国民の福祉の増進―。この理念の下、1955年5月に前身の「電力新報」が創刊した。
高度成長、公害問題、オイルショック、自由化、東日本大震災、脱炭素化と、戦後から現在までエネルギー産業を巡る課題は大きく変わってきた。
今号は創刊70年を迎えるに当たりエネルギーフォーラムの足跡を振り返ると同時に、
山地憲治・RITE理事長によるエネルギー政策の変遷と将来像についての寄稿、エネルギー業界6団体からのメッセージを掲載する特別編とした。

志賀 第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。全体的な評価を教えてください。
平岩 国際情勢の不安定化を背景にエネルギー安全保障の重要性が高まる一方で、データセンターなどに伴う電力需要増加が見込まれています。こうした国内外の情勢変化を踏まえ、カーボンニュートラル(CN)に向けた野心的目標を掲げつつも、安定供給を第一とし、現実的なトランジション(移行)の重要性を示すなど、現実的な計画であると評価しています。
志賀 2040年度のエネルギー需給見通しでは複数シナリオが提示されました。
平岩 革新的技術の不透明性を念頭にリスクケースへの備えの必要性を示したことは、安定供給の重要性を強く認識している表れでしょう。GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンとの一体性が強調された点も重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)、GXの進展による経済成長、産業競争力強化の実現とCNに向けたエネルギー政策は密接に関係します。
志賀 電源構成の点ではどうですか。
平岩 エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力発電を最大限活用することを明記し、二項対立から脱却した点と、トランジション手段としてのLNG火力の重要性を化石燃料確保の必要性と合わせて強調した点は、ベストミックスの重要性を再認識したものとして意義があると思います。
志賀 再エネの主力電源化に向けて、統合コストという概念も盛り込まれましたね。
平岩 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)発電コスト検証ワーキンググループの電源コスト試算を踏まえ、調整力確保など変動性再エネを電力システムに受け入れるために必要な統合コストの一部を、エネルギーミックスの検討において算定し評価している点は、国民負担を極力抑え、合理的な供給システムの構築を目指しているものと評価しています。
志賀 洋上風力はCN実現に向けた切り札とされていますが、開発コストの上昇などで先行きは不透明です。
平岩 物価上昇と日本近海での施工環境などから、開発コストと建設の動向を注視しています。再エネが集積する地域にデータセンターなどの需要を立地誘導することで、系統設備の稼働率を高め規模を適正化するという考えが現実的になる中で、電力広域的運営推進機関で広域連系系統のマスタープラン見直しの要否が検討されていることは、重要な動きととらえています。
志賀 エネ基ではS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の重要性が再確認されていますが、このために電力システム全体で必要なことは何ですか。
平岩 大量の変動性再エネを電力システムに受け入れ、安定運用するためには、電源や需要も含めた電力システム全体を俯瞰した合理的かつ計画的なネットワークの設備形成と運用技術、および制度設計が肝要です。
井関 1月31日の2024年度第3四半期決算説明会で、現中期経営計画後の経営の方向性を示す「持続的な企業価値向上に向けて」を発表しました。
笹山 当社は、企業価値の向上には資本効率を高めることが重要であることを踏まえ、投資家の意見に耳を傾けながらどのような施策を執るべきか社内で協議を重ねてきました。その上で、第一弾として昨年10月、自社株取得のほか資本政策を意識した企業価値向上策に取り組む方針を示しました。1月の発表はその第二弾となります。来年度には、現行中計の最終年度を迎えます。これらは、中計で掲げた施策を遂行するための重要なマイルストーンであり、今後の施策を具体化する指針です。
井関 資本政策では、累進配当の方針を打ち出しました。
笹山 従来から実質的には累進配当を導入しており、安定配当と緩やかな増配を掲げていました。ただ、その意図がなかなか理解されづらい点があったため、明確に累進配当の方針を示したものです。総還元性向については、かつての6割から4割程度をベースとしてきましたが、投資家に分かりやすいメッセージを伝えることが重要であると考え、4割還元をベースに、必要に応じて追加的な対策を講じることとしました。
井関 23年度の連結自己資本比率は43・6%と、財務体質は堅調ですね。25年度の目標として据えた、ROE(自己資本比率)8%、累積営業キャッシュフロー(CF)1・1兆円、成長投資6500億円に対する進ちょくはいかがですか。
