【特集2まとめ】LPガス業界の転機と商機 事業激変時代を生き抜く戦略


経済産業省は昨年7月、液化石油ガス法の改正省令を全面施行した。
三部料金制の徹定や工務店などへの利益供与の禁止など

LPガス業界で長年続いてきた悪しき商慣行にメスを入れたのだ。
この省令改正は、事業者に大きなインパクトをもたらした。
業界を挙げて対策に取り組んでおり、まさに一大転機を迎えている。

一方で、このタイミングを見計らって事業拡大を狙う事業者もある。
LPガス激変時代をどう生き抜いていくのか。その戦略に迫った。

【アウトライン】消費者に選ばれるエネルギーへ 省令改正への対応を推進

【インタビュー】料金の透明化へ行動指針策定 不動産業界にも対応要請

【座談会】独自の販売戦略で難局を乗り切る 地域密着で顧客満足を追求

【レポート】燃料油からの燃料転換に注力 販売特約店との連携深める

【レポート】特約店の支援体制を強化 幅広いサービスで差別化狙う

【レポート】災害に強いハイブリッド発電機 日本のレジリエンス向上目指す

【レポート】災害時も空調の稼働を継続 熱中症対策と避難所機能を両立

【インタビュー】ブローカー対策に手応え 消費者への注意喚起に注力

【トピックス】Jークレジット制度を活用 パビリオンのCO2排出量を実質ゼロに

【トピックス】双方向通信端末の導入進む 社内外でDX化の推進に寄与

【トピックス】ボンベの運搬をスムーズに 現場ニーズに応えた電動台車を発売

【特集1まとめ】2050電力大不足の虚実 需給シナリオの問題点と対処法


2050年に日本の電力供給力が最大8900万kW不足する―。
電力広域的運営推進機関が7月に公表した需給シナリオが波紋を広げている。
AI・デジタル化の進展などに伴う電力需要の増大が背景にあるわけだが、
もしこの予測が実現すれば、事態は想像以上に深刻になるのは間違いない。
電力制約によって将来の経済成長が抑え込まれ、国力を損なうことになるからだ。
その一方で、業界内外には大消費時代到来への懐疑的な見方も少なくない。
シナリオを巡る多様な関係者の本音を取材し、その問題点と対処法を探った。

【アウトライン】電力需要急増シナリオへの期待と不安 エネルギー政策の現実路線回帰なるか

【レポート】業界関係者はシナリオをどう読んだか 発・送・販各部門からの注文

【レポート】脱炭素対応でLNG火力新設の動き 鉄鋼業界で電力原単位が増大へ

【覆面座談会】リアリティなき将来予測 具体的な投資判断に二の足 国が責任を持って制度設計を

【電源開発 菅野社長】トリレンマを直視し自社の最適解を探り 求められる役割発揮へ


カーボンニュートラルに向けさまざまな要請が突き付けられる中、火力のトランジションでは現実的な手法に狙いを定め、洋上風力への否定的見解は一蹴し真の価値を訴求する構えだ。

そして大間では一日でも早く地元の期待に応えることを目指す。求められる役割を見据え、自社や顧客にとっての最適解を追求する。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

井関 今年は酷暑の割に予備率には比較的余裕がある印象です。火力の運用面はどうでしょうか。

菅野 昨年同時期に比べて火力の稼働率が相当上がっています。スポット市場はどのエリアもゼロ円のコマが減り、それだけ火力電源が動いており、逆に言えば当社を含む発電事業者がマーケットを見ながら適切に運用しているといえます。

全体の需要が底上げされており、昨年1年間で2%弱増えました。特に今年は6月から暑い日が多く、早い時期から需要が増加しています。需要が大きく予備率が厳しい時期に計画外停止が起こらないよう、火力の定期検査を端境期に偏らせないなど、どの事業者も工夫しているはずです。石炭火力も日常的にフルの出力から最低負荷まで変動させる運用が増えており、ボイラーの金属の熱収縮による影響を予見し、集中的にどこをチェックするべきなのか、精度を高めていかなければなりません。

