【特集2】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe-メタンを製造

インタビュー/夏秋英治(大阪ガス 執行役員 事業創造本部長)

―メタネーション開発の現状についてお聞かせください。


夏秋 都市ガスのカーボンニュートラル化に資する本命はe―メタンであり、この製造技術として当社が注力するのが、SOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーションです。現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業、CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」の下、当社の先端技術研究所が中心となり技術開発を進めています。


―SOECメタネーションの水(H2O)とCO2から一気通貫でのe―メタン製造は技術的障壁が高いように感じます。


夏秋 メタネーションは、電解反応と合成反応の2段階で構成されます。当社のSOECメタネーションでは電解反応において、独自の「共電解反応」によりCO2とH2Oを同時に反応させ、H2とCOに分解します。
 合成反応では、電解反応で作ったH2とCOを反応させて、e―メタンを製造します。このプロセスは高温で熱が発生します。前段の共電解反応では700~800℃の熱が必要になるため、この合成反応の排熱を利用することで、システム全体で、高いエネルギー効率を実現できると考えています。

ベンチスケールのSOEC電解装置


―SOEC電解装置の構造について教えて下さい。


夏秋 電解装置は、電解セルを重ねて積み上げたスタックを一つのコンポーネントとして組み合わせてモジュールを作り上げます。当社は、このセルに独自の金属支持型を採用しており、丈夫な金属を基板にして、表面を薄いセラミックス層で覆った構造になっています。これにより、従来のセラミックス型と比較して高価なセラミックスの使用量を削減できます。耐衝撃性にも優れ、スケールアップの実現も容易になると考えています。

            金属支持型のSOECセル

ベンチスケールで試験中 エネ変換効率向上を目指す

―本開発事業には東芝エネルギーシステムズ(ESS)と産業総合技術研究所などが参画しています。


夏秋 東芝ESSの役割の一つは、セラミックス型高温電解セルスタックの開発。もう一つが、高温電解装置の開発および製作です。当社と知見を持ち寄って、共同で進めていきます。
 産総研はセルの性能や耐久性における要素技術の研究を担当しています。すぐに生かせる部分と長期的に生かせる部分での技術確立を目指します。
 当社のSOECメタネーションでは、エネルギー変換効率85~90%を目標に掲げています。従来技術であるサバティエメタネーションの効率55~60%をさらに上回ることを目指します。

―今年6月に完成したSOECメタネーションのベンチスケール試験施設での取り組みについて教えてください。


夏秋 ベンチスケールは1時間当たり10㎥程度のe―メタンを製造します。SOEC水蒸気電解装置と独自の触媒を充塡したメタン合成装置を組み合わせて、装置の性能確認を行うとともに、プロセス全体の運転データの取得を行い、高いエネルギー変換効率を達成するための検証を進めます。その後、さらなる高効率化に向けて、開発を進めるSOEC共電解装置を新たに設置し、試験を行う計画です。この結果を見ながら、パイロットスケールの設計に同時並行で取り組んでいく予定です。


―一方で、INPEXとサバティエ方式のプロジェクトに参画しています。

夏秋 サバティエ方式は既存の技術ですが、大型化した時にどの程度の効率や耐久性、安定稼働を確保できるのかなど、実用化に向けた課題が残っています。これらを検証するため、プロジェクトに参画しました。INPEXの長岡鉱場越路原プラントに接続する形で実証プラントを建設し、今年度中に稼働を開始する計画です。このプロジェクトは今後、SOECを実用化する上でも参考になってきます。


―下水処理場の汚泥を活用したバイオメタネーションについてお聞かせください。

夏秋 海老江下水処理場(大阪市此花区)で、下水汚泥から発生するバイオガス中のCO2にH2を反応させ、より多くのメタンを発生させる実証を行っています。下水汚泥からメタン発酵で発生するバイオガスは60%がメタン、残りはCO2で構成されています。バイオメタネーションを通じてCO2からe―メタンを製造することで、メタン濃度を85%程度まで引き上げることができます。

バイオメタネーションの試験装置


―御社では30年度に供給する都市ガスの1%をe―メタンにする目標を掲げています。達成に向けた課題は何でしょうか。


夏秋 H2を作るための再生可能エネルギーのコストが安く、CO2が大量にある適地を見つける必要があります。また当初のe―メタン製造にはサバティエ方式を採用し、本格化する段階では、SOECメタネーションに切り替えるのが望ましいと考えています。

セル装置化が今後のテーマ 耐久性などの確認を実施

―最後に、今後の展望や意気込みをお願いします。


夏秋 SOECメタネーションにおいては、これまでセルの開発を中心に行ってきました。今後は、このセルをどのように積み上げていくか、さらにその構造体をどのように装置化していくかなどが開発テーマになります。一方で、耐久性や性能が落ちないことも確認していく必要があります。また、インフレでコストが高騰している。こういったことも念頭に置きながら、技術開発を検証していかなければなりません。ただし、安心安全、安定稼働が前提になります。このバランスをしっかり見ながら進めていきたいと思います。

夏秋英治(大阪ガス 執行役員 事業創造本部長)
なつあき・えいじ 1992年京都大学大学院工学部工業化学科修士課程修了、同年入社。資源・海外事業部海外事業開発部長、イノベーション本部長を経て、2024年4月から現職。

【特集2】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成

インタビュー/吉崎浩司・東京ガス 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長

―新たな都市ガスとするべくe―メタン開発に注力しています。現状を教えてください。


吉崎 横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で、固体高分子形水電解装置によって製造した水素と、横浜市資源循環局鶴見工場の排ガスから分離・回収したCO2を原料として、e―メタンを製造する実証を行っています。水素製造には、主に敷地内に設置した太陽光発電の電気を使用しています。導入している水電解装置は2MW級あり、安定した水素供給を実現しています。
 2022年3月の開所以降、e―メタン製造設備は順調に稼働しており、24年7月には、国内初のクリーンガス証書制度における「クリーンガス製造設備」として認定を受けました。
 今後は「ハイブリッドサバティエ」や「PEM CO2還元」など、革新的メタネーション技術を含む最新技術の実証拠点として、同ステーションを活用していく予定です。

