅調に伸びています。工場の新規の立地計画や撤退など、プラスマイナスの影響はさまざまありますが、福岡市天神エリアにおける都市再開発誘導事業「天神ビッグバン」で街が一層活気づいてますし、TSMCの工場誘致に伴い関連産業も周辺に進出してきているので、九州経済の手堅い成長と共にエネルギー分野はまだまだ浮上すると見ています。

【特集2まとめ】脚光浴びるHPの蓄熱力 再エネ支える需給調整の新運用


今年、累積出荷台数が1000万台を突破したエコキュート。
家庭用ヒートポンプとして給湯市場を席巻して四半世紀が経過した。


深夜の割安な電気を使って貯湯し翌日のお風呂需要を担っていたが、
再エネの大量普及時代を迎え、そんな単調な運用は変わりつつある。


余剰再エネの有効利用やデマンドレスポンスを見据えた運用など
その蓄熱力を柔軟に活用した新たな役割が期待されている。


ガスとヒートポンプを組み合わせたハイブリッド給湯と共に、
変わりゆく家庭用給湯の展望を探った。

【アウトライン】家庭用給湯が四半世紀で一変 低・脱炭素化担うアイテムへ

【インタビュー】潜在的な需給調整力に期待 DR価値向上の仕組みが重要

【レポート】次なる普及策へ業界の挑戦 利用者のDR参加をどう促すか

【トピックス】太陽光連動型給湯機の普及拡大へ お得な料金プランで自家消費を促進

【インタビュー】DRreadyの本格普及へ 自立型の事業モデル確立を

【レポート】欧州のヒートポンプ事情を考察 英国視察から見えた普及策

【レポート】本格普及を見据え増産対応 ハイブリッド市場を主導

【レポート】業界最小クラスのコンパクトモデル 時短施工、軽商用車に搭載可能

【トピックス】オール電化マンションを強みに攻勢 CO2フリー化とエコキュート制御など提供

【九州電力 西山代表取締役社長執行役員】安定・低廉な電気で九州の魅力を高め 地域経済と共に発展する


さまざまな社会変化を背景に電力事業が転換点を迎える中、6月26日に九州電力社長に就任した。

再エネ、原子力による脱炭素化された低廉な電力で地域経済の発展に貢献するとともに、人材戦略を強化することで企業としての魅力を高める。

【インタビュー:西山 勝/九州電力代表取締役社長執行役員】

にしやま・まさる 1986年東京大学経済学部卒、九州電力入社。22年常務執行役員コーポレート戦略部門長、23年取締役常務執行役員エネルギーサービス事業統括本部長などを経て25年6月から現職。

井関 6月に社長に就任されました。これまでをどう振り返りますか。

西山 2000~03年に当時の鎌田迪貞社長の秘書を務め、社長としての振る舞いを見て大変な仕事だなという印象を持っていました。私自身が実際に就任してみて、やはり責任の重さを実感しています。スケジュール上の忙しさもありますが、さまざまな経営判断を最終的には自ら下さなければならない、そこに社員の生活がかかっているということの責任の大きさ、重さを日々感じながら、仕事に向き合っています。

井関 九州電力に入社して以降、最も印象に残っていることは何でしょうか。

西山 最初の赴任地である熊本でのことですが、当時は社員が各家庭を回って未収金を回収していたんですね。私も1カ月に400~500軒を回っていて、その中には、経済的な理由でどうしても払えないご家庭もありました。電気が止まれば生活が成り立ちません。そうした皆さんが、できるだけ安心して電気を使っていただけるようにしていかなければならないと強く感じたことが、私の原体験です。

もちろん、事業はサステナブブルでなければならず、収益を上げて社員や株主、地域の皆さまに還元していかなければなりません。九州エリアは、半導体工場の集積やデータセンターの建設などにより、今後、電力需要の増加が見込まれています。こうした動きは、当社が原子力の安全・安定運転、再生可能エネルギーの積極的な開発・導入などにより、業界トップレベルの非化石電源比率を誇っていることに加え、全国的に見て低廉な料金水準であることなどから、企業にとって九州での立地が魅力的であるためと考えています。  

これからも、電力の安定供給を堅持するとともに、環境価値の高い電気といった九州の強みを生かして企業の立地を促し、地域経済が潤いながら当社も利益を上げる―そのような循環を創り上げていきたいと考えています。

5月に公表した「九電グループ経営ビジョン2035」

【特集2まとめ】LPガス業界の転機と商機 事業激変時代を生き抜く戦略


経済産業省は昨年7月、液化石油ガス法の改正省令を全面施行した。
三部料金制の徹定や工務店などへの利益供与の禁止など

LPガス業界で長年続いてきた悪しき商慣行にメスを入れたのだ。
この省令改正は、事業者に大きなインパクトをもたらした。
業界を挙げて対策に取り組んでおり、まさに一大転機を迎えている。

