【特集2まとめ】都市ガス「新エネ」への挑戦 見えてきた低炭素化の現実解


低炭素化の現実的な解を手繰り寄せようとする、都市ガス各社の動きが加速している。


究極のCNエネルギーであるe-メタンをはじめ、CO2回収といった難易度の高い技術開発も進めている。


注目すべきは、大手事業者の取り組みにとどまらない点だ。清掃工場と連携したバイオメタンによるガス供給など地方ガス自らが主体的に動き出す事例が生まれつつある。


企業の存続すら左右しかねない低・脱炭素化の潮流に各社はどのように挑んでいるのか。最新の動向を追う。

【アウトライン】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

【インタビュー】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成

【インタビュー】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe―メタンを製造

【インタビュー】CO2分離回収技術開発に注力 LNG未利用冷熱を有効活用

【インタビュー】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

【レポート】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入

【トピックス】分離膜方式採用のシステム開発 高濃度のメタンガス精製を実現

【レポート】小型風力発電が運転開始 再エネ開発の目標達成に注力

【レポート】水素利用のすそ野拡大へ 小規模需要の「壁」に挑む

【レポート】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証

【トピックス】独自技術で水素を高精度に検知 メタネーションを安全面から支援

【トピックス】特許技術の整流器により省スペース化 水素含有率をリアルタイムで計測

【特集1】バイオエタノールの総力戦 運輸部門CNレースで勝ち残れるか


トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料とする「バイオエタノール」が、
運輸部門のカーボンニュートラルの現実解として再び脚光を浴びている。
これまで主流だったEV(電気自動車)は、全世界で普及速度が鈍化。
エネルギー密度が高く運搬性や貯蔵性に優れる液体燃料の優位性が見直される中、
合成燃料「eフュエル」の商用化は2030年代前半まで待たなければならない。
そこで、既に製造技術が確立し製造コストもeフュエルに比べ安価な
バイオエタノールに白羽の矢が当たった形だ。
とはいえ、安定調達や燃料品質、供給インフラの整備、車両対応など、
社会実装に向けてはさまざまな課題が立ちふさがる。
政府、石油業界、そして自動車業界―。
バイオエタノールの導入実現に向け、官民一体の総力戦が幕を開けた。

【アウトライン】世界からの遅れ取り戻せ 官民を挙げた導入拡大策が始動

【レポート】「第2世代」で公道を走行 福島で動き出した燃料の未来

【レポート】輸出拡大で熱量上がる米国 日本はメリット享受できるか

【レポート】「食料か燃料か」から「食料も燃料も」へ 課題を克服する技術開発に注力を

【座談会】キーパーソンが語り合う バイオ燃料の将来像

【沖縄電力 本永社長】事業環境変化を好機に 新たな価値生む企業へ変革していく


右肩上がりの経済成長が期待される沖縄県。足元の電力需要も増加傾向にあり、事業を取り巻く環境は堅調に推移している。

調達力の抜本的強化や人財戦略を進め、新たな価値を生み続ける企業への変革を目指す。

【インタビュー:本永浩之/沖縄電力社長】

もとなが・ひろゆき 1988年慶応大学経済学部卒業、沖縄電力入社。2013年取締役総務部長を経て、15年副社長就任。お客さま本部長、企画本部長を担当。19年4月から現職。

井関 7月末に、2025年度の通期業績について、5年ぶりの減収増益との見通しを公表しました。

本永 売上高は期初予想から15億円上方修正しましたが、前年度に比べ販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の影響を主な要因として、前期を下回る見込みです。前年度は、夏の暑さが影響し販売電力量が23年度比5・4%と大きく伸びました。今年は7、8月の気温が昨夏よりも低かったことから販売電力量は伸び悩みましたが、9月に入ってからは厳しい暑さが続き、一転、好調に推移しています。

今年は台風が沖縄にほとんど接近していないことも、販売電力量が好調に推移する一因となっています。入域観光客数についても、8月単体で史上最高の107万5千人が訪れたと発表されましたが、気象条件に左右されず、計画通りに旅行していただけることも大きな後押しになるでしょう。

利益面では、期初予想から売上高は伸びたものの、電力需要の増加や燃料価格の上昇により、燃料費や他社購入電力料の増加も見込まれます。こうした影響を踏まえ、今後、グループ会社を含めた業績の見極めも必要なことから、営業利益100億円、経常利益80億円の期初予想を据え置きました。そこから少しでも上乗せしたいというのが本音です。