笹山 いずれも順調で、それらの目標を達成できる見込みです。累積営業CFを含め、収益を確保しつつ成長投資に注力していきたいと考えています。
また、経営資源を生み出すために、低収益または戦略不適合の資産および事業については、売却ないしは、新たなスキームを考えるなどしてきましたし、それはこれからも変わりません。今後も、中計で示した収益性、成長性、安定性の視点を持った事業ポートフォリオマネジメントを目指していきます。
井関 第3四半期決算では、連結経常利益が前年同期比59・8%減の685億円となり、通期見通しも従来予想の1060億円から1030億円に下方修正しました。この要因についてお聞かせください。
笹山 円安を含めた期ずれ差益の影響や一部減損があったこと、さらには暖冬で家庭分野のガス販売量が減少したことが要因です。業界の構造上やむを得ないことではありますが、天候や為替に左右されない、ガス・電力に次ぐ第三の柱としてのソリューション事業も伸ばしていきたいと考えています。
井関 そうしたソリューションの一つに「IGNITURE(イグニチャー)」の展開があるわけですね。
笹山 対一般消費者(BtoC)や対企業(BtoB)に加え、自治体など対行政(BtoG)の三分野で、社員一丸で事業の拡大に挑んでいます。BtoC分野では、これまでさまざまなサービスを展開してきましたが、今後はガス器具や高効率ガスシステムといったエネルギー関連設備の導入に一層注力していく方針です。従来の販売方法にとらわれず、ウェブサイトなどを活用した拡販を進めていきます。
また、蓄電池や太陽光発電システムなどの商材の販売についても、東京都の補助金を追い風に積極的に取り組んでいきます。近年は施工の担い手不足が課題となってきました。このため、場合によっては施工会社のM&A(企業の合併・買収)を視野に入れ、着実な対応し成果につなげます。
BtoB分野では、当社が保有する土地や再開発エリアの多くにスマートエネルギーネットワークを導入しており、これにより業務効率化、脱炭素、レジリエンス向上を実現しています。デジタル技術を活用した最適化は、不動産価値の向上に寄与します。この分野でも蓄電池や太陽光発電といった商材の拡充を図るとともに、イグニチャーと連携可能な商材を開発、投入することで収益率の向上を図っていきます。
さらに、脱炭素分野ではCO2の見える化などで支援するESG(環境・社会・ガバナンス)経営サービス「サステナブルスター」を展開しています。特に不動産業界での導入事例が多いのですが、他の業界にも広がりつつあり好調です。
井関 小売全面自由化で、供給エリアに多くの競合が参入していますが、これについてはどうお考えですか。
笹山 競合他社とは、ガス単体でも競争していますが、当社としては、ソリューションを含めたトータルの提案力で競争力を高めていく方針です。
志賀 さまざまな議論を経て2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画を見ると、原子力についての評価が大きく変わりました。多くの関係者からほぼ満点の内容ではないかといった受け止めが出ているようです。まずは率直な評価をお聞きしたい。
村松 第7次エネルギー基本計画では、原子力事業者にとってありがたい内容が示されました。一つは、「原子力への依存度を可能な限り低減する」という一文が消え、積極的に活用する方針へ明確に転換されたことです。二つ目は次世代原子炉へのリプレースの定義が、「廃炉を決定した原発の敷地内」から「廃炉を決定した事業者のサイト内」へと修正されました。この意義は大きい。
当社は既に敦賀発電所1号機と東海発電所の廃止措置を進めており、敦賀3・4号機の計画そのものが今回のエネ基に沿った内容といえます。
志賀 具体的に展開していく上ではどんな課題がありますか。
村松 最大のポイントは、革新軽水炉をどういう性能にするのか、ということです。この内容について、原子力規制委員会とATENA(原子力エネルギー協議会)主導の民間で検討を進めています。敦賀3・4号機はAPWR(改良型加圧水型軽水炉)の計画ですが、山中伸介委員長からは、「今のままで新規制基準に適合する内容というだけでは革新軽水炉としては不十分で、それ以上の性能を組み込むように」といった考えが示されています。
現在、議論のベースとなっているのは三菱重工業が提案する「SRZ―1200」で、従前のAPWRとの大きな違いとして、福島第一の事故を踏まえてデブリ(溶融燃料)を原子炉格納容器内で保持・冷却するコアキャッチャーを装備することがあります。こうした要求性能を踏まえる必要があり、まず一連の議論を見極めていきます。
志賀 現時点で明言は難しいでしょうが、コストはどの程度の水準になりそうでしょうか。
村松 まだ分かりませんが、欧州で建設中のEPR(欧州加圧水型炉)、あるいは米国のAP1000などは1兆円規模となっています。厳しい基準に耐える仕様となれば、コストが高くなるのはやむを得ません。
志賀 経営的なリスク、特に資金調達や推進体制の在り方などが課題になるかと思いますが、具体的な議論はこれからです。どんな方向性を期待しますか。
