【特集2まとめ】電力業界令和の挑戦 カーボンニュートラル実現に向けて


菅義偉首相は昨年、2050年カーボンニュートラルを宣言した。
電力業界は総力を挙げてカーボンニュートラル実現に挑んでいく。
エネルギー供給では電源の脱炭素化、需要面では最大限の電化の推進―。
令和の時代、電力業界による壮大な挑戦が始まった。

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【レポート】温室効果ガスの約4割を排出 CO2削減で果たす大きな役割

【対談】カーボンニュートラルの達成 電源の脱炭素化と電化で実現へ

【寄稿】脱炭素化へ克服すべき課題 第一人者から「六つの提言」

【特集1まとめ】亡国のエネルギー基本計画 政治事情に揺れる戦略なき審議


2050年カーボンニュートラルや、国別目標の大幅引き上げなど、
政治事情に翻弄され続けた第六次エネルギー基本計画。
これまで以上に実現可能性に乏しいシナリオが示され、
長年放置された政策課題にも再び目を閉ざした。
国益につながるエネルギー政策は、いつになれば示されるのか。

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【レポート】画餅化が加速した第六次計画 シナリオづくり難航で不要論も

【インタビュー/市村 健:エナジープールジャパン】非連続改革・創造的破壊が不可欠 エネ基本法の根幹は「安定供給」

【寄稿/野村浩二:慶応義塾大学産業研究所】高価な技術の拙速な選択は悪手 成長との両立へ政策大転換を

【座談会】政府審議会の有力委員が解説 エネ基見直しのポイントと課題

【特集2】地産地消支える国産調達 技術開発と熱利用が不可欠に


インタビュー/久保山 裕史:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業経営・政策研究領域領域長

エネルギーの地産地消を支えようと、国産木質バイオマスの需要が高まっている。国内林業の現状と日本が抱える課題について、森林総合研究所の久保山氏に話を聞いた。

くぼやま・ひろふみ 1992年東京大学大学院農学系研究科修了。農林水産省林野庁森林総合研究所配属。同研究所東北支所、内閣府総合科学技術会議事務局を経て2018年4月から現職。

―現在、発電用に国産木質バイオマスはどれだけ活用されていますか。

久保山 木材チップや木質ペレットなどの木質バイオマスは①建築廃材などを利用した「産業廃棄物系」、②製材工場などで発生する「林産企業系」、③人工林の間伐材などを利用する「森林系」に大別されます。林野庁が行った木質バイオマスエネルギー動向調査によると、それぞれエネルギーとして事業所で利用されている量は、①406万t、②171万t、③303万tです。①は住宅着工件数が長期的には減っていくので増加するとは考えにくいですが、国内産木質バイオマス供給量を増やすことを考えた場合、②と③に改善の余地があると考えます。

―②について教えてください。

久保山 日本では②の使用量が最も少ないですが、木質バイオマス利用が進む欧州では使用量の半分が工場由来です。つまり②をどう増やすのかが木質バイオマスが普及する上で重要ですが、伸びない理由の一つに発電事業者が製材過程で発生するバーク(樹皮)の利用を避けている点があります。

 樹皮には泥や土が混入しやすく、水分が高いという欠点があるため、一部の発電事業者がほかの燃料と混ぜるなどして利用を始めつつある段階です。また製材工場では木材の乾燥工程の熱源などに樹皮を使っていますが、ボイラーや乾燥釜の熱効率が低いため、残念ながら他所へ販売する分が残りません。

―③の森林系はどうですか。

久保山 ③の森林系については、いまだに未利用の末木枝条や端材(タンコロ)を利用することが重要です。

 丸太のまっすぐな部分は建築用材、多少の変色や曲がりがあるのは合板や集成材に使われ、それぞれ「A材」、「B材」と呼ばれています。この基準に満たない曲がりやひび割れなどがあるものや、小径木は、パルプ材やバイオマス燃料になる「C材」として扱われます。

 立木の根元に近いタンコロと呼ばれる部分や、末木と呼ばれる細い先端部や枝など「D材」と呼んでいる部分は未利用のままです。これは、かさばるので運搬しにくい、樹皮と同様に異物が多い、水分含有量が高いことが主な理由です。

