低炭素化を図る現実的な手段として天然ガス転換が再び注目を集めている。
国内の工場や事業所では石油や石炭などCO2排出量の多い燃料から、
どのように切り替えていくべきかを検討するタイミングが訪れている。
再エネと電気設備を組み合わせ、一足飛びに脱炭素化を目指す動きもあるが、
設備コストや導入条件など、さまざまな面で課題が山積する。
こうした中、現実的な方策となるのがガス体エネルギーによる低炭素化だ。
事業者やメーカーはどのように取り組んでいるのか、最前線に迫る。

井関 6月下旬の会見で、地方創生・ 産業高付加価値化と一体となるGX(グリーントランスフォーメーション)開発に向けた新たな試みを発表しました。まさに産業政策とエネルギー政策は絡め合いながら考えるべき問題であり、注目しています。
奥田 例えば英国は製造業主体から、金融とデジタル主軸のモデルに脱皮し、エネルギーは原子力と再生可能エネルギー、天然ガスで賄い、電気料金が上がってもこの産業構造で世界と伍していく戦略です。われわれも相応のコストがかかる脱炭素を現実的に進めていくには、環境価値の高いエネルギーを使っても競争力が落ちないような産業・社会構造の変革が必須です。そして、GXは地域の関係者との連携なしには成し遂げられないと思います。
井関 洋上風力や水素・アンモニアの拠点で地域の産業振興を図る方針ですが、具体案は?
奥田 地方創生や工業地帯の再開発とセットで、各地域のニーズをくんだGXで地方も潤う流れを定着させたい。既に、各地には付加価値の高い製品が存在します。一から新しいモノを作るのではなく、既存のモノを適切な価値で売れる仕組みづくりが有効ではないか、という仮説に基づき、今後ショーケースを順次お見せする予定です。
例えば当社の洋上風力開発拠点である秋田県は魅力的な食の宝庫ですが、国内ではその利益が地元へ十分に還元されていません。日本で売られている日本酒が、欧州などでは数十倍で売られていることがあり、その差額は欧州側の利益となります。マーケティングやブランドストーリーの工夫によって、利益が日本の生産者に還元される仕組みを作り上げることが必要です。その点、ピュアな地産地消のクリーンエネルギーである洋上風力を使って製造し、付加価値をさらに高めれば良い循環が生じるのではないか。また、人手不足の問題には最新のデジタル技術による支援も考えています。
井関 地方創生を重視する現政権の方針にも合致しますね。 奥田 地方で開発した再エネの電気を全て東京に持ってくるという昭和のモデルのままでは、地方で持続的な雇用が生まれません。これでは地方での再エネ開発は行き詰まるでしょう。
井関 それにしても今年は6月から連日の猛暑続きで、需給への影響が懸念されます。元々、端境期は定期点検中の火力が多いですが、足元の運用ではどんな工夫を行っていますか。
奥田 ここ数年、夏の需要ピークが早まる傾向にあり、冬もピークが早まる、あるいは長期化しています。定検の時期をなるべく前倒し夏冬フル稼働できるよう工夫していますが、それでも需給が厳しくなる場面があります。一方で再エネが大量に普及し、出力変動に応じて日常的に火力の起動停止を行っており、それに伴って故障が増え、計画外停止につながっています。古い設備はどうしても金属疲労が起きやすく、リプレースを着実に進めることがやはり重要です。JERA設立以降、リプレースを経て営業運転に至った設備は700万kW以上、計画中も含めると1000万kW以上です。多くが計画より前倒しで運開し、需給ひっ迫の際には試運転の設備も含めて供給力としてできる限り提供してきました。
井関 再エネの拡大により、火力の運用は様変わりしましたね。
奥田 五井や姉崎はコンバインドサイクル発電ですが、ガスタービン単体のシンプルサイクル運転も可能で、実はこれがミソ。太陽光の出力変動に合わせる上で、スチームタービンも動かすと迅速性に関しては劣ります。供給力としての役割はもちろん、しわ取りとしてのガス火力の機能をフルに発揮できるよう、時代に合った火力発電所に変えていくことを意識しています。
井関 デジタル技術の活用にも力を入れていますね。
奥田 起動停止が頻発する中、機器の傷み度合いを正確に把握することが重要です。「予兆管理」と呼んでおり、AIで予兆を見つけ、早めに部品を交換することで計画外停止を防いでいます。こうしたDPP(デジタルパワープラント)化は、姉崎など最新鋭設備から導入し、徐々に拡大しています。
井関 6月中旬には袖ケ浦のリプレースに向け環境アセスメントの準備を開始。2032年度以降の運開を目指しています。
奥田 運転開始から50年たち計画外停止の蓋然性が高まる中、現役で稼働する2~4号機の計300万kWを260万kWの最新鋭に入れ替えました。引き続き安定供給に貢献していきます。
井関 近隣では東京ガスの袖ケ浦火力の新設も進行中ですが、今後両者が連携する可能性は?
