【特集2まとめ】デジタルデータ革命 ソリューションビジネスの最前線


エネルギーデータを使った新ビジネスが脚光を浴びている。
小売り部門では、各家庭に設置されたスマートメーターや、
独自機器を設置することでさまざまなデータを収集。
ユーザーインターフェースを工夫して見える化したり、
ほかのサービスと連携を図ったりすることで、
新たなサービスやソリューションを生み出している。
データ活用ビジネスの最前線に迫った。

掲載ページはこちら

【プロローグ】スマメが切り開く新ビジネス エネデータ活用に多様な可能性

【トピック/TGオクトパスエナジー】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負

【座談会】スマメ全件導入で進む変革への期待 電力データをスマートに生かす

【インタビュー/山中悠揮・資源エネルギー庁】レジリエンス向上や再エネ拡大 次世代仕様に期待すること

【インタビュー/河本薫・滋賀大学】データサイエンティストからの指南 CO2削減に向けた利活用

【レポート】注目のソリューション最新事例 画期的なサービス構築や効率化を紹介

 【SBパワー】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創

 【ニチガス】「夢の絆」オープンで他業界から注目 ニチガスが取り組むDXのすゝめ

 【日本ユニシス】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化

 【パーパス】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現

 【エナジーゲートウェイ】電力センサーで電気使用量を可視化 IoT機器の遠隔操作も可能

 【Nature】小型端末で家電操作と見える化実現 電力料金を抑える小売りも開始

【トピック/SAS Institute Japan】国内外の大手エネ事業者が採用 幅広い課題に応えるアナリティクス

【特集1まとめ】原発 放置国家 「責任」不在の悲劇


東日本大震災から10年を迎えた2021年。
原子力発電所の再稼働に関連する問題が相次いで浮上した。
水戸地裁から避難計画の不備を追及された日本原子力発電東海第二。
不正入室や核防護で不祥事が続発した東京電力柏崎刈羽。
福井県議会が40年延長運転の判断で紛糾した関西電力3原発。
2050年脱炭素化が国家的課題に位置付けられたにもかかわらず、
鍵を握る原発稼働は相も変わらず一進一退の状況を続けている。
わが国が本来取り組むべきは環境変化を踏まえた原子力政策の再構築だ。
そこを放置し続ける限り、本格稼働への国民合意を得ることは難しい。
「責任」不在がもたらす「なし崩し的脱原発」―。
「法治国家」ならぬ「放置国家」の悲劇を浮き彫りにする。

掲載ページはこちら

【アウトライン】国家戦略なき原子力の漂流 問われる政権の信念と覚悟

【座談会】このまま朽ち果ててしまうのか! 原子力政策の再構築巡り激論

【レポート】三者三様の問題事例を検証 原発再稼働を阻む大壁

【大阪ガス藤原社長】新中期計画がスタート ミライ価値の共創により、社会課題の解決に挑戦


脱炭素化の世界的潮流が加速する中、大阪ガスの社長に就任した。化学系関係会社での社長経験などを生かし、多彩な事業領域を持つ企業グループとして、新たな企業価値の創造に力を傾注する。

1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

井関 まずは社長就任に当たっての抱負をお聞かせください。

藤原 社長就任後の3月10日に発表した中期経営計画「Creating Value for a Sustainable Future」の初年度がいよいよスタートし、身の引き締まる思いです。厳しい事業環境において大変な重責ですが、自らがフットワーク良く動いて率先励行し、さまざまな経営課題に全身全霊で取り組んでいきます。

 2017年の「長期経営ビジョン2030」で示した「枠を超える活動」をさらに加速させ、お客さまから時代を超えて選ばれ続ける革新的なエネルギー&サービスカンパニーの実現に向けて、Daigasグループ全体で「不断の進化」を目指します。

 新中期経営計画を実現するに当たっては、当社のコア・コンピタンスとそれによって生み出す提供価値をグループ全体で明確にし、最大化させます。また、脱炭素化やデジタル化などの潮流を俊敏に捉え、Newノーマルな時代に適合すべく、抜本的な業務改革にも取り組む所存です。