            サバティエ方式の実証設備


―次世代メタネーション技術開発の進捗はいかがですか。


吉崎 当社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業」の助成を受け、ハイブリッドサバティエなど革新的メタネーション技術の開発に取り組んでいます。ハイブリッドサバティエは、サバティエ反応によって生じた熱を水電解に有効活用し、システム全体の効率向上を目指す技術です。触媒などの要素技術開発やデバイス構造の最適化を経て、24年度にはグリーンイノベーション基金事業のステージゲート目標であるエネルギー変換効率75%以上を達成しました。
 現在は、スケールアップや耐久性向上などを目指し、システム全体の性能改善や運転条件の最適化を進めています。PEM CO2還元は、水とCO2からメタンを1段階で直接合成し、効率の向上を目指す技術です。現在、メタン生成に必要な中間体の反応の選択性を高める触媒を開発しています。これにより、24年度にはエネルギー変換効率62%以上というステージゲート目標を達成しました。

e―メタンをオンサイトで 顧客ニーズで設備提供へ

―ハイブリッドサバティエに関しては、事業所内にプラントを稼働させるだけでなく、需要家での利用なども想定しているのでしょうか。


吉崎 グリーンイノベーション基金事業が完了する30年以降の速やかな社会実装を計画しており、お客さまの敷地内での利用も想定しています。技術開発の進捗に加え、お客さまのニーズやカーボンニュートラルに関わる社会情勢・事業環境などを総合的に考慮し、必要に応じてスケジュールの前倒しも検討していきます。今後は、メタン生成量や耐久性のさらなる向上を目指して、デバイス構造の改良などに取り組んでいきます。


―固体高分子形水電解装置の基幹部品として触媒層付き電解質膜(CCM)の量産について教えてください。


吉崎 低コスト化に向けた技術開発が順調に進んでいます。触媒に使用するレアメタルのイリジウムの使用量を従来の4分の1まで削減することに成功しました。また、海外の固体高分子形水電解装置メーカーから要望の多い、高圧条件下での水素製造への対応も進めています。量産化に向けては、事業パートナーのSCREENホールディングスが25年2月に新たな生産設備を竣工し、年産2GWの水電解CCMを生産できる体制の準備を進めています。

    ハイブリッドサバティエのリアクター


―CCU(CO2分離回収・利用)も注目が集まっています。具体的にどのような技術に取り組んでいるのでしょうか。


吉崎 横浜市からの排ガスを分離・回収したCO2を原料にe―メタンを製造しており、地域でのCCU推進を実証しています。大気中のCO2を直接回収するDACや、貯留を組み合わせたDACCS、CO2貯留効率を高めるCCS技術開発にも取り組んでいます。


―30年以降、こうした次世代エネルギー技術を組み込んでいく中で、今後の都市ガス・電力供給はゼロエミッション化していくのでしょうか。


吉崎 都市ガス分野ではe―メタンやRNG(再生可能天然ガス)、電力分野では再生可能エネルギーを主軸として、CNの実現を目指しています。ただし、これらに限定せず、S+3E(安全性・安定供給・経済効率性・環境適合)のバランスを重視し、柔軟に新たなオプションを社会実装していくことが重要です。
 DACCSやBECCSなどのネガティブエミッション技術や、CCS・水素の活用も含め、複数のオプションを並行して追求していきます。

新技術を積極的に取り込む 米ベンチャーと連携を推進

―50年に向けて、注目する次世代技術はありますか。


吉崎 米国シリコンバレーに設立したコーポレートベンチャーキャピタル「アカリオ」を起点に新技術の探索やスタートアップ連携を進め、国内でも多様なオープンイノベーションを推進することで、次世代技術の積極的な取り込みを図っていきます。

吉崎浩司(東京ガス 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長)
よしざき・こうじ 1994年東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了、同年入社。工学博士。海外事業推進部長、再生可能エネルギー事業部長などを経て、2025年4月から現職。

【特集2】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

第7次エネ基でCN実現“後”の天然ガスの重要性が強調された。
都市ガス業界はこの方針転換をどう生かすべきか。国際大学の橘川武郎学長に聞いた。

橘川武郎(国際大学学長)
きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大学・一橋大学・東京理科大学教授、国際大学教授・副学長を経て、2023年9月から現職。

今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、「原子力の最大限活用」の文言が話題をさらった。だが、より注目すべきは、天然ガスを「カーボンニュートラル(CN)実現後も重要なエネルギー源」と位置付けた点である。これまで脱炭素化の文脈では、CN後の天然ガス利用は想定されていなかったことを考えれば、大きな方向転換と言える。ガス業界にとっては、かつてない追い風だ。


こうした流れの中で、足元で業界が取り組むべきは石炭や石油から天然ガスへの「燃料転換」だ。高い熱効率を維持したまま、転換した分だけCO2排出量を低減できる。燃転はこれまで大規模な供給エリアを中心に進められてきたが、今後は中小規模エリアや鉄鋼業などのハードトゥアベイト産業にも広げていく必要がある。e―メタンといった次世代技術の実用化に向けた取り組みも重要だが、当面は燃転を通じて着実に低炭素化を進めていくことを最優先すべきだ。


日本ガス協会は6月、新ビジョンと具体的なアクションプランを発表した。内田高史会長の下で策定された「内田ビジョン」は、第7次エネ基の方向転換を踏まえて、業界としての中長期戦略を再定義したものだ。