それでもトラブルは起こり得るので、いざという時はなるべく早く戦列に復帰させることが必須となります。

井関 第1四半期(4~6月)は減収増益でした。

菅野 3月末に松島火力が全て停止し、また今年度は容量市場の単価が大幅に下がるなど、減収要因がいくつかあります。それに対し、再生可能エネルギーでは水力や風力の発電量が増え、火力ではLNGと石炭の価格差が保たれた状況にあるなどの増収要因である程度回復しました。加えて北米ガス火力権益の売却益を計上したことにより、想定をやや上回ったと捉えています。


3E全て達成は至難の業 事業者ごとに判断へ

井関 第7次エネルギー基本計画を踏まえ、分野ごとに具体的な政策の検討が進んでいます。特に注目している点は?

菅野 電力需要の伸びのスピード感が重要です。実際今年度にかけて少し伸び、そしてデータセンター(DC)の需要はこれからが本番との見方があります。他方、政府が掲げるS+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)を三つとも満たすことは相当に難しいです。個々の事業者としては何を優先するのか、ある程度腹をくくる必要があると思います。事業者としての最適解は何か、判断を迫られ、具体的な行動となって現れる日が近いのではないでしょうか。

井関 ワット・ビット連携(電力系統と通信基盤の一体整備)の議論が進む中、日立製作所と社会インフラ事業者向けのAI用DCを共同検討しています。

菅野 印西市(千葉県)や京阪奈(京都府)などの系統接続容量は上限に近づきつつあり、電力供給と通信のインフラが整っている別の地方へのDC設置を目指すという議論が浮上していますね。DCの中でも即応性が求められるものや、AIの学習用などの役割分担があり、あるいは公共インフラではより高度なセキュリティーが求められています。われわれは、学習用かつ公共インフラに近いDCは地方設置が可能だと考え、ビジネスチャンスを狙っています。

当社には電源や通信インフラなどの情報はありますが、AI・需要に関する知見は少なく、具体的なDCのニーズを把握する上でパートナーが必要でした。今回、日本発で最も世界的なプレーヤーである日立製作所との連携に至りました。

井関 そこでも火力は重要な役割を果たすのでしょうか。

菅野 GAFAMなどのビックテックはCO2フリー電力で全て賄うと標榜しています。現実的には火力電源も非化石証書でオフセットし使う場面が出てくるでしょうが、当社としては水力や風力などのカーボンニュートラル(CN)な電気で供給するよう努力します。