井関 大阪ガス入社以来、これまで最も印象深かった出来事は何でしょうか。

藤原 入社以来、さまざまな経験をさせていただきましたが、大阪ガスケミカル社長時代には、自社よりも規模の大きいスウェーデンの「Jacobi Carbons AB社」のクロスボーダーM&Aを実現し、ヤシ殻活性炭で世界トップ企業に躍り出ました。さらに、活性炭と同様の機能を有する、無機系吸着分離材料を製造する水澤化学のM&Aを実施した結果、吸着分離材料を中心とした材料ソリューション事業を成長させる礎を構築することができました。これらの経験は、今後の社長業に生かせると考えています。

井関 中期経営計画のポイントを教えてください。

藤原 今回の中期計画には、「Creating Value for a Sustainable Future」というタイトルを付けました。未来において解決したい社会課題として、「低・脱炭素社会の実現」「Newノーマルに対応した暮らしとビジネスの実現」「お客さまと社会のレジリエンス向上」―の三つを「ミライ価値」と定め、私たちのソリューション・イノベーションにおける強みと、ステークホルダーの強みを組み合わせることで課題解決の実現を目指し、その成果を分かち合っていきたいという想いを込めました。

 この三つのミライ価値の最大化に向け、国内エネルギー事業、海外エネルギー事業、ライフ&ビジネスソリューション事業のそれぞれの事業領域において取り組みを着実に推進し、ステークホルダーと共にミライ価値を創造し成長し続けるために強くステップを踏み出す期間としたいですね。

 また各事業ユニットの自律的な成長を促進するため、経営管理指標にROIC(投下資本利益率)を導入しました。これにより全体最適な資源配分を実現し、強靭な事業ポートフォリオを構築することで複数の事業の集合体として進化させていきます。23年度のROIC目標5%に向け、まず今年度には4・4%を目指します。

マイナス価格の衝撃から1年 識者が語る「秩序なき石油市場」


原油先物市場で記録的な大暴落が発生してから1年が経過し、価格は60ドル台にまで値を戻した。
中東情勢、コロナ禍、脱炭素など複雑な要因が絡み合う中で、石油価格はどうなるのか。識者を取材した。

2020年3月に発生した米WTI原油先物市場がマイナス価格をつけるという事件から約1年が経過し、3月16日時点のWTI価格は1バレル65ドルまで上昇した。60ドル超えは昨年1月以来の水準。V字回復を遂げた要因について、石油情報センターの橋爪吉博事務局長は「需給」「金融」で好条件がそろったことを挙げている。

そもそもマイナス価格は、産油国で構成される石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどOPEC非加盟国が参加する「OPECプラス」の間で分裂が生じたことに加え、新型コロナウイルスの大流行により都市封鎖や渡航制限で飛行機、車などの運輸需要が激減。大量の原油が市場に出回り、供給過剰になったことから発生した。

そのため、OPECプラスは内部対立を棚上げ。産油国間で生産量を調整する協調減産体制が復活する。20年5月から日量970万バレルの減産を実行し、その後も同770万バレル、同720万バレルと量を緩和させつつも減産を継続したことで需給状態が改善。また各地で都市封鎖が解除されワクチン開発も進んだことから、経済回復を期待して20年11月には40ドル台後半まで回復した形だ。

そこからさらに60ドル台まで上昇した要因が、金融だ。橋爪氏は「コロナ禍による世界的な金余りが影響」と説明する。「NYダウ工業平均も3万ドル台を突破するなど、金融市場に資金が流れ込んだことで、銅や金などほかの商品と同様に原油価格が上昇した」。世界的な金融緩和が、巡り巡って大きな影響を与えているのだ。

価格決定プロセスに変化 紛争慣れした市場関係者

金融面という外的要因で大幅な価格変動が起きるなど、現在の原油市場は大きな構造変化の波にさらされている。

油価上昇の要因として語られることの多い中東情勢の緊迫化もその一つだ。「テロなどの事件が発生した際、市場は供給能力に影響を及ぼすかを見ている。3月7日にもイエメンのフーシ派がサウジアラビアの石油積出港を攻撃した事件があったが、供給能力に影響のない範囲だと分かると原油価格はすぐに下落した。19年9月に発生したサウジ・アブカイクの原油処理施設に対する攻撃のときも、2週間で事件前の水準に戻ったように、長期の需給バランスに支障が出ない限り、価格上昇は長期的トレンドにはならない」(岩瀬昇・エネルギーアナリスト)。紛争慣れした市場は地政学リスクを見極めているというわけだ。