高圧料金の規制解除 総合力で顧客獲得

井関 来年4月に高圧部門の料金規制が解除されます。どう受け止めていますか。

本永 高圧部門で規制料金が残っているのは沖縄エリアだけですが、競争状況は他エリアとそん色がなく、電源アクセスの公平性が確保されていることが認められました。22年度の燃料価格高騰の際には、規制料金に燃料費調整の上限が設定されていることで収支に大きな影響がありましたが、この仕組みは事業者の負担が大きく、規制料金が安く抑えられることで競争を歪める可能性もあるため、解除が望ましいと考えています。

県内には現在、20社強の新電力が進出しているとみられ、低圧・高圧の両部門において競争が一段と激しさを増しています。低圧部門においては、10月から有力な事業者が参入しており、これまで以上に厳しい競争環境になるものと見込んでいます。

井関 これをきっかけに、どのような戦略で攻勢をかけますか。

本永 高圧部門でも、既に自由化されている領域で積極的な営業を展開していますし、解除後に自由料金の対象となるお客さまに対しても注力していきます。当社の強みは、お客さまのニーズに合わせて、ガス供給や省エネ診断など総合的なソリューションを提案できる点にあります。さらに、CO2フリーメニューや再生可能エネルギー由来のPPA(電力購入契約)を提案するなど、環境価値の提供にも対応しています。今後も、多様化するニーズに合わせた最適な選択肢を提供していきます。

井関 沖縄は再エネの適地が限られているように思いますが、どのように再エネ電源を拡大していきますか。

本永 沖縄にはメガソーラーを設置できる広大な土地はありません。そのため当社の戦略は、事業所や学校、公共施設などの屋根を活用し太陽光パネルを敷設するというものです。家庭向けを含め、お客さまの屋根に太陽光パネルを設置し、蓄電池と組み合わせる事業「かりーるーふ」を展開しています。

学校への設置は、環境教育に役立つだけでなく、災害時の拠点として非常用電源を確保する効果もあります。実際に、小中学校で導入が進んでおり、今後も高校などで取り組みを強化していきます。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】グループ各社が自律し、価値観を共有しながら健全な成長を目指す


前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成。今年度、新たなグループ中計「ACT2027」をスタートさせた。

本業のガスエネルギー事業にやや回帰しつつ、不動産や電力事業も強化し収益力の向上を目指す。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

井関 前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成しました。

加藤 その瞬間は非常に達成感を覚えました。ですが、直後から新たなグループ中計「ACT2027」が始動し、フルパワーで取り組んでいますので、余韻に浸る時間はそれほど長くありませんでした。

井関 社長就任から1年超。どう振り返りますか。

加藤 6月の株主総会でも、株主のお一人から「社長就任からの1年を総括してもらいたい」との質問をいただきました。想定問答にはなかったので驚きましたが、前年の株主総会で別の株主の方から「事業の裾野が広がっているのは分かるが、本業であるガスエネルギー事業強化に本腰を入れるべきではないか」と叱咤激励いただいたことを思い出し、それを踏まえてこの1年間の総括を述べました。

前年度の株主総会では、都市ガス、LPガスのみならず電力事業の強化を図り、総合エネルギー事業への回帰を進めていくこと、そして、芽が出てきた不動産事業との両輪で、収益をけん引していくことを宣言しました。それらを実現するべく、ガス事業ではひびきLNG基地における3号タンクの増設に着手。巨額の投資を伴いますので、最終投資決定の前からJERAと協議を重ねていました。

エス トラストのオーヴィジョン井尻。不動産事業は着実に安定収入に貢献

電力事業では、再生可能エネルギーの開発に加えてひびき発電所(LNG火力、62万kW)が今年度中に運転開始を予定しています。これに合わせて、小売販売・卸販売を強化する体制を構築し、営業活動を活発化させています。不動産事業は、山口県下関市に本社を置くグループ会社のエス トラストが、北部九州を中心とした分譲マンション開発を展開し、非常に順調に推移しています。西部ガス都市開発が手掛ける賃貸事業も、順調にストックを積み上げ安定収入の確保につながっています。

また、社内コミュニケーションの充実を図るため、経営層と従業員層との距離を縮めて、風通しの良いグループ風土づくりのための施策も打ち出しているということも、この1年の振り返りとしてご説明しました。