【特集2まとめ】今こそガス燃転を考える 再浮上する低炭素の現実解


低炭素化を図る現実的な手段として天然ガス転換が再び注目を集めている。

国内の工場や事業所では石油や石炭などCO2排出量の多い燃料から、

どのように切り替えていくべきかを検討するタイミングが訪れている。

再エネと電気設備を組み合わせ、一足飛びに脱炭素化を目指す動きもあるが、

設備コストや導入条件など、さまざまな面で課題が山積する。

こうした中、現実的な方策となるのがガス体エネルギーによる低炭素化だ。

事業者やメーカーはどのように取り組んでいるのか、最前線に迫る。

【アウトライン】ガス体エネルギーの優位性発揮 CO2大幅削減へ各社が注力

【レポート】燃料転換と高効率利用を推進 天然ガスで効果的な温暖化対策

【インタビュー】新たな需要創出に期待感 ニーズに応じ政策検討

【レポート】技術的な知見伝承を重要視 小規模ユーザーへの提案も積極化

【レポート】現場力生かす方針にシフト 全体最適化で燃転を後押し

【レポート】サテライトでLNG供給 重油比でCO2を3割削減へ

【トピックス】高効率ボイラーと複数台制御が強み IT応用でエネ設備や工場全体を管理

【トピックス】燃焼ガスの潜熱を回収して活用 業界最高のボイラー効率103%を実現

【トピックス】燃料品質で燃焼具合が代わるバイオマスボイラー 独自設計で連続運転や高効率運転を可能に

【レポート】船舶へのLNG供給体制を整備 脱炭素化への国内モデル確立へ

【レポート】鍵握るバーナーの燃焼技術 供給拠点整備でガス・ガス転換

【特集1まとめ】戦争とエネルギー 揺らぐ秩序と迫る危機


かつて昭和時代の日本が石油供給途絶を契機に太平洋戦争に突入したように、
エネルギー・資源問題は国家安全保障と密接な関係にある。
戦後日本はさまざまな模索をしながら国の生命線を握るエネルギーを獲得してきた。
ところがここ数年、エネルギーを巡る国際秩序の崩壊が現実化しつつあり
「エネルギー・資源を持たざる日本」に新たな課題を突き付けようとしている。
国際・エネルギー情勢に詳しい専門家の意見を踏まえながら
ロシア・ウクライナ、そしてイスラエル・イラン両戦争とエネルギー問題を読み解き、
日本の安全保障を脅かす危機が差し迫っている実情を浮き彫りにする。

【アウトライン&座談会】有事リスク回避へ打ち手はあるか 風雲急告げるエネルギー防衛

【レポート】これからのエネ安保に必要な視点は 今振り返る戦後有事の教訓

【インタビュー】エネルギー輸入途絶を防ぐには 台湾有事阻止へ問われる覚悟

【レポート】「12日間戦争」幕引きも残る火種 衝突激化のリスク内包したままに

【コラム】米国はなぜイラン核施設を攻撃したのか トランプ大統領の深謀遠慮を読み解く

【JERA 奥田社長CEO兼COO】時代の変化に合わせ新たなモデルを模索し 地方創生にも本腰


脱炭素への現実的な歩みを着々と進めつつ、急拡大するDX需要に応えるべく、新たな供給モデルを提案する。

GXによる地方創生にも本腰を入れ、エネルギー事業者という殻を破りつつある。

【インタビュー:奥田久栄/JERA社長CEO兼COO】

おくだ・ひさひで 1988年早稲田大学政治経済学部卒、中部電力入社。グループ経営戦略本部アライアンス推進室長、JERA常務執行役員、取締役副社長執行役員などを経て2023年4月から代表取締役社長CEO兼COO。

井関 6月下旬の会見で、地方創生・ 産業高付加価値化と一体となるGX(グリーントランスフォーメーション)開発に向けた新たな試みを発表しました。まさに産業政策とエネルギー政策は絡め合いながら考えるべき問題であり、注目しています。

奥田 例えば英国は製造業主体から、金融とデジタル主軸のモデルに脱皮し、エネルギーは原子力と再生可能エネルギー、天然ガスで賄い、電気料金が上がってもこの産業構造で世界と伍していく戦略です。われわれも相応のコストがかかる脱炭素を現実的に進めていくには、環境価値の高いエネルギーを使っても競争力が落ちないような産業・社会構造の変革が必須です。そして、GXは地域の関係者との連携なしには成し遂げられないと思います。

井関 洋上風力や水素・アンモニアの拠点で地域の産業振興を図る方針ですが、具体案は?

奥田 地方創生や工業地帯の再開発とセットで、各地域のニーズをくんだGXで地方も潤う流れを定着させたい。既に、各地には付加価値の高い製品が存在します。一から新しいモノを作るのではなく、既存のモノを適切な価値で売れる仕組みづくりが有効ではないか、という仮説に基づき、今後ショーケースを順次お見せする予定です。

例えば当社の洋上風力開発拠点である秋田県は魅力的な食の宝庫ですが、国内ではその利益が地元へ十分に還元されていません。日本で売られている日本酒が、欧州などでは数十倍で売られていることがあり、その差額は欧州側の利益となります。マーケティングやブランドストーリーの工夫によって、利益が日本の生産者に還元される仕組みを作り上げることが必要です。その点、ピュアな地産地消のクリーンエネルギーである洋上風力を使って製造し、付加価値をさらに高めれば良い循環が生じるのではないか。また、人手不足の問題には最新のデジタル技術による支援も考えています。