村松 既に、投資回収のリスクを低減する仕組みとして長期脱炭素電源オークションがあります。ただ、いざリプレースをしていく段階での支援措置としては、これだけでは不十分です。政府はエネ基で示した方針の実現に向け、GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンで示されたように、大胆な設備投資などの実践に向けた事業環境整備を進めていくものと思います。
例えば、英国のCfD(差額決済契約)が参考になるのではないでしょうか。建設審査と実際の建設の期間が長期化する中でリスクが拡大することを踏まえ、投資の予見性を確保する仕組みです。今後日本でどのような制度が検討されていくのか、注目していきます。2030年あるいは50年のビジョンに向けた措置となりますが、時間はそれほどありません。早急に議論を進め、来年の通常国会あたりで必要な法整備などが行われることを期待しています。
「エネルギーフォーラム賞」は、株式会社エネルギーフォーラムが1980年5月、エネルギー論壇の向上に資するため創立25周年の記念事業として創設いたしました。同賞は年間に刊行された邦人によるエネルギー・環境問題に関する著書を関係各界の有識者らによるアンケートによる結果を参考にして、選考委員会が選定し顕彰するものです。
各賞および選考委員は以下のとおりです。
<各賞>
エネルギーフォーラム賞(大賞):大変優れていると評価された著作への賞、賞金30万円
優秀賞:優れていると評価された著作への賞、賞金20万円
普及啓発賞:広く啓蒙に秀でた著作への賞、賞金10万円
特別賞:上記3賞に該当しないが評価された著作への賞、賞金10万円
<エネルギーフォーラム賞選考委員(50音順、敬称略)>
大橋 弘(東京大学副学長)
神津 カンナ(作家、エッセイスト)
田中 伸男(タナカグローバル株式会社CEO)
十市 勉(日本エネルギー経済研究所客員研究員)
山地 憲治(地球環境産業技術研究機構理事長)
志賀 2024年元日の「令和6年能登半島地震」発生から1年が経ちました。復旧作業を記録した映像「電気を送り続けるために」を視聴しましたが、復旧の最前線で皆さんがどのような思いでおられたのか、よく伝わってくるものでした。
松田 北陸電力グループの社員と協力会社、他電力から応援に駆けつけてくれた皆さんが、過酷な災害現場でどのように活動したのか、今、見ていただくだけではなく後世に残したいという思いで作成した記録映像です。時を経て、震災後に入ってくる社員が増え、この災害を経験した社員が少なくなれば記憶は薄れていきます。新入社員教育のカリキュラムに取り入れるなど、組織としてしっかりと、この経験を伝えていきたいと考えています。
志賀 YouTubeで社外の方も視聴できます。インターネット時代にふさわしい、良い取り組みですね。現場の過酷さは相当なものだったのではないでしょうか。 松田 これまで北陸地方は、比較的自然災害が少ない地域と言われていました。われわれが全国の災害現場に駆け付けることはありましたが、誰もが身をもって経験したことのない「未曾有の災害」で24年が始まりました。平常時と違う状況の中で、電気は人びとの生活や産業を支える大事な役割を担うだけでなく、明かりが灯ることで震災からの不安を和らげる意味もあります。ただでさえ極寒の季節である上に、現場は寝るところもトイレもない困難な作業環境でしたが、北陸電力グループが一丸となってこの大きな試練を乗り越え、安全を確保しつつ一刻も早く電気をお届けするという強い覚悟を元日早々に決めました。
志賀 さらに同年9月には、豪雨災害も奥能登を襲いました。復旧状況はいかがでしょうか。
松田 復旧は「こころをひとつに能登」のスローガンの下、グループ一丸となって対応してきました。地震で延べ約7万戸の停電が発生しましたが、停電復旧はまず自治体の災害復旧拠点や病院、福祉施設、避難所などを優先し、全体としては1カ月で概ね電気をお届けすることが出来ました。その後、追い打ちをかけるように9月に豪雨災害が発生しました。これにより、能登地域を中心に延べ約1万1000戸の停電が発生。作業は洪水や浸水による泥との戦いとなりました。地震により約3000本、豪雨によりさらに約300本の計約3300本の電柱に被害が発生しました。これまでに、約1000本の対応を終えていますが、今後は、残された2300本ほどの電柱の本格復旧に取り組むことになります。道路状況などに併せて復旧を進める必要があり、長丁場になることが予想されます。自治体や関係機関と連携しながら、着実に本格復旧を進めていきます。
災害で多くの苦労もありましたが、多くの知見を得ることもできました。「電気が復旧して良かった」で終わるわけにはいきません。現在、災害対応をハード面だけではなく、後方支援や関係機関との連携などソフト面も整備して災害対応力の強化を図っています。また、この知見を全国に共有していくことも当社の使命です。
志賀 震災から2度目の冬を迎えました。供給力の面で懸念はありますか。