【特集2まとめ】脱炭素を支える分散ベース電源 バイオマス発電の底力


技術の進歩と燃料サプライチェーン網の構築が進んだことで、
バイオマス発電に参入する事業者が相次いでいる。
行政も地域に根差した安定電源になるよう制度設計を行っている。
バイオマス業界の最新動向に迫った。

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【レポート】バイオマス業界の変化 重要視される「持続可能性」

【インタビュー/久保山裕史:森林総合研究所】地産地消支える国産調達 技術開発と熱利用が不可欠に

【レポート/広島ガス】環境配慮型の発電事業 地域連携を果たし活性化

【レポート/日鉄エンジニアリング】ごみ処理発電で地産地消電力 脱炭素化への貢献に全国が注目

【インタビュー/松本尚武:静岡ガス】地域課題解決へ再エネ事業に注力 プロジェクトに参画して知見を得る

【インタビュー/猪俣晃二:エア・ウォーター】防府・小名浜に大型発電所建設 将来はCO2ゼロ電源として活用も

【トピックス/岩谷産業】FIT制度で事業環境が急変 燃料の国内供給を裏で支える

【特集2】防府・小名浜に大型発電所建設 将来はCO2ゼロ電源として活用も


インタビュー:猪俣晃二/エア・ウォーター 上席執行役員 電力事業部長

猪俣晃二氏

―エア・ウォーターはかねてからバイオマス発電事業に取り組んでいます。

猪俣 当社は山口県で防府バイオマス・石炭混焼発電所(11万2000kW)と福島県で小名浜バイオマス専焼発電所(7万5000kW)の2カ所を運用しています。また長野県安曇野市では自社農園の付帯設備に県産未利用材を使ったバイオマスガス化発電設備(2000kW)を導入しています。

―安曇野市の事例はどのような取り組みですか。

猪俣 一般的に農園では、野菜や果物の成長を促すために温水や液化炭酸ガスを使います。当社はバイオマスガス化発電設備で発生する温水とCO2を農園で利用するトリジェネレーションで、地産エネルギーを最大限活用する取り組みを行っています。

設備稼働率は90%超 発電には県産木材も利用

―防府発電所を建設した経緯を教えてください。

猪俣 防府は石炭とパームヤシ殻(PKS)および木質チップを混焼する発電所で、2019年7月から運転を開始しています。なぜ当社がバイオマス発電に参入したのかというと、11年に東日本大震災が発生した影響で東日本を中心に電力需給のひっ迫という事態が起こりました。当社は産業ガスの製造過程で電力を大量に消費しています。

 大規模災害時など万一に備えたベース電源の確保や、自社の土地を有効活用するなどの観点で、14年ごろから発電所を建設できないかと模索し始めました。

―これまでエア・ウォーターは発電所を運営した経験はありませんでした。燃料調達を含め、どのように運用していますか。

猪俣 防府発電所は中国電力との共同事業で、技術系の社員は同社からの出向です。燃料の石炭は中国電力子会社から、バイオマス燃料はインドネシア産のPKSを商社経由で輸入しています。PKSは山口県周南市に中継基地があるので、そこから防府まで内航船で運んでいます。木質チップは山口県産の未利用材などを利用しています。

―運開から2年ほどがたちました。稼働状況はどうですか。

猪俣 当初の想定を大きく上回る、90%近い稼働率を誇っています。ボイラーはバイオマス発電所で多く使われている循環流動床ボイラーを採用しました。同ボイラーは高温の砂がボイラー内で循環する仕組みで、バイオマス燃料も問題なく燃焼できるのが大きな特長です。木質チップやPKSのような燃料は微粉炭のように細かく砕く必要はありません。

【特集2】バイオマス業界の変化 重要視される「持続可能性」


参入者の多様化、輸入燃料に第三者認証が必須となる中、バイオマス業界は大きく変化している。国内木質バイオマスの振興に向けては、省庁の垣根を越えて取り組みが活発化し始めた。

バイオマス発電のFIT認定件数および導入出力総計(2020年12月末時点:資源エネルギー庁資料より作成)