中長期の供給割合を再設定 大手の投資判断は不透明

旧ビジョンからの最大の変更点は、2050年時点におけるe―メタンとバイオガスの供給割合を、従来の「9割」から「5割~9割」へと幅をもたせたことにある。従来はe―メタンを主軸に、残りの1割を水素、バイオガスで補う想定だったが、内田ビジョンでは方針を転換し、天然ガスが1~5割を担う将来像を示したわけだ。


もっとも、東京、大阪、東邦の都市ガス大手3社にとっては、投資判断が難しくなるといった側面もある。e―メタン、バイオガス、カーボンニュートラルLNGといった原料構成の多様化は、複数の技術に分散投資した結果、利益を食い合う「カニバリゼーション」を起こしかねないためだ。


3社はこれまで、水素とCO2からメタンを生成する「サバティエ方式」を用いた大規模メタネーションの実証拠点として、キャメロンLNG基地を有する米ルイジアナ州や水素パイプライン網が発達するテキサス州などを候補地に検討を進めてきた。しかし、肝心の米国ではトランプ政権による方針転換で支援が縮小傾向にあり、投資環境は不透明さを増している。こうした状況下では、撤退を余儀なくされるケースも想定される。


ただ、明るい話題もある。サバティエ方式よりもエネルギー変換効率が高く、外部水素を必要としない「SOEC(固体酸化物形電解セル)」方式の実証が進みつつあるのだ。大阪ガスは大阪市内の酉島地区を拠点に、いち早くベンチスケールでの実証に着手した。SOECがオンサイト型のメタネーション技術として、サバティエ方式に先んじて普及する可能性もある。


大手にとっては懸念材料がある一方、準大手の目線では、新たなチャンスが広がったとも言える。旧ビジョンでは50年時点で「e―メタン9割」を想定していたが、これには大規模投資が必要で、参入の余地は限られていた。だが、新ビジョンでバイオガスやオフセットを活用した天然ガス利用が選択肢に加わったことで、中規模・地方事業者にも新たな事業展開の余地が生まれたわけだ。


その象徴的な取り組みを行っているのが日本ガス(鹿児島市)だ。同社は22年1月から、鹿児島市内の南部清掃工場内で生成するバイオガスを都市ガス原料として活用している。発電用途での使用が本格化するFIT(固定価格買い取り制度)の導入以前から準備を進め、今では地産地消型のエネルギー利用のモデルケースとなっている。

ごみを分解する発酵槽(日本ガス)


バイオガス以外では、西部ガスと北海道ガスが、北九州市のひびきLNG基地を拠点に、地域内の再生可能エネルギーを用いたe―メタン製造の実証を進めている。こうした準大手事業者による地産地消型のエネルギー供給に向けた動きは今後、一層加速していくと見られる。

次世代技術の活用が前提に エネ価格は高騰の見込み

第7次エネ基では天然ガスの重要性とともに、排出係数を低下させる野心的な目標を掲げている。「リスクシナリオ」では、40年時点の火力電源全体の排出係数を1kW時当たり0・31㎏とする試算を示した。火力の中で最も排出係数の低いLNGコンバインドサイクルで0・47(21年度時点)であることを考えれば、この設定水準がいかに低いかが分かる。これには相当量の水素やアンモニアの混焼が不可欠で、実際に活用する際にはCCS(CO2回収・貯留)やDAC(大気直接回収)などと組み合わせることが前提となる。これらの技術コストを加味すれば、カーボンプライシングの基準はCO21t当たり2万円程度が妥当となりそうだ。大半の国内事業者が1t当たり数千円台と想定するが、より高い水準を織り込まなければ現実的な事業モデルは描けない。


こうした背景を踏まえれば、今後エネルギー価格の上昇は避けられないことは自明だろう。従来のエネルギー価値に環境価値が付加される以上、価格への転換は必然であることを社会全体で共有する必要がある。


天然ガスの活用とCNは決して矛盾するものではない。排出量と吸収量がイコールになりさえすればいいのだ。まずは燃転を通じて低炭素化を進め、その上でe―メタンやバイオガスといった次世代技術導入への道を探っていくことが、都市ガス業界に求められる姿である。(談)

【特集2まとめ】都市ガス「新エネ」への挑戦 見えてきた低炭素化の現実解

低炭素化の現実的な解を手繰り寄せようとする、都市ガス各社の動きが加速している。


究極のCNエネルギーであるe-メタンをはじめ、CO2回収といった難易度の高い技術開発も進めている。


注目すべきは、大手事業者の取り組みにとどまらない点だ。清掃工場と連携したバイオメタンによるガス供給など地方ガス自らが主体的に動き出す事例が生まれつつある。


企業の存続すら左右しかねない低・脱炭素化の潮流に各社はどのように挑んでいるのか。最新の動向を追う。

【アウトライン】重要性増す天然ガス転換 地産地消型供給の動きが加速

【インタビュー】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成

【インタビュー】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe―メタンを製造

【インタビュー】CO2分離回収技術開発に注力 LNG未利用冷熱を有効活用

【インタビュー】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

【レポート】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入

【トピックス】分離膜方式採用のシステム開発 高濃度のメタンガス精製を実現

【レポート】小型風力発電が運転開始 再エネ開発の目標達成に注力

【レポート】水素利用のすそ野拡大へ 小規模需要の「壁」に挑む

【レポート】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証

【トピックス】独自技術で水素を高精度に検知 メタネーションを安全面から支援

【トピックス】特許技術の整流器により省スペース化 水素含有率をリアルタイムで計測

【特集2】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入

JR鹿児島中央駅から高速道路を使って車で南へ30分ほど。錦江湾を臨む工業地帯の一角に、鹿児島市のバイオガス製造拠点となっている「南部清掃工場」がある。同工場では市内の家庭から回収した紙ごみや生ごみをバイオガス化し、導管を通じて500m離れた日本ガスの鹿児島工場に送る。その後、日本ガスが、これを都市ガス原料の一部として活用し、地域に再供給する。まさに、地産地消のエネルギー循環システムの中核と呼べる場所だ。