シェールオイル・ガスでも、同様に大きな変化が起きている。エネルギーアナリストの大場紀章氏は「シェールブームは多くの失敗例も生んだため、投資家もリスクがある投資を行わなくなっている。現在は確実に儲かる案件しかスタートしておらず、コロナ禍以前の原油価格水準に戻っても、新規開発は伸び悩んでいる」と指摘。これまで考えられてきた常識が通用しなくなりつつあるようだ。

【特集2】被災者受け入れを支えた地冷サイト 設備更新で環境性能とBCPを強化


さいたま新都心地域冷暖房センター

さいたま新都心地域冷暖房センター

東日本大震災に伴い、原発が立地する双葉町の住民ら約2000名は3月19日、さいたまスーパーアリーナに一時避難した。

避難所になったさいたまスーパーアリーナに温水や暖房などに使う熱供給を継続していたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が運用する「さいたま新都心地域冷暖房センター」だ。

さいたま地冷は、 同社が保有する地冷設備の中で、世界最大級の新宿に次ぐ大きなプラント。さいたま新都心地区は旧国鉄の操車場だったが、一帯の再開発が行われた折に地冷拠点も整備された。主な需要家はさいたまスーパーアリーナや合同庁舎、医療施設など13カ所(2021年4月時点)。各施設に熱供給を行っている。

震災当時、あらかじめ策定した計画に沿って電力供給をストップさせる「計画停電」が3月14日から実施された

その際、さいたま新都心地区の一部も計画停電の実施区域に指定され、さいたま地冷も各約4時間・計4回にわたり停電を経験したそうだ。そうした中、さいたま地冷は常用のガスタービンCGS(コージェネレーションシステム)を計画停電の前に系統から切り離した上で自立運転し、その電力でボイラーなどを運転。避難場所のさいたまスーパーアリーナへの熱供給を継続した。

 さいたま地冷の宮原忠人所長は、「震災当時、商用電源が停電しているので、『想定外のことが起こるかもしれない』ということを常に念頭に置きながら対応した、と当時の所員から聞いています」と話す。また未曾有の災害を経験したことが、後の設備更新時に反映されたという。

大型ガスエンジンの導入 発電出力は7000kW級

TGESは20年9月、開設から約20年を迎えるにあたって実施された、さいたま地冷のリニューアル工事を完了したと発表。7800kWの大型ガスエンジンに加え、4.1t時の排ガスボイラ、1250RTの電動ターボ冷凍機6式、390RTの排熱回収温水吸収式冷凍機1式を新たに導入。これにより年間約25%、およそ5600tのCO2削減を実現し、環境性能が大幅に向上した。

また今回のリプレースについて、宮原所長はこう説明する。「震災の経験を生かしており、計画停電を経験したことで設備のBCP機能を向上させることが一つテーマとなりました。大容量のCGSをブラックアウトスタートできるよう設備を改良したことで、冷温熱の需要ピーク時に災害が起きても通常通り供給できるよう設備を更新しました」

建屋の地下にはCGSや冷凍機の冷却に用いられる貯水槽が設置されており、火災などが起きた際には貯水槽の水を消火に利用することで消防局と提携を結んでいるという。 最大3万5000人を収容する全国でも屈指の規模を誇るさいたまスーパーアリーナは、コンサートホールとしての役割に加え、防災活動拠点として地域を守る側面もある。

今後来るかもしれない大型災害にも備えられるよう、TGESは設備を有効活用し地域と連携しながらエネルギーの安定供給を守っていく。

昨年更新したガスエンジン

【特集2】事故から10年の現場を取材 廃炉目指し着実に前進


2月中旬、震災から10年という節目を迎えた福島第一原子力発電所を取材した。
廃炉に向け着実に前進する部分は多いものの、それ以上に積み重なる課題は多い。

入退域施設からサイト内を眺めた風景。タンク群の奥に3・4号機建屋が見える

全線運転を再開した常磐線が運転を取りやめるほどの強風に見舞われた2月中旬。震災から10年を迎えた福島第一原子力発電所(1F)のプレスツアーが行われた。

取材は新型コロナウイルス対策のため参加者は5人以下に絞られ、マスク・消毒は当然のことながら、記者にも事前にPCR検査を義務付けるなど厳格なコロナ対策がとられていた。

