「東西」での原子力稼働状況の違いが、近年のエネルギー危機への耐久性の差として顕在化している。原子力を巡る状況が株式市場にどのような影響をもたらすのか、さまざまなデータを基に解説する。
荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト
本稿では、株式市場の観点から、原子力発電の稼働による電力会社への(ポジティブな)影響を整理する。
まず、現在の原子力発電の稼働の状況を整理する。2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故後に、日本政府は原子力に関する規制ルールを改革した。このため、14年度に国内の原子力の稼働基数はゼロになった。現在(23年9月11日)までに再稼働させた電力会社は、関西電力、九州電力、四国電力の3社である。これら3社の原子力の所在地は、全て西日本である。
原子力の稼働によるポジティブな影響は、①電力の安定供給への寄与、②発電コストの低減、③CO2排出量の削減―の3点である。順次解説していく。
再稼働が供給余力を左右 関西・九州は規制値上げせず
第一の原子力稼働のポジティブな影響は、その稼働が電力の安定供給に寄与することである。
新たに原子力の稼働が増加することは、電力需給バランスにおける電力供給力が拡大することを意味する。このことは、電力の安定供給の余裕度を高めることに寄与する。一般的に、原子力発電の1基当たりの発電能力は相対的に大きいため、その稼働により電力供給力が高くなる。

例えば、夏の電力需要ピーク時の電力需給バランスの試算を見てみる。電力広域的運営推進機関の電力需給検証報告書(23年5月発表)が、23年度夏季の電力需給見通しを示している。
同報告書によると、23年8月の供給予備率の見通しは、西日本(中西6エリア)が12.0%(供給予備力1116万kW)である。この供給予備率は、東日本(東3エリア)の5.5%(供給予備力432万kW)よりも高く、供給余力があることを示している。
供給余力が高い方が、気温上昇などによる電力需要量の増加や、発電所トラブルによる供給力の低下などの緊急時の状況に対応しやすくなる。同見通しでは、23年8月の原子力供給力は、西日本で955万kW(関西電力、九州電力、四国電力)、東日本で「なし」と想定されている。西日本と東日本の供給予備力の差異は、稼働可能な原子力の発電能力の違いになっていると考えられる。
第二の原子力稼働のポジティブな影響は、火力燃料コストの削減要因になることである。
一般的に、原子力の発電コストは火力の発電コストよりも安い。このため、電力需要量を一定とすると、原子力の発電量が増加することは、その分の火力発電量が減少(火力燃料の消費量の減少)することになる。
例えば、関西電力のケースを見てみる。22年度決算説明資料(23年4月27日)によると、23年度会社計画の費用への影響額として、原子力利用率が1%上昇すると、経常費用は56億円減少するという試算が示されている。23年度の利用率の会社前提は70%程度である。従って同計画では、原子力稼働による費用抑制効果は、約3920億円(=70×56億円)と試算される。なお、同計画の23年度の前提は、全日本原油CIF価格1バレル85ドル、為替レート1ドル135円である。
22年度は、LNGや石炭、石油といった火力燃料の輸入価格の大幅上昇などを背景に、多くの電力会社が、規制部門の電気料金の値上げ申請を政府に対し行った。火力燃料の輸入価格が大幅に上昇した要因は、火力燃料のドル建て価格の上昇だけでなく、為替レートの円安もあった。前述の関西電力の決算資料によると、22年度の全日本原油CIF価格は同102.7ドル(21年度77.2ドル)、為替レート同135円(21年度112円)だった。
この中で、22年度に関西電力と九州電力は、規制部門の電気料金の値上げ申請を行わなかった。両社が値上げ申請を行わなかった主な要因の一つは、他の電力会社と比較して、原子力稼働による火力発電量の削減効果が、火力燃料の輸入価格の上昇による悪影響を抑制できたことと、当社では考える。