井関 地方創生を重視する現政権の方針にも合致しますね。 奥田 地方で開発した再エネの電気を全て東京に持ってくるという昭和のモデルのままでは、地方で持続的な雇用が生まれません。これでは地方での再エネ開発は行き詰まるでしょう。


着々と火力リプレース 袖ケ浦はアセス準備中

井関 それにしても今年は6月から連日の猛暑続きで、需給への影響が懸念されます。元々、端境期は定期点検中の火力が多いですが、足元の運用ではどんな工夫を行っていますか。

奥田 ここ数年、夏の需要ピークが早まる傾向にあり、冬もピークが早まる、あるいは長期化しています。定検の時期をなるべく前倒し夏冬フル稼働できるよう工夫していますが、それでも需給が厳しくなる場面があります。一方で再エネが大量に普及し、出力変動に応じて日常的に火力の起動停止を行っており、それに伴って故障が増え、計画外停止につながっています。古い設備はどうしても金属疲労が起きやすく、リプレースを着実に進めることがやはり重要です。JERA設立以降、リプレースを経て営業運転に至った設備は700万kW以上、計画中も含めると1000万kW以上です。多くが計画より前倒しで運開し、需給ひっ迫の際には試運転の設備も含めて供給力としてできる限り提供してきました。

リプレースが完了した五井火力

井関 再エネの拡大により、火力の運用は様変わりしましたね。

奥田 五井や姉崎はコンバインドサイクル発電ですが、ガスタービン単体のシンプルサイクル運転も可能で、実はこれがミソ。太陽光の出力変動に合わせる上で、スチームタービンも動かすと迅速性に関しては劣ります。供給力としての役割はもちろん、しわ取りとしてのガス火力の機能をフルに発揮できるよう、時代に合った火力発電所に変えていくことを意識しています。

井関 デジタル技術の活用にも力を入れていますね。

奥田 起動停止が頻発する中、機器の傷み度合いを正確に把握することが重要です。「予兆管理」と呼んでおり、AIで予兆を見つけ、早めに部品を交換することで計画外停止を防いでいます。こうしたDPP(デジタルパワープラント)化は、姉崎など最新鋭設備から導入し、徐々に拡大しています。

井関 6月中旬には袖ケ浦のリプレースに向け環境アセスメントの準備を開始。2032年度以降の運開を目指しています。

奥田 運転開始から50年たち計画外停止の蓋然性が高まる中、現役で稼働する2~4号機の計300万kWを260万kWの最新鋭に入れ替えました。引き続き安定供給に貢献していきます。

井関 近隣では東京ガスの袖ケ浦火力の新設も進行中ですが、今後両者が連携する可能性は?