集合場所の富岡駅から福島第一原子力発電所までは、バスで20分弱の行程。揺れる車中からふと窓外に目をやると、国道6号沿いに設けられた大型チェーン店が。震災当時そのままに打ち捨てられた状態で、目にする看板も2011年当時のまま。白く薄れた携帯電話会社の旧ロゴマークが、10年という月日を表していた。

国道は通行可能だが、許可証が無ければ進めないエリアも未だ多い

整備進む1F構内 汚染水対策で大きな進展

入退域管理施設で入構手続きを終え、ブリーフィングの後、1F視察が始まった。当日は①1~4号機建屋を見渡す高台、②海側設備、③2~4号機付近、④G1タンクエリア、⑤北側廃棄物関連施設造成地、⑥多核種除去設備等(ALPS)サンプル水の見学―という順路で構内を回った。

取材日は祝日だったが、多くの作業員が行き交っていた。「これでも少ない方ですよ」。東京電力担当者が言う。当日は2000人弱が作業していたが、通常は4000人程度の人が詰めているのだから驚きだ。

バスに乗り元開閉所建屋の脇を通ると、1~4号機を望む高台に到着。1号機では排気塔解体工事を終え、2号機、3号機では使用済み燃料棒の取り出し作業が進んでいる。政府策定の廃炉の中長期ロードマップでは、事故後10年以内に1~3号機いずれかで燃料デブリ取り出しを開始するのが目標。今年はその最終年を迎えている。

1号機建屋と切断した1・2号機排気塔

2号機建屋と3号機建屋

下から見た4号機建屋

海側エリアでは1~4号機で発生する汚染水が流出しないよう遮水壁工事が行われ、18年に完了。汚染水の発生量は凍土壁の構築で、目標に据えていた日量150㎥以下まで減少している。

また海側エリア全体では津波対策でかさ上げ工事や護岸工事が行われていたため、毎年取材している記者からも「この数年で特に印象が変わった」との声が聞こえた。

それだけ工事が進捗していることもあり、東電社員や現場作業員の中には震災直後の荒れ果てた構内を見たことがない人も少なくない。震災の教訓として、サイト内には震災時に被害があった設備の一部を残しているそうだ。津波で押し流された大型クレーンも当時のまま保存されている。

津波で押し流された大型クレーン

【特集1まとめ】検証!電力危機 世界を覆う大停電リスクの実相


年初に電力の需給ひっ迫危機に見舞われた日本に続き、
2月には記録的な大寒波が到来した米国で大停電を伴う深刻な事態が発生した。
特に南部テキサス州では、州全体の27%に当たる約500万軒が停電。
氷点下という異常な寒さの中、凍死者まで出る大惨事に発展した。
エネルギーは人々の生命や生活を守るライフラインであり、安定供給は最優先事項だ。
今、その大前提が世界各地で揺らぎ始めている。
脱炭素化や自由化を進めながら、いかに安定供給と両立させるか―。
ほとんどの国・地域が、いまだその最適解にたどり着いていない。

掲載ページはこちら

【ルポ】世界各地で模索続く電力需給対策 制度設計の教訓にどう生かすか

【レポート】大停電回避へあの手この手 極限の危機対応の最前線

【寄稿】今冬の電力危機はなぜ起きたのか 脱炭素と安定供給の両立策を提起

【特集3】「浪江」で目指す社会実装 技術集積で地産地消実現へ


インタビュー:渡邉友歩/浪江町役場 産業振興課 産業創出係 副主査

渡邉友歩・副主査

―浪江町はゼロカーボンシティ宣言や水素タウン構想を掲げています。経緯を教えてください。

渡邉 2020年3月7日に、福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が町内に落成しましたが、水素を社会実装するにはまだまだ課題は多くあります。そのため「町全体を実証フィールドとして使ってもらい、社会実装につなげてもらいたい」との思いで、同年11月20日に水素タウン構想を立ち上げました。現在は多くの実証が町内で行われています。

―どのような実証ですか。

渡邉 当町では道の駅「なみえ」への燃料電池導入、公用車に水素燃料電池車「MIRAI」の導入、電柱など既存インフラの上に水素のパイプラインを敷設する実証、生協トラックによる水素の運搬実証、町内における水素サプライチェーン構築に向けた実証、水素活用も視野に入れたRE100産業団地の計画、民間事業者とも連携した水素ツーリズム―など、計7つの水素を活用した取り組みおよび実証が行われています。