日照量や風量に左右されず、安定的な再生可能エネルギーとしてバイオマス発電が注目されている。

固定価格買い取り制度(FIT)で収入が保証されていることに加え、①プランテーションで本来捨てられていたパームヤシ殻(PKS)や、木材を粉砕して固形燃料化した木質ペレットのサプライチェーンが発達したことで発電所の大規模化が可能となった、②CSR(社会的責任)、ESG(環境・社会・統治)投資など社会的道義を意識した経営手法が重要視されるようになった―など、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化したことを背景に、FITの認定件数(未稼働・稼働含む)は1414件、認定および導入発電出力は1202万2000kW(ともに2020年12月末時点)にまで達した。

急成長を遂げた理由には、FIT制度で多様な業界から事業者が参入してきた点が挙げられる。当初は旧来の電力会社や新電力に加え、都市ガス、LPガス、石油、商社といったエネルギー業界が中心だったが、ここ数年は金融、化学、建設、不動産など異業種の名前も目立ち始めた。

林業と関わりの深い建設業界では、業界トップの清水建設と大林組が発電事業に参入している。清水建設は合弁事業会社を通じて、20年7月に約2000kWの発電所に木質チップの製造工場を併設。地域の森林組合や生産者から間伐材やマツクイムシなどの被害材を購入して運用している。自社の収益増進や地球温暖化対策のみならず、林業の振興や地域創生にも資する事業が増え始めている。

国産バイオマスの可能性 エネ庁と農水省が研究会

政府も国産バイオマス振興に向けた取り組みを活発化させている。

資源エネルギー庁と林野庁は20年7月から「林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会」(座長=久保山裕史・国立研究開発法人森林研究・整備機構)を開催。森林の持続可能性確保と、木質バイオマス発電事業の自立化を両立する上で何が論点になるかについて、同年10月に報告書を取りまとめた。

現在、バイオマス発電の増大に伴い、林業事業者からは「発電用燃料需要の増加の影響で、木材価格の上昇や供給ひっ迫を招くのでは」との懸念が寄せられている。

対策として、報告書は①これまで捨てられていた森林残材の活用や燃料採取を目的とした早生樹の研究開発、②広葉樹林の活用による供給量の増大、③FIT認定時に既存産業への影響が出ないようチェック強化―などが重要だと指摘した。実際の政策にも反映されており、燃料調達を目的にした早生樹の研究は、経済産業省が21年度予算で12億5000万円を初めて計上。実用化に向けて農林水産省とも連携しながら研究を進める構えだ。

さらに報告書では、FITに頼らない発電所運営として熱を地域に供給する「熱電併給」の重要性も語られている。発電所から近接する製材工場や農園に熱を供給するケースもあるものの、FITで売電するだけで熱は未利用というケースが圧倒的に多い。

この問題を解決するためには、事業者と需要家双方の理解も重要だが、自治体や経産省、農水省、環境省などの関係官庁も協力しながら、熱需要を軸に据えた都市計画を作成する必要もある。

【特集1まとめ】電力不足の真相 供給責任不在がもたらす国難


去る冬場に続き、今年度の夏と冬も電力需給ひっ迫の警報だ。
電力システム改革の進展に伴い、安定供給を支えてきた火力が不採算化。
想定を上回るスピードで休・廃止が進んでいることが背景にある。
原発再稼働が停滞する中での再エネ大量導入も不安定化に拍車を掛ける。
停電・価格高騰のリスクは脱炭素化に向けた電化シフトを阻害することに。
システム改革のツケ、供給責任者の不在がもたらす国難の真相に迫る。

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【アウトライン】供給力減少が誘発する停電危機 システム改革で責任主体不在の死角

【レポート】日米欧の電力需給状況を検証 供給信頼度の評価と対策

【覆面座談会】需給ひっ迫は繰り返されるのか 脱炭素偏重のエネルギー政策を斬る

【インタビュー/小川要・資源エネルギー庁】発電と小売りのニーズをマッチング 火力電源の過剰退出に歯止め

【インタビュー/松村敏弘・東京大学】新設市場の創設は意義ある対策 大改革につながることを期待

【特集2まとめ】電力ガス強靭化の「佳境」 全国で加速するインフラ整備


電力・都市ガスの大型インフラが全国各地で完成時期を迎えている。
電力では、東日本大震災以降のレジリエンスの向上や、
再エネ大量導入時代を見据えた系統インフラの能力増強が進展。
都市ガスでは、東京ガスの日立LNG基地やパイプライン網の完成など、
天然ガスの供給力を強化するインフラ整備が各地で進んでいる。
盤石な安定供給網へ―。最新の取り組みを追う。