工場稼働前に発酵槽を整備 メタン生成菌がごみを分解

清掃工場の敷地に足を踏み入れると、まず目を引くのが2基の巨大な円柱形の「発酵槽」だ。1日の処理能力は計約60t。外から中の様子を見ることはできないが、投入されたごみは、全長約40mの槽内を16日間かけてゆっくりと通過していくとのこと。発酵に適した55℃に保たれた槽内には、工場稼働に先立つこと4年前に「メタン生成菌」と呼ばれる微生物が入れられ、これが、ごみを分解しガスを発生させる役割を担っている。

巨大なメタン発酵槽

南部清掃工場に運び込まれる可燃ごみの中には、ビニール袋やプラスチック類など、メタン菌が分解できないものが混ざっている。これらが発酵槽に入ってしまうと、肝心の生ごみ・紙ごみの投入量が減り、60tという処理枠を圧迫してしまう。これを防ぐためには、発酵槽に投入する前の分別作業が重要だ。

この鍵を握るのが、ドラム型の選別機。高速回転するブレードハンマーでごみを粗く破砕すると、生ごみや紙ごみはさらに細かくなりドラム底部の穴を通る。プラスチックごみなどは細かくならず穴を通らないため、確実に除去できるという仕組みだ。この工程を経ることで、発酵槽には効率よく有機物中心のごみを送り込むことができる。

発酵槽から取り出されるメタンガスの純度は55%程度。当然、このままでは都市ガス用には適さない。発酵槽のすぐ横に設置された「バイオガス精製設備」で、アンモニアや硫化水素、CO2といった不純物を取り除くことで純度95%まで高め、ようやく日本ガスの工場へ。燃料ガスと混ぜ、付臭や熱量調整を経て、地域のエネルギーとして再び市民の元へと「還って」いく。

            バイオガス精製設備で不純物を除去

日本ガスは、都市ガスの品質を維持するため、メタンの純度が95%を下回るなどの支障が生じた際には、受け入れを遮断する仕組みを講じている。また、薄まるとはいえ、受け入れるバイオガスの基準については慎重に検討した。試験的にガス機器の中で最も影響を受けるであろうエネファームを、バイオガス100%で1年間運転させた際も、何も問題がないことを確認できたとのことだ。

清掃工場は30~40年ごとに建て替えが行われ、現行施設の運用開始は2022年1月と比較的新しい。この建て替え計画の際、日本ガス側から「生ごみなどを地産地消のエネルギーとして都市ガス原料に利用できないか」と、森博幸市長(当時)に働きかけたことがきっかけとなり、バイオガス化設備の導入が決まった。

発電用途の議論に待った 循環型社会の実現を重視

それまでも、市町村や民間事業者の工場などでメタン化設備を導入する事例は多くあった。だが、いずれもFIT(固定価格買い取り制度)を用いた売電用の自家発燃料として活用されるのが主流。南部清掃工場におけるバイオガス化計画を巡っても、「発電用途に回し、FITで高く買い取ってもらった方が良い」といった議論が浮上したことがあったという。

そうした中で、地産地消による循環型社会を実現できること、市民の環境意識を分かりやすく啓発できることが、そうした意見をはねのける決め手となった。実際、今年4月には、市立の小学校全42校にこのバイオガスを活用した再生可能エネルギー100%の「カーボンオフセット都市ガス」の供給が開始された。ごみの削減や低・脱炭素化といった小学生の環境意識の醸成に一役買っている。

南部清掃工場から供給されるバイオガスの年間供給量は最大で150万㎥。これは、日本ガスの年間ガス販売量の1・5%程度に相当する。津曲貞利社長は、「全体から見れば1・5%に過ぎないかもしれないが、民生用販売量の6%が地産地消のエネルギーで賄われている」と自負する。その上で、「50年をターゲットに、市民生活を支える2500万㎥のエネルギーを全て、地産地消で賄えるようにしたい」と、さらなる高みへ意欲を見せる。

インフォメーション

アフリカ開発会議(TICAD)

TICADでエネルギーイベントを開催

日本政府は第9回アフリカ開発会議(TICAD 19)を8月20〜22日、横浜市で開催した。このプレイベントとして19日には、アフリカ諸国のエネルギーを主題にした「光れアフリカ」を実施した。現在、アフリカ大陸では約6億人が電気のない生活を送っている。ナイジェリア連邦のアデバヨ・アデコラ・アデラブ電力省大臣は「これを解消するには、太陽光や水力など再生可能エネルギーを中心に1000億ドル分のインフラ投資が必要となる」と説明した。また、これらの再エネをオフグリッド運用していくこと、農村地域に導入するにはより安価な設備が必要になることなどを訴えた。

UBE三菱セメント/大阪ガス/Daigasエナジー/西部ガス

セメント焼成用キルンに天然ガスを利用

UBE三菱セメント(MUCC)、大阪ガス、Daigasエナジー、西部ガスは9月3日、MUCC九州工場黒崎地区のセメント焼成用キルンの熱エネルギー源として、天然ガスを混焼する実証試験に成功したと発表した。低炭素化においては、セメント焼成用キルンで使用する石炭などから排出される CO2削減が有効な手段となる。今回、新たに開発した天然ガス混焼用バーナーを用い、石炭の40%を天然ガスで代替し、商業規模での運転を行い成功した。同技術はMUCCの微粉炭燃焼技術と大阪ガス・Daigasエナジーのガス燃焼技術、燃焼シミュレーション技術を活用して開発した。

中国電力/エア・ウォーター

バイオマス混焼から回収したCO2利活用の検討開始

中国電力とエア・ウォーターは9月、バイオマス混焼発電所から回収したCO2の利活用について共同検討を開始した。中国電力グループのエネルギア・パワー山口が運営する防府バイオマス発電所(山口県防府市:11.2万kW)に導入する予定のCCS設備で発電時に排出されるCO2を回収する。エア・ウォーターは回収したCO2を産業ガス事業で培ってきた知見を生かし、利活用することを目指す。具体的には、液化炭酸ガスやドライアイスの製造に利用することに加え、将来的には低炭素水素と合成することで、eメタン製造などに応用していきたい考えだ。