 特に、道の駅での燃料電池はFH2R由来の水素をトラックで運搬し、施設内の電源や温水のエネルギー源として活用しています。また柱上に水素パイプラインを敷設する実証は、ブラザー工業や横浜国立大学、巴商会がパートナーとなり、RE100産業団地や町内への活用を目指しています。来年度からは、ビジネス化も本格的に検討していきます。

研究機関・民間とも連携 水素社会実現に町も尽力

―昨年10月26日には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、今年1月18日には住友商事と水素活用に向けた協定を締結されました。

渡邉 まず、NEDOと締結したのは、FH2Rの水素を町内で広く使うことに加えて水素を広くPRするという内容です。住民からも「地元で作られるエネルギーを地元のために使いたい」という意見は多く寄せられています。水素を地域で有効活用すると同時に、観光資源化に向けても取り組んでいきたいと考えています。

 住友商事は当町と関係が深い企業です。約4年前に当町の避難指示が一部解除されたのち初めて工場を建設したのが、電気自動車(EV)バッテリーをリサイクルする住友商事と日産自動車の共同出資により設立された「4Rエナジー」でした。協定では復興まちづくりに加え、さまざまなFCモビリティが使えるマルチ水素ステーションの整備を目指しています。

 町内各地では水素関連の実証が行われていますが、やはりFCモビリティに水素を充填するスタンドを求める町民はとても多くいます。現在は検証・調査段階ですが、地産地消のエネルギーを住民が使えるようにするためにも、実現に向けてしっかりと取り組んでいきます。

―水素社会の実現に向け、意気込みをお願いします。

渡邉 浪江町は原発の事故で大きな被害を受けました。町としても水素という新しいエネルギーを使い成長したいと考えています。

 水素社会の実現は10年、20年掛かる長期的な取り組みです。水素社会を実現するには技術面だけではなく、市街地では大きな燃料電池に必要な水素を貯蔵できないなど法制度面の壁は大きいと感じています。当町や官民が連携することで課題をひとつひとつ解いていき、実証で終わらせずに人々の生活に溶け込こみ、地域の方々に喜んでもらえるよう取り組みたいです。

浪江町内では柱の上に水素パイプラインを敷設する実証も進められている

【特集3】革新的技術で脱炭素社会へ挑戦 メタネーションの研究開発を促進


2050年カーボンニュートラル実現には、都市ガス業界の脱炭素化も叫ばれ始めている。 水素・メタネーション分野でイノベーションを起こし続ける、大阪ガスの取り組みを紹介する。

大阪ガスは、燃料を燃やすことでCO2回収・水素製造・電化という、脱炭素社会に欠かせない三種を同時に実現する「ケミカルルーピング燃焼技術」の研究を、石炭エネルギーセンター(JCOAL)と共に進めている。

この研究は2020年11月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けている事業。そもそもケミカルルーピング燃焼技術とは、石炭やバイオマス燃料の燃焼に必要な酸素を金属酸化物(酸化鉄)から供給することで、追加的なCO2の分離・回収設備がなくても、高純度のCO2を取り出せる技術だ。

燃料を燃焼させ酸素を失った酸化鉄は、高温で水蒸気と触れさせると、水蒸気から酸素を抜き取り水素が生成される。また水蒸気と反応しても、なお酸素不足の状態にある酸化鉄は、再度空気に触れることで高熱を発しながら酸素を得て、燃料との反応前の状態に戻り再び一連の反応を繰り返すことができる。空気中の窒素は反応しないため高純度の窒素も得られる。

24年度末までの期間で取り組むNEDO委託事業では、石炭やバイオマス燃料をこの技術で燃焼させてCO2と気体水素を製造するプロセス実証試験を実施する予定だ。

グリーン水素も製造可能 自家発利用で資源を生産

大阪ガスのガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの横山晃太マネジャーは、「もともとは石炭のクリーンな発電技術としてJCOALが主体となって研究してきた技術ですが、バイオマス燃料にも応用できないかということで当社も実証に参画しています。水素の製造も行えるので、燃料を燃やして電気と熱を同時に生む『コージェネレーション』ならぬ、電気・CO2・水素、という三つの資源を生む『ポリジェネレーション』技術です」と胸を張る。