奥田 今はまだそこまで考えていません。アセスの準備を始めたばかりで、その結果を踏まえてから、さまざまな可能性を考えることになるかと思います。
志賀 2024年度の通期連結決算について、どう受け止めていますか。
中川 24年度決算については、売上高は総販売電力量の減少および燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などが影響し、前年度に比べ減収、経常利益も燃料費調整制度の期ずれ差益の大幅な縮小などにより減益となりました。一方で、燃料価格の低下、原子力発電所の再稼働、投資の抑制や経営全般にわたる効率化への取り組みにより、当初想定を上回る利益を計上したことで、目標としていた連結自己資本比率15%以上への回復を1年前倒しで達成することができました。しかし、有利子負債は増加しており、著しく毀損した財務基盤の立て直しにさらに一層、取り組む必要があると認識しています。
志賀 高い利益水準の要因には、昨年12月23日に島根原子力発電所2号機が再稼働した影響もありますか。
中川 24年度決算では、島根2号機の再稼働により原料費が減少した半面、減価償却費などが増加しましたが、結果的に利益は90億円増加しました。この島根2号機は、電力の安定的な供給に寄与するとともに、燃料価格変動の影響が緩和できることから業績の安定化・財務基盤の強化につながるほか、カーボンニュートラル(CN)に向けても非常に重要な電源だと認識しています。
志賀 25年度の業績見通しについては。
中川 今年度は、市場価格の低下に伴う卸・小売の競争進展や送配電事業の利益の減少によって、二期連続の減益を見込んでいますが、島根2号機の稼働増加により一定の利益水準を確保できる見通しです。とはいえ、足元の競争に加えて、物価上昇に伴う資機材の調達費用の増加や、米国の関税措置による経済活動への影響の懸念など、先行きに対する不透明感が増しています。引き続き、安定した利益の確保と財務基盤の回復を果たすべく、安全の確保を大前提とした島根2号機の安定稼働をはじめ、電力卸・小売販売事業の収益力強化と市場リスク管理の高度化、およびグループ一体となった経営全般にわたる効率化に取り組んでいきます。
志賀 島根3号機の審査状況について教えてください。
中川 今年2月6日の審査会合において、今年度中に原子炉設置変更許可申請に係る一通りの説明を終える予定であること、島根3号機の審査の特徴として、島根2号機を含む先行例を踏襲しているため、現時点では大きな論点はないと考えていることを説明しました。今後、2号機の特重施設(特定重大事故等対処施設)および所内電源(3系統目)の審査に並行して、3号機の審査に対応していきたいと考えています。3号機の運転開始は、脱炭素化の観点でも非常に重要な課題ですし、3・11後、新設では初めて稼働することになりますので、大きなチャレンジだと考えています。
志賀 山口県上関町での中間貯蔵施設に係る立地可能性調査の進ちょくはいかがですか。
中川 島根原子力発電所を運転すれば、自ずと使用済燃料が発生します。同発電所の長期安定運転を維持するためには、再処理施設に搬出するまでの間、使用済燃料を安全に保管することが必要であり、中間貯蔵施設は、使用済燃料貯蔵対策に万全を期すための方策として有効であると考えています。また、中間貯蔵施設の設置検討は、「使用済燃料の貯蔵能力の拡大」というわが国のエネルギー政策にも合致しています。
山口県上関町での調査については、昨年11月に現地でのボーリング作業を終え、現在、ボーリングにより採取した試料を用いて各種分析を行っています。分析結果により調査に要する期間が変わるため、現時点で具体的な終了時期をお示しする状況にはありませんが、慎重に分析を進めていきます。
井関 4月1日付で社長に就任しました。どのような打診があったのでしょうか。
山碕 1月上旬に冨成義郎・前会長(現相談役)と増田信之・前社長(現会長)に呼ばれまして、「そういうことで、よろしく頼む」という話がありました。突然のことでしたし、私としては覚悟を固める時間が必要でしたので「ちょっと考えさせてもらいたい」と返答し、翌日「改めてよろしくお願いします」と承諾の意向を伝えました。
井関 東邦ガスに入社した経緯をお聞かせください。