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【プロローグ】全国で進むネットワーク強靭化 実現の陰にある知恵と工夫

【レポート/東京電力・中部電力】日本の電力支える直流幹線 東西間の融通能力が向上

【コラム/東京電力パワーグリッド】再エネ電気を有効活用 新時代の系統運用が可能に

【インタビュー/洞浩幸・中部電力パワーグリッド】エリアを越える電力融通のために 皆の強い使命感で計画を達成

【レポート/九州電力送配電】災害対策・省力化に注力 九州一円を守る日向幹線整備

【コラム/九州電力】建設から点検まで大活躍 電力で活用が進むドローン

【インタビュー/大山力電力広域的運営推進機関】安定供給に資する制度設計 長期的視点で電力システム構築

【寄稿/金田武司・ユニバーサルエネルギー研究所】自由化時代のエネルギーインフラ考 日米電力危機に学ぶ安定供給対策

【レポート/東京ガス】ガスネットワークの集大成 着実に歩んだ究極への道

【レポート/大阪ガス】「尼崎・久御山ライン」を新設 関西圏の供給安定性を強化

【レポート/西部ガス】難工事を乗り越えた九北幹線 福岡の暮らしを支える導管網

【トピックス/日鉄パイプライン&エンジニアリング】パイプライン敷設工事を効率化 検査時間を従来から半減

【トピックス/理研計器】ガス検知器が高性能かつ多機能へ スマート保安でニーズ有り

【特集1まとめ】再エネ規制緩和の落とし穴 翻弄される地域の現場事情


菅政権が錦の御旗に掲げる「再生可能エネルギー最優先」政策の下、
関連規制の総点検、地球温暖化対策推進法の改正が予定される。
しかし各地では、悪質事業による問題が絶えない太陽光や、
今後の主軸と期待される風力を巡るさまざまなトラブルが発生。
地域と共生し社会に受容される形での「再エネ主力化」はかなうのか。
正念場を迎える再エネ政策と、翻弄される地域の実情に迫った。

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【アウトライン】再エネを取り巻く立地制約にメス 省庁横断・急ピッチで進む制度改正

【レポート】太陽光に地域住民の根深い不信 主力化担う風力で二の舞い防げるか

【座談会】拙速な規制緩和の決断に待った! 「再エネ優先」リスクを徹底討論

【特集2】レジリエンス向上や再エネ拡大 次世代スマートメーターへの期待


2024年度末の完了に向けて、全国で設置が進むスマートメーター。これと切り替わるように今後は次世代メーターの設置が始まる。現在、その仕様が国で議論されているが、今後の動向を聞いた。

インタビュー:山中悠揮/資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課 電力産業・市場室 室長補佐(企画・市場制度担当)

やまなか・ゆうき 2011年経済産業省入省。経済産業政策局、復興庁、産業保安グループ・保安課・高圧ガス保安室室長補佐などを経て19年から現職。

――現在、大手電力各社はスマートメーターへの更新を進めています。取り組みをどう評価しますか。

山中 スマートメーターは2014年から本格導入が開始され、日本全体では24年度末の導入完了に向けて、順調に導入が進んでいると理解しています。アナログメーターがスマートメーターに置き換わることで検針業務の合理化が図られるだけではなく、近年の激甚化する災害の中で、電柱から各家庭への引込み線などで発生する隠れ停電の検知や、メーターのデータを基にした見守りサービスの提供も行えます。

――政府は「次世代スマートメーター制度検討会」が行われています。どのような内容ですか。

山中 電力メーターは送配電事業者が設置していますが、その検針値は小売電気事業者や発電事業者に提供されています。次世代スマートメーターは24年度から順次導入を進める予定ですが、送配電事業者や小売電気事業者などによる活用に限らず、将来の電力事業に関わる事業者のデジタルトランスフォーメーションを推進する観点から議論が行われました。

停電復旧の効率化に期待

脱炭素社会にも貢献

――次世代スマートメーターに期待することは何がありますか。

山中 次世代スマートメーターでは取得データを増やすとともにデータ活用を進めようとしています。

 例えば、電力メーターを設置した需要家が停電した際に送配電事業者に警報を送るLastGasp機能が追加されます。これにより、送配電事業者は需要家ごとの停電状況を即座に把握でき、停電からの復旧の効率化が可能となります。