不動産事業が好調 九州経済は手堅く成長

井関 第1四半期決算は増収増益で、最終利益は前年同期比86%増と過去最高を記録しました。

加藤 不動産や電力・その他エネルギー事業の好調に加え、ひびきLNG基地の減価償却費の減少が、増益の主な要因です。 非需要期の決算とはいえ、23年度以来2期ぶりに全てのセグメントが利益に貢献するなど、「ACT2027」の達成に向けバランスの取れた良いスタートを切れたと思います。

井関 九州経済の好調も、業績を押し上げることになりそうですね。

加藤 はい。この夏を見ても、記録的な猛暑によって家庭用のガス需要は減っていますが、業務用のガスヒートポンプエアコン(GHP)の需要が堅調に伸びています。工場の新規の立地計画や撤退など、プラスマイナスの影響はさまざまありますが、福岡市天神エリアにおける都市再開発誘導事業「天神ビッグバン」で街が一層活気づいてますし、TSMCの工場誘致に伴い関連産業も周辺に進出してきているので、九州経済の手堅い成長と共にエネルギー分野はまだまだ浮上すると見ています。

【特集2まとめ】脚光浴びるHPの蓄熱力 再エネ支える需給調整の新運用


今年、累積出荷台数が1000万台を突破したエコキュート。
家庭用ヒートポンプとして給湯市場を席巻して四半世紀が経過した。


深夜の割安な電気を使って貯湯し翌日のお風呂需要を担っていたが、
再エネの大量普及時代を迎え、そんな単調な運用は変わりつつある。


余剰再エネの有効利用やデマンドレスポンスを見据えた運用など
その蓄熱力を柔軟に活用した新たな役割が期待されている。


ガスとヒートポンプを組み合わせたハイブリッド給湯と共に、
変わりゆく家庭用給湯の展望を探った。

【アウトライン】家庭用給湯が四半世紀で一変 低・脱炭素化担うアイテムへ

【インタビュー】潜在的な需給調整力に期待 DR価値向上の仕組みが重要

【レポート】次なる普及策へ業界の挑戦 利用者のDR参加をどう促すか

【トピックス】太陽光連動型給湯機の普及拡大へ お得な料金プランで自家消費を促進

【インタビュー】DRreadyの本格普及へ 自立型の事業モデル確立を

【レポート】欧州のヒートポンプ事情を考察 英国視察から見えた普及策

【レポート】本格普及を見据え増産対応 ハイブリッド市場を主導

【レポート】業界最小クラスのコンパクトモデル 時短施工、軽商用車に搭載可能

【トピックス】オール電化マンションを強みに攻勢 CO2フリー化とエコキュート制御など提供

【九州電力 西山代表取締役社長執行役員】安定・低廉な電気で九州の魅力を高め 地域経済と共に発展する


さまざまな社会変化を背景に電力事業が転換点を迎える中、6月26日に九州電力社長に就任した。

再エネ、原子力による脱炭素化された低廉な電力で地域経済の発展に貢献するとともに、人材戦略を強化することで企業としての魅力を高める。

【インタビュー:西山 勝/九州電力代表取締役社長執行役員】

にしやま・まさる 1986年東京大学経済学部卒、九州電力入社。22年常務執行役員コーポレート戦略部門長、23年取締役常務執行役員エネルギーサービス事業統括本部長などを経て25年6月から現職。

井関 6月に社長に就任されました。これまでをどう振り返りますか。

西山 2000~03年に当時の鎌田迪貞社長の秘書を務め、社長としての振る舞いを見て大変な仕事だなという印象を持っていました。私自身が実際に就任してみて、やはり責任の重さを実感しています。スケジュール上の忙しさもありますが、さまざまな経営判断を最終的には自ら下さなければならない、そこに社員の生活がかかっているということの責任の大きさ、重さを日々感じながら、仕事に向き合っています。

井関 九州電力に入社して以降、最も印象に残っていることは何でしょうか。

西山 最初の赴任地である熊本でのことですが、当時は社員が各家庭を回って未収金を回収していたんですね。私も1カ月に400~500軒を回っていて、その中には、経済的な理由でどうしても払えないご家庭もありました。電気が止まれば生活が成り立ちません。そうした皆さんが、できるだけ安心して電気を使っていただけるようにしていかなければならないと強く感じたことが、私の原体験です。