奥田 今はまだそこまで考えていません。アセスの準備を始めたばかりで、その結果を踏まえてから、さまざまな可能性を考えることになるかと思います。

【特集2まとめ】分散型システムの再登板 脱炭素・BCP対策の新たな基盤へ


分散型システムは再生可能エネルギーの有効利用、レジリエンス対策、地域活性化、

コージェネによる熱の有効利用―など、さまざまな利点から導入が始まった。

特に最近は、マイクログリッドや地域熱供給で力を発揮する導入事例が増えている。

一方、AIの普及によるデータ量の急増を背景に、データセンターの建設が進み、

電力の大量消費が始まる。データセンターは電気をつくる電源設置に加え、

送り届ける送電網や変電所の整備・増強が欠かせない。

この工事を簡略化するため、発電所内にデータセンターを直接建設したり、

データセンター近傍にコージェネを設置したりといった動きも出てきた。

AIの進化が分散型エネルギーの用途を生み出し、「再登板」の時が到来している。

【アウトライン】課題解決の切り札として脚光 分散型システムの用途が拡大

【レポート】構築進むマイクログリッド CO2削減と災害対策強化に寄与

【レポート】太陽光発電の自己託送を展開 再エネ電源の開発拡大に注力

【レポート】ガスエンジン使い風力を安定電源に 系統運用に貢献する新たなモデルへ

【レポート】初期投資ゼロで大型設備群を構成 高度医療機関への安定供給支える

【レポート】国際線ターミナルにコージェネ 空港の脱炭素化に貢献

【レポート】地産地消エネを最大限に活用 官民の役割分担で事業性確保

【インタビュー】過疎地の配電網維持に課題 マイクログリッドの好例必要

【レポート】万博で海水と帯水層を熱利用 地の利生かした冷房システム

【インタビュー】環境価値でCO2削減に成果 都内地下鉄駅でCN化を達成

【トピックス】デジタル技術で低圧DERを制御 消費最適化へソリューション展開

【トピックス】再エネ活用の切り札「EBLOX」 設備の三位一体運用で安定供給

【トピックス】テスラ製蓄電池を無償で設置 電気代低減とレジリエンス向上図る

【特集1まとめ】補助金中毒 エネ代に消えた12兆円と副作用


「コロナ禍からの経済回復を妨げない」という目的で導入された燃料油補助金は、
度重なる延長を経て、ガソリン税の旧暫定税率の廃止まで続く見通しだ。
あくまで時限的であるべきだったが、出口は繰り返し先送りされ、
本来市場が決めるべき価格に対する国家の介入は常態化した。
脱炭素目標への逆行、補助金業務の多重委託問題など、
政策の矛盾や弊害は、至るところで顕在化している。
電気・都市ガス料金補助と合わせて、これまでに投入した国費は12.5兆円─。
「生活を守る」という美名の下で、将来世代へのツケは静かに積み上がっている。

【アウトライン】政治介入で「市場価格」が壊されていく 4年も続く異常な燃料油補助

【インタビュー】国民の感覚をまひさせたエネ代補助 理由なき継続で政策矛盾が顕在化

【インタビュー】12兆円は適正に使われていたのか 検証なき補助金の弊害に警鐘

【インタビュー】参院選の争点に? 各党はエネ代補助をどう考えるか

【レポート】『電気代補助金は金のなる木!?』 維新議員の動画で業界炎上

【インタビュー】石油危機克服したかつての日本に学べ「価格ポピュリズム」からの脱却急務

【インタビュー】国民生活支える緊急的対応 「激変緩和の役割果たした」

【中国電力 中川社長】脱炭素化をリードし産業立地を促進しつつ 地域活性化に貢献する


需要家の脱炭素化ニーズの高まりや、将来の電力需要見通しが増加に転じるなど、事業を取り巻く環境は大きく変化している。

この変化をチャンスと捉え、エネルギー事業者として地域の活性化に貢献する。

【インタビュー:中川賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

志賀 2024年度の通期連結決算について、どう受け止めていますか。

中川 24年度決算については、売上高は総販売電力量の減少および燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などが影響し、前年度に比べ減収、経常利益も燃料費調整制度の期ずれ差益の大幅な縮小などにより減益となりました。一方で、燃料価格の低下、原子力発電所の再稼働、投資の抑制や経営全般にわたる効率化への取り組みにより、当初想定を上回る利益を計上したことで、目標としていた連結自己資本比率15%以上への回復を1年前倒しで達成することができました。しかし、有利子負債は増加しており、著しく毀損した財務基盤の立て直しにさらに一層、取り組む必要があると認識しています。

志賀 高い利益水準の要因には、昨年12月23日に島根原子力発電所2号機が再稼働した影響もありますか。

中川 24年度決算では、島根2号機の再稼働により原料費が減少した半面、減価償却費などが増加しましたが、結果的に利益は90億円増加しました。この島根2号機は、電力の安定的な供給に寄与するとともに、燃料価格変動の影響が緩和できることから業績の安定化・財務基盤の強化につながるほか、カーボンニュートラル(CN)に向けても非常に重要な電源だと認識しています。