BECC JAPAN2025

行動変容から気候変動の解決を目指す

第12回気候変動・省エネルギー行動会議「BECC JAPAN2025」が8月27日、都内で開催された。京都先端科学大の西條辰義特任教授は「フューチャー・デザイン:将来世代から感謝される社会のデザイン」と題した行動変容に関する講演を行った。SNSやAIなどによる脱炭素コミュニケーションに関する発表も行われ、参加した関係者らで活発な議論がなされた。

サーラエナジー

ZEB仕様の新事務所「サーラプラザ豊橋南」

サーラエナジーは9月、豊橋市の店舗「サーラステーション豊橋南部」の移転先として建設を進めてきた「サーラプラザ豊橋南」が完成し、10月移転することを発表した。新事務所は、純木造建築で耐震性の高いSE構法を採用。持続可能な社会実現に貢献すべく、太陽光発電設備や蓄電池を取り入れたZEB仕様で、エネルギーの効率的な利用を図る。

中部電力/JFEエンジニアリングほか

田原バイオマス発電所が運開

中部電力とJFEエンジニアリング、東邦ガス、東京センチュリーの4社は9月1日、田原バイオマス発電所(愛知県)の運開を発表した。4社が共同出資する田原バイオマスパワー合同会社が発電所の運営主体となる。木質専焼のバイオマス発電所で発電出力は11万2000kW。年間の想定発電量は約7億7000kW時に上り、一般家庭の約25万世帯分に相当する。

【特集2まとめ】脚光浴びるHPの蓄熱力 再エネ支える需給調整の新運用

今年、累積出荷台数が1000万台を突破したエコキュート。
家庭用ヒートポンプとして給湯市場を席巻して四半世紀が経過した。


深夜の割安な電気を使って貯湯し翌日のお風呂需要を担っていたが、
再エネの大量普及時代を迎え、そんな単調な運用は変わりつつある。


余剰再エネの有効利用やデマンドレスポンスを見据えた運用など
その蓄熱力を柔軟に活用した新たな役割が期待されている。


ガスとヒートポンプを組み合わせたハイブリッド給湯と共に、
変わりゆく家庭用給湯の展望を探った。

【アウトライン】家庭用給湯が四半世紀で一変 低・脱炭素化担うアイテムへ

【インタビュー】潜在的な需給調整力に期待 DR価値向上の仕組みが重要

【レポート】次なる普及策へ業界の挑戦 利用者のDR参加をどう促すか

【トピックス】太陽光連動型給湯機の普及拡大へ お得な料金プランで自家消費を促進

【インタビュー】DRreadyの本格普及へ 自立型の事業モデル確立を

【レポート】欧州のヒートポンプ事情を考察 英国視察から見えた普及策

【レポート】本格普及を見据え増産対応 ハイブリッド市場を主導

【レポート】業界最小クラスのコンパクトモデル 時短施工、軽商用車に搭載可能

【トピックス】オール電化マンションを強みに攻勢 CO2フリー化とエコキュート制御など提供

【特集2】オール電化マンションを強みに攻勢 CO2フリー化とエコキュート制御など提供

【関電不動産開発】

関電不動産開発は近畿地方で分譲マンショントップシェアを獲得する。
電力会社グループの強みを生かした商品企画で攻勢を強めている。

関西電力グループの関電不動産開発は分譲マンション「シエリア」シリーズを展開している。同シリーズは、全ての物件でオール電化を採用。2023年以降に計画した新規物件はZEH対応となっている。これまでZEH対応物件は、竣工済み20物件、施工中20物件、合計約5400戸を手掛けた実績を持つ。

同社はオール電化の付加価値として、①マンション全体でのCO2排出量の実質ゼロの実現、②エコキュートのデマンド制御、③EVスタンドの整備―に注力する。①実質CO2フリー電気はエネマネシステムを組み込み、市場価格より割安なCO2フリー電気を供給する。具体的には、関電が提供する再エネ由来の非化石証書の環境価値を付与したゼロカーボン電気を関電グループのNext Powerが調達し高圧一括受電方式で供給。マンション全体をCO2排出量実質ゼロにするほか、料金を抑えカーボンニュートラル(CN)に貢献する。

最新の「シエリアタワー中之島」では再エネ電気とエコキュート制御を採用した

エコキュートのデマンド制御 夜間ピークを昼間などに分散

②エコキュートのデマンド制御は夜間に集中する沸き上がり時間を昼間などに分散し、マンション全体のピークを低減する。これにより、高圧契約の基本料金を抑制し安価な電気を供給する。特にファミリー世帯向けの大規模マンションでは効果的だ。北矢努建築部長は「将来的には街単位で制御を行い、調整力としての応用も検討したい」と展望する。

③EVスタンドでは、ピークカット機能によりマンション全体の電力需要が低い時間帯にEV充電を行う。「シエリアシティ星田駅前イーストスクエア・ウエストスクエア」では駐車場306台に対し159台分と大規模にコンセントを設置した。同時使用時の電力負荷を抑え、フル充電可能な仕組みを整備した。「条件が適合した物件にこれらのサービスを積極的に導入していく」と北矢部長は話す。

同社は21年以降、近畿地方でファミリー向け分譲マンション(投資用除く)供給戸数1位を3年連続で獲得。首都圏でテレビCMを放映するなど、全国規模で攻勢を強める。オール電化の強みを生かした戦略はCN実現で一歩先を行き、存在感はさらに高まりそうだ。