設備は①酸化鉄と空気中の酸素を反応させて高温の熱と窒素を発生する「空気反応塔」、②酸化鉄中の酸素が燃料と反応しCO2を発生する「燃料反応塔」、③燃焼後の酸化鉄が水蒸気と反応し水素を発生する「水素生成塔」から成り、酸化鉄を①~③のプラントで繰り返し化学反応させる。

同委託事業実施期間に製作する試験装置に投入する燃料のエネルギー量は300kWで、水素の製造能力は毎時約35㎥。同社ガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの植田健太郎氏は「水を電気分解して製造する方式よりも、安価に水素を製造できるものと見込んでいます」と話す。

ポリジェネレーションのメリットは、安価に水素を製造できることだけではない。横山マネジャーは「この技術にバイオマス燃料を使った場合、グリーン水素および電気だけではなく、CO2や窒素を製造できます。工場などに導入すれば設備をCO2フリーの電気で動かせるだけではなく、産業用途にも水素やCO2の地産地消を行えます」と説明する。

ビジネス化に向けては、工場向けに設備を導入し、同社がエネルギーマネジメントサービスの提供を行うことや、集中型のプラントを建設して各種製品を市場に販売することなどを視野に入れている。25年以降の商用化を目標に研究を進めていく構えだ。

ケミカルルーピング燃焼技術の仕組み

【特集1まとめ】カーボンゼロの衝撃 百家争鳴の業界事情を探る


欧州を震源地とした世界的な「脱炭素化」のうねりに、日本も飲み込まれた。
政府はカーボンニュートラル(実質ゼロ)に向け「グリーン成長戦略」を策定し、
これまで随所で掲げてきた「経済と環境の好循環」を改めて旗印に立てた。
電力、ガス、石油などのエネルギー企業はいよいよ本格的なビジネス転換を迫られる。
その一方で、業種業態によって実質ゼロ政策に対する温度差も浮き彫りに。
「脱炭素」を積極的に取り込み、業界・企業の成長に結び付けることができるのか。

掲載ページはこちら

【レポート】迫られるエネ産業の構造転換 道のり険しく業界別に温度差

【アンケート】「実質ゼロ」は夢物語なのか? 業界関係者が語る本音の話

【コラム/3月1日】脱炭素社会の実現に向けて、誰でもできる簡単なこと


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

当社は、一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(略称:REASP「リアスプ」)という業界団体を、発起人会社の1社として、2019年12月に設立した。

2020年1月に同協会設立の記者発表会を行い、大勢のメディアの方にご参加いただいた際、記者の方から「協会として再エネに関して何か数値目標のようなものはありますか?」という質問を受けた。その際、当社の代表取締役であり、同協会の代表理事である眞邉勝仁が「個人的な見解ではありますが、2050年には再エネを半分以上にしたい」と回答し、会場が「オオー」という雰囲気に包まれたことを今でも覚えている。

それが、つい1年ちょっと前のこと。その後、20年6月「エネルギー供給強靭化法」の成立、10月に菅首相の「2050年カーボンニュートラルの実現を目指す」という所信表明演説など、再生可能エネルギーに対するモメンタムはすっかり変わったのではないだろうか。

2020年というのは、もしかしたら、数十年後に日本が脱炭素社会の実現に向けて、大きく舵を切った年として認識されることになるかもしれない。

脱炭素社会の実現は、誰が主人公(当事者)なのか?

では、2050年カーボンニュートラルの実現は、誰が担うのだろうか。

昨今、世界中のどこかしこで連日環境問題が取り挙げられている。日本国内においても、ウェブやTVのニュース等で、脱炭素、再生可能エネルギーに関する話題を見ない日はない。ただ、それらの情報が、政府や自治体、一部の企業が掲げる目標自体が独り歩きしており、日常生活のシーンでは「何か他人事のように感じさせてしまっているのでは?」と、立ち返ると感じてしまうのは私だけではないと思う。

裏を返すと、その実現のためには、1人1人が「自分がその主人公(当事者)である」という意識を持つこと、それが脱炭素社会の実現に向けて一番大事なことの一つだと理解し、行動することが本質なのではと感じている。

1人1人が主人公(当事者)になるためにできること

ただ、環境問題は総論、興味がある、何かしなくてはいけないと多くの方が意識、無意識を問わず思うところではあるものの、具体的に何をしたらよいのかイメージが沸かないというのが本音ではないだろうか。