志賀 25年度の業績見通しについては。

中川 今年度は、市場価格の低下に伴う卸・小売の競争進展や送配電事業の利益の減少によって、二期連続の減益を見込んでいますが、島根2号機の稼働増加により一定の利益水準を確保できる見通しです。とはいえ、足元の競争に加えて、物価上昇に伴う資機材の調達費用の増加や、米国の関税措置による経済活動への影響の懸念など、先行きに対する不透明感が増しています。引き続き、安定した利益の確保と財務基盤の回復を果たすべく、安全の確保を大前提とした島根2号機の安定稼働をはじめ、電力卸・小売販売事業の収益力強化と市場リスク管理の高度化、およびグループ一体となった経営全般にわたる効率化に取り組んでいきます。


3・11後初の新設基 島根3号機を早期に稼働

志賀 島根3号機の審査状況について教えてください。

中川 今年2月6日の審査会合において、今年度中に原子炉設置変更許可申請に係る一通りの説明を終える予定であること、島根3号機の審査の特徴として、島根2号機を含む先行例を踏襲しているため、現時点では大きな論点はないと考えていることを説明しました。今後、2号機の特重施設(特定重大事故等対処施設)および所内電源(3系統目)の審査に並行して、3号機の審査に対応していきたいと考えています。3号機の運転開始は、脱炭素化の観点でも非常に重要な課題ですし、3・11後、新設では初めて稼働することになりますので、大きなチャレンジだと考えています。

島根原子力発電所の外観

志賀 山口県上関町での中間貯蔵施設に係る立地可能性調査の進ちょくはいかがですか。

中川 島根原子力発電所を運転すれば、自ずと使用済燃料が発生します。同発電所の長期安定運転を維持するためには、再処理施設に搬出するまでの間、使用済燃料を安全に保管することが必要であり、中間貯蔵施設は、使用済燃料貯蔵対策に万全を期すための方策として有効であると考えています。また、中間貯蔵施設の設置検討は、「使用済燃料の貯蔵能力の拡大」というわが国のエネルギー政策にも合致しています。

山口県上関町での調査については、昨年11月に現地でのボーリング作業を終え、現在、ボーリングにより採取した試料を用いて各種分析を行っています。分析結果により調査に要する期間が変わるため、現時点で具体的な終了時期をお示しする状況にはありませんが、慎重に分析を進めていきます。

【東邦ガス 山碕社長】ガス事業を主軸に新事業への投資を加速 将来の成長への礎築く


新たな中期経営計画のスタートと時を同じくして4月1日に東邦ガス社長に就任した。

奇をてらわず、地道に愚直に仕事に向き合う姿勢を貫き、将来にわたって顧客の信頼を獲得し得る企業風土を醸成し成長し続けるための礎を築く。

【インタビュー:山碕聡志/東邦ガス社長】

やまざき・さとし 1986年名古屋大学経済学部卒、東邦ガス入社。2107年執行役員、20年常務執行役員、22年取締役専務執行役員などを経て25年4月から現職。

井関 4月1日付で社長に就任しました。どのような打診があったのでしょうか。

山碕 1月上旬に冨成義郎・前会長(現相談役)と増田信之・前社長(現会長)に呼ばれまして、「そういうことで、よろしく頼む」という話がありました。突然のことでしたし、私としては覚悟を固める時間が必要でしたので「ちょっと考えさせてもらいたい」と返答し、翌日「改めてよろしくお願いします」と承諾の意向を伝えました。

井関 東邦ガスに入社した経緯をお聞かせください。

山碕 経済学部を卒業し、技術的な素養があったわけではないので、最初からガス会社に就職しようと決めていたわけではありませんでした。「BtoB」の企業は何をしているのかあまりイメージできなかったので、金融機関やガス会社など一般消費者向けにサービスを提供している企業を中心に活動していました。最終的な決め手は、地元への愛着とこの地域の発展に貢献したいという気持ちであったと記憶していますが、その思いは今も変わりません。