【特集2】太陽光連動型給湯機の普及拡大へ お得な料金プランで自家消費を促進

【九州電力/東京電力エナジーパートナー】

太陽光発電(PV)の余剰電力を使うタイプのヒートポンプ給湯機。
大手電力数社が料金プランを整備し、本格導入を開始している。

大手電力会社では、昼間の余剰電力を使ってお湯を沸かす太陽光連動型ヒートポンプ給湯機の普及を図るため、専用料金プランを提供し、太陽光発電(PV)の自家消費を促している。

日照条件に恵まれる九州では、PVの導入量が1100万kWに達している。春・秋の昼間を中心に電力の供給量が需要を上回る状況が発生しており、電力の需給バランスを維持するため、再生可能エネルギー電源の出力要請が増加している。九州電力では2022年7月から「九電ECOアプリ」を活用したデマンドレスポンス(DR)を実施してきた。軽負荷期(春秋)には「上げDR」として電力使用を促し、重負荷期(夏冬)には「下げDR」として節電を促す仕組みだ。

24年4月に導入された料金プラン「おひさま昼トクプラン」では、基本料金は従来のオール電化向けプランと同じ料金で、昼間の電力需要を創出し、再エネの有効活用につなげている。オール電化で「おひさま昼トクプラン」を適用した場合、電気・ガス併用住宅に比べ、1カ月当たり約7492円割安となる試算だ。

家庭用高効率給湯機の普及拡大を目指す

昼間のPV余剰電力を活用 効率的な湯沸かしで料金削減

「おひさまエコキュート」は、PVのある家庭に向けた高効率給湯機だ。従来のエコキュートが主に夜間に沸き上げを行うのに対し、おひさまエコキュートは昼間の時間帯に稼働し、PVで発電した余剰電力や、昼間の安価な電気で効率的にお湯を沸かす。昼間に沸かすと夜間よりも外気や水温が高く、より少ない電力で効率的にお湯を沸かせるというメリットがある。

東京電力エナジーパートナーの料金プランでは、従来品に比べ、年間で約27%料金が抑えられる。固定価格買い取り(FIT)制度の期間を終えた卒FITで売電収入が低下した家庭にとっては節約につながることも魅力だ。

国や自治体では給湯機の導入や交換に補助金制度を用意しており、おひさまエコキュートのような太陽光連携型の高付加価値給湯機は、今後ますます普及拡大していくことが見込まれている。

インフォメーション

COM NEXT2025

ローカル5G最先端の通信技術を多数展示

「第3回次世代通信技術&ソリューション展(COMNEXT、コムネクスト)」が7月30日〜8月1日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。同展示会は光通信技術、高周波技術、ネットワーク設備・配線施工、ローカル5Gなどの次世代通信技術やこれを応用したソリューションの紹介に特化している。最新技術の実機デモや製品が多数展示され、3日間で1万5000人超が来場した。昨今のデータセンター(DC)需要拡大に伴い、DCの建設や運営に必要な製品や、企業や組織のDX推進の流れを受け、最新通信技術をよりカスタマイズして提供する5G・6Gシステムのソリューションなどが注目を集めていた。

経済産業省/日本ガス協会

夏休み恒例の「こどもデー」開催

経済産業省は8月6、7両日、夏休み中の子どもとその保護者を対象に「経済産業省こどもデー」を開催した。国の施策への理解を深めてもらう目的で府省庁が連携して行う「こども霞が関見学デー」に合わせた毎年恒例のイベント。さまざまな企業が出展し、未就学児から高校生まで楽しめる多様な体験型プログラムなどを提供した。日本ガス協会は、学校での環境教育授業を手掛ける大阪ガスネットワークによる小学生向けの環境学習を提供。集まった小学生約20人は、地球温暖化の仕組みや、未来の都市ガス「eーメタン」を生成するメタネーション技術について学び、地球環境について知識を深めた。

ニチガス

拡販に向け長野県に営業所を新設

LPガス販売大手のニチガスは7月、長野県松本市に営業所を新設した。すでに昨年秋から仮設の拠点を設けて営業を進めており、およそ10カ月間で、販売店のM&Aを含めて900件近くの顧客を獲得していた。松本市に加え、塩尻、安曇野、岡谷、茅野、諏訪エリアを中心に今後3年間で7200件の獲得を目指す。また、ガスと電気のセット販売率については80%を目標に掲げている。バルク供給については長野県北部を供給エリアにする北信ガスに委託する。新設した営業所は太陽光や蓄電池、ハイブリッド給湯システムを採用したZEB仕様となっている。

矢崎総業/テクノ矢崎

国内最大級3800kWソーラーカーポートを設置

矢崎総業は静岡県牧之原市に国内最大級の3800kWのソーラーカーポートを設置し、子会社のテクノ矢崎を発電事業者としてグループ内PPAを開始した。PPAは電気を使う家庭や企業、自治体に事業者が太陽光設備を無償提供し、使った電気代を事業者に払うモデル。矢崎総業はこの取り組みにより、事業所全体の使用電力量の約21%を賄う見込みだ。

川崎重工業

大型液化水素貯蔵タンクの製作開始

川崎重工業は8月7日、大型液化水素貯蔵タンクの製作を開始したと発表した。貯蔵容量5万㎥の地上式平底円筒形液化水素貯蔵タンクで、高圧ガス保安法の特定設備検査申請の設計審査に合格。同社播磨工場(兵庫県播磨町)で製作する。同タンクは、NEDOのグリーンイノベーション基金事業で建設する川崎市扇島の国内基地に設置する予定だ。

ヒートポンプ・蓄熱センター

ヒーポン蓄熱システムがCNの鍵に

ヒートポンプ・蓄熱センターは7月24日、第22回ヒートポンプ・蓄熱シンポジウムを都内で開催した。省エネや再エネの活用に関する理解促進と、関係者の連携強化を目的に実施。運転管理実例の発表やパネルディスカッションが行われた。浅井亨専務理事は「ヒートポンプ蓄熱システムがカーボンニュートラルの切り札になると確信しています」と述べた。