 次に、電力量や電圧の5分値の情報を送配電網の運用などに活用できるようになり、送電時の電力ロスの削減や、CO2削減、更には高度な運用管理による再エネの接続可能量の増加が期待できます。地域の再エネを使ったマイクログリッドなどの新ビジネスへの活用も考えられます。

 加えて、海外のスマートメーターとの比較検討も行いました。計量値の小売電気事業者への通知時間は、欧州でも北欧の一部の国を除けば、数時間に一度の通知が多い中、日本では60分以内に小売電気事業者などへ届けることとしています。計測粒度は需給調整市場などの取引単位の見直しに備え、30分単位を15分単位にソフトスイッチで見直せる仕様としました。また1分値をHEMSなどを介してリアルタイムで取得する際の欠損の改善も議論されました。

――今後の論点にはどのようなものがありますか。

山中 検討結果を踏まえ、各送配電事業者がコスト低減や仕様統一化、柔軟なアップグレードを可能とする仕様などを検討し、国としてもフォローアップする予定です。今後、EVや再エネの導入が一層進みます。充電器やパワーコンディショナーの計量機能を取引又は証明に使用できる「特定計量制度」が22年度にスタートする予定です。特定計量制度に基づく計量器の計量値をスマートメーターシステムに取り込む具体的な方法についても、引き続き検討していくこととされています。 さらに、低圧だけではなく、発電向け、高圧、特高向けメーターの機能の検討も行う予定です。カーボンニュートラル実現には、より発電や高圧需要家のメーターデータの活用が重要となります。電力事業のデジタルトランスフォーメーションへの貢献に向け引き続き議論を継続していきます。

【特集2】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創


【SBパワー】

ソフトバンク子会社のSBパワーと九州電力が共同で、アプリを通じて上げ・下げDRを行う実証事業を実施している。ユーザーが自発的にDRに協力する共同実証は日本初の事例だ。

SBパワーは、スマートメーターの30分値、気象情報、世帯情報を活用し、需要予測や電力使用量の分類、電力使用パターンが類似している世帯のグルーピングなど、リアルタイムで電力ビッグデータを分析するプラットフォームの構築を進めている。

そうした中、同社はこのプラットフォームで得る情報を基に、事業者向けにはマーケティングツールを提供するほか、電力小売りプラン「おうちでんき」などを契約する一部ユーザーを対象に、スマートフォンアプリを介してデマンドレスポンス(DR)を行う実証を2020年7月から9月(夏期実証)、12月から今年2月(冬期実証)の2回にわたり実施した。

上げ下げDR実証を開始 顧客との交流機会も創出

実証では、SBパワーがアプリ上でユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時にかけて節電(下げDR)をお願いします」とDR指令を発出する。ユーザーはその指令に応じてテレビをオフにする、不要な照明を消す、空調の温度を調整する――など指定時間の電力消費量を減らすことでDRに参加。

指令をクリアすると節電量に応じたポイントが獲得でき、得られたポイントはキャッシュレス決済サービス「PayPay」のPayPayボーナスと交換できる。

同社エナジー事業推進本部の須永康弘・事業開発部長は「夏期実証では約4000世帯、冬期実証では約3万世帯が実証に参加しました。その結果、両実証期間中の電力削減量は1世帯当たり平均65W時(30分値)減少しました。これは平均的な電力使用量の19%に相当することから、専用アプリを通じた節電の呼びかけは有効だと考えます」と説明する。

ゲーム感覚で省エネおよび電力系統の安定化にも貢献できるのが大きな特徴だ。須永氏は「今回のようにスマホアプリの特長を生かした行動誘発型の電力サービスは今までにありません。お手元のスマホに節電協力の通知が届くとワンタッチで参加でき、あとは翌日に結果を受け取るだけのシンプルな設計がユーザーから高い評価をいただいています」と胸を張る。