もちろん、事業はサステナブブルでなければならず、収益を上げて社員や株主、地域の皆さまに還元していかなければなりません。九州エリアは、半導体工場の集積やデータセンターの建設などにより、今後、電力需要の増加が見込まれています。こうした動きは、当社が原子力の安全・安定運転、再生可能エネルギーの積極的な開発・導入などにより、業界トップレベルの非化石電源比率を誇っていることに加え、全国的に見て低廉な料金水準であることなどから、企業にとって九州での立地が魅力的であるためと考えています。  

これからも、電力の安定供給を堅持するとともに、環境価値の高い電気といった九州の強みを生かして企業の立地を促し、地域経済が潤いながら当社も利益を上げる―そのような循環を創り上げていきたいと考えています。

5月に公表した「九電グループ経営ビジョン2035」

【特集2まとめ】LPガス業界の転機と商機 事業激変時代を生き抜く戦略


経済産業省は昨年7月、液化石油ガス法の改正省令を全面施行した。
三部料金制の徹定や工務店などへの利益供与の禁止など

LPガス業界で長年続いてきた悪しき商慣行にメスを入れたのだ。
この省令改正は、事業者に大きなインパクトをもたらした。
業界を挙げて対策に取り組んでおり、まさに一大転機を迎えている。

一方で、このタイミングを見計らって事業拡大を狙う事業者もある。
LPガス激変時代をどう生き抜いていくのか。その戦略に迫った。

【アウトライン】消費者に選ばれるエネルギーへ 省令改正への対応を推進

【インタビュー】料金の透明化へ行動指針策定 不動産業界にも対応要請

【座談会】独自の販売戦略で難局を乗り切る 地域密着で顧客満足を追求

【レポート】燃料油からの燃料転換に注力 販売特約店との連携深める

【レポート】特約店の支援体制を強化 幅広いサービスで差別化狙う

【レポート】災害に強いハイブリッド発電機 日本のレジリエンス向上目指す

【レポート】災害時も空調の稼働を継続 熱中症対策と避難所機能を両立

【インタビュー】ブローカー対策に手応え 消費者への注意喚起に注力

【トピックス】Jークレジット制度を活用 パビリオンのCO2排出量を実質ゼロに

【トピックス】双方向通信端末の導入進む 社内外でDX化の推進に寄与

【トピックス】ボンベの運搬をスムーズに 現場ニーズに応えた電動台車を発売

【特集1まとめ】2050電力大不足の虚実 需給シナリオの問題点と対処法


2050年に日本の電力供給力が最大8900万kW不足する―。
電力広域的運営推進機関が7月に公表した需給シナリオが波紋を広げている。
AI・デジタル化の進展などに伴う電力需要の増大が背景にあるわけだが、
もしこの予測が実現すれば、事態は想像以上に深刻になるのは間違いない。
電力制約によって将来の経済成長が抑え込まれ、国力を損なうことになるからだ。
その一方で、業界内外には大消費時代到来への懐疑的な見方も少なくない。
シナリオを巡る多様な関係者の本音を取材し、その問題点と対処法を探った。

【アウトライン】電力需要急増シナリオへの期待と不安 エネルギー政策の現実路線回帰なるか

【レポート】業界関係者はシナリオをどう読んだか 発・送・販各部門からの注文

【レポート】脱炭素対応でLNG火力新設の動き 鉄鋼業界で電力原単位が増大へ

【覆面座談会】リアリティなき将来予測 具体的な投資判断に二の足 国が責任を持って制度設計を

【電源開発 菅野社長】トリレンマを直視し自社の最適解を探り 求められる役割発揮へ


カーボンニュートラルに向けさまざまな要請が突き付けられる中、火力のトランジションでは現実的な手法に狙いを定め、洋上風力への否定的見解は一蹴し真の価値を訴求する構えだ。

そして大間では一日でも早く地元の期待に応えることを目指す。求められる役割を見据え、自社や顧客にとっての最適解を追求する。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

井関 今年は酷暑の割に予備率には比較的余裕がある印象です。火力の運用面はどうでしょうか。

菅野 昨年同時期に比べて火力の稼働率が相当上がっています。スポット市場はどのエリアもゼロ円のコマが減り、それだけ火力電源が動いており、逆に言えば当社を含む発電事業者がマーケットを見ながら適切に運用しているといえます。