一方で、このタイミングを見計らって事業拡大を狙う事業者もある。
LPガス激変時代をどう生き抜いていくのか。その戦略に迫った。

【アウトライン】消費者に選ばれるエネルギーへ 省令改正への対応を推進

【インタビュー】料金の透明化へ行動指針策定 不動産業界にも対応要請

【座談会】独自の販売戦略で難局を乗り切る 地域密着で顧客満足を追求

【レポート】燃料油からの燃料転換に注力 販売特約店との連携深める

【レポート】特約店の支援体制を強化 幅広いサービスで差別化狙う

【レポート】災害に強いハイブリッド発電機 日本のレジリエンス向上目指す

【レポート】災害時も空調の稼働を継続 熱中症対策と避難所機能を両立

【インタビュー】ブローカー対策に手応え 消費者への注意喚起に注力

【トピックス】Jークレジット制度を活用 パビリオンのCO2排出量を実質ゼロに

【トピックス】双方向通信端末の導入進む 社内外でDX化の推進に寄与

【トピックス】ボンベの運搬をスムーズに 現場ニーズに応えた電動台車を発売

【特集1まとめ】2050電力大不足の虚実 需給シナリオの問題点と対処法


2050年に日本の電力供給力が最大8900万kW不足する―。
電力広域的運営推進機関が7月に公表した需給シナリオが波紋を広げている。
AI・デジタル化の進展などに伴う電力需要の増大が背景にあるわけだが、
もしこの予測が実現すれば、事態は想像以上に深刻になるのは間違いない。
電力制約によって将来の経済成長が抑え込まれ、国力を損なうことになるからだ。
その一方で、業界内外には大消費時代到来への懐疑的な見方も少なくない。
シナリオを巡る多様な関係者の本音を取材し、その問題点と対処法を探った。

【アウトライン】電力需要急増シナリオへの期待と不安 エネルギー政策の現実路線回帰なるか

【レポート】業界関係者はシナリオをどう読んだか 発・送・販各部門からの注文

【レポート】脱炭素対応でLNG火力新設の動き 鉄鋼業界で電力原単位が増大へ

【覆面座談会】リアリティなき将来予測 具体的な投資判断に二の足 国が責任を持って制度設計を

【電源開発 菅野社長】トリレンマを直視し自社の最適解を探り 求められる役割発揮へ


カーボンニュートラルに向けさまざまな要請が突き付けられる中、火力のトランジションでは現実的な手法に狙いを定め、洋上風力への否定的見解は一蹴し真の価値を訴求する構えだ。

そして大間では一日でも早く地元の期待に応えることを目指す。求められる役割を見据え、自社や顧客にとっての最適解を追求する。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

井関 今年は酷暑の割に予備率には比較的余裕がある印象です。火力の運用面はどうでしょうか。

菅野 昨年同時期に比べて火力の稼働率が相当上がっています。スポット市場はどのエリアもゼロ円のコマが減り、それだけ火力電源が動いており、逆に言えば当社を含む発電事業者がマーケットを見ながら適切に運用しているといえます。

全体の需要が底上げされており、昨年1年間で2%弱増えました。特に今年は6月から暑い日が多く、早い時期から需要が増加しています。需要が大きく予備率が厳しい時期に計画外停止が起こらないよう、火力の定期検査を端境期に偏らせないなど、どの事業者も工夫しているはずです。石炭火力も日常的にフルの出力から最低負荷まで変動させる運用が増えており、ボイラーの金属の熱収縮による影響を予見し、集中的にどこをチェックするべきなのか、精度を高めていかなければなりません。

それでもトラブルは起こり得るので、いざという時はなるべく早く戦列に復帰させることが必須となります。

井関 第1四半期(4~6月)は減収増益でした。

菅野 3月末に松島火力が全て停止し、また今年度は容量市場の単価が大幅に下がるなど、減収要因がいくつかあります。それに対し、再生可能エネルギーでは水力や風力の発電量が増え、火力ではLNGと石炭の価格差が保たれた状況にあるなどの増収要因である程度回復しました。加えて北米ガス火力権益の売却益を計上したことにより、想定をやや上回ったと捉えています。


3E全て達成は至難の業 事業者ごとに判断へ

井関 第7次エネルギー基本計画を踏まえ、分野ごとに具体的な政策の検討が進んでいます。特に注目している点は?

菅野 電力需要の伸びのスピード感が重要です。実際今年度にかけて少し伸び、そしてデータセンター(DC)の需要はこれからが本番との見方があります。他方、政府が掲げるS+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)を三つとも満たすことは相当に難しいです。個々の事業者としては何を優先するのか、ある程度腹をくくる必要があると思います。事業者としての最適解は何か、判断を迫られ、具体的な行動となって現れる日が近いのではないでしょうか。

井関 ワット・ビット連携(電力系統と通信基盤の一体整備)の議論が進む中、日立製作所と社会インフラ事業者向けのAI用DCを共同検討しています。

菅野 印西市(千葉県)や京阪奈(京都府)などの系統接続容量は上限に近づきつつあり、電力供給と通信のインフラが整っている別の地方へのDC設置を目指すという議論が浮上していますね。DCの中でも即応性が求められるものや、AIの学習用などの役割分担があり、あるいは公共インフラではより高度なセキュリティーが求められています。われわれは、学習用かつ公共インフラに近いDCは地方設置が可能だと考え、ビジネスチャンスを狙っています。

当社には電源や通信インフラなどの情報はありますが、AI・需要に関する知見は少なく、具体的なDCのニーズを把握する上でパートナーが必要でした。今回、日本発で最も世界的なプレーヤーである日立製作所との連携に至りました。

井関 そこでも火力は重要な役割を果たすのでしょうか。

菅野 GAFAMなどのビックテックはCO2フリー電力で全て賄うと標榜しています。現実的には火力電源も非化石証書でオフセットし使う場面が出てくるでしょうが、当社としては水力や風力などのカーボンニュートラル(CN)な電気で供給するよう努力します。