ところで、これを読んでくださっている方にご質問させていただく。

質問その1「月の電気代はいくらなのか?」

質問その2「ではその電気代に対する『電気の使用量』はどのくらいだろうか?」

実はこの質問は、私が打ち合わせの時や採用面談、学生向けのインターンシップなどで実際に聞いていること。電気代がいくらなのかは、(請求書は見ているので)5千円くらい、1万円くらいと答える方は、ある程度いる。しかし、使用量に関しては私の個人的見解ですが、8割以上の方が気にしていないような印象を受けている。単位すら正確に覚えていないのでは?(ワット? アンペアでしたっけ? という会話も(笑))

このやり取りの後に私は、こう続ける。例えば、月1万円の電気代を払っているとすれば、地域によって違うが、東京ではおよそ単価は27円/kW時で、350~400kW時/月くらいの消費量になる。仮に400kW時/月の電気を使用しているとすると、日本の場合、その4分の3くらいが二酸化炭素を排出している化石由来の電源である、つまり300kW時の電気は、便利な生活を享受するための引き換えとして、二酸化炭素を出していることになる――と。

そうすると聞いている方は、ぐっと「自分が電気を使う際に二酸化炭素を排出しているんだ」という感覚になるわけだ。私は、この感覚、すなわち毎月請求書(スマホアプリで見れる!)を見て、金額だけを確認するのではなく、「絶対量(数字)を意識する」という習慣を1人1人が持つことこそが脱炭素社会の実現に向けて大事なことだと確信している。

電気の消費者(需要家)として、100%でなくても10%、20%、それは個々の事情に合わせて電源を選択したいという意識変化が生まれ、徐々に脱炭素社会に向けて動き出すのではないだろうか。

「本を探すなら、アマゾンで検索」ではないが、電気の使用量を意識し、そのうちどのくらい二酸化炭素を排出しない電源なのかをチェックするといったマインドシェアができたら、脱炭素社会の実現はできると考えている。これはほとんどの方がやっていないが、実は、お金もかからない、誰でも今すぐできること。当社もその一翼を担いたいと考えている。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

脱炭素技術に2兆円投入 「見掛け倒し」との批判も


再生可能エネルギーの主力電源化に2105億円、カーボンニュートラルに向けたイノベーションを図るために2兆円の基金―。コロナ禍で実体経済が低迷する中、経済産業省は2021年度および20年度第三次補正予算を昨年12月21日に策定した。

最大の注目は2兆円にも上る環境投資基金だ。これは次世代蓄電池、水素サプライチェーン、CCUS、カーボンリサイクルなどの脱炭素に資する研究開発を、NEDOを通じて10年間継続的に支援するというもの。同基金は「菅首相の肝いり」(与党政治家)とも言われており、文字通り政府を挙げた一大施策といえるだろう。

だが、同基金は2兆円と銘打っているものの、この数字は10年間にわたり交付される金額の総計。単年で考えると2000億円にとどまり、前述の再エネ主力電源化予算に費やす額とそう大差ない。業界関係者からは「経産省や政治家は、国内外に対し、『われわれも脱炭素に本気で取り組んでいます』とアピールしたいのだろうが、見掛け倒しだ」との声も聞こえる。

そもそも、経産省の再エネ関連予算には「技官のおもちゃ」との批判も付きまとう。この2兆円が、国策という笠を着て露と消えないことを願いたい。

【FEワイドまとめ】静岡県のエネルギー事情最前線


静岡県では、大都市圏に近い立地環境などから多彩な産業が発達している。
こうしたことを背景に、エネルギー政策と経済活性化との両立が必須だ。
企業同士、または産学官の「連携」による新ビジネス創出への動きが始まっている。

掲載ページはこちら

【レポート】経済活性化との両立を図る 「連携」による新ビジネス創出へ

【静岡ガスグループ】始まった島田市との公民連携 独自スキームで支えるSDGs

【鈴与商事】新たな柱として電力事業拡大 再エネを軸に県内事業を手掛ける

【TOKAI】電気と生活水を自給自足で反響 全国にOTSハウスを展開

【トキコシステムソリューションズ】地域貢献果たしてインフラ支える 賢い水素ディスペンサーでコスト減

【川根温泉】温泉とともに湧出するガスを活用 コージェネでホテルなどにエネ供給

【特集2まとめ】ゼロエミ火力への号砲 存亡かけた技術開発事情


菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、
エネルギー業界の脱炭素化対策が待ったなしだ。
中でも急務なのが、大型火力のゼロエミッション化である。
発電技術からCO2処理、次世代燃料まで領域は幅広い。
エネルギー安定供給や経済合理性との両立を視野に、
各社は火力の存亡をかけた挑戦を本格化させている。