【特集2まとめ】LPガス業界の転機と商機 事業激変時代を生き抜く戦略

経済産業省は昨年7月、液化石油ガス法の改正省令を全面施行した。
三部料金制の徹定や工務店などへの利益供与の禁止など

LPガス業界で長年続いてきた悪しき商慣行にメスを入れたのだ。
この省令改正は、事業者に大きなインパクトをもたらした。
業界を挙げて対策に取り組んでおり、まさに一大転機を迎えている。

一方で、このタイミングを見計らって事業拡大を狙う事業者もある。
LPガス激変時代をどう生き抜いていくのか。その戦略に迫った。

【アウトライン】消費者に選ばれるエネルギーへ 省令改正への対応を推進

【インタビュー】料金の透明化へ行動指針策定 不動産業界にも対応要請

【座談会】独自の販売戦略で難局を乗り切る 地域密着で顧客満足を追求

【レポート】燃料油からの燃料転換に注力 販売特約店との連携深める

【レポート】特約店の支援体制を強化 幅広いサービスで差別化狙う

【レポート】災害に強いハイブリッド発電機 日本のレジリエンス向上目指す

【レポート】災害時も空調の稼働を継続 熱中症対策と避難所機能を両立

【インタビュー】ブローカー対策に手応え 消費者への注意喚起に注力

【トピックス】Jークレジット制度を活用 パビリオンのCO2排出量を実質ゼロに

【トピックス】双方向通信端末の導入進む 社内外でDX化の推進に寄与

【トピックス】ボンベの運搬をスムーズに 現場ニーズに応えた電動台車を発売

【特集2】消費者に選ばれるエネルギーへ 省令改正への対応を推進

液石法の省令改正を契機に、LPガス業界が一丸となって対応に乗り出した。災害時のレジリエンス向上においても、一層の貢献が期待される。

LPガス業界は、2024年7月に施行された液化石油ガス法(液石法)の省令改正を受け、大きな転換期を迎えている。

この改正により、LPガス事業者に設備機器の無償貸与などを禁じる「過大な営業行為の制限」、料金体系や契約内容の明確な説明を義務付ける「料金などの情報提供義務」への対応が求められるようになった。今年4月には、料金を基本料金、従量料金、設備費用に分けて表示する「三部料金制の徹底」が義務付けられている。

業界自主ルールを改定 事業者の法令順守を推進

全国LPガス協会は、省令改正を業界全体の健全な発展と消費者から選ばれるエネルギーになるために必要不可欠と受け止め、取り組みを進めている。業界自主ルールの該当箇所を改定し、販売事業者による「取引の適正化・料金の透明化に向けた行動指針」を策定。ホームページに法令順守に向けた自主取組宣言を公表した販売事業者一覧を掲載している。このほか、不動産業界と連携し、賃貸住宅の入居希望者にガス料金に関する情報を事前提供する。

消費者に選ばれるエネルギーを目指す

これを受け、個々の事業者は、料金表示の明確化、設備料金に該当する費用の個別表示に取り組むなど、料金体系の透明性向上、消費者への情報提供強化に奮闘している。

今後も選ばれ続けるエネルギーになるためには、販売事業者のサービス向上も欠かせない。その一例として鳴門ガス(徳島県鳴門市)は、顧客視点に立った「即湯サービス」という独自の取り組みを展開している。

ガス給湯器が故障した時には、ガス販売事業者が給湯設備を交換して対応するのが一般的だ。だが、電気や灯油などの給湯器では、そのような対応は通常行われていない。同社はガス給湯器のみならず、オール電化のヒートポンプ給湯機(エコキュート)や灯油ボイラー、電気温水器の故障に対しても、すぐに仮の給湯器を設置しお湯を使えるようにするサービスを提供している。このような顧客との出会いを新たな販売チャンスにつなげている。

一方、災害大国日本には、防災・減災対策としてLPガスが不可欠だ。今回の特集では、富士瓦斯の発電機、I・T・Oの防災設備を例に、可搬性、備蓄性といったLPガスの優位性を災害時のライフライン確保に活用する取り組みを紹介する。

【特集2】災害時も空調の稼働を継続 熱中症対策と避難所機能を両立

【I・T・O】

I・T・Oが手掛ける防災減災対応システム「BOGETS(ボーゲッツ)」の導入が、小中学校をはじめとする教育機関で進んでいる。同製品は災害発生時、都市ガスの供給が途絶えた時にバックアップ燃料に切り替えることができる。具体的には、ガス変換器「New PA」でLPガスを都市ガスの代替となるプロパンエアーガスに変換して供給する。専門的な知識がない職員やスタッフでも、簡単なタッチパネルなどの操作で切り替えられるのが大きな特長だ。避難場所となる体育館に停電対応型GHPがあれば、空調を復旧し、継続して稼働できる。

直近では、名古屋市の小学校に採用された。同市では、2020年に小中学校の体育館への空調設備導入を決定し、110校ある中学校に導入した。その後、260校ある小学校への導入が順次進んでいる。市が空調設備導入を検討していた段階から、同市会議員のたなべ雄一氏はBOGETSに注目。すでに同設備を導入していた足立区の小学校を視察し、防災機能としての体育館空調維持の重要性を名古屋市議会で訴えた。これにより、全小学校に空調を設置するとともに、避難所の収容人数が過密となると予想される地域の51校の体育館にBOGETSを設置することになった。今後5年かけて設置していく計画だ。

小学校に設置された「NewPA」

体育館空調に追い風 35年度に設置率95%へ

各自治体で導入が進んでいる背景としては、文部科学省が24年度補正予算で創設した「特例交付金」の影響が大きい。同制度は体育館空調設備に特化しており、全国で総額779億円が計上された。従来は校舎改修やトイレ洋式化などと競合していた交付金が、空調整備専用枠として自治体に提供されている。さらに、石破茂首相が防災庁を創設すると宣言したことも後押しとなった。政府は学校体育館の空調設置率を同年9月の18・9%から35年度には95%まで引き上げる方針を打ち出している。