全体の需要が底上げされており、昨年1年間で2%弱増えました。特に今年は6月から暑い日が多く、早い時期から需要が増加しています。需要が大きく予備率が厳しい時期に計画外停止が起こらないよう、火力の定期検査を端境期に偏らせないなど、どの事業者も工夫しているはずです。石炭火力も日常的にフルの出力から最低負荷まで変動させる運用が増えており、ボイラーの金属の熱収縮による影響を予見し、集中的にどこをチェックするべきなのか、精度を高めていかなければなりません。

それでもトラブルは起こり得るので、いざという時はなるべく早く戦列に復帰させることが必須となります。

井関 第1四半期(4~6月)は減収増益でした。

菅野 3月末に松島火力が全て停止し、また今年度は容量市場の単価が大幅に下がるなど、減収要因がいくつかあります。それに対し、再生可能エネルギーでは水力や風力の発電量が増え、火力ではLNGと石炭の価格差が保たれた状況にあるなどの増収要因である程度回復しました。加えて北米ガス火力権益の売却益を計上したことにより、想定をやや上回ったと捉えています。


3E全て達成は至難の業 事業者ごとに判断へ

井関 第7次エネルギー基本計画を踏まえ、分野ごとに具体的な政策の検討が進んでいます。特に注目している点は?

菅野 電力需要の伸びのスピード感が重要です。実際今年度にかけて少し伸び、そしてデータセンター(DC)の需要はこれからが本番との見方があります。他方、政府が掲げるS+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)を三つとも満たすことは相当に難しいです。個々の事業者としては何を優先するのか、ある程度腹をくくる必要があると思います。事業者としての最適解は何か、判断を迫られ、具体的な行動となって現れる日が近いのではないでしょうか。

井関 ワット・ビット連携(電力系統と通信基盤の一体整備)の議論が進む中、日立製作所と社会インフラ事業者向けのAI用DCを共同検討しています。

菅野 印西市(千葉県)や京阪奈(京都府)などの系統接続容量は上限に近づきつつあり、電力供給と通信のインフラが整っている別の地方へのDC設置を目指すという議論が浮上していますね。DCの中でも即応性が求められるものや、AIの学習用などの役割分担があり、あるいは公共インフラではより高度なセキュリティーが求められています。われわれは、学習用かつ公共インフラに近いDCは地方設置が可能だと考え、ビジネスチャンスを狙っています。

当社には電源や通信インフラなどの情報はありますが、AI・需要に関する知見は少なく、具体的なDCのニーズを把握する上でパートナーが必要でした。今回、日本発で最も世界的なプレーヤーである日立製作所との連携に至りました。

井関 そこでも火力は重要な役割を果たすのでしょうか。

菅野 GAFAMなどのビックテックはCO2フリー電力で全て賄うと標榜しています。現実的には火力電源も非化石証書でオフセットし使う場面が出てくるでしょうが、当社としては水力や風力などのカーボンニュートラル(CN)な電気で供給するよう努力します。