今年2月からは、九州電力と共同で下げDRに加えて「上げDR」の実証実験も行っている。九州電力エネルギーサービス事業統括本部の安藤修章・営業企画部長が言う。

「九州では太陽光発電(PV)の導入拡大に伴い、春秋を中心とした軽負荷帯における再エネ電源の出力抑制の発生が増えており、再エネ電源をさらに有効活用するためにできることはないかという問題意識を以前から持っていました。また、出力抑制が発生する際は、電力卸市場価格がkW時当たり0・01円となることから、電力卸市場の価格動向を踏まえて電力需給を最適化し、供給コストの低減を図っていかなければならないという課題もありました」

電力価格が0.01円をつけることで再エネを含めた新規電源を整備するインセンティブが薄くなり、投資意欲が減退させられる問題もある。さらにDRによって電力が余る時間帯に需要を創出させることで、PVの出力制御を回避することにもつながるなど、既存の電源を有効活用するためにも上げDRは効果的だという。

実証への参加世帯は1万件に向かって順調に推移しており、それぞれ電気自動車(EV)や電気給湯機のエコキュートなどDRポテンシャルの高いリソースを保有している需要家と、そうでない需要家に分類。九州電力が提供する「九電ecoアプリ」からユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時に上げDRをお願いします」と指令を発出。

ユーザーは指定の時間帯に洗濯機を動かす、エコキュートで給湯する―など家電の稼働時間をずらして上げDRに協力し、指令をクリアするとポイントを獲得。集めたポイントはPayPayボーナスと交換できる。

アプリからDRに参加できる

【特集2】電力センサーで電気使用量を可視化 IoT機器の遠隔操作も可能


【エナジーゲートウェイ】

家電の利用状況を可視化できる(写真はeconowa)

 東京電力グループのエナジーゲートウェイは、分電盤に電力センサーを設置することで宅内にある家電の稼働状況を可視化するサービス「ienowa」を提供している。

 ユーザーは各家電の電気使用量がアプリ上で確認できるほか、市販されているスマートロック、スマートリモコンなど他社製のIoT機器と連携し、アプリ上で操作する機能も搭載する。

 事業者向けには「hitonowa」というサービスを提供しており、主にハウスメーカーでの採用が多い。同サービスにはienowaユーザーへのメッセージ機能や、ユーザーの電力使用状況など各種データを収集。ハウスメーカーでは家を建てた後に購入者との接点が少ないという課題を抱えていたが、この機能により本システムで得たデータを基に提案を持ち掛けられるなど、顧客との接点を増やせるマーケティングツールとしても活用できる。

 また、蓄電池や家庭用太陽光発電(PV)を保有するユーザー向けに「econowa」を3月31日に発表。アプリ上でPVや蓄電池、家電の電気使用量を可視化し、エコーネットライト規格にも対応している。荏原実業パワーが販売する蓄電池システムの見える化システムとしても採用されている。さらにhitonowaとの連携も可能。

エナジーゲートウェイの林博之社長は「今後はPVの自家消費分を環境価値として計測するサービスも提供する予定です」と展望を語る。  電力データを核に、脱炭素時代の新規ビジネスにも挑戦する構えだ。

林博之社長

【特集2】国内外の大手エネ事業者が採用 幅広い課題に応えるアナリティクス


【SAS Institute Japan】

経営環境の変化の波にさらされているエネルギー会社。営業戦略から需要予測、設備保全、人材育成に至るまで、データ活用でDXを幅広く支援するのが、SAS最大の特徴だ。

幅広い分野でサービスを提供するのがSASの大きな特長だ

 国内外の製造、金融、医薬品、通信、教育などさまざまな大手事業者向けにアナリティクス・ソフトウェアを導入しているSAS Institute。同社はソフトウェアの販売や社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたプランニング、デジタル人材の育成支援など、AIおよびアナリティクスに必要な一連の要素を一気通貫で提供している。

 最大の強みとしては、豊富なシステムのラインアップと、優秀なアナリストによる分析支援が挙げられる。エネルギー分野においても、需要家分析を踏まえた販売戦略の立案、管内の需要予測、自社設備の稼働管理、分析人材の育成――など、活躍の幅は多岐にわたる。

電力会社のDX化を支援 幅広い用途に強み

 海外エネルギー企業での導入事例も多いが、日本では大手電力を中心に採用されている。

 東京電力パワーグリッドでは、データ活用を推進すべく社内を横断した組織「データ戦略・高度化G」を設置した。設立に向けて社内の全部門と意思疎通を図りながらさまざまなデータ分析およびソリューションの提案を実施。データ活用による価値を創造する意義を推進したほか、データサイエンティストの育成にも取り組んだ。