体育館への空調設置を政府も後押し

営業本部の愛田政司部長は「自治体向けに都市ガスエリアではBOGETS、導管が通らないエリアではLPガスの災害対応型バルクを提案している。今夏は北海道でも35℃を超える日が続いた。全国で熱中症対策と避難所機能の両立を図る動きが広がる見通しなので、当社としても貢献していきたい」と抱負を語った。

名古屋市の事例は、燃料多重化によるレジリエンス強化のモデルケースとなる。全国の自治体にこの動きが波及していくと見られる。

【特集2】Jークレジット制度を利用 パビリオンのCO2排出量を実質ゼロに

【岩谷産業】

岩谷産業が、CO2排出削減による環境価値を活用したプロジェクトを進行中だ。大阪・関西万博では、カーボンオフセットLPガスを使用しCO2を減らす。

開幕以来、多くの来場者で大盛況の大阪・関西万博。数あるパビリオンの中で、開催地である大阪府と大阪市が出展するのが「大阪ヘルスケアパビリオン」だ。未来のヘルスケアや都市生活、食と文化、再生医療などを体験しながら学べる展示を行っている。

万博は、日本のカーボンニュートラルを世界にPRする場としても注目される。そのため、グリーン電力や環境負荷が実質ゼロのLPガスなどのエネルギー利用が前提だ。こうした中、岩谷産業は大阪ヘルスケアパビリオンにカーボンオフセットLPガスを供給している。活用したのは、国のJ-クレジット制度。同制度では、再生可能エネルギーの導入や森林保護などで削減されたCO2排出量を「J-クレジット」として認証する。

グリーンLPガスの開発を推進 50年度までのCN達成を目指す

岩谷産業はこの制度を活用し、2021年11月から「Iwatani J-クレジットプロジェクト」を推進中だ。プロジェクトに加入した顧客が油燃料からLPガスやLNGに燃料転換した際のCO2削減量などを取りまとめ、その環境価値化を進めている。カーボンオフセットLPガスを供給することで、パビリオンのCO2排出量を実質ゼロにする取り組みだ。

カーボンオフセットによりCO2排出量の実質ゼロを実現した

イワタニグループは、2030年度までに国内でのCO2排出量を19年度比で50%削減することを目標に掲げている。生産から消費の過程でCO2排出をゼロにするグリーンLPガスの開発にも取り組んでいる最中だ。これらの取り組みにより、さらに20年先となる50年度までのカーボンニュートラル達成を目標にしている。

今回のパビリオンへの供給は、岩谷産業が2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会と公益財団法人2025年日本国際博覧会大阪パビリオンとの間で協賛契約を締結したことにより実現した。同社はこの取り組みにより大阪・関西地域の発展に寄与するとともに、LPガスの低炭素化・脱炭素化を積極的に進め、顧客や地域から選ばれる「エネルギー生活総合サービス事業者」を目指していく構えだ。

【特集2】双方向通信端末の導入進む 社内外でDX化の推進に寄与

【東洋計器】

東洋計器が手掛ける双方向通信端末「IoT-R」と、その関連サービスが好調だ。DX化を一気に進め、配送の効率化や煩雑な社内業務を改善する。

東洋計器が提供するガス・水道メーター向け双方向通信端末「IoT-R」の販売が好調だ。6月に総出荷台数450万台を突破し、同端末の集中監視運用を代行するマルチセンターの管理件数も400万件を超えたという。早期に、出荷総数と同センターの管理件数双方で500万件を達成し、今後進んでいく都市ガス・水道メーターのスマート化への提案を強化、さらなる件数の積み上げを目指す。

LPガス業界におけるIoT-Rを含むLPWA(省電力広域無線通信)端末を利用した集中監視システムの普及率は、2023年度は50.5%、24年度は60%を超える見通しだ。スマートクラウド事業部の岩﨑広栄部長は「さらに普及させるには、中小販売店の採用をどう推進していくかが鍵となる。卸事業者と協力して進める」と話す。

大手事業者はLPWA通信で得られる毎日検針を活用し、配送業務の効率化を積極的に進めている。ただ、中小販売店はIoT-Rなどの通信端末を採用していないことが多く、いまだに月1回の検針しか軒先在庫の情報を知る手立てがない。配送を担当する顧客先全てに採用しないと毎日検針の真の効率化は実現しないため、同社では、リーズナブルな料金で1件からでもIoT-Rが導入できるサブスクリプションサービスを卸事業者と一緒に展開し普及促進を図っている。

ウェブ明細「ガスるっく」と合わせて利用することで、ペーパーレス化、決済や保安情報・お知らせの配信などが行え、顧客満足度向上と事務作業のDX化の推進にも寄与する。電子請求・決済・督促を行う「ワンショットシステム」では、督促のお知らせや入金確認、遠隔開閉栓までを現場に出向かず事務所内で一気通貫で実行できるため、採用した事業者から好評だ。「特に評価が高いのが、督促業務を軽減できつつ、回収率が上がっている点。督促対象先は3%程度だが、そこに投じる負担は大きく、同システムが業務改善に一役買っている」と岩﨑部長は説明する。

ウェブ明細「ガスるっく」の顧客向け画面

都市ガス版も来年度発売へ 地方ガス事業者がターゲット

同社は来年度、都市ガス版「IoT-RT」を投入する予定。大手都市ガス事業者がスマートメーターの導入を発表したことを受け、地方都市ガス事業者にもこの動きが広まると見込む。同社では、マルチセンターでLPガスと都市ガスを一元管理できることや多様なコンテンツの展開などをアピールして採用につながるよう努めていく構えだ。