【特集2まとめ】今こそガス燃転を考える 再浮上する低炭素の現実解


低炭素化を図る現実的な手段として天然ガス転換が再び注目を集めている。

国内の工場や事業所では石油や石炭などCO2排出量の多い燃料から、

どのように切り替えていくべきかを検討するタイミングが訪れている。

再エネと電気設備を組み合わせ、一足飛びに脱炭素化を目指す動きもあるが、

設備コストや導入条件など、さまざまな面で課題が山積する。

こうした中、現実的な方策となるのがガス体エネルギーによる低炭素化だ。

事業者やメーカーはどのように取り組んでいるのか、最前線に迫る。

【アウトライン】ガス体エネルギーの優位性発揮 CO2大幅削減へ各社が注力

【レポート】燃料転換と高効率利用を推進 天然ガスで効果的な温暖化対策

【インタビュー】新たな需要創出に期待感 ニーズに応じ政策検討

【レポート】技術的な知見伝承を重要視 小規模ユーザーへの提案も積極化

【レポート】現場力生かす方針にシフト 全体最適化で燃転を後押し

【レポート】サテライトでLNG供給 重油比でCO2を3割削減へ

【トピックス】高効率ボイラーと複数台制御が強み IT応用でエネ設備や工場全体を管理

【トピックス】燃焼ガスの潜熱を回収して活用 業界最高のボイラー効率103%を実現

【トピックス】燃料品質で燃焼具合が代わるバイオマスボイラー 独自設計で連続運転や高効率運転を可能に

【レポート】船舶へのLNG供給体制を整備 脱炭素化への国内モデル確立へ

【レポート】鍵握るバーナーの燃焼技術 供給拠点整備でガス・ガス転換

【特集1まとめ】戦争とエネルギー 揺らぐ秩序と迫る危機


かつて昭和時代の日本が石油供給途絶を契機に太平洋戦争に突入したように、
エネルギー・資源問題は国家安全保障と密接な関係にある。
戦後日本はさまざまな模索をしながら国の生命線を握るエネルギーを獲得してきた。
ところがここ数年、エネルギーを巡る国際秩序の崩壊が現実化しつつあり
「エネルギー・資源を持たざる日本」に新たな課題を突き付けようとしている。
国際・エネルギー情勢に詳しい専門家の意見を踏まえながら
ロシア・ウクライナ、そしてイスラエル・イラン両戦争とエネルギー問題を読み解き、
日本の安全保障を脅かす危機が差し迫っている実情を浮き彫りにする。

【アウトライン&座談会】有事リスク回避へ打ち手はあるか 風雲急告げるエネルギー防衛

【レポート】これからのエネ安保に必要な視点は 今振り返る戦後有事の教訓

【インタビュー】エネルギー輸入途絶を防ぐには 台湾有事阻止へ問われる覚悟

【レポート】「12日間戦争」幕引きも残る火種 衝突激化のリスク内包したままに

【コラム】米国はなぜイラン核施設を攻撃したのか トランプ大統領の深謀遠慮を読み解く

【JERA 奥田社長CEO兼COO】時代の変化に合わせ新たなモデルを模索し 地方創生にも本腰


脱炭素への現実的な歩みを着々と進めつつ、急拡大するDX需要に応えるべく、新たな供給モデルを提案する。

GXによる地方創生にも本腰を入れ、エネルギー事業者という殻を破りつつある。

【インタビュー:奥田久栄/JERA社長CEO兼COO】

おくだ・ひさひで 1988年早稲田大学政治経済学部卒、中部電力入社。グループ経営戦略本部アライアンス推進室長、JERA常務執行役員、取締役副社長執行役員などを経て2023年4月から代表取締役社長CEO兼COO。

井関 6月下旬の会見で、地方創生・ 産業高付加価値化と一体となるGX(グリーントランスフォーメーション)開発に向けた新たな試みを発表しました。まさに産業政策とエネルギー政策は絡め合いながら考えるべき問題であり、注目しています。

奥田 例えば英国は製造業主体から、金融とデジタル主軸のモデルに脱皮し、エネルギーは原子力と再生可能エネルギー、天然ガスで賄い、電気料金が上がってもこの産業構造で世界と伍していく戦略です。われわれも相応のコストがかかる脱炭素を現実的に進めていくには、環境価値の高いエネルギーを使っても競争力が落ちないような産業・社会構造の変革が必須です。そして、GXは地域の関係者との連携なしには成し遂げられないと思います。

井関 洋上風力や水素・アンモニアの拠点で地域の産業振興を図る方針ですが、具体案は?

奥田 地方創生や工業地帯の再開発とセットで、各地域のニーズをくんだGXで地方も潤う流れを定着させたい。既に、各地には付加価値の高い製品が存在します。一から新しいモノを作るのではなく、既存のモノを適切な価値で売れる仕組みづくりが有効ではないか、という仮説に基づき、今後ショーケースを順次お見せする予定です。

例えば当社の洋上風力開発拠点である秋田県は魅力的な食の宝庫ですが、国内ではその利益が地元へ十分に還元されていません。日本で売られている日本酒が、欧州などでは数十倍で売られていることがあり、その差額は欧州側の利益となります。マーケティングやブランドストーリーの工夫によって、利益が日本の生産者に還元される仕組みを作り上げることが必要です。その点、ピュアな地産地消のクリーンエネルギーである洋上風力を使って製造し、付加価値をさらに高めれば良い循環が生じるのではないか。また、人手不足の問題には最新のデジタル技術による支援も考えています。

井関 地方創生を重視する現政権の方針にも合致しますね。 奥田 地方で開発した再エネの電気を全て東京に持ってくるという昭和のモデルのままでは、地方で持続的な雇用が生まれません。これでは地方での再エネ開発は行き詰まるでしょう。


着々と火力リプレース 袖ケ浦はアセス準備中

井関 それにしても今年は6月から連日の猛暑続きで、需給への影響が懸念されます。元々、端境期は定期点検中の火力が多いですが、足元の運用ではどんな工夫を行っていますか。