山碕 経済学部を卒業し、技術的な素養があったわけではないので、最初からガス会社に就職しようと決めていたわけではありませんでした。「BtoB」の企業は何をしているのかあまりイメージできなかったので、金融機関やガス会社など一般消費者向けにサービスを提供している企業を中心に活動していました。最終的な決め手は、地元への愛着とこの地域の発展に貢献したいという気持ちであったと記憶していますが、その思いは今も変わりません。
井関 入社後はどのようなキャリアを歩んできましたか。
山碕 事務系の社員はまず、営業現場に配属されることが多く、私もそうでした。その後は企画、財務、営業と三つの部門に籍を置くことが多かったです。若い頃には、日本エネルギー経済研究所に出向したり、研修として10カ月ほどアメリカに滞在したりといった時期もありました。
井関 会社人生で最も印象深かった仕事や出来事はありますか。
山碕 何と言っても入社直後に営業部門に配属され、社員として初めてお客さまと接点を持った時ですね。東邦ガスという会社がどのように見られているのか肌で実感し、まっとうに仕事に取り組んでいかなければならないと決意を新たにする機会となりました。
井関 それは、公益事業者としての責任感が芽生えたということでしょうか。
山碕 それももちろんありますし、決められたことに実直に取り組むということが当社の社風であるということを実感したことが大きいですね。仕事を進める上で問題が起きたとしても、テレビドラマのような奇想天外な解決策などはありません。日々の仕事にしっかりと取り組むこと、そしてお客さまに真摯に向き合うことの重要性など、当たり前のことに地道に愚直に取り組む大切さを感じました。
井関 カーボンニュートラル(CN)やエネルギーの自由化など、事業環境は目まぐるしく変わってきましたが、安定供給の大切さが改めて認識され、都市ガス会社にとっては天然ガスの普及拡大が、引き続き重要な取り組みとなりそうです。
山碕 その通りですね。当社に与えられている社会課題といいますか、求められている期待はさまざまあります。その時その時で比重の軽重はありますが、これまでも安全・安心、安定供給性、経済性、直近ではCNへの貢献を評価されてきたのですから、今後もどれか一つに偏るのではなく、多角的な視点を持ち、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)のバランスを常に意識しながら取り組んでいかなければならないと思います。
少し前までは、水素や太陽光だけでCNを実現できるという風潮がありましたが、手掛けている側からすればそう簡単なことではありません。CNに向けた世の中の動向が読み切れず、ガスや火力発電への投資を決定しにくい時期もありました。今は国の政策、米国や欧州の情勢を見ても、一時のCN一辺倒から様相は変わってきたという印象です。とはいえ、50年を見据えていろいろ手を打っていかなければならないことに変わりありません。一足飛びにCNを目指そうとすると、S+3Eのバランスを損なうマイナスの事象が起きてしまいますので、その移行期に何にどう取り組むかの議論が引き続き重要だと考えています。
井関 まずは、2024年12月期決算のポイントと評価についてお聞かせください。
松本 24年度は、前年度と比べ大幅な減益という結果になりました。ただこれは、23年度が燃料費調整の期ずれ差益による増益効果が大きかったことの裏返しで、これを補正すると経常利益が23年度は108億円、24年度は116億円と、実質増益となります。それぞれに一過性の増益要因があったことを考慮しても、着実に成長できていると捉えています。
井関 一過性の要因とは。
松本 為替変動や市場の不安定さなどです。例えば、当社が出資している愛知県田原市のバイオマス発電事業では、原料を長期で為替予約して調達しています。ドル建てのため、近年の円安傾向により評価益を計上しました。また昨年、需給調整市場で全商品区分の取引が開始となり、当社グループも参加しています。所有する電源を活用し落札することができましたが、市場は創設されたばかりであり、継続的に落札できることを見通し難いため、これらを抜きにした実力をいかに底上げしていくかが重要です。
井関 そうした要因がなくても、経常利益は増加しています。