掲載ページはこちら

【レポート】脱炭素化と安定供給を両立へ 革新的技術の早期実装目指す

【インタビュー/小川要(資源エネルギー庁)】火力電源の脱炭素化へ政策支援 オールジャパン体制で挑む

【座談会】求められる「急がば回れ」の議論 火力本来の機能で脱炭素化に対応

【インタビュー/奥田久栄(JERA)】再エネとの相互補完が不可欠 まずはアンモニア混焼を先行

【レポート/シーメンス・エナジー】天然ガス火力でもゼロエミ化 「オール水素化」を目指す

【レポート/三菱パワー】水素・アンモニア・AIの三本柱 三菱重工グループで脱炭素に対応

【インタビュー/中垣隆雄(早稲田大学)】研究進むCO2分離・回収 日本の技術には大きな可能性

【レポート/東芝エネルギーシステムズほか】バイオマス発電所でCCS 「カーボンネガティブ」を実現

【レポート/日本CCS調査】国内でのCO2処理を追求 30万tの圧入に成功

【レポート/川崎重工業、RITEほか】CO2回収に新技術を採用 期待される低コスト化への道

【レポート/IHI】アンモニア混焼でCO2を削減 石炭火力で実現する燃焼技術

【トピックス/電源開発】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用

【特集2】CO2回収に新技術を採用 期待される低コスト化への道


レポート/川崎重工業、RITEほか

CCUSの課題に対し、川崎重工業、地球環境産業技術研究機構(RITE)が実証を行っている。

これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先進的二酸化炭素固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」に採択されており、石炭火力発電所で発生するCO2を分離・回収する内容。これまでRITEは基礎研究(2010年度~14年度)を行い、日量3㎏のCO2分離・回収を達成。その後、川崎重工の工場内で日量7tのCO2分離・回収試験を実施(15年度~19年度)した。今回は、石炭火力発電所に日量40tにスケールアップしたベンチプラントを設置し、石炭燃焼排ガスからのCO2分離・回収に取り組む。

各社の役割は、川崎重工がパイロット設備の設計・建設、およびCO2分離・回収試験を、RITEは使用する固体吸収材の大量製造技術および性能分析などを担当する。また関西電力が試験を行う舞鶴発電所内の敷地を提供し、実際に運用されている石炭火力発電所での実証試験に協力している。

回収に固体吸収材を使用 コスト大幅減の可能性

最大の特徴は、CO2を吸着する性質を持つアミンを含有した球形の多孔質セラミックを利用してCO2を分離・回収する「固体吸収法」を採用している点だ。実証に用いるCO2は、脱硝装置、電気集じん器、脱硫装置などを通過し、煙突から大気中に放出される排煙の一部を使用する。

「吸収塔」で固体吸収材を用いて排煙からCO2を回収し、「再生塔」で吸収材に蒸気を流してCO2を分離。その後、「乾燥塔」で吸収材を乾かした後に吸収塔に戻して再利用する。川崎重工が開発した「KCC移動層システム」だ。

既存のCO2回収法は、アミンなどを含む溶液にCO2を吸収させて分離し、その溶液を加熱して回収する「化学吸収法」が主流だが、CO2を吸収する媒体が液体のため分離に必要な熱量が高く、回収コストが高くなってしまう。実際、1t回収するのに約2.5GJもの熱量を消費する必要があり、設備などの建設費用などを含めると、CO2を1t回収するのに4200円もの費用が掛かるといわれている。

対して固体吸収材の場合ではCO2を吸収する媒体が固体で比熱が小さく、溶液の蒸発に伴う潜熱も要しないため、コスト低減が可能。実証でも熱消費量を1.5GJまで引き下げ、コストを2000円台にすることを目指している。本実証研究では、CO2を日量40tの規模で分離・回収するが、将来的には本技術をスケールアップした実用設備によって、CO2の排出削減に貢献する見込みだ。

KCC移動層システムの概要図(画像提供:川崎重工業株式会社)