奥田 ここ数年、夏の需要ピークが早まる傾向にあり、冬もピークが早まる、あるいは長期化しています。定検の時期をなるべく前倒し夏冬フル稼働できるよう工夫していますが、それでも需給が厳しくなる場面があります。一方で再エネが大量に普及し、出力変動に応じて日常的に火力の起動停止を行っており、それに伴って故障が増え、計画外停止につながっています。古い設備はどうしても金属疲労が起きやすく、リプレースを着実に進めることがやはり重要です。JERA設立以降、リプレースを経て営業運転に至った設備は700万kW以上、計画中も含めると1000万kW以上です。多くが計画より前倒しで運開し、需給ひっ迫の際には試運転の設備も含めて供給力としてできる限り提供してきました。

リプレースが完了した五井火力

井関 再エネの拡大により、火力の運用は様変わりしましたね。

奥田 五井や姉崎はコンバインドサイクル発電ですが、ガスタービン単体のシンプルサイクル運転も可能で、実はこれがミソ。太陽光の出力変動に合わせる上で、スチームタービンも動かすと迅速性に関しては劣ります。供給力としての役割はもちろん、しわ取りとしてのガス火力の機能をフルに発揮できるよう、時代に合った火力発電所に変えていくことを意識しています。

井関 デジタル技術の活用にも力を入れていますね。

奥田 起動停止が頻発する中、機器の傷み度合いを正確に把握することが重要です。「予兆管理」と呼んでおり、AIで予兆を見つけ、早めに部品を交換することで計画外停止を防いでいます。こうしたDPP(デジタルパワープラント)化は、姉崎など最新鋭設備から導入し、徐々に拡大しています。

井関 6月中旬には袖ケ浦のリプレースに向け環境アセスメントの準備を開始。2032年度以降の運開を目指しています。

奥田 運転開始から50年たち計画外停止の蓋然性が高まる中、現役で稼働する2~4号機の計300万kWを260万kWの最新鋭に入れ替えました。引き続き安定供給に貢献していきます。

井関 近隣では東京ガスの袖ケ浦火力の新設も進行中ですが、今後両者が連携する可能性は?

奥田 今はまだそこまで考えていません。アセスの準備を始めたばかりで、その結果を踏まえてから、さまざまな可能性を考えることになるかと思います。

【特集2まとめ】分散型システムの再登板 脱炭素・BCP対策の新たな基盤へ


分散型システムは再生可能エネルギーの有効利用、レジリエンス対策、地域活性化、

コージェネによる熱の有効利用―など、さまざまな利点から導入が始まった。

特に最近は、マイクログリッドや地域熱供給で力を発揮する導入事例が増えている。

一方、AIの普及によるデータ量の急増を背景に、データセンターの建設が進み、

電力の大量消費が始まる。データセンターは電気をつくる電源設置に加え、

送り届ける送電網や変電所の整備・増強が欠かせない。

この工事を簡略化するため、発電所内にデータセンターを直接建設したり、

データセンター近傍にコージェネを設置したりといった動きも出てきた。

AIの進化が分散型エネルギーの用途を生み出し、「再登板」の時が到来している。

【アウトライン】課題解決の切り札として脚光 分散型システムの用途が拡大

【レポート】構築進むマイクログリッド CO2削減と災害対策強化に寄与

【レポート】太陽光発電の自己託送を展開 再エネ電源の開発拡大に注力

【レポート】ガスエンジン使い風力を安定電源に 系統運用に貢献する新たなモデルへ

【レポート】初期投資ゼロで大型設備群を構成 高度医療機関への安定供給支える

【レポート】国際線ターミナルにコージェネ 空港の脱炭素化に貢献

【レポート】地産地消エネを最大限に活用 官民の役割分担で事業性確保

【インタビュー】過疎地の配電網維持に課題 マイクログリッドの好例必要

【レポート】万博で海水と帯水層を熱利用 地の利生かした冷房システム

【インタビュー】環境価値でCO2削減に成果 都内地下鉄駅でCN化を達成

【トピックス】デジタル技術で低圧DERを制御 消費最適化へソリューション展開

【トピックス】再エネ活用の切り札「EBLOX」 設備の三位一体運用で安定供給

【トピックス】テスラ製蓄電池を無償で設置 電気代低減とレジリエンス向上図る