松本 都市ガスの大口分野の販売拡大が増益につながりました。第7次エネルギー基本計画では、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少なく、カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源と位置付けられました。産業界において、天然ガス転換へのニーズが高まっていることは追い風です。実際、当社にも、設備更新のタイミングで燃転を要望する声が多く寄せられています。
井関 今後、家庭用や卸売りの販売量はどう推移していくでしょうか。
松本 家庭用に関しては横ばい、もしくは漸減していくと予想しています。人口減少や核家族化に加えて、給湯器や住宅の断熱の性能が飛躍的に向上していることを考えると、家庭部門における販売量の微減傾向は致し方ない部分もあります。卸先への販売量も減少傾向です。都市ガス小売りの全面自由化で、大手電力会社などの新規参入が進んだことによる影響を受けており、今後もこの傾向は続くと予想しています。この点は中期経営計画にも織り込み済みです。
志賀 第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。全体的な評価を教えてください。
平岩 国際情勢の不安定化を背景にエネルギー安全保障の重要性が高まる一方で、データセンターなどに伴う電力需要増加が見込まれています。こうした国内外の情勢変化を踏まえ、カーボンニュートラル(CN)に向けた野心的目標を掲げつつも、安定供給を第一とし、現実的なトランジション(移行)の重要性を示すなど、現実的な計画であると評価しています。
志賀 2040年度のエネルギー需給見通しでは複数シナリオが提示されました。
平岩 革新的技術の不透明性を念頭にリスクケースへの備えの必要性を示したことは、安定供給の重要性を強く認識している表れでしょう。GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンとの一体性が強調された点も重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)、GXの進展による経済成長、産業競争力強化の実現とCNに向けたエネルギー政策は密接に関係します。
志賀 電源構成の点ではどうですか。
平岩 エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力発電を最大限活用することを明記し、二項対立から脱却した点と、トランジション手段としてのLNG火力の重要性を化石燃料確保の必要性と合わせて強調した点は、ベストミックスの重要性を再認識したものとして意義があると思います。
志賀 再エネの主力電源化に向けて、統合コストという概念も盛り込まれましたね。
平岩 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)発電コスト検証ワーキンググループの電源コスト試算を踏まえ、調整力確保など変動性再エネを電力システムに受け入れるために必要な統合コストの一部を、エネルギーミックスの検討において算定し評価している点は、国民負担を極力抑え、合理的な供給システムの構築を目指しているものと評価しています。
志賀 洋上風力はCN実現に向けた切り札とされていますが、開発コストの上昇などで先行きは不透明です。
平岩 物価上昇と日本近海での施工環境などから、開発コストと建設の動向を注視しています。再エネが集積する地域にデータセンターなどの需要を立地誘導することで、系統設備の稼働率を高め規模を適正化するという考えが現実的になる中で、電力広域的運営推進機関で広域連系系統のマスタープラン見直しの要否が検討されていることは、重要な動きととらえています。
志賀 エネ基ではS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の重要性が再確認されていますが、このために電力システム全体で必要なことは何ですか。
平岩 大量の変動性再エネを電力システムに受け入れ、安定運用するためには、電源や需要も含めた電力システム全体を俯瞰した合理的かつ計画的なネットワークの設備形成と運用技術、および制度設計が肝要です。