 関西電力技術研究所とは、激甚化する災害に対するレジリエンス(強靭化)対策で連携。これまで配電設備への飛来物による二次被害をどう予測するかが課題だったが、空中写真や宅地情報などを利用した新たな学習モデルを構築した。これにより、カバーしきれていなかった宅地などで飛来物による電柱倒壊被害の予測モデルの共同研究を行った。

 同社ソリューション統括本部の小野恭平氏は、SASの強みについて「データ分析は継続的な取り組みです。自社人材で分析と課題解決のサイクルを高速に回す仕組み・体制づくりをトータルでご支援できるという点は、当社にしかできない強みです」と説明する。

 再生可能エネルギーの大量導入、小売り全面自由化など、国内のエネルギー業界は大きな環境変化に直面している。小野氏も昨今のエネルギー業界について「構造改革の社会的要請に対応するには、デジタル技術によるビジネス変革の取り組みが重要です」と語る。

 自由化による荒波を乗り越えるためにも、SASのシステムは経営の羅針盤になりそうだ。

【特集2】小型端末で家電操作と見える化実現 電力料金を抑える小売りも開始


【Nature】

アプリ上で電気の使用状況を可視化可能だ

スマホから家電の操作が可能となる、スマートリモコン「Nature Remo」を販売するNature社。同社は端末をコンセントに差すだけで、手軽に電気の使用状況を可視化する「Nature Remo E」を販売している。

Nature Remo Eはエコーネットライト規格に対応。同規格に対応した住宅用太陽光パネル(PV)や蓄電池、スマートメーターと連携することで、電力の使用量やPVの稼働状況、蓄電池の残量などをアプリ上で閲覧することができる。またスマートリモコンと合わせることで、宅外からでも電気を効率的に利用できるのが大きな特徴だ。

さらに同社は今年3月1日から電力小売り事業にも進出しており、Nature Remoと連携したサービスも5月から提供開始する。内容は自社の市場連動型料金プランを契約しているユーザーに向けて、電力料金単価の上下に応じて家電の設定を適切にコントロールすることで、電力料金を抑えるというもの。

今後は固定料金プランのユーザー向けにデマンドレスポンス(DR)を用いたサービスの提供も検討しているという。

塩出晴海社長は「PV、蓄電池、電気自動車(EV)が普及し始めるなど、電力業界で起きるパラダイムシフトは止まらない。自家発電とエネルギーマネジメントによる電力供給が一戸建てでベースになる。われわれのソリューションを提供していきたい」と意欲を示す。

テックベンチャーが電力業界に新たな風を起こしそうだ。

塩出晴海社長

【特集2まとめ】デジタルデータ革命 ソリューションビジネスの最前線


エネルギーデータを使った新ビジネスが脚光を浴びている。
小売り部門では、各家庭に設置されたスマートメーターや、
独自機器を設置することでさまざまなデータを収集。
ユーザーインターフェースを工夫して見える化したり、
ほかのサービスと連携を図ったりすることで、
新たなサービスやソリューションを生み出している。
データ活用ビジネスの最前線に迫った。

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【プロローグ】スマメが切り開く新ビジネス エネデータ活用に多様な可能性

【トピック/TGオクトパスエナジー】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負

【座談会】スマメ全件導入で進む変革への期待 電力データをスマートに生かす

【インタビュー/山中悠揮・資源エネルギー庁】レジリエンス向上や再エネ拡大 次世代仕様に期待すること

【インタビュー/河本薫・滋賀大学】データサイエンティストからの指南 CO2削減に向けた利活用

【レポート】注目のソリューション最新事例 画期的なサービス構築や効率化を紹介

 【SBパワー】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創

 【ニチガス】「夢の絆」オープンで他業界から注目 ニチガスが取り組むDXのすゝめ

 【日本ユニシス】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化

 【パーパス】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現

 【エナジーゲートウェイ】電力センサーで電気使用量を可視化 IoT機器の遠隔操作も可能

 【Nature】小型端末で家電操作と見える化実現 電力料金を抑える小売りも開始

【トピック/SAS Institute Japan】国内外の大手エネ事業者が採用 幅広い課題に応えるアナリティクス