井関 入社後はどのようなキャリアを歩んできましたか。

山碕 事務系の社員はまず、営業現場に配属されることが多く、私もそうでした。その後は企画、財務、営業と三つの部門に籍を置くことが多かったです。若い頃には、日本エネルギー経済研究所に出向したり、研修として10カ月ほどアメリカに滞在したりといった時期もありました。


実直に取り組む大切さ 最初の配属先で痛感

井関 会社人生で最も印象深かった仕事や出来事はありますか。

山碕 何と言っても入社直後に営業部門に配属され、社員として初めてお客さまと接点を持った時ですね。東邦ガスという会社がどのように見られているのか肌で実感し、まっとうに仕事に取り組んでいかなければならないと決意を新たにする機会となりました。

井関 それは、公益事業者としての責任感が芽生えたということでしょうか。

山碕 それももちろんありますし、決められたことに実直に取り組むということが当社の社風であるということを実感したことが大きいですね。仕事を進める上で問題が起きたとしても、テレビドラマのような奇想天外な解決策などはありません。日々の仕事にしっかりと取り組むこと、そしてお客さまに真摯に向き合うことの重要性など、当たり前のことに地道に愚直に取り組む大切さを感じました。

知多火力の完成予想図。同社初の大型電源となる

井関 カーボンニュートラル(CN)やエネルギーの自由化など、事業環境は目まぐるしく変わってきましたが、安定供給の大切さが改めて認識され、都市ガス会社にとっては天然ガスの普及拡大が、引き続き重要な取り組みとなりそうです。

山碕 その通りですね。当社に与えられている社会課題といいますか、求められている期待はさまざまあります。その時その時で比重の軽重はありますが、これまでも安全・安心、安定供給性、経済性、直近ではCNへの貢献を評価されてきたのですから、今後もどれか一つに偏るのではなく、多角的な視点を持ち、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)のバランスを常に意識しながら取り組んでいかなければならないと思います。

少し前までは、水素や太陽光だけでCNを実現できるという風潮がありましたが、手掛けている側からすればそう簡単なことではありません。CNに向けた世の中の動向が読み切れず、ガスや火力発電への投資を決定しにくい時期もありました。今は国の政策、米国や欧州の情勢を見ても、一時のCN一辺倒から様相は変わってきたという印象です。とはいえ、50年を見据えていろいろ手を打っていかなければならないことに変わりありません。一足飛びにCNを目指そうとすると、S+3Eのバランスを損なうマイナスの事象が起きてしまいますので、その移行期に何にどう取り組むかの議論が引き続き重要だと考えています。

【特集2まとめ】万博が描く脱炭素の世界 革新的エネ技術がつくる未来を探訪


「2025年日本国際博覧会」が4月13日~10月13日、大阪・夢洲で開かれている。

次代を切り拓く新技術のショーケースでもある今回の大阪・関西万博は
カーボンニュートラル社会の実現を見据え、再生可能エネルギーや水素、eーメタン、スマートグリッド、蓄電池、空飛ぶクルマ、EVバスなどが導入され、まさに未来社会の実験場となっている。