松田 地震で被災した七尾大田火力発電所(石川県七尾市)は、 石炭払出機の倒壊や、広範囲にわたるボイラー管の損傷など、甚大な被害が発生しました。協力会社やメーカーを含め最大900人体制で復旧作業に当たり、2号機は昨年5月10日に、1号機は定検期間中の7月2日に運転を再開し、目標としていた夏季の高需要期までの復旧を成し遂げました。今冬についても、計画外のトラブルや災害への備えなど緊張感を持って、万全な供給体制を確保しています。
志賀 アメリカで第2次トランプ政権が誕生しました。石油や天然ガスについて「掘って、掘って、掘りまくれ!」と国内での生産拡大を訴えるトランプ氏ですが、大阪ガスへの影響をどう見ていますか。
藤原 不確定要素は多いですが、そこまで大きな変化はないように思います。振り返ってみると、バイデン政権は昨年1月、LNG生産の環境への影響を精査する必要があるとして、輸出許可を一時的に停止しました。トランプ政権になれば、こうした政策が取られることはないでしょう。
一方で「掘りまくれ!」と言ったところで、今はインフレで掘削費用が高騰しています。そのような状況下で、値崩れを誘発して赤字リスクが高まるような無制限な採掘は起こり得ないでしょう。われわれが権益を持つ米サビン社のガス田も、ヘンリーハブ価格を見ながら採掘しています。ただ化石燃料に対する過度なバッシングは穏やかになる気がします。
志賀 そうですか。私はパリ協定からの離脱を掲げるトランプ氏の大統領就任で、世界の脱炭素政策に大きな変化が訪れるかと思ったのですが……。
藤原 既に世界は現実路線に変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻後は、欧州でも天然ガスの重要性が語られるようになりました。ガソリン車製造からの撤退時期を白紙撤回した自動車メーカーもあります。化石燃料の必要性が見直されているのは、トランプ氏の再登場というより、各国が現実路線に軌道修正したというのが要因でしょう。
志賀 e―メタン導入への影響はありませんか。
藤原 何とも言えませんね。バイデン政権で成立したIRA(インフレ抑制法)の支援は期待しています。大統領選でトランプ氏が勝利した激戦州でもIRAの恩恵を受けている州がありますし、議会を通して作られた法律ですので、トランプ政権になっても簡単に廃止はできません。トランプ政権がIRA適用の要件を厳しくする可能性はありますが、まだ政権の骨格が明らかになっていないため、占うことは難しいです。ただ化石燃料を扱うわれわれのような事業者にとって、政策がマイナスに後退することはないのではないかと思っています。
志賀 アメリカで東京ガスや東邦ガスなどと進めていた、キャメロンLNG基地でのe―メタン製造プロジェクトから撤退しました。トールグラス社とのプロジェクトに集中するとのことですが、どういった理由からですか。
藤原 大きな要因はコストが上がっていることです。世界的なインフレに加えてエンジニアの人手も足りず、高コスト構造になっています。こうした中ではトールグラス社との協業に集中した方がよいという判断になりました。
志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。
林 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。
志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。
林 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。
足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。
志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。
林 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。
志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。
林 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。
志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。
林 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。
志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。
樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。
これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。
志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。
樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。
今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。