私たちの社会は今後どう変わるのか―。

万博の最先端エネルギー関連施設や取り組みをレポートし、未来へのヒントを探る。

【アウトライン】最先端の技術を実証する場 楽しんで体感できる展示が充実

【レポート】さまざまな次世代技術を体験 エネルギーが叶える未来を探る

【インタビュー】「可能性のタマゴ」がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験

【インタビュー】CNに向け「化けて」変容を 地球温暖化を考える機会に

【レポート】未来の「あたりまえ」を創造 大規模実証で実用化を検証

【レポート】日本発の技術でCNを訴求 会場内で地産地消モデルを確立

【レポート】グリーン水素の供給網を構築 通信インフラを有効に活用

【レポート】大阪湾を滑るように航行 水素を利用する次世代船舶

【トピックス】電化による空の次世代型移動手段 交通分野の課題解決に期待高まる

【トピックス】特殊塗料で位置情報の精度を補完 走行しながらの無線給電実証

【トピックス】耐荷重の低い場所への設置が可能 屋根やアート作品など多彩な用途

【特集1まとめ】火力復権! 供給力強化へ潮目変わるか


ここ10年ほどで休廃止が一気に進んだ火力電源だが、復権の兆しが見えてきた。

移行期を支える供給力・調整力としての役割が高まるLNG火力は、新設を後押しする制度が徐々に整備され、建設計画が相次いで公表されている。

エネルギー基本計画でも2040年に向けてLNG火力の必要性を強調している。

一方、石炭火力を巡っては非効率設備のフェードアウト以外の方針は打ち出されず、このままではサプライチェーンが維持できずに「第二の石油火力」となりかねない。

設備容量の維持や今後の燃料調達を巡る関係者や有識者、政策当局の問題意識に迫り、これからのあるべき火力政策の方向性を探った。

【アウトライン】計画ラッシュのLNGと退出する石炭 火力発電ブーム再来の舞台裏事情

【レポート】首都圏支える国内最大級の設備 再エネ対応で起動停止の急増も

【レポート】長期軸で政策見直しの羅針盤に 高リスク低利構造にメスを

【レポート】現実的な安定供給・脱炭素両立へ 大規模投資判断できる環境整備を

【インタビュー】供給力・燃料調達の維持強化へ 不確実な時代にどう備えるか

【静岡ガス 松本社長】積極投資で事業を拡大 収益増と変革を両立し包括的施策で公益担う


都市ガスに加え、再エネや住宅再生、海外展開など事業の多角化を進めている。

包括的なサービスで地域のニーズに応えながら、人材育成や株主還元にも取り組み、持続的な企業価値の向上を図る。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは、2024年12月期決算のポイントと評価についてお聞かせください。

松本 24年度は、前年度と比べ大幅な減益という結果になりました。ただこれは、23年度が燃料費調整の期ずれ差益による増益効果が大きかったことの裏返しで、これを補正すると経常利益が23年度は108億円、24年度は116億円と、実質増益となります。それぞれに一過性の増益要因があったことを考慮しても、着実に成長できていると捉えています。

井関 一過性の要因とは。

松本 為替変動や市場の不安定さなどです。例えば、当社が出資している愛知県田原市のバイオマス発電事業では、原料を長期で為替予約して調達しています。ドル建てのため、近年の円安傾向により評価益を計上しました。また昨年、需給調整市場で全商品区分の取引が開始となり、当社グループも参加しています。所有する電源を活用し落札することができましたが、市場は創設されたばかりであり、継続的に落札できることを見通し難いため、これらを抜きにした実力をいかに底上げしていくかが重要です。

井関 そうした要因がなくても、経常利益は増加しています。

松本 都市ガスの大口分野の販売拡大が増益につながりました。第7次エネルギー基本計画では、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少なく、カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源と位置付けられました。産業界において、天然ガス転換へのニーズが高まっていることは追い風です。実際、当社にも、設備更新のタイミングで燃転を要望する声が多く寄せられています。

井関 今後、家庭用や卸売りの販売量はどう推移していくでしょうか。

松本 家庭用に関しては横ばい、もしくは漸減していくと予想しています。人口減少や核家族化に加えて、給湯器や住宅の断熱の性能が飛躍的に向上していることを考えると、家庭部門における販売量の微減傾向は致し方ない部分もあります。卸先への販売量も減少傾向です。都市ガス小売りの全面自由化で、大手電力会社などの新規参入が進んだことによる影響を受けており、今後もこの傾向は続くと予想しています。この点は中期経営計画にも織り込み済みです。

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